説明

車両用自動変速機

【課題】車両の動力伝達系から発生する、いわゆるガラ音を防止した車両用自動変速機を提供する。
【解決手段】車両の走行状態等から、ガラ音が発生するか否かを判定する。ガラ音の発生が予測される場合は、自動変速機の微小滑り制御を、ガラ音対策の微小滑り制御に変更する。ガラ音対策の微小滑り制御は、通常時の微小滑り制御における目標滑り量を大きい値とする。これにより、ガラ音対策時微小滑り制御時には、クラッチの滑り量が多くなり、エンジン回転数の変動が動力伝達系に伝達されず、動力伝達系によるガラ音の発生が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ機構の微小滑りを用いてガラ音の発生を防止した車両用自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば負荷が高い状態で、低いエンジン回転数で車両が走行しようとすると、車両の動力伝達系から、いわゆるガラ音と呼ばれる打撃音が発生することがある。これは上記走行状態で不安定となったエンジンの回転速度が動力伝達系に伝達され、例えば動力伝達系が有する歯車の噛み合い面や連結部分などで、僅かな隙間を介して対向した金属面どうしがぶつかりあって音が発生するものと考えられている。
【0003】
一方車両用自動変速機は、油圧や電動アクチュエータなどにより作動するクラッチ機構を備え、増減速を行なうとともに、エンジンからの回転駆動力を適宜接断して動力伝達系に伝達させている。自動変速機には、回転駆動力を伝達させる状態においても、クラッチ機構に微小な滑りを生じさせることがある。これは、微小滑り制御とも呼ばれ、クラッチ機構の押圧力を緩め、摩擦板とプレートとが完全に密着されず、両者の間でわずかな滑りが生じる状態を形成させ、接続時の変速ショックを緩和させたり、遮断時に摩擦板とプレートが円滑に離れるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−52427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、車両用自動変速機に設けられたクラッチ機構の微小滑り制御を利用し、車両に発生するガラ音を低減させることを考えた。すなわち、自動変速機でクラッチを僅かに滑らせることにより、エンジンから動力伝達系に伝達される駆動力の回転速度を変動の少ない一定回転の駆動力とし、動力伝達系において回転速度の変動を原因とするガラ音の発生を抑制しようとするものである。
【0006】
しかしながら、ガラ音を低減させるため自動変速機においてクラッチの滑り量を大きく設定すれば、クラッチ機構における伝達効率が低下し、車両の走行性能の悪化や燃費の低下を引き起こす。また、クラッチの滑り量が大きくなれば、クラッチ摩擦板の摩耗量が増大し、コストを上昇させるおそれがある。
【0007】
本発明は上記課題を解決し、車両の走行性能の低下や燃費悪化、またクラッチの摩耗量の増大などを起こすことなく、車両のガラ音を防止できる車両用自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両用自動変速機を次のように構成した。
車両用自動変速機は、クラッチ装置と制御装置を備え、制御装置による自動制御でクラッチ装置のクラッチを接続、遮断させる。また制御装置は、クラッチ機構を接続させた状態においても、クラッチ機構に微小な滑りを行なわせる微小滑り制御を有している。
【0009】
制御装置は、車両が通常に走行している状態か、ガラ音の発生が予測される走行状態か判定する判定手段を有している。判定手段が、車両の走行状態がガラ音の発生が予測される走行状態であると判定したなら、制御装置は、通常走行におけるクラッチの目標微小滑り量より目標微小滑り量を大きくする。また制御装置は、ガラ音対策が必要と判断されたら、クラッチの滑り量を目標滑り量に到達させる制御を変更し、クラッチの滑り量が多い場合は、通常制御時よりもクラッチの滑り量を減少させる制御量を小さくし、滑り量が少ない場合はクラッチの滑り量を増加させる制御量を大きくした。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる車両用自動変速機によれば、通常の走行状態では、少ない滑り量で微小滑り制御を行い、円滑なクラッチ操作と、高い伝達効率、および良好な燃費を確保できる。また、クラッチ摩擦板の過大な摩耗を防止できる。
