説明

車載無線通信装置およびキャリアセンス方法

【課題】周辺の通信環境や状況の変化に応じて適切なキャリアセンスレベルを採用できる技術を提供する。
【解決手段】車載無線通信装置は、位置ごとのノイズフロアがあらかじめ格納されたノイズフロアマップに基づいて、現在位置におけるノイズフロアに応じてキャリアセンスレベルを設定するキャリアセンスレベル設定手段を備える。ノイズフロアマップは、通信チャネルにおける受信信号が所定時間の間一定であり、かつ、復調できない場合に、その受信信号の信号レベルを現在位置におけるノイズフロアである判断することで作成することができる。また、ノイズフロアマップは、通信チャネルとそれに隣接する周波数帯域の信号レベルが所定の期間一致しかつ変動がない場合に、その信号レベルをノイズフロアであると判断することで作成しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載無線通信装置におけるキャリアセンス技術に関し、特に、通信環境や状況に応じてキャリアセンスレベルを動的に変化させるキャリアセンス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両やドライバーへの情報提供や車両間の情報交換により、交通事故を低減する路車・車車間通信システムが提案されている。このような車車間通信のためのメディアアクセス制御方式の一つとして、CSMA(Carrier Sense Multiple Access:キャリアセンス多
元接続)方式がある。CSMA方式は、無線通信装置がパケット送信を開始する前に、通信路の状況を確認(キャリアセンス)し、通信路が空いていれば送信を開始する非同期型通信方式である。
【0003】
一般的に、通信路が空いているかどうかを判断するための着信電力のしきい値(キャリアセンスレベル)は固定値である。たとえば、送信機の送信電力、受信機の最低受信感度、電波伝搬損失、必要な通信範囲などを考慮して、一定なキャリアセンスレベルが設けられる。なお、通信エリアを限定するためにキャリアセンスレベルを変化させる技術も提案されている(特許文献2,3)。
【0004】
ところで、車車間通信のように通信環境が変化する通信においては、周辺のノイズレベルも変動する。ノイズレベルがキャリアセンスレベルよりも高くなると、無線通信装置は常に他の端末がパケットを送信している(通信路が使用中である)と誤検出し、自身がパケットを送信できなくなってしまう。したがって、周辺のノイズレベルに応じてキャリアセンスレベルを適切に設定することが求められる。
【0005】
特許文献1では、無線通信を始めるにあたって、送信機をOFFした状態、すなわち、キャリア無しの状態でアンテナに入力されるノイズ信号をサンプリングし、このようなサンプリングを繰り返す。そして、複数のサンプル値から最高ノイズレベルを検出し、これにノイズマージンを加えた結果をキャリアセンスレベルとして決定している。
【特許文献1】特開平9−46247号公報
【特許文献2】特開2004−62381号公報
【特許文献3】特開2003−179611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来技術の場合には、下記のような問題が生じていた。
【0007】
特許文献1の方法では、キャリア無しの状態でサンプリングしているが、車車間通信においては他の端末からの情報送信を停止しキャリア無しの状態を意図的に作り出すことが困難である。また、車車間通信では移動に伴って通信環境が動的に変化するが、特許文献1の方法では動的な変化に対応できない。動的に対応させようとすると、定期的に送信機をOFFしてサンプリングする必要があり非効率的である。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、無線通信装置の移動によって生じる通信環境や状況の変化に応じてキャリアセンスレベルを動的に切り替え可能なキャリアセンス技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明では、以下の手段または処理によって通信環境に応じてキャリアセンスレベルを動的に切り替える。
【0010】
本発明に係る車載無線通信装置は、通信チャネルにおける受信信号レベルをキャリアセンスレベルと比較し、当該チャネルが未使用であるかどうかを判断するキャリアセンス手段と、位置ごとのノイズフロアがあらかじめ格納されたノイズフロアマップに基づいて、現在位置におけるノイズフロアに応じたキャリアセンスレベルを設定するキャリアセンスレベル設定手段とを備える。
【0011】
このように各位置におけるノイズフロアを格納したノイズフロアマップを利用することで、現在の位置におけるノイズフロアを迅速に把握でき、それに応じたキャリアセンスレベルを設定することができる。ノイズフロアマップはあらかじめ測定によって作成しておく。各無線通信装置は、内部にノイズフロアマップを備えていても良いし、外部の通信装置からノイズフロアマップを受信しても良い。外部から受信する場合は、ノイズフロアマップの全ての情報を受信しても良いが、現在位置付近のデータのみを受信して利用しても構わない。
