説明

車載有段自動変速機の変速制御装置

【課題】運転者の意図の反映と、燃費特性や排気特性などの内燃機関のハード的な要件の充足との両立を図ることのできる車載有段自動変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御ユニット20は、車速SPDとアクセル操作量ACCPとに基づいた変速段の切り替えを判断するための第1変速マップM1と、車速SPDと車両の要求駆動力DPとに基づいた変速段の切り替えを判断するための第2変速マップM2との2つの変速マップを備え、有段自動変速機11のダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断は、第1変速マップM1を参照して行い、有段自動変速機11のアップシフトに係る変速段の切り替えの判断は第2変速マップM2を参照して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載有段自動変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように車載有段自動変速機の変速制御装置では、例えば特許文献1に見られるように、車速とアクセル操作量(又はスロットル開度)とに基づく変速マップ(変速スケジュール)に従って、変速段の昇段(アップシフト)や降段(ダウンシフト)の判断を行っている。図5は、こうした車速とアクセル操作量とに基づく変速マップの一例を示している。このような車速とアクセル操作量(若しくはスロットル開度)とに基づく変速判断によれば、アクセル操作を基準とした、運転者の意図を反映した変速動作を行うことができる。
【特許文献1】実開昭61−64548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、燃費特性や排気特性、燃焼モードなどの内燃機関のハード的な要件を重視した場合には、内燃機関の負荷や車両の駆動力を基準として変速判断することが考えられる。すなわち、燃費やエミッション等の面でより望ましい回転速度及び負荷で内燃機関が運転されるように、有段自動変速機の変速を行うことで、内燃機関の燃費特性や排気特性の向上を図ることが考えられる。しかしながら、こうして内燃機関の負荷や駆動力を基準として変速判断を行うだけでは、有段自動変速機の変速動作に、アクセル操作に基づく運転者の意図が反映されないようになってしまう。
【0004】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであって、その解決しようとする課題は、運転者の意図の反映と、燃費特性や排気特性などの内燃機関のハード的な要件の充足との両立を図ることのできる車載有段自動変速機の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果を記載する。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明では、車載された有段自動変速機における変速段の切り替えを判断する車載有段自動変速機の変速制御装置であって、車速とアクセル操作量又はスロットル開度とに基づき変速段の切り替えを判断する第1の変速判断手段と、車速と内燃機関の負荷又は車両の要求駆動力とに基づき変速段の切り替えを判断する第2の変速判断手段と、を備え、前記有段自動変速機のダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断は前記第1の変速判断手段により行い、前記有段自動変速機のアップシフトに係る変速段の切り替えの判断は前記第2の変速判断手段により行うことをその要旨としている。
【0006】
上記構成では、有段自動変速機のダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断は、車速とアクセル操作量又はスロットル開度とに基づいて行われるようになる。よって、ダウンシフトに際しては、運転者のアクセル操作を基準とした変速段の切り替えが行われるようになる。一方、有段自動変速機のアップシフトに係る変速段の切り替えの判断は、車速と内燃機関の負荷又は車両の要求駆動力とに基づいて行われるようになる。そのため、アップシフトに際しては、内燃機関の負荷や車両の要求駆動力を基準とする、内燃機関の燃費特性や排気特性等を考慮した変速段の切り替えが行われるようになる。なお、ここでの車両の要求駆動力とは、現在の車両の走行状態を維持するために必要な駆動力の要求値であり、例えば車速やアクセル操作量に基づいて算出される値となっている。
【0007】
ところで一般に、アクセルペダルが踏み込まれて車両が加速されようとしたときに、有段自動変速機がダウンシフトされなければ、運転者が意図したような加速が得られないようになる。そのため、有段自動変速機のダウンシフトについては、アクセル操作に基づく運転者の意図をある程度反映させる必要がある。一方、有段自動変速機のアップシフトについては、運転者がこれを意図的に行うことはあまり無いものとなっている。
