説明

車載レーダ装置及び車載レーダ管制システム

【課題】他のレーダ装置との干渉を確実に避けるように一定の規則に従って観測信号の送信制御を行う車載レーダ装置を提供する。
【解決手段】所定の周波数帯域で観測信号を送受信する送受信部と,前記周波数帯域内の周波数で優先順位の信号を送信する優先順位送信部とを備えた車載レーダ装置において,前記送受信部は他の車載レーダ装置の優先順位の信号を受信し,他の車載レーダ装置の信号との干渉が検知された場合は,当該他装置の優先順位と前記自装置の優先順位とに基づき,前記送受信部が送信する観測信号の周波数帯域を所定の周波数分ずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車載レーダ装置及び車載レーダ管制システムに関し,特に,観測信号の周波数帯域や送信時間をずらすことにより他のレーダ装置との干渉を回避する車載レーダ装置及び車載レーダ管制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の予防安全システムとして,先行車両との距離や相対速度を検知する車載レーダ装置が種々提案されている。これらレーダ装置が普及するにつれ,共にレーダ装置を搭載した車両が接近すると,レーダ装置間で干渉が生じるおそれがある。そこで,こうした車載レーダ装置同士の干渉を回避する方法が必要となる。
【0003】
例えば,特許文献1には観測信号の周波数を変調させるFM−CWレーダ装置において,送信信号と受信信号をミキサで混合し,そのミキサ出力信号の周波数を測定することにより干渉を検知する方法が記載されている。そして,干渉が検知されると,干渉を避けるように送信信号の周波数帯域や周波数の変調周期を変化させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−168947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,従来の技術では次のような問題がある。すなわち,複数の同機種のレーダ装置が相手との干渉を回避するために周波数帯域や周波数の変調周期を変化させたとしても,それぞれが無秩序に動作を行えば結局干渉が再発してしまう。つまり,変化させた後の送信信号の周波数帯域や変調周期が個々に異なるものでなくては,干渉を確実に回避することができない。
【0006】
また,たしかに個々のレーダ装置に個別に周波数帯域を割り振ることができれば干渉は確実に回避できるが,商用の周波数帯域である76.0GHz〜77.0GHzにおいて,無数に存在するレーダ装置すべてに異なる帯域を割当てるのは現実的ではない。
【0007】
そこで,本発明の目的は,レーダ用途として設定可能な占有帯域内で他のレーダ装置との干渉を確実に回避できるように観測信号の送信制御を行う車載レーダ装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために,本発明の第1の側面によれば,所定の周波数帯域で観測信号を送受信する送受信部と, 前記周波数帯域内の周波数で優先順位の信号を送信する
優先順位送信部とを備えた車載レーダ装置において,前記送受信部は他の車載レーダ装置の優先順位の信号を受信し,前記他の車載レーダ装置の信号との干渉が検知された場合は,当該他装置の優先順位と前記自装置の優先順位とに基づき,前記送受信部が送信する観測信号の周波数帯域を所定の周波数分ずらすことを特徴とする。
【0009】
上記第1の側面によれば,他装置との相対的な優先順位に基づいて個々の装置が送信信号の周波数帯域をずらすので,ずらした後の周波数帯域が他装置と重複することを防ぐことができ,干渉を回避することができる。
【0010】
本発明の第2の側面によれば,観測信号の送受信部を複数有する車載レーダ装置において,前記送受信部置は,それぞれ車両の異なる方向を指向するように設置され,それぞれ異なる周波数帯域で観測信号を送受信することを特徴とする。
【0011】
上記第2の側面によれば,先行車両に搭載された後方観測用のレーダ装置から送信される観測信号と,自装置の前方観測用のレーダ装置から送信される観測信号との干渉を回避することができる。
【0012】
本発明の第3の側面によれば,所定の周波数帯域の観測信号を送信する所定の長さの送信期間と,観測信号を送信しない所定の長さの休止期間を交互に繰り返す送受信部と,自装置の位置を取得する位置情報取得部と,管制センタとの通信を行う通信部とを備えた車載レーダ装置において,自装置の位置情報及び優先順位を管制センタへ送信する。そして,前記管制センタにて,前記車載レーダ装置から受信した前記位置情報に基づき当該車載レーダ装置と他の車載レーダ装置との距離を求め,所定距離範囲内に他の車載レーダ装置が存在する場合には,前記優先順位に基づき前記送信期間または前記観測信号の周波数帯域をずらす指示を送信する。さらに,車載レーダ装置は,前記管制センタから受信した指示に従い,前記送信期間または前記観測信号の周波数帯域をずらすことを特徴とする。
