説明

軟組織工学のための方法及び手段

本発明は、細胞不含脂肪組織抽出物、同抽出物を含むインプラント、及びこれを調製する方法に関する。当該抽出物及びインプラントは、脂肪形成性及び血管形成性を誘発する能力を有し、従って、軟組織の修復、工学的操作、及び血管形成の誘発、例えば創傷治癒、火傷及び虚血状態の治療を含む用途で有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軟組織工学に関する。より正確には、本発明は、無細胞脂肪組織抽出物、前記抽出物を含むインプラント、その調製方法及びその使用を対象とする。
【背景技術】
【0002】
軟組織は、筋肉、結合組織、脂肪組織、及び血管等の体内の結合構造及び支持構造から構成される。軟組織工学は、例えば外傷(火傷及び瘢痕)、外科的切除、又は先天的奇形に起因する軟組織欠損の交換パーツの製作を追及する。更に、美容用途、例えば顔の皺の充填術などは再構成軟組織の重要な応用例である。
【0003】
シリコン及びウシコラーゲン等の異物的形成材料が、組織工学に用いられてきた。但し、かかる材料は重度の拒絶反応の他、アレルギー反応を引き起こすおそれがある。従って、天然の移植材料の利用が今日では好まれる。
【0004】
自己移植は、軟組織工学の用途に望ましい。自己脂肪組織移植は、旧来方式の治療手順であり、この手順では、成熟した脂肪細胞又は脂肪組織そのものを欠損部位に移植する。脂肪組織は豊富で、収集しやすく、臨床用途としてすぐに入手可能である。しかし、自己脂肪組織移植を利用した場合、やはりいくつかの問題、例えば再吸収、結合組織の過剰形成(瘢痕)、炎症反応の他、移植物の硬化及び凝固を引き起こすおそれがある。更に、脂肪組織移植により得られる長期結果は予測不能で、用いる方法及び前記方法を実施する作業者の技量に依存して変化しやすい。
【0005】
脂肪幹細胞が軟組織工学で用いられてきた。かかる細胞は増殖し、成熟脂肪組織に分化する能力を有する。しかし、細胞の増殖と分化には、細胞外マトリクスが必須の役割を担っているので、大型の、又は深部の軟組織の欠損を細胞単独で修復できる可能性は低い。機能性の組織に再生するためには、移植細胞は、人工の細胞外マトリクス、すなわち細胞の付着、増殖、及び分化を支援するための生体物質からなる足場を必要とする。
【0006】
新たな血管の形成、すなわち新血管形成(neovascularization)は、再生中の軟組織における栄養分の供給及び廃棄物の処理を行う上で重要である。今日まで、単一の増殖因子(例えば、FGF−2又はVEGF)が、かかる目的のために生物活性物質として用いられてきたが、結果は満足のいくものではなかった。因子を単独で用いるのに替えて、様々な増殖因子/分化因子のプールが必要に思われる。しかし、分化因子の正しい組合せは不明である。単一のインプラントにおいて、生物工学による増殖因子のプールを用いれば、コストは非常に高くつくことになろう。
【0007】
今日まで、軟組織の欠損の再構築に向けた適当なアプローチで、利用できるものは1つもない。従って、欠損部位が充填されるように迅速な体積増加を誘発し、時間と共に体積が減少することなく移植組織を維持し、迅速な新血管形成を誘発するインプラントを開発する必要性が当技術分野で広く認められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
新規脂肪形成(De novo adipogenesis)は、軟組織工学にとって有望なアプローチである。本発明は、細胞の増殖及び分化に好適であり、従って外部から細胞移植することなく脂肪組織の形成を引き起こす微環境を提供しようとする研究に基づく。最適な微環境は、脂肪幹細胞が周囲組織から移動するのを促進し、これらの細胞が成熟脂肪細胞に分化するのを誘発する。発生中の組織における新血管形成は、壊死、瘢痕形成、及び移植組織の再吸収を防ぐために、並びに、いくつかの分化因子を分泌するためにも必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、細胞不含脂肪組織抽出物を提供し、同抽出物は事前に決定された量のVEGF、FGF−2、及びIGF−1を含む。いくつかの実施形態では、抽出物は、総タンパク質1mg当たり、少なくとも1pgのVEGF、少なくとも70pgのFGF−2、及び少なくとも50pgのIGF−1を含む。他の実施形態では、総タンパク質1mg当たりのVEGF含量は、少なくとも7pgである。当該抽出物は、軟組織の修復又は工学的操作で、及び組織工学、例えば創傷治癒、火傷の治療、及び虚血状態の治療における血管形成の誘発で用いることができる。
