説明

車両用設計支援システム

【課題】実車を用いることなく、荷物を車両荷室に対して積み込んだり取り出したりする作業者の負担感が正確に得られるようにする。
【解決手段】仮想荷室構成物が表示されたスクリーン8に、仮想荷物を実荷物Bの動きに対応するように仮想荷室構成物に対して重畳表示し、その重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定して、干渉が有ると判定されたときに、スクリーン8に干渉箇所を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価者が、表示部に表示された仮想空間内の仮想荷室を見ながら、実空間内にて、予め決められた実荷物を把持して該仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行ったときの該評価者の評価に基づいて車両の荷室を設計するための車両用設計支援システムに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の荷室を設計するに際しては、先ず、実際に作製した車両荷室に対して評価者が荷物を積み込んだり取り出したりすることで、評価者がそのときに感じた負担感等に基づいてその荷室を評価する。そして、設計者は、その評価結果に応じて荷室の形状等を変更していき、最終的なものに仕上げる。
【0003】
一方、近年では、人の動作をモデル化して、シミュレーションにより評価する方法も知られている。例えば特許文献1では、乗員の乗降動作をモデル化して、シミュレーションによりドア操作性を評価するようにしている。このような技術を、荷物の積み込み動作に応用することは可能であり、このようにすれば、実車を用いて評価する必要はなくなる。
【特許文献1】特開2004−5118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のシミュレーションでは、荷物を積み込む作業者の負担感を正確に予測することは困難であり、評価精度には限界がある。このため、実車を用いることなく作業者の負担感を正確に得られるようにすることは困難である。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、実車を用いることなく、荷物を車両荷室に対して積み込んだり取り出したりする作業者の負担感が正確に得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、評価者が、表示部に表示された仮想空間内の仮想荷室を見ながら、実空間内にて、予め決められた実荷物を把持して該仮想荷室に対して積み込むか又は取り出すようにして、評価者が実際に負担感を評価できるようにした。
【0007】
具体的には、請求項1の発明では、評価者が、表示部に表示された仮想空間内の仮想荷室を見ながら、実空間内にて、予め決められた実荷物を把持して該仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行ったときの該評価者の評価に基づいて車両の荷室を設計するための車両用設計支援システムを対象とする。
【0008】
そして、上記表示部に上記仮想荷室を含めてその周囲の仮想荷室構成物を表示するための荷室データを記憶する荷室データ記憶手段と、上記表示部に、上記荷室データ記憶手段に記憶された荷室データに基づいて、上記仮想荷室を含む仮想荷室構成物を表示する仮想荷室表示手段と、上記評価者が把持する実荷物の位置及び姿勢を検出する実荷物検出手段と、上記仮想荷室表示手段により上記仮想荷室構成物が表示された表示部に、上記実荷物検出手段により検出された実荷物の位置及び姿勢に基づいて、仮想荷物を該実荷物の動きに対応するように該仮想荷室構成物に対して重畳表示する仮想荷物表示手段と、上記仮想荷物表示手段により重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定する干渉判定手段と、上記干渉判定手段により上記干渉が有ると判定されたときに、上記表示部に上記干渉箇所を表示する干渉表示手段とを備えているものとする。
【0009】
上記の構成により、表示部には仮想荷室構成物と仮想荷物とが重畳表示され、その仮想荷物は、評価者が実荷物を把持して動かすことに応じて動くので、評価者はその表示部を見ながら実荷物を実際の荷室に対して積み込んだり取り出したりしているような感覚になる。そして、仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉が生じると、その干渉部分が表示されるので、評価者は干渉が有ったことが分かり、実荷物を、仮想荷物と仮想荷室構成物とが干渉しないように移動させる。この結果、評価者は実際の荷室に実荷物を積み込んだり取り出したりする動作と同じ動作をすることになり、その負担感を正確に評価することができる。したがって、設計者はその評価結果に基づいて、荷室の設計変更を適切に行うことができ、荷物積み込み等の作業性の良好な荷室を設計することができるようになる。
