説明

車両運動制御装置

【課題】路面摩擦係数などの車輪路面状態の変化に対応して運転者の運転操作を支援する車両運動制御の介入タイミングを適正化する。
【解決手段】トルク検出手段22により検出されたセルフアライニングトルクと車両運動状態推定手段13により推定された推定運動状態量とから、予め設定されたタイヤモデルに基づいて車輪路面状態である路面摩擦係数を推定する車輪路面状態推定手段23を設け、推定された路面摩擦係数に応じて車両運動状態推定手段13の車両運動モデルに係るパラメータであるタイヤのコーナリングパワーKf、Krを変更するパラメータ設定手段26と、路面摩擦係数に応じて制御介入判断手段16の介入閾値を変更する介入閾値設定手段27を設けたことから、車両運動状態が安定な間であっても路面摩擦係数を高精度で推定できる。しかも、路面摩擦係数に応じて車両運動モデルのパラメータを変更するとともに、車両運動の制御介入閾値を変更していることから適正な制御介入タイミングを実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運動制御装置に係り、特に、車輪路面状態の変化に対応して運転者の運転操作を支援して車両運動を安定化する車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両運動制御装置としては、従来、車両の運動状態をセンサによって検出し、運転者が意図する車両運動を規範車両運動として推測し、車両の横すべりなどにより実際の車両運動が規範車両運動と異なる場合に各車輪のブレーキ等を制御して、車両運動が規範車両運動から逸脱しないようにするものが実用化されている。
【0003】
ところで、車両は車輪から路面へ力を伝えることにより運動を行うことから、車両運動状態は車輪と路面との接触状態である車輪路面状態に大きく依存する。特に、車両運動への寄与は路面摩擦係数の影響が大きいため、以下では車輪と路面の接触状態を表す量として、路面摩擦係数により説明する。
【0004】
特許文献1には、路面摩擦係数による車両運動状態の違いを考慮した車両運動制御を行う装置が提案されている。この車両運動制御装置によれば、路面摩擦係数を推定し、推定された路面摩擦係数により車両運動制御装置による制御介入の閾値を変更するようにしている。また、路面摩擦係数を推定する手段は、操舵角センサにより検出された操舵角が一定値以上のときに、横加速度センサにより検出された横加速度に基づいて推定するようにしている。
【0005】
すなわち、車両運動制御装置による理想的な制御介入タイミングは、路面摩擦係数の変化に対応する必要がある。例えば、操作量の小さな変化でも車両運動状態が不安定化しやすい路面摩擦係数が低い場合は、制御介入閾値を低く設定する。一方、多少の変化では車両運動状態が不安定化しない路面摩擦係数が高い場合は、制御介入閾値を高くとることが望ましい。この点、特許文献1に記載の従来例では、横加速度に基づいて路面摩擦係数を推定し、推定した路面摩擦係数を利用して制御介入閾値を設定している点で好ましい。
【0006】
また、特許文献2には、車輪ごとに操舵制御を行うステア・バイ・ワイヤ車両において、転舵時の車輪転舵軸周りトルクに基づいて路面摩擦係数を推定する方法が記載されている。すなわち、車輪に発生する実際の転舵時の車輪転舵軸周りに生じるトルクと、転舵輪の向きと車両進行方向とのなす角である横すべり角を推定し、推定された横すべり角から基準となる車輪転舵軸周りに生じるトルク(セルフアライニングトルク)を設定する。そして、セルフアライニングトルクと実際の転舵時の車輪転舵軸周りに生じるトルクを比較して車輪のグリップ状態を推定し、各輪のグリップ余裕度に基づいて操舵角と制動力を制御するようにしている。
【0007】
【特許文献1】特許第3412395号
【特許文献2】特開2004−130965号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載のように、横加速度により推定される路面摩擦係数は、車輪の発生可能横力が飽和に近づくような運動状態にならないと精度よく推定することはできない。しかし、横力が飽和した状態になる場合には、車両運動が非線形かつ不安定な状態になりやすく、規範車両運動から逸脱してしまうおそれがある。したがって、横加速度により推定した路面摩擦係数に基づいて制御介入を決定する特許文献1の方法は、制御介入タイミングが遅すぎる場合がある。
【0009】
逆に、横力が飽和する前に路面摩擦係数の推定を行うと、そのときの横加速度は増加途中にあることから、正確な路面摩擦係数を推定することができない。例えば、実際よりも低い路面摩擦係数として推定してしまうと、介入閾値もそれに合わせて低く設定されるから、車両運動制御の介入が必要ない運動状態にもかかわらず車両運動制御が介入する場合がある。このような早めの介入は、運転者が運転し辛くなるという問題点がある。そこで、早めの介入を避けるために、横加速度に基づく路面摩擦係数を高めに推定することが考えられる。しかし、路面摩擦係数を高めに推定すると、実際の路面摩擦係数が低い場合に車両運動が不安定となっても、車両運動制御が介入しないことがあり、制御介入タイミングが遅れてしまうという問題がある。
【0010】
また、特許文献1の技術では、実際の車両運動状態を推定するにあたって路面摩擦係数の影響を考慮に入れていないから、車輪路面状態によっては推定される車両運動状態量が実際とは異なることがある。例えば、路面摩擦係数が高い状態を想定して推定した車両運動状態量は、路面摩擦係数が低い場面では実際の車両運動状態量より小さくなることがある。そのため、実際には大きな車両運動状態量が生じていて、車両挙動が不安定化しているにもかかわらず、車両運動状態量が小さい値として推定されるため、車両運動が安定していると判断され、車両運動制御の介入が適正タイミングよりも遅れてしまうという問題点がある。