【0010】
本発明は、本発明の任意の実施形態による細胞不含脂肪組織抽出物、及び生体適合性マトリクスを含むインプラントを更に提供する。当該抽出物は、好ましくは同種異系であり、当該マトリクスは、好ましくはヒドロゲルであり、ヒアルロン酸、キトサン、フィブリン、コラーゲン、アルギネート、ポリ乳酸をベースとするポリエステル、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、及びこれらの混合物からなる群より選択され得る。いくつかの実施形態では、インプラントは注射可能である。当該インプラントは、軟組織の修復又は工学的操作で、及び組織工学、例えば創傷治癒、火傷の治療、及び虚血状態の治療における血管形成の誘発で用いることができる。
【0011】
本発明は、本発明の任意の実施形態による細胞不含脂肪組織抽出物を調製する方法も更に提供する。当該方法は、a)生存細胞を含むホモジナイズされていない脂肪組織サンプルを提供するステップ、b)前記サンプルを事前に決定された時間インキュベーションするステップ、及びc)抽出物を収集するステップを含む。更に提供されるものとして、前記方法によって取得可能な細胞不含脂肪組織抽出物が挙げられる。
【0012】
更に、本発明は、本発明の任意の実施形態によるインプラントを調製する方法を提供する。当該方法は、脂肪組織抽出物を生体適合性材料と混合する、又はこれを生体適合性材料に吸収させるステップを含む。
【0013】
また更に、本発明は、脂肪形成を誘発する方法、及び血管形成を誘発する方法も提供する。当該方法は、本発明の任意の該当する実施形態によるインプラントを、これを必要とする対象に移植するステップを含む。
【0014】
下記では、本発明は、好ましい実施形態により、添付の図面を参照しながら更に詳記される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による脂肪組織抽出物に含まれる総タンパク質及び増殖因子含量を示す図である。図1Aは、ランダムに選択されたヒト脂肪組織抽出物20検体中の、異なる時点における総タンパク質濃度を示す図である。図1B、1C、及び1Dは、異なる時点におけるヒト脂肪組織抽出物(ATE)中のIGF−1、FGF−2、及びVEGFの各濃度を示す図である。各図中、平均値を横線で示す。
【図2】ヒト脂肪幹細胞(hASC)の脂肪形成細胞分化を示す図である。図2Aは、対照増殖培地中で増殖したhASCを示す図である。図2Bは、タンパク質を約350μg/ml含むATE培地中で増殖したhASCを示す図であり、図2Cではタンパク質を約700μg/ml、及び図2Dではタンパク質を約1200μg/ml含む。ATE処理は、用量依存性の脂肪形成誘導能力を有する。
【図3】血管形成アッセイにおけるチューブ形成を示す図である。図3Aはチューブ形成を示さない陰性対照を表す図である。図3B及び図3Cは、900μg/ml(タンパク質含量)又は1300μg/mlのATEでそれぞれ処理した細胞を表す図である。図3Dは、公知の血管形成増殖因子、すなわちVEGF、10ng/ml、及びFGF−2、1ng/mlで処理した陽性対照細胞を示す図である。チューブ形成は、図3B、図3C、及び図3Dで明確に認めることができる。ATEで処理した上記2例は、陽性対照3Dの血管形成能力と比較して等しくはあるが、用量依存性の血管形成誘導能力を有する。
【図4】本実施形態によるインプラントの移植後2週目における、ラット皮下組織中でのin vivo血管形成及び脂肪組織形成を示す図である。図4A及び図4Bは、インプラント領域における広範な毛細血管形成を示す図である。図4C及び図4Dは、大規模な細動脈様構造の他、若干の脂肪組織の発現を示す図である。血管の例を矢印で示す。
【図5】本実施形態によるインプラントの移植後12週目(図5A及び図5B)並びに20週目(図5C及び図5D)における大規模な脂肪組織形成を示す図である。インプラントを、図5B及び図5D中に矢印で示す。
【図6】本実施形態によるインプラントを脚部の古い瘢痕組織下に移植した後の、ヒト皮下組織、及び同組織の脂肪組織形成と血管形成を示す臨床前試験を表す図である。図6Aは、移植前の組織を示す。図6Bは移植後3カ月目における皮下組織を示す。図6Cは、6カ月目における上部皮下組織血管形成を示す。図6Dは、6カ月目における真皮直下の皮下組織に生じた脂肪組織及び血管形成を示す。組織重量は、6カ月の時点において少なくとも2倍であり、脂肪組織及び大血管が発現した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
