車体のシーム溶接構造
【課題】少なくとも3枚の鋼板が重合する溶接部を高い強度でシーム溶接できるようにする。
【解決手段】縁部に沿って接合フランジを有する4枚の鋼板は、その接合フランジが重合する重合部を一対の溶接ローラ38で挟持して溶接ラインに沿って移動させながら、高電流・高速度のシーム溶接と低電流・低速度のシーム溶接とが交互に行われる。重合部における接合フランジのうち、一方の溶接ローラ38に接触する薄板部位は、表面側の溶け込みが大きい高電流・高速度のシーム溶接によって強固に溶接され、他方の溶接ローラ38に接触する厚板部位は、内部側の溶け込みが大きい低電流・低速度のシーム溶接によって強固に溶接されるため、従来は困難であった厚板を含む少なくとも3枚の鋼板をシーム溶接を連続的に行うことが可能になって作業効率が向上する。
【解決手段】縁部に沿って接合フランジを有する4枚の鋼板は、その接合フランジが重合する重合部を一対の溶接ローラ38で挟持して溶接ラインに沿って移動させながら、高電流・高速度のシーム溶接と低電流・低速度のシーム溶接とが交互に行われる。重合部における接合フランジのうち、一方の溶接ローラ38に接触する薄板部位は、表面側の溶け込みが大きい高電流・高速度のシーム溶接によって強固に溶接され、他方の溶接ローラ38に接触する厚板部位は、内部側の溶け込みが大きい低電流・低速度のシーム溶接によって強固に溶接されるため、従来は困難であった厚板を含む少なくとも3枚の鋼板をシーム溶接を連続的に行うことが可能になって作業効率が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縁部に沿って接合フランジを有する少なくとも3枚の鋼板を前記接合フランジにおいて重合し、その重合部を挟持する一対の溶接ローラを溶接ラインに沿って移動させることでシーム溶接する車体のシーム溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に記載されているように、従来より周知のシーム溶接は、重ね合わせた鋼板の表面を一対のローラで挟持して加圧し、両ローラに電流を供給しながら鋼板の表面に沿って転動させることで、両ローラに挟まれた鋼板をジュール熱で溶かして連続的に溶接するようになっている。
【0003】
また下記特許文献2には、アウタ部材およびインナ部材の間にリィンフォースメントを配置して二つの閉断面を構成する際に、アウタ部材の二つの接合フランジおよびインナ部材の二つの接合フランジを2本の溶接ラインでレーザー溶接するとともに、アウタ部材の二つの接合フランジおよびリィンフォースメントの両側縁を他の2本の溶接ラインでレーザー溶接するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−167895号公報
【特許文献2】特開2009−255800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抵抗溶接のうち、スポット溶接は鋼板を点状に溶接するのに対し、シーム溶接は鋼板を線状に溶接するので、溶接作業の効率が向上するだけでなく、溶接部の剥離に対する耐久性も高くなるという利点がある。しかしながら従来のシーム溶接は、2枚あるいは薄板からなる3枚の鋼板を重合した状態で溶接することは可能であったが、厚板を含む3枚あるいは4枚の鋼板を重合した状態で溶接することは困難であった。
【0006】
この問題を解決するために、厚板を含む3枚または4枚の鋼板のうちの1枚に交互に切欠きを形成することで、鋼板の重合枚数を溶接可能な2枚または3枚に抑えてシーム溶接することが考えられる。しかしながら、このようにすると、厚板を含む3枚または4枚の鋼板のうちの何れか1枚に必ず切欠きが形成されるため、その部分で溶接強度が低下することが避けられないという問題がある。
【0007】
また上記特許文献2に記載された発明をシーム溶接に適用し、厚板を含む3枚または4枚の鋼板を重合枚数が溶接可能な枚数に抑えられるように位置をずらして重ね合わせ、それら4枚の鋼板を2本の平行な溶接ラインで溶接することが考えられる。しかしながら、このようにすると、シーム溶接に要する工数が2倍に増加するだけでなく、2本の平行な溶接ラインが必要になるために溶接フランジの幅が広くなってしまい、しかも一方の溶接ラインが閉断面部分から遠い位置になって溶接部の剥離剛性が低下する問題がある。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、少なくとも3枚の鋼板が重合する溶接部を高い強度でシーム溶接できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、縁部に沿って接合フランジを有する少なくとも3枚の鋼板を前記接合フランジにおいて重合し、その重合部を挟持する一対の溶接ローラを溶接ラインに沿って移動させることでシーム溶接する車体のシーム溶接構造において、前記重合部における前記接合フランジの板厚は、一方の前記溶接ローラに接触する部分が板厚が薄い薄板部位であって他方の前記溶接ローラに接触する部分が厚板が厚い厚板部位であり、前記シーム溶接は高電流・高速度の溶接と低電流・低速度の溶接とが交互に行われ、前記高電流・高速度の溶接によって前記薄板部位が溶接されるとともに、前記低電流・低速度の溶接によって前記厚板部位が溶接されることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【0010】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、シーム溶接の開始位置では、溶接速度の増加に応じて溶接電流をスロープ状に増加させ、前記シーム溶接の終了位置では、溶接速度の減少に応じて溶接電流をスロープ状に減少させることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【0011】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、シーム溶接は前記接合フランジの根本部に沿って行われることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【0012】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、車体のドア開口の上縁の重合部にルーフアーチの端部の接合フランジが重合されてシーム溶接されることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【0013】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、シーム溶接の開始位置と終了位置との間はスポット溶接されることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の構成によれば、縁部に沿って接合フランジを有する少なくとも3枚の鋼板は、その接合フランジが重合する重合部を一対の溶接ローラで挟持して溶接ラインに沿って移動させながら、高電流・高速度のシーム溶接と低電流・低速度のシーム溶接とが交互に行われる。