説明

車輪速センサの異常検出方法及び車両のスリップ制御方法

【課題】センサ取付位置による誤差や外来ノイズ等の影響を受けず、車輪速センサの異常を検出すること。
【解決手段】左右の駆動輪の車輪速センサによる平均回転速度を検出し、変速機内の回転センサによる車輪速換算値を検出し、平均回転速度と車輪速換算値との差を逐次時間積分して相対角を求める。車輪速センサと回転センサとの各取付部での相対角の許容値を設定し、時間積分で得られた相対角がこの許容値を越えた場合に車輪速センサの異常と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪速センサが実際の車輪速と異なる値を出力した場合における異常検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において、駆動輪と従動輪の車輪速度を比較し、駆動輪の車輪速が従動輪より所定値以上高い場合に駆動輪スリップ状態と判定し、トラクションコントロール(エンジン出力ダウン、駆動輪へのブレーキ力付加)を実施したり、CVT(無段変速機)のユニット保護やドラビリ性能確保を目的として、ベルト挟圧力アップ、ロックアップOFF、シフトアップ抑制などを行うことが知られている。
【0003】
しかし、駆動輪側の車輪速センサの異常や外来ノイズにより、センサが実際の車輪速より高い値を出力する場合があり、この場合に駆動輪スリップ状態を誤判定してしまい、本来不要なスリップ制御を実施することでドラビリ性能が悪化することがあった。
【0004】
特許文献1には、車輪速センサの製造上の誤差に起因する影響を除去する車輪速算出法が開示されている。また、特許文献2には、車輪の回転速度にノイズ(電気系の発振や車両駆動系の振動等)が重畳する場合に、ノイズが重畳しているか否かの検出手段を設けた車体速度検出装置が開示されている。
【0005】
特許文献1では、車輪速センサの信号の立ち上がり周期時間と立ち下がり周期時間とを平均した平均周期時間と、所定周期内で回転する車輪の回転距離とで車輪速を求めるものであるが、電気系のノイズ等の外的要因による影響について全く考慮していないため、これら要因による出力異常を駆動輪スリップ状態と誤判定する可能性があった。
【0006】
特許文献2では、ノイズ重畳検出手段が、複数の回転速度の少なくとも1つを選択して基準回転速度とし、その選択された基準回転速度に基づいて複数の回転速度の少なくとも1つにノイズが重畳しているか否かを検出している。具体的な検出方法としては、1つ以上の回転速度と他の1つ以上の回転速度との回転速度差が設定速度より大きいか否か等、これらの相対関係に基づいて、少なくとも1つの回転速度にノイズが重畳しているか否かを検出する方法や(段落0007)、回転速度自体又はそれの時間当たりの変化量が設定回転速度又は設定回転速度変化量より大きい場合に、その回転速度にノイズが重畳していると検出する方法を用いている(段落0015参照)。
【0007】
前者の例では、複数の車輪の回転速度差によってノイズ重畳を検出しているが、例えば右駆動輪のみがアイスバーン等の滑りやすい路面に乗った状態でアクセルを踏込んだ場合には、右駆動輪のみが大きなスリップを生じるので、実際にはノイズが重畳していないにも関わらず、ノイズ重畳を誤検出する懸念がある。
【0008】
後者の例では、車両停止状態において車輪の回転速度又はその加速度が設定値より大きい場合にノイズが重畳していると判断しているが、車両が雪道においてスタックしたような場合には、駆動輪の片輪又は両輪が大きくスリップし、被駆動輪は停止している状態が起こりえるため、回転速度で判定すると誤検出の懸念がある。また、加速度で検出する場合においては、センサの発振故障やロードヒーティングからの外来ノイズ重畳がある場合に、実際にスリップが発生した場合と同程度の加速度しか検出されない場合があり、このようなノイズを検出できないという問題がある。また、悪路走行時には車輪回転数には大きな変動が生じ、車輪加速度も大きく変動するため、比較的小さな加速度しきい値を設定すると誤検出する懸念がある。