【0011】
また、上記の介入閾値と運動状態量推定値のどちらか一方を適正化しても、様々な走行条件下において適正なタイミングで車両運動制御介入を行うことはできない。
【0012】
他方、特許文献2に記載の従来技術では、各車輪のグリップ状態を求めなければならないこと、及び各車輪の制御を独立に行って車両運動を制御しなければならないことから、制御が複雑化しまうとともに、センサ及び車両運動制御のアクチュエータが多くなるなどの問題点がある。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、路面摩擦係数などの車輪路面状態の変化に対応して運転者の運転操作を支援する車両運動制御の介入タイミングを適正化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明は、車両の運動を制御する車両運動制御手段と、運転者による車両運動の操作量と前記車両の運動状態量を検出する検出手段と、前記操作量と前記運転状態量から車両運動モデルに基づいて少なくとも一つの推定運動状態量を推定する車両運動状態量推定手段と、前記操作量と前記運転状態量と前記推定運動状態量から線形モデルに基づいて運転者が意図する前記車両の規範運動状態量を推定する規範運動生成手段と、前記推定運動状態量に対応する前記規範運動状態量との差を低減するように前記車両運動制御手段の制御量を設定する車両運動制御量設定手段と、前記推定運動状態量に対応する前記規範運動状態量との差が設定された介入閾値を超えたときに前記車両運動制御量設定手段による車両運動制御介入を行う制御介入判断手段とを有する車両運動制御装置を対象とする。
【0015】
特に、本発明の車両運動制御装置は、車輪転舵軸周りに生じるトルクを検出するトルク検出手段により検出されたトルク及び前記推定運動状態量と前記検出手段により検出された前記運動状態量のいずれか一方から、予め設定されたタイヤモデルに基づいて車輪と路面の状態を推定する車輪路面状態推定手段と、前記車輪路面状態推定手段により推定された車輪路面状態に応じて前記車両運動状態推定手段の車両運動モデルに係るパラメータを変更するパラメータ設定手段と、前記車輪路面状態推定手段により推定された車輪路面状態に応じて前記制御介入判断手段の前記介入閾値を変更する介入閾値設定手段とを設けたことを特徴とする。
【0016】
このような特徴を有することから、本発明によれば、車輪転舵軸周りに生じるトルク(セルフアライニングトルク)を検出し、このセルフアライニングトルクと予め設定された推定運動状態量や検出された運動状態量の値とから、予め設定されたタイヤモデルに基づいて車輪路面状態(例えば、路面摩擦係数)を推定する車輪路面状態推定手段を設けたことから、車両運動状態が安定な間であっても車輪路面状態を高精度で推定することができる。しかも、車輪路面状態によって値が変化する車両運動状態量推定手段の演算モデルのパラメータ(例えば、タイヤのコーナリングパワーKf、Kr)を変更設定していることから、車両運動状態量推定手段により推定される推定運動状態量の精度が向上する。それと同時に、高精度で推定した車輪路面状態に基づいて車両運動の制御介入判断手段の介入閾値を変更していることから、車輪路面状態と推定運動状態量に応じた適正な制御介入タイミングを実現することができる。
【0017】
この場合において、前記車輪路面状態推定手段により推定された前記車輪路面状態によっても、前記車両運動制御量設定手段で設定される前記制御量を変化させることができる。
【0018】
また、前記制御介入判断手段は、前記推定運動状態量に対応する前記規範運動状態量との差が設定された介入閾値を超えない場合であっても、現在の運動状態を継続した場合、運転者の意図する運動が実現されないと予測される場合に、前記車両運動制御手段による車両運動制御介入を行うようにすることができる。これによれば、将来の車両運動が規範運動から逸脱することを予測して、車両が安定運動状態にある場合でも介入制御を行うことで、車両運動が不安定化することを未然に防ぐことができる。
【0019】
さらに、前記車輪路面状態推定手段は、前記トルク検出手段により検出されたトルクと前記推定運動状態量や検出された運動状態量から、予め設定されたタイヤモデルに基づいて前記車輪路面状態を推定する第1車輪路面状態推定手段と、前記検出手段により検出された車両の前記運動状態量に基づいて前記車輪路面状態を推定する第2車輪路面状態推定手段とを備えてなり、かつ、操舵の開始から車両運動制御の介入時までは第1車輪路面状態推定手段により推定された前記車輪路面状態により前記パラメータと前記介入閾値を変更させ、車両運動制御の介入後から車両運動が安定化されるまでは第2車輪路面状態推定手段により推定された前記車輪路面状態により前記パラメータと前記介入閾値を変更させる車輪路面状態選択手段を有して構成することができる。
【0020】
また、これに代えて、前記車輪路面状態推定手段は、操舵の開始から車両運動制御の介入時までは前記推定された前記車輪路面状態により前記パラメータと前記介入閾値を変更させ、車両運動制御の介入後から車両運動が安定化されるまでは前記パラメータと前記介入閾値をそれまでの値に保持させるようにすることができる。
【0021】