【0012】
ノイズフロアマップには、各位置を任意の大きさのエリアに分けて、エリアごとのノイズフロアを格納しておけばよい。なお、ノイズフロアのレベルは短期間には変動しないため、ノイズフロアマップには位置ごとのノイズフロアレベルを格納しておけばよい。ただし、長期的にはノイズフロアレベルも変動するため、位置ごと時間ごとのノイズフロアレベルを格納しても良い。たとえば、昼間と夜間とで異なるレベルを格納しておいても良いし、平日と週末とで異なるレベルを格納しても良い。
【0013】
以上では、ノイズフロアマップがあらかじめ作成されて、無線通信装置内部に格納されていたり、外部から取得したりすることを想定している。しかしながら、あらかじめ全ての場所についてノイズフロアを測定しデータベース化しておくことは困難である。そこで、本発明においては、以下のようにして車載無線通信装置が自らノイズフロアマップを作成しても良い。
【0014】
すなわち、本発明に係る車載無線通信装置は、通信チャネルにおける受信信号が所定時間の間一定であり、かつ、復調できない場合に、その受信信号の信号レベルを現在位置におけるノイズフロアであるとしてノイズフロアマップを作成するノイズフロアマップ作成手段をさらに備えることが好ましい。なお、ノイズのレベルはほぼ一定とみなせるがわずかに変動を伴うので、その幅以内の変動であれば一定であるとみなす。
【0015】
このように所定時間の間復調できず信号レベルが一定の場合には、その信号レベルがノイズフロアレベルであると判断できる。車両での走行距離が長くなるにつれ、自ら作成したノイズフロアマップのデータ量を増やすことができる。また、同じ道を走行する回数が増えるにつれて、その道におけるノイズフロアマップの精度を向上させることができる。特に、頻繁に走行する道路におけるデータ量が増えるため、自ら作成したノイズフロアマップを利用できる機会も増える。
【0016】
本発明に係る車載無線通信装置は、また別の方法によってノイズフロアマップを自ら作成しても良い。すなわち、本発明に係る車載無線通信装置は、通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域の受信信号レベルとを検出し、通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域における受信信号レベルとが所定時間の間一致し、かつ、変動がない場合に、この受信信号レベルが現在位置におけるノイズフロアであるとしてノイズフロアマップを作成するノイズフロアマップ作成手段をさらに備えてもよい。
【0017】
通信チャネルで通信が行われている場合は、通信チャネルにおける受信信号レベルはその他の周波数帯域での信号レベルと比較して大きくなる。逆に、通信チャネルで通信が行われていない場合には、全てのチャネルから同じ程度のレベルのノイズが検出される。したがって、上記のように、通信チャネルとそれとは異なる周波数帯域の受信信号レベルに着目して、ノイズフロアレベルを検出することができる。
【0018】
なお、上記の「通信チャネルとは異なる周波数帯域」は、通信チャネルに隣接する周波数帯域であることが好ましい。無線通信装置においては、フィルタ処理により通信チャネルの信号を取り出すが、通信チャネルに隣接する周波数帯域の信号であれば比較的容易に取り出すことができる。
【0019】
上記のノイズフロアマップ作成手段においては、受信信号レベルが所定の時間一定であることをノイズであると判断する条件としている。ここで、信号レベルが一定であると判断するために所定の幅を設けているが、それでもノイズレベルの変動が大きくて、一定であるとみなせる以上のレベルとなることもある。上記の手法によってノイズフロアレベルを決定すると、このような場合にノイズレベルを正しく判断することができない。
【0020】
そこで、本発明におけるノイズフロアマップ作成手段は、通信チャネルにおける受信信号レベルが上昇する場合であっても、上昇の頻度が所定の閾値よりも高い場合には、上昇後の受信信号レベルをノイズであると判断することが好ましい。
【0021】
このように頻繁に上昇する信号レベルは、ノイズであるとみなすことができる。ここで、閾値は、現在位置における車載無線通信装置の普及割合と、現在位置における車両の通行量とに基づいて決定することが好ましい。普及割合と通行量とから、単位時間あたりに出会う無線通信装置を搭載した車両の量、すなわち、通信が発生する頻度を見積もることができる。そこで、このようにして求められる通信が発生する頻度を閾値として、それよりも頻繁に信号レベルが上昇する場合には、その信号レベルをノイズフロアであると判断できる。
【0022】
