説明

車体前部構造

【課題】エプロンサイドメンバとエプロンサイドパネルの接合部に対するシーラの塗布漏れをなくして接合部の接合面に錆が発生するのを防止でき、効率よく衝突エネルギーを吸収でき、エネルギー吸収効率を向上させることができ、衝突性能を向上させることができて、エプロンサイドメンバやその周辺部品の材質板厚を最適化でき、軽量化・製作コストを低廉化できる車体前部構造を提供する。
【解決手段】車両前後方向に沿うエプロンサイドメンバ4にエプロンサイドパネル5が接合され、バッテリー用のトレイ14がエプロンサイドメンバ4に支持されている車体前部構造であって、トレイ本体部15に脚部16が設けられ、脚部16の下端部16Kがエプロンサイドメンバ4に固定部材Bで固定され、脚部16は、エプロンサイドメンバ4に車両前後方向の力が加わった場合にエプロンサイドメンバ4の変形を許す形態に板材で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
車両前後方向に沿うエプロンサイドメンバにエプロンサイドパネルが接合され、
バッテリー用のトレイが前記エプロンサイドメンバに支持されている車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記の車体前部構造では、図9に示すように、ストラットタワー部6の車両前方側Frのエプロンサイドメンバ4に前後一対のトレイ支持台30が溶接固着され、トレイ支持台30にトレイ14がボルトBで載置固定されていた。
前記トレイ支持台30は、縦断側面視(車幅方向視)において下側が開放した断面U字状に形成され、トレイ支持台30の前後一対の側壁30Sの断面L字形の下端部が、エプロンサイドメンバ4の上壁4Jと、エプロンサイドメンバ4の車幅方向内側W1の側壁4Sとに溶接固着されている。さらに、前記前後一対の側壁30Sの車幅方向外側W2の端部と、両側壁30Sの上端部同士を連結する上壁30Jの車幅方向外側W2の端部とがエプロンサイドパネル5に溶接固着されている。(類似の技術として特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−348689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エプロンサイドメンバとエプロンサイドパネルの接合部には、接合部の接合面への水の浸入を阻止する防錆用のシーラが塗布されるが、上記従来の構造によれば、トレイ支持台の車幅方向外側に位置する接合部(前後一対の側壁30S間の接合部)にシーラを塗布できず、接合部の接合面に水が浸入して錆が発生することがあった。
【0005】
また、このような車体前部構造においては、車両の前方衝突時にエプロンサイドメンバが変形しやすくて、効率よく衝突エネルギーを吸収できる構造が望まれていた。
【0006】
本発明は上記実状に鑑みて成されたもので、その目的は、エプロンサイドメンバとエプロンサイドパネルの接合部に対するシーラの塗布漏れをなくして前記接合部の接合面に錆が発生するのを防止することができ、しかも、車両の衝突時に効率よく衝突エネルギーを吸収することができ、エネルギー吸収効率を向上させることができ、衝突性能を向上させることができて、エプロンサイドメンバやその周辺部品の材質・板厚を最適化でき、軽量化・製作コストを低廉化することができる車体前部構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本第1発明の特徴は、
車両前後方向に沿うエプロンサイドメンバにエプロンサイドパネルが接合され、
バッテリー用のトレイが前記エプロンサイドメンバに支持されている車体前部構造であって、
前記トレイのトレイ本体部に脚部が設けられ、
前記脚部の下端部が前記エプロンサイドメンバに固定部材で固定され、
前記脚部は、前記エプロンサイドメンバに車両前後方向の力が加わった場合に前記エプロンサイドメンバの変形を許す形態に板材で形成されている点にある。(請求項1)
【0008】