【0013】
上記第3の側面における車載レーダ装置によれば,近傍の他装置の位置を把握している管制センタからの指示に従い周波数帯域または送信期間をずらすことにより,他装置との干渉をより確実に回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明における車載レーダ装置によれば,使用可能な周波数帯域の範囲内で他のレーダ装置との干渉を確実かつ効率良く回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態における車載レーダ装置の構成図である。
【図2】車載レーダ装置が観測信号の周波数帯域を説明する図である。
【図3】観測信号と優先順位信号との干渉が生じた場合について説明する図である。
【図4】車載レーダ装置の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図5】自装置と他装置の送信動作のタイミングを模式的に示したチャート図である 。
【図6】車載レーダ装置が他装置との干渉の再発を回避する動作を説明する波形図で ある。
【図7】車載レーダ装置の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図8】車両の4方向を探査する車載レーダ装置について説明する図である。
【図9】車載レーダ装置と管制センタとで構成される車載レーダ管制システムの構成 図である。
【図10】管制センタ100に備えられた周波数帯域と送信期間のマトリクスを説明 する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し,本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず,特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0017】
図1は,本実施の形態における車載レーダ装置の構成図である。この車載レーダ装置は送信信号の周波数変調を行うFM−CWレーダ装置であり,制御部10,発振器12,方向性結合器14,送信アンプ16,送信アンテナ18,受信アンテナ20,受信アンプ22,ミキサ24,符号検出部26,及び観測信号検出部28により構成される。
【0018】
上記構成の車載レーダ装置は,予め定めた規則に従って,一定の変調幅で周波数変調した観測信号を送受信する動作と,前記観測信号の帯域内に設定した適切な周波数で優先順位情報の送受信を行う動作とを交互に繰り返す。そして,他車両に搭載された同じ構成の車載レーダ装置から受信したその装置の優先順位と,自装置の優先順位とに基づいて,観測信号の干渉を回避するための送信制御を行うことを特徴とする。
【0019】
まず,上記構成における送信動作について説明する。周波数変調した観測信号を送信する場合は,制御部10は変調信号を発生させて発振器12に入力する。すると,発振器12は,変調入力に応じた帯域を持つ高周波信号を発生させる。この信号は方向性結合器14によって,送信アンプ16を経て観測信号として用いられる成分と,ミキサ24に入力されて復調用信号として用いられる成分とに分岐される。送信アンプ16は,入力された送信信号を増幅し,送信アンテナ18は増幅された送信信号S1を電磁波として放射する。
【0020】
また,優先順位信号を送信する場合は,制御部10は発振器12からの無変調出力信号を適切な固定周波数に設定する為の信号(例えば12が電圧制御発信器である場合はDCオフセット)を発生させて発振器12に入力し,設定された周波数を持つ高周波信号を発生させる。そして,制御部10は,制御部10内に備えられた不図示の記憶装置内から自装置の優先順位を読み出し,その優先順位符号に応じた所定周波数の符号化信号S3によって,送信アンプ16のバイアス電圧をオン/オフする。そうすることにより,送信アンプ16は優先順位符号に対応した所定周波数のASK変調信号(あるいはPSK変調信号)を出力し,送信アンテナ16がその信号を放射する。なお,優先順位とは,例えば車載レーダ装置のシリアル番号等,一定の規則に基づき装置間の序列が決定される情報である。
【0021】
次に,受信動作について説明する。放射された電磁波は先行車両などの対象物で反射され,その反射波は受信アンテナ20で受信される。受信信号S2は受信アンプ22で増幅されてミキサ24に入力される。ミキサ24は, 送信信号の一部と受信信号とを混合し
