説明

車体フレーム構造

【課題】軽量化を図りつつ生産コストを抑え、更には経年変化が少なく安定して衝突エネルギーを吸収可能な車体フレーム構造を提供することにある。
【解決手段】フレーム部材25に少なくとも稜線71〜74と合わせ面とを除いて複数の微細穴24が開けられ、このフレーム部材25の裏面に設けられた合わせ面に補強部材26が溶接にて接合され、この補強部材26に荷重入力方向に対して長手方向を向いた長穴61が開けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体フレーム構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車体フレーム構造として、閉断面構造部材内に補強板を配置したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−295160号公報
【0003】
特許文献1の図1、図2を以下の図8、図9で説明する。なお、符号は振り直した。
図8は従来の車体フレーム構造を示す斜視図であり、断面ハット形状のサイドメンバ101の下部にフランジ102,103が設けられ、これらのフランジ102,103にクロージングプレート104が複数のスポット溶接部106で接合されている。
【0004】
図9は従来の車体フレーム構造を示す横断面図であり、サイドメンバ101の天井部分の内面に補強板107がスポット溶接を併用した接着接合部108で接合されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サイドメンバ101及びクロージングプレート104からなる閉断面構造部材内に、スポット溶接を併用した接着を行うことにより補強板107を接合することで、単に溶接のみの場合に比べて車両衝突時のエネルギー吸収量は増加しているが、特別に軽量化対策が施されておらず、閉断面構造部材の重量が増加する。
【0006】
また、接着剤を使用するために接着剤塗布工程が増え、生産コストが嵩む。
更に、接着剤の性質上、劣化などの経年変化を考慮すると、衝突エネルギーを吸収する衝突部材に用いるには性能保障に課題が残る。
本発明の目的は、軽量化を図りつつ生産コストを抑え、更には経年変化が少なく安定して衝突エネルギーを吸収可能な車体フレーム構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、フレーム部材に少なくとも稜線と合わせ面とを除いて複数の微細穴が開けられ、このフレーム部材の裏面に設けられた合わせ面に補強部材が溶接にて接合され、この補強部材に荷重入力方向に対して長手方向を向いた長穴が開けられていることを特徴とする。
【0008】
フレーム部材に作用する負荷の高くなりやすい稜線と合わせ面とを除いて複数の微細穴を開けることで、軽量化が図られるとともにフレーム部材の強度・剛性が確保される。
また、フレーム部材に補強部材を追加して補強を行う場合に、補強部材に開けられた長穴によって、軽量化される重量が大きくなるとともに、長穴の長手方向が荷重入力方向に向いているため、荷重入力方向に直交する方向の長穴の断面積が小さくなり、補強部材に入力された荷重に対して十分な剛性が得やすくなる。
更に、フレーム部材と補強部材とが溶接にて接合されるため、従来のような接着剤を使用した場合のような経年変化による強度・剛性の変化は少ない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明では、フレーム部材に少なくとも稜線と合わせ面とを除いて複数の微細穴が開けられ、このフレーム部材の裏面に設けられた合わせ面に補強部材が溶接にて接合され、この補強部材に荷重入力方向に対して長手方向を向いた長穴が開けられているので、フレーム部材の微細穴と長穴とでより効果的に軽量化を図ることができるとともに、荷重入力方向に対して長手方向を向いた長穴を補強部材に開けることで、補強部材の荷重入力方向の剛性低下が抑えられ、フレーム部材と補強部材とで構造部材を構成する場合に、構造部材の所定の剛性を確保しやすくことができる。
【0010】
また、フレーム部材と補強部材との接合に接着剤を用いないので、経年変化による強度・剛性の変化を抑えることができ、衝突部材としての性能保障を満足させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、説明中の左、右、前、後は車両に乗車した運転者を基準にした向きを示している。また、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る車体フレーム構造を示すアンダボディの斜視図であり、図中の矢印(FRONT)は車両前方を表している(以下同じ。)。