重合部における接合フランジのうち、一方の溶接ローラに接触する薄板部位は、表面側の溶け込みが大きい高電流・高速度のシーム溶接によって強固に溶接され、他方の溶接ローラに接触する厚板部位は、内部側の溶け込みが大きい低電流・低速度のシーム溶接によって強固に溶接されるため、従来は困難であった厚板を含む少なくとも3枚の鋼板のシーム溶接を連続的に行うことが可能になって作業効率が向上する。しかもシーム溶接を行うことで、スポット溶接とは異なる切れ目のない溶接が可能になって溶接部の剥離剛性が向上する。
【0015】
また請求項2の構成によれば、シーム溶接の開始部分では溶接速度の増加に応じて溶接電流をスロープ状に増加させ、シーム溶接の終了部分では溶接速度の減少に応じて溶接電流をスロープ状に減少させるので、シーム溶接の開始部分および終了部分でビード幅が不均一になるのを防止して溶接品質を高めることができる。
【0016】
また請求項3の構成によれば、シーム溶接を接合フランジの根本部に沿って行うので、接合フランジのフランジ幅を減少させることができるだけでなく、溶接部の剥離剛性を更に高めることができる。
【0017】
また請求項4の構成によれば、車体のドア開口の上縁の重合部にルーフアーチの端部の接合フランジが重合されてシーム溶接されるので、ドア開口の接合フランジとルーフアーチの接合フランジとが重合して板厚が増加しても、接合フランジに切欠きを形成して板厚を減少させることなくシーム溶接を行うことが可能になり、ルーフの支持剛性が向上する。
【0018】
また請求項5の構成によれば、シーム溶接の開始位置と終了位置との間をスポット溶接するので、閉ループ状の接合フランジの全周を途切れなく溶接して剥離剛性を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車体の左側のサイドアウタパネルを車室外から見た分解斜視図。
【図2】車体の左ドア開口の周囲を車室内から見た斜視図。
【図3】図2の3部拡大図。
【図4】図3の4ー4線拡大断面図。
【図5】図3の5ー5線拡大断面図。
【図6】ルーフアーチの右端とルーフサイドレールとの接続部を車室内から見た斜視図。
【図7】図6の7−7線拡大断面図。
【図8】図6の8−8線拡大断面図。
【図9】シーム溶接の手法の説明図。
【図10】低電流・低速のシーム溶接および高電流・高速のシーム溶接の溶接ビードの説明図。
【図11】溶接速度、溶接電流およびビード幅の変化を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1〜図11に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1に示すように、自動車の車体左側のサイドアウタパネル11は、フロントピラーアッパアウタ12a、ルーフサイドレールアウタ12bおよびリヤクオータパネル12cを一体に有するサイドアウタパネルアッパ12と、フロントピラーロアアウタ13aおよびサイドシルアウタ13bを一体に有するサイドアウタパネルロア13と、ルーフサイドレールアウタ12bおよびサイドシルアウタ13bを接続するセンターピラーアウタ14と、フロントピラーアッパアウタ12aおよびルーフサイドレールアウタ12bの内側に重ね合わされるルーフサイドレールスチフナ15とを予め溶接してサブアセンブリとして構成される。
【0022】
サイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aおよびルーフサイドレールアウタ12bに対するルーフサイドレールスチフナ15の結合部と、サイドアウタパネルアッパ12のルーフサイドレールアウタ12bに対するセンターピラーアウタ14の結合部と、サイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアウタ12aに対するサイドアウタパネルロア13のフロントピラーロアアウタ13aの結合部と、サイドアウタパネルロア13のサイドシルアウタ13bに対するセンターピラーアウタ14の結合部とは、鋼板が2枚重ねになる。
【0023】
図2は自動車の車体の前部左側のドア開口16を車体内側から見た図であり、前記サイドアウタパネル11の内面に接合される各パネルが示される。即ち、サイドアウタパネルロア13のフロントピラーロアアウタ13aの内面にはフロントピラーロアインナ17が結合され、サイドアウタパネルロア13のサイドシルアウタ13bの内面にはサイドシルインナ18が結合される。またセンターピラーアウタ14の下部内面にはセンターピラーロアインナ19が結合され、センターピラーアウタ14の上部内面にはセンターピラーアッパインナ20が結合される。またサイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aの下方の三角窓21の周囲内面には三角窓枠22が結合さる。
【0024】
図6および図7に示すように、サイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aは薄板で形成され、その内面には厚板のルーフサイドスチフナ15および厚板のフロントピラーアッパインナ23がそれぞれ一対の接合フランジにおいて結合されて閉断面に構成されるとともに、ルーフサイドスチフナ15およびフロントピラーアッパインナ23の間に車幅方向に延びる厚板のルーフアーチ24の両端部がそれぞれ挿入されて前記閉断面の一対の接合フランジで結合される。またルーフアーチ24よりも後方側では、フロントピラーアッパインナ23に連続してルーフレールインナ25に連続し、このルーフレールインナ25に前記センターピラーアッパインナ20の上端が結合される。
