説明

車載用液晶表示装置

【課題】車載用液晶表示装置において、フロントガラスへの映り込み防止、及び偏光眼鏡を装着して観察する場合に表示の暗化を抑制する光学素子ないしはタッチパネルを提供する。
【解決手段】液晶パネル10への光学素子ないしはタッチパネル11の配置は、表示面側から、第一の偏光板110、第一の位相差フィルム111、タッチパネル電極部112、Cプレート113、1軸性の傾斜フィルム(第二の位相差フィルム)114、液晶パネル10の光出射面に貼合された第二の偏光板100の構成とする。偏光板110の透過軸110jの方向は、垂直方向から反時計回りに10°回転させ、第一の位相差フィルム111の遅相軸111kは、第一の偏光板110の透過軸110jに対して反時計回りに45°、傾斜フィルム114の面内遅相軸114kは、第二の偏光板100(透過軸は第一の偏光板に平行)の透過軸100jに対して反時計回りに135°の配置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置や乗り物用計器盤に取り付けられ、外光の反射による視認性の低下を防止するタッチパネルに利用可能で、表示画面がフロントガラスへ映り込むのを防止するおよび偏光眼鏡を装着して観察する場合に表示画面の暗化を起こり難くして視認性の低下を抑制した車載用液晶表示装置ないしは光学素子ないしはタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、液晶パネルを背面から照明している。
液晶パネルの表示面からの出射光には拡散光が含まれ、液晶表示装置からドライバー以外の方向にも光が拡散される。特に、車載用液晶表示装置では、フロントガラス方向へ拡散した光は、フロントガラスで反射しドライバーの視認性を低下させるため安全上大きな問題となる。
このような問題点から、表示面からの光を所定方向に制御するライトコントロールフィルム(以降、LCFと略す)が用いられる。このLCFは、微小なルーバー構造を有するフィルムで、特定方向の光の透過を抑制できる。これにより、液晶表示画面のフロントガラスへの映り込みを防止している。LCFの製造方法として、特開昭47−43845号公報には、透明プラスチックと不透明プラスチックが交互に積層されたビレットをスカイビングすることによって、LCFを製造する方法が開示されている。また、特表2004−514167号公報には、紫外線硬化性の透明材料を用いて形成される溝を有する光透過フィルムを作製し、このフィルムの溝に光吸収性樹脂を充填することによってLCFを製造する方法が開示されている。このような製造方法でも特定方向の光の透過を抑制するフィルムの作製は可能であるが、その製造工程が非常に煩雑であることが問題である。
また、このように作製されたLCFは、ルーバー構造を有することから正面から観察した場合、透明領域と光吸収領域が縞状になっている。このようなLCFを液晶表示装置の前面に配置すると、液晶パネルの画素配列との間でモアレ(明暗の縞)を生じてしまうことがある。このモアレの発生は、表示品位を損ない問題となる。
液晶表示画面のフロントガラスへの映り込みを防止する他の手法として、特開平1−302383号公報、特開2002−182196号公報には、表示画面からフロントガラスに向かう光がP偏光となるように偏光方向を設定することにより光の反射を防ぎ、フロントガラスへの映り込みを防止する方法が提案されている。
しかしながら、液晶パネルの位置を動かしたり、ドライバー姿勢、着座位置によって目の位置が変化すると、フロントガラスへ映り込む位置と液晶パネルからの出射方向の関係がフロントガラスへ向かう光がP偏光となる条件から外れてしまう。この場合、P偏光以外の光がフロントガラスで反射してしまい、表示の映り込みが生じてしまうことが問題となる。
【0003】
更に、このような表示画面からフロントガラスに向かう光がP偏光となるように偏光方向の具体的な記載について、特開平1−302383号公報には、カーナビゲーションのような車両のインストルメント・パネル中央に液晶表示装置が配置される場合、(右ハンドル車両において)液晶表示装置の表示面から出る光の偏光方向を上下方向に対して時計回りに20°回転させて設置するとの記載がある。特開2002−182196号公には、タッチパネル表面側の偏光板の透過軸を鉛直方向から時計回りに60°〜75°回転させて設置するとの記載がある。これら従来技術で記載された偏光板の設置角度では十分にフロントガラスへの映り込みを防止できないことを確認した。
