説明

車両用衝撃吸収体

【課題】内装トリムの裏面に配設され、樹脂製の格子状リブからなる車両用衝撃吸収体であって、この車両用衝撃吸収体の成形時におけるショートショット、バリ発生等の成形不良をなくし、生産性を高める。
【解決手段】ルーフトリム10の内面側に設置されるルーフサイドブラケット(車両用衝撃吸収体)30は、樹脂製の格子状リブからなり、側壁リブ32と端末壁リブ33とからなる周囲リブ31と、この周囲リブ31の内部に縦リブ34,横リブ35を格子状に配列して構成されている。更に、長手方向に沿って縦リブ34か側壁リブ32の少なくともいずれか一方には、天板36が形成され、この天板36を樹脂通路とすることで樹脂の流動性を高めショートショットを回避し、バリ発生もなくし、ゲート43の個数も低減でき、金型設備も簡素化できる。また、天板36を利用して、押し出しピン46を好きな位置に設定できるため、造形自由度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂製の格子状リブからなる車両用衝撃吸収体に係り、特に、形状を工夫することで、成形時における樹脂流れを向上させることができ、生産性に優れ、廉価に製作できる車両用衝撃吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両内には各種衝撃吸収体が設けられており、外部から加わる衝撃荷重に対して衝撃吸収体が変形、あるいは圧壊することで乗員に加わる負荷を軽減するようにしている。例えば、この車両用衝撃吸収体としては、樹脂製の格子状リブをベースとした樹脂成形体、あるいは発泡ビーズや発泡ウレタン等の樹脂発泡成形体が通常知られている。
【0003】
ここでは、樹脂製の格子状リブの従来例について、図11を基に説明する。図示するように、ルーフパネル1の室内面側に内装材としてのルーフトリム2が装着されており、特に、側部には、その室内側に乗員の保護を図るためにカーテン式のエアバッグ3等が装備されることが多く、かつルーフトリム2の内面側には、衝撃吸収体として図12に示すような樹脂製の格子状リブからなるルーフサイドブラケット4が取り付けられている。このルーフサイドブラケット4は外部から衝撃を加えた際、変形、あるいは圧壊することで衝撃荷重を有効に吸収している。
【0004】
上記ルーフサイドブラケット4の具体的な構成としては、車両の進行方向に沿って延びる側壁リブ4aと長手方向両端末の端末壁リブ4bとから周囲が構成される周囲リブ4a,4bと、これら周囲リブ4a,4b内に配列される縦リブ4cとそれと交差するように複数列に延びる横リブ4dとから構成され、各種リブ4a〜4dのリブピッチは、25〜30mmに設定されている。従来のルーフサイドブラケット4に係る構成については、特許文献1に詳細に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−114033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来のルーフサイドブラケット4のように樹脂製の格子状リブをベースとした車両用衝撃吸収体においては、格子状の薄いリブ(厚み1mm程度)構造であるため、樹脂充填時における樹脂流れが悪く、ショートショットが多発するという不具合がある。また、ショートショットを防ぐために射出圧を高く設定した場合には、過充填によるバリ発生が生じ易い。従って、射出圧を低く抑え、かつショートショットを防ぐためには、ゲート5を多数箇所(例えば、図示するように5a〜5f)に設定することが必要となり、成形金型における型費の高騰化を招く大きな要因となっている。
【0007】
更に、ルーフサイドブラケット4は、側壁リブ4a、端末壁リブ4bで構成される四方を囲まれたリブであるため、ルーフサイドブラケット4が成形金型に食い付いて離型性が悪く、実際の成形にあたっては、脱型性を高める離型剤を成形金型の型面に塗布する必要があり、離型剤の塗布工程が付加されるため、生産性の低下を招くという問題点も同時に指摘されている。また、ルーフサイドブラケット4は格子状リブをベースとしているため、リブの交差部しか押し出しピンの設置部位がないため、押し出しピンによる脱型性についても改善の余地があった。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ルーフサイドブラケット4に代表される樹脂製の格子状リブからなる車両用衝撃吸収体であって、ショートショット、過充填によるバリ発生等の成形不良を有効に解決でき、生産性を高めることができるとともに、廉価に製作できる車両用衝撃吸収体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、車体パネルと内装トリムの間に介装され、車両に衝撃が加わった際、それ自体変形、あるいは圧壊することで衝撃荷重を吸収できるように、樹脂製の格子状リブから構成されている車両用衝撃吸収体において、前記車両用衝撃吸収体は、側壁リブ、端末壁リブからなる周囲リブの内部に縦リブ、横リブを格子状に配列して構成されているとともに、長手方向に沿って延びる縦リブ、あるいは側壁リブの少なくともいずれか一方側の端縁部分に沿って所定幅の天板が設けられていることにより、成形時における樹脂の流動性が高められていることを特徴とする。