アンダボディ10は、フロントフロアパネル11と、このフロントフロアパネル11の左右端部に前後方向に延びるように取付けられたサイドシル12,13と、フロントフロアパネル11の一部を構成するとともにフロントフロアパネル11の車幅方向中央部に前後に延びるように形成されたトンネル部11aによって左右に区画された左フロア部14及び右フロア16にそれぞれ前後に延びるように取付けられた構造部材17と、トンネル部11a及び左右のサイドシル12,13を連結するシートクロスメンバー18,19と、フロントフロアパネル11の後部に取付けられるとともに構造部材17,17の後端部に接合されるミドルフロアフレーム21,22とを備える。なお、符号23はフロントフロアパネル11の前端部に接合されたダッシュボードロアであり、このダッシュボードロア23に構造部材17,17のそれぞれの前端部が接合されている。
【0012】
図2は本発明に係る構造部材を示す分解斜視図であり、構造部材14は、軽量化のための円形の微細穴24が複数開けられたフレーム部材25と、このフレーム部材25の内側に接合される補強部材26とからなる。
【0013】
フレーム部材25は、微細穴24が密集する穴密集部27〜29を有するフレーム本体35と、このフレーム本体35の左右に、フロントフロアパネル11(図1参照)及びダッシュボードロア23(図1参照)に接合するために一体成形された左フランジ36及び右フランジ37と、ダッシュボードロア23に接合するために前端部に形成された前フランジ38と、ミドルフロアフレーム21,22(図1参照)に接合するために後端部に形成された後接合部39とからなる。
【0014】
フレーム本体35は、上壁43と、この上壁43の左右縁部から下方に延びる側壁44,45(手前側の符号44のみ示す。)とからなり、上壁43に複数の穴密集部27が設けられ、側壁44及び側壁45にそれぞれ複数の穴密集部28と穴密集部29とが設けられている。
【0015】
上壁43は、上壁基部47と、この上壁基部47に対して一段低く形成された低壁部48と、これらの上壁基部47及び低壁部48のそれぞれの間を繋ぐ無端状の斜壁部49とからなる。
【0016】
左フランジ36及び右フランジ37は、前端部側が、フレーム本体35の前端部下部と共に上方に湾曲した形状に形成されている。
前フランジ38は、フレーム本体35の上壁43の前端から前方斜め上方に延びた部分である。
後接合部39は、断面形状が絞られてフレーム本体35の断面形状よりも小型にされたコ字断面形状に形成された部分である。
【0017】
補強部材26は、上壁51と、この上壁51の左右端部から下方に延びる側壁52,53とからなる。
上壁51は、左右端部側に前後に延びるように形成された左基部55及び右基部56と、これらの左基部55及び右基部56から一段低く形成された低壁部57と、左基部55及び底基部57のそれぞれの間を繋ぐ斜壁部58と、右基部56及び低壁部57のそれぞれの間を繋ぐ斜壁部59と、底壁部57に軽量化のために長手方向が前後方向に向くように形成された複数の長穴61と、底壁部57に長穴61同士の間に位置するように形成された上方に突出する複数の上部隆起部62とからなる。
上部隆起部62は、フレーム部材25の上壁43、詳しくは、上壁43の穴密集部27が設けられていない非穴形成部60,63,64の低壁部48にスポット溶接等で接合される部分である。
【0018】
側壁52は、側部基部65と、この側部基部65から側方に突出形成された複数の側部隆起部66とからなる。
同様に、側壁53は、側部基部67(図3参照)と、この側部基部67から側方に突出形成された複数の側部隆起部68とからなる。
【0019】
側部隆起部66,68は、それぞれフレーム部材25の側壁44,45の穴密集部28,29が設けられていない非穴形成部69,70(の内面44a,45a(図3参照))にスポット溶接等で接合される部分である。
【0020】
図3は図2の3−3線断面図であり、構造部材14は、断面ハット形状のフレーム部材25と、このフレーム部材25の内側に接合された断面コ字形状の補強部材26とからなり、フレーム部材25に複数の穴密集部27〜29(符号27のみ示す。)が設けられることで軽量化され、また、補強部材26に複数の長穴61が開けられることで軽量化されるとともに補強部材26がフレーム部材25を補強して、構造部材14の軽量化と強度・剛性向上とが図られている。
【0021】
補強部材26の上部隆起部62は、フレーム部材25における上壁43の低壁部48の下面43aに接合され、補強部材26の側部隆起部66,68は、フレーム部材25の側壁44,45の内面44a,45aにそれぞれ接合されている。
【0022】
