説明

車体の前部構造

【課題】衝突荷重によるラジエータの損傷を抑制することが可能な車体の前部構造を提供すること。
【解決手段】ラジエータサポート上部部材24及びラジエータサポート下部部材28に連結された縦部材をラジエータの前方に配置させる。さらに、圧縮荷重が付与された湾曲部材20を、縦部材の前方に取り付けると共にバンパーリインホースメント22に連結する。これにより、バンパーリインホースメント22に衝突荷重が入力した際に、湾曲部材20が縦部材18に対して引張荷重を付与することができる。そのため、縦部材18に作用する曲げ応力が緩和され、縦部材の曲げ変形を抑制することができる。したがって、ラジエータに作用する荷重を減らし、ラジエータの変形の虞を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の各種車両における車体の前部構造では、他の車両との衝突時における衝撃を吸収するための構造が採用されている。この種の車体の前部構造としては、ラジエータのアップレール、ロアメンバー、及びフードロックスティを一体成形し、バンパーアーマチェアを連結座に連結するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3381446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来技術では、車幅方向の略中央部においてバンパーリインホースメントとラジエータサポートとが、フードロックサポートによって連結されているため、衝突荷重によりフードロックサポートが曲げ変形すると、ラジエータ本体を損傷してしまう虞がある。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、衝突荷重によるラジエータの損傷を抑制することができる車体の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車体の前部構造は、ラジエータを支持するラジエータサポート上部部材及びラジエータサポート下部部材に連結され、ラジエータの前方に配置された縦部材と、圧縮荷重が付与され、縦部材の前方に取り付けられて、バンパーリインホースメントに連結される湾曲部材とを備えることを特徴としている。
【0006】
この車体の前部構造においては、ラジエータサポート上部部材及びラジエータサポート下部部材に連結された縦部材が、ラジエータの前方に配置されている。そして、圧縮荷重が付与された湾曲部材が、縦部材の前方に取り付けられると共に、バンパーリインホースメントに連結されている。そのため、バンパーリインホースメントに入力した衝突荷重によって、湾曲部材が縦部材に対して引張荷重を付与することになる。これにより、縦部材に作用する曲げ応力が低減され、縦部材の曲げ変形を抑制することが可能となる。したがって、ラジエータに作用する荷重を減らして、ラジエータの変形の虞を低減することができる。
【0007】
また、縦部材は、車幅方向の中央で、車高方向に延在していることが好ましい。また、湾曲部材は、入力荷重により縦部材との取り付け位置が縦部材の引張方向に変位可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車体の前部構造によれば、ラジエータに作用する衝突荷重を減少させて、ラジエータの変形の虞を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の車体の前部構造の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車体の前部構造を示す斜視図、図2は、本発明の実施形態に係る車体の前部構造を示す分解斜視図、図3は、図1及び図2中の縦部材を拡大して示す拡大斜視図である。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、本明細書において、車両が直前進している際の前方方向を「前方」と定め、「前」「後」「左」「右」等の方向を表す語を用いることとする。
【0010】
図1及び図2に示す車体の前部構造1は、例えば乗用車等の車両における車体の前部構造10である。車体の前部構造10は、エンジンルーム12の前部に配置されラジエータ(図4参照)14を支持するラジエータサポート16、ラジエータサポート14に連結され車高方向(図示上下方向)に延在する縦部材18、縦部材18に連結され湾曲する湾曲部材20、湾曲部材20の前方に配置され車幅方向に延在するバンパーリインホースメント22、及び、エンジンを挟んで車幅方向両側に配置され前後方向に延在する一対のフロントサイドメンバ(不図示)を備えている。なお、図1及び図2では、図の見易さのため、ラジエータの図示を省略している。
【0011】
車体の骨格部材の一部であるフロントサイドメンバは、ラジエータサポートサイド26に連結され、車両の前後方向に延在し、ダッシュパネルの前面に連結されていると共に、ダッシュパネルの前面側から下方に屈曲され、客室のフロアパネルの下面側に延びている。また、フロントサイドメンバの前端には、例えば、衝撃を吸収するクラッシュボックスが設けられ、フロントサイドメンバ22は、その両端部がクラッシュボックスを介して、一対のフロントサイドメンバによって支持されている。フロントサイドメンバは、車体の強度や剛性を向上させるための部材でありかつ衝突時に衝撃を吸収する部材であり、所定の変形荷重を有する。
【0012】
