説明

車輪用軸受装置およびアクスルモジュール

【課題】円周方向のガタの抑制を図ることができ、しかも、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との連結作業性に優れ、さらには異物(泥塩水等)の侵入を防止して、内部の錆びの発生を抑えることができ、長期にわたって安定したトルク伝達が可能な車輪用軸受装置及びアクスルモジュールを提供する。
【解決手段】等速自在継手3の外側継手部材の軸部12の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部35を、軸方向に沿って他方に圧入する。これによって、他方に凸部35に密着嵌合する凹36を形成して、凸部35と凹部36との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造Mを構成する。ハブ輪1のアウトボード側の内径面及び軸部のアウトボード側の端部外径面との間の隙間を閉塞する防錆防食皮膜81を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置およびアクスルモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置には、第1世代と称される複列の転がり軸受を単独に使用する構造から、外方部材に車体取付フランジを一体に有する第2世代に進化し、さらに、車輪取付フランジを一体に有するハブ輪の外周に複列の転がり軸受の一方の内側軌道面が一体に形成された第3世代、さらには、ハブ輪に等速自在継手が一体化され、この等速自在継手を構成する外側継手部材の外周に複列の転がり軸受の他方の内側軌道面が一体に形成された第4世代のものまで開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第3世代と呼ばれるものが記載されている。第3世代と呼ばれる車輪用軸受装置は、図16に示すように、外径方向に延びるフランジ151を有するハブ輪152と、このハブ輪152に外側継手部材153が固定される等速自在継手154と、ハブ輪152の外周側に配設される外方部材155とを備える。
【0004】
等速自在継手154は、前記外側継手部材153と、この外側継手部材153の椀形部157内に配設される内側継手部材158と、この内側継手部材158と外側継手部材153との間に配設されるボール159と、このボール159を保持する保持器160とを備える。また、内側継手部材158の中心孔の内周面にはスプライン部161が形成され、この中心孔に図示省略のシャフトの端部スプライン部が挿入されて、内側継手部材158側のスプライン部161とシャフト側のスプライン部とが係合される。
【0005】
また、ハブ輪152は、筒状の軸部163と前記フランジ151とを有し、フランジ151の外端面164(反継手側の端面)には、図示省略のホイールおよびブレーキロータが装着される短筒状のパイロット部165が突設されている。なお、パイロット部165は、大径の第1部165aと小径の第2部165bとからなり、第1部165aにブレーキロータが外嵌され、第2部165bにホイールが外嵌される。
【0006】
そして、軸部163の椀形部157側端部の外周面に切欠部166が設けられ、この切欠部166に内輪167が嵌合されている。ハブ輪152の軸部163の外周面のフランジ近傍には第1内側軌道面168が設けられ、内輪167の外周面に第2内側軌道面169が設けられている。また、ハブ輪152のフランジ151にはボルト装着孔162が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ151に固定するためのハブボルトがこのボルト装着孔162に装着される。
【0007】
外方部材155は、その内周に2列の外側軌道面170、171が設けられると共に、その外周にフランジ(車体取付フランジ)182が設けられている。そして、外方部材155の第1外側軌道面170とハブ輪152の第1内側軌道面168とが対向し、外方部材155の第2外側軌道面171と、内輪167の第2内側軌道面169とが対向し、これらの間に転動体172が介装される。また、外方部材155の外周面(外径面)には車体取付用のフランジ182を設け、このフランジ182が図示省略のナックルに取り付けられる。
【0008】
ハブ輪152の軸部163に外側継手部材153の軸部173が挿入される。軸部173は、その反椀形部の端部にねじ部174が形成され、このねじ部174と椀形部157との間にスプライン部175が形成されている。また、ハブ輪152の軸部163の内周面(内径面)にスプライン部176が形成され、この軸部173がハブ輪152の軸部163に挿入された際には、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176とが係合する。
【0009】
そして、軸部163から突出した軸部173のねじ部174にナット部材177が螺着され、ハブ輪152と外側継手部材153とが連結される。この際、ナット部材177の内端面(裏面)178と軸部163の外端面179とが当接するとともに、椀形部157の軸部側の端面180と内輪167の外端面181とが当接する。すなわち、ナット部材177を締付けることによって、ハブ輪152が内輪167を介してナット部材177と椀形部157とで挟持される。
【特許文献1】特開2004−340311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来では、前記したように、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176とが係合するものである。このため、軸部173側及びハブ輪152側の両者にスプライン加工を施す必要があって、コスト高となるとともに、圧入時には、軸部173側のスプライン部175とハブ輪152側のスプライン部176との凹凸を合わせる必要があり、この際、歯面を合わせることによって、圧入すれば、この凹凸歯が損傷する(むしれる)おそれがある。また、歯面を合わせることなく、凹凸歯の大径合わせにて圧入すれば、円周方向のガタが生じやすい。このように、円周方向のガタがあると、回転トルクの伝達性に劣るとともに、異音が発生するおそれもあった。このため、従来のように、スプライン嵌合による場合、凹凸歯の損傷及び円周方向のガタの両者を成立させることは困難であった。
【0011】
スプライン嵌合において、雄スプラインと雌スプラインとの密着性の向上を図って、円周方向のガタが生じないようにしたとしても、駆動トルクが作用すれば、雄スプラインと雌スプラインとに相対変位が発生するおそれがある。このような相対変位が発生すれば、フレッティング摩耗が発生し、その摩耗粉により、スプラインがアブレーション摩耗を起すおそれがある。これによって、スプライン嵌合部位においてガタつきが生じたり、安定したトルク伝達ができなくなるおそれがある。
【0012】
また、スプライン嵌合部に雨水等が侵入した場合、このスプライン嵌合部において錆等が発生して傷めるおそれがあり、耐用性についても問題があった。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みて、円周方向のガタの抑制を図ることができ、しかも、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との連結作業性に優れ、さらには異物(泥塩水等)の浸入を防止して、内部の錆びの発生を抑えることができ、長期にわたって安定したトルク伝達が可能な車輪用軸受装置及びアクスルモジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、内方部材の内側軌道面と外方部材の外側軌道面との間に転動自在に収容された複列の転動体とを有する転がり軸受を備えるとともに、前記内方部材はハブ輪を有し、ハブ輪の孔部に嵌挿される等速自在継手の外側継手部材の軸部が凹凸嵌合構造を介してハブ輪に一体化される車輪用軸受装置であって、等速自在継手の外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入し、他方に凸部に密着嵌合する凹部を凸部にて形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する前記凹凸嵌合構造を構成し、ハブ輪のアウトボード側の内径面及び軸部のアウトボード側の端部外径面との間の隙間を閉塞する防錆防食皮膜を備えたものである。
【0015】
本発明の車輪用軸受装置によれば、凹凸嵌合構造は、凸部と凹部との嵌合接触部位の全体が密着しているので、この嵌合構造では、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入し、この他方に凸部にて凸部に密着嵌合する凹部を形成して、前記凹凸嵌合構造を構成する。すなわち、相手側の凹部形成面に凸部の形状の転写を行うことになる。
【0016】
