説明

車両用自動変速機のクラッチドラム

【課題】スナップリングの抜けを抑制しつつ軽量化を実現する車両用自動変速機のクラッチドラムを提供する。
【解決手段】クラッチドラム24における、スナップリング36が嵌合される溝部40の外周側に、クラッチドラム24の径方向の広がりを抑制するバンド部材38が取り付けられたものであることから、クラッチドラム24を肉薄に構成した場合や切欠を形成した場合においても十分な剛性を保証することができ、スナップリング36の抜けを好適に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機のクラッチドラムに関し、特に、スナップリングの外れを抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状のクラッチドラムを備えた車両用自動変速機が広く実用されている。また、斯かる車両用自動変速機におけるクラッチドラムの耐久性を高めるための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された自動車用自動変速機のクラッチドラムがそれである。この技術によれば、クラッチドラムにおけるスナップリング周溝の外周側に、補強リム部を形成して板厚を厚く構成することで、斯かる部分の剛性を高めつつ部品点数を少なくすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−130322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記クラッチドラムのような車両部品においては、耐久性に加えて軽量化が求められるが、前記従来の技術ではクラッチドラムの軽量化を実現することができなかった。前記車両用自動変速機のクラッチドラムを軽量化するためには、そのクラッチドラムを肉薄としたり、切欠を形成したりといったことが考えられるが、そのように肉薄の部分乃至切欠が形成されたクラッチドラムでは、試作段階において摩擦プレート等の摩擦係合要素の軸心方向の移動を阻止するためのスナップリングの抜けが発生する場合があり、試行錯誤しつつ形状を決定していた。近年の研究により、斯かるスナップリングの抜けは、クラッチドラムの剛性を確保することにより抑制できることがわかってきたが、クラッチドラムを肉薄に構成したり切欠を形成するといった軽量化のための構成をとると、その剛性が低下してスナップリングの抜けが発生する場合がある一方、斯かる構成をとらなければクラッチドラムの軽量化を実現できない場合があるという矛盾を抱えていた。すなわち、スナップリングの抜けを抑制しつつ軽量化を実現する技術の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、スナップリングの抜けを抑制しつつ軽量化を実現する車両用自動変速機のクラッチドラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、車両用自動変速機に備えられた円筒状のクラッチドラムであって、そのクラッチドラムにおける、スナップリングが嵌合される嵌合溝の外周側に、前記クラッチドラムの径方向の広がりを抑制するバンド部材が取り付けられたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、クラッチドラムにおける、スナップリングが嵌合される嵌合溝の外周側に、前記クラッチドラムの径方向の広がりを抑制するバンド部材が取り付けられたものであることから、クラッチドラムを肉薄に構成した場合や切欠を形成した場合においても十分な剛性を保証することができ、スナップリングの抜けを好適に抑制することができる。すなわち、スナップリングの抜けを抑制しつつ軽量化を実現する車両用自動変速機のクラッチドラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明が好適に適用される車両の駆動装置及びその制御系統を説明する図である。
【図2】図1の自動変速機に備えられた油圧式摩擦係合装置であるクラッチの構成を概略的に説明する図である。
【図3】本発明の一実施例であるクラッチドラムにおける内周側の構成を説明するために軸心を含む平面で切断すると共に、その切断面に垂直な方向から視た視断面図である。
【図4】図3に対応する構成を斜めから視た図である。
【図5】図4におけるスナップリング近傍の構成を説明するために当該部分を拡大して示す図である。
【図6】図3に対応する構成を矢印VIに示す方向に視た平面図である。
【図7】本発明の他の好適な実施例である、周方向の一部に切欠が形成されたクラッチドラムの構成を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明が好適に適用される車両の駆動装置10及びその制御系統を説明する図である。この図1に示す駆動装置10は、エンジン12と、トルクコンバータ14と、自動変速機16とを、備えて構成されており、走行用の駆動力源(主動力源)である上記エンジン12と図示しない一対の駆動輪との間に設けられて、そのエンジン12から出力される動力を駆動装置の他の一部を構成する差動歯車装置等を順次介して斯かる一対の駆動輪へ伝達する動力伝達装置である。
