説明

車体のパネル接合構造

【課題】異種金属からなるパネル同士の間に介在させた電食防止用シール材の垂れ落ちを容易に防止することができる車体のパネル接合構造を提供すること。
【解決手段】互いに異なる金属からなると共に車体1を構成するルーフサイドアウタパネル(第一パネル)4と、ルーフパネル(第二パネル)6とのそれぞれの端部10、20を折り曲げて起立面11、21を形成すると共に、この起立面11、21の端部をさらに折り曲げて接合面12、22を形成し、ルーフサイドアウタパネル4の接合面12の上側に電食防止用シール材Sを介してルーフパネル6の接合面22を重複させて接合する車体のパネル接合構造であって、ルーフサイドアウタパネル4の接合面12は、先端部にへこんだエンボス部13が形成されると共に、延在部(エンボス部13が形成されていない部分)14は、エンボス部13よりも起立面11からの延在長T1が長くなるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電食防止用シール材を介して異種金属からなる第一、第二パネルの互いの端部を接合する車体のパネル接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボディサイドアウタパネルの端部を断面ほぼL字状に形成すると共に、ルーフパネルの端部を断面ほぼL字状に形成し、各パネルの端部を重複して接合した車体のパネル接合構造が知られている(例えば、特許文献1、2等参照)。
【0003】
この車体のパネル接合構造では、ボディサイドアウタパネルの端部上にルーフパネルの端部を載せてから接合手段を介して接合し、さらに、ルーフパネルの端部に沿ってシール材が充填されている。なお、接合手段とは、ボルト及びナットや、スポット溶接等である。
【0004】
ここで、この車体のパネル接合構造では、ボディサイドアウタパネルとルーフパネルとが互いに異なる金属によって形成された場合では、パネル間に結露等で水分が浸入すると、異種金属間相互のイオン化傾向差によって電食(錆)が生じることがあった。
【0005】
そのため、ボディサイドアウタパネルとルーフパネルとの間に電食を防止するシール材を介在させる必要があった。
【特許文献1】特開平7−329653号公報
【特許文献2】実公平4−31894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の車体のパネル接合構造において、ボディサイドアウタパネルとルーフパネルとの間に電食防止用シール材を介在させた場合、パネル間からはみ出したシール材が車両内側に垂れ落ちないように、このはみ出したシール材を拭き取らなければならず、シール材の垂れ落ち防止に手間がかかるという問題が生じていた。
【0007】
そこでこの発明は、異種金属からなる車体を構成するパネル同士の間に介在させた電食防止用シール材の垂れ落ちを抑制することができる車体のパネル接合構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、互いに異なる金属からなると共に車体を構成する第一、第二パネルのそれぞれの端部を折り曲げて起立面を形成すると共に、この起立面の端部をさらに折り曲げて接合面を形成し、前記第一パネルの接合面の上側に電食防止用シール材を介して前記第二パネルの接合面を重複させて接合する車体のパネル接合構造であって、前記第一パネルの接合面は、先端部にへこんだエンボス部が形成されると共に、このエンボス部が形成されていない部分は、前記エンボス部よりも起立面からの延在長が長くなるように設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された本発明によると、第一パネルの接合面の先端部に形成されたエンボス部と、このエンボス部よりも起立面からの延在長が長いエンボス部が形成されていない部分とにより、第一、第二パネル間からはみ出した電食防止用シール材を受け止めることができる。
【0010】
これにより、電食防止用シール材の垂れ落ちを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明に関わる車体のパネル接合構造を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1(a)に示すように、自動車の車体1の両側部には図示しない開口が形成され、この開口を開閉するドア2がそれぞれ設けられている。そして、ドア2によって開閉される開口の上部には、車両前後方向に延びる鉄製のルーフサイドレール3が設けられている。
【0013】
このルーフサイドレール3は、図1(b)に示すように、車室外側に位置するルーフサイドアウタパネル4と、車室内側に位置するルーフサイドインナパネル5とからなる閉断面形状を有している。
【0014】
そして、このルーフサイドアウタパネル4及びルーフサイドインナパネル5の車両前後方向に沿った両縁部がそれぞれスポット溶接により接合されている。
【0015】
また、この車体1の上部にはアルミニウム製のルーフパネル6が載置され、このルーフパネル6の車両前後方向に延びる側部20がルーフサイドアウタパネル4の上縁部10に接合されている。
【0016】
ここで、ルーフサイドアウタパネル4の上側に位置する上縁部10には、ルーフサイドインナパネル5側、すなわち下方に向けて折り曲げられて起立面11が形成されると共に、この起立面11の端部がさらに車両内側に向けて折り曲げられて接合面12が形成されている。