また、本発明において作成したノイズフロアマップは、自車両のみで利用せずに、通信によって他車両に通知することが好ましい。たとえば、自車両で作成したノイズフロアマップをサーバー装置に送信する。サーバー装置では、各車両から集計したノイズフロアマップを集計した上で、各車両に送信することが好ましい。あるいは、サーバー装置を介さずに、車両間で直接ノイズフロアマップを交換することも好ましい。なお、サーバー装置から各車両にノイズフロアマップを送信する場合や、車両間でノイズフロアマップを交換する場合に、全ての位置におけるノイズフロアの情報を通知する必要はなく、その位置近辺における情報のみを通知して通信量を削減することが好ましい。
【0023】
なお、通信チャネルの受信信号レベルと、通信チャネルとは異なる周波数帯域での受信信号レベルを比較してノイズフロアレベルを決定する手法は、比較的迅速で精度の良い方法である。したがって、この手法を採用する場合、ノイズフロアマップとして蓄積することなく、決定されたノイズフロアレベルに応じてキャリアセンスレベルを設定することも好ましい。
【0024】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する車載無線通信装置として捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含むキャリアセンス方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、通信環境や状況の変化に応じてキャリアセンスレベルを動的に切り替えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
〈システム概要〉
まず、本実施形態に係る車車間無線通信システムの概要を、図2を参照して説明する。本システムは、交差点における出会い頭衝突を防止するための車車間通信システムである。交差点20に接近する車両21,22はそれぞれ無線通信により自身が接近していることを周囲に通知する。他車両の接近を検出した車両21,22は、運転者に対して警告を発したり、車両の自動制御を行ったりする。
【0028】
交差点における出会い頭衝突を防止するためには、車両21,22間で障害物(建物)23ごしの見通し外通信が必要となる。見通し外通信では電波の減衰が大きくなるため、低い着信電力でも通信できるような工夫が必要である。これは最低受信電力の性能向上によって実現可能である。このような低い着信電力での通信が可能になるとノイズによる影響が大きくなる。
【0029】
本実施形態に係る車車間無線通信システムは、メディアアクセス制御方式としてCSMA方式を用いる。CSMA方式では、通信チャネルにおいて他の端末による通信が実行中であると判断されると、その通信が終了するまで自端末からの送信を待機する。したがって、通信チャネルが利用中であると判断するための閾値であるキャリアセンスレベルの設定が重要となる。
【0030】
通信チャネルにおける受信信号強度の変化を図3Aに示す。通信チャネルが未使用な場合も一定のレベルのノイズが存在する。このような状況で正しくキャリアセンスするためには、キャリアセンスレベルをノイズフロアレベル30よりも高く設定する必要がある。図3Aに示す状況でキャリアセンスレベルをノイズフロアレベル30よりも高いレベル31に設定した場合のキャリアセンス結果を図3Bに示す。この場合は、実際に通信が行われている期間を正しく検知することができる。一方、図3Aに示す状況でキャリアセンスレベルをノイズフロアレベル30よりも低いレベル32に設定した場合のキャリアセンス結果を図3Cに示す。この場合は、ノイズをパケットと間違って検出し、通信チャネルが利用中であると誤検出してしまうため、自端末からの送信が行えなくなってしまう。
【0031】
そこで、本実施形態においては、各車両において周辺の通信環境や状況の変化に応じて、適切なキャリアセンスレベルを動的に切り替えられる構成を採用する。
【0032】
〈無線通信装置の構成〉
図1は、本実施形態において車両に搭載される車載無線通信装置の構成を示すブロック図である。図1において、1はアンテナ、2は送信RF部、3は変調部、4は受信RF部、5は復調部、6は受信信号レベル検出部、7はノイズフロアマップ作成部、8はノイズフロアマップ、9はキャリアセンスレベル設定部、10はキャリアセンス部、11はGPS装置である。
【0033】
アンテナ1から入射した受信信号は、受信RF部4によってベースバンド信号に周波数変換される。受信RF部4はLNA、ミキサ、フィルタなどから構成されており、スーパーへテロダイン方式またはダイレクトコンバージョン方式の受信回路で構成されている。
受信RF部から出力されるベースバンド信号は、復調部5、受信信号レベル検出部6、キャリアセンス部10に入力される。
【0034】
受信信号レベル検出部6は、受信信号の受信電界レベルを検出する。ここでは、受信信号レベル検出部6は、RSSI回路(Received Signal Strength Indicator)で構成されている。