ラジエータサポート16は、矩形の枠体を構成し、車幅方向に延在してラジエータ14の上端部を支持するラジエータサポートアッパ(ラジエータサポート上部部材)24と、車高方向に延在して上端部がラジエータサポートアッパ24に連結されラジエータ14の側部を支持する一対のラジエータサポートサイド26と、車幅方向に延在して両端部がラジエータサポートサイド26の下端部に連結されラジエータの下端部を支持するラジエータサポートロア(ラジエータサポート下部部材)28と有している。そして、ラジエータ14は、これらのラジエータサポートアッパ24、ラジエータサポートサイド26,26、及びラジエータサポートロア28によって支持されている。
【0013】
ラジエータサポートアッパ24は、その車幅方向の両端部が、エンジンルーム12の上側の枠を構成する一対のエプロンアッパメンバ30に連続している。一対のエプロンアッパメンバ30は、車両の左右両側に配置され前後方向に延在し、エプロンアッパメンバ30の前部は、車幅方向の内側に向かって折曲し、上記したように、ラジエータサポートアッパ24に連続している。なお、エプロンアッパメンバ30の後端側は、車体の骨格部材の一部であり客室の前部を形成するフロントボデーピラーアッパーリインフォースメント(フロントピラー、Aピラー)に連結されている。
【0014】
また、ラジエータサポートアッパ24の車幅方向の中央には、縦部材18の上部側を固定するための固定部24aが形成され、ラジエータサポートロア28の車幅方向の中央には、縦部材18の下部側を固定するための固定部28aが形成されている。これらの固定部24a,28aは、縦部材18を当接する当接面を有し、この当接面には、ボルト穴が開口されている。また、固定部24a,28aは、前方に突出するように形成されている。
【0015】
縦部材18は、図1〜図4に示すように、ラジエータ14及びラジエータサポート16から前方に離間して車高方向に延在する縦部材本体18a、縦部材本体18aの上端部から後方へ屈曲され前後方向に延在する上部18b、及び縦部材本体18bの下端部から後方へ屈曲され前後方向に延在する下部18cを有している。
【0016】
縦部材18の上部18b及び下部18cの後端には、車幅方向に張り出す張出部18dが形成されている。この張出部18dは、ラジエータサポートアッパ24の固定部24aに当接する当接面を有し、この当接面には、ボルト穴が開口されている。そして、縦部材18は、上部18bがラジエータサポートアッパ24に固定され、下部18cがラジエータサポートロア28に固定されている。縦部材18の上部18bの前端部は、前方側が下方に位置するように傾斜し、その上面側に、エンジンフードを係止可能なフードロック32が設けられている。
【0017】
また、縦部材本体18aの上部側には、図3に示すように、湾曲部材20の上部側を固定するためのボルト穴34(取り付け位置)が形成され、縦部材18の下部側18には、湾曲部材20の下部側を固定するためのボルト穴36が形成されている。上部側のボルト穴34は、円形部34aと円形部34aから上方に延びる長穴部34bとを有している。長穴部34bの車幅方向の径は、円形部34aの径より小さくされている。下部側のボルト穴36は、円形状を成している。
【0018】
湾曲部材20は、図1及び図2に示すように、円弧状を成し、前方に突出するように形成され、湾曲部20の上端部及び下端部には、円形状のボルト穴38,40が開口されている。上端部に形成されたボルト穴38は、縦部材18のボルト穴34の円形部34aに対応する位置に形成され、下端部に形成されたボルト穴40は、縦部材18のボルト穴36に対応する位置に形成されている。
【0019】
そして、上部側のボルト42は、ボルト穴38,34に挿通され、下部側のボルト44は、ボルト穴40,36に挿通され、湾曲部材20は、縦部材本体18aにボルト固定されている。湾曲部材20を縦部材18に取付けた初期状態において、湾曲部材20には、圧縮荷重が付与されている。
【0020】
また、湾曲部材20は、前方から衝突荷重が入力されると、縦部材18との取り付け位置が縦部材18の引張方向(図示上下方向)に変位可能な構成とされている。具体的には、初期状態において、ボルト42が縦部材18の円形部34aに挿通された位置である第1の取り付け位置から、ボルト42が縦部材18の長穴部34bに挿通された位置である第2の取り付け位置へ変位可能とされている。
【0021】
さらに、湾曲部材20は、バンパーリインホースメント22に連結されている。湾曲部材20は、Uバンド46によって、バンパーリインホースメント22の背面側に固定されている。例えば、湾曲部材20の最も前方に位置する円弧状部分がバンパーリインホースメント22に当接している。
【0022】
次に、このように構成された車体の前部構造10を備える車両が衝突した場合における衝突荷重の分散について説明する。例えば、正面衝突した場合には、衝突荷重がバンパーリインホースメント22に入力される。バンパーリインホースメント22で吸収しきれなかった衝突荷重は、湾曲部材20および一対のフロントサイドメンバに入力される。そして、フロントサイドメンバで吸収しきれなかった衝突荷重は、フロントサイドメンバに連結された車体の骨格部材に分散される。
【0023】
また、図4に示すように、湾曲部材20に衝突荷重F1が入力されると、湾曲部材20の板ばね効果によって、入力された衝突荷重F1の一部が吸収される。湾曲部材20の板ばね効果によって、吸収しきれなかった衝突荷重は、湾曲部材20によって、衝突荷重F2,F2に分解されて、縦部材18に伝達される。すなわち、湾曲部材20は、入力された衝突荷重を緩和すると共に分解して、縦部材18の上端部および下端部に衝突荷重F2,F2を分散させることができる。このように、縦部材18の上端部および下端部に衝突荷重F2,F2を分散させることで、縦部材18に作用する入力モードおよび変形状態を変化させることが可能となり、ラジエータサポート16の変形を抑制することができる。
【0024】
また、比較的衝撃が軽い軽衝突の場合には、湾曲部材20の縦部材18との取り付け位置が、ボルト穴34の形状に沿って、第1の取り付け位置から第2の取り付け位置へ変位可能とされている。
