軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法
【課題】直流重畳特性を向上できる軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法を提供する。
【解決手段】軟磁性材料は、複数の金属磁性粒子10を備え、金属磁性粒子10の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、金属磁性粒子10の円形度Sfが0.80以上1以下である。金属磁性粒子10の平均粒径が1μm以上70μm以下であることが好ましい。また、軟磁性材料は、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜をさらに備えていることが好ましい。
【解決手段】軟磁性材料は、複数の金属磁性粒子10を備え、金属磁性粒子10の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、金属磁性粒子10の円形度Sfが0.80以上1以下である。金属磁性粒子10の平均粒径が1μm以上70μm以下であることが好ましい。また、軟磁性材料は、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜をさらに備えていることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法に関し、たとえば、磁気飽和を起こし難くインバーター等の磁心に用いた場合に直流重畳特性に優れた軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トランス、チョークコイル、およびインバーター等の静止器の鉄芯に用いられる軟磁性材料には電磁鋼板が用いられているが、電磁鋼板の代替材料として圧粉磁心が検討されている。
【0003】
一般に、静止器においてコイルに印加される電流波形は、直流成分に交流成分が加わった波形となっている。直流電流が増加すると、コイルのインダクタンスは低下し、その結果、インピーダンスが低下してしまうので、出力が低下してしまう、または電力変換効率が低下してしまう等の問題が発生してしまう。したがって、静止器に用いられる軟磁性材料には、直流電流の増加に伴うインダクタンスの低下量が少ない、すなわち、直流重畳特性が良いこと、および、低損失(低鉄損)であることが要求されている。
【0004】
しかし、圧粉磁心は、電磁鋼板よりも直流重畳特性に劣っている。なお、その理由としては、直流電流の増加によるインダクタンスの低下が、軟磁性材料の磁気飽和により生じることによる。具体的には、直流電流が大きくなると、軟磁性材料に印加される磁場は大きくなる。すると、磁気飽和により透磁率が低下する。すると、インダクタンスは透磁率に比例するので、インダクタンスが低下する。
【0005】
そこで、圧粉磁心の直流重畳特性を改善するため、特開2004−319652号公報(特許文献1)に磁心の製造方法およびその磁心が開示されている。特許文献1には、粒径が5〜70μmの異形状の軟質磁性粉末を用いていることが開示されている。
【特許文献1】特開2004−319652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の磁心では、粒径の範囲を規定しているのみなので、上記粒径の範囲内で粉末の粒径にばらつきが生じる。そのため、当該粉末を成形すると、内部の均一性が低下するため、直流重畳特性に改善の余地が残る。
【0007】
それゆえ本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、直流重畳特性を向上できる軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟磁性材料は、複数の金属磁性粒子を備え、金属磁性粒子の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、金属磁性粒子の円形度Sfが0.80以上1以下である。
【0009】
本発明の軟磁性材料の製造方法は、複数の金属磁性粒子を準備する準備工程を備え、準備工程では、粒径の標準偏差(σ)と、平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、円形度Sfが0.80以上1以下である金属磁性粒子を準備する。
【0010】
本発明の軟磁性材料および軟磁性材料の製造方法によれば、金属磁性粒子の変動係数Cvを0.40以下とすることにより、金属磁性粒子の粒径の分布を均一にできる。そのため、軟磁性材料を用いて加圧成形された成形体内部の均一性を向上できるので、磁化過程において磁壁の移動を容易にすることができる。その結果として、直流重畳特性を向上できる。また、金属磁性粒子の円形度Sfを0.80以上とすることによって、軟磁性材料を加圧成形する時に金属磁性粒子の表面に生じる歪みを低減できるので、直流重畳特性を向上できる。なお、金属磁性粒子の外形が真球状である場合には、金属磁性粒子の円形度Sfは、1となる。
【0011】
なお、上記「粒径の標準偏差(σ)」とは、レーザ散乱回折粒度分布測定法で測定される金属磁性粒子の粒径により、算出される値である。また、「金属磁性粒子の平均粒径(μ)」とは、レーザ散乱回折粒度分布測定法で測定される金属磁性粒子の粒径のヒストグラム中、粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径の値である。また、「金属磁性粒子の円形度」とは、下記の式1により規定される値である。なお、下記の式1において、金属磁性粒子の面積および外周長さは、光学的手法によって特定できる。光学的手法とは、たとえば、測定対象の金属磁性粒子を投影して得られる金属磁性粒子の投影像より市販の画像処理装置を用いて統計的に算出する方法を指す。
円形度=4π×金属磁性粒子の面積/金属磁性粒子の外周長さの2乗 ・・・(式1)
【0012】
上記軟磁性材料において好ましくは、金属磁性粒子の平均粒径が1μm以上70μm以下である。
【0013】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、準備工程では、平均粒径が1μm以上70μm以下の金属磁性粒子を準備する。
【0014】
金属磁性粒子の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性材料の流動性を落とすことがなく、軟磁性材料を用いて製作された圧粉磁心の保磁力およびヒステリシス損の増加を抑制できる。金属磁性粒子の平均粒径を70μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。
【0015】
上記軟磁性材料において好ましくは、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤をさらに備え、添加剤は、複数の金属磁性粒子に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下含まれている。
【0016】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、複数の金属磁性粒子に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下の金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤を加える添加工程をさらに備えている。
【0017】
0.001質量%以上の添加剤を備えることによって、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の高い潤滑性から、金属磁性粒子の流動性を向上できるので、金型に充填したときの軟磁性材料の充填性を向上できる。その結果、軟磁性材料を成形した成形体の密度を向上できるので、直流重畳特性を向上できる。0.2質量%以下の添加剤を備えることによって、軟磁性材料を成形した成形体の密度の低下を抑制できるので、直流重畳特性の劣化を防止できる。
【0018】
上記軟磁性材料において好ましくは、金属磁性粒子の表面を取り囲む絶縁被膜をさらに備えている。
【0019】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、金属磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程をさらに備えている。
【0020】
これにより、絶縁被膜は円形度Sfが0.80以上の金属磁性粒子の表面を取り囲むので、成形体内部において絶縁被膜が金属磁性粒子間に形成される。その結果、金属磁性粒子間を効果的に絶縁できるので、渦電流損を低減できる。よって、高周波において効果的に鉄損を低減できる。
【0021】
特に、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方をさらに備えている場合において、軟磁性材料を成形するときに絶縁被膜の破損をより低減できる。その結果、高温の環境下においても、金属磁性粒子間の絶縁性をより向上できるので、渦電流損をより低減できる。よって、高周波においてより効果的に鉄損を低減できる。
【0022】
上記軟磁性材料において好ましくは、絶縁被膜は、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる。
【0023】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、絶縁被膜形成工程では、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる絶縁被膜を形成する。
【0024】
これらの物質は絶縁性に優れているため、金属磁性粒子間を流れる渦電流をより効果的に抑制することができる。
【0025】
上記軟磁性材料において好ましくは、絶縁被膜は、一の絶縁被膜であり、金属磁性粒子は一の絶縁被膜の表面を取り囲む他の絶縁被膜を有し、他の絶縁被膜は、熱硬化型シリコーン樹脂を含む。
【0026】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、被膜形成工程は、一の絶縁被膜として絶縁被膜を形成する一の絶縁被膜形成工程と、一の絶縁被膜の表面を取り囲む他の絶縁被膜を形成する他の絶縁被膜形成工程とを含み、他の絶縁被膜形成工程では、熱硬化型シリコーン樹脂を含む他の絶縁被膜を形成する。
【0027】
これにより、一の絶縁被膜が他の絶縁被膜によって保護され、軟磁性材料の熱処理の際に絶縁被膜の温度上昇を他の絶縁被膜によって抑制することができる。このため、絶縁被膜の耐熱性を向上できる軟磁性材料が得られる。また、上記物質は高い耐熱性を有するとともに、金属磁性粒子と絶縁被膜とを備える複合磁性粒子同士の接合強度を高める役割を果たす。
【0028】