【0017】
一方、ルーフパネル6の側部20には、ルーフサイドインナパネル5側、すなわち下方に向けて折り曲げられて起立面21が形成されると共に、この起立面21の端部がさらに車両外側に向けて折り曲げられて接合面22が形成されている。
【0018】
そして、ルーフパネル6の接合面22は、ルーフサイドアウタパネル4の接合面12の上側に電食防止用シール材(以下、シール材という)Sを介して重複され、リベットRによって接合されている(図5参照)。なお、このシール材Sは、接合面12と接合面22との間を完全に遮断する程度まで十分に充填されている。
【0019】
さらに、ルーフパネル6の接合面22の端縁22aに沿って、この端縁22aとルーフサイドアウタパネル4の起立面11との間に防水用のペイントシール材Pが充填されている。なお、このペイントシール材Pは、端縁22aを完全に覆う程度まで十分に充填されている。
【0020】
ルーフサイドアウタパネル4の接合面12の先端部には、図2及び図3に示すように、複数のエンボス部13及びこのエンボス部13と交互に位置する複数の延在部14が車両前後方向に沿って形成されている。
【0021】
エンボス部13は、接合面12よりもルーフサイドインナパネル5側にへこんでおり、このエンボス部13の端縁13aは、車両前後方向の中間部が車両外側に向かって湾曲した円弧形状を呈している。
【0022】
延在部14は、接合面12と同一の平坦な面であり、エンボス部13が形成されていない部分となっている。そして、この延在部14の起立面11からの延在長T1は、エンボス部13の起立面11からの延在長T2よりも長くなるように設定されている(図3参照)。すなわち、この延在部14の端縁14aは、エンボス部13の端縁13aよりも車両内側に突出している。
【0023】
なお、ここで「延在長」とは、端縁13a、14aのそれぞれのうち、車幅前後方向の中間部分と起立面11との間の距離のことである。
【0024】
さらに、延在部14の端縁14aは、車両前後方向の中間部が車両内側に向かって突出した円弧形状を呈している。
【0025】
そして、エンボス部13の端縁13aと延在部14の端縁14aとはなめらかに連続している。これにより、ルーフサイドアウタパネル4の接合面12は、図3に示すように、車両上方から見た上面視において波型形状を呈している。
【0026】
なお、この波型形状において、エンボス部13の端縁13aが車両外側に向かって湾曲し、延在部14の端縁14aが車両内側に向かって突出しているので、エンボス部13が波の谷部分に位置し、延在部14が波の山部分に位置することとなる。
【0027】
また、ルーフパネル6の接合面22の先端部には、図2に示すように、車両前後方向に延びる段部23が形成されている。
【0028】
この段部23は、ルーフサイドアウタパネル4の接合面12から離間する方向、すなわち車両上方に向かって膨出している。このため、ルーフパネル6の接合面22とルーフサイドアウタパネル4の接合面12との間の間隙は、接合面22の先端部近傍において広くなっている(図4及び図5参照)。
【0029】
次に、この発明の車体のパネル接合構造の作用について説明する。
【0030】
鉄製のルーフサイドアウタパネル4とアルミニウム製のルーフパネル6とを接合するには、まず、ルーフサイドアウタパネル4の起立面11とルーフパネル6の起立面21とを互いに対向させる。
【0031】
そして、ルーフサイドアウタパネル4の接合面12の上側にルーフパネル6の接合面22を載置し、リベットRによってこの接合面12、22を接合する。なお、ルーフサイドアウタパネル4とルーフサイドインナパネル5とはあらかじめスポット溶接によって接合しておく。
【0032】
このとき、接合面12と接合面22との間にはシール材Sが十分に充填され、相互の接触が完全に遮断される。これにより、結露等によって接合面12、22間に水分が浸入することが防止され、電食の発生を確実に防ぐことができる。
【0033】
また、このシール材Sが接合面12、22の間からはみ出しても、接合面12よりもへこまされたエンボス部13によってこのはみ出したシール材Sを受け止めることができる。
【0034】
つまり、エンボス部13が接合面12よりもへこんでいることにより、このエンボス部13と接合面22との隙間の体積が拡大し、はみ出したシール材Sを貯留することが可能となる。
【0035】
さらに、接合面12と同一の平坦な面である延在部14は、延在長T1がエンボス部13よりも長くなっているので、接合面12と接合面22との間からシール材Sがはみ出しても、この延在部14で受け止めることができる。
このように、異種金属であるルーフサイドアウタパネル4とルーフパネル6とを接合する際に、電食の発生を防止するシール材Sを十分に充填しても、このパネル4、6間からはみ出したシール材Sをエンボス部13及び延在部14によって確実に受け止めることができる。
【0036】
そのため、はみ出したシール材Sを拭き取ることなく、このシール材Sの車両内側への垂れ落ちを抑制することが可能となる。
【0037】
また、ルーフサイドアウタパネル4の上縁部10と、ルーフパネル6の側部20とは、それぞれ車両前後方向の中間部が上方に向かって僅かに湾曲すると共に、車両外側に向かって僅かに湾曲している。すなわち、この上縁部10及び側部20は、車両の斜め上方に向かって膨出する緩やかな曲面となっている。
【0038】