【0009】
いずれにしても、特許文献2の方法では、誤検出を防止しようとしてしきい値を大きく設定すると、検出性は犠牲になる。つまり、実際に車輪はスリップしていないがノイズ重畳がある場合と、実際に車輪がスリップしていてノイズ重畳がない場合とで波形が同じであれば、これらを区別できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−104150号公報
【特許文献2】特開平9−21819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、センサ取付位置による誤差や外来ノイズ、悪路等の影響を受けずにセンサの異常を検出できる車輪速センサの異常検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、左右の駆動輪の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサと、前記駆動輪に動力を伝達する変速機内の出力軸の回転速度を検出する回転センサとを備えた車両において、左右の駆動輪の車輪速センサによる平均回転速度を検出するステップと、前記変速機内の回転センサによる車輪速換算値を検出するステップと、前記平均回転速度と車輪速換算値との差を逐次時間積分して相対角を求めるステップと、前記車輪速センサと前記回転センサとの各取付部での相対角の許容値を設定し、前記時間積分で得られた相対角が前記許容値を越えた場合に前記車輪速センサの異常と判定するステップと、を有する車輪速センサの異常検出方法を提供する。
【0013】
図1は本発明の概念を示すフローチャート図である。まず駆動輪の回転速度Ndを検出し(S50) 、同時に変速機の出力軸の回転速度から車輪速換算値Nrを検出する(S51)。次に、Nd−Nr−αを計算する(S52) 。このαとは、検出誤差に所定のマージンを加算したものである。次に、駆動輪の回転速度Ndを積分許可回転速度と比較し(S53)、Ndが積分許可回転速度未満であれば、積分を実施しない(S54) 。これは、駆動輪の回転速度が低回転速度であればスリップ判定を行わないからである。Ndが積分許可回転速度以上であれば、Nd−Nr−αの時間積分を実施し(S55)、その積分値を0と比較する(S56) 。積分値が負の値であれば、本来あり得ないことであるから積分値=0に設定し(S57) 、積分値が正の値であれば、その積分値をそのまま出力する(S58)。次に、積分値を許容値と比較する(S59) 。この許容値は、車輪速センサと回転センサのそれぞれの検出部の相対角として起こりうるドライブシャフトのねじれ角やトランスミッション回転方向倒れ角等に基づいて決定される。積分値≦許容値であれば、車輪速センサは正常と判定し(S60)、積分値>許容値であれば、車輪速センサが異常又は故障と判定する(S61) 。
【0014】
本発明では、元来同じ回転速度であるはずの駆動輪の左右平均回転速度とディファレンシャルギヤの回転速度との差でノイズを検出するため、先行技術のような問題は発生しない。特に本発明では、駆動輪の左右平均回転速度(角速度)とディファレンシャルギヤの回転速度(角速度)との差の積分値(角度)を求め、この積分値が許容値(しきい値)より大となった場合に異常と判断する。このしきい値には、実際に車輪速センサと回転センサのそれぞれの検出部の相対角として起こりうるドライブシャフトのねじれ角やトランスミッション回転方向倒れ角等の最大値より大きな値を設定すればよいため、ドライブシャフト等が破損して駆動輪とディファレンシャルギヤが関連なく回転しない限り、誤検出は生じない。また回転速度の差ではなく、角度の差によって判断するため、悪路等で駆動輪の左右平均回転速度とディファレンシャルギヤの回転速度の大小関係が激しく入れ替わるような場合においても、確実に異常を検出できる。本発明では、実際に車輪はスリップしていないがノイズ重畳がある場合と、実際に車輪がスリップしていてノイズ重畳がない場合とで波形が同じでも、明確に区別できる。
【0015】
