説明

車体前部構造

【課題】 構造体を大型化させることなく、車体前部に加わる上向きの荷重に対して適切に抗することができる車体前部構造を提供する。
【解決手段】 フロントサイドフレーム3・4と、ダッシュパネル13と、フロントピラーロア6と、サイドシル7・8と、アッパメンバ9・10と、ダンパハウジング11・12と、アウトリガ35とを有する車体前部構造2に、一端がダンパハウジングのダンパ取り付け部29・30近傍におけるホイールハウス103側の面に接合されるとともに、フロントサイドフレームおよびアウトリガのホイールハウス側の外面に沿って延び、他端がフロントピラーの下端部およびサイドシルの前端部の少なくとも一方に接合されたガセット36を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車体前部構造に関し、より詳細にはフロントサイドフレームと車室を構成する部材との連結構造の補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体前部構造には、フロントサイドフレームとフロントピラーの下部とを接合する補強部材を備え、フロントサイドフレームからの荷重をフロントピラーやサイドシルといった車室を構成する部材(車室構成部材)に伝えるようにしたものがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような車体前部構造における補強部材は、ダッシュパネルの前面側に沿って概ね水平方向に延設され、フロントサイドフレームの後端近傍と接続されている。
【特許文献1】特開平5−270443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車体前部構造では、補強部材はフロントサイドフレームの後端近傍に接続され、かつ水平方向に延設されていることから、補強部材はフロントサイドフレームに加わる上向きの荷重に対して効果的に抗することができず、荷重は専ら補強部材に連結されたフロントピラーに曲げ荷重として加わるといった問題がある。また、補強部材が当該荷重に抗することができるようにするためには、補強部材を大きくする必要があり、補強部材を大きくすることで、車室空間は狭くなり、車体重量は増加するという問題がある。
【0005】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであり、補強部材を大型化させることなく、車体前部に加わる上向きの荷重に対して適切に抗することができる車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の発明は、車体(1)の前部に配置され、車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム(3・4)と、フロントサイドフレームの後端部に接続され、車幅方向に延在してエンジンルーム(100)と車室(101)とを隔離するダッシュパネル(13)と、ダッシュパネルの両端側に配置された左右一対のフロントピラーロア(5・6)と、左右一対のフロントピラーロアの下端部に接続され、当該接続部より車体後方に延びる左右一対のサイドシル(7・8)と、左右一対のフロントピラーロアの上端部に接続され、当該接続部より車体前方に延びる左右一対のアッパメンバ(9・10)と、少なくともフロントサイドフレームとアッパメンバとに接続され、フロントサイドフレームとダッシュパネルとともにホイールハウス(103)の一部を画成するダンパハウジング(11・12)と、ダッシュパネルのホイールハウスの一部を画成する部分の下方に配置され、フロントサイドフレームの後端部と、フロンピラーの下端部およびサイドシルの前端部の少なくとも一方とを連結するアウトリガ(35)とを有する車体前部構造(2)において、一端がダンパハウジングのダンパ取り付け部近傍におけるホイールハウス側の面に接合されるとともに、フロントサイドフレームおよびアウトリガのホイールハウス側の外面に沿って延び、他端がフロントピラーの下端部およびサイドシルの前端部の少なくとも一方に接合されたガセット(36)を有することを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、ガセットは、板状部材から構成され、当該ガセットの長手方向に沿って延在する少なくとも1つ以上の突条(37)を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明によれば、ガセットは、フロントサイドフレームに上向き荷重を加えるダンパハウジングと、車室構成部材であるフロントピラーの下部およびサイドシルの前部の少なくとも一方と接続する斜材として機能し、ダンパハウジングに加わる荷重を車室構成部材に伝え、フロントサイドフレームに加わる荷重を分散させることができる。