フレーム部材25の上壁43と側壁44との間の角部には稜線71が形成され、上壁43と側壁45との間の角部には稜線72が形成され、側壁44と左フランジ35との間の角部には稜線73が形成され、側壁45と右フランジ36との間の角部には稜線74が形成される。
また、補強部材26の上壁51と側壁52との間の角部には稜線76が形成され、上壁51と側壁53との間の角部には稜線77が形成される。
【0023】
図4(a)〜(c)は本発明に係る構造部材を説明する説明図である。
(a)はフレーム部材25の平面図であり、フレーム部材25は、前部が前方にいくにつれて左右の幅が広く形成されている。即ち、上壁43の左右の幅が次第に広くなり、これに伴って側壁44,45、左フランジ36及び右フランジ37が車幅方向外側に次第に広がるように前方に延びている。
後接合部39は、ミドルフロアフレーム21,22(図1参照)に接合するために微細穴24が開けられていない。
図中の想像線は、フレーム部材25に下から接合される補強部材26(図4(c)参照)の上部隆起部62、側部隆起部66,68を示している。
【0024】
(b)は穴密集部27の平面図であり、微細穴24が縦横に並列に開けられている。
微細穴24の内径をD1、各微細穴24のピッチをP1とすると、例えば、D1=3mm、P1=5mmである。他の穴密集部についても、穴密集部27と同様に微細穴24が開けられている。
【0025】
(c)は補強部材26の平面図であり、補強部材26は、前部が前方にいくにつれて左右の幅が広く形成されている。即ち、上壁51の左右の幅が次第に広くなり、これに伴って側壁52,53が車幅方向外側に次第に広がるように前方に延びている。
【0026】
長穴61同士及び上部隆起部62同士は、それぞれ前後方向に等間隔で設けられている。また、側部隆起部66同士及び側部隆起部68同士も、それぞれ前後方向に等間隔で設けられている。
【0027】
図5は本発明に係るフレーム部材の微細穴の配置の別実施形態を示す説明図であり、穴密集部27Aは、微細穴24が千鳥状に開けられている。即ち、3つの微細穴24の各中心を結んだ三角形が正三角形になる。
【0028】
微細穴24の内径をD2、隣り合う微細穴24の中心間距離をP3、縦に並んだ微細穴24同士のピッチをP4とすると、例えば、D2=3mm、P3=5mm、P4=√3xP3である。
【0029】
図6(a),(b)は本発明に係る構造部材の強度・剛性を説明する作用図であり、(a),(b)共にフレーム部材25及び補強部材26を模式的に示している。
(a)において、フレーム部材25及び補強部材26を、それぞれ白抜き矢印で示すように、車体前後方向、即ち長手方向に引張る、あるいは圧縮すると、フレーム部材25では、縦横に等間隔に微細穴24が開けられ、微細穴24の内径が小さいから、微細穴24,24間の部分で引張力又は圧縮力を受け、強度・剛性の低下は少なく、また、補強部材26では、長手方向に長穴61が開けられているが、長手方向に直交する方向(即ち、車幅方向)の長穴61の断面積が小さくなり、更に、引張力又は圧縮力を上壁51の左基部55及び右基部56で受けることができ、強度・剛性の低下は少ない。
【0030】
これに対して、(b)において、フレーム部材25及び補強部材26を、それぞれ白抜き矢印で示すように、車幅方向、即ち長手方向に直交する方向に引張る、あるいは圧縮すると、フレーム部材25では、縦横に等間隔に微細穴24が開けられているから、(a)の場合と同様に、強度・剛性の低下は少ないが、補強部材26では、長穴61に長手方向に直交する方向に引張力又は圧縮力が作用すると、長手方向に直交する方向の長穴61の断面積が(a)の場合よりも大きくなり、長穴61の変形が大きくなりやすく、強度・剛性の低下が大きくなる。
【0031】
従って、(a)に示したように、補強部材26に長手方向に沿うように長穴61を開けることで、車体前後方向の引張又は圧縮に対して補強部材26の強度・剛性の低下を抑えつつ軽量化を図ることができる。また、補強部材26に作用する長手方向に直交する方向の引張力又は圧縮力に対しては、フレーム部材25で強度・剛性で補うことができる。
【0032】
図7は本発明に係る構造部材に荷重が作用した際の変位の増加と軽量化との関係を示すグラフであり、ここでは、構造部材の前端に前方から所定荷重を加えて構造部材の前端の上下方向の変位を計測した結果を示している。
【0033】
試料としては、大別すると、(1)フレーム部材+補強部材(即ち、フレーム部材に補強部材を接合したもの)、(2)補強部材のみ、である。
【0034】
更に詳細には、(1)のフレーム部材+補強部材では、実施例は、本実施形態のフレーム部材25と補強部材26との組み合わせ、ベース材料は、実施例に対して微細穴24が開けられていないフレーム部材と、実施例に対して長穴61が開けられていない補強部材との組み合わせ、比較例は、ベース材料に対して共に板厚が薄くされたフレーム部材と補強部材との組み合わせである。
