説明

車載レーダシステム

【課題】ノイズ環境に応じた適切なノイズ対応処理を実施し、物体の誤検出を防止しつつレーダ性能を確保する。
【解決手段】ノイズ源200を中心とする円形の領域を設定し、この円形の領域を、比較的マルチパスの少ない領域R1と、マルチパスの発生が多く、自車両100のレーダ性能に重度の影響が予想される領域R2とに区分する。そして、測位装置からの測位情報により、自車両100の現在位置が領域R1内にあるとき、車載レーダ装置の受信信号のサンプリング間隔と送信電力との少なくとも一方を自車両100の進行方向に応じて変更し、自車両100が領域R2内に進入したときには、ノイズ源の出力の規則性に基づいて受信信号を取得する処理を行う。これにより、ノイズ環境に応じた適切なノイズ対応処理を実施するので、ノイズ環境下においても物体の誤検出を防止しつつレーダ性能を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両外部へレーダ波を送信し、車両周囲の物体で反射された反射波を受信して物体を検出する車載レーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダは電磁波を使用しており、送信した電波の反射波を捉えることで物体の有無や位置の検出が可能になる。このレーダ装置を車両に搭載する場合、外来ノイズが受信信号に混入すると、本来障害物として認識すべきでないものを障害物として誤検出する虞がある。
【0003】
これに対処するに、例えば、特許文献1には、走行しながら妨害波の存在位置や強度を記憶して妨害波マップを形成してデータベース化しておき、このデータベースを参照して自車両が妨害波の近くを走行するとき、レーダ探知部の検出感度を妨害波の強度に応じて抑制することにより、レーダ波の誤検出を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−6033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両に搭載されるレーダ装置は、同じノイズ環境下にあっても、レーダ装置の車体への取り付け位置とノイズ源との位置関係が車両の走行に伴って変化するため、実際のノイズによる影響も変化する。
【0006】
特許文献1に開示されるような従来の技術では、ノイズによる誤検出の防止を主目的としているため、車両がノイズ環境下に入ったときには妨害波のレベルに応じて一義的にレーダ検出感度を抑制してしまい、ノイズ環境に応じた適切なノイズ対応処理を行い、レーダ性能を確保するという観点からは必ずしも十分とは言えない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ノイズ環境に応じた適切なノイズ対応処理を実施し、物体の誤検出を防止しつつレーダ性能を確保することのできる車載レーダシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による車載レーダシステムは、自車両に搭載される車載レーダ装置からレーダ波を送信して車両周囲に存在する物体を検出する車載レーダシステムであって、上記自車両の現在位置を測位する測位部と、上記車載レーダ装置と同一周波数帯の信号を所定の規則性をもって出力する他のレーダ装置をノイズ源として予め記憶するノイズ源記憶部と、上記ノイズ源から所定距離だけ離れた第1の領域と、この第1の領域の内側で上記ノイズ源を含む第2の領域とを、上記ノイズ源の出力レベルに応じて設定するノイズ領域設定部と、上記自車両の現在位置が上記第1の領域内にあるとき、上記車載レーダ装置における受信信号のサンプリング間隔と送信電力との少なくとも一方を上記自車両の進行方向に応じて変更するノイズ対応処理を実施し、上記自車両が上記第1の領域から上記第2の領域内に進入したときには、上記ノイズ源の出力の規則性に基づく受信信号の取得処理を行うノイズ処理制御部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ノイズ環境に応じた適切なノイズ対応処理を実施し、物体の誤検出を防止しつつレーダ性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】レーダシステムの構成を示すブロック図
【図2】レーダユニットの配置例を示す説明図
【図3】ノイズ源に対するレーダ性能低下領域を示す説明図
【図4】各領域でのノイズ対応処理の有無を示す説明図