【0008】
その点、上記構成では、有段自動変速機のダウンシフトについては、アクセル操作を基準とした、運転者の意図を反映した変速が行われ、有段自動変速機のアップシフトについては、内燃機関の負荷や車両の要求駆動力を基準とした、燃費特性や排気特性等を重視した変速が行われるようになる。したがって上記構成によれば、運転者の意図の反映と、燃費特性や排気特性などの内燃機関のハード的な要件の充足との両立を図ることができるようになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車載有段自動変速機の変速制御装置において、前記第1の変速判断手段は、アップシフトに係る変速段の切り替えの補助的な判断を行い、前記第2の変速判断手段は、ダウンシフトに係る変速段の切り替えの補助的な判断を行うことをその要旨としている。
【0010】
上述したように、有段自動変速機のアップシフトとダウンシフトとを、それぞれ別のパラメータに基づいて行う場合には、状況によって有段自動変速機の変速動作のハンチングが発生してしまう虞がある。すなわち、状況によっては、アクセル操作を基準としたダウンシフトの条件と、内燃機関の負荷や車両の要求駆動力を基準としたアップシフトの条件とが同時に成立してしまい、ダウンシフトの完了直後にアップシフトが、或いはアップシフトの完了直後にダウンシフトが行われてしまうようになることが考えられる。こうした変速動作のハンチングは、基本的にはアクセル操作を基準として変速の行われるダウンシフトにおいても、内燃機関の負荷や車両の要求駆動力をある程度に考慮し、基本的には内燃機関の負荷や車両の要求駆動力を基準として変速の行なわれるアップシフトについてもアクセル操作をある程度に考慮することで、回避することができるようになる。
【0011】
その点、上記構成では、ダウンシフトについての変速段の切り替えの判断を行う第1の変速判断手段が、アップシフトに係る変速段の切り替えについての、上記ハンチングを回避するための補助的な判断も行うようなる。またアップシフトについての変速段の切り替えの判断を行う第2の変速判断手段が、ダウンシフトに係る変速段の切り替えについての、上記ハンチングを回避するための補助的な判断も行うようになる。したがって上記構成によれば、それぞれ別のパラメータに基づいて有段自動変速機のアップシフトとダウンシフトとを行うがために発生する変速動作のハンチングを好適に回避することができるようになる。
【0012】
こうした場合の変速段の切り替えの補助的な判断は、例えば請求項3、4に記載の態様で行うことができる。
すなわち、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車載有段自動変速機の変速制御装置において、前回の変速がダウンシフトであり、且つ今回の変速もダウンシフトであるときには、前記第1の変速判断手段により今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断を行い、前回の変速がアップシフトであり、且つ今回の変速がダウンシフトであるときには、前記第1の変速判断手段及び前記第2の変速判断手段の双方がダウンシフトに係る変速段の切り替えを認めることで、今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えを判断することをその要旨としている。
【0013】
上記構成では、前回の変速からダウンシフトが立て続けに行われる場合には、車速とアクセル操作量又はスロットル開度とに基づいて今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えが判断されるようになる。一方、前回の変速ではアップシフトが行われ、今回の変速ではダウンシフトが行われる場合には、上記第1の変速判断手段及び前記第2の変速判断手段の双方がダウンシフトに係る変速段の切り替えを認めることで、今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えが判断されるようになる。すなわち、この場合には、車速とアクセル操作量又はスロットル開度に基づくダウンシフトの条件と、車速と内燃機関の負荷又は駆動力とに基づくダウンシフトの条件とが双方共に満されることで、ダウンシフトに係る変速段の切り替えが許容されるようになる。そのため、アップシフト後にダウンシフトが行なわれる場合には、車速及びアクセル操作量又はスロットル開度だけでなく、内燃機関の負荷や車両の要求駆動力についても考慮してダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断がなされることになり、上述したような変速動作のハンチングは好適に回避されるようになる。
【0014】