上記のいずれの場合においても、前記推定運動状態量は、車両の横すべり角とヨーレイトの少なくとも一方とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、路面摩擦係数などの車輪路面状態の変化に対応して運転者の運転操作を支援する車両運動制御の介入タイミングを適正化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の車両運動制御装置を実施形態に基づいて説明する。
【実施例1】
【0024】
図1に、本発明の車両運動制御装置の一実施例の構成図を示す。図1に示すように、本実施例の車両運動制御装置は、運転者が操作する車両の操舵系などの操作量を検出する操作量検出手段11と、車両運動状態量を検出する運動状態量検出手段12と、車両運動状態量推定手段13と、規範車両運動生成手段14と、車両運動制御量設定手段15と、制御介入判断手段16と、車両運動制御手段17と、切り替え手段18と、路面摩擦係数推定手段20と、パラメータ・介入閾値設定手段21とを備えて構成されている。
【0025】
操作量検出手段11は、運転者が操作する操作量(舵角、操舵トルクなど)を検出するセンサを備えて構成されている。運動状態量検出手段12は、車両運動状態量である車速、ヨーレイト(車両の回転角速度)、加速度などを検出するセンサを備えて構成されている。
【0026】
車両運動状態量推定手段13は、操作量検出手段11により検出された操作量と、運動状態量検出手段12により検出された車両運動状態量に基づいて、運動状態量検出手段12によって直接検出することができない他の車両運動状態量を推定するようになっている。具体的には、車両の運動モデルの演算式を有するオブザーバによって、例えば、車体の進行方向と、車体の向きとなす角である車体の横すべり角βを推定するようになっている。
【0027】
規範車両運動生成手段14は、操作量検出手段11により検出された操作量と、運動状態量検出手段12により検出された車両運動状態量と、車両運動状態量推定手段13により推定された車両運動状態量(例えば、横すべり角β)に基づいて、運転者が意図する車両の運動を周知の線形モデルによって予測し、運転者が意図する規範車両運動(例えば、横すべり、ヨーレイトなど)を生成するようになっている。
【0028】
車両運動制御量設定手段15は、車両運動状態量推定手段13により推定された実際の車両運動状態量と、規範車両運動生成手段14から出力される規範車両運動とを比較し、実際の車両運動状態量が規範車両運動に合うように、本実施例による車両運動制御装置が介入する場合の制御量を決定するようになっている。本実施例による車両運動制御装置が介入する場合、車両運動制御量設定手段15の出力は切り替え手段18を介して車両運動制御手段17に出力されるようになっている。車両運動制御手段17は、例えば、ブレーキ力、スロットル開度、シフト(ギヤ比)、操舵力の重み、等の車両運動を制御する手段である。
【0029】
一方、切り替え手段18は、制御介入判断手段16によって切り替えられるようになっている。制御介入判断手段16は、本実施例による車両運動制御装置による車両運動制御を介入するか否か、つまり、車両運動制御量設定手段15によって設定された制御量により車両運動制御手段17を制御するか否かを判断するものである。そのために、制御介入判断手段16は、車両運動状態量推定手段13により推定された実際の車両運動状態量と、規範車両運動生成手段14から出力される規範車両運動とを比較し、実際の車両運動状態量が規範車両運動から制御介入閾値を越えて外れたとき、車両運動制御の介入を行うようになっている。要するに、制御介入判断手段16は、車両運動制御が不要な場面で頻繁に介入することを防ぐために、パラメータ・介入閾値設定手段21によって設定される制御介入閾値に従って制御介入判断を行うようになっている。その詳細は後述する。
【0030】
路面摩擦係数推定手段20は、本発明に係る車輪路面状態推定手段の一実施例であり、車輪路面状態を表す物理量の一つである路面摩擦係数μを推定するようになっている。ここで、車輪路面状態は路面摩擦係数μに限られるものではなく、車輪と地面との接触面積などの路面摩擦係数μに相関する物理量又は路面摩擦係数μに等価な物理量を用いることができる。
【0031】
パラメータ・介入閾値設定手段21は、車輪路面状態推定手段の一実施例であり、パラメータ・介入閾値設定手段21は、路面摩擦係数推定手段20によって推定された路面摩擦係数μに基づいて、車両運動状態量を推定する車両運動状態量推定手段13のオブザーバの演算式に含まれるパラメータを求めるとともに、制御介入閾値を求めるようになっている。そして、求めたパラメータを車両運動状態量推定手段13に設定するとともに、制御介入の判断に必要な制御介入閾値を制御介入判断手段16に設定する。
【0032】
次に、図2を参照して、本発明の特徴部に係る車輪路面状態推定手段の一実施例である路面摩擦係数推定手段20と、パラメータ・介入閾値設定手段21の詳細構成の一実施例について説明する。図2に示すように、本実施例の路面摩擦係数推定手段20は、第1路面摩擦係数推定手段23と第2路面摩擦係数推定手段24を備えて構成されている。第1路面摩擦係数推定手段23は、セルフアライニングトルク検出手段22により検出されたセルフアライニングトルクTsと、運動状態量検出手段12により検出された運動状態量(車速、ヨーレイト(車両の回転角速度)、加速度など)、あるいは車両運動状態量推定手段13によって推定された車両運転状態量(例えば、横すべり角)に基づいて路面摩擦係数μ1を推定するようになっている。また、第2路面摩擦係数推定手段24は、運転状態量検出手段12により検出された横加速度に基づいて路面摩擦係数μ2を推定するようになっている。