【図5】ノイズ源出力とサンプリング間隔との関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は、自動車等の車両に搭載されるレーダシステムであり、自車両の周囲に存在する歩行者や障害物等をターゲットとして検出するレーダ装置2と、自車両の位置を測位する測位装置10とを主要構成としている。レーダ装置2は、本実施の形態においては、空間に放射したパルス状の送信波がターゲットに当たって反射した受信波を受信し、送信波と受信波との時間差情報に基づいてターゲットとの距離を演算するパルスレーダ装置である。
【0012】
レーダ装置2は、送信アンテナ3aと受信アンテナ3bと送受信の信号処理を行う信号処理回路部4とをユニット化した複数のレーダユニット#n(n=1,2,3,…)を備え、各レーダユニット#nをコントロールユニット5で制御する。レーダユニット#nは、本実施の形態においては、n=1〜4の4個であり、図2に示すように、車両100の前後左右に配置されている。ここでは、車両100の前部にレーダユニット#1、車両100の進行方向右側部にレーダユニット#2、車両100の後部にレーダユニット#3,車両100の進行方向左側部にレーダユニット#4が配置されているものとする。
【0013】
尚、各レーダユニット#1〜#4は、車両の前後のバンパやサイドシルスポイラ内等に収納され、車体フレームに取り付けられている。
【0014】
各レーダユニット#n内の信号処理回路部4は、送信回路、受信回路、サンプリング制御回路等を備えて構成されている。この信号処理回路部4においては、コントロールユニット5からのクロック信号に基づいて送信回路で所定周波数の送信パルスが生成され、送信アンテナ3aから車両外部にレーダ波が送信される。そして、レーダ波が物体に当たって反射され、その反射波が受信アンテナ3bで受信されると、受信回路で受信波がサンプリングされる。
【0015】
受信波のサンプリングは、例えば、周知の等価時間サンプリング方式を利用して行われる。すなわち、サンプリング制御回路は送信パルスに対して所定量ずつ遅延させた時間掃引パルスを生成し、受信回路に出力する。受信回路は、この時間掃引パルスに基づくサンプル/ホールドにより、受信波をサンプリングする。このときのサンプリング波形は、受信アンテナ3bで受信した波形を時間軸上で伸張した波形となる(等価時間サンプリング)。この等価時間サンプリングされた受信波形は、フィルタ等を通して高周波ノイズがカットされた後、所定の出力レベルに増幅され、コントロールユニット5に入力されて処理される。
【0016】
コントロールユニット5は、複数のレーダユニット#nを統括する測距システムの中心構成をなすものであり、クロック信号やタイミング信号を各レーダユニット#nへ供給すると共に、各レーダユニット#nでサンプリングした受信波に基づいて車両外部に存在する物体の有無や位置を検出する処理を主として行う。コントロールユニット5は、マイクロプロセッサを中心として構成され、クロック信号やタイミング信号を各レーダユニット#nへ出力する周辺回路、各レーダユニット#nから入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器等を備えている。
【0017】
また、コントロールユニット5は、例えばCAN(Controller Area Network)等の通信プロトコルに基づく車内ネットワーク50を介して、自車両100の現在位置を測位する測位装置10に接続されている。測位装置10は、例えば、GPS(Global Positioning System)衛星から電波を受信して自車両100の現在位置(経度、緯度)や時間情報等を取得し、車内ネットワーク50を介して自車両100の現在位置に係る情報をコントロールユニット5に送信する。
【0018】
尚、測位装置10は、専用のGPS受信機を設置してコントロールユニット5内に測位部として組み込んでも良く、また、既存のナビゲーション装置を利用しても良い。
【0019】
本実施の形態におけるレーダ装置2は、車両周囲の物体を検出する場合の測距レンジが数m程度であり、比較的低い周波数(例えば、3MHz程度)の電波を用いている。このため、自車両100が走行中に、同程度の周波数帯の電波が放射される環境下に進入したとき、この電波がノイズとなってレーダ装置2の受信信号に混入し、ターゲットを誤検出する虞がある。このような自車両100のレーダ装置2と同程度の周波数帯の電波(妨害電波;ノイズ)の中には、予測できない突発的なものを除いて、例えば空港監視レーダー(airport surveillance radar:ASR)等のように、固定された位置から所定の規則性をもって放射方向が変化するものがある。
【0020】