また、ハブ輪のアウトボード側の内径面及び軸部のアウトボード側の端部外径面との間の隙間を閉塞する防錆防食皮膜を備えているので、ハブ輪のアウトボード側からの凹凸嵌合構造への雨水やダスト等の異物の侵入をこの防錆防食皮膜によって防止できるとともに、異物侵入による発錆から凹凸嵌合構造を防護できる。
【0017】
外側継手部材の軸部のアウトボード側端部にハブ輪の内径面に係合する拡径加締部を形成し、前記防錆防食皮膜が、ハブ輪の内径面と拡径加締部の外径面との間の隙間を閉塞するのが好ましい。拡径加締部によって、等速自在継手の外側継手部材の軸部のハブ輪からの抜け止めを構成することができる。
【0018】
前記防錆防食皮膜は、外側継手部材の軸部のアウトボード側端面全体及びこのアウトボード側端面よりもアウトボード側のハブ輪の内径面全体に設けるようにできる。また、ハブ輪はアウトボード側の端面にホイールが嵌合するパイロット部を有し、前記防錆防食皮膜は、ハブ輪の内径面から連続してこのパイロット部の外径面に形成されているものであってもよい。
【0019】
防錆防食皮膜は、例えばアクリル系合成樹脂からなる紫外線硬化塗料にて構成することができる。また、紫外線硬化塗料はプライマーで下塗りした後に塗布されている場合もあり、着色用の染料または顔料が混入されている場合がある。ここで、紫外線硬化塗料とは、重合性二重結合を有するオリゴマー、モノマー、光重合開始剤、染料や顔料、レベリング剤等の添加剤等から成る樹脂系塗料で、紫外線(200〜400nmの波長を持つ光)を照射することで、光化学反応を起こし、硬化する塗料である。アクリル系合成樹脂からなる紫外線硬化樹脂は、常温保管が可能であり、反応性が高い(秒単位)等の特徴を備える。
【0020】
本発明のアクスルモジュールは、前記車輪用軸受装置を備え、アウトボード側の等速自在継手に連結されたドライブシャフトと、このドライブシャフトの他方に連結されたインボード側の摺動型の等速自在継手とを備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、凹凸嵌合構造において、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。さらには、隙間無く密着しているので、トルク伝達部位の強度が向上する。このため、車輪用軸受装置を軽量、コンパクトにすることができる。
【0022】
防錆防食皮膜を備えているので、ハブ輪のアウトボード側からの凹凸嵌合構造への雨水やダスト等の異物の侵入をこの防錆防食皮膜の閉塞によって防止できるとともに、異物侵入による発錆から凹凸嵌合構造を防護できる。これによって、凹凸嵌合構造の錆等による損傷を抑えることができ、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。また、拡径加締部によって、等速自在継手の外側継手部材の軸部のハブ輪からの抜け止めを構成することができる。このため、外側継手部材の軸部がハブ輪の孔部から軸方向に抜けることを有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。
【0023】
外線硬化塗料は紫外線が照射されなければ固まらない。このため、防錆防食皮膜にこの紫外線硬化塗料を用いれば、紫外線照射前においては、塗布ミスの修理・修復・塗布のやり直しが可能である。また、塗料の保存状態で揮発することなく、経済的である。
【0024】
染料または顔料を混入させた場合、防錆防食皮膜を着色することができる。このように着色すれば、着色により塗布ムラや塗布範囲を目視によって検査・管理することができ、品質精度や信頼性を向上させることができる。プライマー(製品素材との密着性を高め、防錆力等の特徴を持った下塗塗料)を使用すれば、金属に対する密着性がさらに向上する。
【0025】
本発明のアクスルモジュールは、前記記載の車輪用軸受装置を備えたものであり、長期にわたって安定した機能を発揮する製品となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態を図1〜図15に基づいて説明する。図1にアクスルモジュールの例を示す。このアクスルモジュールは、アウトボード側等速自在継手T1(3)と、インボード側等速自在継手T2と、一端側がアウトボード側等速自在継手T1に連結されるとともに、他端側がインボード側等速自在継手T2に連結される中間軸(シャフト)10とを備えたものである。アウトボード側においては、転がり軸受2を有する車輪用軸受装置を備え、この車輪用軸受装置の後述するハブ輪1にアウトボード側等速自在継手T1が装着される。なお、自動車等の車両に組付けた状態で車両の外側となる方をアウトボード側(図面左側)、自動車等の車両に組付けた状態で車両の内側となる方をインボード側(図面右側)という場合がある。
【0027】
アウトボード側等速自在継手T1(3)は、外側継手部材としての外輪5と、外輪5の内側に配された内側継手部材としての内輪6と、外輪5と内輪6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外輪5と内輪6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内輪6はその孔部内径6aにシャフト10の端部10aを圧入することによりスプライン嵌合してシャフト10とトルク伝達可能に結合されている。なお、シャフト10の端部10aには、シャフト抜け止め用の止め輪9が嵌合されている。
【0028】
外輪5はマウス部11とステム部(軸部)12とからなり、図2に示すように、マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部11の開口端まで延びている。内輪6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
【0029】
外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝14,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込んである。ボール7は外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。ケージ8は外輪5と内輪6との間に摺動可能に介在し、外球面にて外輪5の内球面13と接し、内球面にて内輪6の外球面15と接する。なお、この場合の等速自在継手は、ツェパー型を示しているが、トラック溝の溝底に直線状のストレート部を有するアンダーカットフリー型等の他の等速自在継手であってもよい。
【0030】
また、マウス部11の開口部はブーツ18にて塞がれている。ブーツ18は、大径部18aと、小径部18bと、大径部18aと小径部18bとを連結する蛇腹部18cとからなる。大径部18aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド18aにて締結され、小径部18bがシャフト10のブーツ装着部10bに外嵌され、この状態でブーツバンド19bにて締結されている。
【0031】
インボード側の等速自在継手T2は、ここではトリポード型の例を示してあるが、ダブルオフセット型等、他の摺動動式等速自在継手を採用することもできる。等速自在継手T2は、外側継手部材としての継手外輪131と、内側継手部材としてのトリポード132と、トルク伝達要素としてのローラ133とを主要な構成要素としている。
【0032】
継手外輪131はマウス部131aと軸部131bとからなり、軸部131bにてデイファレンシャルの出力軸とトルク伝達可能に連結するようになっている。マウス部131aは一端にて開口したカップ状で、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝136が形成してある。このためマウス部131aの横断面形状は花冠状を呈する。
【0033】
トリポード132はボス138と脚軸139とからなり、ボス138のスプライン孔138aにてシャフト10の端部スプライン10cとトルク伝達可能に結合している。脚軸139はボス138の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。各脚軸139にはローラ133を回転自在に支持させてある。
【0034】
ここでも、ブーツ140を取り付けて継手外輪131の開口部を塞いである。これにより、内部に充填した潤滑剤の漏洩を防止するとともに、外部から異物が侵入するのを防止する。ブーツ140は、大径部140aと、小径部140bと、大径部140aと小径部140bとの間の蛇腹部140cとからなり、大径部140aをマウス部131aの開口端部に取り付けてブーツバンド141aで締め付け、小径部140bをシャフト10のブーツ装着部10dに取り付けてブーツバンド141bで締め付けてある。
【0035】
筒部20の孔部22は、図7に示すように、軸方向中間部の軸部嵌合孔22aと、反継手側のコーン状孔22bと、継手側の大径孔22cとを備える。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。また、軸部嵌合孔22aと大径孔22cとの間には、テーパ部(テーパ孔)22dが設けられている。このテーパ部22dは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部22dのテーパ角度θ1は、例えば15°〜75°とされる。