【0010】
ここで、内装トリムとしては、ルーフトリムの他に車両の側壁パネルの室内面側に装着されるドアトリム、リヤサイドトリム等に適用することができる。また、車両用衝撃吸収体としては、ルーフトリムの内面側部に設置されるルーフサイドブラケットの他に、ドアトリム、リヤサイドトリム等の裏面側に取り付けられる側突用パッドに適用することができる。車両用衝撃吸収体としては、側壁リブと端末壁リブからなる周囲リブと、これら周囲リブの内部に配列される縦リブ、横リブとから構成され、これら各種リブは、ほぼ直交する方向に交差している。そして、リブピッチは25〜30mmmで、リブの先端厚みは1mm程度が好ましく、成形工法は射出成形工法が最適である。また、素材としては、PP樹脂の他に、PE樹脂、ABS樹脂、ポリアミド系樹脂等から適宜選択することができる。
【0011】
次いで、リブの厚みとしては、先端を厚み1mm、パーティング面側の厚みについては抜き勾配を考慮して、1.2〜1.3mm程度に設定することもできる。そして、車両用衝撃吸収体を構成する各リブについては、縦リブ、あるいは側壁リブにおけるリブの端縁部に沿って厚み10mm程度の天板が条設されている。この天板は、全面に亘り設けられていても良い。従って、成形金型内に溶融樹脂を射出充填して、車両用衝撃吸収体を成形する際、衝撃吸収体の長手方向に設定されている天板が樹脂通路となり、ゲートから天板に樹脂が円滑に流れ、その後、枝別れして横リブに樹脂が迅速に流れる。よって、くまなく溶融樹脂がキャビティ各部にゆきわたることになる。
【0012】
以上の構成から明らかなように、本発明に係る車両用衝撃吸収体は、樹脂製の格子状リブをベースとして、縦リブ、あるいは側壁リブの端縁部に沿って天板が一体成形されているため、成形金型に溶融樹脂を射出充填して車両用衝撃吸収体を成形する際、樹脂流れが向上し、ショートショットを確実に回避でき、かつ無理に射出圧を上げる必要もないため、過充填によるバリ発生も皆無とでき、成形不良を確実に防止することができることから、生産性を大幅に高めることができる。また、樹脂流れを向上させることができるため、ゲートの設定個数も低減することができることから、成形金型の加工を簡素化することができる。
【0013】
次いで、本発明の好ましい実施の形態においては、前記車両用衝撃吸収体は、成形金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填することにより、所要形状に成形され、その後、天板を押し出しピンにより型抜き方向に押し出すことで成形金型からの離型性を高めたことを特徴とする。そして、この実施の形態によれば、天板の下面に当接するように押し出しピンを設定すれば良いため、この押し出しピンの作用により、車両用衝撃吸収体を型抜き方向に突き上げることができ、成形品の離型性を高めるとともに、押し出しピンの設定位置の自由度を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明した通り、本発明に係る車両用衝撃吸収体は、樹脂製の格子状リブをベースとして、周囲リブの内部に縦リブと横リブが格子状に配列され、特に、長手方向に延びる縦リブ、あるいは側壁リブの端縁部に沿って天板が設定され、この天板を通して樹脂を流し込むことで、従来のショートショットや過充填等の成形不良を確実に回避でき、成形不良を抜本的に解決できる。更に、ゲートの設定箇所も少なくて済み、金型の加工費も削減できることから、生産性を高め、かつ金型費用を低減できるという効果を有する。
【0015】
更に、本発明に係る実施の形態によれば、格子状リブに天板を一体化するとともに、この天板に押し出しピンを作用させて脱型性を高めるという構成を採用すれば、離型性がアップし、生産性をより向上させることができるとともに、押し出しピンの設定箇所も自由に設定できる等、成形金型における加工自由度も向上させることができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る車両用衝撃吸収体の一実施例として、ルーフトリムの背面側に設置されるルーフサイドブラケットに適用した実施例について説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0017】
