説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】エンジンと、そのエンジンの吸気を昇圧する過給機とを備えた車両用駆動装置において、ドライバビリティの悪化を抑制することができる車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】過給圧制御手段78は、エンジン回転速度Neの時間変化率が大きいほど過給圧最大値を小さくするように、エンジン回転速度Neの上昇に応じて上昇する過給圧を調圧する最大過給圧制御を実行する。従って、エンジン回転速度Neの変化に伴い過給圧が急変することが抑えられるので、その過給圧の急変に起因したドライバビリティの悪化を抑制することができる。その一方で、エンジン回転速度Neに対する過給圧の変化において過給圧の最大値と最小値との差が大きくても、エンジン回転速度Neの変化が緩やかであれば過給圧の急変は生じ難いので、エンジン回転速度Neの時間変化率が小さいときには過給圧が大きく得られ、大きなエンジントルクTeを得易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機付きエンジンにおいて過給圧を制御する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、そのエンジンの吸気を昇圧する過給機とを備えた車両用駆動装置において、前記過給機の過給圧を調圧する車両用駆動装置の制御装置が、従来から知られている。例えば、特許文献1に開示されているエンジンの過給圧制御装置がそれである。その特許文献1の過給圧制御装置は、高地を走行中など車両まわりの大気圧が低い場合には、大気圧低下分を考慮して、過給圧の目標値である目標過給圧を大気圧低下に伴い小さくする補正をする。これにより、前記過給機の過回転が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−248951号公報
【特許文献2】特開2008−008245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低大気圧の環境下で前記特許文献1のように前記過給機の過回転が防止される制御が実施されると、低地走行時と比較して、エンジン回転速度の高速度域では、その過回転防止の制御により前記過給機の回転速度が抑えられるためにその過給機の過給圧が制限されるが、エンジン回転速度の中程度の速度域では、その過回転防止の制御により前記過給圧はあまり制限されないので、エンジン回転速度が変化する走行中に前記過給圧が急上昇し或いは急低下するエンジン運転領域が存在することになる。そのように前記過給圧がエンジン回転速度に対して制御されると、前記過給圧の急変に起因してドライバビリティが悪化する可能性があった。なお、このような課題は未公知のことである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンと、そのエンジンの吸気を昇圧する過給機とを備えた車両用駆動装置において、ドライバビリティの悪化を抑制することができる車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、そのエンジンの吸気を昇圧する過給機と、その過給機の過給圧を調圧する過給圧調圧装置とを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、(b)エンジン回転速度の時間変化率が大きいほど前記過給圧の最大値を小さくするように、前記エンジン回転速度の変化に応じて上昇する前記過給圧を調圧する最大過給圧制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、エンジン回転速度の変化に伴い前記過給圧が急変することが抑えられるので、その過給圧の急変に起因したドライバビリティの悪化を抑制することができる。その一方で、前記エンジン回転速度に対する前記過給圧の変化において前記過給圧の最大値と最小値との差が大きくても、エンジン回転速度の変化が緩やかであれば前記過給圧の急変は生じ難いので、エンジン回転速度の時間変化率が小さいときには前記過給圧が大きく得られ、大きなエンジントルクを得易くなる。すなわち、ドライバビリティの向上につながる。
【0008】
また、第2発明の要旨とするところは、前記第1発明の車両用駆動装置の制御装置であって、大気圧が予め定められた大気圧判定値未満である場合に前記最大過給圧制御を実行することを特徴とする。ここで、前記エンジン回転速度に対する前記過給圧の変化において前記過給圧の最大値と最小値との差は、大気圧が低いほど大きくなる傾向にある。従って、前記第2発明のようにすれば、エンジン回転速度の変化に伴い前記過給圧が急変し易い環境において、その過給圧の急変を抑えるために前記最大過給圧制御を実行することができる。
【0009】
また、第3発明の要旨とするところは、前記第1発明または前記第2発明の車両用駆動装置の制御装置であって、(a)前記過給機の過給圧が運転者による加速操作に基づいて決定される目標過給圧に近付くように、前記過給圧調圧装置によってその過給圧を調圧しており、(b)前記最大過給圧制御は、前記エンジン回転速度の時間変化率が大きいほど、前記目標過給圧の上限値を小さくすることで、前記過給圧の最大値を小さくすることを特徴とする。このようにすれば、前記目標過給圧の設定によって容易に前記最大過給圧制御を行うことができる。
【0010】
また、第4発明の要旨とするところは、前記第1発明から前記第3発明の何れか一の車両用駆動装置の制御装置であって、前記最大過給圧制御は、前記エンジン回転速度の時間変化率が小さいほど、前記過給機の吸気コンプレッサの上流側に対する下流側気圧の比率である圧力比の最大値を大きくするように、前記過給圧を調圧することを特徴とする。このようにすれば、エンジン回転速度の変化に伴う前記過給圧の急変を抑えつつ、前記過給圧の急変が生じ難いエンジン回転速度変化の走行状態では、大きなエンジントルクを得易くなる。
【0011】
ここで、好適には、前記制御装置は、車両の加速走行中に前記最大過給圧制御を実行する。
【0012】
また、好適には、前記最大過給圧制御は、前記エンジン回転速度の時間変化率が大きいほど、前記過給圧が最大値になるエンジン回転速度よりも高回転速度側での前記過給圧の最小値と前記過給圧の最大値との差が小さくなるように、前記過給圧を調圧する。
【0013】