【0036】
転がり軸受2は、内周側に複列の外側軌道面26、27を有する外方部材25と、外周側に複列の内側軌道面28,29を有する内方部材39と、外方部材25の外側軌道面26、27とこれに対向する内方部材39の内側軌道面28,29との間に配置される転動体30とを有する。この場合の内方部材39は、前記ハブ輪1と、ハブ輪1の筒部20の継手側に設けられた段差部23に嵌合する内輪24とからなる。すなわち、ハブ輪1の外径面にアウトボード側の内側軌道面28が形成され、内輪24の外径面にインボード側の内側軌道面29が形成される。なお、外方部材25の両開口部にはシール部材S1,S2が装着されている。
【0037】
また、外方部材25である外輪には、図示省略の車体の懸架装置から延びるナックル34(図1参照)が取り付けられている。すなわち、外方部材25の外面全体を円筒面とし、この円筒面をナックル34が圧入される圧入面とする。これによって、外方部材25をナックルの円筒状内径面34aに圧入することができる。この場合、圧入面と円筒状内径面34aとの締代によって、ナックル34と外方部材25との相対的な軸方向及び周方向のずれを規制するように設定するのが好ましい。例えば、外方部材25とナックル34との間の嵌合い面圧×嵌合い面積を嵌合い荷重としたときに、この嵌合い荷重をこの転がり軸受の等価ラジアル荷重で割った値をクリープ発生限界係数とし、このクリープ発生限界係数を予め考慮して、外方部材25の設計仕様、すなわち外方部材25とナックル34の嵌合締代が設定される。
【0038】
このため、外方部材25の圧入面とナックル34の円筒状内径面34aとの締代によって、外方部材25の軸方向の抜け及び周方向のクリープを防止できる。ここで、クリープとは、嵌合締代の不足や嵌合面の加工精度不良等により軸受が周方向に微動して嵌合面が鏡面化し、場合によってはかじりを伴い焼き付きや溶着することをいう。なお、外方部材25の圧入面と、ナックル34の内径面34aとにそれぞれ周方向溝を設け、これらの周方向溝の間に抜け止め用の止め輪86を装着するのが好ましい。
【0039】
ハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて軸受2に予圧を付与するものである。これによって、内輪24をハブ輪1に固定することができる。すなわち、加締部31によって、図2等に示すように、内輪24のインボード側の端面24aを軸方向に沿ってアウトボード側へ押圧し、内輪24のアウトボード側の端面24bが段差部23の端面23aに接触乃至圧接する。またハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がこのボルト装着孔32に装着される。
【0040】
凹凸嵌合構造Mは、図3(a)(b)に示すように、例えば、軸部12の端部に設けられて軸方向に延びる凸部35と、ハブ輪1の孔部22の内径面(この場合、軸部嵌合孔22aの内径面37)に形成される凹部36とからなり、凸部35とその凸部35に嵌合するハブ輪1の凹部36との嵌合接触部位38全域が密着している。すなわち、軸部12の反マウス部側の外周面に、複数の凸部35が周方向に沿って所定ピッチで配設され、ハブ輪1の孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37に凸部35が嵌合する複数の凹部36が周方向に沿って形成されている。つまり、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。
【0041】
この場合、各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の凹部嵌合部位とは、図3(b)に示す範囲Aであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、ハブ輪1の内径面37よりも内径側に隙間40が形成されている。
【0042】
このように、ハブ輪1と等速自在継手T1の外輪5の軸部12とを凹凸嵌合構造Mを介して連結できる。この際、前記したようにハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて転がり軸受2に予圧を付与するものであるので、外輪5のマウス部11にて予圧を付与する必要がなく、ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としている。このため、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間98が設けられる。なお、ハブ輪1の端部(加締部31)とマウス部11は接触させても良い。
【0043】
ところで、外輪5の軸部12の端部とハブ輪1の孔部22の内径面との間に軸部抜け止め構造M1が設けられている。この軸部抜け止め構造M1は、外輪5の軸部12の端部から反継手側に延びてコーン状孔22bに係止する拡径加締部(テーパ状係止片)65からなる。すなわち、拡径加締部65は、継手側から反継手側に向かって拡径するリング状体からなり、その外周面65aの少なくとも一部がコーン状孔22bに圧接乃至接触している。
【0044】
また、図2に一点鎖線で示すように、ハブ輪1のアウトボード側の内径面及び軸部12のアウトボード側の端部外径面との間の隙間を閉塞する防錆防食皮膜81が形成されている。すなわち、ハブ輪1のアウトボード側の内径面(つまりコーン状孔22bの内径面)全体及び軸部12のアウトボード側の端部全体(端部全面)に防錆防食皮膜81が形成されている。
【0045】
防錆防食皮膜81は、例えばアクリル系合成樹脂からなる紫外線硬化塗料にて構成することができる。紫外線硬化塗料とは、重合性二重結合を有するオリゴマー、モノマー、光重合開始剤、染料や顔料、レベリング剤等の添加剤等から成る樹脂系塗料で、紫外線(200〜400nmの波長を持つ光)を照射することで、光化学反応を起こし、硬化する塗料である。アクリル系合成樹脂からなる紫外線硬化樹脂は、常温保管が可能であり、反応性が高い(秒単位)等の特徴を備える。
【0046】
紫外線硬化に使用する光源(紫外線照射光源)は、例えば、波長が200〜400nmの範囲にある紫外線で、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ等があり、使用する塗料等により使い分けることができる。
【0047】
紫外線硬化塗料は、染料や顔料を含有させなければ、ほぼ透明(クリア)色である。しかしながら、着色用の染料や顔料を含有させれば、着色した防錆防食皮膜81を成形することができる。
【0048】
防錆防食皮膜81の成形工程は、例えば、脱脂工程と、塗布工程と、乾燥工程と、紫外線照射工程と、常温放置工程とを備える。脱脂工程とは、塗料を塗布する材料の表面の油分を取り除く表面処理である。塗布工程は、紫外線硬化塗料を塗布する工程であり、この塗布には、浸漬、スプレー、刷毛塗り等がある。乾燥工程とは、塗料中の有機分を飛ばす工程であり、例えば、40℃で3〜5分程度行う。紫外線照射工程とは、乾燥した紫外線硬化塗料に対して紫外線を照射する工程であり、例えば10〜15秒程度行う。常温放置工程とは、常温になるまで放置する工程である。
【0049】
防錆防食皮膜81を形成する場合、紫外線硬化塗料を塗布する前に、プライマー(製品素材との密着性を高め、防錆力等の特徴を持った下塗塗料)を使用するようにしてもよい。
【0050】
また、図6(a)(b)に示すように、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間98が設けられ、この隙間98にシール部材99は嵌着される。この場合、隙間98は、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間から大径孔22cと軸部12との間まで形成される。この実施形態では、シール部材99はハブ輪1の加締部31と大径孔22cとのコーナ部に配置される。なお、シール部材99としては、図6(a)に示すようなOリング等のようなものであっても、図6(b)に示すようなガスケット等のようなものであってもよい。なお、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aは接触させても良い。
【0051】
ところで、この車輪用軸受装置を組み立てる場合、後述するように、ハブ輪1に対して外輪5の軸部12を圧入することによって、凸部35によって凹部36を形成するようにしている。この際圧入していけば、凸部35にて形成される凹部36から材料がはみ出してはみ出し部45(図4参照)が形成される。はみ出し部45は、凸部35の凹部嵌合部位が嵌入(嵌合)する凹部36の容量の材料分であって、形成される凹部36から押し出されたもの、凹部36を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。このため、前記図1等に示す車輪用軸受装置では、はみ出し部45を収納するポケット部(収納部)50を軸部12に設けている。軸部12のスプライン41の軸端縁に周方向溝51を設けることによって、ポケット部(収納部)50を形成している。
