説明

車体のカウル構造

【課題】所定の耐久性が確保され且つ車体前部のアッパメンバの形状に左右されることなくフレキシブルに対応できるカウル構造を提供する。
【解決手段】車体の前方に延びるアッパメンバが取り付けられた一対のサイドアウタパネルの前端部に架け渡されたカウルインナ20と、カウルインナ20の左右両端に載置された一対のカウルトップサイド30とを備えるカウル構造であって、カウルインナ20は、その両端部に、それぞれ、車体の後方に折れ曲がって延びるサブ結合部22が形成され、カウルトップサイド30は、上面30aおよび両側面30b、30cが形成された断面が略コの字状になされている。そして、カウルトップサイド30の側面30bが、カウルインナ20のサブ結合部22に重ね合わされて接合されると共に、カウルトップサイド30の側面がサイドアウタパネル40の側面43に接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のカウル構造に関し、例えば、車体前部のアッパメンバとサイドアウタパネルとの結合部の近傍に取り付けられるカウルインナおよびカウルトップサイドを有する車体のカウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている自動車の車体前部に取り付けられたカウル構造について、図5および図6に基づいて説明する。
図5は、従来技術によるカウル構造を備える車体前部の斜視図であり、車体前部を右斜め前方から見た斜視図を示している。なお、図中の矢印FRは車体の前方を示し、矢印UPは車体の上方を示し、矢印LHは車体の車幅方向を示している。なお、図5では、車体前部の右側だけを示している。
また、図6は、図5に示した車体前部のB-B断面を示した模式図である。
【0003】
図5に示すように、車体前部の左右両端には、それぞれ車体の前方に延びる一対のアッパメンバ100が形成され、それぞれのアッパメンバ100の一端部(基端部)にサイドアウタパネル140が結合されている(図5では、右側部分だけを示している)。
また、サイドアウタパネル140の前端部に、カウルインナ120およびカウルトップサイド130を有するカウル構造が取り付けられている。
具体的には、サイドアウタパネル140のアッパメンバ100との結合部近傍に、車幅方向に延設されたカウルインナ120が架け渡されている。
また、カウルインナ120の左右両端部には、カウルトップサイド130が載置されている。
【0004】
ここで、車体前部のサイドアウタパネル140の側面部と、カウルインナ120およびカウルトップサイド130との接合構造を示すと、図6に示すように、サイドアウタパネル140の側面部に、カウルトップサイド130の側面がスポット溶接により接合されている(図示するS10の位置で接合されている)。なお、図示しないが、カウルトップサイド130は、サイドアウタパネル140の側面部に加えて、さらに、カウルインナ120の正面部にも固定されている。
また、カウルトップサイド130は、図5に示すように、自身に形成された稜線130aより下方の位置(S10a、S10b)にスポット溶接により接合されている。
【0005】
ところで、自動車の車体は、耐久性を考慮した場合、車体前部のアッパメンバ100の断面(上下方向(Y1方向)における断面)の長さ寸法(Y1方向の長さ寸法)が所定(所定長さ寸法)以上確保されていることが望ましい。
これは、アッパメンバ100の断面の長さ寸法が所定以上あると、自動車が走行している場合などにおいて、アッパメンバ100が大きく変形しないため(変形量が小さくなるため)、車体前部のアッパメンバ100とサイドアウタパネル140との結合部近傍への負荷が軽減されるためである。なお、以下では、説明の便宜上、アッパメンバ100の断面の長さ寸法が所定の長さ寸法以上確保されている車体を「アッパメンバの断面が高い機種」という。
しかしながら、自動車には、デザインや機能等の関係から、前記断面の長さ寸法を所定以上取れない機種(以下、「アッパメンバの断面が低い機種」という)がある。
【0006】
そして、「アッパメンバの断面が高い機種」では、アッパメンバ100の変形量が小さいため、図5に示すように形成された、カウルインナ120およびカウルトップサイド130を有するカウル構造が取り付けられていても、上記の結合部近傍への負荷により、カウルインナ120の端部や、カウルトップサイド130が破損(或いは変形)することはなかった。例えば、自動車が悪路を走行したときであっても、前記の結合部近傍への負荷が小さいため、カウルトップサイド130が破損(或いは変形)することはなかった。
【0007】
一方、「アッパメンバの断面が低い機種」では、「アッパメンバの断面が高い機種」に比べて、アッパメンバ100の変形量が大きくなる。すなわち、「アッパメンバの断面が低い機種」では、前記の結合部近傍にかかる負荷が大きくなる。
