車体前部構造
【課題】フロントサイドフレームからの荷重を、直接フロントピラーやサイドシルへ伝達することを可能にするとともに、あらゆる方向からの入力に対してダッシュボードパネルに剛性の低下が起こることを回避することを可能にする。
【解決手段】エンジンルーム21と車室22とを隔てるダッシュボードパネル13と、このダッシュボードパネル13から車体前方向に延ばされるフロントサイドフレーム11と、ダッシュボードパネル13の側方から車体後方に延ばされるサイドシル17と、ダッシュボードパネル13の側方から斜め上方に延ばされるAピラー23とを備えた車体前部構造において、フロントサイドフレーム11の水平部後端11a近傍に接合し、ダッシュボードパネル13を貫通して直線状にAピラー23の下部及びサイドシル17へ連結する二股状の補強部材72が、その二股を形成する交差角度を60度に設定する。
【解決手段】エンジンルーム21と車室22とを隔てるダッシュボードパネル13と、このダッシュボードパネル13から車体前方向に延ばされるフロントサイドフレーム11と、ダッシュボードパネル13の側方から車体後方に延ばされるサイドシル17と、ダッシュボードパネル13の側方から斜め上方に延ばされるAピラー23とを備えた車体前部構造において、フロントサイドフレーム11の水平部後端11a近傍に接合し、ダッシュボードパネル13を貫通して直線状にAピラー23の下部及びサイドシル17へ連結する二股状の補強部材72が、その二股を形成する交差角度を60度に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボード廻りの剛性を高めた車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造として、エンジンを横置きに配置した車両に採用されるものが知られている。
この種の車体前部構造は、エンジンを横置きに配置した構造では、フロントタイヤの位置が車室に近づき、この車室の隔壁になるダッシュボードパネルは転舵時のタイヤを避けるために車室の左右側部へ突出するアーチ形状を呈する。
【0003】
このような車体前部構造として、フロントタイヤを囲うホイールアーチ部の形状を活かし、ホイールアーチ部のR形状(曲線)に沿った補強をしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許2936877号公報
【0004】
特許文献1の車体前部構造は、エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボードパネルと、このダッシュボードパネルから車体前方向に延ばされるフロントサイドフレームと、ダッシュボードパネルの側方の設けられるホイールアーチ部と、これらのダッシュボードパネル及びホイールアーチ部廻りを補強する第1・第2の補強部材とを備え、第1の補強部材(クロスメンバ)は、車幅方向に延ばされ、且つホイールアーチ部のR形状(曲線)に沿わせるとともに、第2の補強部材は、ホイールアーチ部の下部に設けられ、且つホイールアーチ部のR形状(曲線)に沿わせたものである。
【0005】
しかし、車体前部構造では、ダッシュボードパネルを、ホイールアーチ部のR形状(曲線)に沿わせて剛性向上を図るようにしているため、第1の補強部材(クロスメンバ)は、フロントサイドフレームの水平部後端の下方へオフセットした位置にある。従って、フロントサイドフレームの水平部後端を第1の補強部材(クロスメンバ)で支持することはきない。
【0006】
すなわち、ダッシュボードパネルのフロントサイドフレーム間の剛性が弱いので、フロントサイドフレームの荷重の入力がホイールアーチ部の反対側(ダッシュボードパネルの中央部)におよぶとダッシュボードパネルの剛性に差異が生まれ、十分な剛性の確保ができないという課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フロントサイドフレームからの荷重を、直接フロントピラーやサイドシルへ伝達することができるとともに、あらゆる方向からの入力に対してダッシュボードパネルに剛性の低下が起こることを回避できる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボードパネルと、このダッシュボードパネルから車体前方向に延ばされるフロントサイドフレームと、ダッシュボードパネルの側方から車体後方に延ばされるサイドシルと、ダッシュボードパネルの側方から斜め上方に延ばされるAピラーとを備えた車体前部構造において、フロントサイドフレームの水平部後端近傍に接合し、ダッシュボードパネルを貫通して直線状にAピラー下部及びサイドシルへ連結する二股状補強部材を備え、この補強部材の二股を形成する交差角度を60度に設定することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、補強部材が、Aピラー下部の取付点とサイドシルの取付点とを仮想線で結ぶときに、交差部、Aピラー下部の取付点及びサイドシルの取付点で略正三角形を形成することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、ダッシュボードパネルが、フロントサイドフレームの水平部後端に接合するクロスメンバが設けられ、交差部をクロスメンバに連結したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボードパネルが設けられ、このダッシュボードパネルから車体前方向に延ばされるフロントサイドフレームが設けられ、ダッシュボードパネルの側方から車体後方に延ばされるサイドシル設けられ、ダッシュボードパネルの側方から斜め上方に延ばされるAピラー設けられる。
