説明

車載映像通信装置

【課題】安価なアンシールド電線や安価なコネクタを用いて映像信号を伝送しても、充分な画質で且つ輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響をあまり受けずにリアルタイム映像を転送する。
【解決手段】圧縮により映像信号の伝送レートを18Mbps未満に低減し、低速シリアル通信を適用して、映像のリアルタイム伝送を行う。シールド線付きハーネスや高周波用のコネクタを専用で設定することなく、安価なアンシールドツイストペアケーブル(アンシールド電線)を用いて映像信号を伝送しても、充分な画質で且つ輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響をあまり受けずにリアルタイム映像を転送することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の所定の伝送路で映像の伝送を行う車載映像通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の運転席から見て見通しの悪い位置を運転者等が視認するため、車両に設置されたカメラにより車両周辺の所定方向を撮像し、該撮像画像を車両内に設置された表示装置に表示することが行われていた(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
この場合、カメラで撮像された映像の信号をデジタル信号からアナログ信号にA/D変換し、例えばNTSC規格のアナログ信号で伝送を行って、表示装置での映像表示が行われる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−294085号公報
【特許文献2】特開2001−294086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カメラで撮像された映像をデジタル信号化して表示装置に伝送する場合、例えば18Mbps(=320×240×8×390)以上の伝送レートに対応した高速シリアル伝送規格を用いる必要がある。
【0006】
ところで、近年の自動車は、多様な電子ユニットの装備が行われており、自動車内での信号の伝送については、各電子ユニットの誤動作等を防止する必要がある。このため、信号の伝送路については、輻射ノイズや外乱ノイズに対する影響を可及的に防止する必要がある。特に、映像に係るデジタル信号は高周波であることから、伝送路において輻射ノイズや外乱ノイズの影響を受けやすい。したがって、映像信号の伝送路として、従来、シールド線付きワイヤーハーネスを使用することで、輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響を受けないようにしていた。
【0007】
しかしながら、シールド線付きワイヤーハーネスは高価であり、可能であれば、シールド構造が採用されていないアンシールド電線を使用することが望ましい。
【0008】
また、従来では、映像に係るデジタル信号は高周波であることから、伝送路同士を結線するためのコネクタとして、高周波信号に対応したものが使用されていた。
【0009】
しかしながら、高周波信号に対応可能なコネクタは、端子間の接触抵抗を可及的に低減しなければならないなど、構造的に高価なものとなりやすく、可能であれば、できるだけ低周波の信号伝送を行うことで、コネクタのコスト低減を図ることが望まれていた。
【0010】
そこで、本発明の課題は、映像信号の伝送路及びそのコネクタのコスト低減を図り得る車載映像通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、自動車の所定の伝送路で映像の伝送を行う車載映像通信装置であって、伝送レートが18Mbps未満で映像のリアルタイム伝送を行う機能を有し、前記伝送路がアンシールド電線で形成されるものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車載映像通信装置であって、前記映像の前記リアルタイム伝送が、前記映像をパケット化した伝送である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の車載映像通信装置であって、前記伝送路が、1対1の伝送路であるものである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の車載映像通信装置であって、前記伝送路が、車載LANであるものである。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の車載映像通信装置であって、映像の画像圧縮及び/またはフレーム間引きを行って、前記伝送レートが10Mbps以下に設定されるものである。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の車載映像通信装置であって、シリアル通信のプロトコルの物理層のみにCAN方式が適用されるものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明の車載映像通信装置は、映像信号の伝送レートを18Mbps未満に低減し、低速シリアル通信を適用して、映像のリアルタイム伝送を行うので、安価なアンシールド電線を用いて映像信号を伝送しても、充分な画質で且つ輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響をあまり受けずにリアルタイム映像を転送することができる。また、伝送路同士をコネクタで接続する場合も、高周波数対応のコネクタを使用しなくてもよいので、コネクタのコストを低減できる。
【0018】
請求項2に記載の発明の車載映像通信装置は、映像のリアルタイム伝送が、映像をパケット化した伝送であるため、回路が映像の信号で占有されることがなくなり、通信回路を効率よく利用できる。
【0019】