【0035】
ノイズフロアマップ作成部7は、受信信号レベル検出部6から得られる受信信号レベルと、復調部5の復調結果に基づいて、現在の受信信号がノイズであるか否か判定し、ノイズフロアマップ8を作成(更新)する。ノイズフロアマップ作成部7の処理詳細については後ほど詳しく説明する。
【0036】
ノイズフロアマップ8には、エリアごとのノイズフロアフロアレベルが格納されている。ノイズフロアマップ8にはノイズフロアマップ作成部7から得られるデータだけではなく、無線通信装置の製造時に組み入れられたデータや、外部の通信装置から受信したデータも含まれている。ノイズフロアマップ8におけるエリアの大きさは適宜設定すれば良く、ここでは、100メートル四方の領域を一つのエリアとしている。また、ノイズフロアレベルは短期的にはほぼ一定とみなすことができるが、より長い時間で見ると規則性を持って変動する。ここでは、一日(24時間)を日中(午前7時〜午後7時)と夜間(午後7時〜午前7時)に2分して、それぞれの時間帯についてノイズフロアレベルを格納する。なお、時間帯をより細かく分けても良く、また、平日と週末のようにより長い周期に着目して分類しても構わない。
【0037】
キャリアセンスレベル設定部9は、GPS装置11から得られる現在位置と、ノイズフロアマップ8から得られる現在位置でのノイズフロアレベルに応じて、キャリアセンスレベルを設定する。キャリアセンスレベルは、現在位置におけるノイズフロアレベルに所定のマージンを加えた値とすればよい。
【0038】
キャリアセンス部10は、キャリアセンスレベル設定部9によって設定されたキャリアセンスレベルと、受信信号レベル検出部6から得られる受信信号レベルとを比較して、キャリアの有無を判断する。受信に関しては、キャリアがあると判定される場合に受信処理を実施する。一方、送信に関しては、キャリアがないと判定された場合に送信を行い、キャリアがある場合にはキャリアが無くなるまで送信を待つ。
【0039】
このような構成を採用すると、各位置におけるノイズフロアレベルがノイズフロアマップ8に格納されているため、迅速にその位置におけるノイズフロアレベルに応じたキャリアセンスレベルを設定することが可能となる。ここで、ノイズフロアマップ8は、あらかじめ調査用の車両に搭載されたスペクトルアナライザーを利用して、さまざまな場所で広帯域の信号を掃引することで作成することができる。このように測定によって作成されたノイズフロアマップを車載無線通信装置にあらかじめ保存しておけば、位置に応じた適切なキャリアセンスレベルの設定ができる。
【0040】
なお、あらかじめ作成されたノイズフロアマップが完全なものであれば、車載無線通信装置内にノイズフロアマップ作成部7を設ける必要はない。ただし、あらかじめ全ての位置におけるノイズフロアレベルを測定しデータ化することは現実的ではない。また、各位置におけるノイズフロアレベルが時間の経過とともに変化することも考えられるので、データの更新も必要となる。そこで、あらかじめ作成されたノイズフロアマップ8に含まれないデータを収集するため、および最新のデータを収集するために、ノイズフロアマップ作成部7を設けている。そして走行中に各位置でのノイズフロア情報を収集・蓄積し、次に同じ位置を走行する際にその情報を利用してキャリアセンスレベルを適切に設定するこ
とができる。
【0041】
〈ノイズフロアマップ作成処理〉
以下、ノイズフロアマップ作成部7が行うノイズフロアマップ作成処理について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0042】
まず、アンテナ1から電波を受信(S10)すると、その時の時間帯および位置情報を記憶する(S11)。位置情報はGPS装置11から得られる。時間情報もGPS装置11から取得しても良いし、別のクロックから取得しても構わない。そして、この受信信号に対する復調結果を復調部5から得て、受信信号を復調可能であったか判断する(S12)。復調可能である場合(S12−YES)は、受信信号はノイズではないので処理を終了する。一方、受信信号を復調不可能である場合(S12−NO)は、その後所定の期間継続して、受信信号レベルおよび復調可否を取得する(S13)。なお、ここでは所定期間としているが、所定の距離走行する間としても構わない。そして、この期間の間、受信信号レベルがほぼ一定であり、かつ、復調ができなかったか判断する(S14)。この条件に当てはまる場合(S14−YES)は、その受信信号レベルがノイズフロアレベルであると判断できるため、この受信信号レベルとステップS11で記憶した時間帯および位置でのノイズフロアレベルとして、ノイズフロアマップ8に格納する。一方、ステップS14の条件を満たさない場合(S14−NO)は、ノイズフロアマップ8を更新せず終了する。
【0043】