【0025】
図3および図4に示すように、ドア開口16の下方のサイドシル31は、外側のサイドアウタパネルロア13のサイドシルアウタ13bの上下の接合フランジf1,f2と、内側のサイドシルインナ18の上下の接合フランジf3,f4とを2枚重ねにして閉断面に構成される。このとき、ドア開口16に沿うサイドシルアウタ13bの上側のフランジf1とサイドシルインナ18の上側のフランジf3とは2枚重ねでシーム溶接W1されるが(図3のa部参照)、サイドシルアウタ13bの下側のフランジf2とサイドシルインナ18の下側のフランジf4とはスポット溶接W2される。
【0026】
図3および図5に示すように、サイドシル31がセンターピラー32の下端に連なる部分は、サイドシルアウタ13bの上部外面にセンターピラーアウタ14の下部外面が重ね合わされてスポット溶接W5され、かつサイドシルインナ18の上部内面にセンターピラーロアインナ19の下部内面が重ね合わされてスポット溶接W3される。そしてサイドシルアウタ13bの接合フランジf1とセンターピラーアウタ14の接合フランジf5とが重ね合わされるとともに、サイドシルインナ18の接合フランジf3とセンターピラーロアインナ19の接合フランジf6とが重ね合わされ、この4個の接合フランジf5,f1,f3,f6が4枚重ねに重合する部分がシーム溶接W1される(図3のb部参照)。
【0027】
図3にc部として示すように、センターピラー32の下部において、センターピラーロアインナ19の上下方向中間部の接合フランジはセンターピラーアウタ14の接合フランジに重ね合わされ、そこが2枚重ねでシーム溶接W1される。図3にd部として示すように、センターピラーロアインナ19の上端の接合フランジとセンターピラーアッパインナ20の下端の接合フランジとはセンターピラーアウタ14の接合フランジに重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0028】
図3にe部として示すように、センターピラー32の上下方向中間部において、センターピラーアッパインナ20の前側の接合フランジはセンターピラーアウタ14の前側の接合フランジに重ね合わされ、そこが2枚重ねでシーム溶接W1される。図2にf部として示すように、センターピラー32の上部において、センターピラーアウタ14の前側の接合フランジとルーフサイドレールアウタ12bの前側の接合フランジとはセンターピラーアッパインナ20の前側の接合フランジに重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0029】
図3に示すように、サイドシル31がフロントピラーロア33の下端に連なる部分は、サイドシルインナ18の前部にフロントピラーロアインナ17の下部が重ね合わされてスポット溶接W4される。図2および図3にg部として示すように、サイドアウタパネルロア13のフロントピラーロアアウタ13aの後側の接合フランジにフロントピラーロアインナ17の接合フランジが重ね合わされ、そこが2枚重ねでシーム溶接W1される。但し、フロントドアの上下2個のドアヒンジスチフナ34,34がフロントピラーロアアウタ13aおよびフロントピラーロアインナ17間に挟まれた部分だけは、ドアヒンジスチフナ34,34を含む3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0030】
図2にh部として示すように、三角窓21の下部において、フロントピラーロアインナ17の後側の接合フランジと三角窓枠22の後側の接合フランジとはサイドアウタパネルロア13のフロントピラーロアアウタ13aの後側の接合フランジに重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。図2にi部として示すように、三角窓21の上下方向中間部において、三角窓枠22の後側の接合フランジはサイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aの後側の接合フランジに重ね合わされ、そこが2枚重ねでシーム溶接W1される。図2にj部として示すように、三角窓21の上部において、三角窓枠22の後側の接合フランジはサイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aの下側の接合フランジとルーフサイドレールスチフナ15とに重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0031】
図6および図2にk部として示すように、フロントピラーアッパ35において、フロントピラーアッパアウタ12aおよびルーフサイドレールスチフナ15の下側の接合フランジにフロントピラーアッパインナ23の下側の接合フランジが重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。図6および図2にm部として示すように、フロントピラーアッパ35の後端では、前記k部に更にルーフアーチ24の接合フランジが重ね合わされ、そこが4枚重ねでシーム溶接W1される。図6および図2にn部として示すように、ルーフサイドレール36において、ルーフサイドレールアウタ12bおよびルーフサイドレールスチフナ15の下側の接合フランジにルーフレールインナ25の下側の接合フランジが重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0032】
以上のように、ドア開口16の周囲に沿うシーム溶接W1の溶接ラインは、接合フランジの重合枚数が2枚から4枚の間で変化している。
【0033】
ところで、図9に示すように、上記シーム溶接W1は、複数枚の溶接フランジを重ね合わせた重合部37を2個の溶接ローラ38,38で挟持し、その溶接ローラ38,38に電流を供給しながら溶接ライン上を転動させることで行われる。図2に示すように、ドア開口16の周縁のうち、センターピラー32およびルーフサイドレール36の接続部Aは鋭角αになっているため、前記溶接ローラ38,38を方向変換するスペースを確保することができず、その部分はシーム溶接W1が不能になる。よって、ドア開口16の周縁のシーム溶接W1は、前記接続部Aの一方側の溶接開始位置P1から開始し、前記接続部Aの他方側の溶接終了位置P2で終了するように設定される。
【0034】