また、好適には、前記制御装置は、前記エンジンが前記過給機により過給される過給状態になる場合に、前記最大過給圧制御を実行する。ここで、前記エンジンが前記過給状態になる場合とは、具体的に言えば、前記エンジンが過給されない自然吸気状態から前記過給状態に切り替わる場合、または、前記エンジンが既に前記過給状態でありその過給状態が継続する場合である。
【0014】
また、好適には、前記制御装置は、前記過給機の回転速度が予め設定された許容回転速度以下に抑えられるように、前記過給機の過給圧を調圧する。例えば、その許容回転速度はエンジン回転速度が低いほど低く設定される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用される車両の概略構成を表した図である。
【図2】図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための実施例1の機能ブロック線図である。
【図3】図1の車両において、エンジン回転速度の変化に伴う過給機の過給圧の変動とドライバビリティとの関係を説明するための実施例1の図であって、エンジンのアイドリング回転速度付近からエンジン回転速度が上昇するタイムチャートである。
【図4】図2の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、最大過給圧制御を実行する制御作動を説明するための実施例1のフローチャートである。
【図5】図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための実施例2の機能ブロック線図である。
【図6】図5の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、最大過給圧制御を実行する制御作動を説明するための実施例2のフローチャートである。
【図7】図1の車両において、最大過給圧制御が実行されることによる過給機の圧力比の変化を説明するための実施例2の図であって、エンジンのアイドリング回転速度付近からエンジン回転速度が上昇するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明が適用される車両8の概略構成を表した図である。図1に示すように、車両8は、例えばFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両である。車両8は、車両用駆動装置10、その車両用駆動装置10を制御するための電子制御装置50、および駆動輪22等を備えている。その車両用駆動装置10は、一般的に知られた自動車用ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンであるエンジン12と、流体により動力を伝達するトルクコンバータ14と、自動変速機16と、左右の駆動輪22の回転速度差を吸収する差動歯車装置(終減速機)18と、過給機20とを備えている。例えば、車両8では、エンジン12の動力は、エンジン12のクランク軸すなわちエンジン出力軸から、トルクコンバータ14、自動変速機16、差動歯車装置18、および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪22へ伝達される。
【0018】
自動変速機16は、エンジン12と駆動輪22との間の動力伝達経路の一部を構成しており、エンジン12の動力を駆動輪22に伝達する。そして、自動変速機16は、予め定められた複数の変速段(ギヤ段ともいう)の何れかが択一的に成立させられる有段の自動変速機であり、斯かる変速を行うために、複数の遊星歯車装置と、油圧制御回路24からの油圧で作動する複数のクラッチまたはブレーキすなわち複数の油圧式摩擦係合装置とを備えて構成されている。自動変速機16が備える変速段数は幾つであっても差し支えないが、本実施例では自動変速機16は前進6段変速の自動変速機である。自動変速機16の変速比γatは、自動変速機16の入力回転速度と自動変速機16の出力回転速度とに基づき、「γat=自動変速機16の入力回転速度/自動変速機16の出力回転速度」という式で算出される。従って、自動変速機16の変速段が低車速側であるほど、自動変速機16の変速比γatは大きくなる。
【0019】
また、公知の自動変速制御と同様に、車速Vとアクセルペダル54の操作量Accであるアクセル開度Accとを示す車両状態に基づいて自動変速機16の変速段を決定するための変速線図、言い換えれば、変速マップが予め定められている。電子制御装置50は、前記車両状態(車速V、アクセル開度Acc)に基づき、その予め定められた変速線図(変速マップ)から変速後の変速段を決定し、その変速線図に従って自動変速機16の変速を実行する。
【0020】
過給機20は、エンジン12の吸気系に設けられており、エンジン12の排気によって回転駆動されてエンジン12の吸気を昇圧する公知の排気タービン過給機、すなわちターボチャージャーである。具体的には図1に示すように、過給機20は、エンジン12の排気管30内に設けられエンジン12の排気によって回転駆動される排気タービンホイール32と、エンジン12の吸気管34内に設けられ排気タービンホイール32により回転させられることでエンジン12の吸気を圧縮する吸気コンプレッサーホイール36と、排気タービンホイール32と吸気コンプレッサーホイール36とを連結する回転軸38とを備えている。エンジン12は、過給機20を駆動するのに十分なエンジン12の排気が排気タービンホイール32に導かれると、過給機20により過給される過給状態で動作する。一方で、排気タービンホイール32に導かれるエンジン12の排気が過給機20の駆動に不十分であると過給機20が殆ど駆動されず、エンジン12は、前記過給状態ではない吸気の状態すなわち過給機20の無い自然吸気エンジンと同等の吸気の状態である自然吸気状態(NA状態とも言う)で動作する。なお、吸気コンプレッサーホイール36は本発明の吸気コンプレッサに対応する。
【0021】
また、排気管30内の排気タービンホイール32が設けられている排気経路と並列に排気バイパス経路40と、その排気バイパス経路40を開閉するウェイストゲートバルブ42とが設けられている。ウェイストゲートバルブ42は、そのウェイストゲートバルブ42の開度θwg(以下、ウェイストゲートバルブ開度θwgという)が連続的に調節可能になっており、電子制御装置50は、電動アクチュエータ44を制御することにより、吸気管34内の圧力を利用してウェイストゲートバルブ42を連続的に開閉する。例えば、ウェイストゲートバルブ開度θwgが大きいほどエンジン12の排気は排気バイパス経路40を通って排出され易くなるので、エンジン12の前記過給状態において、吸気管34内での吸気コンプレッサーホイール36の下流側気圧PLin、要するに過給機20の過給圧Pcmout(=PLin)は、ウェイストゲートバルブ開度θwgが大きいほど低くなる。従って、ウェイストゲートバルブ42は、過給機20の過給圧Pcmoutを調圧する過給圧調圧装置として機能する。