【0011】
一方、ガラ音の発生が予想される走行条件では、クラッチ機構の滑り量の値が大きくなるので、たとえエンジンが不安定な回転速度で作動しても、クラッチ機構の滑りがエンジンからの速度変動を吸収し、自動変速機は円滑な回転駆動力を動力伝達系に出力する。これにより、動力伝達系は安定した回転速度で駆動され、ガラ音の発生が防止される。ガラ音対策は、必要に応じて実行されるので、車両の走行等に支障をきたすことがない。
【0012】
また、クラッチ機構の微小滑り量を目標滑り量に近づける制御においては、滑り量の変化量を、通常時の制御とガラ音対策時の制御とで変更させたので、クラッチ機構の滑り量を適切な変化で早期に目標の滑り量に設定でき、効果的にガラ音の発生と、燃費の悪化等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる車両用自動変速機の一実施形態を示す構成図である。
【図2】車両全体の概略構成を示す平面図である。
【図3】車両用自動変速機の制御装置の一実施形態を示す構成図である。
【図4】ガラ音防止制御を選択するフローチャートである。
【図5】目標滑り変化量と実滑り量の関係を表すグラフである。
【図6】指示電流変化速度と要求滑り変化量の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にかかる、クラッチ機構の微小滑りを用いて、打音(ガラ音)の発生を防止した車両用自動変速機の一実施形態について説明する。図1に、車両用の自動変速機10を示す。自動変速機10は、2基のクラッチ機構を備えた、いわゆるデュアルクラッチ式の自動化機械式変速機で、入力軸12にはエンジン14の出力軸15が接続され、出力軸16には図2に示すプロペラシャフト18の一端が接続されている。
【0015】
図2に、自動変速機10を搭載した車両20を上方から見たときの概略構成を示す。車両20は、前方にキャビン22を備え、後方に荷箱24を備え、キャビン22の下部に前輪26a、荷箱24の下部に後輪26bが設けられている。
【0016】
車両20には、幅方向の中央にメインフレーム28が前後方向に設けられている。メインフレーム28は、断面コの字状のフレーム部材30を、左右1対平行に配して構成されている。
【0017】
エンジン14は、メインフレーム28の前方に取り付けてあり、エンジン14に続いて自動変速機10、プロペラシャフト18、差動装置36などがメインフレーム28に設けられている。また車両20には、エンジン14と、自動変速機10等を制御する制御装置32(図1参照。)が備えられている。
【0018】
エンジン14は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン14には、エンジン14の出力軸15の回転数を検出するエンジン回転数検出センサ17が設けられている。制御装置32は、エンジン回転数検出センサ17から送られてくるエンジン回転数、アクセルペダルのペダル作動センサ19からのアクセル踏み込み状態、シフトレバーセンサ21から送られてくるギヤ設定状態などの信号に基づき、エンジン14に作動信号を送り、エンジン14を適宜作動させる。尚エンジン14は、ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジン、その他でもよい。
【0019】
プロペラシャフト18は、円筒状の部材で、自動変速機10の出力軸16に連結され、中間位置に自在継ぎ手34を有し、他端で差動装置36に接続している。差動装置36は、後輪駆動軸(図示せず。)を介して左右の後輪26bにそれぞれ連結されている。ここで、プロペラシャフト18から自在継ぎ手34、差動装置36を介して駆動軸までを動力伝達系とし、本実施形態では、かかる動力伝達系で発生するガラ音を、低減させるべき対象としている。