【0025】
また、車両が高速で走行している場合の衝突である高速衝突の場合や、比較的大きな変形を伴う虞のある衝撃が入力される大変形衝突の場合には、衝突の初期状態において、湾曲部材20は、板ばねとして機能する。その後、湾曲部材20は、第2の取り付け位置へ変位し、上端部側のボルト42が長穴部34bの上側の周縁に当接すると、縦部材18に引張方向(図示上下方向)の力が加わることとなる。これにより、縦部材18は、バンパーリインホースメント22からの衝突荷重による曲げ入力に対して強くなる。また、縦部材18と湾曲部材20が合わさることで、バンパーリインホースメント22を強く支持することができる。この湾曲部材20による支持点の増加により、バンパーリインホースメント22に入力される曲げモーメントが低減され、バンパーリインホースメント22の軽量化を図ることが可能となる。
【0026】
図5は、バンパーリインホースメントに作用する荷重の力学モデルを示す概略図である。図5(a)では、従来構造(湾曲部材20を備えていない構造)の力学モデルを示し、図5(b)では、本発明の湾曲部材20を備える構造の力学モデルを示している。従来構造では、バンパーリインホースメント22に作用する荷重は、一対のフロントサイドメンバ48に伝達されるのに対し、本発明の車体の前部構造10では、バンパーリインホースメント22に作用する荷重は、一対のフロントサイドメンバ48に加えて、湾曲部材20に伝達される。
【0027】
図6は、縦部材に作用する応力を示す概略図である。図6(a)では、バンパーリインホースメント22からの衝突荷重による曲げ入力(圧縮応力)を示し、図6(b)では、湾曲部材20からの引張方向の入力(引張応力)を示し、図6(c)では、圧縮応力及び引張応力を加算した後の応力(総合応力)を示している。このように、縦部材18は、バンパーリインホースメント22からの衝突荷重による曲げ入力に対して強化されている。
【0028】
このように、本実施形態の車体の前部構造10では、ラジエータサポートアッパ24及びラジエータサポートロア28に連結された縦部材18が、ラジエータの前方に配置され、圧縮荷重が付与された湾曲部材20が、縦部材18の前方に取り付けられていると共に、バンパーリインホースメント22に連結されている。そのため、バンパーリインホースメント22に入力した衝突荷重によって、湾曲部材20の上端部及び下端部が互いに離間する方向(図示上下方向)に力が作用することで、湾曲部材20が縦部材18に対して引張荷重を付与する。これにより、縦部材18に作用する曲げ応力が低減され、縦部材18の曲げ変形を抑制することができる。その結果、ラジエータに作用する荷重を減らして、ラジエータの変形の虞が低減される。
【0029】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態においては、縦部材は、ラジエータサポート上部部材、ラジエータサポート下部部材に連結されているが、その他の強度部材を介して連結されていても良い。
【0030】
また、縦部材及び湾曲部材は、1本に限定されず、複数本備える構成としてもよい。この場合には、車幅方向において、均等に配置することが好ましい。また、湾曲部の形状は、円弧状に限定されない。例えば、前方に突出する部分の一部を直線状にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る車体の前部構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車体の前部構造を示す分解斜視図である。
【図3】図1及び図2中の縦部材を拡大して示す拡大斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車体の前部構造を示す側面図である。
【図5】バンパーリインホースメントに作用する荷重の力学モデルを示す概略図である。
【図6】縦部材に作用する応力を示す概略図である。
【符号の説明】
【0032】
10…車体の前部構造、12…エンジンルーム、14…ラジエータ、16…ラジエータサポート、18…縦部材、20…湾曲部材、22…バンパーリインホースメント、24…ラジエータサポートアッパ、26…ラジエータサポートサイド、28…ラジエータサポートロア、30…エプロンアッパメンバ、32…フードロック、34,36…縦部材のボルト穴、34a…円形部、34b…長穴部、38,40…湾曲部材のボルト穴、42,44…ボルト、46…Uバンド、48…フロントサイドメンバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータを支持するラジエータサポート上部部材及びラジエータサポート下部部材に連結され、前記ラジエータの前方に配置された縦部材と、
圧縮荷重が付与され、前記縦部材の前方に取り付けられて、バンパーリインホースメントに連結される湾曲部材とを備えることを特徴とする車体の前部構造。
【請求項2】
前記縦部材は、車幅方向の中央で、車高方向に延在していることを特徴とする請求項1記載の車体の前部構造。
【請求項3】
前記湾曲部材は、入力荷重により前記縦部材との取り付け位置が縦部材の引張方向に変位可能であることを特徴とする請求項1又は2記載の車体の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−107561(P2009−107561A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284191(P2007−284191)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】