本発明の圧粉磁心は、軟磁性材料を用いて作製されている。また、本発明の圧粉磁心の製造方法は、軟磁性材料の製造方法を用いて軟磁性材料を製造する工程と、軟磁性材料を用いて加圧成形して圧粉磁心を製造する工程とを備えている。これにより、直流重畳特性を向上できる圧粉磁心を得られる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の軟磁性材料および軟磁性材料の製造方法によれば、変動係数Cvを0.40以下とし、円形度Sfを0.80以上1以下である複数の金属磁性粒子を備えているので、直流重畳特性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0031】
図1は、本発明の実施の形態における軟磁性材料を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施の形態における軟磁性材料は、金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とを有する複数の複合磁性粒子30と、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤40とを備えている。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態における圧粉磁心の拡大断面図である。図2の圧粉磁心は、図1の軟磁性材料に加圧成形および熱処理を施すことによって作製されたものである。図1および図2に示すように、本実施の形態における圧粉磁心において、複数の複合磁性粒子30の各々は、絶縁物50によって接合されていたり、複合磁性粒子30が有する凹凸の噛み合わせなどによって接合されていたりする。絶縁物50は軟磁性材料に含まれていた添加剤40および樹脂(図示せず)などが熱処理の際に変化したものである。
【0033】
本発明の軟磁性材料および圧粉磁心において、金属磁性粒子10の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)は0.40以下であり、金属磁性粒子10の円形度Sfは0.80以上1以下である。
【0034】
金属磁性粒子10の変動係数Cvは、0.40以下であり、0.38以下が好ましく、0.36以下がより好ましい。変動係数Cvを0.40以下とすることによって、金属磁性粒子10の粒径の分布を均一にできるので、軟磁性材料を用いて作製された成形体内部の均一性を向上できる。そのため、磁化過程において磁壁の移動を容易にできるので、直流重畳特性を向上できる。変動係数Cvを0.38以下とすることによって、直流重畳特性をより向上できる。変動係数Cvを0.36以下とすることによって、直流重畳特性をより効果的に向上できる。一方、変動係数Cvは小さい方が好ましいが、たとえば製造の容易性の観点から、0.001以上である。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態における金属磁性粒子10の粒径の分布と、従来例における金属磁性粒子の粒径の分布を示す模式図である。図3に示すように、本実施の形態における金属磁性粒子10(図3における本発明例)の変動係数は0.40以下であるので、従来例と比較して粒径の標準偏差(σ)、すなわち粒径のばらつきが小さい。
【0036】
また、金属磁性粒子10の円形度Sfは、0.80以上1以下であり、0.91以上1以下が好ましく、0.92以上1以下がより好ましい。円形度Sfを0.80以上とすることによって、軟磁性材料の成形時に金属磁性粒子の表面に生じる歪みを低減できるので、直流重畳特性を向上できる。円形度Sfを0.91以上とすることによって、直流重畳特性をより向上できる。円形度Sfを0.92以上とすることによって、直流重畳特性をより効果的に向上できる。一方、金属磁性粒子の外形が真球状である場合には、金属磁性粒子の円形度Sfは、1となる。
【0037】
図4(A)は、本発明の実施の形態における金属磁性粒子10の形状を示す概略模式図であり、(B)は従来例における金属磁性粒子11の形状を示す概略模式図である。図4(A)および(B)に示すように、本実施の形態における金属磁性粒子10は、円形度Sfを0.80以上1以下としているので、従来の金属磁性粒子11と比較して、真球状に近い形状である。
【0038】
金属磁性粒子10の平均粒径(μ)は、1μm以上70μm以下であることが好ましく、1μm以上65μm以下がより好ましく、20μm以上60μm以下がより一層好ましい。金属磁性粒子10の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性材料の流動性を落とすことがなく、軟磁性材料を用いて製作された圧粉磁心の保磁力およびヒステリシス損の増加を抑制できる。20μm以上とすることによって、軟磁性材料を用いて製作された圧粉磁心の保磁力およびヒステリシス損の増加をより抑制できる。一方、金属磁性粒子10の平均粒径を70μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。65μm以下とすることによって、渦電流損をより効果的に低減できる。60μm以下とすることによって、渦電流損をより一層効果的に低減できる。
【0039】
金属磁性粒子10は、たとえば、鉄(Fe)、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−クロム(Cr)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−マンガン(Mn)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−シリコン(Si)−クロム(Cr)系合金、鉄(Fe)−シリコン(Si)−マンガン(Mn)系合金、および鉄(Fe)−シリコン(Si)−ニッケル(Ni)系合金などから形成されている。金属磁性粒子10は、金属単体でも合金でもよい。
【0040】
図1に示す軟磁性材料および図2に示す圧粉磁心は、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20をさらに備えていることが好ましい。絶縁被膜20は、金属磁性粒子10間の絶縁層として機能する。金属磁性粒子10を絶縁被膜20で覆うことによって、この軟磁性材料を加圧成形して得られる圧粉磁心の電気抵抗率ρを大きくすることができる。これにより、金属磁性粒子10間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉磁心の渦電流損を低減させることができる。
【0041】
絶縁被膜20の平均膜厚は、10nm以上1μm以下であることが好ましい。絶縁被膜20の平均膜厚を10nm以上とすることによって、渦電流損を効果的に抑制することができる。絶縁被膜20の平均膜厚を1μm以下とすることによって、加圧成形時に絶縁被膜20がせん断破壊することを防止できる。また、軟磁性材料に占める絶縁被膜20の割合が大きくなりすぎないので、軟磁性材料を加圧成形して得られる圧粉磁心の磁束密度が著しく低下することを防止できる。
【0042】
なお、「平均膜厚」とは、組成分析(TEM−EDX:transmission electron microscope energy dispersive X-ray spectroscopy)によって得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS:inductively coupled plasma-mass spectrometry)によって得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出し、さらに、TEM写真により直接、被膜を観察し、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定されるものをいう。
【0043】
また、絶縁被膜20は、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなるものを用いることが好ましい。これらの物質は絶縁性に優れているため、金属磁性粒子10巻を流れる渦電流を効果的に抑制できる。具体的には、酸化シリコン、または酸化ジルコニウムなどよりなっていることが好ましい。特に、絶縁被膜20にリン酸塩を含む金属酸化物を使用することにより、金属磁性粒子の表面を覆う被覆層をより薄くすることができる。これにより、複合磁性粒子30の磁束密度を大きくすることができ、磁気特性が向上するからである。
【0044】
また、絶縁被膜20は、金属としてFe(鉄)、Al(アルミニウム)、Ca(カルシウム)、Mn(マンガン)、Zn(亜鉛)、Mg(マグネシウム)V(バナジウム)、Cr(クロム)、Y(イットリウム)、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、または希土類元素を用いた金属酸化物、金属窒化物、金属酸化物、リン酸金属塩化合物、ホウ酸金属塩化合物、またはケイ酸金属塩化合物などよりなっていてもよい。
【0045】
また、絶縁被膜20は、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Mg(マグネシウム)、Y(イットリウム)、Ca(カルシウム)、Zr(ジルコニウム)、およびFe(鉄)からなる群より選ばれる少なくとも1種の物質のリン酸塩の非晶質化合物、および当該物質のホウ酸塩の非晶質化合物よりなっていてもよい。
【0046】
さらに、絶縁被膜20は、Si、Mg、Y、Ca、およびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質の酸化物の非晶質化合物よりなっていてもよい。
【0047】
なお、上記においては軟磁性材料を構成する複合磁性粒子が1層の絶縁被膜により構成されている場合について示したが、軟磁性材料を構成する複合磁性粒子が以下に述べるように複数層の絶縁被膜により構成されていてもよい。
【0048】
図5は、本発明の実施の形態における他の軟磁性材料を模式的に示す図である。図5を参照して、本実施の形態における他の軟磁性材料において、絶縁被膜20は、一の絶縁被膜20aと、他の絶縁被膜20bとを有している。一の絶縁被膜20aは金属磁性粒子10の表面を取り囲んでおり、他の絶縁被膜20bは一の絶縁被膜20aの表面を取り囲んでいる。
【0049】
一の絶縁被膜20aは、図1および図2における絶縁被膜20とほぼ同様の構成を有している。
【0050】
他の絶縁被膜20bとしては、シリコーン樹脂、熱可塑性樹脂、非熱可塑性樹脂、または高級脂肪酸塩が用いられることが好ましい。具体的には、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドまたはポリエーテルエーテルケトン、高分子量ポリエチレン、全芳香族ポリエステルなどの熱可塑性樹脂や、全芳香族ポリイミド、非熱可塑性ポリアミドイミドなどの非熱可塑性樹脂や、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸リチウムまたはオレイン酸カルシウムなどの高級脂肪酸塩が用いられることが好ましい。絶縁被膜20bは、特に熱硬化型シリコーン樹脂からなっていることが好ましい。また、これらの有機物を互いに混合して用いることもできる。なお、高分子量ポリエチレンとは、分子量が10万以上のポリエチレンをいう。
【0051】
なお、一の絶縁被膜20aおよび、他の絶縁被膜20bは、単数の層からなっている場合に限定されず、一の絶縁被膜20aおよび他の絶縁被膜20bにおいてそれぞれ複数の層からなっていてもよい。