,送信信号の周波数と受信信号の周波数との差を周波数とするビート信号を発生させ,観測信号検出部28に入力する。観測信号検出部28では,ビート信号の周波数を計測して,対象物との距離及び相対速度を算出する。また,観測信号検出部28は,ビート信号の周波数や振幅などを所定の閾値と比較することにより,干渉検出も行う。
【0022】
上記車載レーダ装置においては,送受信動作を行う際には制御部10,発振器12,方向性結合器14,送信アンプ16,送信アンテナ18,受信アンテナ20,受信アンプ22,及びミキサ24が送受信部に対応し,同じ構成において優先順位信号を送信する際には,これらの構成が優先順位送信部に対応する。
【0023】
制御部10では,観測信号検出部28が干渉を検知すると,干渉発生時間を特定することによって,干渉が生じた時点での自装置の観測信号の瞬時周波数を特定する。例えば,図3(B)に示すように,周波数変調した自装置の観測用信号を表す三角波W1が多装置の優先順位信号RS30と時間t31,t32,t33で干渉した場合は,各時点における干渉波の周波数f30を特定する。そして,周波数変調を停止させると共に(直線M32),その特定された周波数f30をミキサ24のローカル周波数に設定する。そうすることにより,ミキサ24では干渉波の受信信号と設定されたローカル周波数による送信信号からベースバンド信号を生成し,符号検出部26ではそのベースバンド信号からASK変調された他装置の優先順位符号を抽出する。
【0024】
このように他装置の優先順位信号と自装置の観測信号とが干渉した場合は,その他装置の観測信号の周波数帯域と自装置の観測信号の周波数帯域とが重複していることを意味する。そこで制御部10は,後述するような手順で他装置の優先順位と自装置の優先順位とを比較し,自装置の優先順位の方が低ければ,自装置の観測信号用の周波数帯域を低い方へずらすような変調信号を発振器12に入力する。
【0025】
ここで,図2を用いて周波数帯域をずらす動作について説明する。図2(A)及び図2(B)は共に,横軸に経過時間,縦軸に周波数を示した,周波数変調した観測信号を表す三角波の波形図である。波形W1は自装置の,波形W2は他装置の観測信号を表している。図2(A)においては,2つの装置は重複する周波数帯域B1,例えば76.4GHz〜76.6GHzを使用しており,波形が交差する時点t21,t22,t23,…では同じ瞬時周波数の観測信号を送信していることを示している。すると,そのような時点では他装置の観測信号との干渉が生じ,ミキサ24で生成されるビート信号に誤差が生じてしまう。
【0026】
そこで,図2(B)に示すように周波数帯域をずらすことにより,干渉を回避することが可能となる。例えば,優先順位を比較した結果,自装置の方が優先順位が低ければ低い周波数帯域B2へずらす。ずらす幅は,自装置の変調幅の2分の1,または50MHzなど予め設定しておくことができる。1回の動作の後,まだ周波数帯域が重複しており干渉が再発する場合は,自装置の最大周波数を他装置の最小周波数以下となるまでずらす動作を繰り返すことにより,両装置が使用する周波数帯域の重複を無くし,干渉の再発を回避することができる。
【0027】
すなわち,本実施の形態においては,同じ動作をする車載レーダ装置間での干渉の再発を回避するために,各装置が予め定めた規則に従って秩序ある制御動作を行うことを特徴とする。なお,自装置の優先順位が高ければ,周波数帯域を高い方へずらす,あるいは,優先順位が高い場合は自装置は周波数帯域を変更しないという動作も可能である。
【0028】
図3は,観測信号と優先順位信号との干渉が生じた場合について説明する図である。まず,観測信号と優先順位信号とを交互に送信する送信動作について図3(A)の波形図で説明する。次に,他装置の優先順位信号と干渉が生じた場合の受信動作を図3(B)で説明する。また,好ましい実施例としては,上記の車載レーダ装置は優先順位信号を変調幅の中心周波数,最大周波数,または最小周波数で順次切り替えて送信する。その場合に,他装置の優先順位信号と干渉が生じた場合を図3(C)で説明する。
【0029】
まず,図3(A)に示すように,本実施の形態の車載レーダ装置は,観測信号を送信する期間SP1,SP2,…と優先順位信号とを送信する期間PP1,PP2,…とを交互に繰り返す。すると,同じ動作をする他装置の観測信号や優先順位信号の送信期間と,自装置の観測信号の送信期間とが重複し,干渉が生じる場合がある。
【0030】