フロントサイドフレームの水平部後端近傍に接合し、ダッシュボードパネルを貫通して直線状にAピラー下部及びサイドシルへ連結する二股状の補強部材を備え、この補強部材の二股を形成する交差角度を60度に設定したので、あらゆる方向のフロントサイドフレームから入力される荷重を直接Aピラー及びサイドシルへ伝達することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、補強部材が、Aピラー下部の取付点とサイドシルの取付点とを仮想線で結ぶときに、交差部、Aピラー下部の取付点及びサイドシルの取付点で略正三角形を形成したので、あらゆる方向からの入力に対して剛性低下が起こらない。
【0013】
請求項3に係る発明では、ダッシュボードパネルが、フロントサイドフレームの水平部後端に接合するクロスメンバが設けられ、交差部をクロスメンバに連結したので、交差部とフロントサイドフレームとが車幅方向にオフセットする場合にも、クロスメンバを介してフロントサイドフレームの水平部後端に接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る車体前部構造の斜視図であり、図2は図1に示される車体前部構造の車室側からのダッシュボードパネル廻りの斜視図である。
【0015】
車体10Aは、エンジンルーム21と車室22とを隔てるダッシュボードパネル(ダッシュボード)13と、このダッシュボードパネル13から車体前方向に延ばされる左右のフロントサイドフレーム11,11と、ダッシュボードパネル13の中央部から車体後方に延ばされるセンタトンネル(フロアトンネル)43と、ダッシュボードパネル13の側方から車体後方に延ばされる左右のサイドシル17,17(一方不図示)と、ダッシュボードパネル13の側方から斜め上方に延ばされるAピラー(フロントピラー)23,23(一方不図示)と、ダッシュボードパネル13から車体後方に延ばされる車体フロア(フロントフロア)15とを備える。
【0016】
フロントサイドフレーム11,11は、車体幅方向に所定間隔をおいて配置され、車体前後方向に延出され、ダッシュボードパネル13に水平部後端(後端部)11aが接合される。
サイドシル17は、車室22の下部で左右端に設けられ車体フロア15を支持する骨格部材であり、サイドシルインナ45と、サイドシルアウタ46とからなり、前部17aがダッシュボードパネル13に接合される。
Aピラー(フロントピラー)23は、ダッシュボードパネル13の左右から車体後方に且つ斜め上方に延出される。
【0017】
図3は図1に示される車体前部構造のダッシュボードパネルの分解斜視図であり、図4はダッシュパネル後分割体を取り除いたダッシュボードパネルの斜視図である。
ダッシュボードパネル13は、エンジンルーム21側に配置されるダッシュパネル前分割体61と、車室22側に配置されるダッシュパネル後分割体62と、これらのダッシュパネル前分割体61及びダッシュパネル後分割体62の間に、連結材(支持部材)41を介して配置される補強フレーム構造体(連結部材若しくはボード補強部材)14とからなる。
なお、連結材41は、ダッシュパネル後分割体62と補強フレーム構造体14との間に配置される。
【0018】
ダッシュパネル前分割体61は、左右のフロントサイドフレーム11,11が車体前方に延出されるフロントサイドフレーム遮蔽部材(前ボードパネル)31と、このフロントサイドフレーム遮蔽部材31の中央下部から後方に延出され、センタトンネル43を接続するダッシュボード下部パネル(トンネル部補強板)64と、フロントサイドフレーム遮蔽部材31の両側に設けられ、前輪(不図示)を囲う左右のホイールアーチ部25,25とからなる。
【0019】
ダッシュパネル後分割体62は、車体10Aをエンジンルーム21側と車室22側と隔てる中央パネル(後ボードパネル)32と、この中央パネル32の両側下部に設けられ、左右のサイドシル17,17に接続する下サイドパネル(ダッシュボードパネル下部)28,28とからなる。
【0020】
補強フレーム構造体(連結部材)14は、左右のサイドフレーム間を結合するクロスメンバ(中央連結部材)35と、サイドシル17,17の前部17a,17aを補強するサイドシル補強フレーム(ホイールアーチ下連結部材)37,37と、Aピラー23を補強するピラー補強フレーム(ホイールアーチ上連結部材)38,38と、センタトンネル43を補強するトンネル補強フレーム(トンネルフレーム連結部材)36,36と、からなり、クロスメンバ35をベースに一体化されたものである。
【0021】
クロスメンバ35及び左右のサイドシル補強フレーム37,37は、一本のパイプ部材を曲げ形成して形成される部分であり、サイドシル補強フレーム37,37は、ダッシュボードパネル13を通過させて(貫通させて)略直線状に形成され、クロスメンバ35は、ダッシュボードパネル13内を通過させて(貫通させて)略直線状に形成される。
【0022】
ピラー補強フレーム38,38は、サイドシル補強フレーム37,37の根本にパイプ部材が溶接されたものであり、ダッシュパネル後分割体62を通過させて(貫通させて)、略直線状に形成される。
トンネル補強フレーム36,36は、クロスメンバ35にパイプ部材が溶接されたものである。
【0023】
図5は図1に示される車体前部構造の補強フレーム構造体を模式的に表した斜視図である。
さらに、車体前部構造10では、ピラー補強フレーム38とサイドシル補強フレーム37とで、二股状の補強部材72が構成され、ピラー補強フレーム38とサイドシル補強フレーム37との交差する点を交差部73と呼ぶときに、二股状の補強部材72は、交差部73の交差角度θが60度に設定される。
【0024】
Aピラー下部の取付点74とサイドシルの取付点75とを仮想線76で結ぶときに、交差部73、Aピラー下部の取付点74及びサイドシルの取付点75で略正三角形を形成される。なお、交差部73はクロスメンバ35に連結され、クロスメンバ35及びフロントサイドフレーム遮蔽部材31を介してフロントサイドフレーム11に取付けるフロントサイドフレーム11の取付点でもある。
【0025】