【0033】
セルフアライニングトルク検出手段22は、例えば車輪に取り付けられた歪ゲージや圧電素子などで構成された6分力計のようなセンサを用いてセルフアライニングトルクTsを直接検出するようになっている。ここで、セルフアライニングトルクTsとは、特許文献2に記載されているように周知の物理量であり、タイヤ(車輪)の転舵軸周りに生じるトルクであって、タイヤの横すべり角βを減少させる方向に作用するトルクである。また、セルフアライニングトルクTsは、車輪に作用する横力とニューマチックトレールの積として表される。したがって、セルフアライニングトルクTsは、横力に比べて路面摩擦係数の変化に影響する感度が高い。そのため、車両運動が不安定化する前の早い段階で路面摩擦係数を精度よく推定することが可能となる。
【0034】
このことから、本実施例の第1路面摩擦係数推定手段23は、路面摩擦係数とセルフアライニングトルクTsと横すべり角β(例えば、前輪横すべり角βf)との関係を表すタイヤモデルを利用して、路面摩擦係数μ1を推定している。ここで、横すべり角βは、車両運動状態量推定手段13で求めたものを用いる。なお、タイヤモデルは、車輪のリムやトレッドベースに相当する円環の周りに、弾性変形する車輪の周方向に独立した無数の弾性体を配置してモデル化した周知のブラッシュモデルを利用することができる。また、第1路面摩擦係数推定手段23は、例えば、ブラッシュモデルに基づいて演算した路面摩擦係数μ1、セルフアライニングトルクTs、横すべり角βとの関係をマップ化してしたものを適用できる。また、これに代えて、ブラッシュモデルの式を路面摩擦係数μ1について直接解き、セルフアライニングトルクTsと前輪横すべり角βfの式として路面摩擦係数μ1を求めるようにすることができる。
【0035】
ところで、車両運動制御の介入中あるいは介入解除後において、車両運動が不安定と判断された場合は、車両運動が非線形な状態にあることが予想される。このような場合は、車両運動状態量推定手段13により推定する車両運動状態量の精度が保証されなくなる。そのため、第1路面摩擦係数推定手段23において前輪横すべり角βfとセルフアライニングトルクTsにより推定する路面摩擦係数μ1の精度も保証されなくなる。
【0036】
そこで、本実施例では、セルフアライニングトルクによる第1路面摩擦係数推定手段23に加えて、横加速度による第2路面摩擦係数推定手段24を別途設けている。この第2路面摩擦係数推定手段24は、運動状態量検出手段12によって検出された横加速度を取り込んで路面摩擦係数を推定し、推定される路面摩擦係数の極大値を求め、求めた極大値が前回演算時に推定した路面摩擦係数よりも大きくなる場合、高いほうの路面摩擦係数μ2を出力するようになっている。
【0037】
路面摩擦係数選択手段25は、制御介入判断手段16から入力される制御介入判断の信号に基づいて、制御介入時は、路面摩擦係数μ1を路面摩擦係数μ2に切り替えて、パラメータ・介入閾値設定手段21に出力するようなっている。
【0038】
一方、パラメータ・介入閾値設定手段21は、パラメータ設定手段26と介入閾値設定手段27とを備えて構成されている。パラメータ設定手段26は、路面摩擦係数選択手段25から出力される路面摩擦係数μ1又はμ2に従って、車両運動状態量推定手段13で推定する例えば車体横すべり角βの演算式のオブザーバに含まれるパラメータを設定するようになっている。また、介入閾値設定手段27は、制御介入判断手段16の介入閾値λを設定するようになっている。ここで、車体横すべり角βの推定演算に用いるパラメータは、車両モデルの前輪コーナリングパワーKf、後輪コーナリングパワーKrである。コーナリングパワーとは、車輪の単位横すべり角あたりの発生横力を示す値であり、路面摩擦係数によって変化する。
【0039】
このように構成される本実施例の詳細な構成について、以下に、動作とともに説明する。本実施例は、基本的に、セルフアライニングトルクTsを用いて第1路面摩擦係数推定手段23によって求めた路面摩擦係数μ1に基づいて、車両運動制御の介入を判断する介入閾値λを設定し、実際の車両運動状態量と規範車両運動との差が介入閾値を越えたときに、車両運動制御量設定手段15により設定された制御量によって車両運動制御を行う介入タイミングを適正に制御するようにしている。
【0040】
図3に示すように、制御介入タイミングを判断する車両運動状態量の介入閾値λの一例として、車両運動状態量推定手段13によって推定された実際の車体横すべり角βや、規範車両運動生成手段13によって生成される規範車体横すべり角との差Δβを用いることができる。図3において、横軸は時間を表し、縦軸は車体横すべり角β又はその差Δβを表している。なお、説明のため、操舵が開始される前には高い路面摩擦係数μの状態にあり、このときの車両運動状態量の推定値を図3の曲線30で示している。また、図3中の曲線31は、実際の車両運動状態量の一例の時間変化を示している。
【0041】