このように、ドア開口16の周囲を1本の溶接ラインに沿ってシーム溶接W1することで、そこをスポット溶接する場合に比べて作業時間が大幅に短縮されて作業効率が向上する。但し、センターピラー32およびルーフサイドレール36が鋭角αを成すためにシーム溶接W1が不能になる接続部Aの溶接開始位置P1から溶接終了位置P2の間は、その部分の強度低下を防止するためにスポット溶接W6される。
【0035】
ところで、接合フランジの重合部37をシーム溶接W1するとき、一対の電極である溶接ローラ38,38に高電流を流しながら高速で移動させると、溶接ローラ38,38に接する表面が急激に加熱されて表面の溶け込みが増加し、かつ溶接ローラ38,38が高速で移動するので溶接ビードの幅が図10(A)に示すように小さくなる。逆に溶接ローラ38,38に低電流を流しながら低速で移動させると、内部から加熱されることで内部の溶け込みが増加して溶接ビードの幅が図10(B)に示すように大きくなる。
【0036】
図6および図2にm部として示すように、フロントピラーアッパ35の後端では、前記k部に更にルーフアーチ24の接合フランジが重ね合わされ、そこが4枚重ねでシーム溶接W1される。このように重合枚数が多い部分は、高電流を流しながらの高速での移動と低電流を流しながらの低速での移動とを組み合わせて接合強度を向上させている。即ち、図8に示すように、高電流を流しながらの高速での移動と低電流を流しながらの低速での移動とを交互に繰り返し連続させることにより、フロントピラーアッパアウタ12aとルーフサイドレールスチフナ15との表面接合部を断続的に形成し、この複数の表面接合部の間にルーフサイドレールスチフナ15、ルーフアーチ24およびフロントピラーアッパインナ23の内部接合部を断続的に形成し、前記隣接する内部接合部間に溶接ローラ38,38による余熱接合部を形成することにより、ルーフアーチ24の接合フランジの重ね合わせ部(m部)に全体として充分な接合強度を付与し、剥離剛性を高めることができる。
【0037】
ルーフアーチ24の接合フランジの重ね合わせ部(m部)を除く2枚接合の部位は、図10(A)で説明したように、高電流・高速度でシーム溶接W1を行うと表面の溶け込みが増加するが、接合フランジの重合枚数が2枚と少ないために確実に溶接することができる。また溶接ビードの幅が狭くなるので、接合フランジの幅を狭くして車体重量の軽減に寄与することができるだけでなく、溶接速度が大きいために溶接時間を節減することができる。
【0038】
また隣接する板材との重ね合わせ部で部分的に3枚または4枚となるf部、d部、b部、j部、k部、n部等で当該隣接する板材の内部接合・余熱接合が重要な領域では、図10(B)で説明したように、低電流・低速度でシーム溶接W1を行うと内部の溶け込みが増加するため、内側の2枚目および3枚目の接合フランジを確実に溶かして溶接することができる。また溶接ビードの幅が広くなるので、それに合わせて接合フランジの幅を広くする必要があるが、重合枚数が3枚または4枚の部分は全体からみて少ないために車体重量の増加が問題になることはない。また溶接速度が低いために溶接時間も長くなるが、重合枚数が3枚または4枚の部分は全体からみて少ないために溶接時間の増加が問題になる。
【0039】
尚、各部材の接合フランジの幅は重量を軽減する上で狭いほうが望ましい。本実施の形態では、接合フランジの幅を最小限に抑えるべく、その溶接ラインの位置を接合フランジの根本部(折り曲げ部)に接するように位置させている。
【0040】
図11のグラフはルーフアーチ24の接合部のシーム溶接W1の電流および速度の変化を示すもので、時刻t1にルーフアーチ24の接合部の一方の端部から4枚重ねの接合フランジのシーム溶接W1を開始し、時刻t5に4枚重ねの接合フランジのシーム溶接W1を終了する。
【0041】
時刻t1から時刻t2までは、電流および速度をスロープ状に増加させ、これにより時刻t1〜t2の期間でビード幅が一定に維持される。時刻t2から時刻t3までは、高電流および高速度を維持して表面接合のシーム溶接W1を行う。このときのビード幅は一定で狭くなる。時刻t3に電流および速度を減少させ、時刻t3から時刻t4までは、低電流および低速度を維持して内部接合および余熱接合のシーム溶接W1を行う。このときのビード幅は一定で広くなる。これら表面接合、内部接合および余熱接合を4枚重ねの接合フランジの長さに応じて交互に必要に応じて繰り返し、その後、時刻t4から時刻t5までは、電流および速度をスロープ状に減少させ、これにより時刻t4〜t5の期間でビード幅が一定に維持される。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0043】
例えば、実施の形態では本発明を車両のドア開口16のシーム溶接W1に適用しているが、本発明は車両の他の任意の部位のシーム溶接に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
f1〜f6 接合フランジ
P1 シーム溶接の開始位置
P2 シーム溶接の終了位置
W1 シーム溶接
W6 スポット溶接
16 ドア開口
24 ルーフアーチ
37 重合部
38 溶接ローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、縁部に沿って接合フランジを有する少なくとも3枚の鋼板を前記接合フランジにおいて重合し、その重合部を挟持する一対の溶接ローラを溶接ラインに沿って移動させることでシーム溶接する車体のシーム溶接構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に記載されているように、従来より周知のシーム溶接は、重ね合わせた鋼板の表面を一対のローラで挟持して加圧し、両ローラに電流を供給しながら鋼板の表面に沿って転動させることで、両ローラに挟まれた鋼板をジュール熱で溶かして連続的に溶接するようになっている。
【0003】
また下記特許文献2には、アウタ部材およびインナ部材の間にリィンフォースメントを配置して二つの閉断面を構成する際に、アウタ部材の二つの接合フランジおよびインナ部材の二つの接合フランジを2本の溶接ラインでレーザー溶接するとともに、アウタ部材の二つの接合フランジおよびリィンフォースメントの両側縁を他の2本の溶接ラインでレーザー溶接するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−167895号公報