図6は図1の6−6線断面図であり、図7は図2の7−7線断面図であり、図8は図2の8−8線断面図であり、図9は図2の9−9線断面図であり、図10は図9に示されたダッシュボードパネル廻りの溶接箇所を示す説明図である。なお、図6〜図8及び図10において黒丸印は溶接箇所を示す。
【0026】
図6に示されるように、車体前部構造10では、ダッシュパネル前分割体61のホイールアーチ部25と補強フレーム構造体14のサイドシル補強フレーム37が溶接され、ホイールアーチ部25とダッシュパネル後分割体62の下サイドパネル28とが溶接され、この下サイドパネル28に中央パネル32及びサイドシル17が溶接されている。
【0027】
すなわち、サイドシル補強フレーム37は、ダッシュパネル前分割体61のホイールアーチ部25の外周縁78(図2参照)に固定(連結)されるとともに、下サイドパネル(ダッシュボードパネル下部)28で覆われる(被覆される)。
【0028】
図7に示されたように、車体前部構造10では、ダッシュパネル前分割体61のダッシュボード下部パネル64にダッシュパネル後分割体62の中央パネル32が溶接され、補強フレーム構造体14のトンネル補強フレーム36がダッシュボード下部パネル64及び中央パネル32に溶接され、さらに、中央パネル32は、アルミニウム鋳造継手部材65で補強されている。
【0029】
図8に示されたように、車体前部構造10では、補強フレーム構造体14のトンネル補強フレーム36は、ダッシュパネル前分割体61のフロントサイドフレーム遮蔽部材31の後面31aに溶接(接合)されるとともに、ダッシュパネル前分割体61のダッシュボード下部パネル64とダッシュパネル後分割体62の中央パネル32との間を貫通させて、センタトンネル(トンネル部パネル)43の上部43a裏面に接合される。なお、補強フレーム構造体14のクロスメンバ35も、フロントサイドフレーム遮蔽部材31の後面31aに溶接(接合)されている。
【0030】
図9及び図10に示されたように、車体前部構造10では、ダッシュパネル後分割体62の中央パネル32に連結材41が溶接されるとともに、ダッシュパネル前分割体61のフロントサイドフレーム遮蔽部材31が溶接され、フロントサイドフレーム遮蔽部材31にも連結材41が溶接され、フロントサイドフレーム遮蔽部材31にフロントサイドフレーム11が溶接され、フロントサイドフレーム遮蔽部材31及び連結材41に補強フレーム構造体14のクロスメンバ35が溶接される。
【0031】
すなわち、クロスメンバ(中央連結部材)35は、フロントサイドフレーム遮蔽部材31に固定されるとともに、連結材41を介してフロントサイドフレーム遮蔽部材31と中央パネル32とで挟み込まれたものである。
【0032】
車体前部構造10の組立方法を説明する。
車体前部構造10では、図4に示されたように、ダッシュボードパネル13のホイールアーチ部25とフロントサイドフレーム遮蔽部材31を一体に形成したダッシュパネル前分割体61にサイドシル17,17、センタトンネル43及びAピラー23,23に繋がる補強フレーム構造体(連結部材)14を結合し、ダッシュパネル前分割体61及び補強フレーム構造体14の組立体79を作成する。このときに、補強フレーム構造体14のサイドシル補強フレーム37をホイールアーチ部25の外周縁78に沿わせて固定する。
【0033】
次に、組立体79を、図2に示されたように、フロントサイドフレーム11,11(図5参照)の水平部後端11aに嵌合し、組立体79に補強フレーム構造体14を押さえる連結材41を介在させてダッシュパネル後分割体62の中央パネル32を被せ、サイドシル補強フレーム37をホイールアーチ部25に接合する。
さらに、中央パネル32の下部に、フロントサイドフレーム11,11の車体フロア15下へ傾斜する部分(不図示)を接合する。
【0034】
補強フレーム構造体14のサイドシル補強フレーム37をサイドシル17へ直接結合し、その後に、車室22側から下サイドパネル(ダッシュボードパネル下部)28を被せ、ダッシュパネル前分割体61のホイールアーチ部25と、ダッシュパネル後分割体62の中央パネル32と接合する。
【0035】
図11(a)〜(c)は図1に示される車体前部構造のダッシュボードパネルの説明図である。
(a)において、先にも説明したように、二股状の補強部材72は、フロントサイドフレーム11の水平部後端11aの内面を支持し、Aピラー23(図2参照)の下部とサイドシル17(図1参照)とを連結し、ダッシュボードパネル13(図2参照)のホイールアーチ部25の境界77及び境界(外周縁)78を通る部材であるとともに、直線状部材(サイドシル補強フレーム)37及び直線状部材(ピラー補強フレーム)38の組立体である。
【0036】
さらに、二股状の補強部材72は、Aピラー23の下部とサイドシル17(図1参照)とからそれぞれフロントサイドフレーム11の水平部後端11aに向けて配置され、相互に交差する。交差部(フロントサイドフレームの取付点)73は、所定の交差角度θに設定され、クロスメンバ35を介してダッシュパネル前分割体61に接合される。
【0037】
また、Aピラー下部の取付点44とサイドシルの取付点75とを結ぶ仮想線76が、直線状部材37,38の交差角度θを60°に設定し、直線状部材37と仮想線76とのなす角度及び直線状部材38と仮想線76とのなす角度をそれぞれ60°に設定することで正三角形が形成される。
【0038】
(b)において、フロントサイドフレーム11と二股状の補強部材72を模式的に表した側面図が示され、二股状の補強部材72をホイールアーチ部25の境界に正三角形にすることで閉じられた空間においては完全バランスが実現し、二股状の補強部材72が結合される各取付点73〜75からの入力及び反力は、どの取付点(頂点)73〜75及びどの角度からも均等に分配されるので、あらゆる方向からの入力に対し、剛性低下を起こすことがない。
【0039】
(c)において、フロントサイドフレーム11と二股状の補強部材72を模式的に表した平面図が示され、フロントサイドフレーム11とホイールアーチ部25は、車幅方向にオフセットしているのが、一般的なレイアウトである(ここで、オフセット量をS1とする)。