図1乃至図10は本発明の一実施例を示すもので、図1はルーフトリムとルーフサイドブラケットを示す説明図、図2はルーフトリムとルーフサイドブラケットを車両に取り付けた状態を示す断面図、図3は本発明に係る車両用衝撃吸収体の一例であるルーフサイドブラケットを示す斜視図、図4は図3に示すルーフサイドブラケットの構成を示す断面図、図5は同ルーフサイドブラケットの成形時の状態を示す説明図、図6はルーフサイドブラケットの成形時における樹脂流れを示す説明図、図7は同ルーフサイドブラケットの成形後の脱型時の状態を示す説明図、図8乃至図10は本発明の変形例を示すもので、図8はルーフサイドブラケットにおける天板の設置箇所を変更した変形例を示す斜視図、図9は図8のルーフサイドブラケットの2個取り状態を示す説明図、図10は天板を一面全面に設けた変形例を示す斜視図である。
【0018】
図1,図2において、本発明に係る車両用衝撃吸収体の取付対象となる内装トリムとしてはルーフトリム10が適用され、このルーフトリム10は、ルーフパネル20への取付剛性並びに製品形状を保持できる基材11の表面に装飾性並びに感触性を良好に維持するための表皮12を貼着して構成されており、ルーフパネル20に対しては、図示しないクリップ等を介して取り付けられている。
【0019】
そして、本発明に係る車両用衝撃吸収体としてのルーフサイドブラケット30は、図1,図2に示すように、ルーフトリム10の両側内側にルーフトリム10とルーフパネル20との間のスペースに介装されており、通常はルーフトリム10の裏面側にビス止め、クリップ止め等により取り付けられている。
【0020】
図3,図4に示すように、本発明に係る車両用衝撃吸収体の一例であるルーフサイドブラケット30は、ポリプロピレン樹脂の射出成形体から構成されており、周囲リブ31が側壁リブ32と端末壁リブ33とから構成されている。そして、この周囲リブ31の内部に縦リブ34と横リブ35とが交差状に配列され、この実施例では、縦リブ34の先端縁に沿って長手方向に天板36が一体化されている。各リブ31〜35の厚みは1mm程度であり、天板36は厚みが1mm、幅が10mmに設定されている(図4参照)。
【0021】
そして、実際の成形時には、可動側金型41と固定側金型42とから大略構成される射出成形金型40のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して成形されるが、抜き勾配を設定する関係で図5に示すように、各リブ31〜35の厚みはルーフトリム10側に対向する側のリブ厚み(図中符号t1で示す)が1.0mmで、パネル対向側の端縁部のリブ厚み(図中符号t2で示す)が1.2mmに設定され、この抜き勾配により、射出成形金型40から良好に脱型できるように構成されている。そして、実際の成形に際しては、ゲート43から溶融樹脂がキャビティ内に充填されるが、図6に示すように、天板36に相当するキャビティ44内を溶融樹脂が円滑に流れ、この天板36に対応するキャビティ44から横リブ35に対応するキャビティ45内に樹脂が枝分かれして迅速にゆきわたるため、従来多発していたショートショットや過充填によるバリ発生等の成形不良をほとんど皆無とでき、生産性を著しく高めることができる。
【0022】
また、従来、ゲート43を多くのポイントに設定する必要があったが、本発明のように樹脂通路となる天板36を長手方向に沿って設定したため、ゲート43はこの実施例では端末壁リブ33に相当する2箇所に設定するだけで充分であり、成形金型40の型加工も簡素化することができる。更に、図7に示すように、縦リブ34の端縁部に天板36を一体化して、脱型時に動作する押し出しピン46の先端で天板36を押し出すことで、ルーフサイドブラケット30の脱型性を向上させることができる。従って、従来では、押し出しピン46を設定する際には、縦リブ34と横リブ35の交差部に設定箇所が限定されるという不具合があったが、本発明では、押し出しピン46の設定箇所を自由に設定することができ、成形金型40の造形加工自由度を向上させることができる。
【0023】