上記構成によれば、トレイのトレイ本体部に脚部が設けられ、脚部の下端部がエプロンサイドメンバに固定部材で固定されているから、エプロンサイドメンバとエプロンサイドパネルの接合部にシーラを塗布する場合、前記脚部の下端部をエプロンサイドメンバに固定部材で固定する前に塗布することができる。
従って、トレイに邪魔されることなくシーラを前記接合部に塗布することができて、シーラ切れ(シーラの塗布漏れ)する個所をなくすことができ、前記接合部の接合面への水の浸入を確実に阻止することができて接合面に錆が発生することを防止することができる。
前記脚部は、エプロンサイドメンバに車両前後方向の力が加わった場合にエプロンサイドメンバの変形を許す形態に板材で形成されているから、例えば、図9に示すように、トレイ支持台30の前後一対の側壁30Sと、両側壁30Sの上端部同士を連結する上壁30Jとが、車両の前方衝突時、すなわち、エプロンサイドメンバ4に車両前後方向の力が加わった時に突っ張る従来の構造に比べると、前方衝突時にエプロンサイドメンバ4が変形しやすくて、効率よく衝突エネルギーを吸収することができる。
これにより、エネルギー吸収効率を向上させることができ、衝突性能を向上させることができて、エプロンサイドメンバやその周辺部品の材質・板厚を最適化でき、軽量化・製作コストを低廉化することができる。(請求項1)
【0009】
本第1発明において、
前記脚部は板面が車両前後方向を向いていると、エプロンサイドメンバに車両前後方向の力が加わった場合に、脚部がエプロンサイドメンバに対して車両前後方向に容易に変形することができる。これにより、請求項1の構成による上記作用をより得やすくすることができる。(請求項2)
【0010】
本第2発明の特徴は、
車両前後方向に沿うエプロンサイドメンバにエプロンサイドパネルが接合され、
バッテリー用のトレイが前記エプロンサイドメンバに支持されている車体前部構造であって、
前記トレイのトレイ本体部に脚部が設けられ、
前記脚部の下端部が前記エプロンサイドメンバに固定部材で固定され、
前記脚部は、前記エプロンサイドメンバに車両前後方向の力が加わった場合に前記エプロンサイドメンバの変形を許す形態に複数の縦長の部材で形成されていると、次の作用を奏することができる。(請求項3)
【0011】
上記構成によれば、トレイのトレイ本体部に脚部が設けられ、脚部の下端部がエプロンサイドメンバに固定部材で固定されているから、エプロンサイドメンバとエプロンサイドパネルの接合部にシーラを塗布する場合、前記脚部の下端部をエプロンサイドメンバに固定部材で固定する前に塗布することができる。
従って、トレイに邪魔されることなくシーラを前記接合部に塗布することができて、シーラ切れ(シーラの塗布漏れ)する個所をなくすことができ、前記接合部の接合面への水の浸入を確実に阻止することができて接合面に錆が発生することを防止することができる。
前記脚部は、エプロンサイドメンバに車両前後方向の力が加わった場合にエプロンサイドメンバの変形を許す形態に複数の縦長の部材で形成されているから、例えば、図9に示すように、トレイ支持台30の前後一対の側壁30Sと、両側壁30Sの上端部同士を連結する上壁30Jとが、車両の前方衝突時、すなわち、エプロンサイドメンバ4に車両前後方向の力が加わった時に突っ張る従来の構造に比べると、前方衝突時にエプロンサイドメンバ4が変形しやすくて、効率よく衝突エネルギーを吸収することができる。
これにより、エネルギー吸収効率を向上させることができ、衝突性能を向上させることができて、エプロンサイドメンバやその周辺部品の材質・板厚を最適化でき、軽量化・製作コストを低廉化することができる。(請求項3)
【0012】
本第1又は第2発明において、
前記エプロンサイドメンバにエンジンとの間に介在するエンジンマウントが連結され、
前記トレイ本体部が前記エプロンサイドパネルに固定部材で固定され、
前記トレイ本体部が前記エンジンマウントに載置されて固定されていると、次の作用を奏することができる。(請求項4)
【0013】