【0040】
車体前部構造10では、ホイールアーチ部25(若しくはサイドシル17)へ車幅方向の分力F1,F2が発生させるが、二股状の補強部材72はクロスメンバ35に接合されているので、十分に剛性を保つことができる。このように、剛性低下を起こさないことで、無駄な補強が不要になる。従って、車体前部構造の合理化を図ることができ、車体10A(図1参照)の軽量化をすることができる。
【0041】
図1、図2及び図11車体前部構造10では、エンジンルーム21と車室22とを隔てるダッシュボードパネル13が設けられ、このダッシュボードパネル13から車体前方向に延ばされるフロントサイドフレーム11が設けられ、ダッシュボードパネル13の側方から車体後方に延ばされるサイドシル17設けられ、ダッシュボードパネル13の側方から斜め上方に延ばされるAピラー23設けられる。
【0042】
フロントサイドフレーム11の水平部後端11a近傍に接合し、ダッシュボードパネル13を貫通して直線状にAピラー23の下部及びサイドシル17へ連結する二股状の補強部材72を備え、この補強部材72の二股を形成する交差角度を60度に設定したので、あらゆる方向のフロントサイドフレーム11から入力される荷重を直接Aピラー23及びサイドシル17へ伝達することができる。
【0043】
補強部材72は、Aピラー下部の取付点44とサイドシルの取付点75とを仮想線76で結ぶときに、交差部(フロントサイドフレームの取付点)73、Aピラー下部の取付点44及びサイドシルの取付点75で略正三角形を形成したので、あらゆる方向からの入力に対して剛性低下が起こらない。
【0044】
車体前部構造10では、ダッシュボードパネル13に、フロントサイドフレーム11の水平部後端11aに接合するクロスメンバ35が設けられ、交差部73をクロスメンバ35に連結したので、交差部73とフロントサイドフレーム11とが車幅方向にオフセットする場合にも、クロスメンバ35を介してフロントサイドフレーム11の水平部後端11aに接続することができる。
【0045】
尚、本発明に係る車体前部構造は、図4に示すように、補強フレーム構造体(連結部材)14は、クロスメンバ35及び左右のサイドシル補強フレーム37,37が一体的に形成され、左右のサイドシル補強フレーム37,37に左右のピラー補強フレーム38,38が溶接されたが、これに限るものではなく、クロスメンバ35及び左右のピラー補強フレームが一体的に形成され、左右のピラー補強フレームに左右のサイドシル補強フレームが溶接される形態であってもよい。
【0046】
また、クロスメンバ、サイドシル補強フレーム(直線状部材)及びピラー補強フレーム(直線状部材)を別部材で構成し、これらの直線状部材をブラケットを介してクロスメンバに接合するようにしてもよい。
【0047】
、本発明に係る車体前部構造は、図11に示すように、Aピラー下部の取付点44とサイドシルの取付点75とを仮想線76で結ぶときに、交差部(フロントサイドフレームの取付点)73、Aピラー下部の取付点44及びサイドシルの取付点75で略正三角形を形成したが、これに限るものではなく、Aピラー下部の取付点44とサイドシルの取付点75との間を、新たな補強フレーム(直線状部材)で連結するものであってもよい。これにより、フロントサイドメンバ、Aピラー及びサイドシルが、3本の補強フレーム(直線状部材)相互に連結することができ、フロントサイドメンバ、Aピラー及びサイドシルの一つから入力される荷重を他の2つの部材に円滑に伝達することができるとともに、フロントサイドメンバ、Aピラー及びサイドシルの相互の剛性の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る車体前部構造は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る車体前部構造の斜視図である。
【図2】図1に示される車体前部構造の車室側からのダッシュボードパネル廻りの斜視図である。
【図3】図1に示される車体前部構造のダッシュボードパネルの分解斜視図である。
【図4】ダッシュパネル後分割体を取り除いたダッシュボードパネルの斜視図である。
【図5】図1に示される車体前部構造の補強フレーム構造体を模式的に表した斜視図である。
【図6】図1の6−6線断面図である。
【図7】図2の7−7線断面図である。
【図8】図2の8−8線断面図である。
【図9】図2の9−9線断面図である。
【図10】図9に示されたダッシュボードパネル廻りの溶接箇所を示す説明図である。
【図11】図1に示される車体前部構造のダッシュボードパネルの説明図である。
【符号の説明】
【0050】
10…車体前部構造、11…フロントサイドフレーム、11a…水平部後端、13…ダッシュボードパネル、17…サイドシル、21…エンジンルーム、22…車室、23…Aピラー(フロントピラー)、25…ホイールアーチ部、35…クロスメンバ、72…二股状の補強部材、73…交差部(フロントサイドフレームの取付点)、74…Aピラー下部の取付点、75…サイドシルの取付点、76…仮想線、θ…交差角度。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボード廻りの剛性を高めた車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造として、エンジンを横置きに配置した車両に採用されるものが知られている。
この種の車体前部構造は、エンジンを横置きに配置した構造では、フロントタイヤの位置が車室に近づき、この車室の隔壁になるダッシュボードパネルは転舵時のタイヤを避けるために車室の左右側部へ突出するアーチ形状を呈する。
【0003】
このような車体前部構造として、フロントタイヤを囲うホイールアーチ部の形状を活かし、ホイールアーチ部のR形状(曲線)に沿った補強をしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許2936877号公報
