説明

車軸ケース構造

【課題】 この発明は、突合せ溶接された車軸ケースの円筒部に嵌合するブレーキ取付け用の環状板部材を複数に分割して円筒部に隅肉溶接する車軸ケース構造に関する。
【解決手段】環状板部材4が、複数の分割片4A、4Bからなっており、該分割片は、車軸ケースの円筒部3との接触範囲が180度を超えない範囲に設定されて、円筒部3の外周に添わせてから隅肉溶接してブレーキフランジとなる。
環状板部材4に突合せ溶接部7の余盛を避ける切欠穴6を形成する場合には、切欠穴6と溶接部7の余盛との間の隙間が、円筒部3の径方向と比べて外周方向に長く形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラック等の車軸ケースのアクスルハウジングとなる円筒部に嵌合するブレーキ取付け用の環状板部材を、複数に分割して円筒部に隅肉溶接する車軸ケース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の車軸ケース11は、図5に示すように、ディファレンシャル機構が収容されるディファレンシャル収容部12と、その左右に延び車軸が収容されてアクスルハウジングとなる一対の円筒部13とからなっている。
左右の円筒部13には、ブレーキを取り付けるための環状板部材のブレーキフランジ14がそれぞれ嵌合され、各ブレーキフランジ14の少なくとも一方の側面が円筒部13の外周面にその周方向に沿って隅肉溶接により一体化する構造が一般的である。
ここで、前記車軸ケース11は、略上下対称に分割された板金製のプレス品(上下部材)を上下方向から突合せ溶接して形成されている。
このとき、ブレーキフランジ14のブレーキトルク保持力は前記隅肉溶接の品質に依存するため、ブレーキフランジ14の中央の内周面15が旋盤等で仕上げ加工されているもの(図示省略)については前記上下部材の突合せ溶接部17のビードの余盛を削らなくてはならず、大きな作業工数を必要とする。
一方、図6および図7に示すように、ブレーキフランジ14の内周面15で、前記上下部材13A、13Bの突合せ溶接部17に対応して穴を膨らませた切欠穴16を形成し、突合せ溶接部17のビードの余盛の除去作業を廃止したものがあるが、隅肉溶接部18のビードの余盛18aが突合せ溶接部のビード17に重なる部分では他部分での余盛18a’よりも径方向に膨らんでしまう(図7参照)。
そのため、ブレーキ取付時の位置決め用のガイドとなる段差19を、ブレーキフランジ14の溶接後に溶接部の変形方向外側に加工する際に、切削工具が前記隅肉溶接部18の余盛18aまたはその膨出部と干渉し、刃物が欠けて切削不良を生じ惧れがある。
いずれの場合も、一体構造のブレーキフランジ14は、車軸ケースの端部側から挿入させる必要があるが、通常は車両用スピンドルが溶接される車軸ケース端面とブレーキフランジを嵌合する円筒部13の外径は等しいため、スピンドルを溶接した場合のビード余盛がブレーキフランジ挿入時の邪魔とならないよう、スピンドルの溶接前にブレーキフランジを嵌合させなければならないといった組立順序の制約が生じる。
さらに、強度的に厳しい部位のひとつであるスピンドル溶接部の径をブレーキフランジ溶接部と同一かそれ以下としなければならない設計上の制約も生じる。
【特許文献1】特開2008−183569号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は、ブレーキフランジを複数の分割片からなる環状板部材で構成することにより、アクスルハウジングとなる円筒部への取付時に車軸ケースの端部からの挿入を不要化するので、ブレーキフランジを組み立てるために実施していた車軸ケースの上下部材の突合せ溶接部でのビードの余盛除去作業を廃止できる。
更に、強度的に厳しい車輪用スピンドル溶接部の外形をフランジ取付部の外形より大きくし、同部の耐久性を向上させることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、課題を解決するために、請求項1の発明では、
ブレーキ取付け用の環状板部材を、車軸ケースに設けられたアクスルハウジングの円筒部に嵌合して隅肉溶接する車軸ケース構造において、
前記環状板部材が、複数の分割片からなっており、
該分割片は、前記円筒部との接触範囲が180度を超えない範囲に設定されていることを特徴とする。
また、請求項2の発明では、
前記環状板部材の分割位置が略水平に設定されていることを特徴とする。
更に、請求項3の発明では、
前記円筒部が上下に略対称に分割された部材を相互に突合わせて溶接し余盛を残した突合せ溶接部を有しており、
前記環状板部材の内周面で前記余盛と対向する位置に、前記余盛を逃がす切欠穴を設け、
該切欠穴と前記溶接部の余盛との間に形成される隙間が、前記円筒部の径方向と比べて外周方向に長く形成しており、