また請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の車載有段自動変速機の変速制御装置において、前回の変速がアップシフトであり、且つ今回の変速もアップシフトであるときには、前記第2の変速判断手段により今回のアップシフトに係る変速段の切り替えの判断を行い、前回の変速がダウンシフトであり、且つ今回の変速がアップシフトであるときには、前記第1の変速判断手段及び前記第2の変速判断手段の双方がアップシフトに係る変速段の切り替えを認めることで、今回のアップシフトに係る変速段の切り替えを判断することをその要旨としている。
【0015】
上記構成では、前回の変速からアップシフトが立て続けに行われる場合には、車速と内燃機関の負荷又は車両の要求駆動力とに基づいて今回のアップシフトに係る変速段の切り替えが判断されるようになる。一方、前回の変速ではダウンシフトが行われ、今回の変速ではアップシフトが行われる場合には、上記第1の変速判断手段及び第2の変速判断手段の双方がアップシフトに係る変速段の切り替えを認めることで、今回のアップシフトに係る変速段の切り替えが判断されるようになる。すなわち、この場合には、車速とアクセル操作量又はスロットル開度に基づくアップシフトの条件と、車速と内燃機関の負荷又は駆動力とに基づくアップシフトの条件とが双方共に満されることで、ダウンシフトに係る変速段の切り替えが許容されるようになる。そのため、ダウンシフト後にアップシフトが行なわれる場合には、車速及び内燃機関の負荷や車両の要求駆動力だけでなく、アクセル操作量又はスロットル開度についても考慮してダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断がなされることになり、上述したような変速動作のハンチングは好適に回避されるようになる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の車載有段自動変速機の変速制御装置において、今回のトリップにおいて最初に変速が行われるときには、前回の変速がアップシフトであったものとして変速段の切り替えの判断を行うことをその要旨としている。
【0017】
各トリップの初回の変速では通常、1速から2速へのアップシフトが行われる。そしてこのアップシフトについては、上述のような変速動作のハンチングの考慮は不要であるため、今回のトリップにおいて最初に変速が行われるときには、前回の変速がアップシフトであったものとして変速段の切り替えの判断を行うようにすれば良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る車載有段自動変速機の変速制御装置を具体化した一実施の形態を、図1〜図4を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る車載有段自動変速機の変速制御装置の全体構成を示している。同図に示される、有段自動変速機11は、トルクコンバータを介して内燃機関10に接続されている。この有段自動変速機11は、遊星歯車機構と複数の摩擦係合機構(クラッチ、ブレーキ)とを備え、油圧回路の組み替えによる油圧制御を通じて摩擦係合機構の係合を選択的に切り換えることで、複数個の変速段のうちのいずれかが達成されるように構成されている。なお、この有段自動変速機11には、前進走行用の変速段として1速〜5速の5つの変速段が設けられたものとなっている。
【0019】
こうした有段自動変速機11の変速段の切り替えに係る制御、すなわち変速制御は、電子制御ユニット20により行われるようになっている。電子制御ユニット20は、変速制御のための各種の演算処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムやデータが記憶されたリードオンリーメモリ(ROM)、CPUの演算結果を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、及び外部との信号の入出力を行う入/出力ポート(I/O)を備えて構成されている。
【0020】
こうした電子制御ユニット20の入力ポートには、車両の走行状況や内燃機関10の運転状況を検出する各種のセンサが接続されている。こうしたセンサとしては、例えば車両の走行速度(車速SPD)を検出する車速センサ21、アクセルペダルの踏込量(アクセル操作量ACCP)を検出するアクセルセンサ22、内燃機関10の吸入空気量GAを検出するエアフローメータ23などがある。電子制御ユニット20は、これらセンサの検出結果から把握される車両の走行状況及び内燃機関10の運転状況に基づき、変速段の切り替えの可否を判断する。そして電子制御ユニット20は、その判断結果に応じて出力ポートから有段自動変速機11に指令信号を出力することで、有段自動変速機11の変速段の切り替えを実施する。
【0021】
こうした変速制御における変速段の切り替えの可否判断は、電子制御ユニット20のROM内に記憶された変速マップに従って行われる。本実施の形態の変速制御装置では、こうした変速マップとして、第1変速マップM1及び第2変速マップM2の2つの変速マップを設けるようにしている。
【0022】