このように走行しつつ各位置におけるノイズフロアレベルをノイズフロアマップ8に格納していくことで、同じ場所を次回走行する際にノイズフロアマップ8を参照して適切なキャリアセンスレベルを設定することができる。そして、走行距離が長くなるにつれて、自車のノイズフロアマップ8を充実でき、精度も高めることができる。
【0044】
なお、ステップS14の処理では、受信信号レベルがほぼ一定であることを条件としているが、ノイズの強度もある程度変動する。たとえば、図5に示すノイズの強度の例では、信号レベルは基本的にレベル51程度となるが、低い頻度でレベル52程度となる。上記のステップS14による判断では、ノイズフロアレベルはレベル51として決定されるが、ここではノイズフロアレベルはレベル52として決定すべきである。
【0045】
そこで、ステップS14における判定を、次のように発生頻度に基づいた判定に変更しても良い。まず、ここではその位置における車載無線通信装置の普及割合(車載無線通信装置が搭載されている車両の割合)と、車両の通行量が把握できることを前提とする。普及割合と通行量と各無線通信装置が通信を行う頻度に基づいて、単位時間あたりに通信を検出する確率(頻度)が判断できる。たとえば、普及割合が10%であり、通信エリア内に平均して2台の車両が存在する程度の通行量であり、各無線通信装置が100ミリ秒ごとに1回、1パケットのデータを通信する場合、自端末が他の端末からの通信を受信する頻度は1秒あたり2回であると判断できる。このようにして判断される頻度よりも高い頻度で受信信号レベルが上昇する場合は、その信号もノイズであると判断できる。たとえば、図5の例では、受信信号レベルがレベル51からレベル52の間を取る頻度が予想頻度よりも高い場合には、ノイズフロアレベルをレベル52と判断することができる。
【0046】
なお、自車両で作成したノイズフロアマップ8は自車両でのみ利用しても良いが、他の車両と情報を共有することも好ましい。たとえば、図6Aに示すように、各車両で作成したノイズフロアマップ8をサーバー装置61に通知する。サーバー装置61では、各車両から送信されるデータを集計してノイズフロアマップを作成する。そして、作成したノイズフロアマップを各車両に配信する。このようにすれば、各車両で作成したノイズフロアマップを多くの車両で共有することができより有効となる。なお、サーバー装置61から
送信するデータは、サーバー装置61で作成したノイズフロアマップについての全ての情報とする必要はなく、配信位置近辺のデータのみを配信すればよい。
【0047】
また、図6Bに示すように、車車間通信によってノイズフロア情報を交換しても構わない。この場合も、各車両が作成したノイズフロアマップ情報全てを送信しなくても良く、走行位置近辺の情報だけを送信しても構わない。
【0048】
〈実施形態の作用・効果〉
本実施形態における車載無線通信装置では、各位置におけるノイズフロアレベルがノイズフロアマップとして格納されているので、走行位置におけるノイズフロアレベルを参照してそれに応じてキャリアセンスレベルを動的に設定することで、周辺状況に応じた適切なキャリアセンスを実行することができる。
【0049】
また、各車両が走行中にノイズフロアレベルを検出して記憶していくので、あらかじめ作成されたノイズフロアマップが不十分なものであったり、あるいは、装置内にノイズフロアマップがない場合であったりしても、ノイズフロアマップを構築することができる。また、既存のノイズフロアマップの含まれるデータが古いものとなった場合にも、適切に更新が行える。
【0050】
また、各車両はスペクトルアナライザーなどの高価な装置を利用せずに既存の無線通信装置を利用してノイズフロアを検出しているので、大きなコスト上昇を招くことなく本技術を採用することができる。
【0051】
さらに、直接あるいはサーバー装置を介して車両間でノイズフロア情報を交換しているので、自車両が走行していない道路に関する情報も取得することができ、初めて走行する場所についても適切にキャリアセンスレベルを設定することができる。
【0052】
(第2の実施形態)
本実施形態は基本的に第1の実施形態と同じであるが、ノイズフロアマップ作成部7が行うノイズフロアレベルの決定処理が異なる。以下、第1の実施形態と異なる点について主に説明する。
【0053】
本実施形態におけるノイズフロアマップ作成部7は、通信チャネルとは異なる周波数帯域での受信信号レベルを検出して、通信チャネルでの受信信号レベルと比較することでノイズフロアレベルを検出する。
【0054】
図7に通信チャネル近傍での受信電力強度を示す。図7Aは通信チャネルで通信が行われている場合の受信電力強度を示し、図7Bは通信チャネルで通信が行われていない場合の受信電力強度を示す。図7A,Bにおいて、通信チャネル71は、周波数範囲f1〜f2を利用している。通信中には、この通信チャネル71内での受信電力強度が大きくなり、それ以外の周波数帯域では受信電力強度は小さい。たとえば、通信チャネル71に隣接する周波数帯域である隣接周波数帯域72、73は、通信チャネル71が通信中であっても受信電力強度は小さいままである。一方、通信チャネル71で通信が行われていない場合は、通信チャネル71、隣接周波数帯域72、73のいずれでもノイズのみを受信していることになる。