本発明の車輪速センサの異常検出方法は、駆動輪のスリップ制御に適用するのが望ましい。すなわち、駆動輪と従動輪の車輪速度を比較し、駆動輪の車輪速が従動輪より所定値以上高い場合に駆動輪スリップ状態と判定し、駆動輪のスリップを抑制するためのスリップ制御を実施する車両のスリップ制御方法において、本発明における車輪速センサの異常と判定された時間内では、駆動輪スリップ状態と判定されても、スリップ制御を実施しないのがよい。その結果、車輪速センサの異常による不要なスリップ制御の実施を抑制でき、ドラビリ性能が悪化するのを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、駆動輪の左右平均回転速度とディファレンシャルギヤの回転速度との差の積分値を求め、この積分値が許容値より大となった場合に異常と判断するため、センサ取付位置による誤差や外来ノイズ、悪路等の影響を受けずにセンサの異常を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車輪速センサの異常検出方法の概念を示すフローチャート図である。
【図2】本発明に係る車輪速検出システムの一例の構成図である。
【図3】駆動輪のスリップ判定方法を示すフローチャート図である。
【図4】ノイズ重畳がない場合のねじれ角等(真の値)、推定値、ディファレンシャルギヤ角速度等の時間波形図である。
【図5】本発明にかかる車輪速センサの異常検出方法の一例のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施例の車輪速検出システムでは、図1のような構成をとる。トランスミッション1のディファレンシャルギヤ2は、ドライブシャフト5、6を介して左右の駆動輪10、11に連結されている。ディファレンシャルギヤ2の回転数を検出する回転センサ3がトランスミッション1に取り付けられ、回転センサ3の検出信号がトランスミッションコントローラ4に入力され、ディファレンシャルギヤ2の回転数が計算される。なお、ここでは回転センサ3がディファレンシャルギヤ2の回転数を直接検出する場合を示したが、ディファレンシャルギヤと常時かみ合っている別のギヤの回転数を検出する回転センサ信号を入力し、ディファレンシャルギヤ2の回転数を算出してもよい。車輪10〜13の近傍には各車輪速度を検出する車輪速センサ14〜17が取り付けられ、その信号がABSコントローラ18に入力されている。ABSコントローラ18は、各車輪の回転数を計算した後、それをトランスミッションコントローラ4に送信する。トランスミッションコントローラ4は、入力信号を受けて後述する車輪速センサの異常/正常の判定、スリップ制御の要否判定などを実施する。回転センサ3及び車輪速センサ14〜17としては公知のいかなるセンサ(パッシブセンサ又はアクティブセンサ)でもよい。
【0019】
ここで、信号を以下のように定義する
θdiff:ディファレンシャルギヤ角度(真の値)[rad]
θ* diff:ディファレンシャルギヤ角速度(真の値)[rad/s]
θfr:フロント右輪角度(真の値)[rad]
θfl:フロント左輪角度(真の値)[rad]
θf:フロント左右平均角度(真の値)[rad]
θ* f:フロント左右平均角速度(真の値)[rad/s]
θtor:ねじれ角等(真の値)[rad]
(但しθtor=θf−θdiff)
ωdiff:ディファレンシャルギヤ角速度(観測値)[rad/s]
ωfr:フロント右輪角速度(観測値)[rad/s]
ωfl:フロント左輪角速度(観測値)[rad/s]
ωf:フロント左右平均角速度(観測値)[rad/s]
(但しωf=(ωfr+ωfl)/2)
ωrr:リヤ右輪角速度(観測値)[rad/s]
ωrl:リヤ左輪角速度(観測値)[rad/s]
【0020】