また、液晶表示装置では後述のような問題も有している。
液晶表示装置は、一般的に2枚の透明基板間に液晶組成物を封入した液晶セルと、その液晶セルの表裏面に一組の偏光板を配置した構造を有している。この液晶表示装置では、透明基板の内面に設けられた透明電極で液晶に電圧を加えるとの向き(配列)が変化し、この配列変化を利用して背面光源装置からの光の透過/遮光を制御して表示を行なう。このような液晶表示装置は、液晶組成物分子の配列方式によって様々に分類され、いずれの配列方式の液晶表装置であっても液晶セルと一組の偏光板が用いられている。したがって、このような液晶表示装置では、観察者は液晶セル表面に配置された偏光板を透過した直線偏光性の光を観察している。
自動車用計器盤、カーナビゲーション装置などの車載用液晶表示装置では外光の強い場所で利用する機会が多く、観察者が偏光眼鏡を使用して液晶表示装置を観察する場面も少なくない。現状、車載用液晶表示装置では、信頼性、温度特性、開口率などの面で優れるTN型液晶表示装置が最も多くに用いられており、一般的に、表示面側偏光板の透過軸は、水平方向に対して45°または135°に設定されているものが多い。観察者が偏光眼鏡を使用して液晶表示装置を観察した場合、首を−45°または45°傾げると偏光眼鏡の吸収軸と液晶表示装置からの光の偏光軸が一致し表示が暗くなり、著しく視認性が低下してしまうという問題点がある。
このような問題点に対して、特開平10−10522号では、液晶表示面に偏光解消手段を設けることが提案されている。この公報では、2枚の水晶版を組み合わせてなる偏光解消板が偏光解消手段として用いることが提案されている。しかしながら、このような2枚の水晶板を組み合わせた偏光解消手段で液晶表示装置画面全体を覆うことは実用的でない。また、特開平10−10523号には、液晶表示面に出射する表示光を直線偏光から円偏光あるいは楕円偏光に変更する1/4波長板のような複屈折板を設けることが提案されている。しかしながら、この方法でも別途複屈折板を設置する必要があるため、製造上煩雑となり製造コストが高くなる。また、偏光眼鏡を掛けて観察する場合、首を傾げる左右の方向により、画像の色調が大きくずれてしまうことも問題となる。
【0004】
また、液晶表示装置にタッチパネルを装着する場合には、ガラスや電極部での内部反射光により表示のコントラストが低下する。このような内部反射光によるコントラストの低下を抑制する手法が特許公報3854392号に提案され実用化されている。この手法では、偏光板と位相差フィルム(1/4波長板)を組み合わせた円偏光板をタッチパネル前面に配置することにより内部反射光を防止している。更に、タッチパネルと液晶表示装置の間に、もう1つの位相差フィルム(1/4波長板)をタッチパネル前面に配置した位相差フィルムの遅相軸に対して直交させて配置して位相差を打ち消し、円偏光を直線偏光に戻すことにより、液晶表示装置自体の色付き、輝度低下を抑制している。この手法では、液晶表示装置前面に装着された偏光板の透過軸とタッチパネル前面に配置された偏光板の透過軸は平行に配置される。このため、タッチパネルから出射する光の偏光軸方向は、液晶表示装置と変わることがない。例えば、液晶表示装置の表示面側偏光板の透過軸が、水平方向に対して45°に設定されている場合、タッチパネル前面の偏光板の透過軸も水平方向に対して45°となる。このため、観察者が偏光眼鏡を使用して液晶表示装置を観察した場合、首を−45°傾げると偏光眼鏡の偏光吸収軸と液晶表示装置からの光の偏光軸が一致し表示が暗くなり、タッチパネルを装着した場合でも著しく視認性が低下してしまうという問題点は変わらない。タッチパネル前面の偏光板上に、偏光解消手段や複屈折板を配置することにより、表示が暗くなり、著しく視認性が低下してしまうという問題点を解決できるが、前述と同様に偏光解消手段で液晶表示装置画面全体を覆うことは実用的でなく、別途複屈折板を設置する必要があるため、製造上煩雑となり製造コストが高くなるなどの問題点は変わらない。
【0005】
【特許文献1】特開昭47−43845号公報
【特許文献2】特表2004−514167号
【特許文献3】特開平1−302383号
【特許文献4】特開2002−182196号
【特許文献5】特開平10−10522号
【特許文献6】特開平10−10523号