【0004】
特許文献1の車体前部構造は、エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボードパネルと、このダッシュボードパネルから車体前方向に延ばされるフロントサイドフレームと、ダッシュボードパネルの側方の設けられるホイールアーチ部と、これらのダッシュボードパネル及びホイールアーチ部廻りを補強する第1・第2の補強部材とを備え、第1の補強部材(クロスメンバ)は、車幅方向に延ばされ、且つホイールアーチ部のR形状(曲線)に沿わせるとともに、第2の補強部材は、ホイールアーチ部の下部に設けられ、且つホイールアーチ部のR形状(曲線)に沿わせたものである。
【0005】
しかし、車体前部構造では、ダッシュボードパネルを、ホイールアーチ部のR形状(曲線)に沿わせて剛性向上を図るようにしているため、第1の補強部材(クロスメンバ)は、フロントサイドフレームの水平部後端の下方へオフセットした位置にある。従って、フロントサイドフレームの水平部後端を第1の補強部材(クロスメンバ)で支持することはきない。
【0006】
すなわち、ダッシュボードパネルのフロントサイドフレーム間の剛性が弱いので、フロントサイドフレームの荷重の入力がホイールアーチ部の反対側(ダッシュボードパネルの中央部)におよぶとダッシュボードパネルの剛性に差異が生まれ、十分な剛性の確保ができないという課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フロントサイドフレームからの荷重を、直接フロントピラーやサイドシルへ伝達することができるとともに、あらゆる方向からの入力に対してダッシュボードパネルに剛性の低下が起こることを回避できる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボードパネルと、このダッシュボードパネルから車体前方向に延ばされるフロントサイドフレームと、ダッシュボードパネルの側方から車体後方に延ばされるサイドシルと、ダッシュボードパネルの側方から斜め上方に延ばされるAピラーとを備えた車体前部構造において、フロントサイドフレームの水平部後端近傍に接合し、ダッシュボードパネルを貫通して直線状にAピラー下部及びサイドシルへ連結する二股状補強部材を備え、この補強部材の二股を形成する交差角度を60度に設定することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、補強部材が、Aピラー下部の取付点とサイドシルの取付点とを仮想線で結ぶときに、交差部、Aピラー下部の取付点及びサイドシルの取付点で略正三角形を形成することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、ダッシュボードパネルが、フロントサイドフレームの水平部後端に接合するクロスメンバが設けられ、交差部をクロスメンバに連結したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボードパネルが設けられ、このダッシュボードパネルから車体前方向に延ばされるフロントサイドフレームが設けられ、ダッシュボードパネルの側方から車体後方に延ばされるサイドシル設けられ、ダッシュボードパネルの側方から斜め上方に延ばされるAピラー設けられる。
フロントサイドフレームの水平部後端近傍に接合し、ダッシュボードパネルを貫通して直線状にAピラー下部及びサイドシルへ連結する二股状の補強部材を備え、この補強部材の二股を形成する交差角度を60度に設定したので、あらゆる方向のフロントサイドフレームから入力される荷重を直接Aピラー及びサイドシルへ伝達することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、補強部材が、Aピラー下部の取付点とサイドシルの取付点とを仮想線で結ぶときに、交差部、Aピラー下部の取付点及びサイドシルの取付点で略正三角形を形成したので、あらゆる方向からの入力に対して剛性低下が起こらない。
【0013】
請求項3に係る発明では、ダッシュボードパネルが、フロントサイドフレームの水平部後端に接合するクロスメンバが設けられ、交差部をクロスメンバに連結したので、交差部とフロントサイドフレームとが車幅方向にオフセットする場合にも、クロスメンバを介してフロントサイドフレームの水平部後端に接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る車体前部構造の斜視図であり、図2は図1に示される車体前部構造の車室側からのダッシュボードパネル廻りの斜視図である。
【0015】
車体10Aは、エンジンルーム21と車室22とを隔てるダッシュボードパネル(ダッシュボード)13と、このダッシュボードパネル13から車体前方向に延ばされる左右のフロントサイドフレーム11,11と、ダッシュボードパネル13の中央部から車体後方に延ばされるセンタトンネル(フロアトンネル)43と、ダッシュボードパネル13の側方から車体後方に延ばされる左右のサイドシル17,17(一方不図示)と、ダッシュボードパネル13の側方から斜め上方に延ばされるAピラー(フロントピラー)23,23(一方不図示)と、ダッシュボードパネル13から車体後方に延ばされる車体フロア(フロントフロア)15とを備える。
【0016】
フロントサイドフレーム11,11は、車体幅方向に所定間隔をおいて配置され、車体前後方向に延出され、ダッシュボードパネル13に水平部後端(後端部)11aが接合される。
サイドシル17は、車室22の下部で左右端に設けられ車体フロア15を支持する骨格部材であり、サイドシルインナ45と、サイドシルアウタ46とからなり、前部17aがダッシュボードパネル13に接合される。
Aピラー(フロントピラー)23は、ダッシュボードパネル13の左右から車体後方に且つ斜め上方に延出される。
【0017】
図3は図1に示される車体前部構造のダッシュボードパネルの分解斜視図であり、図4はダッシュパネル後分割体を取り除いたダッシュボードパネルの斜視図である。