【0010】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記実荷物検出手段は、上記実荷物の位置及び姿勢に加えて、実荷物及び評価者の位置及び姿勢を検出するよう構成され、上記実荷物検出手段により検出された評価者の位置及び姿勢に基づいて、該評価者の視線方向を推定する視線方向推定手段を更に備え、上記仮想荷室表示手段は、上記表示部に、上記仮想荷室における、上記視線方向推定手段により推定された視線方向の先の部分を表示するよう構成されているものとする。
【0011】
このことにより、仮想荷室において評価者が見ている部分が表示されるので、評価者は実際と同じ感覚で荷物積み込み等の作業を行うことができ、評価精度を向上させることができる。
【0012】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、上記仮想荷室表示手段は、上記表示部に、上記仮想荷室における上記視線方向の先の部分を拡大表示するよう構成されているものとする。
【0013】
こうすることで、評価者は、荷室の形状がよく分かるようになるとともに、仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無を確認し易くなる。
【0014】
請求項4の発明では、請求項2又は3の発明において、上記仮想荷室表示手段は、上記表示部における上記視線方向に対応する側に、上記仮想荷室における上記視線方向の先の部分を表示するよう構成されているものとする。
【0015】
このことにより、表示部における評価者が見る側の部分に、仮想荷室における評価者視線方向の先の部分が表示されるので、評価者が、仮想荷室における評価者視線方向の先の部分を確認し易くなる。
【0016】
請求項5の発明では、請求項1〜4のいずれか1つの発明において、上記実荷物は、実荷物本体に固定された剛体部材上に設置された、上記実荷物検出手段による該実荷物の位置及び姿勢を検出するための複数のマーカを有しているものとする。
【0017】
このことで、複数のマーカの互いの位置関係がずれることはないので、該複数のマーカを撮影することで、その撮影されたマーカの位置関係から、実荷物の位置及び姿勢を容易にかつ正確に検出することができるようになる。
【0018】
請求項6の発明では、請求項5の発明において、上記実荷物検出手段は、上記マーカを撮影する複数のカメラを有し、上記カメラの数及び配置は、上記評価者が上記実荷物を上記仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行っている間の任意のタイミングで、上記複数の撮影カメラのうちの少なくとも1つの撮影カメラが上記複数のマーカのうちの所定数以上のマーカを撮影可能なように設定されているものとする。
【0019】
このようにすることで、評価者が実荷物を仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行っている間中の実荷物の動きを表示部に正確に表示することができ、評価精度をより一層向上させることができる。
【0020】
請求項7の発明では、請求項5の発明において、上記実荷物検出手段は、上記マーカを撮影する複数のカメラを有し、上記複数のカメラは、設置高さ位置において複数のグループに分けられているものとする。
【0021】
このことにより、出来る限り多くのマーカを撮影することができるようになり、実荷物の動きを表示部に正確に表示することができる。
【0022】
請求項8の発明では、請求項1〜7のいずれか1つの発明において、上記干渉表示手段は、上記仮想荷物及び仮想荷室構成物における干渉箇所を他の箇所よりも目立つ形態で表示するよう構成されているものとする。
【0023】
このことで、仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉箇所が評価者に分かり易くなり、評価者は干渉が有ったことが直ぐに分かり、実際の状況により一層近付けることが可能になる。
【0024】
請求項9の発明では、請求項1〜8のいずれか1つの発明において、上記干渉表示手段は、上記表示部において、上記評価者が実空間内で上記干渉箇所を確認するために見る側と同じ側の部分に、該干渉箇所を拡大表示した拡大表示窓を表示するよう構成されているものとする。
【0025】
こうすることで、評価者は干渉が有ったことが確実に分かるようになる。
【0026】