脂肪組織は、様々な分化段階にある脂肪細胞、内皮細胞、線維芽細胞、周皮細胞、並びにいくつかの細胞系統に分化する能力を有する脂肪幹細胞及び間充織幹細胞を含む。新規脂肪形成、すなわち新たな脂肪組織の形成は、軟組織工学にとって有望なアプローチである。本発明は、細胞の増殖及び分化に好適である微環境を提供しようとする研究に基づき、従って外部から細胞移植することなく血管及び脂肪組織の形成を引き起こす。最適な微環境は、脂肪幹細胞が周囲組織から移動するのを促進し、内皮細胞前駆細胞及び脂肪細胞前駆細胞が成熟脂肪細胞、疎性結合組織、及び筋肉細胞、及び血管細胞へと分化するのを誘発する。成長組織における新規血管形成は、壊死、瘢痕形成を防ぐために、すなわち機能的に成熟した脂肪組織が発現するのを可能にするために、常に必要である。
【0017】
本発明は、細胞を投与しなくても、移植部位において脂肪組織及び血管系の迅速な形成を誘発する能力を有する、細胞不含脂肪組織抽出物(ATE)に関する。ATEは、新規脂肪形成及び血管形成のための最適な微環境を生み出す能力を有し、従って軟組織の修復及び/又は工学的操作で用いることができる。
【0018】
用語「脂肪組織抽出物」(ATE)とは、本明細書において生物活性物質、好ましくは脂肪組織細胞、すなわち様々な分化段階にある脂肪細胞、内皮細胞、線維芽細胞、周皮細胞、並びに脂肪幹細胞より分泌される脂肪形成因子及び血管形成因子の混合物を指す。当該抽出物は細胞不含、又は無細胞である。当該脂肪組織抽出物は、従来方式で管理された媒体とは異なり、例えば当該抽出物が小組織片又は生存細胞から収集されるという点で異なる。調製プロセスには、細胞を培養するステップが含まれず、得られる抽出物は管理媒体よりもかなり高濃度であり、インキュベーション時間は短く、数分〜数日の範囲で変化する。
【0019】
脂肪組織抽出物は、例えば脂肪吸引術又は外科手術により得られる脂肪又は脂肪組織サンプルから調製可能である。必要ならば、組織サンプルは、細胞が実質的に生存状態を保つように小片に切断される。脂肪吸引術の試料は直接利用可能である。換言すれば、組織サンプルの処理にはホモジナイズするステップは含まれない。生物活性因子は、培地、滅菌塩溶液、リン酸緩衝化された生理食塩水、又は細胞若しくは組織片が、インキュベーション中に生物活性因子を液相に放出するその他の適する等張水性緩衝溶液内で、細胞をインキュベーションすることにより抽出される。次に、ATE、すなわち細胞不含液相が収集される。ATEは、使用前に抽出物を滅菌し、無細胞液を作製するために、ろ過することもできる。得られたATEは、サイトカイン及びその他の生物活性物質からなる、細胞不含タンパク質混合物である。
【0020】
自己脂肪組織のみならず、同種異系の脂肪組織もATEの供給源として用いることができ、上記のように当該目的のために処理され得る。かかる同種異系の抽出物は、例えば凍結乾燥された「既製の」軟組織足場内に吸収可能、及び同足場内で利用可能である。かかる種類の製品の1つの例として、架橋されたヒアルロン酸(例えば、Restylane)及び同種異系のATEから製造されたものが挙げられる。当該抽出物は無細胞なので、同一抽出物及びインプラントが複数の患者に適する同種異系で用いても、免疫反応及びアレルギー反応は起きにくいと考えられる。このことは、例5で更に詳記される動物試験により裏付けられ、この例では、ラットに移植されたヒトATE(異種移植)は、いかなる炎症反応もその他の合併症も引き起こさなかった。
【0021】
ATEは、脂肪組織の細胞により発現される脂肪形成因子及び血管形成因子からなる最適なサイトカイン混合物である。ATEの生物活性物質は、当技術分野で公知のルーチン法(例えば、ELISA)で測定可能である。本明細書では、様々なATE中の120種類のサイトカインの発現を測定した(例1を参照)。長時間、例えば24時間以上インキュベーションすると、より多くの血管形成性抽出物が得られたが、一方、短時間及び長時間のインキュベーションでは、いずれにおいても脂肪形成性混合物が生成された。
【0022】