【特許文献7】特許公報3854392号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような問題に鑑みて、本発明は、フロントガラスへの映り込みを防止することができ、更に、偏光眼鏡を装着して観察する場合に表示画面の暗化を起こり難くして視認性の低下を抑制する光学素子ないしはタッチパネル付き車載用液晶表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、本発明を説明する。
本発明では、液晶パネルと表示装置前面に設けられた光学素子ないしはタッチパネルとを有し、光学素子ないしはタッチパネルの表示面側から、第一の偏光板、第一の位相差フィルム、(タッチパネルの場合はタッチパネル電極部)、第二の位相差フィルムとを少なくとも含む構成からなる車載用液晶表示装置であって、右ハンドル車においては垂直方向ないしは垂直方向から反時計回りに0°〜15°傾いている(左ハンドル車においては垂直方向ないしは垂直方向から反時計回りに0°〜−15°傾いている)ことが特徴である。
多様な車両にて、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する光が、フロントガラスに入射する際に、P偏光となるような第一の偏光板の透過軸方向を検証した結果、本発明の前述の角度に設定することによって、従来技術の特開平1−302383号公報、特開2002−182196号公報に記載されている、(右ハンドル車両において)液晶表示装置の表示面から出る光の偏光方向として鉛直方向から時計回りに20°回転させて設置、鉛直方向から時計回りに60°〜75°回転させて設置した場合と比較して、フロントガラスへの映り込みを大幅に抑制できることが確認できた。
【0008】
本発明の構成例を、図1を用いて説明する。
液晶パネル10と表示装置前面に設けられた光学素子ないしはタッチパネル11とを有し、
光学素子ないしはタッチパネル11の表示面側から、第一の偏光板110、第一の位相差フィルム111、(タッチパネルの場合はタッチパネル電極部112)、第二の位相差フィルム114とを少なくとも含む構成からなる車載用液晶表示装置であって、
偏光板110の透過軸110jの方向が、垂直方向ないしは垂直方向から反時計回りに0°〜15°傾いており(左ハンドル車においては垂直方向ないしは垂直方向から反時計回りに0°〜−15°傾いており)、
第一の位相差フィルム111の遅相軸111kは、第一の偏光板110の透過軸110jに対して実質的に反時計回りに45°で配置され、第二の位相差フィルム114の遅相軸114kは、液晶パネル10からの出射光の偏光軸方向100jまたは、液晶パネル10の光出射面に貼合された第二の偏光板100の透過軸100jに対して実質的に反時計回りに135°で配置されるか、
または、
第一の位相差フィルム111の遅相軸111kは、第一の偏光板110の透過軸110jに対して実質的に反時計回りに135°で配置され、第二の位相差フィルム114の遅相軸114kは、液晶パネル10からの出射光の偏光軸方向100jまたは、液晶パネル10の光出射面に貼合された第二の偏光板100の透過軸100jに対して実質的に反時計回りに45°で配置される。
このようなフィルムの配置では液晶パネルからの光が表示面から出射する場合に第一の偏光板110に吸収される割合を最小限に抑えることができ高輝度な画像が得られるとともに、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する光が、フロントガラスに入射する際に、P偏光となるように第一の偏光板110の透過軸110j方向に設定することが可能となり、フロントガラスへの映り込みを防止できる。
前記第一の位相差フィルム111には面内位相差値が1/4波長の位相差フィルムを用いることができる。特にタッチパネルに用いるときは、第一の偏光板110の透過軸110jに対して遅相軸111kを反時計回りに45°または135°で貼合することがタッチパネル内部反射を抑制する面では好適である。しかしながら、位相差値や貼合角度はこれに限定されるものではなく、必要とされる特性、第二の位相差フィルム114の位相差値や貼合角度に併せて調整することができる。
タッチパネルに用いた場合の偏光板と面内位相差値が1/4波長の位相差フィルムを組み合わせでは、外光が偏光板を通過すると直線偏光となり、この光が位相差フィルムを通過すると右回り(左周り)の円偏光となる。この光が、タッチパネル電極面、タッチパネル裏面で反射すると左回り(右回り)の円偏光となる。反射してきた光が再度位相差フィルムを通過すると偏光方向が偏光板の透過軸と垂直な直線偏光となり、反射光が偏光板に吸収されることにより内部反射を抑制することができる。