【0055】
そこで、本実施形態におけるノイズフロアマップ作成部7は、図8に示すような処理によってノイズフロアレベルの検出を行いノイズフロアマップ8の作成(更新)を行う。
【0056】
まず、通信チャネル71における受信信号レベルを検出する(S20)。この通信チャ
ネル71における受信信号レベルをP1とする。次に、隣接周波数帯域72、73のいずれか一方または両方における受信信号レベルを検出する(S21)。この隣接周波数帯域における受信信号レベルをP2とする。そして、通信チャネルにおける受信信号レベルP1と隣接周波数帯域における受信信号レベルP2が一定時間継続して同じであり、かつ、変動がないか判断する(S22)。両者の受信信号レベルが一定時間継続して同じである場合(S22−YES)は、ノイズを受信していると判断できる。そこで、この受信信号レベルを現在位置におけるノイズフロアとして記憶する。一方、両者の受信信号レベルが一定時間継続して同じではない場合(S22−NO)は、受信信号はノイズではないと判断できるので、何も行わず処理を終了する。
【0057】
このようにしても走行位置におけるノイズフロアレベルを検知することができる。したがって、検知結果をノイズフロアマップ8に蓄積することで、次に同じ道路を走行する際にノイズフロアマップ8を参照してキャリアセンスレベルを適切に設定することが可能である。
【0058】
なお、本実施形態では通信チャネルに隣接する周波数帯域での受信信号レベルを、通信チャネルでの受信信号レベルと比較しているのは次の理由による。受信RF部4からは通信チャネルの信号が出力されるが、この信号には通信チャネル近傍の周波数帯域の信号が含まれる場合がある。その場合は、受信RF部4から出力される信号を受信信号レベル検出部6がそのまま利用することで、通信チャネルと隣接周波数帯域での受信信号レベルを取得できる。また、受信RF部4が通信チャネル内の信号のみを出力する場合は、最終的なフィルタ処理を施す前の信号を受信信号レベル検出部6が利用することで、通信チャネルと隣接周波数帯域での受信信号レベルを取得することができる。つまり、既存の無線通信装置に大幅な変更を加えずに本手法が実施可能である。
【0059】
なお、通信チャネルの信号と比較する信号の周波数帯域は、通信チャネルと隣接するものでなくても構わない。たとえば、無線通信装置が複数のチャネルに対応した方式であれば、各チャネルでの受信信号レベルを比較しても構わない。
【0060】
本実施形態によって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
(第3の実施形態)
上記の第2の実施形態によるノイズフロアレベルの検出は、比較的迅速に行うことができる。したがって、検出結果をノイズフロアマップとして格納して次回走行時にそのデータを使う方式だけでなく、キャリアセンスレベルをリアルタイムに設定することも可能である。そこで、本実施形態では、ノイズフロアマップとしてノイズフロア情報を蓄積することなく、リアルタイムにキャリアセンスレベルを調節する車載無線通信装置を採用する。
【0062】
図9に本実施形態に係る車載無線通信装置の構成を示す。本実施形態は第1,2の実施形態と比べて、ノイズフロアマップ作成部7およびノイズフロアマップ8がなく、新たにノイズフロア検出部12が設けられており、この検出結果に基づいてキャリアセンスレベル設定部9がキャリアセンスレベルを設定する点が異なる。なお、ノイズフロア検出部12によるノイズフロア検出処理は、第2の実施形態(図8)と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0063】
本実施形態によっても、周辺の通信状況に応じてキャリアセンスレベルを適切に設定することが可能である。
【0064】
なお、本実施形態によるリアルタイムにキャリアセンスレベルを設定する手法と、第1
,2の実施形態によるノイズフロアマップに情報を蓄積する手法を組み合わせて利用することも好ましい。
【0065】
(その他)
上記の説明では、ノイズフロアマップに各位置におけるノイズフロアレベルを格納しているが、各位置において設定すべきキャリアセンスレベルを格納しても構わない。特に、設定すべきマージンが一定でよい場合は、このような方法によっても同等の効果を得ることができる。
【0066】
また、出会い頭衝突防止の車車間通信システム(図2)を例に説明したが、上記実施形態に係る通信システムは、それ以外の車車間通信システムに適用できることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】第1,2の実施形態における車載無線通信装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態における車車間通信システムの概要を示す図である。