【0052】
図1に示す軟磁性材料および図2に示す圧粉磁心は、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤40をさらに備えていることが好ましい。
【0053】
金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸リチウム、およびオレイン酸カルシウム等を用いることができる。また六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤としては、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、およびグラファイト等を用いることができる。
【0054】
添加剤40は、複数の金属磁性粒子10に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下含まれていることが好ましく、0.001質量%以上0.1質量%以下の割合で含まれていることが好ましい。添加剤40を0.001質量%以上とすることによって、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の高い潤滑性から、金属磁性粒子10の流動性を向上できるので、金型に充填したときの軟磁性材料の充填性を向上できる。その結果、軟磁性材料を成形した成形体の密度を向上できるので、直流重畳特性を向上できる。一方、添加剤40を0.2質量%以下とすることによって、軟磁性材料を成形した成形体の密度の低下を抑制できるので、直流重畳特性の劣化を防止できる。
【0055】
特に、添加剤40を構成する金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤は、絶縁被膜20の損傷を抑える良好な潤滑性を得ることができるので、軟磁性材料を成形するときに絶縁被膜20の破損をより低減できる。その結果、高温の環境下においても、隣り合う金属磁性粒子10同士の接合力が保たれるので、渦電流損をより低減できる。そのため、高周波においてより効果的に鉄損を低減できる。
【0056】
また、添加剤40の平均粒径は2.0μm以下であることが好ましい。2.0μm以下とすることによって、軟磁性材料を加圧成形する時の絶縁被膜20の損傷をより低減できるので、鉄損をより低減することができる。
【0057】
なお、「添加剤40の平均粒径」とは、レーザ散乱回折法によって測定した粒径のヒストグラム中、粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径Dをいう。
【0058】
なお、図1に示す軟磁性材料は、上述した添加剤40以外の潤滑剤等や樹脂(図示せず)などをさらに含んでいてもよい。
【0059】
次に、図6を参照して、本発明の軟磁性材料の製造方法について説明する。なお、図6は、本発明の実施の形態における軟磁性材料の製造方法を示すフローチャートである。
【0060】
図6に示すように、まず、複数の金属磁性粒子10を準備する準備工程(S11)を実施する。準備工程(S11)では、金属磁性粒子10の粒径の標準偏差(σ)と、金属磁性粒子10の平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.4以下であり、金属磁性粒子10の円形度Sfが0.8以上1以下である金属磁性粒子10を準備する。
【0061】
準備工程(S11)では、上述した複数の金属磁性粒子10を準備する。これらの金属磁性粒子10は、たとえば所定の成分を含有する鉄をアトマイズ法または水アトマイズ法などにより粉末化して準備される。特に、準備工程(S11)では、平均粒径が1μm以上70μm以下の金属磁性粒子10を準備することが好ましい。
【0062】
次に、図6に示すように、複数の金属磁性粒子10を熱処理する第1の熱処理工程(S12)を実施する。第1の熱処理工程(S12)では、複数の金属磁性粒子10を、たとえば700℃以上1400℃未満の温度で熱処理する。熱処理前の金属磁性粒子10の内部には、アトマイズ処理時の熱応力などに起因する歪みや結晶粒界などの多数の欠陥が存在している。そこで、第1の熱処理工程(S12)において金属磁性粒子10に熱処理を実施することによって、これらの欠陥を低減させることができる。なお、第1の熱処理工程(S12)は省略されてもよい。
【0063】
次に、図6に示すように、金属磁性粒子10の表面に絶縁被膜20を形成する絶縁被膜形成工程(S13)を実施する。絶縁被膜形成工程(S13)では、金属磁性粒子10の各々の表面に上述した絶縁被膜20(または一の絶縁被膜20aおよび他の絶縁被膜20b)を形成する。これにより、複数の複合磁性粒子30が得られる。
【0064】
絶縁被膜形成工程(S13)では、たとえば金属磁性粒子10をリン酸塩化成処理することによってリン酸塩からなる絶縁被膜20を形成することができる。また、リン酸塩からなる絶縁被膜20の形成方法としては、リン酸塩化成処理の他に溶剤吹きつけや前駆体を用いたゾルゲル処理を利用することもできる。また、シリコン系有機化合物よりなる絶縁被膜20を形成してもよい。この絶縁被膜の形成には、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用することができる。
【0065】
また、絶縁被膜形成工程(S13)では、リン化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる絶縁被膜20を形成することが好ましい。具体的には、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、酸化シリコン、または酸化ジルコニウムなどよりなる絶縁被膜20を形成することが好ましい。
【0066】
また、複数層の絶縁被膜20を備える軟磁性材料を製造する場合には、図5に示すように、絶縁被膜形成工程(S13)では、一の絶縁被膜20aとして上記絶縁被膜20を形成する絶縁被膜工程と、一の絶縁被膜20aの表面を取り囲む他の絶縁被膜20bを形成する他の絶縁被膜形成工程とを含み、他の絶縁被膜20bは、熱硬化型シリコーン樹脂を含んでいることが好ましい。
【0067】
図5に示すような2層の絶縁被膜を形成する場合には、一の絶縁被膜20aの形成された金属磁性粒子10の各々と、後述する添加工程(S14)で添加される添加剤40とを混合し、他の絶縁被膜20bを形成する。
【0068】
他の絶縁被膜20bの形成方法としては、上記方法の他、有機溶媒に溶かしたシリコーン樹脂を混合あるいは噴霧し、その後シリコーン樹脂を乾燥させて有機溶媒を除去するといった方法を用いてもよい。
【0069】
次に、図6に示すように、複数の金属磁性粒子10に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下の金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤40を加える添加工程(S14)を実施する。添加工程(S14)では、金属磁性粒子10と添加剤40とを混合する。混合方法については特に制限はなく、たとえばメカニカルアロイング法、振動ボールミル、遊星ボールミル、メカノフュージョン、共沈法、化学気相蒸着法(CVD法)、物理気相蒸着法(PVD法)、めっき法、スパッタリング法、蒸着法またはゾル−ゲル法などのいずれを使用することも可能である。なお、必要に応じて樹脂または他の添加剤をさらに添加してもよい。
【0070】
以上の工程(S11〜S14)により、本実施の形態の軟磁性材料が得られる。なお、本実施の形態における圧粉磁心を製造する場合には、さらに以下の工程が行なわれる。
【0071】
次に、得られた軟磁性材料を金型に入れ、加圧成形する加圧成形工程(S21)を実施する。加圧成形工程(S21)では、たとえば390MPa以上1500MPa以下の圧力で加圧成形する。これにより、軟磁性材料が圧粉成形された成形体が得られる。なお、加圧成形する雰囲気は、不活性ガス雰囲気または減圧雰囲気とすることが好ましい。この場合、大気中の酸素によって混合粉末が酸化されるのを抑制することができる。
【0072】
添加工程(S14)を実施した場合には、加圧成形工程(S21)時、隣り合う複合磁性粒子30間に金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方を含む添加剤40を介在することによって、複合磁性粒子30同士が強く擦れ合うことを防止する。この際、添加剤40は優れた潤滑性を示すため、複合磁性粒子30の外表面に設けられた絶縁被膜20は破壊されない。これにより、絶縁被膜20が金属磁性粒子10の表面を覆う形態を維持することができ、絶縁被膜20を金属磁性粒子10間の絶縁層として確実に機能させることができる。
【0073】
なお、添加工程(S14)では、添加剤40の代わりに、または合わせて他の潤滑剤や樹脂を添加してもよい。
【0074】
次に、加圧成形によって得られた成形体を熱処理する第2の熱処理工程(S22)を実施する。第2の熱処理工程(S22)では、たとえば575℃以上絶縁被膜20の熱分解温度以下の温度で熱処理する。加圧成形を経た成形体の内部には欠陥が多数発生しているので、第2の熱処理工程(S22)によりこれらの欠陥を取り除くことができる。また、第2の熱処理工程(S22)は、絶縁被膜20の熱分解温度未満の温度で実施されているため、第2の熱処理工程(S22)を実施することによって絶縁被膜20が劣化するということがない。また、第2の熱処理工程(S22)によって、添加剤40は、絶縁物50となる。
【0075】
第2の熱処理工程(S22)後、必要に応じて、成形体に押出し加工や切削加工など適当な加工を施すことによって、図2に示す圧粉磁心が完成する。
【0076】
以上説明した工程(S11〜S14,S21〜S22)により、図2に示す本実施の形態の圧粉磁心を製造できる。また、絶縁被膜20を2層有する軟磁性材料を用いる場合には、図7に示すような圧粉磁心を製造できる。なお、図7は、本発明の実施の形態における他の圧粉磁心を模式的に示す図である。
【0077】
以上説明したように、本発明の実施の形態における軟磁性材料によれば、粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、円形度Sfが0.80以上1以下である金属磁性粒子10を備えている。変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であるため、図3、図4(A)および(B)に示すように、金属磁性粒子10の粒径のばらつきを低減できる(粒径の分布を均一にできる)。そのため、軟磁性材料を用いて作製された圧粉磁心内部の均一性を向上できるので、磁化過程において磁壁の移動を容易にできる。また、金属磁性粒子10の円形度Sfが0.8以上であるため、軟磁性材料の加圧成形時に金属磁性粒子10の表面に生じる歪みを低減できる。金属磁性粒子10の変動係数Cvおよび円形度Sfの相乗効果により、図8に示すように、BHカーブにおいて磁束密度を向上できる。その結果、図9に示すように、直流電流の増大によるインダクタンスの低下を抑制できる。すなわち、直流重畳特性を向上できる。なお、図8は、本発明の実施の形態における磁場と磁束密度との関係を示す図である。また、図9は、本発明の実施の形態における直流電流とインダクタンスとの関係を示す図である。図8および図9において本発明例と記載したものが本実施の形態における金属磁性粒子10を備える軟磁性材料を用いて作製された圧粉磁心を示す。