【0009】
更に、本発明者が鋭意研究した結果、第二の位相差フィルム114に位相差値がフィルムの法線方向に対して非対称のフィルム(以降、「傾斜フィルム」と呼ぶ。)を用いた場合に、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する光が遮光され、フロントガラス映り込み防止の効果を増強できることが見出された。ここで、傾斜フィルムとしては、シート面内の進相軸または遅相軸を傾斜軸としたときのリタデーション値がシートの法線方向に対して非対称であればよく、延伸した高分子ロッドを斜めにスライスしたフィルム、更にはそのフィルムを延伸したフィルム、棒状分子ないしは円盤状分子を配向膜上でハイブリッド配向させたフィルム、特開2002−202409号、特開2004−170595号公報に記載された光配向材料により作製される傾斜配向フィルムなどを用いることができる。但し、ここに記載されたものに限定されるものではない。
また、傾斜フィルムとAプレート(1軸性位相差フィルム)、Cプレート、2軸性位相差フィルムなどの位相差フィルム113を積層することもフロントガラス映り込み防止の効果を増強することに有効であることが見出された。
このようなフィルム構成では、液晶パネルから出て、光学素子ないしはタッチパネルを透過しフロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光に対して位相差を与え、光学素子ないしはタッチパネル表面の第一の偏光板110の吸収軸方向に一致する偏光成分を割合が多くなるよう、且つ、表示面正面方向では、光学素子ないしはタッチパネル表面の第一の偏光板110の透過軸110j方向に一致する偏光成分を割合が多くなるように各フィルムの光学特性、軸角度を調整する。
このようなフィルム構成では、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光は、光学素子ないしはタッチパネル表面の第一の偏光板110に吸収される。結果として、本発明の光学素子ないしはタッチパネルによって遮光されフロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光を低減できる。よって、液晶パネルの位置を動かしたり、ドライバー姿勢、着座位置によって目の位置が変化してP偏光となる条件から外れてしまってもフロントガラスへの映り込みを防止できる。
【0010】
タッチパネルに本発明を実施した例として、図1に示す実施例3の構成が挙げられる。
図1において、液晶パネル10と表示装置前面に設けられたタッチパネル11が配置されている。
タッチパネル11の表示面側から、第一の偏光板110、第一の位相差フィルム111、タッチパネル電極部112、タッチパネル電極部112の裏面に、面内位相差値0nm、フィルム厚み方向の位相差値220nmであるCプレート113が配置され、更に、1軸性の傾斜フィルム114(位相差値105.0nm、光軸傾斜角度θ=26°)を配置した構成である。この実施例3では、表側偏光板(第二の偏光板)の透過軸が水平方向から反時計回りに135°で配置した液晶パネルに本発明のタッチパネルを配置している。偏光板110の透過軸110jの方向は、垂直方向から反時計回りに10°回転させた配置であり、第一の位相差フィルム111の遅相軸111kは、第一の偏光板110の透過軸110jに対して実質的に反時計回りに45°(水平方向から145°)で配置され、傾斜フィルム114の面内遅相軸114kは、液晶パネル10の光出射面に貼合された第二の偏光板100の透過軸100jに対して実質的に反時計回りに135°で配置されている(垂直方向)。傾斜フィルムの光軸傾斜角度はθである。
この実施例3のフィルム構成では、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光は第一の偏光板110に吸収される。実施例3のタッチパネルの構成による透過率角度分布を図2に示す。表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向(水平方向から反時計回りに方位角75°、入射角60°方向)の光の透過率は6.0%となり、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する光が遮光されていることが分かる。