また、図4に、路面摩擦係数μ(μ1、μ2)と車両運動状態量推定手段13内のオブザーバで利用される車両モデルの前後輪コーナリングパワーKf、Krの関係の一例を示す。なお、図4の路面摩擦係数μと前後輪コーナリングパワーKf、Krの関係は、予めマップ化したものを利用することができる。第1路面摩擦係数推定手段23は、図3に示す車両運動が安定状態な間にセルフアライニングトルクTsを利用して路面摩擦係数μ1を推定する。そして、パラメータ設定手段26は、推定された路面摩擦係数μ1に基づいて図4から前後輪コーナリングパワーKf、Krを求めて車両運動状態量推定手段13に設定する。つまり、図4に示すように、路面摩擦係数μが高側では前後輪のコーナリングパワーKf、Krの値を大きく、低側で小さくするように設定する。このことは、路面摩擦係数μが高い場合は横すべり角βの推定値がすぐには大きくならないように、逆に路面摩擦係数μが低い場合には横すべり角βの推定値が大きくなり易いように、前後輪コーナリングパワーKf、Krの値が定められている。
【0042】
これによって、車両運動状態量推定手段13によるパラメータ変更前の車両運転状態量の推定値が、図3の曲線30に示すように、曲線31の実際の車両運転状態量とは異なっていた場合、路面摩擦係数μ1に対応したパラメータに変更されると、曲線32に示すように、パラメータ変更後の車両運転状態量の推定値となる。つまり、車両運動状態量推定手段13の推定精度が向上して、曲線31と曲線32が一致又は近似した関係になる。その結果、車両運転状態量の推定誤差による制御介入タイミングのずれを補正することができる。
【0043】
一方、制御介入判断手段16の介入閾値λも、同様に路面摩擦係数μに応じて可変設定される。図5に、路面摩擦係数μと介入閾値λの関係を示す。図示のように、路面摩擦係数μが高い側で介入閾値λが大きくなるように、逆に、低い側で小さくなるように設定される。介入閾値λと路面摩擦係数μとの関係は、図4と同様に予めマップ化したものを利用することができる。
【0044】
このように、路面摩擦係数μに応じて介入閾値λを可変設定することにより、図3に示したように、路面摩擦係数μが小さくなると、高μ時の介入閾値33を低μ時の介入閾値34に可変することができる。その結果、図3に示すように、パラメータ変更前の介入タイミングt1に対して、パラメータ変更後の介入タイミングt2が、適正な介入タイミングt0に近づき、制御介入タイミングの遅れを補正することができる。
【0045】
以上説明したように、パラメータKf、Krと介入閾値λとの2つの設定変更を車両運動制御介入前に行うことにより、様々な車両運動状態で車両運動が不安定化する前に適正なタイミングで車両運動制御を介入させることができる。
【0046】
図6、図7に、図1実施例の車両運動制御装置の処理手順のフローチャートを示す。図6、図7のフローチャートは、車両の走行状態において、周期的に実行される。先ず、ステップS101で、車両運動状態量推定手段13は、車両に取り付けられた操作量検出手段11から、運転者が操作した転舵角δf、操作トルク、等の操作量を読み取るとともに、運動状態量検出手段12から車速、ヨーレイトγ、横加速度ay、等の車両運動状態量を読み取る。次に、ステップS102において、車両運動状態量推定手段13は、取り込んだ転舵角δf、横加速度ay、ヨーレイトγからオブザーバを利用して、車両運動状態量の一つである車体の横すべり角βを推定する。次のステップS103では、図7に示すように、パラメータ・介入閾値設定手段21によって求められた路面摩擦係数μによって、パラメータKf、Krと介入閾値λの設定値が変更され、それぞれ車両運動状態量推定手段13と制御介入判断手段16に出力される。次に、ステップS104で、規範車両運動生成手段14は、操作量検出手段11から転舵角δf、操作トルク、等の操作量を読み取るとともに、運動状態量検出手段12から車速、ヨーレイトγ、横加速度ay、等の車両運動状態量を読み取り、さらに車両運動状態量推定手段13から推定運動状態量(例えば、横すべり角、車輪荷重、ロール角など)を読み込み、車両の線形モデルに従って車両運動状態量の一つである横すべり角βを予測して規範車両運動状態量を生成する。
【0047】
ここで、車両運動状態量推定手段13は、センサで計測することが困難な現在の推定運動状態量(横すべり角、車輪荷重、ロール角など)をオブザーバにより推定する。また、推定した推定運動状態量を実際の車両の出力と比較することによって、より実際の車両の運動状態量に近い値に修正される。一方、規範車両運動生成手段14の線形モデルは、車両運動の理想的状態あるいは運転者の意図する車両運動状態量(例えば、ヨーレイトの大きさ、横すべり角の大きさ等)を、運転者の操作量あるいはセンサで検出された運動状態量から推定する。規範車両運動生成手段14による推定値と車両運動状態量推定手段13のオブザーバによる推定値との違いは、車両が線形モデルに基づいた理想的な値(線形運動)であり、実際の車両の走行状態によっては異なる値になることである。したがって、規範車両運動生成手段14は、理想的な車両運動状態量を求める際に、車両の運動状態によって変化する量(例えば、車輪荷重等)を車両運動状態量推定手段13から読み込み、車両の線形モデルに反映してモデルを運動状態に応じて修正するようにしている。
【0048】
次に、ステップS105に進み、車両運動制御量設定手段15は、規範車両運動生成手段14で生成された規範車両運動状態量(例えば、横すべり角β)と、車両運動状態量推定手段13で推定された実際の車両運動状態量(例えば、横すべり角β)との誤差(例えば、Δβ)を求め、その誤差を低減させるのに必要な車両運動制御手段17の各アクチュエータの制御量(例えば、ブレーキの制御量)を演算する。次に、ステップS106に進み、制御介入判断手段16は、実際の車両運動状態量と規範車両運動状態量とから、車両運動制御の介入が必要か否かを判断する。つまり、本実施例では、実際の車体横すべり角βと、規範車体横すべり角との差│Δβ│が、可変設定された介入閾値λを超えたか否かにより行う。差│Δβ│>λの場合は、図示していないが「制御介入中」のフラグを立ててステップS107へ進む。ステップS107では、切り替え手段18を投入して車両運動制御量設定手段15の出力である制御量を車両運動制御手段17に供給する。これにより、車両運動制御の介入が実行され、ステップS101へ戻って同様の処理を繰り返す。一方、ステップS106の判断で、差│Δβ│≦λの場合は、図示していないが「制御介入中」のフラグを倒し、車両運動制御の介入は不要として、ステップS101へ戻る。