そのため、「アッパメンバの断面が低い機種」において、上述した図5のカウルトップサイド130およびカウルインナ120と同様の構造のものを用いると、カウルトップサイド130(或いは、カウルインナ120)が、前記の結合部近傍への負荷の影響により破損(或いは変形)することがあった。特に、カウルトップサイド130のなかで、負荷が大きくかかる「サイドアウタパネル140との接合部近傍」が破損することが多かった。
そこで、従来から、「アッパメンバの断面が低い機種」では、例えば、カウルトップサイド130の板厚を厚くすることにより、カウルインナ120の端部や、カウルトップサイド130の破損を防止していた(カウル構造の耐久性を高めていた)。
【0008】
また、例えば、「アッパメンバの断面が低い機種」では、図7に示すような形状のカウルトップサイド131を用いることにより、前記の破損(或いは変形)を防止していた(カウル構造の耐久性を高めていた)。
具体的には、カウルトップサイド131は、サイドアウタパネル140に、その稜線131aをまたいだ上下2箇所(S20a、S20b)をスポット溶接により接合されている。このように、スポット溶接の位置を、稜線131aをまたいだ上下に分けることにより、負荷を上下に分散させ、これにより、カウルトップサイド131(或いはカウルインナ120)の板厚を厚くすることなく、前記の破損を防止していた。
なお、上述したようにサイドアウタパネルにカウルトップサイドをスポット溶接により接合させたカウル構造を備えた車体構造の構成は、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平11−34921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来技術のように、アッパメンバの断面が低い機種に対して、カウルトップサイドの板厚を厚くすることで耐久性を確保する方法は、車体の質量を増加させるという技術的課題を生じさせる。
また、上述した図7に示した「稜線をまたいだ上下2箇所をスポット溶接されるカウルトップサイド」は、図5に示したカウルトップサイドと比べて、複雑な形状になされているため製造コストの上昇を招いていた。
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、部品コストの上昇を招くことなく、所定の耐久性が確保され且つ車体前部のアッパメンバの形状に左右されることなくフレキシブルに対応できる、カウルインナおよびカウルトップサイドを有するカウル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明は、車体の前方に延びるアッパメンバが取り付けられた一対のサイドアウタパネルの前端部に架け渡された車幅方向に延びるカウルインナと、カウルインナの左右両端に載置された一対のカウルトップサイドとを備える車体のカウル構造に適用される。
そして、前記カウルインナは、その両端部に、それぞれ、車体後方に折れ曲がって延びるサブ結合部が形成され、前記カウルトップサイドは、上面および両側面が形成された断面が略コの字状になされ、前記カウルインナの両端のサブ結合部に、それぞれ、各カウルトップサイドの側面を重ね合わせて、該カウルインナの両端部を車体後方に巻き込んだ状態で、該サブ結合部と該カウルトップサイドの側面とが接合され、前記カウルインナと接合された前記カウルトップサイドの側面の端部が、前記サイドアウタパネルの側面に接合されていることを特徴とする。
【0012】
このように本発明のカウル構造では、カウルインナの両端部に、車体後方に折れ曲がって延びるサブ結合部が形成されている。そして、本発明では、カウルインナのサブ結合部を車体後方に巻きこんだ状態でカウルトップサイドに接合してから(カウルインナとカウルトップサイドとをサブアッシーしてから)、サイドアウタパネルにカウルトップサイドの端部を接合するようにしている。
これにより、カウルトップサイドの側面は、サイドアウタパネルとの接合部と、カウルインナとの接合部とにより支持されるため、サイドアウタパネルの側面に接合されたカウルトップサイドにかかる負荷を分散させることができ、カウルトップサイドの面変形が抑制される。すなわち、本発明によれば、カウルトップサイドの負荷が大きくかかる部位である「サイドアウタパネルの側面との接合部近傍」の剛性を高めることができる。
【0013】
したがって、本発明のカウル構造によれば、カウルトップサイドの剛性を確保できるため、アッパメンバの断面が低い機種にも適用することができる。
すなわち、本発明の車体のカウル構造は、車体前部のアッパメンバの形状に左右されることなく適用することが可能であるため、部品の共通化を図ることができる。
また、本発明のカウル構造では、カウルインナおよびカウルトップサイドの板厚を厚くする必要がないため、車体の質量を増加させることもない。