【0035】
(2)の補強部材のみでは、実施例は、本実施形態の補強部材26、ベース材料は、実施例に対して長穴61が開けられていないもの、比較例は、ベース材料に対して板厚が薄くされたものである。
【0036】
グラフの縦軸は変位増加率(ベース材料の変位量に対する各試料の増加変位量の割合(単位は%))、横軸は軽量化率(ベース材料の重量に対する各試料の軽量化重量の割合(単位は%))を表している。縦軸の変位増加率が大きいということは、ベース材料に対する変位の増加が大きいということであり、剛性が小さいということである。
【0037】
補強部材のみの場合には、例えば、比較例の変位増加率が軽量化率が大きくなるにつれて直線的に増加すると仮定した場合に、実施例と比較例とが同じ軽量化率のときには、変位増加率は、実施例の方が比較例よりも小さくなる。即ち、軽量化された重量が同一でも、実施例の方が変位増加(即ち、剛性低下)は小さく、所定の剛性を確保しやすくなる。
【0038】
フレーム部材+補強部材の場合にも補強部材のみの場合と同様な傾向が見られ、実施例の変位増加率が比較例の変位増加率よりも小さい。即ち、比較例のように板厚を薄くして軽量化を図るのに比べて、実施例のように微細穴、長穴を開けて軽量化を図る方が剛性を確保しやすく、より効果的な軽量化手法と言える。
【0039】
上記の図2、図3に示したように、フレーム部材25に少なくとも稜線71〜74と、非穴形成部60,63,64,69,70の合わせ面としての下面43a、内面44a,45aとを除いて複数の微細穴24が開けられ、このフレーム部材25の裏面に設けられた非穴形成部60,63,64,69,70の下面43a、内面44a,45aに補強部材26が溶接にて接合され、この補強部材26に荷重入力方向に対して長手方向を向いた長穴61が開けられているので、フレーム部材25の微細穴24と長穴61とでより効果的に軽量化を図ることができるとともに、荷重入力方向に対して長手方向を向いた長穴61を補強部材26に開けることで、補強部材26の荷重入力方向の剛性低下が抑えられ、フレーム部材25と補強部材26とで構造部材14を構成する場合に、構造部材14の所定の剛性を確保しやすくことができる。
【0040】
また、フレーム部材25と補強部材26との接合に接着剤を用いないので、経年変化による強度・剛性の変化を抑えることができ、構造部材14の衝突部材としての性能保障を満足させることができる。
【0041】
尚、実施形態では、図4(a),(c)に示したように、長穴61、上部隆起部62、側部隆起部66,68は等間隔に設けられているが、適宜間隔を変更してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の車体フレーム構造は、四輪車に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る車体フレーム構造を示すアンダボディの斜視図である。
【図2】本発明に係る構造部材を示す分解斜視図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】本発明に係る構造部材を説明する説明図である。
【図5】本発明に係るフレーム部材の微細穴の配置の別実施形態を示す説明図である。
【図6】本発明に係る構造部材の強度・剛性を説明する作用図である。
【図7】本発明に係る構造部材に荷重が作用した際の変位の増加と軽量化との関係を示すグラフである。
【図8】従来の車体フレーム構造を示す斜視図である。
【図9】従来の車体フレーム構造を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0044】
24…微細穴、25…フレーム部材、26…補強部材、43a,44a,45a…合わせ面(下面、内面、内面)、61…長穴、71〜74…稜線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム部材に少なくとも稜線と合わせ面とを除いて複数の微細穴が開けられ、このフレーム部材の裏面に設けられた前記合わせ面に補強部材が溶接にて接合され、この補強部材に荷重入力方向に対して長手方向を向いた長穴が開けられていることを特徴とする車体フレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−143446(P2010−143446A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323376(P2008−323376)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】