【0049】
図7に示したフローチャートに沿って、図6のステップS103の路面摩擦係数μによる設定変更の詳細な処理手順を説明する。先ず、ステップS201において、制御介入判断手段16は、操作量検出手段11、運動状態量検出手段12あるいは車両運動状態量推定手段13から出力される転舵角δf、横加速度ay、ヨーレイトγの少なくとも1つに基づいて車両が旋回状態か否かの判定を行う。この判定において、転舵角δf、横加速度ay、ヨーレイトγの各値が、予め設定された設定値よりも低い場合は、車両は直進状態にあると判定される。直進状態のときは、ステップS202に進んで、制御介入判断手段16は、路面摩擦係数選択手段25に制御介入判断の信号を送って、前回推定された路面摩擦係数μ、パラメータKf、Kr、介入閾値λの前回値を現在値として保持させて、図6のステップS104へ戻る。つまり、路面摩擦係数μ、オブザーバのパラメータKf、Kr、介入閾値λの変更は行わない。
【0050】
一方、ステップS201の判断で、転舵角δf、横加速度ay、ヨーレイトγの各値が1つでも予め設定された設定値以上である場合は、車両が旋回状態にあるものと判定してステップS203へ進む。ステップS203では、制御介入判断手段16において、実際の車両運動状態量(例えば、横すべり角βあるいはΔβ)が規範運動状態量から逸脱しているか否かに基づいて、安定運動状態か否かを判定する。例えば、「制御介入中」のフラグに基づいて、車両運動制御介入前、又は車両運動制御介入解除後の場合には、規範運動状態量からの実際の車両運動状態量の逸脱量が設定値以下の時に、車両が安定状態にあると判定してステップS204に進む。その逸脱量が設定値を超えたときは不安定運動状態と判定する。
【0051】
ステップS204において、第1路面摩擦係数推定手段23は、セルフアライニングトルク検出手段22からセルフアライニングトルクTsを読み取るとともに、車両運動状態推定手段13で推定した安定運動判定に係る運動状態量(例えば、横すべり角)を取り込み、ステップS205に進んで、前述したように路面摩擦係数μ1を推定する。次に、ステップS208へ進み、パラメータ設定手段26は、推定された路面摩擦係数μ1に基づいて、車両運動状態量推定手段13のオブザーバのパラメータである、前後輪コーナリングパワーKf、Krを図4から求めて設定を変更する。次いで、ステップS209に進み、介入閾値設定手段27は、路面摩擦係数μに対応する介入閾値λを図5から求めて制御介入判断手段16の介入閾値λを可変設定する。
【0052】
一方、ステップS203で、制御介入判断手段16は、車両運動制御介入中又は介入解除後において、実際の車両運動状態量(例えば、横すべり角βあるいはΔβ)が規範運動状態量から逸脱している逸脱量が設定値を超えたときは不安定運動状態と判定する。車両の運転状態が不安定と判断された場合は、路面摩擦係数選択手段25により、介入制御に用いる路面摩擦係数を、第1路面摩擦係数推定手段23で求められた路面摩擦係数μ1に代えて、第2路面摩擦係数推定手段24で求められた路面摩擦係数μ2が選択される。そして、ステップS206、S207へ進み、パラメータ設定手段26は、第2路面摩擦係数推定手段24で求められた路面摩擦係数μ2を用い、車両運動状態量推定手段13のオブザーバのパラメータである前後輪コーナリングパワーKf、Krと、介入閾値λを可変設定する。つまり、ステップS206において、第2路面摩擦係数推定手段24は、運動状態量検出手段12の横加速度センサから出力される横加速度の極大値を読み取り、ステップS207において、現在の路面摩擦係数μaを演算し、前回の処理時に演算した路面摩擦係数推定値μbとを比較し、μa>μbと判断された場合にはμaを路面摩擦係数μとして設定する。
【0053】
このように、車両の安定状態又は不安定状態に応じて、路面摩擦係数の推定方式を切り替えることにより、車両不安定時の誤推定を少なくするようにしている。そして、路面摩擦係数μ2を設定した後は、前述と同様に、ステップS208、S209 において、車両運動状態推定手段13のオブザーバのパラメータであるコーナリングパワーKf、Krと、制御介入判断手段16の介入閾値λを変更設定して、図6のステップS104に戻る。
【0054】
以上に示したように、本実施例においては、車両運動状態が安定な間は、セルフアライニングトルクTsを利用して路面摩擦係数μ1を推定し、その路面摩擦係数μ1に基づいて車両運動状態量推定手段13の演算モデルのパラメータであるコーナリングパワーKf、Krを設定していることから、車両運動状態量の推定値の精度を向上できる。しかも、その推定した路面摩擦係数μ1に基づいて車両運動の制御介入判断手段16の介入閾値λを変更していることから、路面摩擦係数に合わせた適正な制御介入タイミングを実現することができる。
【0055】
上記実施例では、操舵系に取り付けられたセンサによりセルフアライニングトルクTsを直接計測する例を説明したが、本発明のセルフアライニングトルク検出手段22はこれに限られるものではない。例えば、セルフアライニングトルク検出手段22は、タイロッドエンドに取り付けたセンサなどで構成される軸力検出手段によりステアリングコラムの軸線方向力を計測し、その計測値に基づいてセルフアライニングトルクを推定するようにすることができる。