請求項3に記載の発明の車載映像通信装置は、伝送路が1対1に形成されているので、伝送する信号に、信号伝送先のアドレス等のオーバーヘッドのデータサイズを低減することが可能となる。したがって、低い伝送レートで実データの転送効率を向上することができ、リアルタイムの映像信号を、充分な画質で且つ輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響をあまり受けずに転送することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明の車載映像通信装置は、既存のLANを用いて伝送を行うことができるので、専用の伝送路を形成することが必要なく便利である。
【0021】
請求項5に記載の発明の車載映像通信装置は、圧縮技術やフレーム間引きを用いて伝送するので、映像信号の伝送レートを10Mbps以下に容易に低減することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明の車載映像通信装置は、シリアル通信のプロトコルの物理層のみにCAN方式が適用されるので、伝送する信号においてシーケンンス用のデータ等のCANコントロールに必要なオーバーヘッドのデータサイズを低減することが可能となる。したがって、低い伝送レートで実データの転送効率を向上することができ、リアルタイムの映像信号を、充分な画質で且つ輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響をあまり受けずに転送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一の実施の形態に係る車載映像通信装置は、例えば自動車の運転席から見て見通しの悪い位置を運転者等が視認するため、車両に設置されたカメラにより車両周辺の所定方向を撮像し、該撮像画像を車両内に設置された表示装置に表示する場合に、カメラで撮像された映像をデジタル信号化してその映像信号を表示装置に転送するものであって、データを圧縮したり画素間引きしたりして映像信号の転送に係るビットレートを低減することで、輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響を低減するようになっている。
【0024】
ただし、例えば自動車の周辺視認のための映像をカメラで撮像して表示装置に映像表示を行う場合、最低限、映像のリアルタイム性を確保する必要がある。
【0025】
図1は一般的なシリアル通信のプロトコルを示す図である。図1の如く、デジタル信号(ここでは映像信号3)の通信プロトコルとしては、物理層1やデータリンク層5等があり、物理層1としては、信号のビットのフォーマットや伝送タイミング等7及びバス特性等9が定義され、データリンク層5としては、エラー時の再送等に関するLLC(Logical Link Control)11及びフレームの生成等に関するMAC(Media Access Control)13が定義されるが、この車載映像通信装置においては、映像信号3の通信プロトコルの物理層1の方式として、上述のように、映像信号の転送に係るビットレートを低減して輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響を低減するために、例えば、CAN(コントローラ・エリア・ネットワーク)、RS422またはRS485等のシリアル通信の規格が適用されている。
【0026】
このうち、CANは、一般的には、同じバスラインに接続された複数の装置間で、データ送信時に競合が生じた場合でも、データが破壊されることなく、一の装置のみがデータを送信し、他の装置は次の送信機会を待つように制御するシリアル通信のプロトコルである。この実施の形態において、このCANをプロトコルとして採用する場合は、ISO11898で定義されている高速CANが適用される。この高速CANは、伝送媒体としてアンシールド電線であるアンシールドツイストペアケーブルが適用され、CAN通信の能力を最大限に発揮できる点が特徴とされる。
【0027】
RS422は、米国電子工業会(EIA)によって標準化されたシリアル通信の汎用インターフェースのひとつで、ケーブルの最大長が1.2km、最高通信速度が10Mbpsと定められている。
【0028】
RS485も、同じく米国電子工業会(EIA)によって標準化されたシリアル通信の汎用インターフェースのひとつで、RS422をバスに拡張した上位規格であり、バス型のマルチポイント接続に対応し、最大で32台までの複数対複数接続に対応している。
【0029】
そして、伝送路における映像信号の転送レートは、非圧縮の映像のリアルタイム伝送として18Mbps以上が望ましい場合でも、これに拘わらず18Mbps未満、望ましくは10Mbps以下に設定され、例えば、5Mbps以下に設定される。このように、5Mbps以下の転送レートで映像信号の転送を行うことで、輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響を低減できるようになっている。
【0030】
したがって、伝送路に使用するケーブルとして、従来使用されていたシールド線付きワイヤーハーネスを使用せずに、アンシールド電線であるアンシールドツイストペアケーブルで対応することが可能となる。また、複数の伝送路同士をコネクタで接続する場合も、高周波信号に対応可能なコネクタを使用せずに支障無く接続することができ、コネクタのコスト低減を図ることができる。
【0031】
図2は、この車載映像通信装置のシリアル通信のプロトコルとしてCANを適用した場合のブロック図である。この車載映像通信装置は、マイコン21と、LSI23と、CANドライバー25とを備える。
【0032】
マイコン21は、CPU、RAM及びROM等が内蔵されて、ROM内に予め格納されたソフトウェアプログラムに従って動作する機能部品であり、カメラで撮像された映像データを、例えばJPEG2000やVQ等の所定の圧縮方式で圧縮したり、画素間引きしたりして、映像信号の転送に係るビットレートを低減する機能を司る。
【0033】
