説明

車両用自動変速機の摩擦係合装置

【課題】製造コストを低減することができる車両用自動変速機の摩擦係合装置を提供する。
【解決手段】環状のストッパ部材76は、周方向において分割された少なくとも2つの円弧状部材78から構成され、その環状のストッパ部材76の内周側に嵌め入れられた環状突部82aを有する環状の保持部材82によってその円弧状部材78の周方向溝54a内から軸心C側への移動が阻止されていることから、ストッパ部材76が従来のように穴用スナップリング88から成る場合と比較して同じ板材から打抜加工により製作可能な個数が増えて材料の歩留まりが小さくなり、また、その環状のストッパ部材76を組付ける際に弾性変形させる必要がなくなって組付管理レベルを落とすことができ、組付け精度確認が不要とされて1台あたりの組付けにかかる時間が短縮され且つ設備コストを低くできるので、製造コストを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機の摩擦係合装置に係り、特に、製造コストを低減させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸心に平行な方向に連なる複数本の第1凸状係合歯を内周面に有する第1部材と、その第1部材と同心に且つ相対回転可能に設けられ、軸心に平行な方向に連なる複数本の第2凸状係合歯を前記内周面に対向する外周面に有する第2部材と、前記第1凸状係合歯と相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に係合する複数枚の円環板状の第1摩擦板と、それら複数枚の第1摩擦板の間に交互に重ねられた状態で前記第2凸状係合歯と相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に係合する複数枚の円環板状の第2摩擦板と、相互に重ねられた前記第1摩擦板および第2摩擦板を前記軸心に平行な一方向へ押圧するアクチュエータと、前記第1凸状係合歯において周方向に連ねて形成された周方向溝内に嵌め入れられ、前記複数枚の第1摩擦板のうちの前記アクチュエータとは反対側に位置する第1摩擦板に当接してその第1摩擦板の軸心方向の移動を阻止する環状のストッパ部材とを備えた車両用自動変速機の摩擦係合装置が知られている。例えば、特許文献1に記載された油圧クラッチがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−329356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の車両用自動変速機の摩擦係合装置では、前記ストッパ部材として穴用(内径用)のスナップリングが用いられている。このストッパ部材としての穴用スナップリングは、その外周部に半径方向の外側に突設されて第1部材の第1凸状係合歯に対して周方向に係合する凸部を備え、第1部材に対して相対回転不能に嵌め付けられる。このような従来のストッパ部材は、第1部材への組付けに際して、先ず、径寸法が縮小するように弾性変形されつつ第1部材内に挿入され、次いで、軸心方向の位置が第1部材の内周面に形成された周方向溝に一致するところで上記弾性変形が解除されることによって拡径させることにより、周方向溝内に嵌め入れられるようになっている。そのため、上記従来のストッパ部材は、弾性変形可能なように例えばバネ鋼等から成る。そして、上記従来のストッパ部材は、例えばバネ鋼等の板材から打抜加工(プレス加工)により成形されて凸部の厚みがその他の部位の厚みと同じ寸法とされる。
【0005】
ところが、前記打抜加工による前記従来のストッパ部材の製作は板材の材料歩留まりが悪いために、製造コストが比較的高いという問題があった。また、前記従来のストッパ部材は、組付けに際して塑性変形することのないように組付け精度が厳重に管理された組付機械または組付工具による組付けおよび高精度な組付け精度確認治具による組付け精度確認が必要であり、製造設備コストが高くなると共に1台あたりの製造にかかる時間が長いために、製造コストが比較的高いという問題があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、製造コストを低減することができる車両用自動変速機の摩擦係合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(1)軸心に平行な方向に連なる複数本の第1凸状係合歯を内周面に有する第1部材と、その第1部材と同心に且つ相対回転可能に設けられ、軸心に平行な方向に連なる複数本の第2凸状係合歯を前記内周面に対向する外周面に有する第2部材と、前記第1凸状係合歯と相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に係合する複数枚の円環板状の第1摩擦板と、それら複数枚の第1摩擦板の間に交互に重ねられた状態で前記第2凸状係合歯と相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に係合する複数枚の円環板状の第2摩擦板と、相互に重ねられた前記第1摩擦板および第2摩擦板を前記軸心に平行な