【0078】
[実施例]
本実施例では、変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下で、円形度Sfが0.80以上である金属磁性粒子を備えることの効果を調べた。
【0079】
(実施例1〜4)
実施例1における軟磁性材料は、上述した実施の形態における軟磁性材料の製造方法を用いて製造された軟磁性材料を用いた。具体的には、まず、準備工程(S11)では、鉄粉を水アトマイズ法により鉄が99.6重量%以上含有され、残部が0.3重量%以下のOおよび0.1重量%以下のC、N、P、またはMnなどの不可避的不純物からなる金属磁性粒子を準備した。実施例1〜4の金属磁性粒子の平均粒径は、それぞれ表1に記載の通りとした。また、実施例1〜4の金属磁性粒子の変動係数Cvおよび円形度Sfは、それぞれ表1に記載の通りであった。なお、金属磁性粒子の変動係数Cvは、レーザ散乱回折粒度分布測定法を用いて対象の軟磁性材料(複数の金属磁性粒子)の粒度分布を測定することにより算出した。円形度Sfは、金属磁性粒子の面積と外周長さを測定した金属磁性粒子の投影像から統計的に算出し、上記式(1)に基づいて算出した。
【0080】
次に、絶縁被膜形成工程(S13)では、リン酸塩化成処理を実施して、リン酸鉄からなる絶縁被膜を形成した。
【0081】
次に、添加工程(S14)では、実施例1〜3では金属石鹸としてのステアリン酸亜鉛をそれぞれ0.1質量%添加した。実施例4では非六方晶系の結晶構造を有する潤滑剤であるエチレンビスステアリン酸アミドを0.1質量%添加した。また、0.3質量%のメチル系シリコーン樹脂をさらに添加した。これにより、実施例1〜4の軟磁性材料を得た。
【0082】
次に、加圧成形工程(S21)では、軟磁性材料を1000MPaの圧力を印加して、成形体を作製した。そして、第2の熱処理工程(S22)では、500℃で、窒素気流雰囲気において1時間、成形体を熱処理した。これにより、実施例1の圧粉磁心を製造した。
【0083】
(比較例1〜4)
比較例1〜4の軟磁性材料は、基本的には、実施例2の軟磁性材料と同様に製造したが、変動係数Cv、円形度Sf、および平均粒径(μ)を下記の表1に記載のようにそれぞれ変更した点においてのみ異なる。また、比較例1〜4の軟磁性材料は、実施例1と同様に製造した。
【0084】
(評価方法)
実施例1〜4および比較例1〜4の圧粉磁心について、直流重畳特性および渦電流損をそれぞれ測定した。
【0085】
具体的には、直流重畳特性については、図10に示すように試料を組み、直流重畳試験機を用いて測定した。その結果を図11および表1に示す。なお、図10は、実施例における直流重畳特性を測定するための装置を示す概略図である。図11は、実施例における直流重畳特性を示す図である。図11において、縦軸は0Aの時のインダクタンスL0Aに対するxAのインダクタンスLxAの比(LxA/L0A)(単位:なし)を示し、横軸は印加した電流(単位:A)を示す。また、表1においてL8A/L0Aとは、0Aの時のインダクタンスL0Aに対する8AのインダクタンスL8Aの比を示す。
【0086】
渦電流損失は、鉄損を測定し、鉄損の周波数依存性からヒステリシス損および渦電流損に分離して評価を行なった。具体的には、得られた実施例1〜4および比較例1〜4の圧粉磁心の各々について、外径34mm、内径20mm、厚み5mmのリング状成形体(熱処理済)に関し、一次300巻、二次20巻の巻き線を施し、磁気特性測定用試料とした。これらの試料について、AC−BHカーブトレーサを用いて50Hz〜10000Hzの範囲で周波数を変化させて、励起磁束密度1kG(=0.1T(テスラ))における鉄損を測定した。そして鉄損から渦電流損を算出した。その結果を表1に示す。渦電流損の算出は、鉄損の周波数曲線を次の3つの式で最小2乗法によりフィッティングすることで行なった。
(鉄損)=(ヒステリシス損係数)×(周波数)+(渦電流損係数)×(周波数)2
(渦電流損)=(渦電流損係数)×(周波数)2
【0087】
【表1】
【0088】
(測定結果)
図11および表1に示すように、変動係数Cvが0.4以下で、かつ円形度Sfが0.8以上1.0以下の金属磁性粒子を備えた実施例1〜4は、比較例1〜3に比べて、インダクタンスの低下量が小さく、かつ直流重畳特性に優れていることがわかった。
【0089】
また、ほぼ同じ粒径と変動係数とを有する実施例1と比較例4との比較により、円形度が大きいほど渦電流損失を抑制できることがわかった。そのため、実施例1と円形度が0.91以上の実施例2〜4との比較により、円形度が0.91以上であれば重畳特性に優れるとともに、渦電流損をより低減できることがわかった。
【0090】
さらに、実施例3および4と実施例1との比較により、ほぼ同程度の変動係数Cvを有している場合には、平均粒径が小さくなっていることにより、優れた直流重畳特性とより低い渦電流損失とが得られた。さらには、実施例3と実施例4との比較により、金属石鹸を用いて絶縁被膜の耐熱温度を向上したことにより、ヒステリシス損失も低く、最も優れた特性を示している。
【0091】
以上説明したように、実施例によれば、粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、円形度Sfが0.80以上1以下である金属磁性粒子を備える軟磁性材料は、直流重畳特性を向上できることが確認できた。
【0092】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法は、たとえばトランス、チョークコイル、およびインバーター等の静止器の鉄芯などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施の形態における軟磁性材料を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における圧粉磁心の拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における金属磁性粒子の粒径の分布と、従来例における金属磁性粒子の粒径の分布を示す模式図である。
【図4】(A)は、本発明の実施の形態における金属磁性粒子の形状を示す概略模式図であり、(B)は従来例における金属磁性粒子の形状を示す概略模式図である。
【図5】本発明の実施の形態における他の軟磁性材料を模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施の形態における軟磁性材料の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態における他の圧粉磁心を模式的に示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における磁場と磁束密度との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態における直流電流とインダクタンスとの関係を示す図である。
【図10】実施例における直流重畳特性を測定するための装置を示す概略図である。
【図11】実施例における直流重畳特性を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
10 金属磁性粒子、20 絶縁被膜、20a 一の絶縁被膜、20b 他の絶縁被膜、30 複合磁性粒子、40 添加剤、50 絶縁物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法に関し、たとえば、磁気飽和を起こし難くインバーター等の磁心に用いた場合に直流重畳特性に優れた軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トランス、チョークコイル、およびインバーター等の静止器の鉄芯に用いられる軟磁性材料には電磁鋼板が用いられているが、電磁鋼板の代替材料として圧粉磁心が検討されている。
【0003】
一般に、静止器においてコイルに印加される電流波形は、直流成分に交流成分が加わった波形となっている。直流電流が増加すると、コイルのインダクタンスは低下し、その結果、インピーダンスが低下してしまうので、出力が低下してしまう、または電力変換効率が低下してしまう等の問題が発生してしまう。したがって、静止器に用いられる軟磁性材料には、直流電流の増加に伴うインダクタンスの低下量が少ない、すなわち、直流重畳特性が良いこと、および、低損失(低鉄損)であることが要求されている。
【0004】
しかし、圧粉磁心は、電磁鋼板よりも直流重畳特性に劣っている。なお、その理由としては、直流電流の増加によるインダクタンスの低下が、軟磁性材料の磁気飽和により生じることによる。具体的には、直流電流が大きくなると、軟磁性材料に印加される磁場は大きくなる。すると、磁気飽和により透磁率が低下する。すると、インダクタンスは透磁率に比例するので、インダクタンスが低下する。
【0005】
そこで、圧粉磁心の直流重畳特性を改善するため、特開2004−319652号公報(特許文献1)に磁心の製造方法およびその磁心が開示されている。特許文献1には、粒径が5〜70μmの異形状の軟質磁性粉末を用いていることが開示されている。
【特許文献1】特開2004−319652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の磁心では、粒径の範囲を規定しているのみなので、上記粒径の範囲内で粉末の粒径にばらつきが生じる。そのため、当該粉末を成形すると、内部の均一性が低下するため、直流重畳特性に改善の余地が残る。
【0007】
それゆえ本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、直流重畳特性を向上できる軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟磁性材料は、複数の金属磁性粒子を備え、金属磁性粒子の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、金属磁性粒子の円形度Sfが0.80以上1以下である。
【0009】
本発明の軟磁性材料の製造方法は、複数の金属磁性粒子を準備する準備工程を備え、準備工程では、粒径の標準偏差(σ)と、平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、円形度Sfが0.80以上1以下である金属磁性粒子を準備する。
【0010】
本発明の軟磁性材料および軟磁性材料の製造方法によれば、金属磁性粒子の変動係数Cvを0.40以下とすることにより、金属磁性粒子の粒径の分布を均一にできる。そのため、軟磁性材料を用いて加圧成形された成形体内部の均一性を向上できるので、磁化過程において磁壁の移動を容易にすることができる。その結果として、直流重畳特性を向上できる。また、金属磁性粒子の円形度Sfを0.80以上とすることによって、軟磁性材料を加圧成形する時に金属磁性粒子の表面に生じる歪みを低減できるので、直流重畳特性を向上できる。なお、金属磁性粒子の外形が真球状である場合には、金属磁性粒子の円形度Sfは、1となる。