【0056】
また、セルフアライニングトルクTsは、油圧パワーステアリング装置を持つ操舵系で油圧を油圧検出手段により計測し、その油圧検出値に基づいて演算するようにすることができる。
【0057】
また、セルフアライニングトルクTsは、電動パワーステアリング装置を持つ操舵装置で運転者の操舵トルクとアシストトルクから推定するようにすることができる。
【0058】
また、上記実施例では、車両運動制御介入中あるいは介入解除後において、実際の車両運動(例えば、横すべり角βあるいはΔβ)が規範運動から設定値以上ずれたときに、第2路面摩擦係数推定手段24による路面摩擦係数μ2に切り替えるものについて示した。しかし、本発明は、これに代えて、第1路面摩擦係数推定手段23により車両運動制御介入前に推定された路面摩擦係数μ1の値を、車両運動制御介入後であっても変更せずに保持し続けるようにしてもよい。
【0059】
また、上記の実施例では、路面摩擦係数μを車両運動制御量設定手段15に直接反映しない構成であるが、これに代えて、路面摩擦係数μを車両運動制御量設定手段15へ伝達し、路面摩擦係数μによって制御量を変更する構成としてもよい。例えば、路面摩擦係数μが大きい場合には大きな制動力を得ることが予測されるため、設定されるブレーキ力を大きくする。
【0060】
また、上記の実施例では、車両運動制御の介入タイミングを判断するために参照する状態量として横すべり角Δβを例として取り上げたが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、横すべり角Δβに代えて、規範車両運動生成手段14で生成されるヨーレイトと実際のヨーレイトとの差Δγ、あるいは横すべり角β又はヨーレイトγの微分値、あるいはこれらを組み合わせたもの、さらには足し合わせたものなどを利用することができる。
【実施例2】
【0061】
図8に、本発明の車両運動制御装置の他の実施例の制御手順のフローチャートを示す。本実施例が、実施例1と相違する点は、図6のステップS106における判定が「介入なし」の場合に、車両運動予測手段(ステップS301〜S303)と、安定時車両運動制御量設定手段(ステップS304〜S305)の処理を行うことにある。
【0062】
車両運動予測手段は、操作量検出手段11と運動状態量検出手段12の検出値と、車両運動状態量推定手段13による推定された車両運動状態量から予測される旋回運動が継続される場合に、セルフアライニングトルクTsによる路面摩擦係数μ1の路面上でその旋回運動が実現できるかどうかを予測して判定するものである。一方、安定時車両運動制御量設定手段は、車両運動予測手段による予測の結果が、運転者の意図する旋回運動を実現できない場合に、車両運動が安定な状態にある場合でもスロットル開度制御やブレーキ制御、シフト制御などを行って減速させることで、運転者の意図する旋回運動を達成できるようにするものである。これらの制御量は車両運動制御手段17に出力される。
【0063】
本実施例の詳細な処理手順を、図8を参照して説明する。図において、図6のフローチャートと同一の処理ステップには、同一の符号を付けて説明を省略する。本実施例で追加した機能は、ステップS106で車両運動制御を介入させないと判断された後に実行されるステップS301〜S305である。
【0064】
ステップS106で車両運動制御の介入なしと判定されると、ステップS301に進み、現時点からt時間後の前後輪の横力を演算により求める。つまり、現在の操作量と運動状態量により運動する車両が、0より大きい時間t後の前輪、後輪に必要な横方向力Ff、Frを、次式(1)により求める。同式において、βfとβrはそれぞれ前輪と後輪の推定横すべり角、βf’とβr’はそれぞれ前輪と後輪の推定横すべり角の微分値である。
【0065】
Ff=Kf(βf+βf’t)
Fr=Kf(βr+βr’t) (1)
【0066】
次にステップS302に進み、現在推定されている路面摩擦係数μで前輪と後輪で発生可能な最大横方向力FfmaxとFrmaxを、次式(2)で求める。同式において、MfとMrはそれぞれ前輪と後輪の荷重、gは重力加速度である。また、係数κfとκrは、0<κf、κr<=1となる定数である。
【0067】
Ffmax=κf・μ・Mf・g
Frmax=κr・μ・Mr・g (2)
【0068】
そして、ステップS303で、次式(3)の条件が成立する場合は、現在の運動を継続しても車両運動が安定状態を保つものと判断して、制御は実行せずステップS101へ戻る。
【0069】
Ff≦Ffmax
かつ
Fr≦Frmax (3)
一方、次式(4)の条件が成立する場合は、現在の運動を継続した場合、目標の旋回が達成できないものと判断してステップS304へ進む。
【0070】
Ff>Ffmax
あるいは
Fr>Frmax (4)
ステップS304は、目標の旋回が達成できるようにするため、目標減速量を生成して、ステップS305で車両運動制御手段17に減速指令を出して減速させる。その後、図6のS104に戻って処理を繰り返す。
【0071】
本実施例によれば、車両運動が不安定化する前に、安定な運動が継続できるように制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の車両運動制御装置の一実施例のブロック構成図である。
【図2】図1の路面摩擦係数推定手段とパラメータ・閾値設定手段の詳細なブロック構成図である。