請求項10の発明では、請求項1〜9のいずれか1つの発明において、上記実荷物検出手段は、上記実荷物の位置及び姿勢に加えて、上記評価者の位置及び姿勢を検出するよう構成され、上記仮想荷物表示手段は、上記仮想荷室表示手段により上記仮想荷室構成物が表示された表示部に、上記実荷物検出手段により検出された実荷物及び評価者の位置及び姿勢に基づいて、仮想荷物及び仮想評価者を該実荷物及び評価者の動きにそれぞれ対応するように該仮想荷室構成物に対して重畳表示するよう構成され、上記干渉判定手段は、上記仮想荷物表示手段により上記表示部に重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無、及び、上記重畳表示される仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定するよう構成されているものとする。
【0027】
この発明により、実荷物に加えて評価者も仮想評価者として表示部に表示され、仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無に加えて、仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉の有無も判定され、干渉表示手段によって、それらの干渉箇所が表示される。すなわち、実際の荷物積み込み等の作業では、作業者の手や腕が荷室の壁等の荷室構成物に当たることがあり、このような干渉を考慮することによって、実際の状況に更に近付けることが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明の車両用設計支援システムによると、仮想荷室構成物が表示された表示部に、仮想荷物を実荷物の動きに対応するように仮想荷室構成物に対して重畳表示し、その重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定して、干渉が有ると判定されたときに、表示部に干渉箇所を表示するようにしたことにより、評価者は実際の荷室に実荷物を積み込んだり取り出したりする動作と同じ動作をすることになって、その負担感を正確に評価することができるようになり、その評価結果から、荷物積み込み等の作業性の良好な荷室を設計することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用設計支援システム1の概略構成を示し、この車両用設計支援システム1は、設計者が車両の荷室を設計するために用いられるものである。
【0031】
上記車両用設計支援システム1は、コンピュータからなる操作用端末2と、該操作用端末2のCPU等により構成されたマスター部3と、データベース4と、画像制御部5と、表示部としてのスクリーン8と、該スクリーン8に画像を投影するプロジェクター9と、複数(本実施形態では、7つ)の撮影カメラ10とを備えている。
【0032】
上記データベース4には、設計者により設計された荷室周囲の荷室構成物の形状等のデータである荷室データが3次元CADデータとして記憶されている。この荷室データは、上記スクリーン8に仮想荷室を含めてその周囲の仮想荷室構成物を表示するためのものである。このことで、データベース4は、本発明の荷室データ記憶手段を構成する。
【0033】
上記マスター部3は、スクリーン8に表示するための画像データを作成する処理を行う。すなわち、マスター部3は、上記荷室データに基づいて、仮想荷室を含む仮想荷室構成物の画像データである仮想荷室画像データを作成するとともに、後述の仮想荷物画像データ及び仮想評価者画像データを作成する。
【0034】
上記画像制御部5は、上記マスター部3により作成された画像データをスクリーン8に表示するための制御を行う。この制御により、スクリーン8には、プロジェクター9を介して、上記仮想荷室画像データによる仮想荷室構成物が表示されるとともに、後述の如く該仮想荷室構成物に対して仮想荷物及び仮想評価者が重畳表示されるようになっている。このことで、マスター部3及び画像制御部5は、本発明の仮想荷室表示手段及び仮想荷物表示手段を構成することになる。
【0035】
上記車両用設計支援システム1においては、上記スクリーン8の前側に評価者Rが立って、その評価者Rが、スクリーン8に表示された仮想空間内の仮想荷室を見ながら、実空間内にて、予め決められた実荷物Bを把持して該仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行う。そのときの評価者Rの負担感等の評価を設計者が評価者Rから聞き取って、その評価の悪い箇所等の設計変更を行う。尚、評価者Rとスクリーン8との間には、実荷物Bを置くための台12が設置されており、この台12に評価者Rが実荷物Bを置くことで、実荷物Bに対応する仮想荷物の仮想荷室への積み込みが完了することになる。