【0011】
なお、上記「粒径の標準偏差(σ)」とは、レーザ散乱回折粒度分布測定法で測定される金属磁性粒子の粒径により、算出される値である。また、「金属磁性粒子の平均粒径(μ)」とは、レーザ散乱回折粒度分布測定法で測定される金属磁性粒子の粒径のヒストグラム中、粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径の値である。また、「金属磁性粒子の円形度」とは、下記の式1により規定される値である。なお、下記の式1において、金属磁性粒子の面積および外周長さは、光学的手法によって特定できる。光学的手法とは、たとえば、測定対象の金属磁性粒子を投影して得られる金属磁性粒子の投影像より市販の画像処理装置を用いて統計的に算出する方法を指す。
円形度=4π×金属磁性粒子の面積/金属磁性粒子の外周長さの2乗 ・・・(式1)
【0012】
上記軟磁性材料において好ましくは、金属磁性粒子の平均粒径が1μm以上70μm以下である。
【0013】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、準備工程では、平均粒径が1μm以上70μm以下の金属磁性粒子を準備する。
【0014】
金属磁性粒子の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性材料の流動性を落とすことがなく、軟磁性材料を用いて製作された圧粉磁心の保磁力およびヒステリシス損の増加を抑制できる。金属磁性粒子の平均粒径を70μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。
【0015】
上記軟磁性材料において好ましくは、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤をさらに備え、添加剤は、複数の金属磁性粒子に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下含まれている。
【0016】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、複数の金属磁性粒子に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下の金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤を加える添加工程をさらに備えている。
【0017】
0.001質量%以上の添加剤を備えることによって、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の高い潤滑性から、金属磁性粒子の流動性を向上できるので、金型に充填したときの軟磁性材料の充填性を向上できる。その結果、軟磁性材料を成形した成形体の密度を向上できるので、直流重畳特性を向上できる。0.2質量%以下の添加剤を備えることによって、軟磁性材料を成形した成形体の密度の低下を抑制できるので、直流重畳特性の劣化を防止できる。
【0018】
上記軟磁性材料において好ましくは、金属磁性粒子の表面を取り囲む絶縁被膜をさらに備えている。
【0019】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、金属磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程をさらに備えている。
【0020】
これにより、絶縁被膜は円形度Sfが0.80以上の金属磁性粒子の表面を取り囲むので、成形体内部において絶縁被膜が金属磁性粒子間に形成される。その結果、金属磁性粒子間を効果的に絶縁できるので、渦電流損を低減できる。よって、高周波において効果的に鉄損を低減できる。
【0021】
特に、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方をさらに備えている場合において、軟磁性材料を成形するときに絶縁被膜の破損をより低減できる。その結果、高温の環境下においても、金属磁性粒子間の絶縁性をより向上できるので、渦電流損をより低減できる。よって、高周波においてより効果的に鉄損を低減できる。
【0022】
上記軟磁性材料において好ましくは、絶縁被膜は、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる。
【0023】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、絶縁被膜形成工程では、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる絶縁被膜を形成する。
【0024】
これらの物質は絶縁性に優れているため、金属磁性粒子間を流れる渦電流をより効果的に抑制することができる。
【0025】
上記軟磁性材料において好ましくは、絶縁被膜は、一の絶縁被膜であり、金属磁性粒子は一の絶縁被膜の表面を取り囲む他の絶縁被膜を有し、他の絶縁被膜は、熱硬化型シリコーン樹脂を含む。
【0026】
また、上記軟磁性材料の製造方法において好ましくは、被膜形成工程は、一の絶縁被膜として絶縁被膜を形成する一の絶縁被膜形成工程と、一の絶縁被膜の表面を取り囲む他の絶縁被膜を形成する他の絶縁被膜形成工程とを含み、他の絶縁被膜形成工程では、熱硬化型シリコーン樹脂を含む他の絶縁被膜を形成する。
【0027】
これにより、一の絶縁被膜が他の絶縁被膜によって保護され、軟磁性材料の熱処理の際に絶縁被膜の温度上昇を他の絶縁被膜によって抑制することができる。このため、絶縁被膜の耐熱性を向上できる軟磁性材料が得られる。また、上記物質は高い耐熱性を有するとともに、金属磁性粒子と絶縁被膜とを備える複合磁性粒子同士の接合強度を高める役割を果たす。
【0028】
本発明の圧粉磁心は、軟磁性材料を用いて作製されている。また、本発明の圧粉磁心の製造方法は、軟磁性材料の製造方法を用いて軟磁性材料を製造する工程と、軟磁性材料を用いて加圧成形して圧粉磁心を製造する工程とを備えている。これにより、直流重畳特性を向上できる圧粉磁心を得られる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の軟磁性材料および軟磁性材料の製造方法によれば、変動係数Cvを0.40以下とし、円形度Sfを0.80以上1以下である複数の金属磁性粒子を備えているので、直流重畳特性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0031】
図1は、本発明の実施の形態における軟磁性材料を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施の形態における軟磁性材料は、金属磁性粒子10と、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20とを有する複数の複合磁性粒子30と、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤40とを備えている。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態における圧粉磁心の拡大断面図である。図2の圧粉磁心は、図1の軟磁性材料に加圧成形および熱処理を施すことによって作製されたものである。図1および図2に示すように、本実施の形態における圧粉磁心において、複数の複合磁性粒子30の各々は、絶縁物50によって接合されていたり、複合磁性粒子30が有する凹凸の噛み合わせなどによって接合されていたりする。絶縁物50は軟磁性材料に含まれていた添加剤40および樹脂(図示せず)などが熱処理の際に変化したものである。
【0033】
本発明の軟磁性材料および圧粉磁心において、金属磁性粒子10の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)は0.40以下であり、金属磁性粒子10の円形度Sfは0.80以上1以下である。
【0034】
金属磁性粒子10の変動係数Cvは、0.40以下であり、0.38以下が好ましく、0.36以下がより好ましい。変動係数Cvを0.40以下とすることによって、金属磁性粒子10の粒径の分布を均一にできるので、軟磁性材料を用いて作製された成形体内部の均一性を向上できる。そのため、磁化過程において磁壁の移動を容易にできるので、直流重畳特性を向上できる。変動係数Cvを0.38以下とすることによって、直流重畳特性をより向上できる。変動係数Cvを0.36以下とすることによって、直流重畳特性をより効果的に向上できる。一方、変動係数Cvは小さい方が好ましいが、たとえば製造の容易性の観点から、0.001以上である。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態における金属磁性粒子10の粒径の分布と、従来例における金属磁性粒子の粒径の分布を示す模式図である。図3に示すように、本実施の形態における金属磁性粒子10(図3における本発明例)の変動係数は0.40以下であるので、従来例と比較して粒径の標準偏差(σ)、すなわち粒径のばらつきが小さい。
【0036】
また、金属磁性粒子10の円形度Sfは、0.80以上1以下であり、0.91以上1以下が好ましく、0.92以上1以下がより好ましい。円形度Sfを0.80以上とすることによって、軟磁性材料の成形時に金属磁性粒子の表面に生じる歪みを低減できるので、直流重畳特性を向上できる。円形度Sfを0.91以上とすることによって、直流重畳特性をより向上できる。円形度Sfを0.92以上とすることによって、直流重畳特性をより効果的に向上できる。一方、金属磁性粒子の外形が真球状である場合には、金属磁性粒子の円形度Sfは、1となる。
【0037】
図4(A)は、本発明の実施の形態における金属磁性粒子10の形状を示す概略模式図であり、(B)は従来例における金属磁性粒子11の形状を示す概略模式図である。図4(A)および(B)に示すように、本実施の形態における金属磁性粒子10は、円形度Sfを0.80以上1以下としているので、従来の金属磁性粒子11と比較して、真球状に近い形状である。
【0038】
金属磁性粒子10の平均粒径(μ)は、1μm以上70μm以下であることが好ましく、1μm以上65μm以下がより好ましく、20μm以上60μm以下がより一層好ましい。金属磁性粒子10の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性材料の流動性を落とすことがなく、軟磁性材料を用いて製作された圧粉磁心の保磁力およびヒステリシス損の増加を抑制できる。20μm以上とすることによって、軟磁性材料を用いて製作された圧粉磁心の保磁力およびヒステリシス損の増加をより抑制できる。一方、金属磁性粒子10の平均粒径を70μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。65μm以下とすることによって、渦電流損をより効果的に低減できる。60μm以下とすることによって、渦電流損をより一層効果的に低減できる。
【0039】