前記トレイ本体部が前記エプロンサイドパネルに固定部材で固定され、前記トレイ本体部が前記エンジンマウントに載置されて固定されているから、トレイを安定支持することができ、脚部にかかる負担を軽くすることができて脚部を小型化することができる。また、トレイ本体部に載置されたバッテリーがエンジンマウントに対するウェイトの役割を果たし、エンジンマウントの振動を抑制することができる。(請求項4)
【0014】
本発明において、
エンジンの付属部品を支持する支持部が前記トレイ本体部に設けられていると、エンジンルーム内の空間を有効利用することができる。(請求項5)
【0015】
本発明において、
前記支持部は前記トレイの周部から立ち上がる縦壁で構成され、
前記トレイの径方向外方側を向く縦壁面に前記付属部品が取り付けられると、トレイの上方にエンジンの付属品が位置しないから、トレイの収容量を減らすことなくトレイの支持部でエンジンの付属品を支持することができる。(請求項6)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、
エプロンサイドメンバとエプロンサイドパネルの接合部に対するシーラの塗布漏れをなくして前記接合部の接合面に錆が発生するのを防止することができ、しかも、車両の衝突時に効率よく衝突エネルギーを吸収することができ、エネルギー吸収効率を向上させることができ、衝突性能を向上させることができて、エプロンサイドメンバやその周辺部品の材質・板厚を最適化でき、軽量化・製作コストを低廉化することができる車体前部構造を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】キャニスターとリザーバタンクをトレイに取り付けた状態の車体前部構造の斜視図
【図2】トレイを取り付ける前の車体前部構造の斜視図
【図3】(a)はトレイの斜視図、(b)はエンジンマウント及びトレイを取り付ける前の状態の車体前部構造の斜視図
【図4】車体前部構造の斜視図
【図5】車両の左右中央側から見た車体前部構造の側面図
【図6】キャニスターとリザーバタンクのトレイへの取り付け構造を示す斜視図
【図7】キャニスターとリザーバタンクのトレイへの取り付け構造の分解斜視図
【図8】比較例を示す図であり、車両の左右中央側から見た車体前部構造の側面図
【図9】従来の技術を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜図3(a),図3(b)に自動車の車体前部構造を示してある。この車体前部構造は、エンジンルーム1と車室2内を仕切るダッシュパネル3と、車両前後方向に沿う角形筒状のエプロンサイドメンバ4と、エプロンサイドパネル5と、エプロンサイドパネル5から車幅方向内側W1のエンジンルーム1内に膨出するストラットタワー部6とを備えている。
【0019】
前記ストラットタワー部6は、車幅方向内側W1に向かって窄まる横断面台形状の周壁6Sと、この周壁6Sの上端部に連なる上壁6Jとを備え、前輪用のサスペンションストラットを内蔵している。横断面における前記周壁6Sのコーナー部は円弧状に折曲している。エプロンサイドパネル5はエプロンサイドメンバ4に溶接接合され、一部分がストラットタワー部6の下半部の車両前方側Frに突出して縦断面L字の棚状に形成されている。
【0020】
図3(b)に示すように、ストラットタワー部6の上壁6Jと周壁6Sの上端部は互いに溶接接合され、ストラットタワー部6の各壁のうち、周壁6Sの車幅方向内側W1の下端部はエプロンサイドメンバ4の上壁4Jの車幅方向外側W2の端部に溶接接合され、周壁6Sの車幅方向外側W2の部分及び車両前方側Frの下端部はエプロンサイドパネル5に溶接接合され、周壁6Sの車両後方側Rrの部分はダッシュパネル3に溶接接合されている。そして、これらの溶接接合部に防錆用のシーラ7が塗布されて、溶接接合部の合わせ面(接合面)の間への水の浸入を阻止してある。
【0021】
図4,図5にも示すように、ストラットタワー部6の車両前方側Frのエプロンサイドメンバ4にエンジンマウント8がエンジンマウントブラケット9(図2参照)を介してボルトBで固定されて車幅方向内側W1に張り出している。このように、エプロンサイドメンバ4にエンジンとの間に介在するエンジンマウント8が連結されている。このエンジンマウント8でエンジンの振動を吸収する。