【0036】
評価者Rが実荷物Bを仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行っている間中、その評価者R及び実荷物Bが上記撮影カメラ10によって撮影される。この実荷物Bには、例えば図2に示すように、実荷物B(図2の例ではゴルフバッグ)の位置及び姿勢を検出するための複数(本実施形態では、4つ)のマーカ15が設けられている。これら複数のマーカ15は、実荷物本体に固定された剛体部材16上に設置されることが好ましい。こうすれば、評価者Rが実荷物Bをどのように扱っても、複数のマーカ15の互いの位置関係がずれなくなり、実荷物Bの位置及び姿勢を正確に検出することが可能になる。上記マーカ15としては、剛性部材16上に描かれたもの(剛性部材表面とは色が異なる)であってもよく、剛性部材16表面から突出した突起状のもの(剛性部材16表面とは色が異なることが好ましい)であってもよい。尚、剛体部材16は、実荷物B全体の形状が大きく変化しないものであれば、図2の例のように、実荷物Bの一部のみに固定すればよい。
【0037】
上記撮影カメラ10は上記複数のマーカ15を撮影して、この撮影データを上記マスター部3へ送信する。この撮影データを受信したマスター部3は、上記撮影された複数のマーカ15の互いの位置関係から実荷物Bの位置及び姿勢を検出し、この検出された実荷物Bの位置及び姿勢に基づいて仮想荷物画像データを作成する。このことで、撮影カメラ10及びマスター部3は、本発明の実荷物検出手段を構成することになる。
【0038】
上記仮想荷物画像データは画像制御部5に送信され、画像制御部5は、プロジェクター9を介して、スクリーン8にその仮想荷物画像データに基づく仮想荷物(実荷物Bのモデル画像)を表示させる。上記実荷物Bの位置及び姿勢は、該実荷物Bを把持する評価者Rの動きに応じて刻々と変化するが、この変化に対応して、リアルタイムで、実荷物Bの位置及び姿勢が撮影カメラ10及びマスター部3により検出されて、マスター部3により新たな仮想荷物画像データが次々と作成され、画像制御部5により、スクリーン8には、仮想荷物が上記実荷物Bの動きに対応するように表示されることになる。
【0039】
また、図示は省略するが、上記評価者Rにも、該評価者Rの位置及び姿勢を検出するための複数のマーカが設けられている。この評価者Rのマーカは、該評価者Rの頭部、手、足、首、腰、その他関節部分等に設けられている。頭部、手(手首よりも先の部分)及び足(足首よりも先の部分)については、複数のマーカが設けられた装着具をそれぞれ装着する。そして、上記実荷物Bの場合と同様に、上記撮影カメラ10が評価者R(マーカ)を撮影し、マスター部3が、その撮影されたマーカの位置関係から評価者Rの位置及び姿勢を検出し、この検出された評価者Rの位置及び姿勢に基づいて仮想評価者画像データを作成し、画像制御部5が、スクリーン8にその仮想評価者画像データによる仮想評価者(デジタルマネキン)を表示させる。この仮想評価者も、スクリーン8に、上記仮想荷物と同様に、実荷物Bの動きに対応するように表示される。上記マスター部3は、上記頭部のマーカの位置関係から評価者Rの視線方向を推定することも行う。このことで、マスター部3は、本発明の視線方向推定手段をも構成することになる。
【0040】
上記撮影カメラ10の数及び配置は、上記評価者Rが上記実荷物Bを上記仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行っている間の任意のタイミングで、上記複数の撮影カメラ10のうちの少なくとも1つの撮影カメラ10が上記実荷物Bにおける複数のマーカ15のうちの所定数以上(本実施形態では、2つ以上であるが、好ましくは3つ以上)のマーカ15を撮影可能なように設定されている。すなわち、本実施形態では、複数の撮影カメラ10は、評価者Rの略正面でかつスクリーン8の上側の第1位置と、スクリーン8の左右両側の第2及び第3位置と、評価者Rに対してスクリーン8とは反対側における左右両側の第4及び第5位置と、評価者Rの左右両横側(評価者Rよりも僅かに後側寄り)の第6及び第7位置とに設置されている。また、複数の撮影カメラ10は、設置高さ位置において複数のグループに分けられている。つまり、第1位置に設置された撮影カメラ10を含む第1グループと、第2乃至第5位置に設置された撮影カメラ10を含む、第1グループよりも設置高さが低い第2グループと、第6及び第7位置に設置された撮影カメラ10を含む、第2グループよりも設置高さが低い第3グループとに分けられる。このような位置及び設置高さにより、本実施形態では、評価者Rが実荷物Bを仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行っている間の任意のタイミングで、少なくとも1つの撮影カメラ10が2つ以上のマーカ15を撮影可能であり、通常の荷物積み込み等の作業であれば、少なくとも1つの撮影カメラ10が4つ全てのマーカ15を撮影可能である。