ガセットは、ダンパハウジングおよびフロントサイドフレームから加わる上向きの荷重を引張荷重として受けるため、耐荷重が高く、車体前部構造の剛性が向上する。第2の発明によれば、ガセットを取り付けた際に、ガセットと各部材との間には突条による閉構造が形成されるため、車体前部構造の剛性が向上する。これにより、車体前部構造およびガセットを軽量化および小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<実施形態の構成>
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車体前部構造を適用した車体を示す斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る車体前部構造の左側部を示す側面図である。図3は図2の矢印IIIの方向から見た斜視図である。図4および図5は、図2の矢印IVおよび矢印Vに沿って見た断面図である。なお、説明の便宜上、本発明が適用される自動車の進行方向を前方、進行方向と逆の方向を後方、前方を向いた際の右側を右、左側を左、鉛直上方を上方、鉛直下方を下方とする。
【0010】
図1および図2に示すように、自動車の車体1の車体前部構造2は、骨格部材として、左右一対のフロントサイドフレーム3・4、左右一対のフロントピラーロア5・6、左右一対のサイドシル7・8、左右一対のアッパメンバ9・10および左右一対のダンパハウジング11・12等を有し、ボディパネルとして、エンジンルームと車室とを隔離するダッシュパネル13等を有している。
【0011】
ダッシュパネル13は、車幅方向に延設されたダッシュアッパ14と、ダッシュアッパ14の下方に配置されて車幅方向および略鉛直方向に延びる板状部材のダッシュロア15とにより構成され、エンジンルーム100と車室101とを隔離する。ダッシュロア15は、下部に下方へと進むにつれて後方へと延びる傾斜部15aを有し、傾斜部15aの下端(後方端)で車室の床面を構成するフロアパネル(図示しない)と接合されている。また、ダッシュロア15の車幅方向における両端部には、前輪を収容するホイールハウス103の一部を画成するホイールハウス部15bが形成されている。ホイールハウス部15bは、車輪の転舵空間を確保するべく、車室側に湾曲して押し出された曲面形状を呈する。
【0012】
フロントサイドフレーム3・4は、エンジンルーム100からダッシュロア15に向けて前後方向に延設されている。フロントサイドフレーム3・4は、後方側において、ダッシュロア15と接合し、さらにダッシュロアの傾斜部15aの前面に沿って後方側かつ斜め下方側へと延び、後端部においてフロントフロアフレーム(図示しない)の前端部と接合している。フロントサイドフレーム3・4の前端部はフロントバルクヘッド16の一部を構成するバルクヘッドサイドステイ17・18に接合されている。フロントバルクヘッド16は、バルクヘッドサイドステイ17・18と、その上方および下方に設けられたバルクヘッドアッパセンタフレーム19およびバルクヘッドロアクロスメンバ20とにより構成されている。
【0013】
フロントピラーロア5・6はダッシュアッパ14およびダッシュロア15の車幅方向における両側に、略鉛直方向に延設されている。フロントピラーロア5・6の下端部は、前後方向に延設されたサイドシル7・8の前端部と接合している。本実施形態では、フロントピラーロア5・6の下端部の下方にサイドシル7・8の前端部が位置するようにフロントピラーロア5・6とサイドシル7・8とが接合されている。なお、サイドシル7・8の前端部の前方にフロントピラーロア5・6の下端部が位置するようにフロントピラーロア5・6とサイドシル7・8とが接合されてもよい。
【0014】
サイドシル7・8の前端部と、フロントサイドフレーム3・4とは、車幅方向に延びるアウトリガ35により連結されている。アウトリガ35は、ダッシュロア15のホイールハウス部15bの下方に設けられ、ホイールハウス部15bの曲面形状と連続したホイールハウスの壁面を形成するべく、車室側へと湾曲した窪みを有して形成されている。
【0015】
フロントピラーロア5・6の上端部には、前後方向に延びるアッパメンバ9・10の後端部が接合され、また後方へ進むにつれて上方へと延びるフロントピラーアッパ21・22の下端部が接合されている。