【特許文献2】特開2009−255800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抵抗溶接のうち、スポット溶接は鋼板を点状に溶接するのに対し、シーム溶接は鋼板を線状に溶接するので、溶接作業の効率が向上するだけでなく、溶接部の剥離に対する耐久性も高くなるという利点がある。しかしながら従来のシーム溶接は、2枚あるいは薄板からなる3枚の鋼板を重合した状態で溶接することは可能であったが、厚板を含む3枚あるいは4枚の鋼板を重合した状態で溶接することは困難であった。
【0006】
この問題を解決するために、厚板を含む3枚または4枚の鋼板のうちの1枚に交互に切欠きを形成することで、鋼板の重合枚数を溶接可能な2枚または3枚に抑えてシーム溶接することが考えられる。しかしながら、このようにすると、厚板を含む3枚または4枚の鋼板のうちの何れか1枚に必ず切欠きが形成されるため、その部分で溶接強度が低下することが避けられないという問題がある。
【0007】
また上記特許文献2に記載された発明をシーム溶接に適用し、厚板を含む3枚または4枚の鋼板を重合枚数が溶接可能な枚数に抑えられるように位置をずらして重ね合わせ、それら4枚の鋼板を2本の平行な溶接ラインで溶接することが考えられる。しかしながら、このようにすると、シーム溶接に要する工数が2倍に増加するだけでなく、2本の平行な溶接ラインが必要になるために溶接フランジの幅が広くなってしまい、しかも一方の溶接ラインが閉断面部分から遠い位置になって溶接部の剥離剛性が低下する問題がある。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、少なくとも3枚の鋼板が重合する溶接部を高い強度でシーム溶接できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、縁部に沿って接合フランジを有する少なくとも3枚の鋼板を前記接合フランジにおいて重合し、その重合部を挟持する一対の溶接ローラを溶接ラインに沿って移動させることでシーム溶接する車体のシーム溶接構造において、前記重合部における前記接合フランジの板厚は、一方の前記溶接ローラに接触する部分が板厚が薄い薄板部位であって他方の前記溶接ローラに接触する部分が厚板が厚い厚板部位であり、前記シーム溶接は高電流・高速度の溶接と低電流・低速度の溶接とが交互に行われ、前記高電流・高速度の溶接によって前記薄板部位が溶接されるとともに、前記低電流・低速度の溶接によって前記厚板部位が溶接されることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【0010】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、シーム溶接の開始位置では、溶接速度の増加に応じて溶接電流をスロープ状に増加させ、前記シーム溶接の終了位置では、溶接速度の減少に応じて溶接電流をスロープ状に減少させることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【0011】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、シーム溶接は前記接合フランジの根本部に沿って行われることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【0012】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、車体のドア開口の上縁の重合部にルーフアーチの端部の接合フランジが重合されてシーム溶接されることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【0013】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、シーム溶接の開始位置と終了位置との間はスポット溶接されることを特徴とする車体のシーム溶接構造が提案される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の構成によれば、縁部に沿って接合フランジを有する少なくとも3枚の鋼板は、その接合フランジが重合する重合部を一対の溶接ローラで挟持して溶接ラインに沿って移動させながら、高電流・高速度のシーム溶接と低電流・低速度のシーム溶接とが交互に行われる。重合部における接合フランジのうち、一方の溶接ローラに接触する薄板部位は、表面側の溶け込みが大きい高電流・高速度のシーム溶接によって強固に溶接され、他方の溶接ローラに接触する厚板部位は、内部側の溶け込みが大きい低電流・低速度のシーム溶接によって強固に溶接されるため、従来は困難であった厚板を含む少なくとも3枚の鋼板のシーム溶接を連続的に行うことが可能になって作業効率が向上する。しかもシーム溶接を行うことで、スポット溶接とは異なる切れ目のない溶接が可能になって溶接部の剥離剛性が向上する。
【0015】
また請求項2の構成によれば、シーム溶接の開始部分では溶接速度の増加に応じて溶接電流をスロープ状に増加させ、シーム溶接の終了部分では溶接速度の減少に応じて溶接電流をスロープ状に減少させるので、シーム溶接の開始部分および終了部分でビード幅が不均一になるのを防止して溶接品質を高めることができる。
【0016】
また請求項3の構成によれば、シーム溶接を接合フランジの根本部に沿って行うので、接合フランジのフランジ幅を減少させることができるだけでなく、溶接部の剥離剛性を更に高めることができる。
【0017】
また請求項4の構成によれば、車体のドア開口の上縁の重合部にルーフアーチの端部の接合フランジが重合されてシーム溶接されるので、ドア開口の接合フランジとルーフアーチの接合フランジとが重合して板厚が増加しても、接合フランジに切欠きを形成して板厚を減少させることなくシーム溶接を行うことが可能になり、ルーフの支持剛性が向上する。
【0018】
また請求項5の構成によれば、シーム溶接の開始位置と終了位置との間をスポット溶接するので、閉ループ状の接合フランジの全周を途切れなく溶接して剥離剛性を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車体の左側のサイドアウタパネルを車室外から見た分解斜視図。
【図2】車体の左ドア開口の周囲を車室内から見た斜視図。
