説明

車両用窓ガラス及びその製造方法

【課題】融雪用ヒーター、通信用アンテナ等の導電体が合わせガラスに挟持された、透視性(目視されないこと)に優れていて視界をさえぎることのない車両用窓ガラス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導電体を配設した車両用窓ガラス11において、導電性金属の配線パターン17とその上に積層された金属メッキ層18a,18bとからなる導電体14を、前記窓ガラス11を構成する第1の板ガラス12の片面に転写により貼着し、かつ前記第1の板ガラス12と第2の板ガラス16との間に挟持して合わせガラス11とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車、自動車等の車両用窓ガラスに関するものである。さらに詳細には、融雪用ヒーター、通信用アンテナ等の導電体が合わせガラスの2枚の板ガラスの間に挟持された、透視性(目視されないこと)に優れていて視界を遮ることのない車両用窓ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寒冷地では、冬季になると、夜間、屋外に駐車した自動車のフロントガラス表面に積雪、結氷が付着しており、これをヒーターにより融雪して除去する防曇ガラスが知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
また、車両用窓ガラスの一部に車両用アンテナを取り付けて電波を受信することが行なわれている(例えば特許文献4参照)。
【0003】
特許文献1には、2枚の板ガラスを中間膜により接着した合わせガラスの中間膜に複数の加熱用金属線が配設され、どちらかの板ガラスのほぼ全面に加熱用透明導電膜を形成した車両用防曇ガラスが開示されている。
特許文献2には、2枚の板ガラスのいずれかの表面に設けられた透明導電膜を用いた車両用電熱窓ガラスが開示されている。
また、特許文献3には、導電性皮膜を複数の区域に分割して電圧を調整する車両用電熱窓ガラスが開示されている。
特許文献4には、全面に透明導電膜が形成された車両用窓ガラスの、透明導電膜の一部に切欠き部を設け、その切欠き部に電波を受信するアンテナを備えた車両用アンテナが開示されている。
なお、特許文献5および特許文献6には、導電性の金属メッシュによる電磁波シールド材の作製方法として、写真製法により生成された現像銀で細線パターンを形成した後、この現像銀の薄膜の上にメッキすることにより導電性金属パターンを形成する写真銀−メッキ法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−128588号公報
【特許文献2】特開平8−119065号公報
【特許文献3】特開2003−163071号公報
【特許文献4】特開2004−040571号公報
【特許文献5】特開2004−221564号公報
【特許文献6】国際公開第2004/007810号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された、合わせガラスの中間膜に複数の加熱用金属線を縦方向に方形に埋設する場合に、運転者に対して加熱用金属線の視認性(目視されないこと)を確保するためには、金属線の幅を約60μm以下に細くする必要がある。しかし、このように細くした金属線を埋設するには、金属線を目視できないので作業に困難を伴い、作業性が低いという問題があった。
特許文献2に示された、2枚の板ガラスのいずれかの表面に設けられた透明導電膜からなる電熱窓ガラスでは、ガラス面の局所的な温度上昇を避けるために、電熱窓ガラスの透明電熱膜の抵抗を上辺から下辺に向かって段階的又は連続的に上昇させているが、膜厚みを段階的にあるいは連続的に変化させることが困難であるという問題があった。さらに、透明導電膜の場合、可視光線透過率を高くするには膜厚みを薄くする必要があるが、膜厚みを薄くすると抵抗が高くなりヒーター出力が小さくなるという問題があった。
【0005】
特許文献3に示された、導電性皮膜を複数の区域に分割して電圧を調整する電熱窓ガラスは、スパッタリングを用いた導電性皮膜のコーティングにより行なわれるものであって、特許文献2と同様に、可視光線透過率を高くするには膜厚みを薄くする必要があるが、膜厚みを薄くすると抵抗が高くなりヒーター出力が小さくなるという問題があった。