従って、コントロールユニット5は、ASR等の固定の電波発信源をノイズ源として、そのノイズ源の位置、ノイズ源の出力レベル、出力周波数、放射方向が変化する周期等の情報を予め記憶するノイズ源記憶部としての機能、ノイズ源から所定距離だけ離れた第1の領域と、この第1の領域の内側でノイズ源を含む第2の領域とを、ノイズ源の出力レベルに応じて設定するノイズ領域設定部としての機能、及び、測位装置10からの測位情報により、自車両100が第1の領域或いは第2の領域に入ったことを認識したとき、ノイズ源による電波障害の規則性と自車両100の進行方向とを考慮したノイズ対応処理を行うノイズ処理制御部としての機能を有している。
【0021】
具体的には、コントロールユニット5は、図3に示すように、ノイズ源200を中心とする円形の領域を設定し、この円形の領域を、ノイズ源200を含む中心側の円形の領域R2(第2の領域)と、領域R2の外側の環状の領域R1(第1の領域)とに区分する。外側の領域R1は、ノイズ源200から或る程度距離が離れており、ノイズ源200からの出力が減衰するものの、ノイズ源200と自車両100との位置関係によっては、誤検出が発生する可能性がある領域である。また、内側の領域R2は、ノイズ源200からの出力が殆ど減衰せず、自車両のレーダ性能に重度の影響が予想される領域であり、レーダ装置2が頻繁に誤検出を生じる領域である。
【0022】
これらの領域R1,R2における自車両100への影響は、ノイズ源200の出力の大きさ、周辺の地形、自車両100の大きさ(車高)等によって異なる。従って、これらを考慮して各領域R1,R2の大きさ(面積)が決定され、自車両100が領域R1,R2の何れに入ったかにより、対応するノイズ対応処理が選択される。
【0023】
以下、自車両100が領域R1,R2に進入したときのノイズ対応処理について説明する。ここでは、先ず、領域R1内での処理について説明する。
【0024】
領域R1では、マルチパスの発生が少なく、マルチパスが発生しても反射波の経路長が長く電力も低くなるため、ノイズ源200と自車両100との位置関係を考慮してノイズ対応処理を実施する。この場合、自車両100が領域R1内を走行中、ノイズ源200に対する自車両100の向き(レーダユニット#nの向き)・位置関係は一定ではなく、ノイズ源200からの電波の影響が自車両100とノイズ源200との相対位置関係によって変化する。
【0025】
このため、領域R1は、詳細には更に4つの領域に区分される。この4つの領域は、測地座標系による絶対的な位置の区分ではなく、自車両100の進行方向によって変化する。コントロールユニット5は、測位装置10からの測位情報によって自車両100の位置及び進行方向を常時把握しており、ノイズ源200を原点として、現在の自車両100の進行方向と同方向の軸Xと、軸Xに直交する軸Yとを設定し、これらの直交軸X,Yにより領域R1を時計回りに4等分し、4つの領域R1A,R1B,R1C,R1Dを設定する。
【0026】
各領域R1A,R1B,R1C,R1Dにおけるノイズ処理は、図4に示すように、自車両100の現在位置が4つの領域R1A〜R1Dの何れにあるかにより、レーダユニット#1〜#4に対して個別に実施し、コントロールユニット5の負荷増大を防止する。すなわち、自車両100のレーダユニット#1〜#4のうち、ノイズ源200に向かい合う位置となるユニットに対して、ノイズ対応処理を実施する。一方、ノイズ源200と向かい合わず、車体が反射板となって直接ノイズ源200の影響を受けないユニットに対しては、特にノイズ対応処理は実施しない(或いは簡易的な対策を実施する)。
【0027】
例えば、図3に示すように、車両100が進行方向右側にノイズ源200を臨む領域R1C内にいる場合、車両前部のレーダユニット#1及び右側部のレーダユニット#2が直接ノイズ源200の影響を受けるため、これらのレーダユニット#1,#2に対してノイズ対応処理を実施し、ノイズの影響を低減する。
【0028】
このときのノイズ対応処理は、以下の(1),(2)に示す処理のうち、何れか一方或いは双方の処理を行う。
(1)自車両100のレーダ装置2の送信電力を上げ、ノイズ源200からの妨害電波の影響を軽減する。このとき、送信電力を大きくすることに伴い、障害物判定の閾値も大きくする。
(2)ノイズ源200から定期的に放射される妨害波の規則性を利用して、自車両100のレーダ装置2側の受信号のサンプリング間隔を変更することで、ノイズ信号のサンプリングを回避する。
【0029】