【図3】図2の3部拡大図。
【図4】図3の4ー4線拡大断面図。
【図5】図3の5ー5線拡大断面図。
【図6】ルーフアーチの右端とルーフサイドレールとの接続部を車室内から見た斜視図。
【図7】図6の7−7線拡大断面図。
【図8】図6の8−8線拡大断面図。
【図9】シーム溶接の手法の説明図。
【図10】低電流・低速のシーム溶接および高電流・高速のシーム溶接の溶接ビードの説明図。
【図11】溶接速度、溶接電流およびビード幅の変化を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1〜図11に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1に示すように、自動車の車体左側のサイドアウタパネル11は、フロントピラーアッパアウタ12a、ルーフサイドレールアウタ12bおよびリヤクオータパネル12cを一体に有するサイドアウタパネルアッパ12と、フロントピラーロアアウタ13aおよびサイドシルアウタ13bを一体に有するサイドアウタパネルロア13と、ルーフサイドレールアウタ12bおよびサイドシルアウタ13bを接続するセンターピラーアウタ14と、フロントピラーアッパアウタ12aおよびルーフサイドレールアウタ12bの内側に重ね合わされるルーフサイドレールスチフナ15とを予め溶接してサブアセンブリとして構成される。
【0022】
サイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aおよびルーフサイドレールアウタ12bに対するルーフサイドレールスチフナ15の結合部と、サイドアウタパネルアッパ12のルーフサイドレールアウタ12bに対するセンターピラーアウタ14の結合部と、サイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアウタ12aに対するサイドアウタパネルロア13のフロントピラーロアアウタ13aの結合部と、サイドアウタパネルロア13のサイドシルアウタ13bに対するセンターピラーアウタ14の結合部とは、鋼板が2枚重ねになる。
【0023】
図2は自動車の車体の前部左側のドア開口16を車体内側から見た図であり、前記サイドアウタパネル11の内面に接合される各パネルが示される。即ち、サイドアウタパネルロア13のフロントピラーロアアウタ13aの内面にはフロントピラーロアインナ17が結合され、サイドアウタパネルロア13のサイドシルアウタ13bの内面にはサイドシルインナ18が結合される。またセンターピラーアウタ14の下部内面にはセンターピラーロアインナ19が結合され、センターピラーアウタ14の上部内面にはセンターピラーアッパインナ20が結合される。またサイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aの下方の三角窓21の周囲内面には三角窓枠22が結合さる。
【0024】
図6および図7に示すように、サイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aは薄板で形成され、その内面には厚板のルーフサイドスチフナ15および厚板のフロントピラーアッパインナ23がそれぞれ一対の接合フランジにおいて結合されて閉断面に構成されるとともに、ルーフサイドスチフナ15およびフロントピラーアッパインナ23の間に車幅方向に延びる厚板のルーフアーチ24の両端部がそれぞれ挿入されて前記閉断面の一対の接合フランジで結合される。またルーフアーチ24よりも後方側では、フロントピラーアッパインナ23に連続してルーフレールインナ25に連続し、このルーフレールインナ25に前記センターピラーアッパインナ20の上端が結合される。
【0025】
図3および図4に示すように、ドア開口16の下方のサイドシル31は、外側のサイドアウタパネルロア13のサイドシルアウタ13bの上下の接合フランジf1,f2と、内側のサイドシルインナ18の上下の接合フランジf3,f4とを2枚重ねにして閉断面に構成される。このとき、ドア開口16に沿うサイドシルアウタ13bの上側のフランジf1とサイドシルインナ18の上側のフランジf3とは2枚重ねでシーム溶接W1されるが(図3のa部参照)、サイドシルアウタ13bの下側のフランジf2とサイドシルインナ18の下側のフランジf4とはスポット溶接W2される。
【0026】
図3および図5に示すように、サイドシル31がセンターピラー32の下端に連なる部分は、サイドシルアウタ13bの上部外面にセンターピラーアウタ14の下部外面が重ね合わされてスポット溶接W5され、かつサイドシルインナ18の上部内面にセンターピラーロアインナ19の下部内面が重ね合わされてスポット溶接W3される。そしてサイドシルアウタ13bの接合フランジf1とセンターピラーアウタ14の接合フランジf5とが重ね合わされるとともに、サイドシルインナ18の接合フランジf3とセンターピラーロアインナ19の接合フランジf6とが重ね合わされ、この4個の接合フランジf5,f1,f3,f6が4枚重ねに重合する部分がシーム溶接W1される(図3のb部参照)。
【0027】
図3にc部として示すように、センターピラー32の下部において、センターピラーロアインナ19の上下方向中間部の接合フランジはセンターピラーアウタ14の接合フランジに重ね合わされ、そこが2枚重ねでシーム溶接W1される。図3にd部として示すように、センターピラーロアインナ19の上端の接合フランジとセンターピラーアッパインナ20の下端の接合フランジとはセンターピラーアウタ14の接合フランジに重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0028】
図3にe部として示すように、センターピラー32の上下方向中間部において、センターピラーアッパインナ20の前側の接合フランジはセンターピラーアウタ14の前側の接合フランジに重ね合わされ、そこが2枚重ねでシーム溶接W1される。図2にf部として示すように、センターピラー32の上部において、センターピラーアウタ14の前側の接合フランジとルーフサイドレールアウタ12bの前側の接合フランジとはセンターピラーアッパインナ20の前側の接合フランジに重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0029】