特許文献4には、全面に透明導電膜が形成された車両用窓ガラスに、透明導電膜の一部に切欠き部を設け、その切欠き部に電波を受信するアンテナを備えた車両用アンテナが開示されている。しかし、透明導電膜の有る部分と透明導電膜の無い部分では色調が異なるので、切欠き部の寸法をできるだけ小さくする必要があるが、数センチメートル四方の透明導電膜の施されていない切欠き部が生じて、色調の差異から目立ってしまい美観を損なうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、融雪用ヒーター、通信用アンテナ等の導電体が2枚の合わせガラスに挟持された、透視性(目視されないこと)に優れていて視界をさえぎることのない車両用窓ガラス及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、導電体を配設した車両用窓ガラスにおいて、導電性金属の配線パターンとその上に積層された金属メッキ層とからなる導電体が、前記窓ガラスを構成する第1の板ガラスの片面に転写により貼着され、かつ前記第1の板ガラスと第2の板ガラスとの間に挟持されていることを特徴とする車両用窓ガラスを提供する。
前記導電性金属の配線パターンは、写真製法により生成された現像銀の配線パターンであることが好ましい。
前記金属メッキ層は、前記現像銀の配線パターンの上に接して積層された、無電解銅メッキ層および/または電解銅メッキ層を有することが好ましい。
前記現像銀の配線パターンは、ポジ型写真製法またはネガ型写真製法によって生成されたものであることが好ましい。
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、導電体を配設した車両用窓ガラスの製造方法であって、支持基材の上に写真製法により現像銀の配線パターンを生成する配線パターン生成工程と、前記現像銀の配線パターンの上に導電性の金属メッキ層により導電体を形成するメッキ工程と、前記導電体を、前記窓ガラスを構成する板ガラスの片面に転写する工程と、を含むことを特徴とする車両用窓ガラスの製造方法を提供する。
前記メッキ工程と前記転写工程の前に、前記支持基材の上に形成された前記導電体を、pH11〜13の強アルカリ液に浸漬して導電体と支持基材との密着力を低下させるアルカリ処理工程を含むことが好ましい。
前記現像銀の配線パターンは、ポジ型写真製法またはネガ型写真製法によって生成することが好ましい。
【0009】
前記導電体の配線回路のパターンがメッシュ状パターンからなり、そのメッシュ状パターンに所定周波数の電磁波が透過するためのスリット(開口)が配設されていることが好ましい。
前記導電体の配線回路のパターンが格子状パターンからなり、その格子状パターンに所定周波数の電磁波が透過するためのスリット(開口)が配設されていることが好ましい。
前記導電体の金属メッキ層は、銅メッキ層及び/又はニッケルメッキ層であることが好ましい。
前記導電体は、観者に視認できない太さである線幅20〜60μmで配設することが好ましい。
前記導電体の金属メッキ層の最表面は、メッキした金属の光沢による光の反射を防ぐために黒化処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用窓ガラス及びその製造方法によれば、観者に視認できない太さである20〜60μmの極細からなる導電体を配設しているので視認性(目視されないこと)に優れていて視界をさえぎることのない車両用窓ガラスを提供することができる。
【0011】
本発明は、支持基材上に写真製法により生成した現像銀の配線パターンの上に接して無電解メッキおよび/または電解メッキにより銅メッキ層が積層されているので、支持基材上の金属銀が銅メッキ層に拡散移行する現象により、現像銀の配線パターンと支持基材との密着力が低下して導電体を支持基材から浮かせることができ、導電体を基材から剥離し易くなる。
【0012】
また、本発明は、支持基材の上に形成された前記導電体をpH11〜13の強アルカリ液に浸漬して導電体と支持基材との密着力を低下させているので、導電体を支持基材から剥離し易くなる。
このため、本発明では、導電体を支持基材から剥離して合わせガラスを構成する2枚の板ガラスのうちの一方の板ガラスの片面に転写する工程において、支持基材の上に形成された導電体を板ガラスの片面に接着層を介して圧着した後、支持基材との密着力の低下した導電体を剥がして行う転写の作業を円滑に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、最良の形態に基づいて本発明の車両用窓ガラスについて詳しく説明する。
図1は、本発明の車両用窓ガラスの一例を概略的に示す正面図である。図2は、本発明の車両用窓ガラスの他の例を概略的に示す正面図である。図3は、本発明の車両用窓ガラスの構成の一例を示す模式的断面図である。図4は、導電体が支持基材上に設けられた積層体の一例を示す模式的断面図である。図5(a)は支持基材上に設けられた導電体を板ガラスに転写する様子を説明する模式的断面図であり、図5(b)は導電体から支持基材を剥離する様子を説明する模式的断面図である。