【0011】
上記エンジン12は、例えば、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、上記トルクコンバータ14は、上記エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車、及び出力側部材に相当するタービン軸を介して上記自動変速機16に連結されたタービン翼車を備えており、流体を介して動力伝達を行う流体式動力伝達装置である。また、それらポンプ翼車及びタービン翼車の間には、その係合により上記ポンプ翼車及びタービン翼車を一体回転させるように構成された直結クラッチが設けられている。また、上記自動変速機16は、例えば、複数の油圧式摩擦係合装置を備えて構成され、油圧制御回路18から供給される油圧に応じてそれぞれ所定の変速比γに相当する複数の変速段(変速ギヤ段)が選択的に成立させられる有段式の自動変速機構(オートマチックトランスミッション)であり、予め定められた複数(例えば、第1速〜第4速)の前進変速段、後進変速段、及びニュートラルのうち何れかが選択的に成立させられ、それぞれの変速比γに応じた速度変換が成されるように構成されている。
【0012】
また、図1に示すように、前記駆動装置10には、前記エンジン12の出力制御や前記自動変速機16の変速制御等、前記駆動装置10に関する各種制御を行うための電子制御装置20が備えられている。この電子制御装置20は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記エンジン12の出力制御や、上記油圧制御回路18を介しての前記自動変速機16の変速制御等の各種制御を実行するように構成されており、必要に応じて前記エンジン12の制御用と前記自動変速機16の制御用等に分けて構成される。
【0013】
図2は、前記自動変速機16に備えられた油圧式摩擦係合装置であるクラッチ22の構成を概略的に説明する図である。この図2に示すように、上記クラッチ22は、共通の軸心まわりに相対的な回転可能に設けられたクラッチドラム24及びクラッチハブ26と、そのクラッチドラム24の内周側に備えられたクラッチピストン28と、上記クラッチドラム24及びクラッチハブ26の間に備えられて、上記クラッチピストン28により押圧(挟圧)されることでそれらクラッチドラム24及びクラッチハブ26の相対的な回転を抑制する係合要素としての複数の摩擦プレート30(クラッチドラム24側の摩擦プレート30a及びクラッチハブ26側の摩擦プレート30b、以下、特に区別しない場合には単に摩擦プレート30という)と、それら摩擦プレート30を押圧するために前記クラッチピストン28を前進させるための作動油を収容する油室32と、上記クラッチピストン28をその油室32に向かって付勢するスプリング34とを、備えて構成されている。また、後述するように、上記クラッチドラム24の外周部(外周壁)における内周側には、上記複数の摩擦プレート30の軸心方向の移動を阻止するためのスナップリング36が、それら複数の摩擦プレート30に対して上記クラッチピストン28の逆側に嵌め付けられている。
【0014】
図3は、上記クラッチドラム24の構成を説明するために、軸心Cを含む平面で切断すると共に、その切断面に垂直な方向から視た視断面図である。また、図4は、図3に対応する構成を斜めから視た図である。これらの図に示すように、上記クラッチドラム24は、例えば円筒形状の外周部(外周壁)を備えて構成されており、その外周部における内周側には、軸心方向に延伸する複数の溝部が周方向に関して略等間隔に設けられている。また、上記クラッチドラム24側の摩擦プレート30aにおける外周部には、上記複数の溝部に対応する複数の凸状部が周方向に関して略等間隔に設けられており、各凸状部が上記クラッチドラム24の溝部に嵌合されることで、そのクラッチドラム24に対する上記摩擦プレート30aの軸心方向の相対移動を許容しつつ、軸心回りの相対回転が阻止されるようになっている。
【0015】
図5は、図4における前記スナップリング36近傍の構成を説明するために当該部分を拡大して示す図である。図5に示すように、前記クラッチドラム24における外周部(円筒状の外周壁)の内周側には環状の溝部(嵌合溝)40が形成されており、前記スナップリング36はその溝部40に嵌め付けられている。このように前記スナップリング36が設けられることで、前記複数の摩擦プレート30(クラッチドラム24側の摩擦プレート30a)の前記クラッチドラム24に対する軸心方向の相対移動がそのスナップリング36により阻止され、それら複数の摩擦プレート30が前記クラッチドラム24から抜け落ちるのが防止される。
【0016】
図6は、図3に対応する構成を矢印VIに示す方向(軸心Cの方向)に視た平面図である。この図6では、専ら前記クラッチドラム24における外周部の構成を示しており、底面部乃至内周側の構成、及び摩擦プレート30等は省略して示している。この図6及び前述した図3〜図5に示すように、前記クラッチドラム24においては、環状(帯状)のバンド部材38がそのクラッチドラム24の外周部(外周壁)の外側における前記スナップリング36の近傍に巻回されている。換言すれば、そのスナップリング36(溝部40)の外周側に、前記クラッチドラム24の径方向の広がりを抑制するように前記バンド部材38が取り付けられている。斯かる構成により、前記クラッチドラム24における前記スナップリング36近傍の剛性、特に、そのクラッチドラム24の径が拡大する方向の剛性を高めることができる。従って、前記クラッチドラム24の剛性低下に起因する前記スナップリング36の抜け(外れ)を好適に抑制することができる。