【0022】
電子制御装置50は、車両用駆動装置10を制御する制御装置であり、例えばエンジン12の駆動制御などを行うエンジン制御装置として機能するものであって、所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。電子制御装置50には、車両8に設けられた各センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、車速センサ52により検出される車速Vを表す信号、運転者により要求される加速要求量に相当するアクセル開度Accを表すアクセル開度センサ56からの信号、スロットル開度センサ58により検出されるエンジン12のスロットル開度θthを表す信号、エンジン回転速度センサ60により検出されるエンジン回転速度Neを表す信号、第1吸気センサ62により検出される吸気管34内での吸気コンプレッサーホイール36の上流側気圧PHin(以下、コンプレッサー上流側吸気圧PHinという)を表す信号、第2吸気センサ64により検出される吸気管34内での吸気コンプレッサーホイール36の下流側気圧PLin(以下、コンプレッサー下流側吸気圧PLinという)を表す信号、および、加速度センサ66により検出される車両進行方向の加速度ACLを表す信号などがそれぞれ、電子制御装置50に供給される。
【0023】
また、電子制御装置50から、車両8に設けられた各装置に各種出力信号が供給されるようになっている。例えば、電子制御装置50は、電動アクチュエータによりスロットル開度θthをアクセル開度Accに応じて調節するスロットル制御を行っており、そのスロットル制御では、アクセル開度Accが増加するほどスロットル開度θthを増加させる。
【0024】
図2は、電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。図2に示すように、電子制御装置50は、大気圧判断部である大気圧判断手段70と、過給判断部である過給判断手段72と、ドライバビリティ判断部であるドライバビリティ判断手段74と、走行抵抗判断部である走行抵抗判断手段76と、過給圧制御部である過給圧制御手段78とを備えている。
【0025】
大気圧判断手段70は、車両8まわりの大気圧Patが予め定められた大気圧判定値P1at未満であるか否かを判断する。その車両8まわりの大気圧Patはそれを検出する気圧センサによって検出されてもよいが、大気圧判断手段70は、前記コンプレッサー上流側吸気圧PHinをその大気圧Patとして検出する(Pat=PHin)。すなわち、本実施例では、大気圧Patはコンプレッサー上流側吸気圧PHinである。
【0026】
前記大気圧判定値P1atは、1気圧よりも低い値であって、大気圧Patが駆動力に影響するほど低いか否かを判断するための判定値である。例えば、コンプレッサー上流側吸気圧PHinに対するコンプレッサー下流側吸気圧PLinの比率である圧力比RPtb(=PLin/PHin)は、過給圧Pcmoutの脈動等を生じる所謂サージングが生じないように、ウェイストゲートバルブ開度θwgの制御によって制限される。そのため、大気圧判定値P1atは、大気圧Patがその大気圧判定値P1at未満であれば、その圧力比RPtbの制限により駆動力低下を運転者に感じさせるおそれがあると判断できるように予め実験的に設定されている。
【0027】
過給判断手段72は、エンジン12が前記過給状態になるか否かを判断する。エンジン12が前記過給状態になる場合とは、例えば、エンジン12が前記自然吸気状態から前記過給状態に切り替わる場合、または、エンジン12が既に前記過給状態でありその過給状態が継続する場合である。具体的に、過給判断手段72はエンジン回転速度Neおよびアクセル開度Accを逐次検出しており、そのエンジン回転速度Neおよびアクセル開度Accに基づいて、エンジン12が前記過給状態になるか否かを判断する。例えば、運転者の意思に即した駆動力が発揮されるように予め定められた関係から、エンジントルクTeの目標値である目標エンジントルクTetすなわち運転者が要求するエンジントルクTeであるドライバー要求トルクTetを、エンジン回転速度Neおよびアクセル開度Accに基づいて算出して決定する。そして、そのドライバー要求トルクTetが、エンジン12が前記過給状態になる動作領域すなわち過給領域に入るか否かを判断し、そのドライバー要求トルクTetが前記過給領域に入る場合には、エンジン12が前記過給状態になると判断する。なお、前記過給領域は、エンジン12を作動させる実験などにより予め求められ設定されている。また、過給判断手段72は、前記ドライバー要求トルクTetが前記過給領域に入るか否かの判断に替えて、アクセル開度Accがエンジン12が前記過給状態で動作することを判断できるように予め実験的に設定されたアクセル開度過給判定値Acc1以上か否かを判断し、アクセル開度Accがそのアクセル開度過給判定値Acc1以上である場合に、エンジン12が前記過給状態になると判断してもよい。
【0028】
ドライバビリティ判断手段74は、エンジン回転速度Neの変化に伴う過給機20の過給圧Pcmoutの変動に起因してドライバビリティが悪化する可能性があるか否かを判断する。そのエンジン回転速度Neの変化に伴う過給機20の過給圧Pcmoutの変動とドライバビリティとの関係を説明するための図が図3として示されている。図3は、エンジン12のアイドリング回転速度付近からエンジン回転速度Neが上昇するタイムチャートである。すなわち、車両発進時の加速中におけるタイムチャートである。図3の例では、アクセルペダル54が十分に大きく踏み込まれているものとする。その図3内の実線L01は、大気圧Patが1気圧よりも大幅に低い高地走行時におけるエンジン回転速度Neと過給機20の過給圧Pcmoutとの関係を示しており、二点鎖線L02は、大気圧Patが1気圧である低地走行時におけるエンジン回転速度Neと過給機20の過給圧Pcmoutとの関係を示している。
【0029】