なお、図1および図2では、図面を簡略にするため、導電体領域2の回路配線パターンを導電体領域2の一部分のみに図示したが、実際の車両用窓ガラスでは回路配線パターンは導電体領域2全体に設けられるものである。
【0014】
図1に示す車両用窓ガラス10は、合わせガラスからなる窓ガラス1の一方の板ガラスの片面に導電体領域2が施され、導電体領域2の上下両端が上部バスバー(母線)3および下部バスバー(母線)4をとおして2つのリード線5、6に接続されたものである。この例では、導電体領域2の回路配線パターンは、メッシュ状パターンである。
前記メッシュ状パターンに所定周波数の電磁波が透過するためのスリット(開口)が配設されていることが好ましい(図示は省略)。
【0015】
図2に示す車両用窓ガラス20は、図1と同様に、合わせガラスからなる窓ガラス1の一方の板ガラスの片面に導電体領域2が施され、導電体領域2の上下両端がそれぞれ上部バスバー(母線)3および下部バスバー(母線)4をとおして2つのリード線5、6に接続されたものである。この例では、導電体領域2の回路配線パターンは、上下のバスバー3、4間を上下方向に接続する細線が複数、左右に並んだ格子状パターンである。
前記メッシュ状パターンに所定周波数の電磁波が透過するためのスリット(開口)が配設されていることが好ましい(図示は省略)。
【0016】
これらの車両用窓ガラス10、20は、図3の断面図に示すように、合わせガラス11を構成する2枚の板ガラス12、16間に導電体(回路配線パターン)14が挟持された構造を有する。すなわち、屋外側に配置される第1の板ガラス12の片面(内側の面)に接着剤層13により導電体14が取り付けられ、さらに透明樹脂層15を挟んで、室内側に配置される第2の板ガラス16が貼り合わされている。導電体14は、導電性金属の配線パターン17とその上に積層された金属メッキ層18a、18bとからなる。
【0017】
(金属配線パターンの製造方法)
本発明の車両用窓ガラスの製造方法においては、異なる2つの銀塩写真現像法(ポジ型写真製法−メッキ法、ネガ型写真製法−メッキ法)のうちいずれかの方法を用いて支持基材の上に写真製法により現像銀からなる配線パターン17の薄膜を生成し、この現像銀の配線パターンの上に、メッキにより導電性の金属層18a,18bを積層して導電体14を形成し、その導電体を板ガラス12に転写するものである。
【0018】
本発明に使用される銀塩写真現像法の1つの方法は、古くから知られる通常のいわゆる銀塩写真フィルムを用いて行う方法(ネガ型写真製法)であって、例えば、特許文献5に記載された方法、すなわち、支持体上に設けられた銀塩を含有する銀塩含有層を露光し、現像処理することにより金属銀部と光透過性部とを形成し、さらに前記金属銀部を物理現像及び/又はメッキ処理することにより前記金属銀部に導電性金属粒子を担持させた導電性金属部を形成する方法である。
【0019】
本発明に使用される銀塩写真現像法のもう1つの方法(ポジ型写真製法)は、特許文献6に記載された方法、すなわち、銀塩写真現像法を応用し、ハロゲン化銀を可溶性銀錯塩形成剤で溶解して可溶性銀錯塩にし、同時にハイドロキノン等の還元剤(現像主薬)で還元して現像核上に任意の配線パターンの金属銀を析出させる方法である。
【0020】
以下、ポジ型写真製法−メッキ法とネガ型写真製法−メッキ法では、説明が重複するので、上述のポジ型写真−メッキ法を主体として、写真製法により生成した現像銀で配線パターンを形成する方法を説明する。本発明においては、ネガ型写真製法−メッキ法による場合についても基本的には、ポジ型写真製法−メッキ法に準じて実施することができる。
すなわち、本発明には、ポジ型写真製法とネガ型写真製法とのいずれでも適用できる。
【0021】
(ポジ型写真製法−メッキ法:物理現像核)
現像銀の配線パターンが形成される透明基材(図4,図5に示す支持基材S)には、予め物理現像核層が設けられていることが好ましい。透明基材としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、トリアセチルセルロース、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等からなるプラスチックフィルム(単層または複合フィルム)が挙げられる。
【0022】
物理現像核としては、重金属あるいはその硫化物からなる微粒子(粒子サイズは1〜数十nm程度)が用いられる。例えば、金、銀等のコロイド、パラジウム、亜鉛等の水溶性塩と硫化物を混合した金属硫化物等が挙げられる。これらの物理現像核の微粒子層は、真空蒸着法、カソードスパッタリング法、コーティング法等によって透明基材上に設けることができる。生産効率の面からコーティング法が好ましく用いられる。物理現像核層における物理現像核の含有量は、固形分で1平方メートル当たり0.1〜10mg程度が適当である。