【0016】
アッパメンバ9・10の前端部には、前方に進むにつれて下方へと延びるフロントホイールハウスロアエクステンション23・24の後端部が接合されており、フロントホイールハウスロアエクステンション23・24の前端部はフロントサイドガセット25・26を介してフロントサイドフレーム3・4の前端部に連結されている。また、アッパメンバ9・10の前端部は、バルクヘッドアッパサイドフレーム27・28を介してバルクヘッドアッパセンタフレーム19と連結されている。
【0017】
ダンパハウジング11・12は、アッパメンバ9・10の側部よりエンジンルーム内方側に略水平に突出したダンパ取付部29・30と、ダンパ取付部29・30の先端部より下方へと延び、フロントサイドフレーム3・4の側部に連結された側壁31・32とを有する。ダンパ取付部29・30には、ダンパ(図示しない)を取り付けるためのダンパ取付孔33・34が形成されている。ダンパ取付部29・30および側壁31・32の後端はダッシュロア15またはダッシュアッパ14と連結されていてもよい。
【0018】
図2および図3に示すように、実施形態に係る車体前部構造2は、ダンパハウジング12の側壁32のホイールハウス側の外面からフロントサイドフレーム4の外面およびアウトリガ35の外面に沿って延び、サイドシル8の前端部8aに到達するガセット36を有する。ガセット36は板状部材から構成され、アウトリガ35の外面と一致する形状に湾曲して形成される。図4および図5に示すように、ガセット36は、長手方向に連続して延在する突条37を有する。突条37は、例えばプレス成形等によって形成され、その横断面は曲面形状を呈する。
【0019】
ガセット36は、周縁部に沿って設けられた複数のボルト孔38を備え、ダンパハウジング12の側壁32、フロントサイドフレーム4、アウトリガ35およびサイドシル8の前端部8aはボルト孔38に一致する位置に孔(図示しない)を有する。ガセット36は、各孔にボルト39を挿通し、対応するナットと螺合させることにより、各部材に締結されている。なお、他の実施形態においては、溶接によりガセット36を各部材に接合させてもよい。また、ガセット36をダンパハウジング12の側壁32およびサイドシル8の前端部8aにのみ締結し、ガセット36をフロントサイドフレーム4およびアウトリガ35に締結しないようにしてもよい。
【0020】
上記のガセット36は、車体の左前方側のホイ−ルハウスに設けた例について説明したが、車体の右前方側のホイールハウスにも同様のガセットが設けられる。
【0021】
<実施形態の作用効果>
以上のように構成された車体前部構造2の作用および効果について説明する。実施形態に係る車体前部構造2では、ガセット36は上下方向かつ前後方向に延在することから斜材として機能し、車体前部構造2の曲げ剛性およびねじれ剛性を向上させる。ガセット36は、例えばダンパから車体前部構造2のダンパハウジング12に加わる上向きの荷重を引張荷重として受けることができる。
【0022】
ダンパハウジング12からの荷重はガセット36へと分散されるため、フロントサイドフレーム4に加わる荷重は低減される。フロントサイドフレーム4は略水平方向に延在して後端部でダッシュパネル13や、アウトリガ35を介してフロントピラーロア6やサイドシル8等に接合されているため、ダンパハウジング12からの上向きの荷重はこれらの接合部やフロントサイドフレーム4に曲げ荷重として加わるが、ガセット36により荷重が低減されるため接合部の変形等を防止することができる。
【0023】
ガセット36の一端側はダンパ取り付け部30の近傍、すなわちダンパから上向きの荷重が加わる点の近傍に取り付けられているため、ダンパからの荷重を適切に受けることができる。また、ガセット36の他端側はサイドシル8に連結されていることから、ダンパからの荷重を比較的剛性が高い車室を構成する部材へと分散させることができる。このようにしてダンパから加わる荷重を剛性が高い部材に分散し、車体前部構造2全体としての剛性を高めることができる。
【0024】
ガセット36は、ホイールハウス103を構成する各部材の外面に沿って設けられるため、タイヤの転舵空間を減少させることなく設けられる。そのため、車両の旋回性能を低下させることはない。また、ガセット36の設置により、車室空間が減少することはない。逆に、ガセット36により付与される剛性によって、他の補強部材等の必要性がなくなるため、その補強部材を省略して車室空間を拡張することが可能になる。
【0025】