図2は、第1変速マップM1における変速線の設定態様の一例を示している。同図に示すように、この第1変速マップM1での各変速線は、車速SPDとアクセル操作量ACCPにより規定されている。なお同図には、有段自動変速機11の変速段の降段(ダウンシフト)に係る変速線が実線で、その変速段の昇段(アップシフト)に係る変速線が破線でそれぞれ示されている。また図2及び図3における変速線「m→n」(m,nは1〜5の数値)は、「m速」から「n速」への変速段の切り替えに係る変速線を示している。こうした第1変速マップM1におけるアップシフトに係る各変速線は、対応するダウンシフトに係る変速線を基準として、そのダウンシフトに係る変速線に対してのヒステリシスを確保するように設定されている。
【0023】
図3は、第2変速マップM2における変速線の設定態様の一例を示している。同図に示すように、この第2変速マップM2での各変速線は、車速SPDと車両の要求駆動力DPとにより規定されている。なお同図には、有段自動変速機11のアップシフトに係る変速線が実線で、そのダウンシフトに係る変速線が破線でそれぞれ示されている。また同図には、各変速段における車両の最大駆動力が一点鎖線にて併せ示されている。こうした第2変速マップM2におけるダウンシフトに係る各変速線は、対応するアップシフトに係る変速線を基準として、そのアップシフトに係る変速線に対してのヒステリシスを確保するように設定されている。
【0024】
なお、ここでの車両の要求駆動力DPとは、現在の車両の走行状態を維持するために必要な駆動力の要求値を示している。こうした要求駆動力DPは、車速SPDとアクセル操作量ACCPとに基づいて、電子制御ユニット20により逐次算出されるものとなっている。
【0025】
さて本実施の形態では、電子制御ユニット20は基本的には、有段自動変速機11のダウンシフトに係る変速段の切り替えについては第1変速マップM1を参照してその可否を判断し、アップシフトに係る変速段の切り替えについては第2変速マップM2を参照してその可否を判断するようにしている。すなわち、本実施の形態では、ダウンシフト時とアップシフト時とで、変速段の切り替えの判断に使用する変速マップを使い分けるようにしている。
【0026】
上記のように第1変速マップM1は、車速SPDとアクセル操作量ACCPとに基づくものとなっている。そのため、この第1変速マップM1を参照して行われる有段自動変速機11のダウンシフトについては、運転者のアクセル操作を基準としてその可否が判断されるようになる。一方、第2変速マップM2は、車速SPDと車両の要求駆動力DPとに基づくものとなっている。なお車速SPDと要求駆動力DP、及び有段自動変速機11の変速段からは、内燃機関10の運転状態(機関回転速度、機関負荷)を把握することができる。そのため、この第2変速マップM2を参照して行われる有段自動変速機11のアップシフトについては、車両の要求駆動力DPを基準として、内燃機関10の燃費特性や排気特性等を考慮してその可否が判断されるようになる。
【0027】
一般に、アクセルペダルが踏み込まれて車両が加速されようとしたときに、有段自動変速機11がダウンシフトされなければ、運転者が意図したような加速が得られないようになる。そのため、有段自動変速機11のダウンシフトについては、アクセル操作に基づく運転者の意図を反映させる必要がある。一方、有段自動変速機11のアップシフトについては、運転者がこれを意図的に行うことはあまり無いものとなっている。
【0028】
その点、本実施の形態では、有段自動変速機11のダウンシフトについては、アクセル操作を基準とした、運転者の意図を反映した変速が行われ、有段自動変速機11のアップシフトについては、車両の要求駆動力DPを基準とした、内燃機関10の燃費特性や排気特性等を重視した変速が行われるようになる。そのため、本実施の形態では、運転者の意図の反映と、燃費特性や排気特性などの内燃機関10のハード的な要件の充足との両立を図ることができるようになる。
【0029】
ところで、上記のように有段自動変速機11のダウンシフトとアップシフトとを、それぞれ別のパラメータに基づいて判断する場合には、状況によって有段自動変速機11の変速動作のハンチングが発生してしまう虞がある。すなわち、状況によっては、アクセル操作を基準としたダウンシフトの条件と、車両の要求駆動力DPを基準としたアップシフトの条件とが同時に成立してしまい、ダウンシフトの完了直後にアップシフトが、或いはアップシフトの完了直後にダウンシフトが行われてしまうようになることが考えられる。こうした変速動作のハンチングは、基本的にはアクセル操作を基準として変速の行われるダウンシフトにおいても、車両の要求駆動力DPをある程度に考慮し、基本的には車両の要求駆動力DPを基準として変速の行なわれるアップシフトについてもアクセル操作をある程度に考慮することで、回避することができるようになる。
【0030】