一方、液晶パネルから正面方向への出射光は、タッチパネル前面に配置された偏光板110に吸収されないことが光の利用効率を高める上で有利である。ここで実施例3の構成を例として表示画面正面方向の出射光について説明する。
位相差フィルムに直線偏光が入射するとき、透過光の偏光状態は位相差フィルムの位相差値および入射直線偏光の偏光方向と位相差フィルムの遅相軸との成す角によって決まる。本発明の構成における液晶表示装置から出射する直線偏光の偏光状態の変化を偏光状態を球面上の1点に対応させて表示するポアンカレ球を用いて説明する。このポアンカレ球では、位相差フィルムによる偏光状態の変化を球上の点の移動としてとらえることができる。
図3は、液晶パネル10前面に配置された第二の偏光板100の透過軸が水平方向から反時計回りに135°で配置され、第二の位相差フィルム113の面内位相差値が105nmであり、その遅相軸113kは、第二の偏光板100の透過軸100jの方向から反時計回りに45°で配置され、第一の位相差フィルム111の面内位相差値が1/4波長であり、その遅相軸111kは、第一の偏光板110の透過軸110jの方向から反時計回りに135°で配置されている。また、第一の偏光板は垂直方向から反時計回りに10°傾いて配置された場合を例に表示面法線方向の光の偏光状態の変化をポアンカレ球上に示した図である。
第二の偏光板100からの入射光は方位角135°の直線偏光でS2軸上の点Aとなる。この入射光が第二の位相差フィルム113を通過すると位相差が加わる。第二の位相差フィルム113を通過した光は、第二の位相差フィルム113の遅相軸113kが第二の偏光板100に対してΨ=45°に配置されていることから、Ψの2倍にあたる90°の角度を成す軸であるS1軸を回転中心軸として、位相差が105nmすなわち68.7°(550nmにおいて)だけ点Aを回転した点Bの偏光状態となる。更に、この光が、第1の位相差フィルム111を通過することにより位相差が加わる。本説明の例では、第一の位相差フィルム111は、位相差が1/4波長であり垂直方向に対して135°で配置され、第二の偏光板100の透過軸100jと一致している。すなわち、S2軸を回転中心軸として、90°だけ点Bを回転することにより、第一の位相差フィルムを通過した光は点Cの偏光状態となる。点Cの偏光状態は、方位角100.6°の直線偏光すなわち液晶表示装置の垂直方向から10.6°反時計回りに回転した直線偏光となる。よって第1の偏光板110にほとんど吸収されることなく出射される。このため光の利用効率を大きく損ねることがない。
偏光眼鏡は、車両運転中のインストルメント・パネルのフロントガラスへの映り込みによる視認性低下の解消、前走行車両のリヤウィンドウでの太陽光の反射による眩しさの解消、釣り、マリンスポーツでの水面のギラツキ軽減などに有効である。これは、2つの屈折率の異なる材質の界面にある角度をもって光が入射する時、入射面に平行な偏光成分P偏光と、垂直な偏光成分S偏光では反射率が異なることを利用している。P偏光は入射角度を大きくしてゆくとある角度(ブリュースター角)で反射率が0となる。このブリュ−スター角近傍では、反射光の殆どはS偏光となる。このため偏光眼鏡の吸収軸は水平方向(透過軸は垂直方向)に設定されている。
【0011】
本発明では、液晶表示装置から出射される表示光の偏光方向、ないしは液晶表示装置前面に装着された第二の偏光板の透過軸方向によらず、タッチパネルの前面に設置された第一の偏光板の透過軸を垂直方向ないしは垂直方向から反時計回りに±15°程度に配置する。このようにタッチパネルの前面に設置された第一の偏光板の透過軸を垂直方向近辺に配置することにより、観察者が偏光眼鏡を使用して液晶表示装置を観察した場合、首を90°程度傾げない限り偏光眼鏡の偏光吸収軸と液晶表示装置からの光の偏光軸が一致することがない。よって、本発明の光学素子ないしはタッチパネルを用いた車載用液晶表示装置の場合には、例えば、一般的に用いられているTN型液晶表示装置またはその前面に設置される従来技術のタッチパネルのような45°(または、−45°)首を傾げたのみで表示画面が暗状態となってしまうようなことがない。本発明の光学素子ないしはタッチパネルを用いた車載用液晶表示装置の場合でも、首を90°程度傾げた場合には表示画面が暗化してしまうが、車両運転中に90°首を傾げる機会は殆どなく実用上問題無いと考えられる。また、従来技術のように、偏光解消板や複屈折板を別途設置する必要が無く、更には、首を傾げる左右の方向により、画像の色調が大きくずれてしまうこともない。