【0020】
自動変速機10は、図1に示すようにクラッチ装置40と、歯車変速装置42と、クラッチ作動装置としての第1および第2アクチュエータ44、46と、ギヤ段設定装置48と、ギヤ段数検出センサ50などから構成されている。クラッチ装置40は、いわゆるデュアルクラッチであり、内クラッチ機構52と外クラッチ機構54とから構成されている。内クラッチ機構52は、円板状であり、内クラッチ機構52を内側にして、その外周部分に外クラッチ機構54が内クラッチ機構52と同心円状に配置されている。
【0021】
内クラッチ機構52と外クラッチ機構54は、共通の入力軸12を有し、入力軸12には後述したようにエンジン14からの出力軸15が連結されている。内クラッチ機構52および外クラッチ機構54は、いわゆる湿式のクラッチ機構であり、内部に摩擦板とプレートとを具えている。
【0022】
内クラッチ機構52には第1アクチュエータ44が、外クラッチ機構54には第2アクチュエータ46が設けられている。第1アクチュエータ44は、電動アクチュエータである。第1アクチュエータ44は、第1駆動部56からの動力線が接続され、制御装置32が第1駆動部56に駆動信号を送ると、第1駆動部56が第1アクチュエータ44に作動用の所定の電力を供給する。第1アクチュエータ44は、第1駆動部56の電力供給により作動すると、内クラッチ機構52の摩擦板をプレートに押し付け、内クラッチ機構52を接続状態とする。これにより内クラッチ機構52は、制御装置32からの駆動信号に応じて接断される。内クラッチ機構52の出力端には、第1入力軸60が連結されており、内クラッチ機構52を接続させると、エンジン14からの回転が第1入力軸60を通して、歯車変速装置42に入力される。
【0023】
外クラッチ機構54は、内クラッチ機構52と同様の構成であり、内部に摩擦板をプレートとを具え、制御装置32からの駆動信号が第2駆動部62に入力され、駆動信号に応じて第2アクチュエータ46が作動すると、接続状態となる。外クラッチ機構54の出力端には、第2入力軸64が連結されており、外クラッチ機構54を接続させると、エンジン14からの回転が第2入力軸64を通して、歯車変速装置42に入力される。第2入力軸64は円筒状で、第1入力軸60の外周に、第1入力軸60と同心に配置されている。
【0024】
また第1入力軸60には、第1入力軸回転数検出センサ66が設けられ、第2入力軸64には、第2入力軸回転数検出センサ68が設けられている。第1入力軸回転数検出センサ66は、第1入力軸60の回転数を検出し、制御装置32に送り出す。第2入力軸回転数検出センサ68は、第2入力軸64の回転数を検出し、制御装置32に送り出す。
【0025】
第1入力軸60および第2入力軸64には、歯車が設けられており、歯車変速装置42の内部で、変速歯車機構70に噛み合っている。変速歯車機構70は、被駆動歯車やシンクロ機構(いずれも図示せず。)を備え、制御装置32からの指示により作動するギヤ段設定装置48により所定のギヤ段が設定される。またギヤ段設定装置48で設定されたギヤ段は、ギヤ段数検出センサ50により検出され、制御装置32に送出される。
【0026】
制御装置32は、自動変速機10の内クラッチ機構52と外クラッチ機構54のいずれかを接続させて、例えば1速のギヤ段を設定しているとき、変速歯車機構70に2速のギヤ段を設定させるとともに、他方のクラッチ機構を遮断させ、2速のギヤを待機させておく。そして制御装置32は、1速の側のクラッチ機構を遮断させるとともに、2速の側のクラッチ機構を接続させ、1速から2速に変速させる。同様に、他のギヤ段への変速を内クラッチ機構52と外クラッチ機構54を交互に用いて行なわせる。
【0027】