金属磁性粒子10は、たとえば、鉄(Fe)、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−クロム(Cr)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−マンガン(Mn)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−シリコン(Si)−クロム(Cr)系合金、鉄(Fe)−シリコン(Si)−マンガン(Mn)系合金、および鉄(Fe)−シリコン(Si)−ニッケル(Ni)系合金などから形成されている。金属磁性粒子10は、金属単体でも合金でもよい。
【0040】
図1に示す軟磁性材料および図2に示す圧粉磁心は、金属磁性粒子10の表面を取り囲む絶縁被膜20をさらに備えていることが好ましい。絶縁被膜20は、金属磁性粒子10間の絶縁層として機能する。金属磁性粒子10を絶縁被膜20で覆うことによって、この軟磁性材料を加圧成形して得られる圧粉磁心の電気抵抗率ρを大きくすることができる。これにより、金属磁性粒子10間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉磁心の渦電流損を低減させることができる。
【0041】
絶縁被膜20の平均膜厚は、10nm以上1μm以下であることが好ましい。絶縁被膜20の平均膜厚を10nm以上とすることによって、渦電流損を効果的に抑制することができる。絶縁被膜20の平均膜厚を1μm以下とすることによって、加圧成形時に絶縁被膜20がせん断破壊することを防止できる。また、軟磁性材料に占める絶縁被膜20の割合が大きくなりすぎないので、軟磁性材料を加圧成形して得られる圧粉磁心の磁束密度が著しく低下することを防止できる。
【0042】
なお、「平均膜厚」とは、組成分析(TEM−EDX:transmission electron microscope energy dispersive X-ray spectroscopy)によって得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS:inductively coupled plasma-mass spectrometry)によって得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出し、さらに、TEM写真により直接、被膜を観察し、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定されるものをいう。
【0043】
また、絶縁被膜20は、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなるものを用いることが好ましい。これらの物質は絶縁性に優れているため、金属磁性粒子10巻を流れる渦電流を効果的に抑制できる。具体的には、酸化シリコン、または酸化ジルコニウムなどよりなっていることが好ましい。特に、絶縁被膜20にリン酸塩を含む金属酸化物を使用することにより、金属磁性粒子の表面を覆う被覆層をより薄くすることができる。これにより、複合磁性粒子30の磁束密度を大きくすることができ、磁気特性が向上するからである。
【0044】
また、絶縁被膜20は、金属としてFe(鉄)、Al(アルミニウム)、Ca(カルシウム)、Mn(マンガン)、Zn(亜鉛)、Mg(マグネシウム)V(バナジウム)、Cr(クロム)、Y(イットリウム)、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、または希土類元素を用いた金属酸化物、金属窒化物、金属酸化物、リン酸金属塩化合物、ホウ酸金属塩化合物、またはケイ酸金属塩化合物などよりなっていてもよい。
【0045】
また、絶縁被膜20は、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Mg(マグネシウム)、Y(イットリウム)、Ca(カルシウム)、Zr(ジルコニウム)、およびFe(鉄)からなる群より選ばれる少なくとも1種の物質のリン酸塩の非晶質化合物、および当該物質のホウ酸塩の非晶質化合物よりなっていてもよい。
【0046】
さらに、絶縁被膜20は、Si、Mg、Y、Ca、およびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質の酸化物の非晶質化合物よりなっていてもよい。
【0047】
なお、上記においては軟磁性材料を構成する複合磁性粒子が1層の絶縁被膜により構成されている場合について示したが、軟磁性材料を構成する複合磁性粒子が以下に述べるように複数層の絶縁被膜により構成されていてもよい。
【0048】
図5は、本発明の実施の形態における他の軟磁性材料を模式的に示す図である。図5を参照して、本実施の形態における他の軟磁性材料において、絶縁被膜20は、一の絶縁被膜20aと、他の絶縁被膜20bとを有している。一の絶縁被膜20aは金属磁性粒子10の表面を取り囲んでおり、他の絶縁被膜20bは一の絶縁被膜20aの表面を取り囲んでいる。
【0049】
一の絶縁被膜20aは、図1および図2における絶縁被膜20とほぼ同様の構成を有している。
【0050】
他の絶縁被膜20bとしては、シリコーン樹脂、熱可塑性樹脂、非熱可塑性樹脂、または高級脂肪酸塩が用いられることが好ましい。具体的には、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドまたはポリエーテルエーテルケトン、高分子量ポリエチレン、全芳香族ポリエステルなどの熱可塑性樹脂や、全芳香族ポリイミド、非熱可塑性ポリアミドイミドなどの非熱可塑性樹脂や、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸リチウムまたはオレイン酸カルシウムなどの高級脂肪酸塩が用いられることが好ましい。絶縁被膜20bは、特に熱硬化型シリコーン樹脂からなっていることが好ましい。また、これらの有機物を互いに混合して用いることもできる。なお、高分子量ポリエチレンとは、分子量が10万以上のポリエチレンをいう。
【0051】
なお、一の絶縁被膜20aおよび、他の絶縁被膜20bは、単数の層からなっている場合に限定されず、一の絶縁被膜20aおよび他の絶縁被膜20bにおいてそれぞれ複数の層からなっていてもよい。
【0052】
図1に示す軟磁性材料および図2に示す圧粉磁心は、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤40をさらに備えていることが好ましい。
【0053】
金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸リチウム、およびオレイン酸カルシウム等を用いることができる。また六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤としては、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、およびグラファイト等を用いることができる。
【0054】
添加剤40は、複数の金属磁性粒子10に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下含まれていることが好ましく、0.001質量%以上0.1質量%以下の割合で含まれていることが好ましい。添加剤40を0.001質量%以上とすることによって、金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の高い潤滑性から、金属磁性粒子10の流動性を向上できるので、金型に充填したときの軟磁性材料の充填性を向上できる。その結果、軟磁性材料を成形した成形体の密度を向上できるので、直流重畳特性を向上できる。一方、添加剤40を0.2質量%以下とすることによって、軟磁性材料を成形した成形体の密度の低下を抑制できるので、直流重畳特性の劣化を防止できる。
【0055】
特に、添加剤40を構成する金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤は、絶縁被膜20の損傷を抑える良好な潤滑性を得ることができるので、軟磁性材料を成形するときに絶縁被膜20の破損をより低減できる。その結果、高温の環境下においても、隣り合う金属磁性粒子10同士の接合力が保たれるので、渦電流損をより低減できる。そのため、高周波においてより効果的に鉄損を低減できる。
【0056】
また、添加剤40の平均粒径は2.0μm以下であることが好ましい。2.0μm以下とすることによって、軟磁性材料を加圧成形する時の絶縁被膜20の損傷をより低減できるので、鉄損をより低減することができる。
【0057】
なお、「添加剤40の平均粒径」とは、レーザ散乱回折法によって測定した粒径のヒストグラム中、粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径Dをいう。
【0058】
なお、図1に示す軟磁性材料は、上述した添加剤40以外の潤滑剤等や樹脂(図示せず)などをさらに含んでいてもよい。
【0059】
次に、図6を参照して、本発明の軟磁性材料の製造方法について説明する。なお、図6は、本発明の実施の形態における軟磁性材料の製造方法を示すフローチャートである。
【0060】
図6に示すように、まず、複数の金属磁性粒子10を準備する準備工程(S11)を実施する。準備工程(S11)では、金属磁性粒子10の粒径の標準偏差(σ)と、金属磁性粒子10の平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.4以下であり、金属磁性粒子10の円形度Sfが0.8以上1以下である金属磁性粒子10を準備する。
【0061】
準備工程(S11)では、上述した複数の金属磁性粒子10を準備する。これらの金属磁性粒子10は、たとえば所定の成分を含有する鉄をアトマイズ法または水アトマイズ法などにより粉末化して準備される。特に、準備工程(S11)では、平均粒径が1μm以上70μm以下の金属磁性粒子10を準備することが好ましい。
【0062】
次に、図6に示すように、複数の金属磁性粒子10を熱処理する第1の熱処理工程(S12)を実施する。第1の熱処理工程(S12)では、複数の金属磁性粒子10を、たとえば700℃以上1400℃未満の温度で熱処理する。熱処理前の金属磁性粒子10の内部には、アトマイズ処理時の熱応力などに起因する歪みや結晶粒界などの多数の欠陥が存在している。そこで、第1の熱処理工程(S12)において金属磁性粒子10に熱処理を実施することによって、これらの欠陥を低減させることができる。なお、第1の熱処理工程(S12)は省略されてもよい。
【0063】
次に、図6に示すように、金属磁性粒子10の表面に絶縁被膜20を形成する絶縁被膜形成工程(S13)を実施する。絶縁被膜形成工程(S13)では、金属磁性粒子10の各々の表面に上述した絶縁被膜20(または一の絶縁被膜20aおよび他の絶縁被膜20b)を形成する。これにより、複数の複合磁性粒子30が得られる。
【0064】