LSI23は、シリアル通信のプロトコルのうち、データリンク層5以上のプロトコル層の制御を行うものである。尚、このLSI23は、カメラからの映像がアナログデータとして入力されたときに、このアナログデータをデジタル信号に変換する機能をも司る。
【0034】
CANドライバー25は、シリアル通信のプロトコルのうちの物理層1をCAN方式で制御するもので、ツイストペアケーブル27により映像信号をCAN信号として転送するものである。
【0035】
ここで、マイコン21とLSI23とは、パラレル通信線により接続されている。また、CANドライバー25は、マイコン21には接続されず、LSI23に接続されている。
【0036】
尚、CAN通信を行う一般的な通信装置の場合、図3の如く、マイコン21aにCANコントロール機能が内蔵されており、このマイコン21aとLSI23aとが接続されるとともに、CANドライバー25aがマイコン21aに接続され、このCANドライバー25aがマイコン21aの制御の元にCAN通信が行われる。
【0037】
これに対して、この実施の形態の車載映像通信装置は、図2の如く、上述のようにCANドライバー25がマイコン21に接続されずにLSI23に接続されている点で、図3に示したCAN通信用の一般的な通信装置とは異なった構成となっている。
【0038】
そして、この実施の形態では、図3中のマイコン21aが司っていたCANコントロール機能が省略されている。
【0039】
そして、この実施の形態では、CANドライバー25と、信号の転送先である表示装置(図示省略)との間の伝送路として、多重通信を行うLANではなく、1対1の伝送路が適用され、例えば、アンシールドツイストペアーケーブルが適用される。
【0040】
このように、この実施の形態では、多重通信を行うLANではなく、1対1の伝送路が適用されるので、CANコントロール機能を省略することが可能となり、シリアル通信プロトコルの物理層1のみについてCAN方式を採用しても支障がないようになっている。
【0041】
この場合、映像信号について、物理層1としてのCAN方式を適用してパケット伝送する一方、CANコントロールを行わずに、1対1の伝送路で通信を行っているので、信号伝送先のアドレスやシーケンンス用のデータ等のCAN制御用データ、即ち、CANコントロールに必要な信号内のオーバーヘッドのデータサイズを低減することが可能となる。したがって、低い伝送レートで実データの転送効率を向上することができ、リアルタイムの映像信号を、充分な画質で且つ輻射ノイズの発生や外乱ノイズの影響をあまり受けずに転送することができる。
【0042】
このため、シールド線付きワイヤーハーネスを使用せずにアンシールドツイストペアケーブルを使用することが可能となり、映像信号の伝送路のコスト低減を図ることができる。
【0043】
また、伝送路同士を接続するためのコネクタとして、高周波信号に対応可能なコネクタを使用しなくてもよいため、コネクタのコスト低減をも図り得る。
【0044】
上記実施の形態では、映像信号のシリアル通信のプロトコルの物理層1としてCAN方式を適用する場合について述べたが、RS485やRS422等の他の方式を適用しても差し支えない。
【0045】
また、上記実施の形態では、伝送路として1対1のアンシールドツイストペアーケーブルを適用した例について説明したが、既存のLANを用いて伝送を行っても良い。この場合は、伝送する信号内に、信号伝送先のアドレスを含ませればよい。このようにすることで、上記実施の形態よりも信号のオーバーヘッドが増大するが、既存のLANをそのまま利用することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】一般的なシリアル通信のプロトコルを示す図である。
【図2】本発明の一の実施の形態に係る車載映像通信装置の一例を示すブロック図である。
【図3】一般的なCAN方式の通信装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1 物理層
3 映像信号
21 マイコン
23 LSI
25 CANドライバー
27 アンシールドツイストペアーケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の所定の伝送路で映像の伝送を行う車載映像通信装置であって、
伝送レートが18Mbps未満で映像のリアルタイム伝送を行う機能を有し、
前記伝送路がアンシールド電線で形成されることを特徴とする車載映像通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載映像通信装置であって、
前記映像の前記リアルタイム伝送が、前記映像をパケット化した伝送であることを特徴とする車載映像通信装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車載映像通信装置であって、
前記伝送路が、1対1の伝送路であることを特徴とする車載映像通信装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の車載映像通信装置であって、
前記伝送路が、車載LANであることを特徴とする車載映像通信装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の車載映像通信装置であって、
映像の画像圧縮及び/またはフレーム間引きを行って、前記伝送レートが10Mbps以下に設定される車載映像通信装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の車載映像通信装置であって、
シリアル通信のプロトコルの物理層のみにCAN方式が適用される車載映像通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−128766(P2006−128766A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310692(P2004−310692)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】