本実施例では、前輪(フロント)を駆動輪とし、後輪(リヤ)を従動輪とする。図3は、駆動輪のスリップ判定の一例を示す。まずS1においてフロント右輪角速度ωfrが、リヤ右輪角速度ωrrに10[rad/s]を加算した値より大きいかが判定され、S2においてフロント左輪角速度ωflが、リヤ左輪角速度ωrlに10[rad/s]を加算した値より大きいかが判定される。いずれか一方の判定がYESであれば、S3でスリップ判定カウンタがインクリメントされ、両方の判定がNOであれば、S4でスリップ判定カウンタがクリアされる。次に、S5でスリップ判定カウンタが0.4sより大きいか否かが判定され、大きい場合にはS6で駆動輪スリップ判定フラグがセットされ、所望のスリップ制御(例えばトラクションコントロール、ベルト挟圧力アップ、ロックアップOFF、シフトアップ抑制など)が実施される。次に、S7においてフロント右輪角速度ωfrが、リヤ右輪角速度ωrrに7[rad/s]を加算した値以下であるかが判定され、S8においてフロント左輪角速度ωflが、リヤ左輪角速度ωrlに7[rad/s]を加算した値以下であるかが判定される。両方の判定がYESであれば、S9でスリップ収束判定カウンタがインクリメントされ、いずれか一方の判定がNOであれば、S10でスリップ収束判定カウンタがクリアされる。次にS11でスリップ収束判定カウンタが0.2sより大きいか否かが判定され、大きい場合にはS12で駆動輪スリップ判定フラグがリセットされ、スリップ制御も終了する。スリップ収束判定カウンタが0.2s以下であれば、リターンされる。
【0021】
つぎに、ノイズ重畳検出について説明する。全ての構成部材が剛体であり、検出部に回転方向の相対変化が生じず、ギヤにバックラッシがないとすると
ωdiff=ωf ・・・(1)
となる。しかし、実際には各部のねじれやギヤバックラッシの影響を受けるため、ωdiffとωfの比較ではノイズ重畳を検出するのは困難である。
【0022】
そこで、ねじれ等が有限であることを利用して、角度での比較を実施する。
θtor=θf−θdiff ・・・(2)
より、
θ*tor=θ*f−θ*diff ・・・(3)
を得る。θ* はθの微分値を表す。ここで真値と観測値の関係は、
ωf=θ*f+ωf err+ωf noise ・・・(4)
ωdiff=θ*diff+ωdiff err ・・・(5)
となる。なお、添え字「 err」は観測誤差、「 noise」はノイズ重畳を示す。
【0023】
(3)式より、
θtor=∫(θ*f−θ*diff)dt
(4)式,(5)式を代入して
θtor=∫(ωf−ωdiff)dt−∫(ωf err−ωdiff err)dt−∫(ωf noise)dt
・・・(6)
となる。
【0024】
ここで、θtorの推定値θ#torを下式のように定義する。
θ#tor=∫(ωf−ωdiff)dt ・・・(7)
(4)式,(5)式を代入して、
θ#tor=θtor+∫(ωf err−ωdiff err)dt+∫(ωf noise)dt ・・・(8)
を得る。
【0025】
ここで、θtorはドライブシャフトのねじれやバックラッシ等の合計であるので、取り得る値の範囲は有限である(例えば−0.2 〜 0.2rad )。したがって、観測誤差が0であれば、θ#torが前述の範囲を超えた場合にノイズ重畳したと判断できる。
【0026】
しかし、実際には観測誤差があるため、θ#torの範囲はノイズ重畳がなくても、前述の範囲に収まらない。本実施例では車輪速度センサ信号とトランスミッション回転センサ信号は別のコントローラで算出される。したがって、θfとθdiffには、それぞれ異なるクロック誤差が重畳する。したがって、本当はωdiffとωfは同じ角速度であっても、計算された値はωfの方が若干大きいという場合が起こり得る。これはわずかな差であるが、積分していくと、図4に示すようにθ#torは前述の範囲を超えてしまう。これでは、判定は困難なため実際の判定は以下のように行う。
【0027】
本実施例では駆動輪のスリップ判定を車輪速度で行っており、駆動輪の車輪速度センサにノイズが重畳し、駆動輪スリップの誤判定となることを防止するのが目的である。したがって、駆動輪の車輪速度センサにノイズが重畳した場合のみを検出できれば十分である。そこで(7)式の角速度に対し、予め想定される観測誤差の最大値ωerr maxを引いてから積分するように、θ#torを再定義する。