図3に示すように、サイドシル31がフロントピラーロア33の下端に連なる部分は、サイドシルインナ18の前部にフロントピラーロアインナ17の下部が重ね合わされてスポット溶接W4される。図2および図3にg部として示すように、サイドアウタパネルロア13のフロントピラーロアアウタ13aの後側の接合フランジにフロントピラーロアインナ17の接合フランジが重ね合わされ、そこが2枚重ねでシーム溶接W1される。但し、フロントドアの上下2個のドアヒンジスチフナ34,34がフロントピラーロアアウタ13aおよびフロントピラーロアインナ17間に挟まれた部分だけは、ドアヒンジスチフナ34,34を含む3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0030】
図2にh部として示すように、三角窓21の下部において、フロントピラーロアインナ17の後側の接合フランジと三角窓枠22の後側の接合フランジとはサイドアウタパネルロア13のフロントピラーロアアウタ13aの後側の接合フランジに重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。図2にi部として示すように、三角窓21の上下方向中間部において、三角窓枠22の後側の接合フランジはサイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aの後側の接合フランジに重ね合わされ、そこが2枚重ねでシーム溶接W1される。図2にj部として示すように、三角窓21の上部において、三角窓枠22の後側の接合フランジはサイドアウタパネルアッパ12のフロントピラーアッパアウタ12aの下側の接合フランジとルーフサイドレールスチフナ15とに重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0031】
図6および図2にk部として示すように、フロントピラーアッパ35において、フロントピラーアッパアウタ12aおよびルーフサイドレールスチフナ15の下側の接合フランジにフロントピラーアッパインナ23の下側の接合フランジが重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。図6および図2にm部として示すように、フロントピラーアッパ35の後端では、前記k部に更にルーフアーチ24の接合フランジが重ね合わされ、そこが4枚重ねでシーム溶接W1される。図6および図2にn部として示すように、ルーフサイドレール36において、ルーフサイドレールアウタ12bおよびルーフサイドレールスチフナ15の下側の接合フランジにルーフレールインナ25の下側の接合フランジが重ね合わされ、そこが3枚重ねでシーム溶接W1される。
【0032】
以上のように、ドア開口16の周囲に沿うシーム溶接W1の溶接ラインは、接合フランジの重合枚数が2枚から4枚の間で変化している。
【0033】
ところで、図9に示すように、上記シーム溶接W1は、複数枚の溶接フランジを重ね合わせた重合部37を2個の溶接ローラ38,38で挟持し、その溶接ローラ38,38に電流を供給しながら溶接ライン上を転動させることで行われる。図2に示すように、ドア開口16の周縁のうち、センターピラー32およびルーフサイドレール36の接続部Aは鋭角αになっているため、前記溶接ローラ38,38を方向変換するスペースを確保することができず、その部分はシーム溶接W1が不能になる。よって、ドア開口16の周縁のシーム溶接W1は、前記接続部Aの一方側の溶接開始位置P1から開始し、前記接続部Aの他方側の溶接終了位置P2で終了するように設定される。
【0034】
このように、ドア開口16の周囲を1本の溶接ラインに沿ってシーム溶接W1することで、そこをスポット溶接する場合に比べて作業時間が大幅に短縮されて作業効率が向上する。但し、センターピラー32およびルーフサイドレール36が鋭角αを成すためにシーム溶接W1が不能になる接続部Aの溶接開始位置P1から溶接終了位置P2の間は、その部分の強度低下を防止するためにスポット溶接W6される。
【0035】
ところで、接合フランジの重合部37をシーム溶接W1するとき、一対の電極である溶接ローラ38,38に高電流を流しながら高速で移動させると、溶接ローラ38,38に接する表面が急激に加熱されて表面の溶け込みが増加し、かつ溶接ローラ38,38が高速で移動するので溶接ビードの幅が図10(A)に示すように小さくなる。逆に溶接ローラ38,38に低電流を流しながら低速で移動させると、内部から加熱されることで内部の溶け込みが増加して溶接ビードの幅が図10(B)に示すように大きくなる。
【0036】
図6および図2にm部として示すように、フロントピラーアッパ35の後端では、前記k部に更にルーフアーチ24の接合フランジが重ね合わされ、そこが4枚重ねでシーム溶接W1される。このように重合枚数が多い部分は、高電流を流しながらの高速での移動と低電流を流しながらの低速での移動とを組み合わせて接合強度を向上させている。即ち、図8に示すように、高電流を流しながらの高速での移動と低電流を流しながらの低速での移動とを交互に繰り返し連続させることにより、フロントピラーアッパアウタ12aとルーフサイドレールスチフナ15との表面接合部を断続的に形成し、この複数の表面接合部の間にルーフサイドレールスチフナ15、ルーフアーチ24およびフロントピラーアッパインナ23の内部接合部を断続的に形成し、前記隣接する内部接合部間に溶接ローラ38,38による余熱接合部を形成することにより、ルーフアーチ24の接合フランジの重ね合わせ部(m部)に全体として充分な接合強度を付与し、剥離剛性を高めることができる。
【0037】
ルーフアーチ24の接合フランジの重ね合わせ部(m部)を除く2枚接合の部位は、図10(A)で説明したように、高電流・高速度でシーム溶接W1を行うと表面の溶け込みが増加するが、接合フランジの重合枚数が2枚と少ないために確実に溶接することができる。また溶接ビードの幅が狭くなるので、接合フランジの幅を狭くして車体重量の軽減に寄与することができるだけでなく、溶接速度が大きいために溶接時間を節減することができる。
【0038】
また隣接する板材との重ね合わせ部で部分的に3枚または4枚となるf部、d部、b部、j部、k部、n部等で当該隣接する板材の内部接合・余熱接合が重要な領域では、図10(B)で説明したように、低電流・低速度でシーム溶接W1を行うと内部の溶け込みが増加するため、内側の2枚目および3枚目の接合フランジを確実に溶かして溶接することができる。また溶接ビードの幅が広くなるので、それに合わせて接合フランジの幅を広くする必要があるが、重合枚数が3枚または4枚の部分は全体からみて少ないために車体重量の増加が問題になることはない。また溶接速度が低いために溶接時間も長くなるが、重合枚数が3枚または4枚の部分は全体からみて少ないために溶接時間の増加が問題になる。