絶縁被膜形成工程(S13)では、たとえば金属磁性粒子10をリン酸塩化成処理することによってリン酸塩からなる絶縁被膜20を形成することができる。また、リン酸塩からなる絶縁被膜20の形成方法としては、リン酸塩化成処理の他に溶剤吹きつけや前駆体を用いたゾルゲル処理を利用することもできる。また、シリコン系有機化合物よりなる絶縁被膜20を形成してもよい。この絶縁被膜の形成には、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用することができる。
【0065】
また、絶縁被膜形成工程(S13)では、リン化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる絶縁被膜20を形成することが好ましい。具体的には、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、酸化シリコン、または酸化ジルコニウムなどよりなる絶縁被膜20を形成することが好ましい。
【0066】
また、複数層の絶縁被膜20を備える軟磁性材料を製造する場合には、図5に示すように、絶縁被膜形成工程(S13)では、一の絶縁被膜20aとして上記絶縁被膜20を形成する絶縁被膜工程と、一の絶縁被膜20aの表面を取り囲む他の絶縁被膜20bを形成する他の絶縁被膜形成工程とを含み、他の絶縁被膜20bは、熱硬化型シリコーン樹脂を含んでいることが好ましい。
【0067】
図5に示すような2層の絶縁被膜を形成する場合には、一の絶縁被膜20aの形成された金属磁性粒子10の各々と、後述する添加工程(S14)で添加される添加剤40とを混合し、他の絶縁被膜20bを形成する。
【0068】
他の絶縁被膜20bの形成方法としては、上記方法の他、有機溶媒に溶かしたシリコーン樹脂を混合あるいは噴霧し、その後シリコーン樹脂を乾燥させて有機溶媒を除去するといった方法を用いてもよい。
【0069】
次に、図6に示すように、複数の金属磁性粒子10に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下の金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤40を加える添加工程(S14)を実施する。添加工程(S14)では、金属磁性粒子10と添加剤40とを混合する。混合方法については特に制限はなく、たとえばメカニカルアロイング法、振動ボールミル、遊星ボールミル、メカノフュージョン、共沈法、化学気相蒸着法(CVD法)、物理気相蒸着法(PVD法)、めっき法、スパッタリング法、蒸着法またはゾル−ゲル法などのいずれを使用することも可能である。なお、必要に応じて樹脂または他の添加剤をさらに添加してもよい。
【0070】
以上の工程(S11〜S14)により、本実施の形態の軟磁性材料が得られる。なお、本実施の形態における圧粉磁心を製造する場合には、さらに以下の工程が行なわれる。
【0071】
次に、得られた軟磁性材料を金型に入れ、加圧成形する加圧成形工程(S21)を実施する。加圧成形工程(S21)では、たとえば390MPa以上1500MPa以下の圧力で加圧成形する。これにより、軟磁性材料が圧粉成形された成形体が得られる。なお、加圧成形する雰囲気は、不活性ガス雰囲気または減圧雰囲気とすることが好ましい。この場合、大気中の酸素によって混合粉末が酸化されるのを抑制することができる。
【0072】
添加工程(S14)を実施した場合には、加圧成形工程(S21)時、隣り合う複合磁性粒子30間に金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方を含む添加剤40を介在することによって、複合磁性粒子30同士が強く擦れ合うことを防止する。この際、添加剤40は優れた潤滑性を示すため、複合磁性粒子30の外表面に設けられた絶縁被膜20は破壊されない。これにより、絶縁被膜20が金属磁性粒子10の表面を覆う形態を維持することができ、絶縁被膜20を金属磁性粒子10間の絶縁層として確実に機能させることができる。
【0073】
なお、添加工程(S14)では、添加剤40の代わりに、または合わせて他の潤滑剤や樹脂を添加してもよい。
【0074】
次に、加圧成形によって得られた成形体を熱処理する第2の熱処理工程(S22)を実施する。第2の熱処理工程(S22)では、たとえば575℃以上絶縁被膜20の熱分解温度以下の温度で熱処理する。加圧成形を経た成形体の内部には欠陥が多数発生しているので、第2の熱処理工程(S22)によりこれらの欠陥を取り除くことができる。また、第2の熱処理工程(S22)は、絶縁被膜20の熱分解温度未満の温度で実施されているため、第2の熱処理工程(S22)を実施することによって絶縁被膜20が劣化するということがない。また、第2の熱処理工程(S22)によって、添加剤40は、絶縁物50となる。
【0075】
第2の熱処理工程(S22)後、必要に応じて、成形体に押出し加工や切削加工など適当な加工を施すことによって、図2に示す圧粉磁心が完成する。
【0076】
以上説明した工程(S11〜S14,S21〜S22)により、図2に示す本実施の形態の圧粉磁心を製造できる。また、絶縁被膜20を2層有する軟磁性材料を用いる場合には、図7に示すような圧粉磁心を製造できる。なお、図7は、本発明の実施の形態における他の圧粉磁心を模式的に示す図である。
【0077】
以上説明したように、本発明の実施の形態における軟磁性材料によれば、粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、円形度Sfが0.80以上1以下である金属磁性粒子10を備えている。変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であるため、図3、図4(A)および(B)に示すように、金属磁性粒子10の粒径のばらつきを低減できる(粒径の分布を均一にできる)。そのため、軟磁性材料を用いて作製された圧粉磁心内部の均一性を向上できるので、磁化過程において磁壁の移動を容易にできる。また、金属磁性粒子10の円形度Sfが0.8以上であるため、軟磁性材料の加圧成形時に金属磁性粒子10の表面に生じる歪みを低減できる。金属磁性粒子10の変動係数Cvおよび円形度Sfの相乗効果により、図8に示すように、BHカーブにおいて磁束密度を向上できる。その結果、図9に示すように、直流電流の増大によるインダクタンスの低下を抑制できる。すなわち、直流重畳特性を向上できる。なお、図8は、本発明の実施の形態における磁場と磁束密度との関係を示す図である。また、図9は、本発明の実施の形態における直流電流とインダクタンスとの関係を示す図である。図8および図9において本発明例と記載したものが本実施の形態における金属磁性粒子10を備える軟磁性材料を用いて作製された圧粉磁心を示す。
【0078】
[実施例]
本実施例では、変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下で、円形度Sfが0.80以上である金属磁性粒子を備えることの効果を調べた。
【0079】
(実施例1〜4)
実施例1における軟磁性材料は、上述した実施の形態における軟磁性材料の製造方法を用いて製造された軟磁性材料を用いた。具体的には、まず、準備工程(S11)では、鉄粉を水アトマイズ法により鉄が99.6重量%以上含有され、残部が0.3重量%以下のOおよび0.1重量%以下のC、N、P、またはMnなどの不可避的不純物からなる金属磁性粒子を準備した。実施例1〜4の金属磁性粒子の平均粒径は、それぞれ表1に記載の通りとした。また、実施例1〜4の金属磁性粒子の変動係数Cvおよび円形度Sfは、それぞれ表1に記載の通りであった。なお、金属磁性粒子の変動係数Cvは、レーザ散乱回折粒度分布測定法を用いて対象の軟磁性材料(複数の金属磁性粒子)の粒度分布を測定することにより算出した。円形度Sfは、金属磁性粒子の面積と外周長さを測定した金属磁性粒子の投影像から統計的に算出し、上記式(1)に基づいて算出した。
【0080】
次に、絶縁被膜形成工程(S13)では、リン酸塩化成処理を実施して、リン酸鉄からなる絶縁被膜を形成した。
【0081】
次に、添加工程(S14)では、実施例1〜3では金属石鹸としてのステアリン酸亜鉛をそれぞれ0.1質量%添加した。実施例4では非六方晶系の結晶構造を有する潤滑剤であるエチレンビスステアリン酸アミドを0.1質量%添加した。また、0.3質量%のメチル系シリコーン樹脂をさらに添加した。これにより、実施例1〜4の軟磁性材料を得た。
【0082】
次に、加圧成形工程(S21)では、軟磁性材料を1000MPaの圧力を印加して、成形体を作製した。そして、第2の熱処理工程(S22)では、500℃で、窒素気流雰囲気において1時間、成形体を熱処理した。これにより、実施例1の圧粉磁心を製造した。
【0083】
(比較例1〜4)
比較例1〜4の軟磁性材料は、基本的には、実施例2の軟磁性材料と同様に製造したが、変動係数Cv、円形度Sf、および平均粒径(μ)を下記の表1に記載のようにそれぞれ変更した点においてのみ異なる。また、比較例1〜4の軟磁性材料は、実施例1と同様に製造した。
【0084】
(評価方法)
実施例1〜4および比較例1〜4の圧粉磁心について、直流重畳特性および渦電流損をそれぞれ測定した。
【0085】
具体的には、直流重畳特性については、図10に示すように試料を組み、直流重畳試験機を用いて測定した。その結果を図11および表1に示す。なお、図10は、実施例における直流重畳特性を測定するための装置を示す概略図である。図11は、実施例における直流重畳特性を示す図である。図11において、縦軸は0Aの時のインダクタンスL0Aに対するxAのインダクタンスLxAの比(LxA/L0A)(単位:なし)を示し、横軸は印加した電流(単位:A)を示す。また、表1においてL8A/L0Aとは、0Aの時のインダクタンスL0Aに対する8AのインダクタンスL8Aの比を示す。
【0086】
渦電流損失は、鉄損を測定し、鉄損の周波数依存性からヒステリシス損および渦電流損に分離して評価を行なった。具体的には、得られた実施例1〜4および比較例1〜4の圧粉磁心の各々について、外径34mm、内径20mm、厚み5mmのリング状成形体(熱処理済)に関し、一次300巻、二次20巻の巻き線を施し、磁気特性測定用試料とした。これらの試料について、AC−BHカーブトレーサを用いて50Hz〜10000Hzの範囲で周波数を変化させて、励起磁束密度1kG(=0.1T(テスラ))における鉄損を測定した。そして鉄損から渦電流損を算出した。その結果を表1に示す。渦電流損の算出は、鉄損の周波数曲線を次の3つの式で最小2乗法によりフィッティングすることで行なった。
(鉄損)=(ヒステリシス損係数)×(周波数)+(渦電流損係数)×(周波数)2
(渦電流損)=(渦電流損係数)×(周波数)2
【0087】
【表1】
【0088】
(測定結果)
図11および表1に示すように、変動係数Cvが0.4以下で、かつ円形度Sfが0.8以上1.0以下の金属磁性粒子を備えた実施例1〜4は、比較例1〜3に比べて、インダクタンスの低下量が小さく、かつ直流重畳特性に優れていることがわかった。
【0089】
また、ほぼ同じ粒径と変動係数とを有する実施例1と比較例4との比較により、円形度が大きいほど渦電流損失を抑制できることがわかった。そのため、実施例1と円形度が0.91以上の実施例2〜4との比較により、円形度が0.91以上であれば重畳特性に優れるとともに、渦電流損をより低減できることがわかった。
【0090】