一方向へ押圧するアクチュエータと、前記第1凸状係合歯において周方向に連ねて形成された周方向溝内に嵌め入れられ、前記複数枚の第1摩擦板のうちの前記アクチュエータとは反対側に位置する第1摩擦板に当接してその第1摩擦板の軸心方向の移動を阻止する環状のストッパ部材とを備えた車両用自動変速機の摩擦係合装置であって、(2)前記環状のストッパ部材は、周方向において分割された少なくとも2つの円弧状部材から構成され、その環状のストッパ部材の内周側に嵌め入れられた環状突部を有する環状の保持部材によって、その円弧状部材の前記周方向溝内から回転中心側への移動が阻止されていることにある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1にかかる発明の車両用自動変速機の摩擦係合装置によれば、ストッパ部材は、周方向において分割された少なくとも2つの円弧状部材から構成され、そのストッパ部材の内周側に嵌め入れられた環状突部を有する環状の保持部材によってその円弧状部材の前記周方向溝内から回転中心側への移動が阻止されていることから、ストッパ部材が従来のように穴用スナップリングから成る場合と比較して同じ板材から製作可能な個数が増えて材料歩留まりが良くなるので、製造コストを低減することができる。また、ストッパ部材が従来のように穴用スナップリングから成る場合と比較して組付ける際に弾性変形させる必要がなくなって組付管理レベルを落とすことができ、組付け精度確認が不要とされて1台あたりの組付け時間が短縮され且つ製造設備コストが低減されるので、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1に示す自動変速機の一部の構成を詳細に説明する要部断面図である。
【図3】図2のIII-III矢視部を示す断面図である。
【図4】図2のIV矢視部を拡大して示す図である。
【図5】図2に示す円弧状部材が所定の板材から打抜加工により製作される際の打ち抜き方を示す図である。
【図6】環状のストッパ部材として従来のように穴用スナップリングが用いられる場合に、所定の板材から打抜加工により製作される際の打ち抜き方を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源として機能するエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、流体伝動装置(流体継手)としてのトルクコンバータ14や車両用自動変速機16などを順次介して図示しない左右の駆動輪に伝達されるようになっている。なお、図1において、トルクコンバータ14および自動変速機16は軸心Cに対して略対称に構成されているため、下側半分が省略されている。
【0012】
上記トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、自動変速機16の入力軸32に連結されたタービン翼車14t、および一方向クラッチを介してハウジングケース36に連結されたステータ翼車14sを備えており、流体を介して動力伝達が行われるようになっている。また、ポンプ翼車14pには、例えば後述の摩擦係合装置などに油圧を供給するための図示しない油圧制御回路の元圧を発生させる機械式のオイルポンプ17が連結されている。
【0013】
上記自動変速機16は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置22を主体として構成されている第1変速部24と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置28から成るラビニヨ型遊星歯車装置を主体として構成されている第2変速部30とを共通の軸心C上に有し、入力軸32の回転を変速して出力歯車34から出力するものである。上記入力軸32は、トルクコンバータ14のタービン翼車14tと一体的に回転するタービン軸としても機能するものでもある。また、出力歯車34は、図示しない差動歯車装置に動力伝達可能に設けられ、前記左右の駆動輪を回転駆動するものである。
【0014】
上記第1遊星歯車装置22は、入力軸32に連結されたサンギヤS1と、そのサンギヤS1に噛み合う複数のピニオンギヤP1を自転および軸心Cまわりの回転可能に支持するとともにブレーキ(摩擦係合装置)B1を介して非回転部材であるハウジングケース36に選択的に連結されるキャリヤCA1と、複数のピニオンギヤP1に噛み合うとともにブレーキ(摩擦係合装置)B3を介してハウジングケース36に選択的に連結されるリングギヤR1とを備えて構成されている。
【0015】
また、上記第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28から成るラビニヨ型遊星歯車装置は、クラッチ(摩擦係合装置)C1を介して入力軸32に選択的に連結されるサンギヤS2と、キャリヤCA1に連結されたサンギヤS3と、サンギヤS3に噛み合う複数のピニオンギヤP3とそれら複数のピニオンギヤP3およびサンギヤS2にそれぞれ噛み合う複数のピニオンギヤP2を自転可能且つ軸心Cまわりの公転可能に支持するとともに、出力歯車34に連結されたキャリヤCA3(CA2)と、複数のピニオンギヤP2に噛み合うとともにクラッチ(摩擦係合装置)C2を介して入力軸32に選択的に連結され、ブレーキ(摩擦係合装置)B2を介してハウジングケース36に選択的に連結されるリングギヤR2(R3)とを備えて構成されている。