【0041】
ここで、マーカ15の撮影に関して不利となる場合は、実荷物Bの剛性部材16が評価者Rの側に向けられている場合である。この場合、第1乃至第3位置の撮影カメラ10は、剛性部材16上のマーカ15を1つも撮影できず、また、第4及び第5位置の撮影カメラ10も、評価者Rが邪魔になって、1つのマーカ15も撮影できないが、第6及び第7位置の撮影カメラ10は、評価者Rが剛性部材16に密着するようなことがない限り(通常の荷物積み込み等の作業では、そのようなことはない)、評価者Rと実荷物Bとの側方の間から2つ以上のマーカ15を撮影することが可能である。また、剛性部材16が台12の側に向けられている場合も台12が邪魔になって第1乃至第3位置の撮影カメラ10がマーカ15を撮影できなくなる可能性があるが、台12を、例えば脚のある机等のような下部に空間がある形状にすることで、台12が撮影の邪魔にならないようにすることは可能である。
【0042】
尚、上記撮影カメラ10の数及び配置は、評価者Rの頭部、手及び足に装着した各装着具の複数のマーカについても、評価者Rが実荷物Bを仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行っている間の任意のタイミングで、少なくとも1つの撮影カメラ10が所定数以上のマーカを撮影可能なように設定されている。
【0043】
上記画像制御部5は、スクリーン8に上記仮想荷室構成物(仮想荷室)を表示させた状態で、その仮想荷室構成物に対して上記仮想荷物及び仮想評価者を重畳表示させる。このとき、マスター部3は、上記仮想荷室画像データ、仮想荷物画像データ及び仮想評価者画像データに基づいて、スクリーン8に重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無、及び、上記重畳表示される仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定するようになっている。このことで、マスター部3は、本発明の干渉判定手段を構成することになる。
【0044】
上記マスター部3は、仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉が有ると判定したときには、スクリーン8に表示される仮想荷物及び仮想荷室構成物における干渉箇所が他の箇所よりも目立つ色(例えば黄色や赤色)になるように仮想荷物画像データ及び仮想荷室画像データを変更し、仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉が有ると判定したときには、スクリーン8に表示される仮想評価者及び仮想荷室構成物における干渉箇所が他の箇所よりも目立つ色(例えば黄色や赤色)になるように仮想評価者画像データ及び仮想荷室画像データを変更する。そして、画像制御部5は、その変更された画像データに基づく仮想荷物、仮想評価者及び仮想荷室構成物をスクリーン8に表示させることで、スクリーン8においては、上記干渉箇所が他の箇所よりも目立つ色に変色される。このことで、マスター部3及び画像制御部5は、本発明の干渉表示手段を構成することになる。
【0045】
上記干渉箇所の表示により、評価者Rは、干渉が生じたことが直ぐに分かり、実荷物Bを、仮想荷物と仮想荷室構成物とが干渉しないように、実際と同じ感覚で移動させることができる。また、評価者R自身も、仮想荷室構成物と干渉が生じないようにすることができる。尚、上記干渉箇所を変色させる代わりに、又は、変色させることに加えて、後述するようにスクリーン8に、上記干渉部分を拡大表示した拡大表示窓を表示する形態にしてもよい。
【0046】
ここで、上記マスター部3で実行される主要な処理動作を図3のフローチャートに基づいて説明する。尚、この処理動作は、操作用端末2にてスタート操作することでスタートし、操作用端末2にて停止操作することで停止する。
【0047】
最初のステップS1では、上記荷室データに基づいて上記仮想荷室画像データを作成し、次のステップS2で、撮影カメラ10により撮影された撮影データに基づいて、実荷物B及び評価者Rの位置及び姿勢を検出する。
【0048】
次のステップS3では、上記検出された実荷物Bの位置及び姿勢に基づいて仮想荷物画像データを作成するとともに、上記検出された評価者Rの位置及び姿勢に基づいて仮想評価者画像データを作成する。
【0049】