【0023】
透明基材には、塩化ビニリデンやポリウレタン等のポリマーラテックス層の接着層を設けることができ、また接着層と物理現像核層との間にはゼラチン等の親水性バインダーからなる中間層を設けることもできる。
【0024】
物理現像核層には、親水性バインダーを含有するのが好ましい。親水性バインダー量は物理現像核に対して10〜300質量%程度が好ましい。親水性バインダーとしては、ゼラチン、アラビアゴム、セルロース、アルブミン、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、各種デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとビニルイミダゾールの共重合体等を用いることができる。物理現像核層には親水性バインダーの架橋剤を含有することもできる。
【0025】
物理現像核層や前記中間層等の塗布には、例えばディップコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、バーコーティング、エアーナイフコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティングなどの塗布方式で塗布することができる。本発明において物理現像核層は、上記したコーティング法によって、通常連続した均一な層として設けることが好ましい。
【0026】
本発明において、物理現像核層に金属銀を析出させるためのハロゲン化銀の供給は、透明基材上に物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に一体的に設ける方法、あるいは別の紙やプラスチック樹脂フィルム等の基材上に設けられたハロゲン化銀乳剤層から可溶性銀錯塩を供給する方法がある。コスト及び生産効率の面からは前者の物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層を一体的に設けるのが好ましい。
【0027】
(ネガ型写真製法−メッキ法:ハロゲン化銀乳剤)
本発明において、ハロゲン化銀乳剤は、ハロゲン化銀写真感光材料の一般的なハロゲン化銀乳剤の製造方法に従って製造することができる。ハロゲン化銀乳剤は、通常、硝酸銀水溶液、塩化ナトリウムや臭化ナトリウムのハロゲン水溶液をゼラチンの存在下で混合熟成することによって作られる。
本発明に用いられるハロゲン化銀乳剤層のハロゲン化銀組成は、塩化銀を80モル%以上含有するのが好ましく、特に90モル%以上が塩化銀であることが好ましい。塩化銀含有率を高くすることによって形成された物理現像銀の導電性が向上する。
【0028】
本発明に用いられるハロゲン化銀乳剤層は、各種の光源に対して感光性を有している。合わせガラスの内部に配設される導電体領域を作製するための1つの方法として、例えば網目状などの細線パターンの物理現像銀の形成が挙げられる。この場合、ハロゲン化銀乳剤層は細線パターン状に露光されるが、露光方法として、細線パターンの透過原稿とハロゲン化銀乳剤層を密着して紫外光で露光する方法、あるいは各種レーザー光を用いて走査露光する方法等がある。前者の紫外光を用いた密着露光は、ハロゲン化銀の感光性は比較的低くても可能であるが、レーザー光を用いた走査露光の場合は比較的高い感光性が要求される。従って、後者の露光方法を用いる場合は、ハロゲン化銀の感光性を高めるために、ハロゲン化銀は化学増感あるいは増感色素による分光増感を施してもよい。化学増感としては、金化合物や銀化合物を用いた金属増感、硫黄化合物を用いた硫黄増感、あるいはこれらの併用が挙げられる。好ましくは、金化合物と硫黄化合物を併用した金−硫黄増感である。上記したレーザー光で露光する方法においては、450nm以下の発振波長の持つレーザー光、例えば400〜430nmに発振波長を有する青色半導体レーザー(バイオレットレーザーダイオードとも云う)を用いることによって、明室下(明るいイエロー蛍光灯下)でも取り扱いが可能となる。
【0029】
本発明において、物理現像核層が設けられる透明基材上の任意の位置、たとえば接着層、中間層、物理現像核層あるいはハロゲン化銀乳剤層、または支持体を挟んで設けられる裏塗り層にハレーションないしイラジエーション防止用の染料もしくは顔料を含有させてもよい。
【0030】
(ポジ型写真製法−メッキ法:露光・現像)