前記環状板部材を前記円筒部に隅肉溶接した際に、余盛を外周方向の隙間に逃がして前記径方向に形成される余盛の膨らみを低く抑えてなることを特徴とする。
また、請求項4の発明では、
前記切欠穴が、前記円筒部の外周方向の幅を前記余盛の幅の1.5から2倍の範囲に設定したことを特徴とする。
請求項5の発明では、
前記分割片が、共通の形状からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
ブレーキ取付け用の環状板部材を複数の分割片とし、円筒部に外側から添わせて溶接するので、前記環状板部材を車軸ケースの端部から挿入させる必要がなくなり、組立作業性が向上し、またスピンドルの組立順序や溶接に影響されることがない。
また、従来は、車軸ケースを構成する上下部材の突合せ溶接部のビードの余盛を前記環状板部材の溶接部だけでなく、端部からの挿入経路のすべてで除去しなければならなかったのに対し、フランジ溶接個所における突合せ溶接部のビードの余盛除去だけで済ませることができ、作業工数の節約が行える。
また、前記環状板部材の内周面で突合せ溶接部近傍に切欠穴を設け、溶接ビードを削らなくても干渉しないように前記切欠穴に逃がす形状構成とすれば、前記フランジ溶接部における突合せ溶接部のビード余盛の除去作業も省くことができる。
前記切欠穴の幅寸法をビードの幅より大きく設定すれば、前記環状板部材を円筒体に隅肉溶接した後のビードの径方向の膨らみを緩和することができ、環状板部材の溶接後にブレーキ位置決めガイドや取付面の切削加工を行う際の切削工具と溶接ビードの干渉を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
この発明は、ブレーキ取付け用の環状板部材を複数の分割片から構成し、車軸ケースの円筒部に隅肉溶接することで、車枠のサイドメンバで幅方向または上下方向の形状変化部の中空部内で補強部材を固定することで、組立作業性の向上や作業工数の節減を実現した。
【実施例1】
【0007】
以下に、この発明の車軸ケース構造を、トラックの車軸ケースに適用した場合の実施例について図1および図2を参照しながら説明する。
この車軸ケースの本体は従来と同様であり、略上下対称に分割された板金製のプレス品(上下部材)を上下方向から突合せ溶接して構成されている。
そして、車軸が収容されてアクスルハウジングとなる左右一対の円筒部3にブレーキ取付け用の環状板部材4が隅肉溶接により一体に取り付けられている(図5参照)。
【0008】
ここで、前記円筒部3は上下部材3A、3Bの一部からなっており、突合せ溶接によって一体に形成されている。
この突合せ溶接部7は、円筒部3のフランジ溶接個所30だけ余盛7aを削って、円筒部3の外周面とほぼ連続する面に加工しており、従来のように、車軸ケースの端部からフランジ溶接個所まで余盛を削る必要はない。
【0009】
環状板部材4は、本実施例の場合、円筒部3との接触範囲を180度とし、分割位置を水平に設定して、上下方向に2分割された分割片4A、4Bからなっている。
ここで、分割片は、180度を超えると外側から円筒部3に嵌め込むことができなくなるので、180度を超えない範囲に設定する必要がある。
【0010】
また、分割片は、円筒部との接触範囲を等間隔とすることで、分割片の共通化が図れるが、この発明では前記接触範囲の角度を異にしてもよいし、分割数も偶数、奇数のいずれでもよい。
図示例の場合、環状板部材4の分割位置は、車軸ケースの上下部材3A、3Bに対応して略水平に設定されているが、これに限定されるものではない。
【0011】
本実施例では、前記分割片4A、4Bを円筒部3のフランジ溶接個所30で前記余盛7aを削り取った個所に、上部材3Aと下部材3Bからなる円筒部4の外周面に添うように外方向から嵌め合わせ、円筒部3の外周方向に沿って隅肉溶接により溶着され、隅肉溶接部8が形成される。
【0012】
この隅肉溶接部8のビードは、円筒部3の外周に沿って略同一円周上に環状に溶接されるので、余盛が大きな凹凸とならず、ブレーキ位置決めガイドや取付面9の切削加工時に切削工具と隅肉溶接部8のビードとの干渉が生じない。
【実施例2】
【0013】
図3および図4に示す実施例2の車軸ケース構造では、環状板部材4に突合せ溶接部7のビードの余盛7aを逃げるための切欠穴6が形成されている。
また、円筒部3に対応する上下部材3A、3Bの突合せ溶接部7では、余盛7aの除去を行わないので、溶接ビードの余盛の除去作業を省くことができる。
【0014】
前記環状板部材4は、前記実施例と同様に上下に2分割された分割片4A、4Bからなっており、一方の分割片4Aの両端側に一対の切欠穴構成凹部6aが形成され、他方の分割片4Bの両端側に一対の切欠穴構成凹部6bが形成されているが、本実施例では分割片4A、4Bは全く同一の形状からなっている。 そして、前記切欠穴構成凹部6aと6bが組み合わされて1つの切欠穴6を形成する。
【0015】