【図3】受信信号におけるノイズレベルとキャリアセンスレベルの関係を示す図であり、図3Aは受信信号レベルの時間変化を示す図、図3Bはキャリアセンスレベルをノイズレベル以上とした場合のキャリアセンス結果を示す図、図3Cはキャリアセンスレベルをノイズレベル以下とした場合のキャリアセンス結果を示す図である。
【図4】第1の実施形態におけるノイズフロアマップ作成処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】ノイズレベルの変動を示す図である。
【図6】車両間でノイズフロア情報を交換する構成を示す図であり、図6Aは路側機(サーバー装置)経由で情報交換をする場合を示す図、図6Bは車両間で直接情報交換する場合を示す図である。
【図7】通信チャネル近傍での受信電力強度を示す図であり、図7Aは通信チャネルが使用中の受信電力強度を示す図、図7Bは通信チャネルが未使用の場合の受信電力強度を示す図である。
【図8】第2の実施形態におけるノイズフロアマップ作成処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】第3の実施形態における車載無線通信装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 アンテナ
2 送信RF部
3 変調部
4 受信RF部
5 復調部
6 受信信号レベル検出部
7 ノイズフロアマップ作成部
8 ノイズフロアマップ
9 キャリアセンスレベル設定部
10 キャリアセンス部
11 GPS装置
12 ノイズフロアレベル検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信チャネルにおける受信信号レベルをキャリアセンスレベルと比較し、当該通信チャネルが未使用かどうかを判断するキャリアセンス手段と、
位置ごとのノイズフロアがあらかじめ格納されたノイズフロアマップに基づいて、現在位置におけるノイズフロアに応じて前記キャリアセンスレベルを設定するキャリアセンスレベル設定手段と、
を備えることを特徴とする車載無線通信装置。
【請求項2】
通信チャネルにおける受信信号が所定時間の間一定であり、かつ、復調できない場合に、当該受信信号の信号レベルを現在位置におけるノイズフロアであるとしてノイズフロアマップを作成するノイズフロアマップ作成手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の車載無線通信装置。
【請求項3】
通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域の受信信号レベルとを検出し、通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域における受信信号レベルとが所定時間の間一致し、かつ、変動がない場合に、当該受信信号レベルが現在位置におけるノイズフロアであるとしてノイズフロアマップを作成するノイズフロアマップ作成手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の車載無線通信装置。
【請求項4】
前記通信チャネルとは異なる周波数帯域は、前記通信チャネルに隣接する周波数帯域である
ことを特徴とする請求項3に記載の車載無線通信装置。
【請求項5】
前記ノイズフロアマップ作成手段は、通信チャネルにおける受信信号レベルが上昇する場合であっても、上昇の頻度が所定の閾値よりも高い場合には、上昇後の受信信号レベルをノイズであると判断する
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の車載無線通信装置。
【請求項6】
前記所定の閾値は、現在位置における車載無線通信装置の普及割合と、現在位置における車両の通行量とに基づいて決定される
ことを特徴とする請求項5に記載の車載無線通信装置。
【請求項7】
前記ノイズフロアマップ作成手段によって作成したノイズフロアマップを、サーバー装置に送信する送信手段と、
前記サーバー装置が集計したノイズフロアマップを受信する受信手段と、
を備えることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の車載無線通信装置。
【請求項8】
前記ノイズフロアマップ作成手段によって作成したノイズフロアマップを、周囲の車両に送信する送信手段と、
周囲の車両から送信されるノイズフロアマップを受信する受信手段と、
を備えることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の車載無線通信装置。
【請求項9】
通信チャネルにおける受信信号レベルをキャリアセンスレベルと比較し、当該通信チャネルが未使用かどうかを判断するキャリアセンス手段と、