そこで本実施の形態では、上述したように、ダウンシフト用の第1変速マップM1にもアップシフトに係る変速線を、アップシフト用の第2変速マップM2にもダウンシフトに係る変速線を、それぞれ設定するようにしている。そして以下の態様で変速判断を行うことで、上記のようなハンチングを回避するようにしている。
【0031】
すなわち、本実施の形態では、前回の変速からダウンシフトが立て続けに行われる場合には、上述したように車速SPDとアクセル操作量ACCPとに基づく第1変速マップM1を参照して、今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えを判断するようにしている。一方、前回の変速ではアップシフトが行われ、今回の変速ではダウンシフトが行われる場合には、第1変速マップM1と第2変速マップM2との双方を参照して、今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えを判断するようにしている。すなわち、この場合には、第1変速マップM1での車速SPDとアクセル操作量ACCPとに基づくダウンシフトの条件に加え、第2変速マップM2での車速SPDと要求駆動力DPとに基づくダウンシフトの条件が共に満されることで、ダウンシフトに係る変速段の切り替えが許容されるようになる。
【0032】
ここで上述したように、第2変速マップM2におけるダウンシフトに係る各変速線は、対応するアップシフトに係る変速線を基準に、ヒステリシスを設けて設定されている。そのため、第2変速マップM2に基づきアップシフトがなされた直後に、たとえ第1変速マップM1に基づくダウンシフトの条件が成立したとしても、第2変速マップM2に基づくダウンシフトの条件は直ちには成立しないこととなり、上記のようなハッチングは回避されるようになる。
【0033】
また本実施の形態では、前回の変速からアップシフトが立て続けに行われる場合には、上述したように車速SPDと要求駆動力DPとに基づく第2変速マップM2を参照して、今回のアップシフトに係る変速段の切り替えを判断するようにしている。一方、前回の変速ではダウンシフトが行われ、今回の変速ではアップシフトが行われる場合には、第1変速マップM1と第2変速マップM2との双方を参照して、今回のアップシフトに係る変速段の切り替えを判断するようにしている。すなわち、この場合には、第2変速マップM2での車速SPDと要求駆動力DPとに基づくダウンシフトの条件に加え、第1変速マップM1での車速SPDとアクセル操作量ACCPとに基づくアップシフトの条件が共に満されることで、アップシフトに係る変速段の切り替えが許容されるようになる。
【0034】
ここで上述したように、第1変速マップM1におけるアップシフトに係る各変速線は、対応するダウンシフトに係る変速線を基準に、ヒステリシスを設けて設定されている。そのため、第1変速マップM1に基づきダウンシフトがなされた直後に、たとえ第2変速マップM2に基づくアップシフトの条件が成立したとしても、第1変速マップM1に基づくダウンシフトの条件は直ちには成立しないこととなり、この場合にも上記のようなハッチングは、やはり回避されるようになる。
【0035】
ちなみに本実施の形態では、今回のトリップにおいて最初に変速が行われるときには、前回の変速がアップシフトであったものとして、上記態様での変速段の切り替えの判断を行うようにしている。これは、各トリップの初回の変速では通常、1速から2速へのアップシフトが行われ、このアップシフトについては、上述のような変速動作のハンチングの考慮は不要であるためである。
【0036】
図4は、こうした本実施の形態における変速段の切り替えを判断するための変速判断ルーチンのフローチャートを示している。本ルーチンの処理は、車両の運転中、電子制御ユニット20によって周期的に実行されるようになっている。
【0037】
さて本ルーチンの処理が開始されると、電子制御ユニット20はまずステップS10において、前回の変速がアップシフトであったか、ダウンシフトであったかを確認する。
ここで前回の変速がアップシフトであったときには(S10:YES)、電子制御ユニット20はステップS20において、車速SPD及び要求駆動力DPにより規定された第2変速マップM2の変速線に基づくアップシフト判断の有無を確認する。ここで、第2変速マップM2の変速線に基づくアップシフト判断がなされているときには(S20:YES)、すなわち前回に引き続きアップシフトが行われる状況であるときには、電子制御ユニット20は、ステップS30において、有段自動変速機11のアップシフトを指令して、今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0038】
一方、第2変速マップM2の変速線に基づくアップシフト判断がなされていないときには(S20:NO)、電子制御ユニット20は、ステップS40において、車速SPD及びアクセル操作量ACCPにより規定された第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断の有無を確認する。ここで第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断がなされていなければ(S40:NO)、電子制御ユニット20は今回は変速段の切り替えを指令することなく、そのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0039】