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、液晶パネルの光の利用効率を保ったまま、表示面からの出射光を所定方向の直線偏光とすることができることからフロントガラスへの映り込み防止に有効である。特に、傾斜フィルムを用いた場合には、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光を遮光することによって高度にフロントガラスへの映り込みを防止できる。また、タッチパネルに本発明フィルム構成を用いれば内部反射を抑制することもできる。表示面の第一の偏光板は垂直方向付近になるよう設置できるため、偏光眼鏡を装着して観察する場合に表示が暗化し難く、視認性の低下を抑制したタッチパネル付き車載用液晶表示装置を提供することができる。これにより従来技術の問題点を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下は、本発明の実施例である。
(実施例1)
本発明における第1の実施例を以下に示す。
表側偏光板(第二の偏光板)の透過軸が水平方向から反時計回りに135°である液晶パネルに本発明の光学素子を配置することを想定した。第二の位相差フィルムとして位相差値140.3nmの位相差フィルムを、遅相軸の角度を液晶パネルの表側偏光板の透過軸から反時計回りに45°(水平方向から反時計回りに90°)となるよう貼合した。更に、第一の位相差フィルムとして位相差値140.3nmの位相差フィルムを遅相軸の角度が水平方向から反時計回りに45°(垂直方向から反時計回りに135°)となるように貼合し、最前面に吸収軸が垂直方向となるように、第一の偏光板を貼合した。
このような構成で、光学素子法線方向の透過率を測定した。透過率は、76.8%となった。車両のインスツルメント中央部に配置して、フロントガラスへの映り込みを観察したところ、表示面からの映り込みは大幅に低減されていることが確認された。また、偏光眼鏡を掛けて表示画面を観察したところ、左右45°まで首を傾げたが、表示画面が暗状態になってしまうことはなかった。
【0014】
(実施例2)
本発明における第2の実施例を以下に示す。
表側偏光板(第二の偏光板)の透過軸が水平方向から反時計回りに135°である液晶パネルに本発明のタッチパネルを配置することを想定した。タッチパネルを模した構成として、2枚のITOガラス基板のITO蒸着面を対向させて用いた。2枚のITOガラス基板の裏面側に、第二の位相差フィルムとして位相差値140.3nmの位相差フィルムを、遅相軸の角度を液晶パネルの表側偏光板の透過軸から反時計回りに45°(水平方向から反時計回りに90°)となるよう貼合した。2枚のITOガラス基板の前面には、第一の位相差フィルムとして位相差値140.3nmの位相差フィルムを遅相軸の角度が水平方向から反時計回りに55°(垂直方向から反時計回りに145°)となるように貼合し、最前面に吸収軸が垂直方向から反時計回りに10°回転させた配置となるように、第一の偏光板を貼合した。
このような構成でタッチパネル法線方向の透過率を測定した。透過率は、73.0%となった。また、透過率角度分布は、図4に示す。表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光の透過率は44.9%(水平方向から反時計回りに方位角75°、入射角60°方向)であった。実施例1と同様に、車両のインスツルメント中央部に配置して、フロントガラスへの映り込みを観察したところ、表示面からの映り込みは実施例1に比較して低減されていることが確認された。また、偏光眼鏡を掛けて表示画面を観察したところ、左右45°まで首を傾げたが、表示画面が暗状態になってしまうことはなかった。
【0015】
(実施例3)
本発明における第3の実施例を以下に示す。
表側偏光板(第二の偏光板)の透過軸が水平方向から反時計回りに135°である液晶パネルに本発明のタッチパネルを配置することを想定した。タッチパネルを模した構成として、2枚のITOガラス基板のITO蒸着面を対向させて用いた。2枚のITOガラス基板の裏面側に、面内位相差値0nm、フィルム厚み方向の位相差値220nmであるCプレートを貼合し、更に、位相差フィルムとして、特開2002−202409号、特開2004−170595号公報に記載された光配向材料を用いて作製した傾斜フィルム(位相差値105.0nm、傾斜角度26°)を、フィルム面内遅相軸の角度を液晶パネルの表側偏光板の透過軸から反時計回りに45°(水平方向から反時計回りに90°)となるよう貼合した。2枚のITOガラス基板の前面には、第一の位相差フィルムとして位相差値140.3nmの位相差フィルムを遅相軸の角度が水平方向から反時計回りに55°(垂直方向から反時計回りに145°)となるように貼合し、最前面に吸収軸が垂直方向から反時計回りに10°回転させた配置となるように、第一の偏光板を貼合した。