次のステップS4では、上記仮想荷室画像データ、仮想荷物画像データ及び仮想評価者画像データに基づいて、スクリーン8に重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無、及び、スクリーン8に重畳表示される仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定し、干渉が有るとき(ステップS5の判定がYESであるとき)には、ステップS5に進む一方、干渉がないとき(ステップS5の判定がNOであるとき)には、ステップS6に進む。
【0050】
上記ステップS5では、仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉が有ると判定したときには、スクリーン8に表示される仮想荷物及び仮想荷室構成物における干渉箇所が他の箇所よりも目立つ色になるように仮想荷物画像データ及び仮想荷室画像データを変更し、仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉が有ると判定したときには、スクリーン8に表示される仮想評価者及び仮想荷室構成物における干渉箇所が他の箇所よりも目立つ色になるように仮想評価者画像データ及び仮想荷室画像データを変更し、その後、ステップS6に進む。
【0051】
上記ステップS6では、仮想荷物画像データ、仮想評価者画像データ及び仮想荷室画像データを画像制御部5へ送信し、しかる後にステップS2に戻ってステップS2〜S6の動作を繰り返す。
【0052】
上記仮想荷物画像データ、仮想評価者画像データ及び仮想荷室画像データを受信した画像制御部5は、プロジェクター9を介して、スクリーン8に仮想荷物、仮想評価者及び仮想荷室構成物(仮想荷室)を重畳表示させる。
【0053】
上記画像制御部5によるスクリーン8の表示例を図4に示す。この例では、スクリーン8の大部分においては、仮想荷物、仮想評価者及び仮想荷室構成物全体(仮想荷室全体)が重畳表示されている。仮想荷物及び仮想荷室構成物は、仮想評価者の見え方と同じように表示され、仮想評価者は評価者Rの動きに連動して動く。また、仮想荷物は実荷物Bの動きに連動して動く。
【0054】
上記スクリーン8の左上側部分には、仮想荷室における、仮想評価者(つまり実空間内の評価者R)が左上側を見たときに見える部分を表示する左上側表示窓8aが設けられ、スクリーン8の右上側部分には、仮想荷室における、仮想評価者が右上側を見たときに見える部分を表示する右上側表示窓8bが表示され、スクリーン8の左下側部分には、仮想荷室における、仮想評価者が左下側を見たときに見える部分を表示する左下側表示窓8cが表示され、スクリーン8の右下側部分には、仮想荷室における、仮想評価者が右下側を見たときに見える部分を表示する右下側表示窓8dが表示される。このように左上側、右上側、左下側及び右下側表示窓8a〜8dは、各々、スクリーン8における、評価者Rの視線方向に対応する側に表示されて、仮想荷室における該視線方向の先の部分を表示することになる。これにより、例えば評価者Rが実空間内で左下側を見たときには、左下側表示窓8cが見易くなり、仮想荷室における左下側部分を確認し易くなる。特に干渉箇所を確認するために例えば左下側を見たときには、左下側表示窓8cにより干渉箇所を確認し易くなる。
【0055】
また、スクリーン8上部の中央部には、仮想荷室における、仮想評価者が真っ直ぐ正面を見たときに見える部分を表示する正面表示窓8eが表示され、スクリーン8上部における該正面表示窓8eの下側には、仮想荷室における、仮想評価者が正面下側を見たときに見える部分を表示する正面下側表示窓8fが表示される。尚、この正面下側表示窓8fをスクリーン8の下端部に配設する方が好ましい。
【0056】
上記全表示窓8a〜8fは、スクリーン8に常に表示されていてもよく、或いは、上記仮想荷室における評価者Rの視線方向(上記マスター部3により推定された視線方向)に対応して、上記全表示窓8a〜8fのうち、その視線方向の先の部分を表示する表示窓のみを表示するようにしてもよい。例えば評価者Rが実空間内で左下側を見たときには、左下側表示窓8cのみを表示する。このとき、その表示窓内に表示された、仮想荷室における評価者Rの視線方向の先の部分を拡大表示する(表示窓内に仮想荷物の一部や仮想評価者の一部(手等)が表示される場合には、仮想荷室の拡大に対応して当該表示窓内の仮想荷物や仮想評価者も拡大表示する)ことが好ましい。或いは、全表示窓8a〜8fを常に表示している場合において、マスター部3により推定された評価者Rの視線方向の先の部分を表示する表示窓の面積を大きくして該部分を拡大表示するようにしてもよい。
【0057】