この切欠穴6は、切欠穴6と円筒部3の突合せ溶接部7の余盛7aとの間に形成される隙間Sが、円筒部3の径方向と比べて外周方向に長く形成されている。
これにより、環状板部材4の分割片4A、4Bを前記実施例1と同様に円筒部3に隅肉溶接した際に、前記径方向に膨らもうとする余盛を外周方向の隙間に逃がして、前記径方向に形成される隅肉溶接部8のビードの余盛8aの膨らみを低く抑えることができる。
なお、図中8a’は、切欠部6以外の内周面5側に形成されるビードの余盛である。
【0016】
従って、溶接後にブレーキ位置決めガイドや取付面9の切削加工時に切削工具と隅肉溶接部8のビードとの干渉を防止できる。
上記切欠穴6は、その逃げ形状の幅L2を、溶接脚長の確保等も考慮し、上下部材3A、3Bの突合せ溶接ビードの幅L1の1.5倍から2倍程度に設定することが好ましい(図3(b)参照)。
なお、切欠穴6と円筒部3の外周面との径方向の隙間L3は、環状板部材4の切欠穴6を除いた内周面5と円筒部3の外周面との隙間L4とほぼ同一である。
【0017】
上記実施例では、環状板部材を上下方向に2等分した場合を例示したが、分割数は3箇所以上であってもよいし、等分割でなくてもよい。
また、分割位置は水平に限らず垂直であってもよいし、水平面や垂直面と傾斜した位置でもよい。
【0018】
いずれの場合も、ブレーキ取付穴10の間に分割位置が配置するような配慮は必要である。
また、いずれの場合も、本実施例のように2つの分割片の円筒部に対する接触範囲の角度(占有角度)を180度とすれば2つの分割片が共通形状となることは勿論である。
【0019】
必要な場合には環状板部材の分割個所を突合せ溶接してもよい。
この場合には、平面度の確保がボルト穴周りに限定できるブレーキ取付面の裏側を溶接するのが望ましい。
その他、要するにこの発明の要旨を変更しない範囲で種々設計変更しうること勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の車軸ケース構造の環状板部材の取付状態を示す断面図である。
【図2】図1の環状板部材の溶接部を示す要部断面図である。
【図3】実施例2の環状板部材の取付状態を示す図であり(a)はその断面図、(b)は切欠穴の拡大図である。
【図4】図3の環状板部材の溶接部を示す要部断面図である。
【図5】従来の板金製の車軸ケースの斜視図である。
【図6】従来の切欠穴を有するブレーキフランジの取付状態を示す断面図である。
【図7】図6のブレーキフランジの溶接部を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0021】
3 円筒部
4 環状板部材
4A、4B 分割片
5 嵌合穴
6 切欠穴
7 突合せ溶接部
8 隅肉溶接部
11 車軸ケース
12 ディファレンシャル収容部
13 円筒部
14 ブレーキフランジ
15 嵌合穴
16 切欠穴
17 突合せ溶接ビード
18 隅肉溶接部のビード
19 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ取付け用の環状板部材を、車軸ケースに設けられたアクスルハウジングの円筒部に嵌合して隅肉溶接する車軸ケース構造において、
前記環状板部材が、複数の分割片からなっており、
該分割片は、前記円筒部との接触範囲が180度を超えない範囲に設定されていることを特徴とする車軸ケース構造。
【請求項2】
前記環状板部材の分割位置が略水平に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車軸ケース構造。
【請求項3】
前記円筒部が上下に略対称に分割された部材を相互に突合わせて溶接し余盛を残した突合せ溶接部を有しており、
前記環状板部材の内周面で前記余盛と対向する位置に、前記余盛を逃がす切欠穴を設け、
該切欠穴と前記溶接部の余盛との間に形成される隙間が、前記円筒部の径方向と比べて外周方向に長く形成しており、
前記環状板部材を前記円筒部に隅肉溶接した際に、余盛を外周方向の隙間に逃がして前記径方向に形成される余盛の膨らみを低く抑えてなることを特徴とする請求項1または2に記載の車軸ケース構造。
【請求項4】
前記切欠穴が、前記円筒部の外周方向の幅を前記余盛の幅の1.5から2倍の範囲に設定したことを特徴とする請求項3に記載の車軸ケース構造。
【請求項5】
前記分割片が、共通の形状からなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車軸ケース構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−100110(P2010−100110A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271456(P2008−271456)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】