このような構成でタッチパネル法線方向の透過率を測定した。透過率は、68.1%となった。透過率角度分布は、図2に示す。実施例2の傾斜フィルムを用いない場合と比較すると、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光が遮光されており、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光の透過率は6.0%(水平方向から反時計回りに方位角75°、入射角60°方向)であった。実施例1と同様に、車両のインスツルメント中央部に配置して、フロントガラスへの映り込みを観察したところ、表示面からの映り込みは実施例2と比較しても更に低減され、ドライバーの姿勢、着座位置によって目の位置が変化してもフロントガラスへの映り込みが防止されていることが確認された。また、偏光眼鏡を掛けて表示画面を観察したところ、左右45°まで首を傾げたが、表示画面が暗状態になってしまうことはなかった。
【0016】
(実施例4)
本発明における第4の実施例を以下に示す。
表側偏光板(第二の偏光板)の透過軸が水平方向から反時計回りに135°である液晶パネルに本発明のタッチパネルを配置することを想定した。タッチパネルを模した構成として、2枚のITOガラス基板のITO蒸着面を対向させて用いた。2枚のITOガラス基板の裏面側に、実施例3と同様の傾斜フィルム(位相差値105.0nm、傾斜角度26°)を、フィルム面内遅相軸の角度を液晶パネルの表側偏光板の透過軸から反時計回りに45°(水平方向から反時計回りに90°)となるよう貼合した。2枚のITOガラス基板の前面には、第一の位相差フィルムとして位相差値138.5nm、フィルム厚み方向の位相差値150.5nmの2軸性位相差フィルムを遅相軸の角度が水平方向から反時計回りに55°(垂直方向から反時計回りに145°)となるように貼合し、最前面に吸収軸が垂直方向から反時計回りに10°回転させた配置となるように、第一の偏光板を貼合した。
このような構成でタッチパネル法線方向の透過率を測定した。透過率は、69.7%となった。実施例2の傾斜フィルムを用いない場合と比較すると、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かう光が遮光されており、表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する方向に向かうの透過率は10.0%(水平方向から反時計回りに方位角75°、入射角60°方向)であった。実施例1と同様に、車両のインスツルメント中央部に配置して、フロントガラスへの映り込みを観察したところ、表示面からの映り込みは実施例3と同様に低減され、ドライバーの姿勢、着座位置によって目の位置が変化してもフロントガラスへの映り込みが防止されていることが確認された。また、偏光眼鏡を掛けて表示画面を観察したところ、左右45°まで首を傾げたが、表示画面が暗状態になってしまうことはなかった。
【0017】
(比較例1)
比較例を以下に示す。
表側偏光板(第二の偏光板)の透過軸が水平方向から反時計回りに135°である液晶パネルに、実施例2、実施例3と同様に本発明のタッチパネルを配置することを想定した。タッチパネルを模した構成として、2枚のITOガラス基板のITO蒸着面を対向させて用いた。2枚のITOガラス基板の裏面側に、第二の偏光板として位相差値140.3nmの位相差フィルムを、遅相軸の角度を液晶パネルの表側偏光板の透過軸から反時計回りに45°(水平方向から反時計回りに90°)となるよう貼合した。2枚のITOガラス基板の前面には、第一の位相差フィルムとして位相差値140.3nmの位相差フィルムを遅相軸の角度が水平方向となるように貼合し、最前面に透過軸が水平方向から反時計回りに135°で、第一の偏光板を貼合した。
実施例1と同様に、車両のインスツルメント中央部に配置して、フロントガラスへの映り込みを観察したところ、表示面からの映り込みが生じていることが確認された。また、偏光眼鏡を掛けて表示画面を観察したところ、右45°まで首を傾げたところ、表示画面が暗状態になってしまった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の構成例(実施例3)を説明する模式図