【0028】
θ#tor=∫(ωf−ωdiff−ωerr max)dt ・・・(9)
(6) を代入して、
θ#tor=θtor+∫(ωf err−ωdiff err−ωerr max)dt+∫(ωf noise)dt
・・・(10)
【0029】
(10) 式の右辺第2項は必ず負の値となるようにωerr maxを設定するので、ノイズの発生がなければ、θ#torは時間の経過と共に負の方向へと値が変化する。計算条件が成立してから現時点まで逐次積分して求めた現時点θ#torが、計算条件が成立してから現在までのθ#torの最小値に対し、所定値(例えば0.4rad)以上大きければ、ノイズ重畳が発生したと判断できる。なぜならば、θtorはたかだか±0.2radしか変化できず、また(10)式の右辺第2項は時間の経過と共に負側にしか変化しないため、上記判断が成立するためにはωf noiseが正の値でなければならないからである。
【0030】
ただし、θ#torの最小値は、時間の経過と共に非常に小さい値を取り得るので、最小値を記憶するのは、計算精度面やメモリ効率から得策ではない。そこで、実際の計算では最小値を記憶するのではなく、逐次積分した値を負の値にならないようにガード処理を実施し、最小値は常に0としておく。そして、θ#torが所定値(0.4rad)より大となった場合にノイズ重畳と判定する。これは上述の負側の計算を許可した判定と等価になる。実際の判定手順を図5に示す。
【0031】
図5では、まずS21において前輪平均車輪角速度ωfが所定値以下か判定される。ωfが小さい場合には、そもそも駆動輪スリップを誤判定する可能性がないことと、角速度の算出誤差も増加するため、S28でθ#torに0を代入することでノイズ重畳判定フラグがセットされないようにする。S22およびS23では回転センサの異常が検出されているか否かが判定される。前輪のいずれか又はディファレンシャルギヤ回転センサが異常の場合には、本判定は不可能であるのでS28で前述の処理が行われる。
【0032】
S21〜S23が全てNO、すなわちノイズ重畳判定が必要と判断された場合には、S24にて
ωd=ωf−ωdiff−ωerr max
を算出する。続いてS25にてωdの上下限値を所定値で制限する。ここで、上下限制限値には、急激な回転数の変化があった場合にωfとωdiffの観測遅れの差によりωdの絶対値が大きくなり、積分値が急変してノイズ重畳を誤判定するのを防止する効果がある。なお、この実施例では、前述のように駆動輪スリップ判定はスリップ状態が0.4s継続して始めて判定するので、0.4s以内にノイズ重畳が判定できれば十分である。さらにS26にて逐次積分処理を実施した後、S27でθ#torを前述のとおり下限値0で下限制限する。さらにS27では所定値にて上限制限も実施する。この処理は一旦ノイズ重畳判定をした後にθ#torが大きく積分され過ぎ、その後ノイズ重畳状態が解消して判定フラグがクリアされた直後にまだθ#torが大のため、ノイズ重畳を誤判定することを防止するためのものである。この誤判定を防止するためには、ノイズ重畳が解消されたと判断したときに、改めてθ#torを0から算出するという方法も考えられる。しかし、本実施例の方が、ノイズ重畳と復帰が繰り返されるような状況では、ノイズ重畳の再判定が素早く行えるという効果がある。
【0033】
次に、S29にてθ#torが所定値より大か否かが判定され、大と判定されると、S30にてノイズ重畳フラグがセットされる。
【0034】
S31以降では、ノイズ重畳の復帰判定が行われる。まず、S31ではS21と同様判定に適した条件か否かが判断される。ωf が所定値以下、すなわち積分処理に不適切な状態と判断されると、S37で復帰判定用のθ#torに0が代入される。ωfが所定値より大の場合には、続いてS32、S33で回転センサの異常がチェックされ、いずれかのセンサが異常の場合には、S37で前述の処理が実施される。全ての回転センサが正常の場合、さらにS34でノイズ重畳判定フラグがチェックされ、未だノイズ重畳が判定されていない場合には、復帰判定自体が不要であるため、S37で前述の処理が行われる。ノイズ重畳フラグがセットされていた場合には、S35〜S36にてS26〜S27と類似の処理が実施され、復帰判定用のθ#torが算出される。ただし、S36の上下限制限値はS27とは異なる。S36では上限値は0に制限される。