【図3】車両運動制御介入タイミング適正化の効果を説明する図である。
【図4】路面摩擦係数μに基づいてパラメータKf、Krを設定する一例を示す図である。
【図5】路面摩擦係数μに基づいて介入閾値λを設定する一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施例の車両運動制御装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】図6のステップS103の詳細な処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図8】本発明の他の実施例の車両運動制御装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0073】
11 操作量検出手段
12 運動状態量検出手段
13 車両運動状態量推定手段
14 規範車両運動生成手段
15 車両運動制御量設定手段
16 制御介入判断手段
17 車両運動制御手段
18 切り替え手段
20 路面摩擦係数推定手段
21 パラメータ・介入閾値設定手段
22 セルフアライニングトルク検出手段
23 第1路面摩擦係数推定手段
24 第2路面摩擦係数推定手段
25 路面摩擦係数選択手段
26 パラメータ設定手段
27 介入閾値設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運動を制御する車両運動制御手段と、運転者による車両運動の操作量と前記車両の運動状態量を検出する検出手段と、前記操作量と前記運転状態量から車両運動モデルに基づいて少なくとも一つの推定運動状態量を推定する車両運動状態量推定手段と、前記操作量と前記運転状態量と前記推定運動状態量から線形モデルに基づいて運転者が意図する前記車両の規範運動状態量を推定する規範運動生成手段と、前記推定運動状態量に対応する前記規範運動状態量との差を低減するように前記車両運動制御手段の制御量を設定する車両運動制御量設定手段と、前記推定運動状態量に対応する前記規範運動状態量との差が設定された介入閾値を超えたときに前記車両運動制御量設定手段による車両運動制御介入を行う制御介入判断手段とを有する車両運動制御装置において、
車輪転舵軸周りに生じるトルクを検出するトルク検出手段により検出されたトルク及び前記推定運動状態量と前記検出手段により検出された前記運動状態量のいずれか一方から、予め設定されたタイヤモデルに基づいて車輪と路面の状態を推定する車輪路面状態推定手段と、前記車輪路面状態推定手段により推定された車輪路面状態に応じて前記車両運動状態推定手段の車両運動モデルに係るパラメータを変更するパラメータ設定手段と、前記車輪路面状態推定手段により推定された車輪路面状態に応じて前記制御介入判断手段の前記介入閾値を変更する介入閾値設定手段とを設けたことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、
前記車輪路面状態推定手段により推定された前記車輪路面状態によって前記車両運動制御量設定手段で設定される前記制御量を変化させることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、
前記制御介入判断手段は、前記推定運動状態量に対応する前記規範運動状態量との差が設定された介入閾値を超えない場合であっても、現在の運動状態を継続した場合、運転者の意図する運動が実現されないと予測される場合に、前記車両運動制御手段による車両運動制御介入を行うことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、
前記車輪路面状態推定手段は、前記トルク検出手段により検出されたトルクと前記推定運動状態量から予め設定されたタイヤモデルに基づいて前記車輪路面状態を推定する第1車輪路面状態推定手段と、前記検出手段により検出された車両の前記運動状態量に基づいて前記車輪路面状態を推定する第2車輪路面状態推定手段とを備えてなり、かつ、操舵の開始から車両運動制御の介入時までは第1車輪路面状態推定手段により推定された前記車輪路面状態により前記パラメータと前記介入閾値を変更させ、車両運動制御の介入後から車両運動が安定化されるまでは第2車輪路面状態推定手段により推定された前記車輪路面状態により前記パラメータと前記介入閾値を変更させる車輪路面状態選択手段を有することを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、
前記車輪路面状態推定手段は、操舵の開始から車両運動制御の介入時までは前記推定された前記車輪路面状態により前記パラメータと前記介入閾値を変更させ、車両運動制御の介入後から車両運動が安定化されるまでは前記パラメータと前記介入閾値をそれまでの値に保持させることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両運動制御装置において、
前記推定運動状態量は、車両の横すべり角とヨーレイトの少なくとも一方であることを特徴とする車両運動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−245901(P2007−245901A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71478(P2006−71478)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】