説明

車体側部構造

【課題】車両の側面に荷重が入力されたときに、補強部材によるセンタピラーの荷重伝達効率を高め、溶接による変形を抑制し、溶接作業が容易な車体側部構造を提供する。
【解決手段】車体側部構造11は、センタピラー13に沿って補強部材28を設け、センタピラー13は、補強部材28を閉断面として、車室15へ向いている面31に補強部材28を取付けている板状の補強スティフナ27に補強部材28に沿って一方のビード33、他方のビード34がそれぞれ形成されているとともに、一方・他方のビード33、34と補強部材28とがすみ肉溶接を施すことで第1溶接ビード部36、第2溶接ビード部37で接合されている。一方のビード33は、凸に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面に他車によって荷重が入力されたときに、荷重をセンタピラーを介して分散する車体側部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体側部構造には、車両の側面の前部に立設されたフロントピラーや中央に立設されたセンタピラーに補強材を入れているものがある。フロントピラーでは、例えば、軽合金製のアウタパネルの内側に、ピラースティフナとインナパネル(ピラーインナ)とで閉断面を形成し、この閉断面の内部に軽合金製押出し材からなる補強部材を嵌着することで、大きな剛性を確保しているものがある(例えば、特許文献1(図3、図4)参照)。
【0003】
しかし、従来技術(特許文献1)は、補強部材の断面形状を閉断面の形状にほぼ一致させているので、センタピラーに採用できないという問題がある。センタピラーの場合、一般的にシートベルトアンカを閉断面内に収納するため、閉断面内の板材に補強部材を溶接する必要がある。
また、補強部材として押出し材を採用した場合、板材に溶接する際、高熱が発生し、板材が変形するおそれがある。特に、両方の材質がアルミニウムの場合に変形は顕著であるという問題がある。
さらに、生産コストを削減した溶接を行うにあたっては、汎用溶接機(スポット溶接用、アーク溶接用)を使うことが有効であるが、狭い断面内における溶接作業を容易にする手法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−315247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両の側面に荷重が入力されたときに、補強部材によるセンタピラーの荷重伝達効率を高め、センタピラーを細くし、且つ、センタピラーの強度を高め、溶接による変形を抑制し、溶接作業が容易で、補強部材の誤組みを防止する車体側部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車室の側壁をなすサイドボデーの中央に立設されている閉断面のセンタピラーに沿って補強部材を設けている車体側部構造において、センタピラーは、補強部材を閉断面として、車室へ向いている面に取付けている板状の補強スティフナに補強部材に沿って一方のビード、他方のビードがそれぞれ形成されているとともに、一方・他方のビードと補強部材とがすみ肉溶接を施すことで接合されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、一方・他方のビードは、補強部材を配置した面に対し、凸に形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明では、補強部材は、一方と他方の溶接位置決め穴を、一方の縁からの距離と他方の縁からの距離を一致させて開けていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明では、センタピラーは、補強部材を閉断面として、車室へ向いている面に取付けている板状の補強スティフナに補強部材に沿って一方のビード、他方のビードがそれぞれ形成されているとともに、一方・他方のビードと補強部材とがすみ肉溶接を施すことで接合されているので、例えば、車両側面に他車が接触して荷重が入力されたときに、補強部材の閉断面によってセンタピラーの荷重伝達効率を高めることができる。
【0010】
また、補強部材をスポット溶接で取付けたものに比べ、閉断面の補強部材を接合するすみ肉溶接は、溶接用のフランジを配置するスペースを設ける必要がなく、センタピラーを細くすることができ、且つ、センタピラーの強度を高めることができる。
【0011】
さらに、すみ肉溶接を施したときに、アークの熱の入熱によって閉断面の補強部材が膨張すると、補強部材で押された一方・他方のビードは、盛り上がるように変形することで、補強部材の膨張(伸び)を吸収することができる。その結果、ドア開口フランジ面やウインドウガラスを接着する接着面の熱変形(徐冷後の変形を含め)を抑えることができ、すみ肉溶接の強度を高めても、精度確保が容易である。
【0012】
加えて、一方のビード及び他方のビードは、溶接位置を表す目印となり、作業者が溶接位置を間違えるということを防ぐことができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、一方・他方のビードは、補強部材を配置した面に対し、凸に形成されているので、凸形の一方・他方のビードに補強部材をすみ肉溶接する際に、一方・他方のビードが目印となり、溶接箇所が明確になり、狭い空間での溶接作業が容易であるという利点がある。
【0014】
請求項3に係る発明では、補強部材は、一方と他方の溶接位置決め穴を、一方の縁からの距離と他方の縁からの距離を一致させて開けているので、補強部材を車両の左のセンタピラー並びに右のセンタピラーで共用でき、且つ、車両の上方へ一方、他方のどちらを向けてもよく、誤組みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係る車体側部構造の側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】本発明の実施例に係る車体側部構造の補強部材の斜視図である。