図3に示すように、エンジン回転速度Neの低回転速度域では、エンジン12は前記NA状態であり、そのNA状態での過給圧Pcmoutは、大気圧Patが低いので、矢印ARNELのように、前記高地走行時を示す実線L01の方が前記低地走行時を示す二点鎖線L02よりも低くなる。すなわち、前記高地走行時の方が前記低地走行時よりも、前記NA状態でのエンジントルクTeは低くなり、且つ、加速時の過給圧Pcmoutの上昇遅れが顕著になる。また、エンジン回転速度Neの高回転速度域では、過給機20の回転速度が過回転の防止等を目的に予め設定された許容回転速度N1tb以下になるように過給圧Pcmoutが制限されるので、過給圧Pcmoutは、矢印ARNEHのように、前記高地走行時を示す実線L01の方が前記低地走行時を示す二点鎖線L02よりも低くなる。その一方で、エンジン回転速度Neの前記低回転速度域と前記高回転速度域との間の回転速度域すなわち中回転速度域では、前記低地走行時と比較して過給圧Pcmoutが前記高地走行時に過給機20の過回転防止のために大きく制限されることがないので、過給圧Pcmoutは、矢印ARNEMのように、前記高地走行時を示す実線L01が前記低地走行時を示す二点鎖線L02と同等の大きさになる。すなわち、前記中回転速度域では、過給圧Pcmoutは前記高地走行時でも前記低地走行時と同等程度にまで上昇し、過給機20の過給によりエンジントルクTeが前記高地走行時でも前記低地走行時と同等程度にまで上昇する。従って、後述する最大過給圧制御が実行されないとすると、エンジン回転速度Neの上昇に伴って過給圧Pcmoutがその過給圧Pcmoutの最大値に向けて上昇する過程(矢印AR01参照)では、エンジン回転速度Neに対する過給圧Pcmoutの上昇勾配が、大気圧Patが低いほど大きくなる。更に、エンジン回転速度Neの上昇に伴って過給圧Pcmoutがその過給圧Pcmoutの最大値から低下する過程(矢印AR02参照)では、エンジン回転速度Neに対する過給圧Pcmoutの低下勾配が、大気圧Patが低いほど大きくなる。すなわち、エンジン回転速度Neに対する過給圧Pcmoutの変動は、大気圧Patが低いほど急激になる。そして、大気圧Patが低いほど、その過給圧Pcmoutの変動に起因してドライバビリティが悪化し易くなる。
【0030】
そこで、ドライバビリティ判断手段74は、上述のように、エンジン回転速度Neの変化に伴う過給機20の過給圧Pcmoutの変動に起因してドライバビリティが悪化する可能性があるか否かを判断するのであるが、具体的には、そのドライバビリティが悪化する可能性があるか否かの判断を、大気圧Patに基づいて行う。例えば、ドライバビリティ判断手段74は、大気圧Patが、上記ドライバビリティが悪化する可能性があるか否かを判断するために予め実験的に設定されたドライバビリティ悪化判定値P2at未満であるか否かを判断する。そして、大気圧Patがそのドライバビリティ悪化判定値P2at未満である場合には、エンジン回転速度Neの変化に伴う過給機20の過給圧Pcmoutの変動に起因してドライバビリティが悪化する可能性があると判断する。なお、前記ドライバビリティ悪化判定値P2atは、前記大気圧判定値P1atよりも低い値に設定されているが、その大気圧判定値P1atと同一の値に設定されていても差し支えない。
【0031】
走行抵抗判断手段76は、現在の走行抵抗が予め定められた走行抵抗判定値未満であるか否かを判断する。その走行抵抗(単位は例えばN)は、言い換えれば車両8の走行負荷であり、例えば登坂走行時や牽引時には大きくなるものであって、エンジントルクTe、自動変速機16のギヤ段、および、車両8の加速度ACL等に基づいて求めることができる。本実施例では、前記走行抵抗が小さいほど車両8は加速し易くなるので、簡潔に走行抵抗を得るために、加速度センサ66により検出される車両8の加速度ACLが前記走行抵抗を表すパラメータとして採用されている。従って、加速度ACLに対する車両加速度判定値ACL1が前記走行抵抗判定値に対応して予め定められており、走行抵抗判断手段76は、加速度ACLがその車両加速度判定値ACL1よりも大きいか否かを判断する。そして、その加速度ACLが車両加速度判定値ACL1よりも大きい場合に、前記走行抵抗が前記走行抵抗判定値未満であると判断する。例えば、図3の実線L01はエンジン回転速度Neの前記中回転速度域において過給圧Pcmoutの前記低下勾配および前記上昇勾配は急になっているが、エンジン回転速度Neの変化が緩やかであれば過給圧Pcmoutの時間変化率が小さくなりドライバビリティの悪化にはつながらず、前記走行抵抗が大きければエンジン回転速度Neが急には上昇し難くなる。この点を加味して、前記車両加速度判定値ACL1および前記走行抵抗判定値は、車両8の走行状態が、過給圧Pcmoutの前記低下勾配および前記上昇勾配が実線L01(図3参照)のように急であるときに前記ドライバビリティの悪化を生じる可能性がある走行状態であるか、否かを判断できるように予め実験的に設定されている。
【0032】
過給圧制御手段78は、エンジン12が過給機20により過給される場合には、過給機20の過給圧Pcmoutが所定の目標過給圧Ptcmoutに近付くように、言い換えれば目標過給圧Ptcmoutに一致するように、ウェイストゲートバルブ42を作動させることによって過給圧Pcmoutを逐次調圧する。その目標過給圧Ptcmoutは、運転者による加速操作(例えばアクセル開度Accなど)に基づいて逐次決定される過給圧Pcmoutの目標値である。例えば、目標エンジントルクTetがアクセル開度Accとエンジン回転速度Neとに基づいて予め定められた関係から決定され、目標過給圧Ptcmoutは、その決定された目標エンジントルクTetをエンジン12が発揮できるように決定される。すなわち、目標過給圧Ptcmoutは、アクセル開度Accとエンジン回転速度Neとに基づいて決定される。但し、目標過給圧Ptcmoutは、過給機20の回転速度が過回転の防止等を目的に予め設定された許容回転速度N1tb以下になるように決定される。過給機20の前記許容回転速度N1tbは、例えば、過給機20の過回転によるサージングの発生を回避し、排気温度上昇の制約などから、実験的に求められるものである。そして、その許容回転速度N1tbは、エンジン回転速度Neが低いほど低くなる。言い換えれば、過給機20の過給圧Pcmoutは、大気圧Patが所定値を下回る低大気圧の環境下では、過給機20の過回転を防止し排気温度が所定の許容温度以上に上昇することを防止することを目的として、制限され、例えば図3の前記高回転速度域での実線L01に示されているように、エンジン回転速度Neが高いほど低圧になるように制限される。
【0033】