【0016】
上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1乃至B3は、所謂摩擦係合装置であって、それらが介挿されている両側の部材を選択的に連結するものである。これらの摩擦係合装置は、前記油圧制御回路から供給される油圧の大きさに応じてトルク容量(係合力)が連続的に変化するように構成されている。本実施例の自動変速機16では、クラッチC1、C2、およびブレーキB1乃至B3のうち何れか2つが係合されることによって前進6段および後進1段の各変速段が成立するようになっている。
【0017】
図2は、図1に示す自動変速機16の一部の構成を詳細に説明する要部断面図である。また、図3は、図2のIII-III矢視部を示す断面図である。なお、自動変速機16の内部は軸心Cに対して略対称に構成されているため、図2では下側半分が省略されている。
【0018】
図2および図3において、前記ハウジングケース36は、筒状のハウジング40と、そのハウジング40の開口を塞ぐようにそのハウジング40に固定された円板状のオイルポンプハウジング42とを含んで構成されている。また、前記入力軸32は、一端部同士が相互にスプライン嵌合することで一体的に設けられた第1シャフト44および第2シャフト46から成り、複数の軸受を介して軸心Cまわりの回転可能にハウジングケース36に支持されている。そして、ハウジングケース36内すなわちハウジング40およびオイルポンプハウジング42により囲まれる空間内における内周側には、入力軸32を中心としてオイルポンプハウジング42側から第1遊星歯車装置22、出力歯車34、および第3遊星歯車装置28が順次配設されている。また、ハウジングケース36内における外周側には、入力軸32を中心として、オイルポンプハウジング42側からブレーキB1、ブレーキB3が順次配設されている。以下においては、自動変速機16に設けられた複数の摩擦係合装置を代表して、上記ブレーキB1に関して詳しく説明する。
【0019】
オイルポンプハウジング42のトルクコンバータ14側には、ノックピン38によって位置決めされたオイルポンプケース47が図示しないボルト等の締結部材によって固定されており、これらオイルポンプハウジング42とオイルポンプケース47との間には、オイルポンプ17が設けられている。このオイルポンプ17は、トルクコンバータ14のポンプ翼車14pに嵌合されたドライブギヤ17aと、そのドライブギヤ17aと噛み合わされたドリブンギヤ17bとを備えており、ポンプ翼車14pの回転に伴ってそれらギヤ対が回転することによって所定の油圧を発生させるものである。
【0020】
オイルポンプハウジング42には、その内周部から第1遊星歯車装置22に向けて軸心C方向に伸びる筒状の内周側筒部42aが突設されている。その内周側筒部42aの外周面には、円筒状のスリーブ48およびブッシュ49が圧入されている。また、出力歯車34および第3遊星歯車装置の内周側に位置する第2シャフト46の外周部には、第1遊星歯車装置22側の一端部にスプライン外歯が設けられるとともに他端部に第3遊星歯車装置28のサンギヤS3が形成されたスリーブ軸50が第2シャフト46に対して相対回転可能に設けられている。第1遊星歯車装置22のキャリヤCA1は、そのオイルポンプハウジング42側の一端部がスリーブ48およびブッシュ49の外周側に挿入され、他端部が上記スリーブ軸50のスプライン外歯とスプライン嵌合されている。これにより、キャリヤCA1は、ハウジングケース36および入力軸32に対して相対回転可能に設けられている。
【0021】
第1シャフト44の一端部には、内周側筒部42aとキャリヤCA1の他端部との間における軸心Cに直交する面内において半径方向の外側に突設された鍔部44aが形成されている。この鍔部44aの外周部には、第1遊星歯車装置22のサンギヤS1が例えば圧入や溶接により固設されている。これにより、サンギヤS1は、入力軸32に相対回転不能に連結されている。そして、鍔部44aとキャリヤCA1の他端部との間にはスラストベアリング51が設けられ、また、サンギヤS1と内周側筒部42aとの間にはスラストベアリング52が設けられている。
【0022】
オイルポンプハウジング42には、その外周部から第1遊星歯車装置22側に向けて軸心C方向に伸びる筒状の外周側筒部42bが突設されている。そして、この外周側筒部42bの内周面42cには、軸心Cに平行な方向に連なる複数本の第1凸状係合歯54が形成されている(図3参照)。なお、上記外周側筒部42bは、本発明における第1部材に相当するものである。
【0023】