また、本発明は、上述した図7のように、カウルインナを複雑な形状になす必要がなく、部品コストの上昇を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、部品コストの上昇を招くことなく、且つ車体前部のアッパメンバの形状に左右されることなくフレキシブルに対応できる、カウルインナおよびカウルトップサイドを有する車体のカウル構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図4に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態のカウル構造を備えた車体前部の斜視図であり、車体前部を右斜め前方から見た斜視図を示している。
また、図2は、本発明の実施形態のカウル構造と、車体のサイドアウタパネルとの接合関係を示す、部品の分解斜視図である。また、図3は、図1に示した車体前部の構造の中から、カウル構造とサイドアウタパネルとの接合部分を拡大して示した斜視図である。
また、図4は、図3に示した車体前部のA-A断面を示した模式図である。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施形態のカウル構造は、車体Wを構成するサイドアウタパネル40の前端部に架け渡された車幅方向に延びるカウルインナ20と、カウルインナ20の左右両端にそれぞれ載置され取り付けられたカウルトップサイド30とを備えている。
なお、本実施形態は、車体Wのカウル構造、および当該カウル構造とサイドアウタパネル40との接合構造に特徴があり、それ以外の構造は従来技術のものと同様である。そのため、以下では、本発明の特徴的な構成について詳細に説明し、従来技術と同様の構成については、その説明を省略する。
【0017】
具体的には、車体Wの前部の左右両端には、それぞれ車体Wの前方向に延びる一対のアッパメンバ10が形成され、それぞれのアッパメンバ10の一端部(基端部)にサイドアウタパネル40が結合されている。
そして、サイドアウタパネル40の前端部(アッパメンバ10との結合部近傍)に、車幅方向に延設されたカウルインナ20が架け渡されている。また、カウルインナ20の左右両端部には、それぞれ、カウルトップサイド30が載置されている。
【0018】
また、図2に示すように、車幅方向に延びるカウルインナ20は、左右両端部にそれぞれ、車体後方に折れ曲がって延びる略矩形状のサブ結合部22が形成されている(なお、図示する例では、右端部だけを示している)。
また、カウルトップサイド30は、上面30aおよび両側面30b、30cが形成された断面が略コの字状になされ、側面30bの端部(図示する後端)には、カウルインナ20およびサイドアウタパネル40に接合される結合部32が形成されている。
また、サイドアウタパネル40は、車体Wの車幅方向に略平行な前端部41と、車体Wの前後方向に略平行な側面部43と備えている。また、前端部41には、カウルインナ20の端部(図2では左端部)が嵌合する形状になされたカウルインナ取付部41aと、アッパメンバ10の基端部が取り付けられるアッパメンバ取付部41bとが形成されている。
【0019】
そして、本実施形態では、カウルインナ20とカウルトップサイド30とを接合しサブアッシーしてから、サイドアウタパネル40にカウルトップサイド30の端部を接合するようにしている。
具体的には、先ず、図2に示すように、カウルインナ20のサブ結合部22の接合点22a、22bと、カウルトップサイド30の側面30bに形成された結合部32の接合点32a、32bとを重ね合わせ、その状態で、接合点22a、22bと、接合点32a、32bとをスポット溶接により接合する(図2では、カウルインナ20の右端部だけを示しているが、カウルインナ20の左端部についても同様にカウルトップサイド30が接合される)。
これにより、カウルインナ20は、両端に形成されたサブ結合部22が車体Wの後方向に巻き込まれた状態で、カウルトップサイド30に接合される。
【0020】
つぎに、カウルトップサイド30と接合したカウルインナ20の両端部をサイドアウタパネル40のカウルインナ取付部41aに載置し、且つカウルトップサイド30の結合部32の接合点32c、32dと、サイドアウタパネル40の側面部43aに形成された接合点42a、42bとを重ね合わせ、接合点32c、32dと、接合点42a、42bとをスポット溶接により接合する。
これにより、図3に示すように、カウルトップサイド30とカウルインナ20とがS2a、S2bの位置に接合されると共に、カウルインナ20とサイドアウタパネル40とがS1a、S1bの位置に接合される。
より具体的には、図4に示すように、カウルトップサイド30の側面30bは、カウルインナ20のサブ結合部22と接合位置S2で接合され、且つカウルトップサイド30の側面30bと、サイドアウタパネル40の側面部43とが接合位置S1で接合されている。
【0021】