物理現像核層の上に直接にあるいは中間層を介してハロゲン化銀乳剤層が塗設された感光材料を用いて細線パターンを作製する場合は、任意の細線パターンの透過原稿と上記感光材料を密着して露光、あるいは、任意の細線パターンのデジタル画像を各種レーザー光の出力機で上記感光材料に走査露光した後、可溶性銀錯塩形成剤と還元剤の存在下においてアルカリ液中で処理することにより銀錯塩拡散転写現像(DTR現像)が起こり、未露光部のハロゲン化銀が溶解されて銀錯塩となり、物理現像核上で還元されて金属銀が析出して細線パターンの物理現像銀薄膜を得ることができる。露光された部分はハロゲン化銀乳剤層中で化学現像されて黒化銀となる。現像後、ハロゲン化銀乳剤層及び中間層、あるいは必要に応じて設けられた保護層は水洗除去されて、細線パターンの物理現像銀薄膜が表面に露出する。
【0031】
DTR現像後、物理現像核層の上に設けられたハロゲン化銀乳剤層等の除去方法は、水洗除去あるいは剥離紙等に転写剥離する方法がある。水洗除去は、スクラビングローラ等を用いて温水シャワーを噴射しながら除去する方法や温水をノズル等でジェット噴射しながら水の勢いで除去する方法がある。
【0032】
一方、物理現像核層が塗布された透明基材とは別の基材上に設けたハロゲン化銀乳剤層から可溶性銀錯塩を供給する場合、前述と同様にハロゲン化銀乳剤層に露光を与えた後、物理現像核層が塗布された透明基材と、ハロゲン化銀乳剤層が塗布された別の感光材料とを、可溶性銀錯塩形成剤と還元剤の存在下でアルカリ液中で重ね合わせて密着し、アルカリ液中から取り出した後、数十秒〜数分間経過した後に、両者を剥がすことによって、物理現像核上に析出した細線パターンの物理現像銀薄膜が得られる。
【0033】
次に、銀錯塩拡散転写現像のために必要な可溶性銀錯塩形成剤、還元剤、及びアルカリ液について説明する。可溶性銀錯塩形成剤は、ハロゲン化銀を溶解し可溶性の銀錯塩を形成させる化合物であり、還元剤はこの可溶性銀錯塩を還元して物理現像核上に金属銀を析出させるための化合物であり、これらの作用はアルカリ液中で行われる。
【0034】
本発明に用いられる可溶性銀錯塩形成剤としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウムのようなチオ硫酸塩、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウムのようなチオシアン酸塩、アルカノールアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素カリウムのような亜硫酸塩、T.H.ジェームス編のザ・セオリー・オブ・ザ・フォトグラフィック・プロセス4版の474〜475項(1977年)に記載されている化合物等が挙げられる。
【0035】
前記還元剤としては、写真現像の分野で公知の現像主薬を用いることができる。例えば、ハイドロキノン、カテコール、ピロガロール、メチルハイドロキノン、クロルハイドロキノン等のポリヒドロキシベンゼン類、1−フェニル−4,4−ジメチル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−4−メチル−4−ヒドロキシメチル−3−ピラゾリドン等の3−ピラゾリドン類、パラメチルアミノフェノール、パラアミノフェノール、パラヒドロキシフェニルグリシン、パラフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0036】
上記した可溶性銀錯塩形成剤及び還元剤は、物理現像核層と一緒に透明基材に塗布してもよいし、ハロゲン化銀乳剤層中に添加してもよいし、またはアルカリ液中に含有させてもよく、更に複数の位置に含有してもよいが、少なくともアルカリ液中に含有させるのが好ましい。
【0037】
アルカリ液中への可溶性銀錯塩形成剤の含有量は、現像液1リットル当たり、0.1〜5モルの範囲で用いるのが適当であり、還元剤は現像液1リットル当たり0.05〜1モルの範囲で用いるのが適当である。
【0038】
アルカリ液のpHは10以上が好ましく、更に11〜14の範囲が好ましい。銀錯塩拡散転写現像を行うためのアルカリ液の適用は、浸漬方式であっても塗布方式であってもよい。浸漬方式は、例えば、タンクに大量に貯流されたアルカリ液中に、物理現像核層及びハロゲン化銀乳剤層が設けられた透明基材を浸漬しながら搬送するものであり、塗布方式は、例えばハロゲン化銀乳剤層上にアルカリ液を1平方メートル当たり40〜120ml程度塗布するものである。
【0039】
(金属配線パターンの寸法)
前述したように、導電線を用いた車両用窓ガラスにおいては、太さが例えば40〜100μm程度の導電線が配設されたものがある。本発明のように金属配線パターンを形成したものにおいても、細線幅を小さくすれば観者から視認されなくなる。特に、線幅を約60μm以下にすれば、目視が困難になるが導電性は低くなる。逆に細線幅を大きくすると、観者から視認され易くなるが導電性は高くなる。
本発明の車両用窓ガラスの導電体としては、観者に視認できない太さである線幅20〜60μmの導電体を配設するのが好ましい。導電体の配線間隔は、全光線透過率を高めるために、0.15〜5mmであることが好ましい。