【0039】
尚、各部材の接合フランジの幅は重量を軽減する上で狭いほうが望ましい。本実施の形態では、接合フランジの幅を最小限に抑えるべく、その溶接ラインの位置を接合フランジの根本部(折り曲げ部)に接するように位置させている。
【0040】
図11のグラフはルーフアーチ24の接合部のシーム溶接W1の電流および速度の変化を示すもので、時刻t1にルーフアーチ24の接合部の一方の端部から4枚重ねの接合フランジのシーム溶接W1を開始し、時刻t5に4枚重ねの接合フランジのシーム溶接W1を終了する。
【0041】
時刻t1から時刻t2までは、電流および速度をスロープ状に増加させ、これにより時刻t1〜t2の期間でビード幅が一定に維持される。時刻t2から時刻t3までは、高電流および高速度を維持して表面接合のシーム溶接W1を行う。このときのビード幅は一定で狭くなる。時刻t3に電流および速度を減少させ、時刻t3から時刻t4までは、低電流および低速度を維持して内部接合および余熱接合のシーム溶接W1を行う。このときのビード幅は一定で広くなる。これら表面接合、内部接合および余熱接合を4枚重ねの接合フランジの長さに応じて交互に必要に応じて繰り返し、その後、時刻t4から時刻t5までは、電流および速度をスロープ状に減少させ、これにより時刻t4〜t5の期間でビード幅が一定に維持される。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0043】
例えば、実施の形態では本発明を車両のドア開口16のシーム溶接W1に適用しているが、本発明は車両の他の任意の部位のシーム溶接に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
f1〜f6 接合フランジ
P1 シーム溶接の開始位置
P2 シーム溶接の終了位置
W1 シーム溶接
W6 スポット溶接
16 ドア開口
24 ルーフアーチ
37 重合部
38 溶接ローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縁部に沿って接合フランジを有する少なくとも3枚の鋼板を前記接合フランジにおいて重合し、その重合部を挟持する一対の溶接ローラを溶接ラインに沿って移動させることでシーム溶接する車体のシーム溶接構造において、
前記重合部における前記接合フランジの板厚は、一方の前記溶接ローラに接触する部分が板厚が薄い薄板部位であって他方の前記溶接ローラに接触する部分が厚板が厚い厚板部位であり、前記シーム溶接は高電流・高速度の溶接と低電流・低速度の溶接とが交互に行われ、前記高電流・高速度の溶接によって前記薄板部位が溶接されるとともに、前記低電流・低速度の溶接によって前記厚板部位が溶接されることを特徴とする車体のシーム溶接構造。
【請求項2】
シーム溶接の開始位置では、溶接速度の増加に応じて溶接電流をスロープ状に増加させ、前記シーム溶接の終了位置では、溶接速度の減少に応じて溶接電流をスロープ状に減少させることを特徴とする、請求項1に記載の車体のシーム溶接構造。
【請求項3】
シーム溶接は前記接合フランジの根本部に沿って行われることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車体のシーム溶接構造。
【請求項4】
車体のドア開口の上縁の重合部にルーフアーチの端部の接合フランジが重合されてシーム溶接されることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車体のシーム溶接構造。
【請求項5】
シーム溶接の開始位置と終了位置との間はスポット溶接されることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車体のシーム溶接構造。
【請求項1】
縁部に沿って接合フランジを有する少なくとも3枚の鋼板を前記接合フランジにおいて重合し、その重合部を挟持する一対の溶接ローラを溶接ラインに沿って移動させることでシーム溶接する車体のシーム溶接構造において、
前記重合部における前記接合フランジの板厚は、一方の前記溶接ローラに接触する部分が板厚が薄い薄板部位であって他方の前記溶接ローラに接触する部分が厚板が厚い厚板部位であり、前記シーム溶接は高電流・高速度の溶接と低電流・低速度の溶接とが交互に行われ、前記高電流・高速度の溶接によって前記薄板部位が溶接されるとともに、前記低電流・低速度の溶接によって前記厚板部位が溶接されることを特徴とする車体のシーム溶接構造。
【請求項2】
シーム溶接の開始位置では、溶接速度の増加に応じて溶接電流をスロープ状に増加させ、前記シーム溶接の終了位置では、溶接速度の減少に応じて溶接電流をスロープ状に減少させることを特徴とする、請求項1に記載の車体のシーム溶接構造。
【請求項3】
シーム溶接は前記接合フランジの根本部に沿って行われることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車体のシーム溶接構造。
【請求項4】
車体のドア開口の上縁の重合部にルーフアーチの端部の接合フランジが重合されてシーム溶接されることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車体のシーム溶接構造。
【請求項5】
シーム溶接の開始位置と終了位置との間はスポット溶接されることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車体のシーム溶接構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−110937(P2012−110937A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262176(P2010−262176)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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