また、本実施形態では、図3に示すように、カウルトップサイド30は、上面30aの先端部30a1が、アッパメンバ10の上面に接合される。また、カウルトップサイド30の上面30aの上端部30a2が、サイドアウタパネル40のカウルインナ取付部41aに接合される。
また、カウルトップサイド30の側面30b、30cの下端には、フランジ部30b1が形成され、そのフランジ部30b1は、サイドアウタパネル40のカウルインナ取付部41aに接合される。
【0022】
このように本実施形態では、カウルインナ20のサブ結合部22を車体Wの後方向けて巻きこんだ状態でカウルトップサイド30の側面30bに接合してから(カウルインナ20とカウルトップサイド30とをサブアッシーしてから)、サイドアウタパネル40にカウルトップサイド30の側面30bを接合するようにしている。
これにより、カウルトップサイド30の側面30bは、サイドアウタパネル40との接合点S1(S1a、S1b)と、カウルインナ20との接合点S2(S2a、S2b)とに支持されるため、サイドアウタパネル40に接合されたカウルトップサイド30にかかる負荷を分散させることができ、カウルトップサイド30の面変形が抑制される。
すなわち、本実施形態のカウル構造によれば、カウルインナ20やカウルトップサイド30の板厚を増加させることなく、カウルトップサイド30の耐久性を確保できる。
【0023】
そのため、本実施形態のカウル構造は、車体前部のアッパメンバ10の形状に左右されることなく適用することが可能であり、部品の共通化を図ることができる。
また、本実施形態のカウル構造では、カウルインナ20およびカウルトップサイド30の板厚を厚くする必要がないため、車体Wの質量を増加させることがない。
また、本発明は、上述した図7のように、カウルインナがサイドアウタパネルの稜線をまたいで接合する構成を採用していないため、カウルインナ20を複雑な形状になす必要がなく、部品コストの上昇を防止できる。
【0024】
以上説明したように、本実施形態によれば、部品コストの上昇を招くことなく、且つ車体Wの前部に形成されたアッパメンバの形状に左右されることなくフレキシブルに対応できる、カウルインナ20およびカウルトップサイド30を有する車体のカウル構造を提供することができる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態のカウル構造を備えた車体前部の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態のカウル構造と、車体のサイドアウタパネルとの接合関係を示す、部品の分解斜視図である。
【図3】図1に示した車体前部の構造の中から、カウル構造とサイドアウタパネルとの接合部分を拡大して示した斜視図である。
【図4】図3に示した車体前部のA−A断面を示した模式図である。
【図5】従来技術によるカウル構造を備える車体前部の斜視図である。
【図6】図5に示した車体前部のB−B断面を示した模式図である。
【図7】従来技術によるカウル構造を備える車体前部の斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
W 車体
10 アッパメンバ
20 カウルインナ
22 サブ結合部
22a、22b 接合点
30 カウルトップサイド
30a 上面30
30b、30c 側面
32 結合部
32a、32b、32c、32d 接合点
40 サイドアウタパネル
41 前端部
42a、42b 接合点
43 側面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前方に延びるアッパメンバが取り付けられた一対のサイドアウタパネルの前端部に架け渡された車幅方向に延びるカウルインナと、カウルインナの左右両端に載置された一対のカウルトップサイドとを備える車体のカウル構造であって、
前記カウルインナは、その両端部に、それぞれ、車体後方に折れ曲がって延びるサブ結合部が形成され、
前記カウルトップサイドは、上面および両側面が形成された断面が略コの字状になされ、
前記カウルインナの両端のサブ結合部に、それぞれ、各カウルトップサイドの側面を重ね合わせて、該カウルインナの両端部を車体後方に巻き込んだ状態で、該サブ結合部と該カウルトップサイドの側面とが接合され、
前記カウルインナと接合された前記カウルトップサイドの側面の端部が、前記サイドアウタパネルの側面に接合されていることを特徴とする車体のカウル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−137625(P2010−137625A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313915(P2008−313915)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】