図3(B)は,自装置の観測信号の送信期間SP1の間に,他装置の優先順位信号RS30による干渉が生じた場合の波形図である。時間t31,t32,及びt33の時点で生じた干渉は,自装置からの観測信号の反射波と共に観測信号検出部28で検出される。そして,干渉波の周波数f30を,送信波の送信時間から逆算して求め,観測信号の送出を停止するとともにミキサ周波数をf32に設定することにより(直線部M32),符号検出部26では他装置の優先順位を取得することができる。そのため,自装置においては優先順位送信期間PP1以降は,ミキサ28に供給する信号以外は,読取り期間RPとして信号の送信を休止し,読取り動作を行う。このようにして,干渉が生じた場合に他装置の優先順位を確実に取得することができる。
【0031】
さらに,図3(C)は,自装置の観測信号の送信期間内(SP1)に,変調幅の最大周波数f31で優先順位信号RS31を,中心周波数f32で優先順位信号RS32を,または最小周波数f33で優先順位信号RS33を他装置が送信してきた場合の瞬時周波数を示している。図3(C)は,自装置の観測信号と優先順位信号R31,R32において,時間t34,t35,…,t38,t39の時点で干渉が生じる場合を示している。この場合,検出した干渉波の周波数f31,f32のいずれかを用いて読取り期間RPに移行し,上記の読取り動作を行う。そうすることにより,他装置の優先順位を確実に取得できるとともに,他装置の観測信号の最大周波数を取得できる。
【0032】
あるいは,他装置からの優先順位信号RS33との干渉を検出した場合は,上記同様の処理により,他装置の観測信号の最小周波数を取得できる。これにより,他装置の観測信号の周波数帯域を取得できるので,自装置が周波数帯域をずらす場合には,取得した他装置の周波数帯域を避けるようにずらせば,迅速に干渉のおそれを排除できる。
【0033】
なお,上述の説明では観測信号のオン/オフを行うFM−CWレーダ装置を例としているが,観測信号を常時送受信する通常のレーダ装置の場合にも,同様にして周波数帯域をずらすことにより他の装置との干渉の再発を回避することが可能となる。その場合には,観測信号と優先順位信号は同一の周波数帯域内で送信してもよい。
【0034】
図4は,上記実施例における車載レーダ装置の動作手順を説明するフローチャート図である。制御部10が制御プログラムに従い各部の動作を制御する手順について説明する。
【0035】
まず,三角波で周波数変調した観測信号の送出を完了すると(S10),三角波の上昇区間と下降区間ごとに受信信号の周波数解析を行う(S12)。そして,観測信号検出部28で干渉が検知されると(S14のYES),干渉が発生した時間を特定し,干渉波の瞬時周波数fxを取得する(S16)。そして,ローカル発振器12の周波数をfxに設定し(S18),これと干渉信号とをミキサ24で混合して,他装置の優先順位符号を読取る(S20)。
【0036】
次に,他装置の優先順位と自装置の優先順位を比較し,自装置の優先順位の方が高ければ(S22のYES),自装置の観測信号の周波数帯域を高い方へずらすために,周波数調整電圧を上昇させる(S24)。あるいは,自装置の優先順位の方が低ければ(S22のNO),自装置の観測信号の周波数帯域を低い方へずらすために,周波数調整電圧を下降させる(S26)。
【0037】
更に,気温や発振器12に供給するバイアス電圧などから,周波数帯域をずらすと電波法制限値である76.0GHz〜77.0GHzの範囲を逸脱することが予測される場合には(S30のYES),周波数調整電圧をキャンセルする(S32)。しかし,電波法制限値の範囲内である場合には(S30のNO),上昇または下降した周波数調整電圧により三角波で周波数変調した観測信号を送出する(S34)。
【0038】
なお,工程S14において干渉が検知されない場合は(S14のNO),前回自装置から送信した優先順位信号の送信周波数調整電圧と,次回の送信周波数調整電圧を比較して,前回の送信周波数調整電圧の方が高ければ(S40のYES),次回の送信周波数調整電圧は最小値として(S42),自装置の観測信号の最小周波数で優先順位信号を送信する(S46)。あるいは,前回の送信周波数調整電圧の方が低ければ(S40のNO),次回の送信周波数調整電圧は最大値として(S44),自装置の観測信号の最大周波数で優先順位信号を送信する(S46)。
【0039】
上記の手順に従って動作する車載レーダ装置では,干渉が生じた場合に他装置の優先順位を確実に取得できるとともに,避けるべき他装置の観測信号の周波数帯域を取得できる。よって,自装置が周波数帯域をずらす場合には,取得した他装置の周波数帯域を避けるようにずらせば,迅速に干渉のおそれを排除できる。
【0040】
次に,本発明の別の側面における車載レーダ装置について説明する。この車載レーダ装置は,観測信号を送信する一定の送信期間と,送信しない一定の休止期間を交互に繰り返すレーダ装置であって,他の車載レーダ装置との干渉が検知された場合は,観測信号の送信期間の開始を所定時間だけずらし,干渉の再発を回避することを特徴とする。