【0052】
次に、凹凸嵌合構造Mの嵌合方法を説明する。この場合、図7に示すように、軸部12の外径部には熱硬化処理を施し、この硬化層Hに軸方向に沿う凸条41aと凹条41bとからなるスプライン41を形成する。このため、スプライン41の凸条41aが硬化処理されて、この凸条41aが凹凸嵌合構造Mの凸部35となる。なお、この実施形態での硬化層Hの範囲は、クロスハッチング部で示すように、スプライン41の外端縁から外輪5のマウス部11の底壁の一部までである。この熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。また、ハブ輪1の外径側に高周波焼入れによる硬化層H1を形成するとともに、ハブ輪の内径側を未焼き状態としたものである。この実施形態での硬化層H1の範囲は、クロスハッチング部で示すように、フランジ21の付け根部から内輪24が嵌合する段差部23の加締部近傍までである。
【0053】
高周波焼入れを行えば、表面は硬く、内部は素材の硬さそのままとすることができ、このため、ハブ輪1の内径側を未焼き状態に維持できる。ハブ輪1の孔部22の内径面37側においては熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。外輪5の軸部12の硬化層Hとハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。具体的には、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、ハブ輪1の未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。
【0054】
この際、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(この場合、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面37)の位置に対応する。すなわち、図7に示すように、軸部嵌合孔22aの内径面37の内径寸法Dを、凸部35の最大外径、つまりスプライン41の凸条41aである前記凸部35の頂点を結ぶ円弧の最大直径寸法(外接円直径)D1よりも小さく、凸部間の谷底(スプライン41の凹条41bの底)を結ぶ円弧の直径寸法D2よりも大きく設定される。すなわち、D2<D<D1とされる。
【0055】
スプライン41は、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としては、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
【0056】
また、軸部12の端面の外周縁部から前記拡径加締部65を構成するための短円筒部66を軸方向に沿って突出させている。短円筒部66の外径D4は孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面の内径寸法Dよりも小さく設定している。すなわち、この短円筒部66が後述するように、軸部12のハブ輪1の孔部22への圧入時の調芯部材となる。なお、ハブ輪1の孔部22の大径部22cの内径寸法D5を最大直径寸法(外接円直径)D1よりも大きく設定している。短円筒部66の外径D4が軸部嵌合孔22aの内径面の孔径と同一や嵌合孔22aの孔径よりも大きければ、短円筒部66自体を軸部嵌合孔22aの内径面に圧入することになる。この際、芯ずれしていれば、このまま凹凸嵌合構造Mの凸部35が圧入され、軸部12の軸心とハブ輪1の軸心とが合っていない状態で軸部12とハブ輪1とが連結されることになる。また、短円筒部66の外径D4が軸部嵌合孔22aの内径面の孔径よりも小さすぎると、調芯用として機能しない。このため、短円筒部66の外径面と孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面との間の微小隙間としては、0.01mm〜0.2mm程度に設定するのが好ましい。
【0057】
そして、図7に示すように、外輪5の軸部12の付け根部(マウス部側)にOリング等のシール部材99を外嵌して、ハブ輪1の軸心と等速自在継手T1の外輪5の軸心とを合わせた状態で、ハブ輪1に対して、外輪5の軸部12を挿入(圧入)していく。この際、ハブ輪1の孔部22に圧入方向に沿って縮径するテーパ部22dを形成しているので、このテーパ部22dが圧入開始時のガイドを構成することができる。また、軸部嵌合孔22aの内径面37の内径寸法Dと、凸部35の最大外径寸法D1と、凸部間の谷底の直径寸法D2とが前記のような関係であり、しかも、凸部35の硬度が軸部嵌合孔22aの内径面37の硬度よりも20ポイント以上大きいので、軸部12をハブ輪1の軸部嵌合孔22aに圧入していけば、この凸部35が内径面37に食い込んでいき、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を軸方向に沿って形成していくことになる。
【0058】
このように圧入されることによって、図4に示すように、形成されるはみ出し部45は、カールしつつポケット部50内に収納されて行く。すなわち、軸部嵌合孔22aの内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部がポケット部50内に入り込んでいく。
【0059】
また、圧入によって、図3に示すように、軸部12の端部の凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。すなわち、相手側の凹部形成面(この場合、軸部嵌合孔22aの内径面37)に凸部35の形状の転写を行うことになる。この際、凸部35が軸部嵌合孔22aの内径面37に食い込んでいくことによって、軸部嵌合孔22aが僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、軸部嵌合孔22aが元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時にハブ輪1が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。
【0060】
このように、凹凸嵌合構造Mが構成されるが、この場合の凹凸嵌合構造Mは転がり軸受2の軌道面26、27、28、29の避直下位置に配置される。ここで、避直下位置とは、軌道面26、27、28、29に対して径方向に対応しない位置である。
【0061】
この凹凸嵌合構造Mでは、図5に示すように、軸部12の直径寸法D1と、ハブ輪1の孔部22の軸部嵌合孔22aの内径寸法Dとの径差(D1−D)をΔdとし、軸部12の外径面に設けられた凸部35の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86とする。これによって、凸部35の突出方向中間部位(高さ方向中間部位)が、凹部形成前の凹部形成面上に確実に配置されるようにすることによって、凸部35が圧入時に凹部形成面に食い込んでいき、凹部36を確実に形成することができる。
【0062】
また、外輪5の軸部12の付け根部(マウス部側)にOリング等のシール部材99が外嵌されているので、圧入完了状態で、ハブ輪1の加締部31の端面31aとマウス部11の底外面11aとの間の隙間98がこのシール部材99にて塞がれる(密封される)ことになる。
【0063】
ところで、外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入する際には、外輪5のマウス部11の外径面に、図2等に示すように段差面Gを設け、圧入用治具Kをこの段差面Gに係合させて、この圧入用治具Kから段差面Gに圧入荷重(軸方向荷重)を付与すればよい。なお、段差面Gとしては周方向全周に設けても、周方向に沿って所定ピッチで設けてもよい。このため、使用する圧入用治具Kとしても、これらの段差面Gに対応して軸方向荷重を付与できればよい。また、段差面Gを、周方向溝や周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部等以外に、外輪5の外径面に設けられる周方向突起部や周方向に沿って所定ピッチで配設される突起等にて構成してもよい。
【0064】
また、外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入して、凹凸嵌合構造Mを介して外輪5の軸部12とハブ輪1とが一体化された状態では、短円筒部66が軸部嵌合孔22aからコーン状孔22b側に突出する。
【0065】