【0022】
エンジンマウント8は、内筒と、外筒と、内外筒を連結するゴム状弾性体10とから成る。図2に示すように、エンジンマウントブラケット9は、円筒部11と、円筒部11の下側外周部に溶接固着された断面L字形の下側連結部材12と、円筒部11の上側外周部に溶接固着された台座状の上側連結部材13とから成る。下側連結部材12と上側連結部材13には複数のボルト挿通孔Sが形成されている。上側連結部材13は一対のL字形部材の上側の一片同士を接合して構成されている。
【0023】
そして、エンジンマウント8がエンジンマウントブラケット9の円筒部11に圧入され、内外筒の軸芯O(図4参照)が車両前後方向に沿うように下側連結部材12の両片がエプロンサイドメンバ4の車幅方向内側W1の側壁4Sと上壁4Jに各別にボルトBで固定されている。
【0024】
また、図2,図4に示すように、ストラットタワー部6の車両前方側Frに位置するエプロンサイドパネル5の上壁5Jと、ストラットタワー部6の車両前方側Frに位置するエプロンサイドメンバ4の上壁4Jと、エンジンマウントブラケット9の上側連結部材13の上壁13Jとにバッテリー用のトレイ14がボルトBで固定されている。
【0025】
[トレイ14の構造]
図4に示すように、トレイ14のトレイ本体部15は車幅方向に長く形成され、周部から低い周壁15Sが立ち上がっている。バッテリーはトレイ本体部15に載置されて固定される。トレイ本体部15の車両後方側Rrの端部には脚部16の上端部が溶接固着されている。この脚部16は、自動車が前方衝突してエプロンサイドメンバ4に車両前後方向の力が加わった場合にエプロンサイドメンバ4の変形を許す形態に板材で形成されている。
【0026】
詳述すると、前記脚部16は板面が車両前後方向を向く一枚の金属板で形成され、上方になるにつれて幅広になるように形成されている。脚部16の幅方向両端部16Bは脚部16の幅方向中央部16Aに対して車両前方側Frに折曲している。すなわち、脚部16が横断面において車両後方側Rrに凸の山形状に形成されている。
【0027】
脚部16の上端部の幅方向中央部16Aは上方に突出し、トレイ本体部15の周壁15Sの外側面に車両前方側Frから重なって溶接固着されている。また、脚部16の上端部の幅方向両端部16Bはトレイ本体部15の周部の下面に下側から溶接固着されている。
【0028】
これにより、脚部16の上端部をトレイ本体部15に強固に固定することができ、脚部16でトレイ本体部15を安定して支持することができる。また、脚部16が横断面において山形状に形成されていることで脚部16の剛性を向上させることができる。脚部16の下端部16Kは車両後方側Rrに折り返されている。
【0029】
そして、トレイ本体部15の車幅方向外側W2の取り付け部15Aがエプロンサイドパネル5の上壁5JにボルトB(固定部材に相当)で固定され、
トレイ本体部15の車幅方向内側W1の一対の取り付け部15Bがエンジンマウントブラケット9の上側連結部材13の上壁13J(図2参照)にボルトB(固定部材に相当)で固定され、
トレイ14の脚部16の折り返された下端部16Kがエプロンサイドメンバ4の上壁4JにボルトB(固定部材に相当)で固定されている。
【0030】
図5に示すように、脚部16は上方側ほど車両前方側Frに位置する状態に傾斜している。これにより、脚部16でトレイ本体部15を安定支持することができる。また、図4に示すように、前記トレイ本体部15の車幅方向内側W1の一対の取り付け部15Bは車幅方向に間隔を空けて位置し、それぞれ下側に台座状に膨出している。
【0031】
上記のようにトレイ本体部15はエンジンマウント8に載置されて固定されている。トレイ本体部15の車幅方向外側W2の取り付け部15Aとエプロンサイドパネル5の上壁5Jとを連結するボルトBはエプロンサイドパネル5の上壁5Jに溶接固着されて前記上壁5Jから上方に突出している(図2参照)。図4の符号50の上下方向に沿う一対のバーはバッテリーを固定する役割を有する。
【0032】
[キャニスター17とリザーバタンク18の支持構造]