キャリヤCA1の一端部の外周側には、そのキャリヤCA1に例えばスプライン嵌合されて相対回転不能に設けられると共に、それら嵌合面に相互に装着された止め輪56により軸心C方向の相対移動不能に設けられた円筒状の第1ハブ58が固設されている。この第1ハブ58は、外周側筒部42bと同心且つ相対回転可能に設けられており、軸心Cに平行な方向に連なる複数本の第2凸状係合歯60を前記内周面42cに対向する外周面58aに有している。そして、上記内周面42cと外周面58aとの間には、第1凸状係合歯54と相対回転不能且つ軸心C方向の移動可能に係合する複数枚の円環板状のセパレートプレート62と、それら複数枚のセパレートプレート62の間に交互に重ねられた状態で第2凸状係合歯60と相対回転不能且つ軸心C方向の移動可能に係合する複数枚の円環板状の摩擦プレート64とが設けられている。なお、上記第1ハブ58は本発明における第2部材に相当し、上記セパレートプレート62は本発明における第1摩擦板に相当し、また、上記摩擦プレート64は本発明における第2摩擦板に相当するものである。
【0024】
オイルポンプハウジング42の第1遊星歯車装置22側には、セパレートプレート62に向けて開口する有底円筒状の環状溝66が形成されている。この環状溝66には、中空円筒状のピストン68が軸心C方向の相対摺動可能に嵌め入れられている。また、ピストン68と前記複数枚のセパレートプレート62のうちのピストン68とは反対側に位置するセパレートプレート62すなわちピストン68から最も離間して位置するセパレートプレート62とには、図3に示すように軸心Cまわりの所定角度間隔(本実施例では120度間隔)で外周側に突設された複数の延出部62aおよび68aが形成されている。これら複数の延出部62aと延出部68aとの間には、所定の予圧が付与された状態で設けられてピストン68およびセパレートプレート62を相互に離間する方向へ付勢するリターンスプリング70が複数配設されている。ピストン68は、ピストン68と環状溝66とにより区画形成される油圧室72に例えば前記油圧制御回路から所定の油圧が供給されることによって軸心C方向のセパレートプレート62側へ移動するようになっている。これらピストン68および油圧室72を含んで構成される油圧シリンダ74は、相互に重ねられた前記複数枚のセパレートプレート62および摩擦プレート64を軸心Cに平行な一方向へ押圧するアクチュエータとして機能するものである。
【0025】
前記複数本の第1凸状係合歯54には、一円周上に周方向に連ねて形成された複数の周方向溝54aが形成されている。この周方向溝54aには、複数枚のセパレートプレート62のうちのピストン68とは反対側に位置するセパレートプレート62に当接してそのセパレートプレート62の軸心C方向の移動を阻止する環状のストッパ部材76が嵌め入れられている。この環状のストッパ部材76は、周方向において2分割された2つの円弧状部材78から構成されている。これら2つの円弧状部材78は、外周部に径方向の外側に向かって突き出すとともに外周側筒部42bの第1凸状係合歯54に対して周方向に係合する凸部80をそれぞれ備えており、外周側筒部42bに対して相対回転不能に設けられている。そして、環状のストッパ部材76は、その環状のストッパ部材76の内周側に嵌め入れられた環状突部82aを有する環状の保持部材82によって、円弧状部材78の周方向溝54a内から軸心C(回転中心)側への移動が阻止されている。上記保持部材82は、本実施例では、例えば成形性のよい樹脂や金属等の材料から射出成形により成形される。
【0026】
このように構成された本実施例のブレーキB1では、複数枚のセパレートプレート62および摩擦プレート64がピストン68により軸心Cに平行な一方向へ押圧されることにより、それら複数枚のセパレートプレート62および摩擦プレート64が相互に係合されるようになっている。このように係合されることで第1ハブ58が外周側筒部42bに連結され、そして、その第1ハブ58に固定された第1遊星歯車装置22のキャリヤCA1が回転停止させられるようになっている。
【0027】
なお、ここまで、自動変速機16に設けられた複数の摩擦係合装置を代表してブレーキB1に関して説明したが、その他の摩擦係合装置すなわちクラッチC1、C2、およびブレーキB2、B3に関しても、ブレーキB1と同様に、ストッパ部材76が周方向において例えば2分割された円弧状部材78から構成され、その円弧状部材78の内周側に嵌め入れられた環状突部82aを有する環状の保持部材82によってその円弧状部材78の周方向溝54a内から軸心C側への移動が阻止されるように構成されている。
【0028】
図4は、前記円弧状部材78が板材から打抜加工により製作される際の打ち抜き方を示す図である。図4に示すように、本実施例の円弧状部材78は、プレス機械を用いて所定の大きさを有する金属板84から所定の形状に型抜きされることによって製作される。ここで、図5に示すように、本実施例の円弧状部材78ではなく従来のようにストッパ部材として穴用スナップリング88が用いられる場合には、その穴用スナップリング88は図4の金属板84と同じ大きさの例えばバネ鋼板86から1つしか製作できないのに対して、図4に示すように、本実施例の円弧状部材78の場合には、金属板84から6つの円弧状部材78すなわち3台分のストッパ部材76が製作可能である。
【0029】