【0040】
(配線パターンの金属銀へのメッキ)
支持基材Sの上に写真製法により現像銀層17からなる配線パターンを生成した後、その現像銀の配線パターンの上に導電性の金属メッキを行なう工程において、導電体のメッキ厚みは所望とする導電性の特性により任意に変えることができるが、0.5〜15μm、好ましくは2〜12μmの範囲である。
【0041】
(メッキ方法)
本発明においては、細線パターンの現像銀層をメッキする方法は、次による。
支持基材Sの片面に、写真製法により生成された現像銀17の細線パターンを形成し、当該現像銀層17の上に、導電性金属18a,18bを1層または複数層メッキする。
細線パターンの物理現像銀のメッキは、無電解メッキ法、電解メッキ法あるいは両者を組み合わせたメッキ法のいずれでも可能であるが、支持基材上に回路配線パターンを作製するにあたり、支持基材上に物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層を設けたロール状の長尺ウェブに、少なくとも細線パターンの露光、現像処理およびメッキ処理という一連の処理を施すことができる観点からも、無電解メッキあるいはそれに電解メッキを組み合わせた方法が好ましい。
【0042】
本発明において、金属メッキ法は公知の方法で行うことができるが、例えば電解メッキ法は、銅、ニッケル、銀、金、半田、あるいは銅/ニッケルの多層あるいは複合系などの従来公知の方法を使用でき、これらについては、「表面処理技術総覧;(株)技術資料センター、1987年12月21日初版、281〜422頁」等の文献を参照することができる。
支持基材の片面に、写真製法により生成された現像銀層の細線パターンを形成し、当該現像銀層の上に、銅(Cu)および/またはニッケル(Ni)をメッキする。メッキが容易で、かつ導電性に優れ、さらに厚膜にメッキでき、低コスト等の理由により、銅および/またはニッケルを用いることが好ましい。
本形態例では、屋外側の板ガラス12の片面に導電体14を転写により金属メッキ層18b側で貼着しているので、黒化処理したメッキ層18bを屋外側に配置することができる。
【0043】
(無電解銅メッキ)
無電解銅メッキ液としては、金属銅(Cu)の濃度として0.5〜10g/リットルが好ましく、さらに好ましくは2〜3g/リットルの濃度である。
メッキ処理液の温度としては、30〜80℃が好ましく、さらに好ましくは40〜50℃である。メッキ処理液の温度が30℃より低いと銅のメッキ析出速度が遅くなり、80℃以上になると、エネルギー費用が嵩むことから好ましくない。
メッキ厚みは0.01〜1μmが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.2μmである。また、無電解銅メッキ液は、公知のメッキ液であればどのような液であっても問題はない。
【0044】
(電解銅メッキ)
電解銅メッキの場合は、硫酸銅、青化銅、ピロリン酸銅など、どのようなメッキ液でも良いが、その中でも硫酸銅がコスト面から見て好ましい。これらの電解銅メッキ液において、銅(Cu)の濃度は、それぞれ適当な濃度に設定すればよい。
硫酸銅メッキ浴を用いる場合、硫酸濃度が20〜400g/リットルが好ましく、さらに好ましくは70〜300g/リットルである。硫酸濃度が20g/リットルより低いと、メッキ液が不安定となり、300g/リットルより高いとメッキ粒子に異常が生じるから好ましくない。
メッキ処理温度としては、10〜60℃が好ましく、さらに好ましくは20〜40℃である。メッキ処理液の温度が、10℃より低いとメッキ時間が長く掛かりコストアップとなり、60℃より高いとメッキ外観が悪くなる。
電解メッキの電流密度としては、0.05〜20A/cmが好ましく、さらに好ましくは0.5〜8A/cmである。電解メッキの電流密度が0.05A/cmより低いと、メッキ時間が長くなりコストアップとなる。また、電解メッキの電流密度が20A/cmより高いと、メッキ皮膜の外観が悪くなるから好ましくない。
【0045】
(電解ニッケルメッキ)
電解ニッケルメッキを行う場合には、ニッケルメッキ処理液として、ワット浴(硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸)、スルファミン酸ニッケル浴(スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸)その他、どのようなメッキ浴でもよい。
【0046】
(黒化処理)