図1,図6,図7に示すように、キャニスター17(エンジンの付属部品に相当)とリザーバタンク18(エンジンの付属部品に相当)とを各別に支持する支持部21がトレイ本体部15に設けられている。前記支持部21はトレイ本体部15の周壁15Sのうち車幅方向内側W1の周壁部分から立ち上がる内側縦壁19と、車両前方側Frの周壁部分から立ち上がる前側縦壁20とで構成され、内側縦壁19の下端部と前側縦壁20の下端部とがそれぞれトレイ本体部15の周壁15Sに固定されている。
【0033】
そして、トレイ14の径方向外方側のうち車幅方向内側W1を向く内側縦壁19の縦壁面にキャニスター17が取り付けられ、トレイ14の径方向外方側のうち車両前方側Frを向く前側縦壁20の縦壁面にリザーバタンク18が取り付けられている。
【0034】
キャニスター17は燃料タンクからの蒸発ガスを貯めておき、エンジンが稼動するときに前記蒸発ガスをエンジンの吸気系に循環させて燃焼させるための装置である。リザーバタンク18はエンジンの冷却水を備蓄する装置であり、冷却水温の変化に伴う冷却経路内の圧力調整を行う。前記キャニスター17とリザーバタンク18はほぼ同一の容量である。
【0035】
[内側縦壁19の構造]
前記内側縦壁19は、トレイ本体部15の周壁15S及び下面に溶接固着される断面L字形の第1取り付け面部19Aと、キャニスター17の側壁17Sがボルト固定される鉛直姿勢の第2取り付け面部19Bとを備えている。そして、第1取り付け面部19Aと第2取り付け面部19Bに補強用のビードVが形成されている。
【0036】
前記第1取り付け面部19Aは第2取り付け面部19Bよりも幅広に形成され、第2取り付け面部19Bは第1取り付け面部19Aの車両前方側Frの部分から立ち上がっている。また、第2取り付け面部19Bは第1取り付け面部19Aに段差部19Cを介して連なって、前記第1取り付け面部19Aよりもトレイ14の径方向外方側に位置している。これにより、バッテリーが第2取り付け面部19Bに干渉することを防止することができる。
【0037】
[前側縦壁20の構造]
前側縦壁20は、トレイ本体部15の周壁15Sに溶接固着される断面L字形の第3取り付け面部20Aと、リザーバタンク18の側壁18Sがボルト固定される鉛直姿勢の第4取り付け面部20Bとを備えている。そして、第3取り付け面部20Aと第4取り付け面部20Bに補強用のビードVが形成されている。
【0038】
第3取り付け面部20Aは第4取り付け面部20Bよりも幅広に形成されている。また、第4取り付け面部20Bは第3取り付け面部20Aに台形状の段差部20Cを介して連なって、前記第3取り付け面部20Aよりもトレイ14の径方向外方側に位置している。これにより、バッテリーが第4取り付け面部20Bに干渉することを防止することができる。
【0039】
図3(b)に示すように、シーラ7は、トレイ14(図2参照)やエンジンマウントブラケット9がエプロンサイドメンバ4等に固定される前に前記溶接接合部に塗布される。従って、シーラ7を塗布する際にトレイ14やエンジンマウントブラケット9が障害物となることがなく、シーラ切れを防止することができる。これにより、前記溶接接合部の接合面(接合部の合わせ面)の間への水の浸入を阻止することができて、前記合わせ面に錆が発生することを確実に防止することができる。
【0040】
前記脚部16は、エプロンサイドメンバ4に車両前後方向の力が加わった場合にエプロンサイドメンバ4の変形を許す形態に板材で形成されているから、例えば、図9に示すように、トレイ支持台30の前後一対の側壁30Sと、両側壁30Sの上端部同士を連結する上壁30Jとが、車両の前方衝突時、すなわち、エプロンサイドメンバ4に車両前後方向の力が加わった時に突っ張る従来の構造に比べると、前方衝突時にエプロンサイドメンバ4が変形しやすくて、効率よく衝突エネルギーを吸収することができる。
【0041】