ガセット36は、長手方向に延在する突条37を有することから、ガセット36と、ダンパハウジング12の側壁32、フロントサイドフレーム4、アウトリガ35およびサイドシル8の前端部8aの外面との間に閉構造が形成され、ガセット36および車体前部構造2の剛性は向上する。ガセット36の設置により車体前部構造2の剛性が過剰となった場合には、フロントピラー等の構成部材を細くすることが可能となる。フロントピラーを細くすると、ドア開口面積を拡張することができ、乗員の乗降が容易となる。
【0026】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、本実施形態に係るガセット36は一端がダンパハウジング12に固定され、他端がサイドシル8の前端部8aに固定されているが、一端側をさらにアッパメンバ10の外面にまで延設してもよいし、また他端側を短縮してアウトリガに接合させてもよい。また、本実施形態では、フロントピラーの下端部の下方にサイドシルの前端部が位置するが、サイドシルの前端部の前方にフロントピラーの下端部が位置するように両部材を接合し、ガセットの他端側をフロントピラーの下端部に接合してもよい。また、ガセット36の突条37の形状は、様々な形状を採用することができ、例えばガセット36の横断面が三角形状や四角形上に突設された形状や波型を呈してもよく、またガセット36の長手方向に延在するリブを備えてもよい。その他車体前部構造の構成は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る車体前部構造を適用した車体を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車体前部構造の左側部を示す側面図である。
【図3】図2の矢印IIIの方向から見た斜視図である。
【図4】図2の矢印IVに沿って見た断面図である。
【図5】図2の矢印Vに沿って見た断面図である。
【符号の説明】
【0028】
2 車体前部構造
3・4 フロントサイドフレーム
5・6 フロントピラーロア
7・8 サイドシル
9・10 アッパメンバ
11・12 ダンパハウジング
15 ダッシュロア
15a 傾斜部
15b ホイールハウス部
29・30 ダンパ取付部
31・32 側壁
33・34 ダンパ取付孔
35 アウトリガ
36 ガセット
100 エンジンルーム
101 車室
103 ホイールハウス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部に配置され、車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームの後端部に接続され、車幅方向に延在してエンジンルームと車室とを隔離するダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルの両端側に配置された左右一対のフロントピラーロアと、
前記左右一対のフロントピラーロアの下端部に接続され、当該接続部より車体後方に延びる左右一対のサイドシルと、
前記左右一対のフロントピラーロアの上端部に接続され、当該接続部より車体前方に延びる左右一対のアッパメンバと、
少なくとも前記フロントサイドフレームと前記アッパメンバとに接続され、前記フロントサイドフレームと前記ダッシュパネルとともにホイールハウスの一部を画成するダンパハウジングと、
前記ダッシュパネルの前記ホイールハウスの一部を画成する部分の下方に配置され、前記フロントサイドフレームの後端部と、前記フロンピラーの下端部および前記サイドシルの前端部の少なくとも一方とを連結するアウトリガと
を有する車体前部構造において、
一端が前記ダンパハウジングのダンパ取り付け部近傍における前記ホイールハウス側の面に接合されるとともに、前記フロントサイドフレームおよび前記アウトリガの前記ホイールハウス側の外面に沿って延び、他端が前記フロントピラーの下端部および前記サイドシルの前端部の少なくとも一方に接合されたガセットを有することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記ガセットは、板状部材から構成され、当該ガセットの長手方向に沿って延在する少なくとも1つ以上の突条を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−184403(P2009−184403A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23656(P2008−23656)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】