過給圧制御手段78は、上記のように、運転者による加速操作に基づいて過給圧Pcmoutを逐次調圧するが、大気圧判断手段70により大気圧Patが大気圧判定値P1at未満であると判断され、過給判断手段72によりエンジン12が前記過給状態になると判断され、ドライバビリティ判断手段74により前記ドライバビリティが悪化する可能性があると判断され、且つ、走行抵抗判断手段76により前記走行抵抗が前記走行抵抗判定値未満であると判断された場合には、過給圧Pcmoutの調圧において最大過給圧制御を実行する。その最大過給圧制御とは、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが大きいほど過給圧Pcmoutの最大値Pcmout_max(以下、過給圧最大値Pcmout_maxという)を小さくするように、エンジン回転速度Neの上昇に応じて上昇する過給圧Pcmoutをウェイストゲートバルブ42により調圧する過給圧制御である。すなわち、過給圧Pcmoutは目標過給圧Ptcmoutに近付くように調圧されるので、過給圧制御手段78は、前記最大過給圧制御において目標過給圧Ptcmoutの上限値を設定し、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが大きいほど、その目標過給圧Ptcmoutの上限値を小さくすることで、過給圧最大値Pcmout_maxを小さくする。このとき、アクセル開度Accとエンジン回転速度Neとに基づいて決定される目標過給圧Ptcmoutは、上記目標過給圧Ptcmoutの上限値以下に制限されて決定される。
【0034】
また、図3に示すように過給圧Pcmoutが過給圧最大値Pcmout_maxになるエンジン回転速度Neよりも更にエンジン回転速度Neが高くなると過給圧Pcmoutは低下する。従って、言い換えれば、過給圧制御手段78は、前記最大過給圧制御において、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが大きいほど、過給圧Pcmoutが過給圧最大値Pcmout_maxになるエンジン回転速度Neよりも高回転速度側での過給圧Pcmoutの最小値と過給圧最大値Pcmout_maxとの差が小さくなるように、過給圧Pcmoutを調圧する、とも言える。なお、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeは、エンジン回転速度Neの変化方向を問わず正の値である。
【0035】
過給圧制御手段78は前述したように最大過給圧制御を行うが、例えば、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが大きいほど目標過給圧Ptcmoutの上限値が小さくなる関係が、ドライバビリティを悪化させないように且つ可及的に大きい過給圧Pcmoutが得られるように、予め実験的に設定されており、過給圧制御手段78は、その予め実験的に設定された関係から、上記時間変化率ΔNeに基づいて目標過給圧Ptcmoutの上限値を決定する。そして、その目標過給圧Ptcmoutの上限値で目標過給圧Ptcmoutを制限して決定することで、前記最大過給圧制御を行う。図3を用いて説明すれば、例えば、過給機20の過給圧Pcmoutは、前記最大過給圧制御が実行されなければ、エンジン回転速度Neの上昇に応じて実線L01のように変化するところ、前記最大過給圧制御の実行によりそれが実行されない場合に比して過給圧最大値Pcmout_maxが小さくされると、エンジン回転速度Neの上昇に応じて破線L03のように変化する。
【0036】
また、車両8の加速走行中には自動変速機16の変速が無ければ車両8の加速度ACLはエンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeに対応するので、例えば、車両8が加速走行中である場合には、前記最大過給圧制御は、加速度ACLが前記車両加速度判定値ACL1よりも大きい場合に、そうでない場合と比較して過給圧最大値Pcmout_maxを小さくするように、過給圧Pcmoutを調圧するものであっても差し支えない。
【0037】
図4は、電子制御装置50の制御作動の要部、すなわち、前記最大過給圧制御を実行する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図4に示す制御作動は、単独で或いは他の制御作動と並列的に実行される。この図4のフローチャートは、例えば、車両8の減速走行中に開始されてもよいが、車両8の加速走行中に開始されるのが好ましい。
【0038】
先ず、図4のステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、車両8まわりの大気圧Patが前記大気圧判定値P1at未満であるか否かが判断される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、大気圧Patが大気圧判定値P1at未満である場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。なお、SA1は大気圧判断手段70に対応する。
【0039】
過給判断手段72に対応するSA2においては、エンジン12が前記過給状態になるか否かが判断される。具体的には、前記ドライバー要求トルクTetが前記過給領域に入る場合には、エンジン12が前記過給状態になると判断される。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、エンジン12が前記過給状態になる場合には、SA3に移る。一方、このSA2の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0040】
ドライバビリティ判断手段74に対応するSA3においては、エンジン回転速度Neの変化に伴う過給機20の過給圧Pcmoutの変動に起因してドライバビリティが悪化する可能性があるか否かが判断される。例えば、そのドライバビリティが悪化する可能性があるか否かは、大気圧Patに基づいて判断される。このSA3の判断が肯定された場合、すなわち、前記ドライバビリティが悪化する可能性がある場合には、SA4に移る。一方、このSA3の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0041】
走行抵抗判断手段76に対応するSA4においては、現在の走行抵抗が前記走行抵抗判定値未満であるか否かが判断される。例えば、その判断は車両8の加速度ACLに基づいてなされる。このSA4の判断が肯定された場合、すなわち、現在の走行抵抗が走行抵抗判定値未満である場合には、SA5に移る。一方、このSA4の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0042】