そこで、図2の仮想線で示すような治具67を使用してこの短円筒部66を拡径することになる。治具67は、円柱状の本体部68と、この本体部68の先端部に連設される円錐台部69とを備える。治具67の円錐台部69は、その傾斜面69aの傾斜角度がコーン状孔22bの傾斜角度と略同一とされ、かつ、その先端の外径が短円筒部66の内径と同一乃至僅かに短円筒部66の内径よりも小さい寸法に設定されている。そして、治具67の円錐台部69をコーン状孔22bを介して嵌入することによって矢印α方向の荷重を付加し、これによって、図2に示すように、短円筒部66の内径側にこの短円筒部66が拡径する矢印β方向の拡径力を付与する。この際、治具67の円錐台部69によって、短円筒部66の少なくとも一部はコーン状孔22bの内径面側に押圧され、コーン状孔22bの内径面に圧接乃至接触した状態となり、前記軸部抜け止め構造M1を構成することができる。なお、治具67の矢印α方向の荷重を付加する際には、この車輪用軸受装置が矢印α方向へ移動しないように、固定する必要があるが、ハブ輪1や等速自在継手T1等の一部を固定部材にて受ければよい。ところで、短円筒部66の内径面は軸端側に拡径するテーパ形状でも良い。このような形状にしておけば、鍛造で内径面を成形することも可能であり、コスト低減に繋がる。
【0066】
また、治具67の矢印α方向の荷重を低減させるため、短円筒部66に切り欠きを入れても良いし、治具67の円錐台部69の円錐面を周方向で部分的に配置するものでも良い。短円筒部66に切り欠きを入れた場合、短円筒部66を拡径し易くなる。また、治具67の円錐台部69の円錐面を周方向で部分的に配置するものである場合、短円筒部66を拡径させる部位が円周上の一部になるため、治具67の押し込み荷重を低減させることができる。
【0067】
凹凸嵌合構造M及び軸部抜け止め構造M1を構成した後は、ハブ輪1のアウトボード側の内径面及び軸部12のアウトボード側の端部全体(全面)に防錆防食皮膜81を成形することになる。すなわち、脱脂工程と、塗布工程と、乾燥工程と、紫外線照射工程と、常温放置工程とを行って防錆防食皮膜81を成形する。
【0068】
ところで、図1に組み立てられた本発明のアクスルモジュールにおいては、図1に示すように、軸受2の外方部材25の外周面25aが車体側のナックル34に嵌合組込みされる。アクスルモジュールの車両への組み付けは、ナックル34にこのアクスルモジュールをインボード側の摺動式等速自在継手T2側から挿通し、アウトボード側の車輪用軸受装置の外方部材25をナックル34の内径面34aに圧入することになる。
【0069】
このため、等速自在継手T1の最大外径寸法D12および等速自在継手T2の最大外径寸法D13をナックル34の内径面の内径寸法D15よりも小径とする。ここで、等速自在継手T1の最大外径寸法D12は、ブーツ18およびブーツバンド19a、19b等の付属品も含めた状態でのこの等速自在継手T1の最大外径寸法を意味する。また、等速自在継手T2の最大外径寸法D13は、ブーツ140およびブーツバンド141a、141b等の付属品も含めた状態でのこの等速自在継手T2の最大外径寸法を意味する。
【0070】
また、外方部材25の圧入面の外径寸法D11を、ナックルの内径面の内径寸法D15よりも僅かに大きく設定する。すなわち、前記したように、外方部材25の外周面25aと円筒状内径面34aとの締代によって、ナックルと外方部材25との相対的な軸方向及び周方向のずれを規制するように設定する。
【0071】
この場合、前記したように、外方部材25の外周面25aとナックル34の内径面34aとの間に止め輪86を介在させてもよい。止め輪86を使用することにより、外方部材25とナックル34の抜け止め効果が高まる。すなわち、外方部材25の外周面25aに係合溝を形成するとともに、ナックル34の内径面34aに係合溝を形成する。このため、止め輪86が外方部材25の外周面25aの係合溝とナックル34の内径面34aの係合溝とに係合することになる。
【0072】
ところで、図1に仮想線で示すように、ブレーキロータ90がハブ輪1に装着される。ブレーキロータ90は、軸心孔91を有する短円筒状の中心装着部92を備えている。
【0073】
中心装着部92は、貫孔を有する円盤部92aと、この円盤部92aの外径部からインボード側へ延びる短円筒状部92bとを有する。円盤部92aの貫孔の周縁部には、アウ
トボード側へ延びる外鍔部93が設けられ、この外鍔部93の内径孔と円盤部92aの貫孔でもって、前記軸心孔91が構成される。
【0074】
この場合、ハブ輪1のアウトボード側の端面82(筒部20のアウトボード側の端面と、これに連続して同一平面上に配設されるフランジ21のアウトボード側の端面とで構成されるハブ輪端面)に円盤部92aが当接するとともに、ハブ輪1のフランジ21の外径部21aに円盤部92a側の内径面が当接する。すなわち、ハブ輪1のフランジ21の外径部21aが、このブレーキロータ90を案内するブレーキパイロット部(案内面)95を構成する。
【0075】
このように、ブレーキロータ90が装着されることによって、外鍔部93の外径面が、図示省略のホイールの内周に嵌合するホイールパイロット部97を構成することになる。
【0076】
この場合、ブレーキパイロット部(案内面)95を構成するフランジ21の外径部21aに、防錆防食皮膜81a(図2参照)を形成するのが好ましい。この防錆防食皮膜81aは前記皮膜81と同様、紫外線硬化塗料にて形成することができる。
【0077】
本発明の車輪用軸受装置においては、凹凸嵌合構造Mは、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着しているので、この嵌合構造Mにおいて、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。このため、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。
【0078】
ハブ輪1のアウトボード側の内径面及び軸部12のアウトボード側の端部外径面との間の隙間を閉塞する防錆防食皮膜81を備えているので、ハブ輪1のアウトボード側からの凹凸嵌合構造Mへの雨水やダスト等の異物の侵入をこの防錆防食皮膜の閉塞によって防止できるとともに、異物侵入による発錆から凹凸嵌合構造Mを防護できる。これによって、凹凸嵌合構造Mの錆等による損傷を抑えることができ、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。なお、異物侵入を防止する手段として、シールプレート等の別部材を用いることが可能である。しかしながら、このようなシールプレート等の別部材を用いれば、部品点数の増加による部品費及び加工費の増加によってコスト高を招くことになる。
【0079】
ところで、従来構造のようなスプライン軸端部を締結するナット部材がないので、防錆防食皮膜81を設けなければ、異物侵入によって凹凸嵌合構造Mにおいて錆が発生するおそれがある。錆が発生すれば、凹凸嵌合構造M部位の減肉や割れ、応力腐食割れ等に起因する凹凸嵌合構造M部位での締結抜け等が懸念される。そこで、本発明では、防錆防食皮膜81を設けることによって、機能・強度上重要な凹凸嵌合構造Mを雨水やダスト等の異物侵入による発錆から防護するようにしている。
【0080】
軸部抜け止め構造M1によって、外輪5の軸部12がハブ輪1の孔部22からの抜け(特にシャフト側への軸方向の抜け)を有効に防止できる。これによって、安定した連結状態を維持でき、車輪用軸受装置の高品質化を図ることができる。また、軸部抜け止め構造M1が拡径加締部65であるので、従来のようなねじ締結を省略できる。このため、軸部12にハブ輪1の孔部22から突出するねじ部を形成する必要がなくなって、軽量化を図ることができるとともに、ねじ締結作業を省略でき、組立作業性の向上を図ることができる。なお、外輪5の軸部12の反継手方向への移動は、軸部12をさらに圧入する方向への押圧力が必要であり、外輪5の軸部12の反継手方向への位置ズレは極めて生じにくく、かつ、たとえこの方向に位置ズレしたとしても、外輪5のマウス部11の底部がハブ輪1の加締部31に当接して、ハブ輪1から外輪5の軸部12が抜けることがない。
【0081】
紫外線硬化塗料は紫外線が照射されなければ固まらない。このため、防錆防食皮膜81にこの紫外線硬化塗料を用いれば、紫外線照射前においては、塗布ミスの修理・修復・塗布のやり直しが可能である。また、塗料の保存状態で揮発することなく、経済的である。
【0082】
染料または顔料を混入させた場合、防錆防食皮膜81を着色することができる。このように着色すれば、着色により塗布ムラや塗布範囲を目視によって検査・管理することができ、品質精度や信頼性を向上させることができる。なお、この場合、生成される色としては、紫外線が透過できる色である必要があり、このため、染料や顔料としても紫外線が透過できるものが選択される。
【0083】
プライマー(製品素材との密着性を高め、防錆力等の特徴を持った下塗塗料)を使用すれば、金属に対する密着性がさらに向上する。
【0084】
しかも、ブレーキロータ取付用の案内面95にシール部材としての防錆防食皮膜81aを形成することによって、案内面95における錆の発生を抑えることができる。これによって、ブレーキロータ取外し時の錆による固着を防止でき、ブレーキロータ取外作業性の向上(ブレーキロータの着脱性低下の防止)を図ることができる。
【0085】
凹部36が形成される部材(この場合、ハブ輪1)には、スプライン部等を形成してお
く必要がなく、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持できる。