また、本実施例の円弧状部材78ではなく従来のようにストッパ部材として穴用スナップリング88が用いられる場合には、スナップリングとしての機能を持たせるためにばね性を有する例えばバネ鋼等の部材からしか製作できないのに対して、本実施例の円弧状部材78の場合には、上記ばね性を有する例えばバネ鋼等の部材に限られずにその他の金属または非金属からも製作可能である。
【0030】
また、本実施例の円弧状部材78ではなく従来のようにストッパ部材として穴用スナップリング88が用いられる場合には、その穴用スナップリング88の周方向溝54aへの組付けは、先ず、径寸法が縮小するように弾性変形されつつ外周側筒部42b内に挿入され、次いで、軸心C方向の位置が外周側筒部42bの周方向溝54aに一致するところで上記弾性変形が解除されるという手順で行われる。これに対して、本実施例の円弧状部材78の場合には、上記のように弾性変形させる必要はなく、2つの円弧状部材78を1つずつ所定の周方向溝54a内に嵌め入れればよい。
【0031】
上述のように、本実施例によれば、環状のストッパ部材76は、周方向において分割された少なくとも2つの円弧状部材78から構成され、その環状のストッパ部材76の内周側に嵌め入れられた環状突部82aを有する環状の保持部材82によってその円弧状部材78の周方向溝54a内から軸心C側への移動が阻止されていることから、ストッパ部材76が従来のように穴用スナップリング88から成る場合と比較して同じ板材から製作可能な個数が増えて材料歩留まりが良くなるので、製造コストを低減することができる。また、ストッパ部材76が従来のように穴用スナップリング88から成る場合と比較して組付ける際に弾性変形させる必要がなく組付管理レベルを落とすことができ、組付け精度確認が不要とされて1台あたりの組付け時間が短縮され且つ製造設備コストが低減されるので、製造コストを低減することができる。
【0032】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0033】
例えば、前述の実施例において、自動変速機16の構造は、前述の実施例のものに限定されず、遊星歯車装置又はクラッチC1、C2、およびブレーキB1乃至B3などの各摩擦係合装置の数や変速段数、および上記各摩擦係合装置が上記遊星歯車装置等のどの要素と選択的に連結されているか等に特に限定はない。要するに、ブレーキやクラッチ等の摩擦係合装置を備える自動変速機であれば本発明が適用し得る。
【0034】
また、前述の実施例において、ストッパ部材76は、周方向において2分割された2つの円弧状部材78から構成されていたが、必ずしも2分割に限らず、例えば、3分割や4分割等された複数の円弧状部材から構成されてもよい。
【0035】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0036】
16:車両用自動変速機
42b:外周側筒部(第1部材)
42c:内周面
54:第1凸状係合歯
54a:周方向溝
58:第1ハブ(第2部材)
58a:外周面
60:第2凸状係合歯
62:セパレートプレート(第1摩擦板)
64:摩擦プレート(第2摩擦板)
74:油圧シリンダ(アクチュエータ)
76:ストッパ部材
78:円弧状部材
82:保持部材
82a:環状突部
B1、B2:ブレーキ(摩擦係合装置)
C:軸心
C1、C2:クラッチ(摩擦係合装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心に平行な方向に連なる複数本の第1凸状係合歯を内周面に有する第1部材と、該第1部材と同心に且つ相対回転可能に設けられ、軸心に平行な方向に連なる複数本の第2凸状係合歯を前記内周面に対向する外周面に有する第2部材と、前記第1凸状係合歯と相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に係合する複数枚の円環板状の第1摩擦板と、該複数枚の第1摩擦板の間に交互に重ねられた状態で前記第2凸状係合歯と相対回転不能且つ軸心方向の移動可能に係合する複数枚の円環板状の第2摩擦板と、相互に重ねられた前記第1摩擦板および第2摩擦板を前記軸心に平行な一方向へ押圧するアクチュエータと、前記第1凸状係合歯において周方向に連ねて形成された周方向溝内に嵌め入れられ、前記複数枚の第1摩擦板のうちの前記アクチュエータとは反対側に位置する第1摩擦板に当接して該第1摩擦板の軸心方向の移動を阻止する環状のストッパ部材とを備えた車両用自動変速機の摩擦係合装置であって、
前記環状のストッパ部材は、周方向において分割された少なくとも2つの円弧状部材から構成され、
該環状のストッパ部材の内周側に嵌め入れられた環状突部を有する環状の保持部材によって、該円弧状部材の前記周方向溝内から回転中心側への移動が阻止されていることを特徴とする車両用自動変速機の摩擦係合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−180994(P2010−180994A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26708(P2009−26708)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】