【0017】
このように、本実施例によれば、前記クラッチドラム24における、前記スナップリング36が嵌合される嵌合溝である溝部40の外周側に、前記クラッチドラム24の径方向の広がりを抑制するバンド部材38が取り付けられたものであることから、前記クラッチドラム24を肉薄に構成したり切欠を形成した場合においても十分な剛性を保証することができ、前記スナップリング36の抜けを好適に抑制することができる。特に、重量低減の観点から前記クラッチドラム24の外周部(外周壁)の肉厚を薄く構成した場合において、その剛性が低下した場合であっても前記スナップリング36近傍の剛性を確保することができ、そのスナップリング36の抜けを好適に抑制できる。すなわち、スナップリング36の抜けを抑制しつつ軽量化を実現する車両用自動変速機16のクラッチドラム24を提供することができる。
【実施例2】
【0018】
続いて、本発明の他の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0019】
図7は、本発明の他の好適な実施例である、周方向の一部に切欠が形成されたクラッチドラムの構成を説明する斜視図である。この図7に示すクラッチドラム42は、前記クラッチドラム24と同様に車両用自動変速機に備えられる油圧式摩擦係合装置の一部を構成するものであって、非回転部材であるハウジング等に対して非回転とされる部材に相当する。このクラッチドラム42においては、クラッチ乃至自動変速機全体の小型化のために、各軸間距離を短縮するように構成されている。例えば、上記クラッチドラム42が備えられるクラッチの軸心を1軸としたときに、他のクラッチ等に係る軸心との距離を短縮するように、上記クラッチドラム42をその周方向の一部を切り欠いた(外周壁が存在しない部分を形成した)開口部である切欠部44を備えることにより、その切欠部44に他のクラッチ等の一部を介在させて2軸とオーバーラップさせることで軸間距離を小さくするように構成されたものである。
【0020】
本実施例のクラッチドラム42においては、図7に示すように、そのクラッチドラム42における切欠部44にバンド部材48が取り付けられている。具体的には、上記クラッチドラム42外周部(円筒状の外周壁)の外周側における上記切欠部44の近傍すなわちその切欠部44の両端部に、軸心方向に延伸する1対の溝部である掛着溝46が形成されており、その1対の掛着溝46に矩形状のバンド部材48が掛着されて(掛け渡されて)いる。図7においてはこのバンド部材48を破線で示している。また、図7に示すように、上記クラッチドラム48の内周側には、前記クラッチドラム24と同様に環状の溝部40が形成されており、その溝部40にスナップリング36が嵌め付けられる。従って、換言すれば、本実施例のクラッチドラム42においては、前記スナップリング36が嵌合される溝部40の外周側であって上記切欠部44に対応する部分に、上記クラッチドラム42の径方向の広がりを抑制するバンド部材48が取り付けられている。
【0021】
このように、本実施例によれば、前記クラッチドラム42における、前記スナップリング36が嵌合される嵌合溝である溝部40の外周側に、前記クラッチドラム42の径方向の広がりを抑制するバンド部材48が取り付けられたものであることから、前記クラッチドラム42に周方向の開口部である切欠部44を形成した場合においても十分な剛性を保証することができ、前記スナップリング36の抜けを好適に抑制することができる。すなわち、スナップリング36の抜けを抑制しつつ軽量化を実現する車両用自動変速機16のクラッチドラム42を提供することができる。
【0022】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0023】
16:自動変速機、24、42:クラッチドラム、36:スナップリング、38、48:バンド部材、40:溝部(嵌合溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用自動変速機に備えられた円筒状のクラッチドラムであって、
該クラッチドラムにおける、スナップリングが嵌合される嵌合溝の外周側に、前記クラッチドラムの径方向の広がりを抑制するバンド部材が取り付けられたものであることを特徴とする車両用自動変速機のクラッチドラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−219976(P2012−219976A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89135(P2011−89135)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】