【0086】
凸部35の硬度が50HRC〜65HRCであれば、相手側に圧入するための硬度を具備することができ、圧入性の向上を図ることができ、また、相手側の硬度が10HRC〜30HRCであれば、圧入することができる。
【0087】
凸部35が高周波熱処理にて熱処理硬化することができ、高周波熱処理の利点(局部加熱ができ、焼入れ条件の調整が容易である点。短時間に加熱ができるため酸化が少ない点。他の焼入れ方法に比べて、焼入れ歪が少ない点。表面硬さが高く、優れた耐摩耗性を得られる点。硬化層の深さの選定も比較的容易である点。自動化が容易で機械加工ラインへの組み入れも可能である点等の利点)を奏することができる。
【0088】
軸部12の外径寸法とハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径寸法との径差をΔdとし、凸部の高さをhとし、その比をΔd/2hとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86としので、凸部35の圧入代を十分にとることができる。すなわち、Δd/2hが0.3以下である場合、捩り強度が低くなり、また、Δd/2hが0.86を越えれば、微小な圧入時の芯ずれや圧入傾きにより、凸部35の全体が相手側に食い込み、凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化し、圧入荷重が急激に増大する。凹凸嵌合構造Mの成形性が悪化した場合、捩り強度が低下するだけでなく、ハブ輪外径の膨張量も増大するため、ハブ輪1に装着される軸受2の機能に影響し、回転寿命が低下する等の問題もある。これに対して、Δd/2hを0.3〜0.86にすることにより、凹凸嵌合構造Mの成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度が得られる。
【0089】
テーパ部22dが圧入開始時のガイドを構成することができるので、ハブ輪1の孔部22に対して外輪5の軸部12を、ズレを生じさせることなく圧入させることができ、安定したトルク伝達が可能となる。さらに、短円筒部66の外径D4は孔部22の軸部嵌合孔22aの内径寸法Dよりも小さく設定しているので、調芯部材となり、芯ずれを防止しつつ軸部をハブ輪に圧入することができ、より安定した圧入が可能となる。
【0090】
凹凸嵌合構造Mを転がり軸受2の軌道面の避直下位置に配置することによって、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑える。これにより、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受を提供することができる。
【0091】
等速自在継手T1の外輪5の軸部12の凸部35の軸方向端部の硬度をハブ輪1の軸部嵌合孔22a内径部よりも高くして、軸部12をハブ輪1の軸部嵌合孔22aに凸部35の軸方向端部側から圧入するので、ハブ輪1の軸部嵌合孔22a内径面への凹部形成が容易となる。また、軸部側の硬度を高くでき、軸部12の捩り強度を向上させることができる。
【0092】
また、ハブ輪1の端部が加締られて転がり軸受2に対して予圧が付与されるので、外輪5のマウス部11によって予圧を付与する必要がなくなる。このため、転がり軸受2の予圧を考慮することなく、外輪5の軸部12を圧入することができ、ハブ輪1と外輪5との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。マウス部11がハブ輪1と非接触状であるので、マウス部11とハブ輪1との接触による異音の発生を防止できる。なお、異音の発生を抑えることができれば、マウス部11とハブ輪1の加締部31とが接触するものであってもよい。
【0093】
なお、凸部35を、この種のシャフトに通常形成されるスプラインをもって構成することができるので、低コストにて簡単にこの凸部35を形成することができる。
【0094】
また、軸部12をハブ輪1に圧入していくことによって、凹部36を形成していくと、この凹部36側に加工硬化が生じる。ここで、加工硬化とは、物体に塑性変形(塑性加工)を与えると,変形の度合が増すにつれて変形に対する抵抗が増大し,変形を受けていない材料よりも硬くなることをいう。このため、圧入時に塑性変形することによって、凹部36側のハブ輪1の内径面37が硬化して、回転トルク伝達性の向上を図ることができる。
【0095】
ハブ輪1の内径側は比較的軟らかい。このため、外輪5の軸部12の外径面の凸部35をハブ輪1の軸部嵌合孔22a内径面の凹部36に嵌合させる際の嵌合性(密着性)の向上を図ることができ、径方向及び円周方向においてガタが生じるのを精度良く抑えることができる。
【0096】
ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間にシール部材99が配置されるので、シール部材99にて、ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間の隙間98を塞ぐことで、この隙間98からの凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物の侵入が防止される。シール部材99としては、ハブ輪1の端部とマウス部11の底部との間に介在できるものであればよいので、例えば、既存(市販)のOリング等を使用することができ、低コストにて異物侵入防止手段を構成でき、しかも、市販のOリング等は、種々の材質、種々の大きさのものがあり、別途特別なものを製造することなく、確実にシール機能を発揮する異物侵入防止手段を構成することができる。
【0097】
このように、前記実施形態のように、凹凸嵌合構造Mよりも継手側及び凹凸嵌合構造Mよりも反継手側にシール構造が設けられることになって、凹凸嵌合構造Mの軸方向両端側からの異物の侵入が防止される。このため、密着性の劣化をより安定して長期にわたって回避することができる。
【0098】
圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納するポケット部50を設けることによって、はみ出し部45をこのポケット部50内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45をポケット部50に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組み立て作業工数の減少を図ることができて、組み立て作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0099】
また、短円筒部66は調芯用であるので、芯ずれを防止しつつ軸部12をハブ輪1に圧入することができる。このため、外側継手部材とハブ輪1とを高精度に連結でき、安定したトルク伝達が可能となる。
【0100】
さらに、ハブ輪1とは別部材であるホイールパイロット部97をハブ輪1に取り付けることによって、ハブ輪1にホイールパイロット部97を構成することができる。このため、ハブ輪1にはホイールの内周に嵌合するホイールパイロット部97を設ける必要がなく、ハブ輪全体の形状の簡素化と材料の削減を図ることができる。これによって、製造性の向上と材料費の削減を図ってコスト低減を達成できる。
【0101】
ハブ輪自体の形状が簡素化されるので、ハブ輪1を冷間鍛造にて成形することができる。このため、大量に生産できる、製品強度が増加する、加工時間が短縮する、材料を節減出来る、磨耗強度が向上するといった冷間鍛造の利点を生かせることができる。
【0102】
本発明のアクスルモジュールでは、組み立てられた状態での車両への組み付けが可能となる。これにより、組付け作業現場での作業工数を減じることができ、作業性が高まる。この場合、従来工程のようにナックル34を旋回させる必要もないので、作業スペースも最小限で足りる。しかも、分解・組立等における部品の損傷を防止して品質を安定させることができる。
【0103】
本発明のアクスルモジュールは、前記記載の車輪用軸受装置を備えたものであり、長期にわたって安定した機能を発揮する製品となる。
【0104】
ところで、防錆防食皮膜81は、前記実施形態では、ハブ輪1のコーン状孔22bの内径面全体及び軸部12のアウトボード側の端部全面に形成されていたが、図8に示すように、拡径加締部65のみを被覆するものであってもよい。すなわち、この場合の防錆防食皮膜81は、拡径加締部65の内径面全体から拡径加締部65の先端全体にわたって形成されている。このような範囲に防錆防食皮膜81が形成されたものであっても、ハブ輪1のアウトボード側からの凹凸嵌合構造Mへの雨水やダスト等の異物の侵入をこの閉塞によって防止できるとともに、異物侵入による発錆から凹凸嵌合構造Mを防護できる。この場合、防錆防食皮膜81を形成する範囲が小さいものとなる。
【0105】
この図8に示すアクスルモジュールの他の構成は図1に示すアクスルモジュールと同様であるので、同一部材は図1及び図2と同一の符号を附してそれらの説明を省略する。このため、この車輪用軸受装置においても、図2に示す車輪用軸受装置と同様の作用効果を奏する。特に、形成する防錆防食皮膜81の範囲は狭く、使用する紫外線硬化塗料を少なくすることができ、コスト低減及び塗布作業時間の短縮を図ることができる。