例えば、ノイズ源200がASRである場合、ASRから出力される信号は、図5(a)に示すように、パルス幅PASR(例えば、PASR=0.8μsec)、ASRの回転による自車両100方向への信号放射の繰り返し間隔TASR(例えば、TASR=1200pps:パルス間隔833μsec)であり、レーダ装置2の受信信号に対して等間隔にノイズが乗る。このため、領域R1内で相当信号をサンプリングした場合、ASRからのノイズ信号と判断し、図5(b)に示すように、間隔TASRの時間帯毎に所定時間Δtrの幅でサンプリングを中止し、ノイズが混入する頻度を低減する。
【0030】
一方、車両後部のレーダユニット#3及び左側部のレーダユニット#4は、ノイズ源200と向かい合わず、車体がノイズ源200からの電波を反射するため、ノイズ対応処理を特に実施しなくても通常のフィルタ処理でノイズ除去が可能である。但し、念のため、障害物判定の閾値を上げる等の処理を行っても良い。
【0031】
次に、自車両100が領域R2内に進入した場合、この領域R2内ではマルチパスが発生し、自車両100のレーダ装置2にノイズ信号が不定期に混入するばかりでなく、混入するノイズの信号レベルが高く、レーダ装置2で受信する信号のレベルが飽和してしまう。しかしながら、ASR等のようにノイズ源200は所定の規則性をもって信号の放射方向が変化するため、マルチパスによる経路も変化し、その影響を受けずにレーダ装置2自身の信号を取得可能な場合もある。
【0032】
このため、自車両100が領域R2に侵入したときには、ノイズの乗り方を記録しておき、ノイズ源200による電波障害の規則性からノイズの影響が少ないと判断されるときのデータだけを用いて、他のデータは棄却する。これにより、強力なノイズ環境下においても、最小限の測距性能を確保することができる。
【0033】
このように本実施の形態においては、車載のレーダ装置と同一周波数帯の信号を所定の規則性をもって出力する他のレーダ装置をノイズ源として予め記憶し、このノイズ源を中心として、比較的マルチパスの少ない領域R1と、マルチパスの発生が多く、強力なノイズ環境下で自車両のレーダ性能に重度の影響が予想される領域R2とを設定する。そして、自車両の現在位置が領域R1内にあるとき、車載のレーダ装置における受信信号のサンプリング間隔と送信電力との少なくとも一方を自車両の進行方向に応じて変更し、自車両が領域R1から領域R2内に進入したときには、ノイズ源の出力の規則性に基づいて受信信号を取得する処理を行う。これにより、ノイズ環境に応じた適切なノイズ対応処理を実施するので、ノイズ環境下においても物体の誤検出を防止しつつレーダ性能を確保することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 レーダシステム
2 レーダ装置
3a 送信アンテナ
3b 受信アンテナ
4 信号処理回路部
5 コントロールユニット
10 測位装置
20 ノイズ源
100 自車両
200 ノイズ源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に搭載される車載レーダ装置からレーダ波を送信して車両周囲に存在する物体を検出する車載レーダシステムであって、
上記自車両の現在位置を測位する測位部と、
上記車載レーダ装置と同一周波数帯の信号を所定の規則性をもって出力する他のレーダ装置をノイズ源として予め記憶するノイズ源記憶部と、
上記ノイズ源から所定距離だけ離れた第1の領域と、この第1の領域の内側で上記ノイズ源を含む第2の領域とを、上記ノイズ源の出力レベルに応じて設定するノイズ領域設定部と、
上記自車両の現在位置が上記第1の領域内にあるとき、上記車載レーダ装置における受信信号のサンプリング間隔と送信電力との少なくとも一方を上記自車両の進行方向に応じて変更するノイズ対応処理を実施し、上記自車両が上記第1の領域から上記第2の領域内に進入したときには、上記ノイズ源の出力の規則性に基づく受信信号の取得処理を行うノイズ処理制御部と
を備えることを特徴とする車載レーダシステム。
【請求項2】
上記ノイズ領域設定部は、上記自車両の進行方向と同方向の座標軸を基準として上記第1の領域を複数の領域に更に区分することを特徴とする請求項1記載の車載レーダシステム。
【請求項3】
上記車載レーダ装置は、上記自車両の複数箇所に配設されてレーダ波を送受信するアンテナを有する複数のレーダユニットを備え、
上記ノイズ処理制御部は、上記第1の領域における各レーダユニットと上記ノイズ源との位置関係に応じて上記ノイズ対応処理を選択的に実施することを特徴とする請求項2記載の車載レーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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