【図2】本発明の実施例3のフィルム構成での透過率角度分布を示す図
【図3】本発明の構成例における法線方向透過光の偏光状態の変化をポアンカレ球上に示した図
【図4】本発明の実施例2のフィルム構成での透過率角度分布を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶パネルと表示装置前面に設けられた光学素子とを有し、光学素子の表示面側から、第一の偏光板、第一の位相差フィルム、第二の位相差フィルムとを少なくとも含む構成からなる車載用液晶表示装置であって、光学素子表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する光が、フロントガラスに入射する際に、P偏光となるように第一の偏光板の透過軸方向が設置されていることを特徴とする車載用液晶表示装置。
【請求項2】
液晶パネルと表示装置前面に設けられたタッチパネルとを有し、タッチパネルの表示面側から、第一の偏光板、第一の位相差フィルム、タッチパネル電極部、第二の位相差フィルムとを少なくとも含む構成からなる車載用液晶表示装置であって、タッチパネル表示面から出て、フロントガラスで反射して、運転者の平均的視線の位置に入射する光が、フロントガラスに入射する際に、P偏光となるように第一の偏光板の透過軸方向が設置されていることを特徴とする車載用液晶表示装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、第一の偏光板の透過軸方向が、右ハンドル車においては垂直方向ないしは垂直方向から反時計回りに0°〜15°傾いており(左ハンドル車においては垂直方向ないしは垂直方向から反時計回りに0°〜−15°傾いており)、第一の位相差フィルムの遅相軸は、第一の偏光板の透過軸に対して実質的に反時計回りに45°で配置され、第二の位相差フィルムの遅相軸は、液晶パネルからの出射光の偏光軸方向または、液晶パネルの光出射面に貼合された第二の偏光板の透過軸に対して実質的に反時計回りに135°で配置されるか、
または、第一の位相差フィルムの遅相軸は、第一の偏光板の透過軸に対して実質的に反時計回りに135°で配置され、第二の位相差フィルムの遅相軸は、液晶パネルからの出射光の偏光軸方向または、液晶パネルの光出射面に貼合された第二の偏光板の透過軸に対して実質的に反時計回りに45°で配置されたことを特徴とする車載用液晶表示装置。
【請求項4】
前記第一の位相差フィルムの面内位相差が使用する波長の1/4波長(使用する波長を可視光域として、中心波長550nmの1/4波長で、一般的に130〜150nm程度)であることを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3に記載の車載用液晶表示装置。
【請求項5】
前記第二の位相差フィルムの面内位相差が使用する波長の1/4波長(使用する波長を可視光域として、中心波長550nmの1/4波長で、一般的に130〜150nm程度)であることを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3または請求項4に記載の車載用液晶表示装置。
【請求項6】
前記第二の位相差フィルムの位相差角度依存性がフィルム法線方向に対して非対称であることを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3または請求項4または請求項5に記載の車載用液晶表示装置。
【請求項7】
前記第二の位相差フィルムに加えて、1軸性位相差フィルムないしは2軸性位相差フィルムないしはCプレートを積層したことを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3または請求項4または請求項5または請求項6に記載の車載用液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−60674(P2010−60674A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224276(P2008−224276)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】