ダッシュボードパネル13は、エンジンルーム21側に配置されるダッシュパネル前分割体61と、車室22側に配置されるダッシュパネル後分割体62と、これらのダッシュパネル前分割体61及びダッシュパネル後分割体62の間に、連結材(支持部材)41を介して配置される補強フレーム構造体(連結部材若しくはボード補強部材)14とからなる。
なお、連結材41は、ダッシュパネル後分割体62と補強フレーム構造体14との間に配置される。
【0018】
ダッシュパネル前分割体61は、左右のフロントサイドフレーム11,11が車体前方に延出されるフロントサイドフレーム遮蔽部材(前ボードパネル)31と、このフロントサイドフレーム遮蔽部材31の中央下部から後方に延出され、センタトンネル43を接続するダッシュボード下部パネル(トンネル部補強板)64と、フロントサイドフレーム遮蔽部材31の両側に設けられ、前輪(不図示)を囲う左右のホイールアーチ部25,25とからなる。
【0019】
ダッシュパネル後分割体62は、車体10Aをエンジンルーム21側と車室22側と隔てる中央パネル(後ボードパネル)32と、この中央パネル32の両側下部に設けられ、左右のサイドシル17,17に接続する下サイドパネル(ダッシュボードパネル下部)28,28とからなる。
【0020】
補強フレーム構造体(連結部材)14は、左右のサイドフレーム間を結合するクロスメンバ(中央連結部材)35と、サイドシル17,17の前部17a,17aを補強するサイドシル補強フレーム(ホイールアーチ下連結部材)37,37と、Aピラー23を補強するピラー補強フレーム(ホイールアーチ上連結部材)38,38と、センタトンネル43を補強するトンネル補強フレーム(トンネルフレーム連結部材)36,36と、からなり、クロスメンバ35をベースに一体化されたものである。
【0021】
クロスメンバ35及び左右のサイドシル補強フレーム37,37は、一本のパイプ部材を曲げ形成して形成される部分であり、サイドシル補強フレーム37,37は、ダッシュボードパネル13を通過させて(貫通させて)略直線状に形成され、クロスメンバ35は、ダッシュボードパネル13内を通過させて(貫通させて)略直線状に形成される。
【0022】
ピラー補強フレーム38,38は、サイドシル補強フレーム37,37の根本にパイプ部材が溶接されたものであり、ダッシュパネル後分割体62を通過させて(貫通させて)、略直線状に形成される。
トンネル補強フレーム36,36は、クロスメンバ35にパイプ部材が溶接されたものである。
【0023】
図5は図1に示される車体前部構造の補強フレーム構造体を模式的に表した斜視図である。
さらに、車体前部構造10では、ピラー補強フレーム38とサイドシル補強フレーム37とで、二股状の補強部材72が構成され、ピラー補強フレーム38とサイドシル補強フレーム37との交差する点を交差部73と呼ぶときに、二股状の補強部材72は、交差部73の交差角度θが60度に設定される。
【0024】
Aピラー下部の取付点74とサイドシルの取付点75とを仮想線76で結ぶときに、交差部73、Aピラー下部の取付点74及びサイドシルの取付点75で略正三角形を形成される。なお、交差部73はクロスメンバ35に連結され、クロスメンバ35及びフロントサイドフレーム遮蔽部材31を介してフロントサイドフレーム11に取付けるフロントサイドフレーム11の取付点でもある。
【0025】
図6は図1の6−6線断面図であり、図7は図2の7−7線断面図であり、図8は図2の8−8線断面図であり、図9は図2の9−9線断面図であり、図10は図9に示されたダッシュボードパネル廻りの溶接箇所を示す説明図である。なお、図6〜図8及び図10において黒丸印は溶接箇所を示す。
【0026】
図6に示されるように、車体前部構造10では、ダッシュパネル前分割体61のホイールアーチ部25と補強フレーム構造体14のサイドシル補強フレーム37が溶接され、ホイールアーチ部25とダッシュパネル後分割体62の下サイドパネル28とが溶接され、この下サイドパネル28に中央パネル32及びサイドシル17が溶接されている。
【0027】
すなわち、サイドシル補強フレーム37は、ダッシュパネル前分割体61のホイールアーチ部25の外周縁78(図2参照)に固定(連結)されるとともに、下サイドパネル(ダッシュボードパネル下部)28で覆われる(被覆される)。
【0028】
図7に示されたように、車体前部構造10では、ダッシュパネル前分割体61のダッシュボード下部パネル64にダッシュパネル後分割体62の中央パネル32が溶接され、補強フレーム構造体14のトンネル補強フレーム36がダッシュボード下部パネル64及び中央パネル32に溶接され、さらに、中央パネル32は、アルミニウム鋳造継手部材65で補強されている。
【0029】
図8に示されたように、車体前部構造10では、補強フレーム構造体14のトンネル補強フレーム36は、ダッシュパネル前分割体61のフロントサイドフレーム遮蔽部材31の後面31aに溶接(接合)されるとともに、ダッシュパネル前分割体61のダッシュボード下部パネル64とダッシュパネル後分割体62の中央パネル32との間を貫通させて、センタトンネル(トンネル部パネル)43の上部43a裏面に接合される。なお、補強フレーム構造体14のクロスメンバ35も、フロントサイドフレーム遮蔽部材31の後面31aに溶接(接合)されている。
【0030】
図9及び図10に示されたように、車体前部構造10では、ダッシュパネル後分割体62の中央パネル32に連結材41が溶接されるとともに、ダッシュパネル前分割体61のフロントサイドフレーム遮蔽部材31が溶接され、フロントサイドフレーム遮蔽部材31にも連結材41が溶接され、フロントサイドフレーム遮蔽部材31にフロントサイドフレーム11が溶接され、フロントサイドフレーム遮蔽部材31及び連結材41に補強フレーム構造体14のクロスメンバ35が溶接される。
【0031】