過給圧制御手段78に対応するSA5においては、前記最大過給圧制御が実行される。その最大過給圧制御とは、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが大きいほど過給圧最大値Pcmout_maxを小さくするように、エンジン回転速度Neの上昇に応じて上昇する過給圧Pcmoutを調圧する過給圧制御である。例えば、過給圧Pcmoutは目標過給圧Ptcmoutに近付くように調圧されるので、前記最大過給圧制御で過給圧最大値Pcmout_maxを小さくするためには、目標過給圧Ptcmoutを抑制する処理がなされる。
【0043】
本実施例では次のような効果(A1)乃至(A3)がある。(A1)本実施例によれば、過給圧制御手段78は、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが大きいほど過給圧最大値Pcmout_maxを小さくするように、エンジン回転速度Neの変化に応じて上昇する過給圧Pcmoutを調圧する前記最大過給圧制御を実行する。従って、エンジン回転速度Neの変化に伴い過給圧Pcmoutが急変することが抑えられるので、その過給圧Pcmoutの急変に起因したドライバビリティの悪化を抑制することができる。その一方で、エンジン回転速度Neに対する過給圧Pcmoutの変化において過給圧Pcmoutの最大値Pcmout_maxと最小値との差が大きくても、エンジン回転速度Neの変化が緩やかであれば過給圧Pcmoutの急変は生じ難いので、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが小さいときには過給圧Pcmoutが大きく得られ、大きなエンジントルクTeを得易くなる。すなわち、ドライバビリティの向上につながる。
【0044】
(A2)また、本実施例によれば、過給圧制御手段78は、大気圧Patが予め定められた前記大気圧判定値P1at未満である場合に前記最大過給圧制御を実行する。ここで、図3の実線L01と二点鎖線L02との比較から判るように、エンジン回転速度Neに対する過給圧Pcmoutの変化において過給圧Pcmoutの最大値Pcmout_maxと最小値との差は、大気圧Patが低いほど大きくなる傾向にある。従って、エンジン回転速度Neの変化に伴い過給圧Pcmoutが急変し易い環境において、その過給圧Pcmoutの急変を抑えるために前記最大過給圧制御を実行することができる。
【0045】
(A3)また、本実施例によれば、過給圧制御手段78は、前記最大過給圧制御において目標過給圧Ptcmoutの上限値を設定し、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが大きいほど、その目標過給圧Ptcmoutの上限値を小さくすることで、過給圧最大値Pcmout_maxを小さくする。従って、目標過給圧Ptcmoutの上限値の制限の下で目標過給圧Ptcmoutを設定することによって、容易に前記最大過給圧制御を行うことができる。
【0046】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0047】
図1に示す本実施例(実施例2)の車両208は、電子制御装置50に換えて電子制御装置250を有している点が前述の実施例1の車両8に対して異なるが、それ以外では実施例1の車両8と同じである。
【0048】
図5は、本実施例の電子制御装置250に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。図5に示すように、電子制御装置250は、前述の実施例1の電子制御装置50と同様に、大気圧判断手段70と過給判断手段72とを備えている。そして、電子制御装置250は、前述の実施例1とは異なり、圧力比上昇余地判断部である圧力比上昇余地判断手段274と、走行抵抗判断部である走行抵抗判断手段276と、過給圧制御部である過給圧制御手段278とを備えている。
【0049】
圧力比上昇余地判断手段274は、過給圧制御手段278による前記最大過給圧制御によって過給機20の圧力比RPtb(=PLin/PHin=Pcmout/Pat)を上昇させる余地があるか否かを判断する。例えば、圧力比RPtbの上限値RP1tb(以下、圧力比上限値RP1tbという)とエンジン回転速度Neとの関係が、過給機20の過回転に起因したサージング発生を回避したり排気温度上昇を抑える目的で、大気圧Patに応じて予め実験的に設定されている。そして、圧力比上昇余地判断手段274は、大気圧Patおよびエンジン回転速度Neに基づいて、前記圧力比上限値RP1tbとエンジン回転速度Neとの予め設定された関係から圧力比上限値RP1tbを決定し、過給機20の圧力比RPtbがその圧力比上限値RP1tbよりも低ければ、過給機20の圧力比RPtbを上昇させる余地があると判断する。例えば、前記最大過給圧制御の実行による圧力比RPtbの上昇余地は、大気圧Patが低いほど大きくなり、エンジン回転速度Neが高いほど小さくなる。
【0050】
走行抵抗判断手段276は、前述の実施例1における走行抵抗判断手段76と同様に車両208の走行抵抗についての判断を行うが、その走行抵抗判断手段76とは判断の肯定および否定が逆である。すなわち、走行抵抗判断手段276は、現在の走行抵抗が予め定められた前記走行抵抗判定値以上であるか否かを判断する。具体的には、走行抵抗判断手段276は、車両208の加速度ACLが前記車両加速度判定値ACL1以下であるか否かを判断し、その加速度ACLが車両加速度判定値ACL1以下である場合に、前記走行抵抗が前記走行抵抗判定値以上であると判断する。
【0051】
過給圧制御手段278は、前述の実施例1における過給圧制御手段78と同様に、エンジン12が過給機20により過給される場合には、過給機20の過給圧Pcmoutが所定の目標過給圧Ptcmoutに近付くように、ウェイストゲートバルブ42を作動させることによって過給圧Pcmoutを逐次調圧する。
【0052】
一方で、過給圧制御手段278は、過給圧制御手段78と異なり、大気圧判断手段70により大気圧Patが大気圧判定値P1at未満であると判断され、過給判断手段72によりエンジン12が前記過給状態になると判断され、圧力比上昇余地判断手段274により過給機20の圧力比RPtbを上昇させる余地があると判断され、且つ、走行抵抗判断手段276により前記走行抵抗が前記走行抵抗判定値以上であると判断された場合には、前記最大過給圧制御を実行する。過給圧制御手段278が実行する前記最大過給圧制御について説明すれば、その最大過給圧制御とは、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが小さいほど過給圧最大値Pcmout_maxを大きくするように、エンジン回転速度Neの上昇に応じて上昇する過給圧Pcmoutを調圧する過給圧制御である。すなわち、過給圧制御手段278は、前記最大過給圧制御において、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが小さいほど、過給機20の圧力比RPtbの最大値を大きくするように、目標過給圧Ptcmoutを設定して過給機20の過給圧Pcmoutを調圧する。このとき、過給圧制御手段278は、圧力比RPtbが圧力比上昇余地判断手段274により決定された圧力比上限値RP1tbを超えない範囲内で、目標過給圧Ptcmoutを設定する。