【0041】
上記車載レーダ装置は,図1で説明した構成により実現されるが,送信する信号の変調方式は周波数変調,振幅変調,位相変調などいずれの方式でもよく,制御部10が変調方式に応じた変調信号を生成する。かかる車載レーダ装置において,観測信号検出部28が他の車載レーダ装置との干渉を検知した場合の動作を,図5を用いて説明する。
【0042】
図5は,自装置と他装置の送信動作のタイミングを模式的に示したチャート図である。横軸は経過時間を示し,チャート図TC10は他装置の送信・休止動作を行う期間,チャート図TC20,21,22,・・・,23は自装置の送信・休止動作動作を行う期間を表している。各チャート図において網掛けされた区間が送信期間を表し,空白の区間が休止期間を表している。いずれのチャート図においても,送信期間と休止期間はそれぞれ一定であり,交互に反復される。
【0043】
ここで,送信期間と休止期間は予め次のような規則により定められるものとする。例えば,送信期間と休止期間1サイクルの合計時間は,10msを最小単位としてその整数倍とする。なおかつ,送信期間は1サイクルの30%以下とする。よって,図5のチャート図では,送信期間は30msで,休止期間は70msを例として説明する。
【0044】
まず,他装置のチャート図TC10と自装置のチャート図TC20とを比較すると,送信期間SP11,SP20に重複があるので,他方の送信信号により干渉が生じる場合がある。例えば,他装置の送信期間SP11と自装置の送信期間SP20とにおける時間t0(15ms時点)で,自装置において干渉が検知されたとする。
【0045】
すると,自装置では干渉が検知された送信期間SP20に続く休止期間IP20をチャート図TC21に示すように時間Δtの分延長する。ここでは,時間Δtを5msとする。すると,その次の送信期間SP21は,75msの休止期間を経て開始されるが,他装置の送信期間SP12(チャート図TC10)と重複しており,再び時間t1(120ms時点)において干渉が検知される。
【0046】
そこで,自装置では再度干渉が検知された送信期間SP21に続く休止期間IP21をチャート図TC22に示すように時間Δtの分延長する。すると,その次の送信期間SP22は,更に75msの休止期間を経て開始するが,その次の送信期間SP22では,他装置の送信期間SP13(チャート図TC10)とまだ重複しており,再び時間t2(225ms時点)において干渉が検知される。
【0047】
しかしながら上記の動作を繰り返し,干渉が検知された送信期間の次の休止期間を時間Δtずつ延長してゆけば,チャート図TC23において自装置の送信期間SP23,休止期間IP23が他装置の休止期間IP14,送信期間SP15(チャート図TC10)にそれぞれ対応するように,双方の送信期間の重複を避けることができる時点に到達する。
【0048】
上記のようにして,本実施の形態における車載レーダ装置は,送信期間の開始を所定時間ずつずらす調整を繰り返すことにより,他のレーダ装置との干渉の再発を回避することができる。すなわち,一定の規則に従って送信期間と休止期間を定期的に反復する車載レーダ装置間において,干渉を検知した装置が予め定めた規則に従って秩序ある制御動作を行うことにより,同じ動作をする車載レーダ装置間での干渉の再発を回避することができる。
【0049】
なお,干渉信号電力は実際に干渉が生じている時間に比例するので,干渉信号電力を変調信号の周期で割って時間Δtの大まかな値を算出し,上記の処理を行っても良い。
【0050】
また,上記別の側面における車載レーダ装置の変形例として,上記車載レーダ装置がFM−CWレーダ装置であって,予め定められた変調周期と変調幅で周波数変調を行い,更に送信期間と休止期間が,変調周期の整数倍であるような車載レーダ装置について,図6及び図7を用いて説明する。
【0051】
図6は,上記車載レーダ装置が他装置との干渉の再発を回避する動作を説明する波形図である。図6(A),(B)はいずれも,横軸に経過時間,縦軸に瞬時周波数をとった,観測信号生成用の変調入力信号(三角波の部分)の波形図である。波形W61は自装置の,波形W62は他装置の観測信号を表しており,どちらも一定の送信期間(三角波の部分)と休止期間(直線の部分)を交互に繰り返す。
【0052】
図6(A)に示すように,2つの波形W61,W62はいずれも変調周期Tx,変調幅ΔFが等しく,休止期間Rt1と給紙期間Rt2はいずれも変調周期Txの整数倍である。また,波形W61とW62は,中心周波数が異なり,送信期間SP61と送信期間SP62は長さと開始時期もずれており,休止期間Rt1と休止期間Rt2も長さと開始時期がずれている。しかし,波形W61の送信期間SP61に着目すると,波形W62の送信期間SP62と重複する部分において,瞬時周波数が交差し,干渉が生じる。