すなわち、クロスメンバ(中央連結部材)35は、フロントサイドフレーム遮蔽部材31に固定されるとともに、連結材41を介してフロントサイドフレーム遮蔽部材31と中央パネル32とで挟み込まれたものである。
【0032】
車体前部構造10の組立方法を説明する。
車体前部構造10では、図4に示されたように、ダッシュボードパネル13のホイールアーチ部25とフロントサイドフレーム遮蔽部材31を一体に形成したダッシュパネル前分割体61にサイドシル17,17、センタトンネル43及びAピラー23,23に繋がる補強フレーム構造体(連結部材)14を結合し、ダッシュパネル前分割体61及び補強フレーム構造体14の組立体79を作成する。このときに、補強フレーム構造体14のサイドシル補強フレーム37をホイールアーチ部25の外周縁78に沿わせて固定する。
【0033】
次に、組立体79を、図2に示されたように、フロントサイドフレーム11,11(図5参照)の水平部後端11aに嵌合し、組立体79に補強フレーム構造体14を押さえる連結材41を介在させてダッシュパネル後分割体62の中央パネル32を被せ、サイドシル補強フレーム37をホイールアーチ部25に接合する。
さらに、中央パネル32の下部に、フロントサイドフレーム11,11の車体フロア15下へ傾斜する部分(不図示)を接合する。
【0034】
補強フレーム構造体14のサイドシル補強フレーム37をサイドシル17へ直接結合し、その後に、車室22側から下サイドパネル(ダッシュボードパネル下部)28を被せ、ダッシュパネル前分割体61のホイールアーチ部25と、ダッシュパネル後分割体62の中央パネル32と接合する。
【0035】
図11(a)〜(c)は図1に示される車体前部構造のダッシュボードパネルの説明図である。
(a)において、先にも説明したように、二股状の補強部材72は、フロントサイドフレーム11の水平部後端11aの内面を支持し、Aピラー23(図2参照)の下部とサイドシル17(図1参照)とを連結し、ダッシュボードパネル13(図2参照)のホイールアーチ部25の境界77及び境界(外周縁)78を通る部材であるとともに、直線状部材(サイドシル補強フレーム)37及び直線状部材(ピラー補強フレーム)38の組立体である。
【0036】
さらに、二股状の補強部材72は、Aピラー23の下部とサイドシル17(図1参照)とからそれぞれフロントサイドフレーム11の水平部後端11aに向けて配置され、相互に交差する。交差部(フロントサイドフレームの取付点)73は、所定の交差角度θに設定され、クロスメンバ35を介してダッシュパネル前分割体61に接合される。
【0037】
また、Aピラー下部の取付点44とサイドシルの取付点75とを結ぶ仮想線76が、直線状部材37,38の交差角度θを60°に設定し、直線状部材37と仮想線76とのなす角度及び直線状部材38と仮想線76とのなす角度をそれぞれ60°に設定することで正三角形が形成される。
【0038】
(b)において、フロントサイドフレーム11と二股状の補強部材72を模式的に表した側面図が示され、二股状の補強部材72をホイールアーチ部25の境界に正三角形にすることで閉じられた空間においては完全バランスが実現し、二股状の補強部材72が結合される各取付点73〜75からの入力及び反力は、どの取付点(頂点)73〜75及びどの角度からも均等に分配されるので、あらゆる方向からの入力に対し、剛性低下を起こすことがない。
【0039】
(c)において、フロントサイドフレーム11と二股状の補強部材72を模式的に表した平面図が示され、フロントサイドフレーム11とホイールアーチ部25は、車幅方向にオフセットしているのが、一般的なレイアウトである(ここで、オフセット量をS1とする)。
【0040】
車体前部構造10では、ホイールアーチ部25(若しくはサイドシル17)へ車幅方向の分力F1,F2が発生させるが、二股状の補強部材72はクロスメンバ35に接合されているので、十分に剛性を保つことができる。このように、剛性低下を起こさないことで、無駄な補強が不要になる。従って、車体前部構造の合理化を図ることができ、車体10A(図1参照)の軽量化をすることができる。
【0041】
図1、図2及び図11車体前部構造10では、エンジンルーム21と車室22とを隔てるダッシュボードパネル13が設けられ、このダッシュボードパネル13から車体前方向に延ばされるフロントサイドフレーム11が設けられ、ダッシュボードパネル13の側方から車体後方に延ばされるサイドシル17設けられ、ダッシュボードパネル13の側方から斜め上方に延ばされるAピラー23設けられる。
【0042】
フロントサイドフレーム11の水平部後端11a近傍に接合し、ダッシュボードパネル13を貫通して直線状にAピラー23の下部及びサイドシル17へ連結する二股状の補強部材72を備え、この補強部材72の二股を形成する交差角度を60度に設定したので、あらゆる方向のフロントサイドフレーム11から入力される荷重を直接Aピラー23及びサイドシル17へ伝達することができる。
【0043】
補強部材72は、Aピラー下部の取付点44とサイドシルの取付点75とを仮想線76で結ぶときに、交差部(フロントサイドフレームの取付点)73、Aピラー下部の取付点44及びサイドシルの取付点75で略正三角形を形成したので、あらゆる方向からの入力に対して剛性低下が起こらない。
【0044】
車体前部構造10では、ダッシュボードパネル13に、フロントサイドフレーム11の水平部後端11aに接合するクロスメンバ35が設けられ、交差部73をクロスメンバ35に連結したので、交差部73とフロントサイドフレーム11とが車幅方向にオフセットする場合にも、クロスメンバ35を介してフロントサイドフレーム11の水平部後端11aに接続することができる。
【0045】
尚、本発明に係る車体前部構造は、図4に示すように、補強フレーム構造体(連結部材)14は、クロスメンバ35及び左右のサイドシル補強フレーム37,37が一体的に形成され、左右のサイドシル補強フレーム37,37に左右のピラー補強フレーム38,38が溶接されたが、これに限るものではなく、クロスメンバ35及び左右のピラー補強フレームが一体的に形成され、左右のピラー補強フレームに左右のサイドシル補強フレームが溶接される形態であってもよい。