さらに、実施例3および4と実施例1との比較により、ほぼ同程度の変動係数Cvを有している場合には、平均粒径が小さくなっていることにより、優れた直流重畳特性とより低い渦電流損失とが得られた。さらには、実施例3と実施例4との比較により、金属石鹸を用いて絶縁被膜の耐熱温度を向上したことにより、ヒステリシス損失も低く、最も優れた特性を示している。
【0091】
以上説明したように、実施例によれば、粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、円形度Sfが0.80以上1以下である金属磁性粒子を備える軟磁性材料は、直流重畳特性を向上できることが確認できた。
【0092】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の軟磁性材料、圧粉磁心、軟磁性材料の製造方法、および圧粉磁心の製造方法は、たとえばトランス、チョークコイル、およびインバーター等の静止器の鉄芯などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施の形態における軟磁性材料を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における圧粉磁心の拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における金属磁性粒子の粒径の分布と、従来例における金属磁性粒子の粒径の分布を示す模式図である。
【図4】(A)は、本発明の実施の形態における金属磁性粒子の形状を示す概略模式図であり、(B)は従来例における金属磁性粒子の形状を示す概略模式図である。
【図5】本発明の実施の形態における他の軟磁性材料を模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施の形態における軟磁性材料の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態における他の圧粉磁心を模式的に示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における磁場と磁束密度との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態における直流電流とインダクタンスとの関係を示す図である。
【図10】実施例における直流重畳特性を測定するための装置を示す概略図である。
【図11】実施例における直流重畳特性を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
10 金属磁性粒子、20 絶縁被膜、20a 一の絶縁被膜、20b 他の絶縁被膜、30 複合磁性粒子、40 添加剤、50 絶縁物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属磁性粒子を備え、
前記金属磁性粒子の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、前記金属磁性粒子の円形度Sfが0.80以上1以下である、軟磁性材料。
【請求項2】
前記金属磁性粒子の平均粒径が1μm以上70μm以下である、請求項1に記載の軟磁性材料。
【請求項3】
金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤をさらに備え、
前記添加剤は、複数の前記金属磁性粒子に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下含まれる、請求項1または2に記載の軟磁性材料。
【請求項4】
前記金属磁性粒子の表面を取り囲む絶縁被膜をさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性材料。
【請求項5】
前記絶縁被膜は、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる、請求項4に記載の軟磁性材料。
【請求項6】
前記絶縁被膜は、一の絶縁被膜であり、
前記金属磁性粒子は前記一の絶縁被膜の表面を取り囲む他の絶縁被膜を有し、
前記他の絶縁被膜は、熱硬化型シリコーン樹脂を含む、請求項4または5に記載の軟磁性材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の軟磁性材料を用いて作製された、圧粉磁心。
【請求項8】
複数の金属磁性粒子を準備する準備工程を備え、
前記準備工程では、粒径の標準偏差(σ)と、平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、円形度Sfが0.80以上1以下である前記金属磁性粒子を準備する、軟磁性材料の製造方法。
【請求項9】
前記準備工程では、平均粒径が1μm以上70μm以下の前記金属磁性粒子を準備する、請求項8に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項10】
複数の前記金属磁性粒子に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下の金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤を加える添加工程をさらに備える、請求項8または9に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項11】
前記金属磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程をさらに備える、請求項8〜10のいずれかに記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項12】
前記絶縁被膜形成工程では、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる絶縁被膜を形成する、請求項11に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項13】
絶縁被膜形成工程は、一の絶縁被膜として前記絶縁被膜を形成する一の絶縁被膜形成工程と、
前記一の絶縁被膜の表面を取り囲む他の絶縁被膜を形成する他の絶縁被膜形成工程とを含み、
前記他の絶縁被膜形成工程では、熱硬化型シリコーン樹脂を含む前記他の絶縁被膜を形成する、請求項11または12に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載の軟磁性材料の製造方法を用いて軟磁性材料を製造する工程と、
前記軟磁性材料を用いて加圧成形して圧粉磁心を製造する工程とを備えた、圧粉磁心の製造方法。
【請求項1】
複数の金属磁性粒子を備え、
前記金属磁性粒子の粒径の標準偏差(σ)と平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、前記金属磁性粒子の円形度Sfが0.80以上1以下である、軟磁性材料。
【請求項2】
前記金属磁性粒子の平均粒径が1μm以上70μm以下である、請求項1に記載の軟磁性材料。
【請求項3】
金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤をさらに備え、
前記添加剤は、複数の前記金属磁性粒子に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下含まれる、請求項1または2に記載の軟磁性材料。
【請求項4】
前記金属磁性粒子の表面を取り囲む絶縁被膜をさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性材料。
【請求項5】
前記絶縁被膜は、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる、請求項4に記載の軟磁性材料。
【請求項6】
前記絶縁被膜は、一の絶縁被膜であり、
前記金属磁性粒子は前記一の絶縁被膜の表面を取り囲む他の絶縁被膜を有し、
前記他の絶縁被膜は、熱硬化型シリコーン樹脂を含む、請求項4または5に記載の軟磁性材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の軟磁性材料を用いて作製された、圧粉磁心。
【請求項8】
複数の金属磁性粒子を準備する準備工程を備え、
前記準備工程では、粒径の標準偏差(σ)と、平均粒径(μ)との比である変動係数Cv(σ/μ)が0.40以下であり、円形度Sfが0.80以上1以下である前記金属磁性粒子を準備する、軟磁性材料の製造方法。
【請求項9】
前記準備工程では、平均粒径が1μm以上70μm以下の前記金属磁性粒子を準備する、請求項8に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項10】
複数の前記金属磁性粒子に対して、0.001質量%以上0.2質量%以下の金属石鹸および六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤の少なくとも一方からなる添加剤を加える添加工程をさらに備える、請求項8または9に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項11】
前記金属磁性粒子の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程をさらに備える、請求項8〜10のいずれかに記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項12】
前記絶縁被膜形成工程では、リン酸化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、およびホウ素化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる絶縁被膜を形成する、請求項11に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項13】
絶縁被膜形成工程は、一の絶縁被膜として前記絶縁被膜を形成する一の絶縁被膜形成工程と、
前記一の絶縁被膜の表面を取り囲む他の絶縁被膜を形成する他の絶縁被膜形成工程とを含み、
前記他の絶縁被膜形成工程では、熱硬化型シリコーン樹脂を含む前記他の絶縁被膜を形成する、請求項11または12に記載の軟磁性材料の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載の軟磁性材料の製造方法を用いて軟磁性材料を製造する工程と、
前記軟磁性材料を用いて加圧成形して圧粉磁心を製造する工程とを備えた、圧粉磁心の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−70914(P2009−70914A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235637(P2007−235637)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】
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