次いで、図8乃至図10は、本発明の変形例を示すもので、ルーフサイドブラケット30に適用する点は同一であるが、天板36の形状及び設定箇所を変更した変形例である。すなわち、図8においては、天板36Aは、一方側の側壁リブ32の端縁部から縦リブ34に向けて延びており、このように側壁リブ32に天板36Aを設定した場合には、図9に示すように、ルーフサイドブラケット30を同一の成形金型で2個取りタイプとした場合に有効である。また、図10に示すように、側壁リブ32と端末壁リブ33で構成される周囲リブ31の一方側開口を蓋するように全面に亘り天板36Bを一体化することもできる。この天板36Bのように、開口を蓋するように一体化した場合には、重量化を招くという傾向はあるものの、全面に亘り天板36Bを設定することによって更に樹脂流れが良くなるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上説明した実施例は、ルーフトリム10の内面側に設置されるルーフサイドブラケット30に本発明に係る車両用衝撃吸収体の構造を適用したが、車両の側壁パネルの室内面側に装着されるドアトリム、リヤサイドトリム等の内面に設置される側突用パッド等の車両用衝撃吸収体に適用することもできる。更に、周囲リブ31、縦リブ34、横リブ35、天板36を備える構成であれば、リブ31〜35の厚み寸法や形状、並びに天板36の位置、形状を変更する等のバリエーションを適宜選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車両用衝撃吸収体の一実施例であるルーフサイドブラケットの設置箇所を示す説明図である。
【図2】本発明に係る車両用衝撃吸収体の一例であるルーフサイドブラケットを取り付けたルーフトリムの構成を示す断面図である。
【図3】本発明に係る車両用衝撃吸収体の一実施例であるルーフサイドブラケットを示す斜視図である。
【図4】図3中IV−IV線断面図である。
【図5】図3に示すルーフサイドブラケットの成形時の状態を示す説明図である。
【図6】図3に示すルーフサイドブラケットの成形時における樹脂流れを示す説明図である。
【図7】図3に示すルーフサイドブラケットの成形後の脱型時の状態を示す説明図である。
【図8】図3に示すルーフサイドブラケットの変形例を示す斜視図である。
【図9】図8に示すルーフサイドブラケットの2個取り状態を示す説明図である。
【図10】図3に示すルーフサイドブラケットの変形例を示す斜視図である。
【図11】従来のルーフトリムとルーフサイドブラケットの設置箇所を示す断面図である。
【図12】従来のルーフサイドブラケットを示す斜視図である。
【図13】図12中XIII−XIII線断面図である。
【図14】従来のルーフサイドブラケットにおける成形時のゲートの設定状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
10 ルーフトリム
11 基材
12 表皮
20 ルーフパネル
30 ルーフサイドブラケット
31 周囲リブ
32 側壁リブ
33 端末壁リブ
34 縦リブ
35 横リブ
36,36A,36B 天板
40 射出成形金型
41 可動側金型
42 固定側金型
43 ゲート
44,45 キャビティ
46 押し出しピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体パネル(20)と内装トリム(10)の間に介装され、車両に衝撃が加わった際、それ自体変形、あるいは圧壊することで衝撃荷重を吸収できるように、樹脂製の格子状リブから構成されている車両用衝撃吸収体(30)において、
前記車両用衝撃吸収体(30)は、側壁リブ(32)、端末壁リブ(33)からなる周囲リブ(31)の内部に縦リブ(34)、横リブ(35)を格子状に配列して構成されているとともに、長手方向に沿って延びる縦リブ(34)、あるいは側壁リブ(32)の少なくともいずれか一方側の端縁部分に沿って所定幅の天板(36)が設けられていることにより、成形時における樹脂の流動性が高められていることを特徴とする車両用衝撃吸収体。
【請求項2】
前記車両用衝撃吸収体(30)は、成形金型(40)のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填することにより、所要形状に成形され、その後、天板(36)を押し出しピン(46)により型抜き方向に押し出すことで成形金型(40)からの離型性を高めたことを特徴とする請求項1に記載の車両用衝撃吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−145234(P2007−145234A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344213(P2005−344213)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】