尚、自動変速機10の変速操作は、従来のデュアルクラッチ変速機における変速操作と同様であり、デュアルクラッチ式自動変速機の具体的構成等については、例えば特開2009−035168号公報などに詳細に記載されている。そのため本実施形態では、デュアルクラッチ式自動変速機自体については概略的に説明することとし、詳しい説明は省略する。また、自動変速機10の構成は、上記構成に限るものではない。更に制御装置32は、図1に示すように微小滑り制御部80を備え、変速操作とともに自動変速機10に微小滑り制御を行なわせている。
【0028】
次に、自動変速機10における微小滑り制御について説明する。
微小滑り制御部80を図3に示す。微小滑り制御部80は、図3に示すように微小滑り制御判定部82を備え、エンジン回転数検出センサ17とギヤ段数検出センサ50からの値に基づき、微小滑り制御を行なうか否かを判定する。
【0029】
図4に、微小滑り制御判定部82におけるガラ音対策の微小滑り制御を実行するか否かを判定するフローチャートを示す。微小滑り制御判定部82は、走行中にギヤ段数検出センサ50から設定ギヤ段数を示す信号が送られてくると、自動変速機10が所定のギヤ段に設定されているか否かを判定する(ステップ101)。ステップ101で、自動変速機10が所定のギヤ段が設定されていると判断されれば、ステップ102に進む。
【0030】
ステップ102では、エンジン回転数検出センサ17から送られてくる、エンジン14のエンジン回転数が閾値以下か否か判定する(ステップ102)。ステップ102で、エンジン14の回転数が閾値以下と判断されれば、ガラ音対策が必要と判定し、ステップ103でフラグ84(図3参照。)に判定結果である1を設定する。
【0031】
一方、ステップ101で自動変速機10が所定のギヤ段数でなく、あるいはステップ102でエンジン14の回転数が閾値以上と判断されれば、ガラ音対策が不必要と判定され、ステップ104で判定結果である0をフラグ84に設定する。
【0032】
次に、微小滑り制御判定部82において、ガラ音対策が不必要と判定された、通常制御時の場合の自動変速機10における微小滑り制御について説明する。エンジン回転数検出センサ17が検出したエンジン14の回転数は、第1減算部88に入力される。また、第1入力軸回転数検出センサ66もしくは第2入力軸回転数検出センサ68から送られてくる値で、クラッチ装置40において接続されている状態の内クラッチ機構52と外クラッチ機構54のいずれかのクラッチ装置の第1入力軸60あるいは第2入力軸64の回転数(以下、これを「クラッチ回転数」とする。)が第1減算部88に入力される。第1減算部88は、エンジン回転数からクラッチ回転数を減算し、実滑り量を算出する。
【0033】
実滑り量は、目標滑り変化量検出部90と、ガラ音対策目標滑り変化量検出部92と、実滑り変化量検出部94に入力される。目標滑り変化量検出部90は、実滑り量と目標滑り変化量の関係を有する関連表などから、目標滑り変化量を検出する。図5に、実滑り量と目標滑り変化量の関係を表すグラフを示す。図5において、点線は通常制御時の場合のグラフであり、実線はガラ音対策制御時の場合のグラフである。各グラフと、目標滑り変化量が0の横軸との交点が、それぞれのグラフにおける目標滑り量である。
【0034】
フラグ84には0が設定されているので、第1切替部96は、目標滑り変化量検出部90に接続するように切り替えられており、目標滑り変化量検出部90で検出された目標滑り変化量が第2減算部98に入力される。また、実滑り変化量検出部94では、実滑り量の前後の値を用いて実滑り変化量が算出され、算出された実滑り変化量が第2減算部98に入力される。第2減算部98は、目標滑り変化量から実滑り変化量を減算し、要求滑り変化量を算出する。
【0035】
第2減算部98で算出された要求滑り変化量は、指示電流変化速度検出部110およびガラ音対策指示電流変化速度検出部112に入力される。指示電流変化速度検出部110およびガラ音対策指示電流変化速度検出部112では、要求滑り変化量と指示電流変化速度との関係を有する関連表などから、指示電流変化速度を検出する。図6に、要求滑り変化量と指示電流変化速度との関係を表すグラフを示す。図6において、点線は通常制御時の場合のグラフであり、実線はガラ音対策制御時の場合のグラフである。