また、仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉や仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉が有った場合に、スクリーン8において、評価者Rが実空間内でその干渉箇所を確認するために見る側と同じ側の部分に、該干渉箇所を拡大表示した拡大表示窓を表示するようにしてもよい。例えば仮想荷室の左下側部分で干渉が有った場合、評価者Rは、その干渉箇所を確認するために左下側を見ることになるので、スクリーン8の左下側部分に該干渉箇所を拡大表示した拡大表示窓を表示するようにすれば、干渉が有ったことが確実に分かるようになる。この拡大表示窓は、上記表示窓8a〜8fを利用して、これらのうち拡大表示する表示窓の面積を大きくして拡大するようにしてもよい。
【0058】
したがって、上記実施形態では、スクリーン8に、仮想荷物、仮想評価者及び仮想荷室構成物(仮想荷室)を重畳表示し、その重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無、及び、仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定して、干渉が有ると判定したときに、スクリーン8に干渉箇所を表示するようにしたので、評価者Rは実際の荷室に実荷物Bを積み込んだり取り出したりする動作と同じ動作をすることになり、評価者Rの負担感を正確に評価することができる。したがって、設計者はその評価結果に基づいて、荷室の設計変更を適切に行うことができ、荷物積み込み等の作業性の良好な荷室を設計することができるようになる。
【0059】
尚、上記実施形態では、スクリーン8に、仮想荷物、仮想評価者及び仮想荷室構成物を重畳表示するようにしたが、仮想荷物及び仮想荷室構成物を重畳表示するだけであってもよい。この場合には、仮想評価者画像データを作成する必要はなく、仮想荷室画像データ及び仮想荷物画像データに基づいて、スクリーン8に重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定し、干渉が有ると判定されたときに、スクリーン8にその干渉箇所を表示するようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、評価者が、表示部に表示された仮想空間内の仮想荷室を見ながら、実空間内にて、予め決められた実荷物を把持して該仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行ったときの該評価者の評価に基づいて車両の荷室を設計するための車両用設計支援システムに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用設計支援システムの概略構成図である。
【図2】実荷物に設けるマーカの例を示す図である。
【図3】マスター部で実行される主要な処理動作を示すフローチャートである。
【図4】画像制御部によるスクリーンの表示例を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 車両用設計支援システム
3 マスター部(仮想荷室表示手段)(仮想荷物表示手段)
(視線方向推定手段)(実荷物検出手段)
(干渉判定手段)(干渉表示手段)
4 データベース(荷室データ記憶手段)
5 画像制御部(仮想荷室表示手段)(仮想荷物表示手段)(干渉表示手段)
8 スクリーン(表示部)
10 撮影カメラ(実荷物検出手段)
15 マーカ
16 剛体部材
B 実荷物
R 評価者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価者が、表示部に表示された仮想空間内の仮想荷室を見ながら、実空間内にて、予め決められた実荷物を把持して該仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行ったときの該評価者の評価に基づいて車両の荷室を設計するための車両用設計支援システムであって、
上記表示部に上記仮想荷室を含めてその周囲の仮想荷室構成物を表示するための荷室データを記憶する荷室データ記憶手段と、
上記表示部に、上記荷室データ記憶手段に記憶された荷室データに基づいて、上記仮想荷室を含む仮想荷室構成物を表示する仮想荷室表示手段と、
上記評価者が把持する実荷物の位置及び姿勢を検出する実荷物検出手段と、
上記仮想荷室表示手段により上記仮想荷室構成物が表示された表示部に、上記実荷物検出手段により検出された実荷物の位置及び姿勢に基づいて、仮想荷物を該実荷物の動きに対応するように該仮想荷室構成物に対して重畳表示する仮想荷物表示手段と、
上記仮想荷物表示手段により重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定する干渉判定手段と、