【0053】
そこで,自装置においては,休止期間Rt1の時間を延長し,次の送信期間SP61−2の開始を早めることによって,干渉の再発を回避する。図6(B)では,送信期間SP61−2の開始を時間ΔT12の分遅らせた場合を表している。その結果,送信期間SP61−2では両波形は交差しないので,干渉が回避されていることを示している。
【0054】
このように,2つの波形W61とW62は,変調周期,変調幅が等しく,休止期間が変調周期の整数倍の波形であるので,自装置の上記動作により三角波を送出する期間の開始時間を調整し,自装置からの観測信号の送信期間の一部を他装置の休止期間に吸収させることができる。すると,波形W61とW62は送信期間において互いに交差せず,干渉の再発を回避することができる。
【0055】
図7は,上記実施例における車載レーダ装置の動作手順を説明するフローチャート図である。制御部10が制御プログラムに従い各部の動作を制御する手順について説明する。
【0056】
まず,三角波で周波数変調した観測信号の送出を完了すると(S110),三角波の上昇区間と下降区間ごとに受信信号の周波数解析を行う(S112)。そして,観測信号検出部28で干渉が検知されると(S114のYES),前回干渉が発生した際の干渉波レベルと今回の干渉波レベルとを比較し,今回の干渉波レベルが低ければ,所定の時間Δtだけ送信期間の開始を遅らせて(118),次の送信期間の三角波を送出する(S112)。また,今回の干渉波レベルが高ければ,所定の時間Δtだけ送信期間の開始を早めて(S120),次の送信期間の三角波を送出する(S112)。なお,時間Δtはクロック周波数などを基準として任意に定めた単位時間である。
【0057】
自装置において干渉が検知された場合,干渉波レベルが低下する間上記の手順を繰り返すことにより,図6(B)に示した状態に到達する。よって,それ以降は干渉が再発することを回避できる。
【0058】
なお,上記側面における実施例において,双方の装置で同時に干渉を検知してそれぞれが同じ動作で送信期間をずらすことを避けるために,他の装置の観測信号に付加された優先順位符号を読取って自装置の優先順位と比較し,優先順位が低い方は時間をずらす動作を行うことも可能である。
【0059】
次に,本発明の更に別の側面として,図1で示した構成の車載レーダ装置において,車両の4方向に送信アンテナ18と受信アンテナ20を有する送受信部を備え,車両の前方,後方,左方,右方を探査する車載レーダ装置について説明する。
【0060】
この車載レーダ装置は,図1で示した構成において,送受信部を構成する発振器12,方向性結合器14,送信アンプ16,送信アンテナ18,受信アンテナ20,受信アンプ22,ミキサ24を有する送受信部が,4組設けられる。そして,送受信部は車両の前後左右4方向を指向するように1方向に1組ずつ設置され,制御部10が全体の動作を制御する構成で実現される。そして,送信する信号の変調方式は周波数変調,振幅変調,位相変調などいずれの方式でもよく制御部10が変調方式に応じた変調信号を生成し,各送受信部から観測信号を送信する。
【0061】
上記構成の車載レーダ装置は,図8(A)に示すように車両Car1の前方,後方,左方,右方それぞれで重複しない周波数帯域A,C,D,Bで観測信号を送信する。すると,自車両Car1において最も重要な先行車両との距離等を観測する際に,先方車両Car2に同じ車載レーダが用いられていた場合であっても,先行車両Car2から後方へ送信される観測信号の周波数帯域Cと自車両Car1の前方へ送信する観測信号の周波数帯域Aとは異なるので,干渉は生じない。
【0062】
なお,対向車線の車両Car3とすれ違う際には,車両Car3の右方の観測信号の周波数帯域Bと,自車両Car1の右方の観測信号の周波数帯域Bが同じであるが,干渉が生じうる時間は極めて短時間であるため問題とはならない。
【0063】
図8(B)では,本発明の上記側面の変形例として,4方向を探査するアンテナから観測信号を送信する送信時間を順次交代で切り替える動作を説明している。図の横軸は経過時間を表しており,チャート図は前方,右方,後方,左方の順で10msごと観測信号をそれぞれの周波数帯域で送信することを示しており,1方向に観測信号を送信する時はその他の3方向の観測信号の送信は休止する。
【0064】
上記のように,車両周囲の観測する方向により周波数帯域を割り当て,更にそれぞれの方向で観測信号を交代で送信することにより,同じ動作をする車載レーダ装置を搭載した他の車両が近傍に存在する場合でも,干渉の確率を減らすことができる。