【図5】本発明の実施例に係る車体側部構造の溶接変形を抑制する機構を説明する図である。
【図6】本発明の実施例に係る車体側部構造の溶接容易となる機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
実施例に係る車体側部構造11は、図1に示すように、車両12のセンタピラー13に採用され、側面衝突したときの荷重に対応するようにしたものである。以降で具体的に説明していく。
【0018】
車両12は、車室15と、車室15の側壁をなすサイドボデー16と、ルーフ17と、ドア(図に示していない)で開閉されるサイドボデー16の乗降口21と、サイドボデー16の後部に形成されてクオータガラス(図に示していない)が取付けられるクオータ窓枠部22と、を備える。
サイドボデー16は、図2、図3のように、アウタパネル24と、インナパネル25と、これらのアウタパネル24とインナパネル25で形成されたセンタピラー13を有し、センタピラー13の内部に補強スティフナ27と、補強部材28と、を備え、車体側部構造11を含む。
【0019】
次に、車体側部構造11を主体に図1〜図4で説明する。図4(b)は図4(a)のb−b線断面図である。
車体側部構造11は、車室15の側壁をなすサイドボデー16の中央に立設されている閉断面のセンタピラー13に沿って補強部材28を設け、センタピラー13は、補強部材28を閉断面として、車室15へ向いている面31に補強部材28を取付けている板状の補強スティフナ27に補強部材28に沿って一方のビード33、他方のビード34がそれぞれ形成(例えば突形成)されているとともに、一方・他方のビード33、34と補強部材28とがすみ肉溶接を施すことで第1溶接ビード部36、第2溶接ビード部37で接合されている。
【0020】
一方のビード33は、補強部材28を配置した面31に対し、凸に形成されている。
他方のビード34は、一方のビード33と同様に、補強部材28を配置した面31に対し、凸に形成されている。
補強部材28は、図4のように、一方の溶接位置決め穴41と他方の溶接位置決め穴42を、一方の縁43からの距離E1と他方の縁44からの距離E2(E2=E1)を一致させて開けている。
【0021】
センタピラー13はまた、図1の乗降口21の後部46をドア開口フランジ部47で形成し、図2のドア開口フランジ部47をアウタパネル24のフランジ部51とインナパネル25のフランジ部52とで補強スティフナ27のフランジ部53を挟んで3枚重ねにすることで形成し、図1のクオータ窓枠部22の前部55をクオータ開口フランジ部56で形成し、図2のクオータ開口フランジ部56をアウタパネル24のフランジ部57とインナパネル25のフランジ部58とで補強スティフナ27のフランジ部61を挟んで3枚重ねにすることで形成している。そして、先述したように、補強スティフナ27に補強部材28を固定して、補強部材28とインナパネル25との間にシートベルトアンカ62を配置している。
クオータ窓枠部22は、クオータ開口フランジ部56を含め、車両12の外側へ向いている接着面64にクオータガラス(図に示していない)が接着される。
【0022】
補強部材28は、詳しくは、図2、図4に示すように、閉断面で、閉断面の形状を正方形とし、第1辺部71、第2辺部72、第3辺部73、第4辺部74とからなり、第1辺部71、第2辺部72の一方(上部)に溶接位置決め穴41を貫通させ、第1辺部71、第2辺部72の他方(下部)に溶接位置決め穴42を貫通させ、第1辺部71を補強スティフナ27に接触させている。
【0023】
補強スティフナ27は、図2、図3に示すように、ドア開口フランジ部47に含まれるフランジ部53に連ねて車両12の外側(矢印a1の方向)へ向けて押し出した収納段部76を形成し、収納段部76に連ねて中央部77を形成し、中央部77に車両12の内側(矢印a2の方向)へ向け、言い換えると、車室15へ向けて突出させた一方(第1)のビード33を形成し、一方(第1)のビード33から所望の距離、すなわち補強部材28の第1辺部71を嵌めて補強部材28の車両12前後方向(X軸方向)の移動を規制する距離まで離して車室15へ向けて突出させた他方(第2)のビード34を形成し、他方(第2)のビード34に連ねてクオータ開口フランジ部56に含まれるフランジ部61を形成している。
【0024】
次に、本発明の実施例に係る車体側部構造11の作用を説明する。
車体側部構造11では、図2に示すように、車両12の側面に他の車両が矢印a4のように接触(衝突)してセンタピラー13が車室15へ向かって変形し始めると、補強部材28の閉断面によって荷重を伝えるので、側面衝突時の荷重伝達効率は高くなる。
【0025】
車体側部構造11では、図2のように、補強部材28をスポット溶接で取付けたものに比べ、溶接用のフランジを配置するスペースを設ける必要がなく、センタピラー13を細くすることができ、且つ、溶接長及び溶接量(厚さ)が増加することで、センタピラー13の強度を高めることができる。
【0026】
次に、本発明の実施例に係る車体側部構造11の溶接変形を抑制する機構を図5、図6で説明する。なお、図5は補強部材28の位置を図2に一致させることで、理解を容易にしているが、溶接作業のときは、図6の状態である。
【0027】