【0036】
フラグ84には0が設定されているので、第2切替部114は、指示電流変化速度検出部110に接続するように切り替えられており、指示電流変化速度検出部110で検出された指示電流変化速度を、乗算部116に送り出す。また、乗算部116には演算周期が入力されている。乗算部116は、指示電流変化速度に演算周期を乗算し、1演算周期当たりの微小滑り分の指示電流値を算出する。乗算部116で算出された指示電流値は、加算部120に送り出される。
【0037】
また、ドライバがアクセルペダルを踏み込むと、アクセルペダルを踏み込んだ状態がペダル作動センサ19で検出され、その値が制御装置32に送られる。制御装置32は、ペダル作動センサ19で検出されたアクセル踏み込み量などから、ドライバ要求トルクを検出する。更に制御装置32は、検出されたドライバ要求トルク、あるいは実エンジントルクに基づいて要求指示電流値を検出する。検出された要求指示電流値は、第3切替部118に、直接及びフィルタ122を通して入力される。
【0038】
第3切替部118は、フラグ84には0が設定されているので、要求指示電流値を直接入力する側に切り替えられており、要求指示電流値を加算部120に送り出す。加算部120は、要求指示電流値に指示電流値を加算して印加電流値を算出し、第1駆動部56あるいは第2駆動部62(それぞれのクラッチ機構が接続されているか否かで選択する。)に送り出す。そして、第1駆動部56あるいは第2駆動部62は、加算部120から送られてきた印加電流値に基づき、第1アクチュエータ44あるいは第2アクチュエータ46(同上)へ電流を送り出す。
【0039】
印加電流値は、通常制御時のグラフを用いて目標滑り変化量及び指示電流変化速度が検出される。これにより、検出された印加電流値に基づいて実施されるクラッチ装置40の滑り制御は、通常制御に従って実施される。つまり、目標滑り量に対して実滑り量が過剰の場合には指示電流値が増加側へ大きくなり、実滑り量が不足している場合には指示電流値が減少側へ大きくなることで、クラッチ装置40の目標微小滑り量が適切に設定される。
【0040】
次に、微小滑り制御判定部82において、ガラ音対策が必要と判定された場合についての自動変速機10における微小滑り制御について説明する。ガラ音対策が必要と判定された場合は、フラグ84に1が設定されるので、第1切替部96は、ガラ音対策目標滑り変化量検出部92に接続するように切り替えられる。
【0041】
ガラ音対策目標滑り変化量検出部92は、図5に実線で示すグラフを用いてガラ音対策目標滑り変化量を検出する。したがって、ガラ音対策目標滑り変化量検出部92では、目標滑り量の値が通常制御の場合より大きい値に設定される。また、実滑り量がガラ音対策の目標滑り量より少ない領域では、目標滑り変化量の値が通常の状態より大きく設定される。
【0042】
第2減算部98では、ガラ音対策目標滑り変化量検出部92で検出されたガラ音対策目標滑り変化量から実滑り変化量を減算し、ガラ音対策要求滑り変化量を算出する。第2切替部114は、フラグ84には1が設定されているので、ガラ音対策指示電流変化速度検出部112を選択するように切り替えられ、ガラ音対策指示電流変化速度検出部112で検出されたガラ音対策指示電流変化速度を乗算部116に出力する。
【0043】
乗算部116は、ガラ音対策指示電流変化速度検出部112で検出されたガラ音対策指示電流変化速度と演算周期とを乗算し、算出したガラ音対策指示電流値を加算部120に入力する。また第3切替部118は、フラグ84に1が設定されているので、フィルタ122の側を選択するように切り替えられ、フィルタ122により遅延された遅延要求指示電流値が加算部120に入力される。
【0044】
加算部120は、ガラ音対策指示電流値に遅延要求指示電流値を加算してガラ音対策印加電流値を算出し、第1駆動部56あるいは第2駆動部62に送り出し、それぞれの第1アクチュエータ44あるいは第2アクチュエータ46を駆動させる。
【0045】