また第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断がなされていれば(S40:YES)、電子制御ユニット20は、ステップS50において、車速SPD及び要求駆動力DPにより規定された第2変速マップM2の変速線に基づくダウンシフト判断の有無を確認する。そして電子制御ユニット20は、第2変速マップM2の変速線に基づくダウンシフト判断がなされていれば(S50:YES)、ステップS60において有段自動変速機11のダウンシフトを指令してから、そうでなければ(S50:NO)、今回においては変速段の切り替えは指令せずにそのまま、今回の本ルーチンの処理を終了する。すなわち、前回の変速がアップシフトであって、今回の変速ではダウンシフトが行われる状況では、第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断と、第2変速マップM2の変速線に基づくダウンシフト判断との双方がなされなければ、有段自動変速機11のダウンシフトは実施されないようになる。
【0040】
一方、前回の変速がダウンシフトであったときには(S10:NO)、電子制御ユニット20は、ステップS70において、車速SPD及びアクセル操作量ACCPにより規定された第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断の有無を確認する。ここで、第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断がなされているときには(S70:YES)、すなわち前回に引き続きダウンシフトが行われる状況であるときには、電子制御ユニット20は、ステップS80において、有段自動変速機11のダウンシフトを指令して、今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0041】
これに対して、第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断がなされていないときには(S70:NO)、電子制御ユニット20は、ステップS90において、車速SPD及び要求駆動力DPにより規定された第2変速マップM2の変速線に基づくアップシフト判断の有無を確認する。ここで第2変速マップM2の変速線に基づくアップシフト判断がなされていなければ(S90:NO)、電子制御ユニット20は今回は変速段の切り替えを指令することなく、そのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。
【0042】
また第2変速マップM2の変速線に基づくアップシフト判断がなされていれば(S90:YES)、電子制御ユニット20は、ステップS100において、車速SPD及びアクセル操作量ACCPにより規定された第1変速マップM1の変速線に基づくアップシフト判断の有無を確認する。そして電子制御ユニット20は、第1変速マップM1の変速線に基づくアップシフト判断がなされていれば(S100:YES)、ステップS110において有段自動変速機11のアップシフトを指令してから、そうでなければ(S100:NO)、今回においては変速段の切り替えは指令せずにそのまま、今回の本ルーチンの処理を終了する。すなわち、前回の変速がダウンシフトであって、今回の変速ではアップシフトが行われる状況では、第1変速マップM1の変速線に基づくアップシフト判断と、第2変速マップM2の変速線に基づくアップシフト判断との双方がなされなければ、有段自動変速機11のアップシフトは実施されないようになる。
【0043】
なお、こうした本実施の形態では、その第1変速マップM1が、車速とアクセル操作量又はスロットル開度とに基づき変速段の切り替えを判断する上記第1の変速判断手段に相当する構成となっている。また本実施の形態では、その第2変速マップM2が、車速と内燃機関の負荷又は車両の要求駆動力とに基づき変速段の切り替えを判断する上記第2の変速判断手段に相当する構成となっている。
【0044】
以上説明した本実施の形態の車載有段自動変速機の変速制御装置によれば、次の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、車速SPDとアクセル操作量ACCPとに基づき変速段の切り替えを判断するための第1変速マップM1と、車速SPDと車両の要求駆動力DPとに基づき変速段の切り替えを判断するための第2変速マップM2とを備えるようにしている。そして有段自動変速機11のダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断は第1変速マップM1を参照して行い、有段自動変速機11のアップシフトに係る変速段の切り替えの判断は第2変速マップM2を参照して行うようにしている。そのため、本実施の形態では、有段自動変速機11のダウンシフトについては、アクセル操作を基準とした、運転者の意図を反映した変速が行われ、有段自動変速機11のアップシフトについては、車両の要求駆動力DPを基準とした、燃費特性や排気特性等を重視した変速が行われるようになる。したがって、運転者の意図の反映と、燃費特性や排気特性などの内燃機関のハード的な要件の充足との両立を図ることができるようになる。