【0053】
図6は、電子制御装置250の制御作動の要部、すなわち、前記最大過給圧制御を実行する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図6に示す制御作動は、単独で或いは他の制御作動と並列的に実行される。この図6のフローチャートは、例えば、車両208の減速走行中に開始されてもよいが、車両208の加速走行中に開始されるのが好ましい。
【0054】
図6のSB1とSB2とはそれぞれ図4のSA1とSA2と同じであるので、それらの説明を省略する。図6のフローチャートでは、SB2の判断が肯定された場合にSB3に移り、そのSB3においては、過給機20の圧力比RPtbを上昇させる余地があるか否か、すなわち、その圧力比RPtbを上昇させることが可能であるか否かが判断される。このSB3の判断が肯定された場合、すなわち、過給機20の圧力比RPtbを上昇させる余地がある場合には、SB4に移る。一方、このSB3の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。なお、SB3は圧力比上昇余地判断手段274に対応する。
【0055】
走行抵抗判断手段276に対応するSB4においては、現在の走行抵抗が前記走行抵抗判定値以上であるか否かが判断される。例えば、その判断は車両208の加速度ACLに基づいてなされる。このSB4の判断が肯定された場合、すなわち、現在の走行抵抗が走行抵抗判定値以上である場合には、SB5に移る。一方、このSB4の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0056】
過給圧制御手段278に対応するSB5においては、前記最大過給圧制御が実行される。その最大過給圧制御とは、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが小さいほど過給圧最大値Pcmout_maxを大きくするように、エンジン回転速度Neの上昇に応じて上昇する過給圧Pcmoutを調圧する過給圧制御である。例えば、その最大過給圧制御では、その最大過給圧制御が実行されない場合と比較して、過給機20の圧力比RPtbが高められる処理が行われる。
【0057】
図7は、前記最大過給圧制御が実行されることによる過給機20の圧力比RPtbの変化を説明するための図であって、エンジン12のアイドリング回転速度付近からエンジン回転速度Neが上昇するタイムチャートである。すなわち、車両発進時の加速中におけるタイムチャートである。図7の例では、アクセルペダル54が十分に大きく踏み込まれており、且つ、登坂走行中で前記走行抵抗が前記走行抵抗判定値以上であり十分に大きいものとする。その図7内の実線L04は、大気圧Patが1気圧よりも大幅に低い高地走行時におけるエンジン回転速度Neと過給機20の圧力比RPtbとの関係を示しており、二点鎖線L05は、大気圧Patが1気圧である低地走行時におけるエンジン回転速度Neと過給機20の圧力比RPtbとの関係を示している。すなわち、実線L04は前記最大過給圧制御が実行された場合を示し、二点鎖線L05は前記最大過給圧制御が実行されていない場合を示している。
【0058】
図7に示すように、エンジン回転速度Neの低回転速度域では、エンジン12は前記NA状態であるので、実線L04も二点鎖線L05も略同じ圧力比RPtbを示している。また、エンジン回転速度Neの高回転速度域では、過給機20の回転速度が過回転の防止等を目的に予め設定された許容回転速度N1tb以下になるように過給圧Pcmoutが制限されるので、すなわち、圧力比上限値RP1tbがその許容回転速度N1tbに応じて設定されるので、前記最大過給圧制御の実行による圧力比RPtbの上昇余地があまり無く、その過給機20の圧力比RPtbが矢印AR03のように抑えられる。そのため、前記高回転速度域では、実線L04が示す圧力比RPtbは二点鎖線L05に対してそれほど高くはならない。その一方で、エンジン回転速度Neの前記低回転速度域と前記高回転速度域との間の回転速度域すなわち中回転速度域においては、前記高回転速度域と比較して過給機20が過回転になり難いので、前記最大過給圧制御の実行による圧力比RPtbの上昇余地が例えば前記高回転速度域よりも大きい。そのため、前記中回転速度域における実線L04では、前記最大過給圧制御の実行により矢印AR04のように過給機20の圧力比RPtbが高められ、その過給機20の過給によりエンジントルクTeを大きく得ることが容易となる。ここで、図7において実線L04は二点鎖線L05と比較して、過給機20の圧力比RPtbの変化がエンジン回転速度Neの変化に対して急になっているが、前記最大過給圧制御はエンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが小さいほど過給圧最大値Pcmout_maxを大きくするので、実線L04のように圧力比RPtbが変化する場合はエンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが比較的小さい場合である。従って、エンジン回転速度Neと過給機20の圧力比RPtbとの関係が前記最大過給圧制御により実線L04のようになっても、圧力比RPtbの時間変化率がそれほど大きくなるわけではないので、運転者のドライバビリティを悪化させることは殆どない。
【0059】
本実施例では前述の実施例1の効果(A1)乃至(A3)に加え次のような効果がある。本実施例によれば、過給圧制御手段278は、前記最大過給圧制御において、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが小さいほど、過給機20の圧力比RPtbの最大値を大きくするように、過給機20の過給圧Pcmoutを調圧する。従って、エンジン回転速度Neの変化に伴う過給圧Pcmoutの急変を抑えつつ、過給圧Pcmoutの急変が生じ難いエンジン回転速度変化の走行状態では、大きなエンジントルクTeを得易くなる。