また、図8の比較例の構造に示すように、本発明の前記脚部16に換えて、縦断側面視(車幅方向視)で下側が開放した断面U字状に形成されたトレイ支持台30が設けられた構造の場合も、トレイ支持台30の前後一対の側壁30Sと、両側壁30Sの上端部同士を連結する上壁30Jとが、車両の前方衝突時、すなわち、エプロンサイドメンバ4に車両前後方向の力が加わった時に突っ張るが、本発明の構成ではこのような不具合がなく、前方衝突時にエプロンサイドメンバ4が変形しやすくて、効率よく衝突エネルギーを吸収することができる。
【0042】
これにより、エネルギー吸収効率を向上させることができ、衝突性能を向上させることができて、エプロンサイドメンバ4やその周辺部品の材質・板厚を最適化でき、軽量化・製作コストを低廉化することができる。
【0043】
[別実施形態]
(1) 図示はしないが、前記トレイ本体部15に複数の縦長の部材(帯板状の部材、棒状の部材など)から成る脚部16が設けられ、複数の縦長の部材の下端部がエプロンサイドメンバ4に固定部材としてのボルトで固定されていてもよい。
(2) 前記脚部16はトレイ本体部15に溶接固着以外の手段で連結固定されていてもよい。
(3) 前記脚部16の下端部16Kはエプロンサイドメンバ4にボルト以外の固定部材で固定されていてもよい。
(4) 前記トレイ14はエンジンマウント8に載置固定されていなくてもよい。
(5) バッテリトレイに限らず他の艤装品の取付構造に適用できる。
【符号の説明】
【0044】
4 エプロンサイドメンバ
5 エプロンサイドパネル
8 エンジンマウント
14 トレイ
15 トレイ本体部
15S トレイの周部(トレイ本体部の周部)
16 脚部
16K 脚部の下端部
17 エンジンの付属部品(キャニスター)
18 エンジンの付属部品(リザーバタンク)
19 縦壁(内側縦壁)
20 縦壁(前側縦壁)
21 支持部
B 固定部材(ボルト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に沿うエプロンサイドメンバにエプロンサイドパネルが接合され、
バッテリー用のトレイが前記エプロンサイドメンバに支持されている車体前部構造であって、
前記トレイのトレイ本体部に脚部が設けられ、
前記脚部の下端部が前記エプロンサイドメンバに固定部材で固定され、
前記脚部は、前記エプロンサイドメンバに車両前後方向の力が加わった場合に前記エプロンサイドメンバの変形を許す形態に板材で形成されている車体前部構造。
【請求項2】
前記脚部は板面が車両前後方向を向いている請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
車両前後方向に沿うエプロンサイドメンバにエプロンサイドパネルが接合され、
バッテリー用のトレイが前記エプロンサイドメンバに支持されている車体前部構造であって、
前記トレイのトレイ本体部に脚部が設けられ、
前記脚部の下端部が前記エプロンサイドメンバに固定部材で固定され、
前記脚部は、前記エプロンサイドメンバに車両前後方向の力が加わった場合に前記エプロンサイドメンバの変形を許す形態に複数の縦長の部材で形成されている車体前部構造。
【請求項4】
前記エプロンサイドメンバにエンジンとの間に介在するエンジンマウントが連結され、
前記トレイ本体部が前記エプロンサイドパネルに固定部材で固定され、
前記トレイ本体部が前記エンジンマウントに載置されて固定されている請求項1〜3のいずれか一つに記載の車体前部構造。
【請求項5】
エンジンの付属部品を支持する支持部が前記トレイ本体部に設けられている請求項1〜4のいずれか一つに記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記支持部は前記トレイの周部から立ち上がる縦壁で構成され、
前記トレイの径方向外方側を向く縦壁面に前記付属部品が取り付けられる請求項5記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−178197(P2011−178197A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41798(P2010−41798)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】