そのため、上縁部10の接合面12は、エンボス部13の端縁13a及び延在部14の端縁14a近傍部分と、起立面11近傍部分との材料の延び方が異なっている。
【0039】
ここで、上縁部10の接合面12は上面視波型形状を呈している上、エンボス部13と延在部14とが車両前後方向に沿って交互に位置して共存している。これにより、接合部12にしわが発生することを防止して、この接合面12の加工時の成形性の悪化を防止すると共に、リベットRの打点部の平面を確保することができる。
【0040】
なお、この波型形状の谷部分にエンボス部13が位置しているので、このエンボス部13の延在長T2が比較的短くても接合面22との隙間の体積は十分に確保することができる。そのため、接合面12に成形性の悪化を防止する上、接合面12、22間に充填されたシール材Sの垂れ落ちを確実に防止することが可能となる。
【0041】
さらに、ルーフパネル6の接合面22の先端部には段部23が形成されているので、この段部23とルーフサイドアウタパネル4の接合面12との間の空間をシール材Sのシール溜まりとすることができる。
【0042】
そのため、接合面12と接合面22との間に十分量のシール材Sを充填しても、このシール材Sがルーフパネル6の接合面22を乗り越えて、車両外側にはみ出すことを防止できる。
【0043】
また、この段部23は、ペイントシール材Pを充填する際のペイントシール材充填用ノズル(図示せず)のガイドとなり、ペイントシール材Pの位置決めや充填量の管理を容易に行うことが可能となる。なお、この段部23はあえて形成しなくともよい。
【0044】
そして、ルーフサイドアウタパネル4とルーフパネル6とを接合するリベットRが、図3に示すようにルーフサイドアウタパネル4の延在部14に対応した位置に設けられている。
【0045】
そのため、この延在部14によってリベットRの打点部の平面を確保することができると共に、リベットRの押圧力によって接合面12、22の間から押し出されたシール材Sを受け止めることができる。
【0046】
以上、この発明にかかる実施の形態の一つを図面により詳述してきたが、具体的な構成は上述の実施の形態に限らない。この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等はこの発明に含まれる。
【0047】
上述の実施の形態では、第一パネルとしてルーフサイドアウタパネル4とし、第二パネルとしてルーフパネル6としたが、これに限られない。例えば、異種金属からなる車体のボディサイドパネルとルーフパネルとを接合する構造であってもよい。
【0048】
また、第一、第二パネルを構成する金属は鉄とアルミニウムとに限らず、互いに異なれば他の金属や合金であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)はこの発明に係る車体のパネル接合構造を有する車体の概観を示す斜視図であり、(b)は図1(a)におけるA−A断面図である。
【図2】本発明に係る車体のパネル接合構造を示す要部を拡大した分解斜視図である。
【図3】本発明に係る車体のパネル接合構造を示す要部を拡大した平面図である。
【図4】図3におけるB−B断面図である。
【図5】図3におけるC−C断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 車体
4 ルーフサイドアウタパネル(第一パネル)
6 ルーフパネル(第二パネル)
10 上縁部
11 起立面
12 接合面
13 エンボス部
14 延在部(エンボス部が形成されていない部分)
20 側部
21 起立面
22 接合面
T1 延在長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる金属からなると共に車体を構成する第一、第二パネルのそれぞれの端部を折り曲げて起立面を形成すると共に、この起立面の端部をさらに折り曲げて接合面を形成し、前記第一パネルの接合面の上側に電食防止用シール材を介して前記第二パネルの接合面を重複させて接合する車体のパネル接合構造であって、
前記第一パネルの接合面は、先端部にへこんだエンボス部が形成されると共に、このエンボス部が形成されていない部分は、前記エンボス部よりも起立面からの延在長が長くなるように設定されていることを特徴とする車体のパネル接合構造。
【請求項2】
前記第一パネルの接合面は、上面視波型形状を呈していることを特徴とする請求項1に記載の車体のパネル接合構造。
【請求項3】
前記第二パネルの接合面は、先端部に前記第一パネルの接合面から離間する方向に膨出する段部が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車体のパネル接合構造。
【請求項4】
前記第一パネルと前記第二パネルとはリベットによって接合され、このリベットは、前記延在部に対応した位置に設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車体のパネル接合構造。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−283841(P2007−283841A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111451(P2006−111451)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】