メッキ層の最表面(図3ではメッキ層18bの表面)は、メッキした金属の光沢による光の反射を防ぐために黒化処理することが好ましい。ニッケルメッキ表面の黒化処理の方法として、黒化処理皮膜の種類および用いる黒化処理液の配合について特に制限はないが、好ましい一例として、黒ニッケルを使用する場合、当該黒化処理液の硫酸濃度は、10〜50g/リットルで行うのが好ましく、さらに好ましくは20〜40g/リットルである。硫酸ニッケルの濃度が10g/リットルより低いと、メッキ析出が遅くなりコストアップとなり、50g/リットルより高いと黒化処理の仕上げ色が安定しないから好ましくない。
【0047】
(支持基材のアルカリ処理)
支持基材の上に写真製法により生成された現像銀の配線パターンを作製する工程の後、前記現像銀の配線パターンの上に導電性の金属メッキを行い、導電体(回路配線パターン)を形成するが、後の導電体を、車両用窓ガラスを構成する板ガラスの片面に転写する工程に当たって、導電体を基材から剥離し易くするために、導電体14の形成された基材S(図4参照)を、アルカリ処理する。
アルカリ処理は、導電体の形成された支持基材を、pH11〜13の強アルカリ液(例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液)に浸漬して行なう。このアルカリ処理により、導電体14と支持基材Sとの密着力を低下させて、導電体14を支持基材Sから剥離し易くする。導電体14が形成された支持基材Sをアルカリ処理した後は、中和処理、水洗浄等により、支持基材Sに付着している余分な薬液を充分に洗浄除去した後、水切り、乾燥を行う。
【0048】
(車両用窓ガラスの製造方法)
本発明では、異なる2つの銀塩写真現像法(ポジ型写真製法−メッキ法、ネガ型写真製法−メッキ法)のうち、いずれかの方法を用いて、支持基材Sの上に写真製法により生成された現像銀からなる配線パターンの薄膜17を形成し、この配線パターンの上に、メッキにより金属層18a、18bを積層して形成された導電体14が用いられる。
この支持基材Sの上に形成された写真製法−メッキ法による導電体14が、板ガラス12の片面に転写されて、車両用窓ガラスの配線を形成する。
なお、本発明の車両用窓ガラスの製造方法においては、ロール状の支持基材フィルムの上に導電体を製造しておき、需要に応じて、このロール状の支持基材フィルムから合わせガラスに、導電体を転写して車両用窓ガラスを製造することもできる。
【0049】
図1〜図3に示す車両用窓ガラスの製造方法は特に限定されないが、例えば、以下に示す方法を用いることができる。なお、製造工程中または工程後に、接着剤層を保護するため、任意に剥離紙を積層してもよい。
【0050】
(1)図4に示すように、支持基材Sの上に形成された、写真製法により生成された現像銀層17とその上に積層されたメッキ層18a,18bであって、好ましくは銅メッキ層18a(無電解銅メッキおよび/または電解銅メッキによる)および/またはニッケルメッキ層18bとからなる金属の配線パターンによる導電体14を準備する。
なお、支持基材Sの上に形成された導電体14を、pH11〜13の強アルカリ液に浸漬して導電体14と支持基材Sとの密着力を低下させ、導電体14を支持基材Sから剥離し易くさせておくのが好ましい。
(2)第1の板ガラス12の片面に接着剤層13を設ける。その接着剤層13の上に、図5(a)に示すように支持基材S上の導電体14を貼り合わせて圧着した後、図5(b)に示すように支持基材Sを剥がして導電体14を接着剤層13の上に転写し、この導電体14により車両用窓ガラス1の導電体14を形成する。
(3)第1の板ガラス12の上に転写された導電体14の窪みに、透明樹脂を埋め込み平滑化して、透明樹脂層15を形成する。
(4)透明樹脂層15の上に、さらに第2の板ガラス16を積層して、本形態例の車両用窓ガラス11を得る(図3参照)。
【0051】
上記の導電体14を板ガラス12に転写するに際しては、導電体14を板ガラス12に確実に転写するため、当該板ガラス12の片面に接着剤層13を設けているが、この接着剤層13に用いる接着剤としては、適当な接着力を有する粘着剤、あるいは光線、電離放射線、熱等で硬化する硬化型の接着剤を用いるができる。本発明では、接着後に硬化して形状が安定する点から、アクリル系等の熱硬化型接着剤が特に好ましい。
【0052】
本形態例の車両用窓ガラスによれば、合わせガラスのいずれかの板ガラスの内側の面に転写して固着させた、観者に視認できない太さである20〜60μmの極細の導電体を配設しているので、透視性(目視されないこと)に優れていて、視界をさえぎることが無い。
【0053】
本発明では、支持基材の上に形成された、写真製法により生成した現像銀のメッシュパターンの上に接して無電解メッキおよび/または電解メッキにより銅メッキ層が積層されているので、支持基材上の金属銀が銅メッキ層に拡散移行する現象により、現像銀の金属配線パターンと支持基材との密着力が低下して導電体が支持基材から浮いてしまい、導電体を支持基材から剥離し易くなる。