【0106】
図9は車輪用軸受装置の第2実施形態を示し、この場合、軸受2の外方部材25に車体取付用フランジ55が設けられている。車体取付用フランジ55にはねじ孔(取付孔)55aが設けられている。すなわち、車体取付用フランジ55よりもインボード側の外周面25aがナックル嵌入面となって、このナックル嵌入面をナックルに嵌入した状態で、ねじ孔(取付孔)55aにナット部材(図示省略)を螺着することによって、車体取付用フランジ55にナックルを装着することができる。このため、外周面25aをナックル34の内径面34aに圧入する必要がない。
【0107】
この図9に示すアクスルモジュールの他の構成は図1に示すアクスルモジュールと同様であるので、同一部材は図1及び図2と同一の符号を附してそれらの説明を省略する。このため、この車輪用軸受装置においても、図2に示す車輪用軸受装置と同様の作用効果を奏する。
【0108】
次に、図10は車輪用軸受装置の第3実施形態を示し、この場合、車輪用軸受装置のハブ輪1のアウトボード側の端面に、ブレーキパイロット部60aとホイールパイロット部60bとからなるパイロット部60が設けられている。
【0109】
また、防錆防食皮膜81が、ハブ輪1のコーン状孔22bの内径面から連続してパイロット部60の外径面(この場合、ホイールパイロット部60bの外径面)に形成されている。これによって、作業工数の増大無しに、ホイールの固着防止効果を得ることができる。すなわち、パイロット部60の外径面に防錆防食皮膜81が設けられていなければ、発生する錆によって、パイロット部60にホイールが固着するおそれがあるからである。
【0110】
この図10に示すアクスルモジュールの他の構成は図1に示すアクスルモジュールと同様であるので、同一部材は図1及び図2と同一の符号を附してそれらの説明を省略する。このため、この車輪用軸受装置においても、図2に示す車輪用軸受装置と同様の作用効果を奏する。
【0111】
図11は第4実施形態を示し、この場合、図10に示す車輪用軸受装置において、外方部材25が車体取付用フランジ55を備えたものである。この図11に示すアクスルモジュールの他の構成は図1に示すアクスルモジュールと同様であるので、同一部材は図1及び図2と同一の符号を附してそれらの説明を省略する。このため、この車輪用軸受装置においても、図2に示す車輪用軸受装置と同様の作用効果を奏する。
【0112】
図12は第5実施形態を示し、この場合、軸部抜け止め構造M1を有さないものである。すなわち、軸部12の端部に形成される短円筒部66が前記図1に示すものよりも短く、圧入した状態で、コーン状孔22bに達しないものである。
【0113】
この場合、図13に示すように、等速自在継手3の軸心と、ハブ輪1の軸心とを合わせた状態で、等速自在継手3の外輪5の軸部12をハブ輪1に圧入するものであり、短円筒部66の拡径加締を行わないものである。
【0114】
そして、短円筒部66の先端縁66aから、短円筒部66よりもアウトボード側の軸部嵌合孔22a乃至コーン状孔22bの一部に防錆防食皮膜81が形成されるものである。すなわち、軸部12の端部のアウトボード側において、短円筒部66の外周面とハブ輪1の内径面との間及びその近傍に防錆防食皮膜81を形成している。この場合の防錆防食皮膜81であっても、ハブ輪1の内径面と、外輪5の軸部12との隙間を閉塞することができる。すなわち、図12に示す車輪用軸受装置においても、防錆防食皮膜81を形成する範囲を小とすることができる。
【0115】
この図12に示すアクスルモジュールの他の構成は図1に示すアクスルモジュールと同様であるので、同一部材は図1及び図2と同一の符号を附してそれらの説明を省略する。このため、この車輪用軸受装置においても、図2に示す車輪用軸受装置と同様の作用効果を奏する。特に、形成する防錆防食皮膜81の範囲は狭く、使用する紫外線硬化塗料を少なくすることができ、コスト低減及び塗布作業時間の短縮を図ることができる。なお、この図12の車輪用軸受装置では、軸部抜け止め構造M1を備えていないが、凹凸嵌合構造Mによって、使用時にかかる引き抜き力では軸部12がハブ輪1から抜け出ないように設定できる。すなわち、凹凸嵌合構造Mの嵌合力は、外輪5に対して所定力以上の引き抜き力を付与することにより引き抜くことができるものである。
【0116】
前記図2に示すスプライン41では、凸条41aのピッチと凹条41bのピッチとが同一設定される。このため、前記実施形態では、図3(b)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さLと、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L0とがほぼ同一となっている。
【0117】
これに対して、図14(a)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う山部43間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L1よりも小さいものであってもよい。すなわち、軸部12に形成されるスプライン41において、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L2を、凸部35間に嵌合するハブ輪1側の凸部43の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくしている。
【0118】
このため、軸部12側の全周における凸部35の歯厚の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、ハブ輪1側の山部43の歯厚の総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定している。これによって、ハブ輪1側の山部43のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。凸部35の周方向厚さの総和を、相手側の山部43における周方向厚さの総和よりも小さくする場合、全ての凸部35において、周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における周方向の寸法L1よりも小さくする必要がない。すなわち、複数の凸部35のうち、任意の凸部35の周方向厚さが周方向に隣り合う凸部間における周方向の寸法と同一であっても、この周方向の寸法よりも大きくても、総和で小さければよい。
【0119】
図14(a)における凸部35は、断面台形(富士山形状)としているが、図14(b)に示すように、インボリュート歯形状であってもよい。
【0120】
ところで、前記各実施形態では、軸部12側に凸部35を構成するスプライン41を形成するとともに、この軸部12のスプライン41に対して硬化処理を施し、ハブ輪1の内径面を未硬化(生材)としている。これに対して、図15(a)(b)に示すように、ハブ輪1の孔部22の内径面に硬化処理を施されたスプライン111(凸条111a及び凹条111bとからなる)を形成するとともに、軸部12には硬化処理を施さないものであってもよい。なお、このスプライン111も公知公用の手段であるブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
【0121】
この場合、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(軸部12の外径面)の位置に対応する。すなわち、スプライン111の凸部111aである凸部35の頂点を結ぶ円弧の径寸法(凸部35の最小径寸法)D8を、軸部12の外径寸法D10よりも小さく、凸部間の谷底(スプライン111の凹条111b)の底を結ぶ円弧の径寸法D9を軸部12の外径寸法D10よりも大きく設定する。すなわち、D8<D10<D9とされる。この場合、凹条111bの底を結ぶ円で構成される内径面が、ハブ輪1の軸部嵌合孔22aの内径面となり、凸部35が底からの突出部である。
【0122】
軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部35によって、軸部12の外周面にこの凸部35が嵌合する凹部36を形成することができる。これによって、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着している。
【0123】
ここで、嵌合接触部位38とは、図15(b)に示す範囲Bであり、凸部35の断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、軸部12の外周面よりも外径側に隙間112が形成される。
【0124】
この場合であっても、圧入によってはみ出し部45が形成されるので、このはみ出し部45を収納する収納部を設けるのが好ましい。はみ出し部45は軸部12のマウス側に形成されることになるので、収納部をハブ輪1側に設けることになる。
【0125】