【0035】
S38〜S41では全ての角速度が0の時に停車状態と判定され、停車状態カウンタがインクリメントされる。いずれかの角速度が0以外の場合にはカウンタはクリアされる。
【0036】
S42〜S45ではωfが所定値より大でかつωf−ωdiffが観測誤差の最大値以下の場合、ノイズが重畳していない状態であると判定し、正常判定カウンタをインクリメントする。ωfが所定値以下で判定に不適切な状態又はωf−ωdiffが観測誤差の最大値より大、すなわちノイズ重畳が疑われる場合には、正常カウンタをクリアする。
【0037】
S46では復帰判定用のθ# torが所定値未満か否かが判断される。所定値未満すなわちノイズ重畳していない場合には、S49にてノイズ重畳判定フラグをクリアする。所定値以上、すなわちノイズ重畳がないとは言い切れない場合には、続いてS47で停車判定カウンタをチェックする。カウンタが所定値より大の時、すなわちノイズ重畳していない状態が所定時間継続した時には、S49でノイズ重畳判定フラグをクリアし、所定値以下の場合には、さらにS48でカウンタをチェックする。正常判定カウンタが所定値より大、すなわちノイズ重畳が所定時間発生していない場合には、S49にてノイズ重畳判定フラグをクリアする。正常判定カウンタが所定値以下の場合には、正常と判断できないため、フラグ操作を実施せずにリターンする。
【0038】
なお、本発明は車輪速度センサのノイズ検出に限定するものではない。トランスミッション回転センサのノイズ重畳を検出するニーズがあれば、前述の方法においてディファレンシャルギヤの回転数と前輪左右平均回転数を入れ換えてやれば、判定可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 トランスミッション
2 ディファレンシャルギヤ
3 回転センサ
4 トランスミッションコントローラ
10,11 駆動輪
12,13 従動輪
14〜17 車輪速センサ
18 ABSコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の駆動輪の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサと、前記駆動輪に動力を伝達する変速機内の出力軸の回転速度を検出する回転センサとを備えた車両において、
左右の駆動輪の車輪速センサによる平均回転速度を検出するステップと、
前記変速機内の回転センサによる車輪速換算値を検出するステップと、
前記平均回転速度と車輪速換算値との差を逐次時間積分して相対角を求めるステップと、
前記車輪速センサと前記回転センサとの各取付部での相対角の許容値を設定し、前記時間積分で得られた相対角が前記許容値を越えた場合に前記車輪速センサの異常と判定するステップと、を有する車輪速センサの異常検出方法。
【請求項2】
駆動輪と従動輪の車輪速度を比較し、駆動輪の車輪速が従動輪より所定値以上高い場合に駆動輪スリップ状態と判定し、前記駆動輪のスリップを抑制するためのスリップ制御を実施する車両のスリップ制御方法において、
請求項1における前記車輪速センサの異常と判定された時間内では、前記駆動輪スリップ状態と判定されても、前記スリップ制御を実施しないことを特徴とする、車両のスリップ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162091(P2011−162091A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28345(P2010−28345)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】