【0045】
(2)本実施の形態では、ダウンシフト用の第1変速マップM1にも、アップシフトに係る変速線を設定し、アップシフト用の第2変速マップM2にも、ダウンシフトに係る変速線を設定するようにしている。そして、前回の変速がダウンシフトであり、且つ今回の変速もダウンシフトであるときには、第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断により今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断を行うようにしている。また前回の変速がアップシフトであり、且つ今回の変速がダウンシフトであるときには、第1変速マップM1の変速線に基づくダウンシフト判断に加え、第2変速マップM2の変速線に基づくダウンシフト判断が共になされることで、今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えを判断するようにしている。一方、前回の変速がアップシフトであり、且つ今回の変速もアップシフトであるときには、第2変速マップM2の変速線に基づき今回のアップシフトに係る変速段の切り替えの判断を行うようにしている。また前回の変速がダウンシフトであり、且つ今回の変速がアップシフトであるときには、第2変速マップM2の変速線に基づくアップシフト判断に加え、第1変速マップM1の変速線に基づくアップシフト判断が共になされることで、今回のアップシフトに係る変速段の切り替えを判断するようにしている。そのため、それぞれ別のパラメータに基づいて有段自動変速機のアップシフトとダウンシフトとを行うがために発生する変速動作のハンチングを好適に回避することができるようになる。
【0046】
なお上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、その第2変速マップM2を車速SPDと車両の要求駆動力DPにより規定するようにしていたが、車速SPDと内燃機関10の負荷とにより第2変速マップM2を規定するようにすることもできる。この場合にも、車速SPDと内燃機関10の負荷とにより規定された第2変速マップM2の変速線に基づいて有段自動変速機11のアップシフト判断を行うことで、有段自動変速機11のアップシフトについては、燃費特性や排気特性などの内燃機関のハード的な要件の充足を重視した変速段の切り替えを行うことができる。なお内燃機関10の負荷は、吸入空気量の調量を通じて機関出力を調整するガソリン機関のような内燃機関の場合には吸入空気量やスロットル開度を、燃料噴射量の調量を通じて機関出力を調節するディーゼル機関のような内燃機関の場合には燃料噴射量を、その指標値として用いることができる。
【0047】
・上記実施の形態では、その第1変速マップM1を車速SPDとアクセル操作量ACCPとに基づき規定するようにしていた。もっとも、吸入空気量の調量を通じて機関出力の調整を行う内燃機関では、アクセル操作に連動してスロットル開度が変更され、アクセル操作量とスロットル開度とがほぼ一義的な関係にあるものがある。こうした内燃機関に接続される車載有段自動変速機に本発明を適用する場合には、車速SPDとスロットル開度とによって第1変速マップM1の変速線を規定するようにすることも可能である。この場合にも、車速SPDとスロットル開度とにより規定された第1変速マップM1の変速線に基づいて有段自動変速機11のダウンシフト判断を行うことで、有段自動変速機11のダウンシフトについては、運転者の意図を反映した変速を行うことができるようになる。
【0048】
・上記実施の形態では、ダウンシフト用の第1変速マップM1にもアップシフトに係る変速線を、アップシフト用の第2変速マップM2にもダウンシフトに係る変速線をそれぞれ設定するようにしていた。そして、そうした第1変速マップM1のアップシフトに係る変速線や第2変速マップM2のダウンシフトに係る変速線をそれぞれ、アップシフト及びダウンシフトに係る変速段の切り替えの補助的な判断を行うために使用することで、有段自動変速機11の変速動作のハンチングを回避するようにしていた。もっとも、そうしたハンチングをあえて回避する必要がない場合には、第1変速マップM1のアップシフトに係る変速線の設定や、第2変速マップM2のダウンシフトに係る変速線の設定を行わないようにしても良い。こうした場合には、有段自動変速機11のダウンシフト判断は常に第1変速マップM1のみを、アップシフト判断は常に第2変速マップM2のみを、それぞれ参照して行われるようになる。