【0054】
また、本発明では、支持基材の上に形成された前記導電体を、pH11〜13の強アルカリ液に浸漬して導電体と支持基材との密着力を低下させているので、導電体を支持基材から剥離し易くなる。
このため、本発明では、導電体を支持基材から剥離して、車両用窓ガラスを構成する合わせガラスに転写する工程において、支持基材の上に形成された導電体を、車両用窓ガラスを構成する合わせガラスに接着層を介して圧着した後、支持基材との密着力の低下した導電体を剥がして転写する作業が円滑にできる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、融雪用ヒーター、通信用アンテナ等の導電体が合わせガラスを構成する2枚の板ガラスに挟持された、透視性(目視されないこと)に優れていて視界をさえぎることのない車両用窓ガラスに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の車両用窓ガラスの一例を概略的に示す正面図である。
【図2】本発明の車両用窓ガラスの他の例を概略的に示す正面図である。
【図3】本発明の車両用窓ガラスの構成の一例を示す模式的断面図である。
【図4】導電体が支持基材上に設けられた積層体の一例を示す模式的断面図である。
【図5】(a)は支持基材上に設けられた導電体を板ガラスに転写する様子を説明する模式的断面図であり、(b)は導電体から支持基材を剥離する様子を説明する模式的断面図である。
【符号の説明】
【0057】
S…支持基材、1…窓ガラス(フロントガラス)、2…導電体領域、3…上部バスバー(母線)、4…下部バスバー(母線)、5…上部バスバーに接続されたリード線、6…下部バスバーに接続されたリード線、10…車両用窓ガラス、11…合わせガラス、12…第1の板ガラス、13…接着剤層、14…導電体(回路配線パターン)、15…透明樹脂層、16…第2の板ガラス、17…現像銀層(現像銀の配線パターン)、18a…第1の金属メッキ層(銅メッキ層)、18b…第2の金属メッキ層(ニッケルメッキ層)、20…車両用窓ガラス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体を配設した車両用窓ガラスにおいて、導電性金属の配線パターンとその上に積層された金属メッキ層とからなる導電体が、前記窓ガラスを構成する第1の板ガラスの片面に転写により貼着され、かつ前記第1の板ガラスと第2の板ガラスとの間に挟持されていることを特徴とする車両用窓ガラス。
【請求項2】
前記導電性金属の配線パターンは、写真製法により生成された現像銀の配線パターンであることを特徴とする請求項1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記金属メッキ層は、前記現像銀の配線パターンの上に接して積層された、無電解銅メッキ層および/または電解銅メッキ層を有することを特徴とする請求項2に記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記現像銀の配線パターンは、ポジ型写真製法またはネガ型写真製法によって生成されたものであることを特徴とする請求項2または3に記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
導電体を配設した車両用窓ガラスの製造方法であって、支持基材の上に写真製法により現像銀の配線パターンを生成する配線パターン生成工程と、前記現像銀の配線パターンの上に導電性の金属メッキ層により導電体を形成するメッキ工程と、前記導電体を、前記窓ガラスを構成する板ガラスの片面に転写する工程と、を含むことを特徴とする車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記メッキ工程と前記転写工程の前に、前記支持基材の上に形成された前記導電体を、pH11〜13の強アルカリ液に浸漬して導電体と支持基材との密着力を低下させるアルカリ処理工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記現像銀の配線パターンは、ポジ型写真製法またはネガ型写真製法によって生成することを特徴とする請求項5または6に記載の車両用窓ガラスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−237807(P2007−237807A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60072(P2006−60072)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】