【0046】
また、クロスメンバ、サイドシル補強フレーム(直線状部材)及びピラー補強フレーム(直線状部材)を別部材で構成し、これらの直線状部材をブラケットを介してクロスメンバに接合するようにしてもよい。
【0047】
、本発明に係る車体前部構造は、図11に示すように、Aピラー下部の取付点44とサイドシルの取付点75とを仮想線76で結ぶときに、交差部(フロントサイドフレームの取付点)73、Aピラー下部の取付点44及びサイドシルの取付点75で略正三角形を形成したが、これに限るものではなく、Aピラー下部の取付点44とサイドシルの取付点75との間を、新たな補強フレーム(直線状部材)で連結するものであってもよい。これにより、フロントサイドメンバ、Aピラー及びサイドシルが、3本の補強フレーム(直線状部材)相互に連結することができ、フロントサイドメンバ、Aピラー及びサイドシルの一つから入力される荷重を他の2つの部材に円滑に伝達することができるとともに、フロントサイドメンバ、Aピラー及びサイドシルの相互の剛性の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る車体前部構造は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る車体前部構造の斜視図である。
【図2】図1に示される車体前部構造の車室側からのダッシュボードパネル廻りの斜視図である。
【図3】図1に示される車体前部構造のダッシュボードパネルの分解斜視図である。
【図4】ダッシュパネル後分割体を取り除いたダッシュボードパネルの斜視図である。
【図5】図1に示される車体前部構造の補強フレーム構造体を模式的に表した斜視図である。
【図6】図1の6−6線断面図である。
【図7】図2の7−7線断面図である。
【図8】図2の8−8線断面図である。
【図9】図2の9−9線断面図である。
【図10】図9に示されたダッシュボードパネル廻りの溶接箇所を示す説明図である。
【図11】図1に示される車体前部構造のダッシュボードパネルの説明図である。
【符号の説明】
【0050】
10…車体前部構造、11…フロントサイドフレーム、11a…水平部後端、13…ダッシュボードパネル、17…サイドシル、21…エンジンルーム、22…車室、23…Aピラー(フロントピラー)、25…ホイールアーチ部、35…クロスメンバ、72…二股状の補強部材、73…交差部(フロントサイドフレームの取付点)、74…Aピラー下部の取付点、75…サイドシルの取付点、76…仮想線、θ…交差角度。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボードパネルと、このダッシュボードパネルから車体前方向に延ばされるフロントサイドフレームと、ダッシュボードパネルの側方から車体後方に延ばされるサイドシルと、ダッシュボードパネルの側方から斜め上方に延ばされるAピラーとを備えた車体前部構造において、
前記フロントサイドフレームの水平部後端近傍に接合し、前記ダッシュボードパネルを貫通して直線状に前記Aピラー下部及び前記サイドシルへ連結する二股状の補強部材を備え、この補強部材の二股を形成する交差部の交差角度を60度に設定することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記補強部材は、前記Aピラー下部の取付点と前記サイドシルの取付点とを仮想線で結ぶときに、前記交差部、前記Aピラー下部の取付点及び前記サイドシルの取付点で略正三角形を形成することを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記ダッシュボードパネルは、前記フロントサイドフレームの水平部後端に接合するクロスメンバが設けられ、前記交差部を前記クロスメンバに連結したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体前部構造。
【請求項1】
エンジンルームと車室とを隔てるダッシュボードパネルと、このダッシュボードパネルから車体前方向に延ばされるフロントサイドフレームと、ダッシュボードパネルの側方から車体後方に延ばされるサイドシルと、ダッシュボードパネルの側方から斜め上方に延ばされるAピラーとを備えた車体前部構造において、
前記フロントサイドフレームの水平部後端近傍に接合し、前記ダッシュボードパネルを貫通して直線状に前記Aピラー下部及び前記サイドシルへ連結する二股状の補強部材を備え、この補強部材の二股を形成する交差部の交差角度を60度に設定することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記補強部材は、前記Aピラー下部の取付点と前記サイドシルの取付点とを仮想線で結ぶときに、前記交差部、前記Aピラー下部の取付点及び前記サイドシルの取付点で略正三角形を形成することを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記ダッシュボードパネルは、前記フロントサイドフレームの水平部後端に接合するクロスメンバが設けられ、前記交差部を前記クロスメンバに連結したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体前部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−105536(P2010−105536A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279634(P2008−279634)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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