通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域の受信信号レベルとを検出し、通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域における受信信号レベルとが所定時間の間一致し、かつ、変動がない場合に、当該受信信号レベルが現在位置におけるノイズフロアであるとして、当該ノイズフロ
アよりも大きい信号レベルをキャリアセンスレベルとして設定するキャリアセンスレベル設定手段と、
を備えることを特徴とする車載無線通信装置。
【請求項10】
車載無線通信装置におけるキャリアセンス方法であって、
位置ごとのノイズフロアがあらかじめ格納されたノイズフロアマップに基づいて、現在位置におけるノイズフロアに応じてキャリアセンスレベルを設定するキャリアセンスレベル設定工程と、
通信チャネルにおける受信信号レベルを前記キャリアセンスレベルと比較し、当該通信チャネルが未使用かどうか判断するキャリアセンス工程と、
を含むことを特徴とするキャリアセンス方法。
【請求項11】
通信チャネルにおける受信信号が所定時間の間一定であり、かつ、復調できない場合に、当該受信信号の信号レベルを現在位置におけるノイズフロアであるとしてノイズフロアマップを作成するノイズフロアマップ作成工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載のキャリアセンス方法。
【請求項12】
通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域の受信信号レベルとを検出し、通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域における受信信号レベルとが所定時間の間一致し、かつ、変動がない場合に、当該受信信号レベルが現在位置におけるノイズフロアであるとしてノイズフロアマップを作成するノイズフロアマップ作成工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載のキャリアセンス方法。
【請求項13】
前記通信チャネルとは異なる周波数帯域は、前記通信チャネルに隣接する周波数帯域である
ことを特徴とする請求項12に記載のキャリアセンス方法。
【請求項14】
前記ノイズフロアマップ作成工程では、通信チャネルにおける受信信号レベルが上昇する場合であっても、上昇の頻度が所定の閾値よりも高い場合には、上昇後の受信信号レベルをノイズであると判断する
ことを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載のキャリアセンス方法。
【請求項15】
前記所定の閾値は、現在位置における車載無線通信装置の普及割合と、現在位置における車両の通行量とに基づいて決定される
ことを特徴とする請求項14に記載のキャリアセンス方法。
【請求項16】
前記ノイズフロアマップ作成工程において作成したノイズフロアマップを、サーバー装置に送信する送信工程と、
前記サーバー装置が集計したノイズフロアマップを受信する受信工程と、
を含むことを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載のキャリアセンス方法。
【請求項17】
前記ノイズフロアマップ作成工程において作成したノイズフロアマップを、周囲の車両に送信する送信工程と、
周囲の車両から送信されるノイズフロアマップを受信する受信工程と、
を含むことを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載のキャリアセンス方法。
【請求項18】
車載無線通信装置におけるキャリアセンス方法であって、
通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異なる周波数帯域の受信信号レベルとを検出し、通信チャネルにおける受信信号レベルと当該通信チャネルとは異
なる周波数帯域における受信信号レベルとが所定時間の間一致し、かつ、変動がない場合に、当該受信信号レベルが現在位置におけるノイズフロアであるとして、当該ノイズフロアよりも大きい信号レベルをキャリアセンスレベルとして設定するキャリアセンスレベル設定工程と、
通信チャネルにおける受信信号レベルをキャリアセンスレベルと比較し、当該通信チャネルが未使用かどうかを判断するキャリアセンス工程と、
を含むことを特徴とするキャリアセンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−154183(P2010−154183A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329641(P2008−329641)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】