【0060】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0061】
例えば、前述の実施例1において、ドライバビリティ判断手段74は、ドライバビリティが悪化する可能性があるか否かの判断を、大気圧Patに基づいて行うが、大気圧Patに替えて他の物理量に基づいて、或いは、大気圧Patに加えて他の物理量に基づいて、そのドライバビリティの悪化に関する判断を行っても差し支えない。
【0062】
また、前述の実施例1において、走行抵抗判断手段76は、加速度ACLが車両加速度判定値ACL1よりも大きいか否かを判断するが、アクセル開度Accも前記走行抵抗を判断するパラメータに加え、アクセル開度Accが零よりも大きいときに、加速度ACLをアクセル開度Accで除して得た値(=ACL/Acc)が前記走行抵抗判定値に対応して予め定められた所定値よりも大きいか否かを判断しても差し支えない。そのようにしたとすれば、走行抵抗判断手段76は、その加速度ACLをアクセル開度Accで除して得た値が上記所定値よりも大きい場合に、前記走行抵抗が前記走行抵抗判定値未満であると判断する。
【0063】
また、前述の実施例2において、走行抵抗判断手段276は、加速度ACLが車両加速度判定値ACL1以下であるか否かを判断するが、アクセル開度Accも前記走行抵抗を判断するパラメータに加え、アクセル開度Accが零よりも大きいときに、加速度ACLをアクセル開度Accで除して得た値(=ACL/Acc)が前記走行抵抗判定値に対応して予め定められた所定値以下であるか否かを判断しても差し支えない。そのようにしたとすれば、走行抵抗判断手段276は、その加速度ACLをアクセル開度Accで除して得た値が上記所定値以下である場合に、前記走行抵抗が前記走行抵抗判定値以上であると判断する。
【0064】
また、前述の実施例1において、前記最大過給圧制御で、過給圧最大値Pcmout_maxは、エンジン回転速度Neの時間変化率ΔNeが大きいほど小さくされるが、大気圧Patもパラメータに加えて、過給圧最大値Pcmout_maxは、大気圧Patが低いほど小さくされても差し支えない。
【0065】
また、前述の実施例1,2において、前記最大過給圧制御は、エンジン回転速度Neの上昇に応じて上昇する過給圧Pcmoutを調圧する制御であるが、エンジン回転速度Neの下降に応じて上昇する過給圧Pcmoutを調圧する制御であっても差し支えない。すなわち、前述の実施例1,2での前記最大過給圧制御は、エンジン回転速度Neの上昇中、言い換えれば車両8,208の加速走行中に実行されるが、エンジン回転速度Neの下降中、言い換えれば車両8,208の減速走行中に実行されても差し支えない。
【0066】
また、前述の実施例1,2において、車両8,208は走行用の駆動力源として電動機を備えていないが、走行用の電動機を備えたハイブリッド車両であっても差し支えない。
【0067】
また、前述の実施例1,2において、図1に示すように車両8,208はトルクコンバータ14と自動変速機16とを備えているが、そのトルクコンバータ14と自動変速機16とは必須ではない。
【0068】
また、前述の実施例1,2において、過給機20は排気タービン過給機であるが、エンジン12の出力軸の回転で回転駆動される機械式過給機、すなわちスーパーチャージャーであっても差し支えない。過給機20がスーパーチャージャーであれば、排気バイパス経路40およびウェイストゲートバルブ42は設けられない一方で、エンジン12の出力軸と前記スーパーチャージャーの回転軸とを選択的に連結するクラッチが設けられ、そのクラッチが、過給圧Pcmoutを調圧する過給圧調圧装置として機能する。
【0069】
また、前述の実施例1,2において、ウェイストゲートバルブ42は過給機20の過給圧Pcmoutを調圧する過給圧調圧装置として機能するが、ウェイストゲートバルブ42に換えて設けられた他の機構が前記過給圧調圧装置として機能しても差し支えない。
【0070】
また前述した複数の実施例1,2はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0071】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0072】
8,208:車両
10:車両用駆動装置
12:エンジン
20:過給機
36:吸気コンプレッサーホイール(吸気コンプレッサ)
42:ウェイストゲートバルブ(過給圧調圧装置)
50,250:電子制御装置(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、該エンジンの吸気を昇圧する過給機と、該過給機の過給圧を調圧する過給圧調圧装置とを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
エンジン回転速度の時間変化率が大きいほど前記過給圧の最大値を小さくするように、前記エンジン回転速度の変化に応じて上昇する前記過給圧を調圧する最大過給圧制御を実行する
ことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
大気圧が予め定められた大気圧判定値未満である場合に前記最大過給圧制御を実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記過給機の過給圧が運転者による加速操作に基づいて決定される目標過給圧に近付くように、前記過給圧調圧装置によって該過給圧を調圧しており、
前記最大過給圧制御は、前記エンジン回転速度の時間変化率が大きいほど、前記目標過給圧の上限値を小さくすることで、前記過給圧の最大値を小さくする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記最大過給圧制御は、前記エンジン回転速度の時間変化率が小さいほど、前記過給機の吸気コンプレッサの上流側に対する下流側気圧の比率である圧力比の最大値を大きくするように、前記過給圧を調圧する
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両用駆動装置の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108412(P2013−108412A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253185(P2011−253185)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】