車体側部構造11では、一方のビード33に二点鎖線で示す補強部材28を溶接で施した第1溶接ビード部36で接合すると、アークの熱で補強部材28は実線で示すように膨張し同時に、一方のビード33は熱膨張する。膨張することで補強部材28が一方のビード33を矢印a5のように押すと、一方のビード33は膨出量を増加させるように変形するので、補強部材28の伸び量及び、一方のビード33自身の膨張・変形(徐冷後)を吸収することができ、補強スティフナ27の一方のビード33からフランジ部53までの間は変形しない。その結果、ドア開口フランジ部47の変形を抑制することができる。
【0028】
他方のビード34は、一方のビード33と同様に、膨張する補強部材28で矢印a6のように押されると、盛り上がるように変形して補強部材28の伸び量及び、他方のビード34自身の膨張・変形(徐冷後)を吸収することができ、補強スティフナ27の他方のビード34からフランジ部61までの間は変形しない。その結果、クオータ窓枠部22の変形を抑制することができ、ウインドウガラス(クオータガラス)を接着する接着面64の熱変形を抑えることができる。
【0029】
次に、本発明の実施例に係る車体側部構造11の溶接容易となる機構を図6で説明する。
図6(a)は補強スティフナ27と補強部材28の溶接要領兼、機構説明断面図、図6(b)は補強スティフナ27と補強部材28の溶接要領兼、機構説明斜視図である。
【0030】
まず、補強スティフナ27に補強部材28を組み合わせる。具体的には、補強スティフナ27の補強部材28を重ねる面31を上方へ向けて補強スティフナ27を治具(図に示していない)で固定し、一方のビード33と他方のビード34の間に補強部材28を置くことで嵌める。続けて、補強部材28の溶接位置決め穴41、42に位置決め治具81を嵌めることで、補強部材28の長手方向(矢印a7の方向)の位置が定まると同時に補強部材28及び補強スティフナ27が拘束される。
【0031】
このように、一方のビード33と他方のビード34の間に補強部材28を嵌めると、補強部材28の位置は自動的に定まるので、製造が容易である。
また、溶接位置決め穴41、42によって、車両12の左のセンタピラー13並びに右のセンタピラー13で共用でき、且つ、車両12の上方へ一方、他方のどちらを向けてもよく、誤組みを防止することができる。
【0032】
引き続き、溶接を開始する。溶接作業者は、一方のビード33と他方のビード34の範囲だけ溶接を施せばよく、溶接開始前や溶接過程において、作業者が溶接位置を間違えるということを防ぐことができる。
【0033】
また、一方のビード33と補強部材28との溶接では、補強スティフナ27の収納段部76によって補強部材28との間が狭くなっているが、一方のビード33を設けることで、溶接者は、遮光ガラスを用いても、溶接箇所の判別が容易である。
さらに、補強スティフナ27の収納段部76によって補強部材28との間が狭くなることで、溶接トーチ82の角度が規制されても、一方のビード33を設けることで、補強部材28とでなる開先83をレ形にすることができ、下向き溶接の溶接作業が容易である。
【0034】
より詳しくは、収納段部76との干渉で溶接トーチ82を倒せなくとも、一方のビード33によって、溶着金属84をせき止めることができ、溶着金属84の流れ落ちを防止することができ、結果的に、溶接作業が容易である。逆に言うと、狭い断面内での溶接トーチ82と部材(補強スティフナ27の収納段部76)との干渉を防ぐことができる。
すなわち、一方のビード33を溶接作業者に向け凸にし且つ、補強部材28を重ねる面に対し、凸にすることで、狭い断面内での溶接作業の作業性を向上させることができる。
【0035】
尚、本発明の車体側部構造は、実施の形態ではセンタピラーに採用されているが、センタピラー以外のピラーにも採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の車体側部構造は、センタピラーに好適である。
【符号の説明】
【0037】
11…車体側部構造、13…センタピラー、15…車室、16…サイドボデー、27…補強スティフナ、28…補強部材、31…車室へ向いている面、33…一方のビード、34…他方のビード、36…第1溶接ビード部、37…第2溶接ビード部、41…一方の溶接位置決め穴、42…他方の溶接位置決め穴、43…一方の縁、44…他方の縁、E1…一方の縁からの距離、E2…他方の縁からの距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の側壁をなすサイドボデーの中央に立設されている閉断面のセンタピラーに沿って補強部材を設けている車体側部構造において、
前記センタピラーは、前記補強部材を閉断面として、前記車室へ向いている面に取付けている板状の補強スティフナに前記補強部材に沿って一方のビード、他方のビードがそれぞれ形成されているとともに、前記一方・他方のビードと前記補強部材とがすみ肉溶接を施すことで接合されていることを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記一方・他方のビードは、前記補強部材を配置した前記面に対し、凸に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車体側部構造。
【請求項3】
前記補強部材は、一方と他方の溶接位置決め穴を、一方の縁からの距離と他方の縁からの距離を一致させて開けていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体側部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−228698(P2010−228698A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81124(P2009−81124)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】