このように、ハブ輪1の孔部22の内径面に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設けて圧入するものでは、軸部側の硬度処理(熱処理)を行う必要がないので、等速自在継手T1の外輪5の生産性に優れる利点がある。
【0126】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、凹凸嵌合構造Mの凸部35の形状として、前記図3に示す実施形態では断面三角形状であり、図14(a)に示す実施形態では断面台形(富士山形状)であるが、これら以外の半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状の
ものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、スプライン41、111を形成し、このスプライン41、111の凸条41a、111aをもって凹凸嵌合構造Mの凸部35とする必要はなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができて、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着し、しかも、ハブ輪1と等速自在継手T1との間で回転トルクの伝達ができればよい。
【0127】
また、ハブ輪1の孔部22としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部22に嵌挿する軸部12の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部12を圧入する際に凸部35の圧入始端部のみが、凹部36が形成される部位より硬度が高ければよいので、凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。図3等では隙間40が形成されるが、凸部35間の凹部まで、ハブ輪1の内径面37に食い込むようなものであってもよい。なお、凸部35側と、凸部35にて形成される凹部形成面側との硬度差としては、前記したようにHRCで20ポイント以上とするのが好ましいが、凸部35が圧入可能であれば20ポイント未満であってもよい。
【0128】
また、ハブ輪1の孔部22の内径面37に、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部36の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部35の圧入性の向上を図ることができる。すなわち、小凹部を設けることによって、凸部35の圧入時に形成されるはみ出し部45の容量を減少させることができて、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部45を少なくできるので、ポケット部50の容積を小さくでき、ポケット部50の加工性及び軸部12の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、三角形状、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
【0129】
軸受2の転動体30として、円錐ころ等を使用したものであってもよい。なお、圧入する場合、ハブ輪側を固定して、軸部12側を移動させても、逆に、軸部12を固定して、ハブ輪側を移動させても、両者を移動させてもよい。なお、等速自在継手3において、内輪6とシャフト10とを前記各実施形態に記載した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の第1実施形態を示すアクスルモジュールの縦断面図である。
【図2】前記アクスルモジュールの車輪用軸受装置の拡大断面図である。
【図3】前記車輪用軸受装置の凹凸嵌合構造を示し、(a)は拡大断面図であり、(b)は(a)のX部拡大図である。
【図4】車輪用軸受装置の要部拡大断面図である。
【図5】前記車輪用軸受装置の凹凸嵌合構造の拡大断面図である。
【図6】前記車輪用軸受装置の外輪のマウス部とハブ輪の加締部との間の隙間を密封するシール部材を示し、(a)はOリングを用いたときの拡大断面図であり、(b)がガスケットを用いたときの拡大断面図である。
【図7】車輪用軸受装置の分解状態の断面図である。
【図8】防錆防食皮膜の形成位置の変形例を示す車輪用軸受装置の断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態を示すアクスルモジュールの縦断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態を示すアクスルモジュールの縦断面図である。
【図11】本発明の第4実施形態を示すアクスルモジュールの縦断面図である。
【図12】本発明の第5実施形態を示すアクスルモジュールの車輪用軸受装置の縦断面図である。
【図13】前記図12に示す車輪用軸受装置の分解状態の断面図である。
【図14】凹凸嵌合構造の変形例を示し、(a)は第1変形例の断面図であり、(b)第2変形例の断面図である。
【図15】凹凸嵌合構造の他の変形例を示し、(a)は横断面図である。(b)は(a)のY部拡大図である。
【図16】従来の車輪用軸受装置の断面図である。
【符号の説明】
【0131】
1 ハブ輪
2 軸受
3 等速自在継手
11 マウス部
12 軸部
22 孔部
22a 軸部嵌合孔
25 外方部材
26,27 外側軌道面
28,29 内側軌道面
30 転動体
31 加締部
35 凸部
36 凹部
37 内径面
38 嵌合接触部位
39 内方部材
60 パイロット部
65 拡径加締部
65a 外周面
81 防錆防食皮膜
81a 防錆防食皮膜
M 凹凸嵌合構造
T1 アウトボード側等速自在継手
T2 インボード側等速自在継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、内方部材の内側軌道面と外方部材の外側軌道面との間に転動自在に収容された複列の転動体とを有する転がり軸受を備えるとともに、前記内方部材はハブ輪を有し、ハブ輪の孔部に嵌挿される等速自在継手の外側継手部材の軸部が凹凸嵌合構造を介してハブ輪に一体化される車輪用軸受装置であって、
等速自在継手の外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入し、他方に凸部に密着嵌合する凹部を凸部にて形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する前記凹凸嵌合構造を構成し、ハブ輪のアウトボード側の内径面及び軸部のアウトボード側の端部外径面との間の隙間を閉塞する防錆防食皮膜を備えたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
外側継手部材の軸部のアウトボード側端部にハブ輪の内径面に係合する拡径加締部を形成し、前記防錆防食皮膜が、ハブ輪の内径面と拡径加締部の外径面との間の隙間を閉塞することを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記防錆防食皮膜は、外側継手部材の軸部のアウトボード側端面全体及びこのアウトボード側端面よりもアウトボード側のハブ輪の内径面全体に設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記ハブ輪はアウトボード側の端面にホイールが嵌合するパイロット部を有し、前記防錆防食皮膜は、ハブ輪の内径面から連続してこのパイロット部の外径面に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記防錆防食皮膜は、紫外線硬化塗料からなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記紫外線硬化塗料はアクリル系合成樹脂からなることを特徴とする請求項5に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記紫外線硬化塗料は、プライマーで下塗りした後に塗布されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記紫外線硬化塗料は、着色用の染料または顔料が混入されていることを特徴とする請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置を備え、アウトボード側の等速自在継手に連結されたドライブシャフトと、このドライブシャフトの他方に連結されたインボード側の摺動式の等速自在継手とを備えたことを特徴とするアクスルモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−47060(P2010−47060A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211037(P2008−211037)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】