【0065】
更に,上記変形例の車載レーダ装置に電波時計台やGPS衛星からの絶対時刻を受信する絶対時刻取得部を設け,上記の送信期間と休止期間の開始時間を絶対時刻を基準として切り替えることが可能である。例えば,図8(B)のチャート図に示すように,絶対時刻12時0分0秒から10ミリ秒間は前方への観測信号を周波数帯域Aで送信し,次の10ミリ秒間は右方への観測信号を周波数帯域Bで送信し,以後10ミリ秒ずつ順次後方,左方というように交代で送信してゆくことも可能である。
【0066】
次に,本発明の更に別の側面として,管制センタからの指示に従って,近傍車両の他の装置との干渉の再発を回避する送信制御を行う車載レーダ装置について説明する。
【0067】
図9は,車載レーダ装置と管制センタとで構成される車載レーダ管制システムの構成図である。図1で示した構成の車載レーダ装置に,自装置の位置を取得する位置情報取得部としてGPS信号を受信する位置信号受信部30を設け,また,自車の情報を管制センタに送信し,管制センタからの指示を受信する通信部40とを設けて管制センタ100との通信を可能にしている。また,制御部10では,所定の周波数帯域内での観測信号を送受信するよう制御を行う。そして,管制センタに送信する情報は,GPS信号に基づき算出される自装置の位置情報,及び自装置の優先順位である。
【0068】
管制センタ100は,車載レーダ装置との送受信を行う送受信部110と,制御プログラム114に従って,送受信部110の動作を制御する制御部112とを有している。管制センタ100では,複数の車載レーダ装置からの位置情報と優先順位を受信し,干渉が予測されるような距離範囲内に複数の車載レーダ装置が存在する場合は,それぞれの装置の優先順位に応じて,周波数帯域を割当てて指示する。
【0069】
例えば,管制センタ100で半径500m以内に2機の車載レーダ装置が存在することを検知したとする。すると,管制センタは,優先順位の低い車載レーダ装置には周波数帯域76.2〜76.4GHzを,優先順位の高い車載レーダ装置にはこれより高い周波数帯域76.4〜76.6GHzを用いるように指示する。よって,各装置は,指示された周波数帯域の観測信号を送信することにより,互いに接近した場合でも干渉を回避することができる。
【0070】
更に,上記の車載レーダ装置管制システムでは,各レーダ装置に電波時計台やGPS衛星からの絶対時刻を受信する絶対時刻取得手段を設け,管制センタ100は,周波数帯域に加えて送信期間の開始時刻を指示するようにしてもよい。すなわち,各レーダ装置は管制センタ100の指示に従って,他のレーダ装置が信号を送信していない時間に信号を送信することにより,干渉を回避することができる。
【0071】
管制センタ100から複数の車載レーダ装置に送信信号の周波数帯域や送信期間を指示するためには,図10に示すような周波数帯域と送信期間のマトリクスを用いることができる。
【0072】
図10は,管制センタ100に備えられた周波数帯域と送信期間のマトリクスを説明する図である。管制センタ100では,図示するようなマトリクスを制御部112内の記憶装置に格納しており,このマトリクスを用いて車載レーダ装置に周波数帯域と送信期間の割り当てを次のように行う。
【0073】
まず,車載レーダ装置Aの近傍に,車載レーダ装置Aより高い優先順位を持つ車載レーダ装置B,C,Dが存在することを検知したとする。そして,これら車載レーダ装置には既に図示するような周波数帯域と送信期間が割当てられていたとする。例えば,車載レーダ装置Cには,76.0〜76.2GHzの周波数帯域で,毎秒0ms〜250msの間に観測信号を発信するように割当てられている。また,車載レーダ装置Bには,76.2〜76.4GHzの周波数帯域で,毎秒250ms〜500msの間に,車載レーダ装置Dには,76.0〜76.2GHzの周波数帯域で,毎秒500ms〜750msの間に観測信号を発信するように割当てられている。
【0074】
すると,車載レーダ装置B〜Dのいずれよりも優先順位の低い車載レーダ装置Aには,76.0〜76.2GHzの周波数帯域で,毎秒250ms〜500msの間に観測信号を発信するように割当てを行う。そうすると,車載レーダ装置Aは車載レーダ装置C,Dと周波数帯域は同じであっても送信期間が異なり,車載レーダ装置Bとは送信期間が同じであっても周波数帯域が異なるので,いずれの車載レーダ装置との干渉も回避することができる。
【0075】
上記のように,管制センタは車載レーダ装置に周波数帯域と送信期間を割当てて各装置に指示を送り,各装置は指示された周波数帯域の送信信号を指示された送信期間に送信する。よって,各車載レーダ装置はこの指示に従うことによって,他装置との干渉を回避することができる。