上記干渉判定手段により上記干渉が有ると判定されたときに、上記表示部に上記干渉箇所を表示する干渉表示手段とを備えていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項2】
請求項1記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記実荷物検出手段は、上記実荷物の位置及び姿勢に加えて、実荷物及び評価者の位置及び姿勢を検出するよう構成され、
上記実荷物検出手段により検出された評価者の位置及び姿勢に基づいて、該評価者の視線方向を推定する視線方向推定手段を更に備え、
上記仮想荷室表示手段は、上記表示部に、上記仮想荷室における、上記視線方向推定手段により推定された視線方向の先の部分を表示するよう構成されていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項3】
請求項2記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記仮想荷室表示手段は、上記表示部に、上記仮想荷室における上記視線方向の先の部分を拡大表示するよう構成されていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項4】
請求項2又は3記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記仮想荷室表示手段は、上記表示部における上記視線方向に対応する側に、上記仮想荷室における上記視線方向の先の部分を表示するよう構成されていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記実荷物は、実荷物本体に固定された剛体部材上に設置された、上記実荷物検出手段による該実荷物の位置及び姿勢を検出するための複数のマーカを有していることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項6】
請求項5記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記実荷物検出手段は、上記マーカを撮影する複数のカメラを有し、
上記カメラの数及び配置は、上記評価者が上記実荷物を上記仮想荷室に対して積み込むか又は取り出す動作を行っている間の任意のタイミングで、上記複数の撮影カメラのうちの少なくとも1つの撮影カメラが上記複数のマーカのうちの所定数以上のマーカを撮影可能なように設定されていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項7】
請求項5記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記実荷物検出手段は、上記マーカを撮影する複数のカメラを有し、
上記複数のカメラは、設置高さ位置において複数のグループに分けられていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記干渉表示手段は、上記仮想荷物及び仮想荷室構成物における干渉箇所を他の箇所よりも目立つ形態で表示するよう構成されていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記干渉表示手段は、上記表示部において、上記評価者が実空間内で上記干渉箇所を確認するために見る側と同じ側の部分に、該干渉箇所を拡大表示した拡大表示窓を表示するよう構成されていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の車両用設計支援システムにおいて、
上記実荷物検出手段は、上記実荷物の位置及び姿勢に加えて、上記評価者の位置及び姿勢を検出するよう構成され、
上記仮想荷物表示手段は、上記仮想荷室表示手段により上記仮想荷室構成物が表示された表示部に、上記実荷物検出手段により検出された実荷物及び評価者の位置及び姿勢に基づいて、仮想荷物及び仮想評価者を該実荷物及び評価者の動きにそれぞれ対応するように該仮想荷室構成物に対して重畳表示するよう構成され、
上記干渉判定手段は、上記仮想荷物表示手段により上記表示部に重畳表示される仮想荷物と仮想荷室構成物との干渉の有無、及び、上記重畳表示される仮想評価者と仮想荷室構成物との干渉の有無を判定するよう構成されていることを特徴とする車両用設計支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−79366(P2010−79366A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243876(P2008−243876)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】