【0049】
・第1変速マップM1及び第2変速マップM2の各変速線の設定は、図2及び図3に例示した態様に限らず、適用される車両の事情に応じて任意に変更することができる。
・上記実施の形態では、前進走行用に5つの変速段を備える有段自動変速機に本発明を適用した場合を説明したが、本発明は、変速段数に関係なく、任意の車載有段自動変速機に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る車載有段自動変速機の変速制御装置の一実施形態についてその全体構成を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態に採用される車速とアクセル操作量とに基づく第1変速マップの変速線の設定態様の一例を示すグラフ。
【図3】同実施形態に採用される車速と車両の要求駆動力とに基づく第2変速マップ変速線の設定態様の一例を示すグラフ。
【図4】同実施形態に採用される変速判断ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
【図5】従来の車載有段自動変速機の変速制御装置に採用される変速マップの一例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0051】
10…内燃機関、11…有段自動変速機、20…電子制御ユニット、21…車速センサ、22…アクセルセンサ、23…エアフローメータ、M1…(車速とアクセル操作量とに基づく)第1変速マップ、M2…(車速と車両の要求駆動力とに基づく)第2変速マップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載された有段自動変速機における変速段の切り替えを判断する車載有段自動変速機の変速制御装置であって、
車速とアクセル操作量又はスロットル開度とに基づき変速段の切り替えを判断する第1の変速判断手段と、
車速と内燃機関の負荷又は車両の要求駆動力とに基づき変速段の切り替えを判断する第2の変速判断手段と、
を備え、前記有段自動変速機のダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断は前記第1の変速判断手段により行い、前記有段自動変速機のアップシフトに係る変速段の切り替えの判断は前記第2の変速判断手段により行うこと
を特徴とする車載有段自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記第1の変速判断手段は、アップシフトに係る変速段の切り替えの補助的な判断を行い、前記第2の変速判断手段は、ダウンシフトに係る変速段の切り替えの補助的な判断を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の車載有段自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
前回の変速がダウンシフトであり、且つ今回の変速もダウンシフトであるときには、前記第1の変速判断手段により今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えの判断を行い、
前回の変速がアップシフトであり、且つ今回の変速がダウンシフトであるときには、前記第1の変速判断手段及び前記第2の変速判断手段の双方がダウンシフトに係る変速段の切り替えを認めることで、今回のダウンシフトに係る変速段の切り替えを判断する
ことを特徴とする請求項2に記載の車載有段自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前回の変速がアップシフトであり、且つ今回の変速もアップシフトであるときには、前記第2の変速判断手段により今回のアップシフトに係る変速段の切り替えの判断を行い、
前回の変速がダウンシフトであり、且つ今回の変速がアップシフトであるときには、前記第1の変速判断手段及び前記第2の変速判断手段の双方がアップシフトに係る変速段の切り替えを認めることで、今回のアップシフトに係る変速段の切り替えを判断する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車載有段自動変速機の変速制御装置。
【請求項5】
今回のトリップにおいて最初に変速が行われるときには、前回の変速がアップシフトであったものとして変速段の切り替えの判断を行う
請求項3又は4に記載の車載有段自動変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−103170(P2009−103170A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273797(P2007−273797)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】