【0076】
以上のように,本実施の形態における車載レーダ装置は,予め定められた規則に従って自装置の優先順位に応じた周波数帯域や送信期間において観測信号を送信するように,送信制御を行う。よって,同じ動作をする他の装置との間では,秩序のある干渉回避のための送信動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0077】
10:制御部 W1:自装置の観測信号の波形図
SP11:送信期間 IP11:休止期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数帯域で観測信号を送受信する送受信部と,
前記周波数帯域内の周波数で優先順位の信号を送信する優先順位送信部とを備えた車載レーダ装置において,
前記送受信部は他の車載レーダ装置の優先順位の信号を受信し,
前記他の車載レーダ装置の信号との干渉が検知された場合は,当該他装置の優先順位と前記自装置の優先順位とに基づき,前記送受信部が送信する観測信号の周波数帯域を所定の周波数分ずらすことを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項2】
請求項1において,
前記送受信部は,送信する前記観測信号を前記所定の周波数帯域で周波数変調し,
前記優先順位送信部は,前記変調周波数の中心周波数,最大周波数,または最小周波数で前記優先順位の信号を交互に送信し,
前記観測信号の周波数帯域をずらす幅を,前記他の車載レーダ装置から受信した優先順位の信号の周波数に基づき決定することを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項3】
観測信号の送受信部を複数有する車載レーダ装置において,
前記送受信部は,それぞれ車両の異なる方向を指向するように設置され,それぞれ異なる周波数帯域で観測信号を送受信することを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項4】
請求項3において,
前記複数の送受信部は,交代でそれぞれ所定の時間観測信号を送信することを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項5】
所定の周波数帯域の観測信号を送信する所定の長さの送信期間と,観測信号を送信しない所定の長さの休止期間を交互に繰り返す送受信部と,自装置の位置を取得する位置情報取得部と,管制センタとの通信を行う通信部とを備えた車載レーダ装置において,
自装置の位置情報及び優先順位を前記管制センタへ送信し,
前記管制センタにて,前記車載レーダ装置から受信した前記位置情報に基づき当該車載レーダ装置と他の車載レーダ装置との距離を求め,所定距離範囲内に他の車載レーダ装置が存在する場合には,前記優先順位に基づき前記送信期間または前記観測信号の周波数帯域をずらす指示を送信し,
前記管制センタから受信した指示に従い,前記送信期間または前記観測信号の周波数帯域をずらすことを特徴とする車載レーダ装置。
【請求項6】
複数の車載レーダ装置と,管制センタとを有する車載レーダ管制システムにおいて,
前記車載レーダ装置は,所定の周波数帯域の観測信号を送信する所定の長さの送信期間と,観測信号を送信しない所定の長さの休止期間を交互に繰り返す送受信部と,自装置の位置を取得する位置情報取得部と,前記管制センタとの通信を行う通信部とを備え,自装置の位置情報及び優先順位を前記管制センタへ送信し,
前記管制センタは,前記車載レーダ装置から受信した前記位置情報に基づき車載レーダ装置間の距離を求め,所定距離範囲内に複数の車載レーダ装置が存在する場合には,当該車載レーダ装置の優先順位に基づき前記送信期間または前記観測信号の周波数帯域をずらす指示を送信し,
前記車載レーダ装置は,前記管制センタから受信した指示に従い,前記送信期間または前記観測信号の周波数帯域をずらすことを特徴とする車載レーダ管制システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−133875(P2009−133875A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69704(P2009−69704)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【分割の表示】特願2006−92964(P2006−92964)の分割
【原出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】