ここでガラ音対策指示電流変化速度検出部112は、図6に実線で示すグラフで、ガラ音対策要求滑り変化量からガラ音対策指示電流変化速度を検出する。ガラ音対策指示電流変化速度は、通常制御時における指示電流変化速度に比較して、要求滑り変化量が負の領域では、小さい値となり、要求滑り変化量が正の領域では、小さい値(絶対値が大きい値)となる。
【0046】
つまり、目標滑り量に対して実滑り量が過剰の場合には、指示電流値が通常制御時より増加側へより大きくなり、一方実滑り量が不足している場合には、指示電流値が通常制御時より減少側へより大きくなる。このことで、全体的に滑り量が増加された状態を保持しつつ、クラッチ装置40のガラ音対策時における目標微小滑り量を適切に設定できる。
【0047】
更にガラ音対策時には、フィルタ122を通した遅延要求指示電流値が加算部120に入力されるので、加算部120には運転者が所望するエンジントルクに基づく要求指示電流値の値が通常制御時の場合より時間的に遅れて入力される。これにより、クラッチ装置40の接続動作に時間的な遅れが生じ、クラッチ装置40における滑り量が多くなり、動力伝達系の不安定な回転を防止し、ガラ音の発生を低減できる。尚、フィルタ122及び第3切替部118は、本発明において、必須の要件ではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、クラッチ機構の微小滑りを備えた自動変速機において、車両のガラ音防止に用いられる。
【符号の説明】
【0049】
10…自動変速機 14…エンジン 16…出力軸 17…エンジン回転数検出センサ 20…車両 32…制御装置 40…クラッチ装置 42…歯車変速装置 44…第1アクチュエータ 46…第2アクチュエータ 48…ギヤ段設定装置 50…ギヤ段数検出センサ 52…内クラッチ機構 54…外クラッチ機構 60…第1入力軸 64…第2入力軸 66…第1入力軸回転数検出センサ 68…第2入力軸回転数検出センサ 70…変速歯車機構 80…微小滑り制御部 82…微小滑り制御判定部 84…フラグ 88…第1減算部 90…目標滑り変化量検出部 92…ガラ音対策目標滑り変化量検出部 94…実滑り変化量検出部 96…第1切替部 98…第2減算部 110…指示電流変化速度検出部 112…ガラ音対策指示電流変化速度検出部 114…第2切替部 118…第3切替部 120…加算部 122…フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ機構を微小に滑らせる、微小滑り制御を備えた車両用自動変速機において、
前記車両の動力伝達系に、該動力伝達系の回転速度変動を原因とする打音の発生が予測される場合は、前記微小滑り制御に代えて打音対策微小滑り制御を実施することを特徴とした車両用自動変速機。
【請求項2】
エンジンと駆動輪の間に設けられ、前記エンジンからの回転駆動力を接断させるクラッチ機構に、該クラッチ機構を微小に滑らせる微小滑り制御を備えた車両用自動変速機であって、
前記自動変速機から前記駆動輪までの動力伝達系に、該動力伝達系の回転速度変動を原因とする打音の発生が予測される場合は、前記微小滑り制御における目標滑り量より目標滑り量を増大させるとともに、前記目標滑り量への変化速度を、前記微小滑り制御における変化速度に対して変化させた、打音対策微小滑り制御を実施することを特徴とした車両用自動変速機。
【請求項3】
前記動力伝達系の回転速度変動による打音の発生が予測される場合は、前記クラッチ機構を作動させる制御の基準となる検出結果を、遅延処理を行なわせて制御装置に入力させることを特徴とした請求項1または2に記載の車両用自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−97837(P2012−97837A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246385(P2010−246385)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】