ATEは、望ましい、又は事前に決定された量の脂肪形成因子及び血管形成因子を含むように特別に調製可能であるが、前記因子には、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)、及びインスリン様増殖因子(IGF−1)が含まれる。望ましい組成は使用目的に依存し得る。最新の知見に基づき、及び本発明の裏付けによれば、VEGF及びFGF−2は、血管形成を刺激するための重要な因子とみなされ、一方、FGF−2及びIGFは、脂肪形成を刺激する上で重要である。従って、1つの実施形態では、ATEは、総タンパク質1mg当たり、少なくとも1pgのVEGF、少なくとも70pgのFGF−2、及び少なくとも50pgのIGF−1を含む。かかるATEは、例えば軟組織の修復及び工学的操作で脂肪形成を刺激するのに特に適する。別の実施形態では、ATEは、総タンパク質1mg当たり、少なくとも7pgのVEGF、少なくとも70pgのFGF−2、及び少なくとも50pgのIGF−1を含む。かかる種類のATEは、例えば創傷治癒の誘発で、並びに虚血状態及び火傷の治療で血管形成を刺激するのに特に有用である。異なる特別調製されたATEは、具体的な用途で必ずしも重要とはなり得ないものの、異なる量の数種のその他のサイトカインを更に含むことができる(表1を参照)。一般的に、ATEは、約2:1〜約1:2のIGF−1及びFGF−2、並びに約1:100〜約1:10のVEGF及びFGF−2を含む必要がある。
【0023】
脂肪組織抽出物の含量は、ATEの調製において異なるインキュベーション時間及び温度を用いることにより、特別調製可能である。一般的に、インキュベーション時間は、数分〜数時間、例えばオーバーナイトの範囲である。例えば、約1時間のインキュベーション時間では、一般的に含有量約1.7mg/ml〜約2.5mg/mlの総タンパク質、含有量約200pg/ml〜約1300pg/mlのIGF−1、含有量約200pg/ml〜約1400pg/mlのFGF−2、及び含有量約2pg/ml〜約25pg/mlのVEGFが得られる。換言すれば、1時間インキュベーションすると、一般的に総タンパク質1mg当たり含有量約150pg〜約550pgのIGF−1、総タンパク質1mg当たり含有量約100pg〜約500pgのFGF−2、及び総タンパク質1mg当たり含有量約3pg〜約20pgのVEGFが得られる。かかる種類の抽出物は、脂肪形成性及び血管形成性の両方を有する。しかし、特に高濃度のVEGF(約200pg/ml〜約1400pg/ml、すなわちタンパク質1mg当たり約25pg〜約500pgのVEGF)が、例えば特に、所望の標的組織内で血管形成を誘発するために抽出物に含まれるのが望ましい場合には、インキュベーション時間は、例えば約24時間まで延長する必要がある。24時間インキュベーションすると、一般的に総タンパク質1mg当たり含有量約60pg〜約200pgのIGF−1、総タンパク質1mg当たり含有量約130pg〜約500pgのFGF−2、及び総タンパク質1mg当たり含有量約25pg〜約500pgのVEGFが得られる。更に、様々なインキュベーション温度、一般的に室温〜約37℃の範囲が、脂肪組織抽出物を改変するために使用可能である。しかし、いくつかの実施形態では、4℃等の低温も利用可能である。なおも他の実施形態では、タンパク質が変性しない限り、より高い温度も利用可能である。
【0024】
より一般的に、抽出物中のVEGFの濃度は、約1pg/ml〜約1400pg/mlの間で、及び好ましくは約10pg/ml〜約1000pg/mlの間で、より好ましくは約7pg/ml〜約700pg/mlの間で、及び最も好ましくは約10pg/ml〜約100pg/mlの間で変化し得る。抽出物中のFGF−2の濃度は、約20pg/ml〜約1500pg/mlの間で、好ましくは約100pg/ml〜約1300pg/mlの間で、より好ましくは約150pg/ml〜約1000pg/mlの間で、及び最も好ましくは約200pg/ml〜約800pg/mlの間で変化し得る。IGF−1の濃度は、約100pg/ml〜約1500pg/mlの間で、及び好ましくは約150pg/ml〜約800pg/mlの間で、及び最も好ましくは約200pg/ml〜約500pg/mlの間で変化し得る。一方、抽出物の総タンパク質濃度は、約0.75mg/ml〜約3.5mg/mlの間で変化し得る。好ましくは、総タンパク質濃度は、約1.4mg/ml〜約2.7mg/ml、より好ましくは約1.8mg/ml〜約2.7mg/ml、なおもより好ましくは約2mg/ml〜約2.7mg/ml、及び最も好ましくは約2.1mg/ml〜約2.5mg/mlである。
【0025】
抽出物中の生物活性物質の濃度も、総タンパク質濃度に関連して規定し得る。従って、総タンパク質を1mg含む抽出物中のVEGFの量(タンパク質1mg当たりの増殖因子含量)は、約1pg〜約800pgの間で、及び好ましくは約3.5pg〜約500pgの間で、より好ましくは約7pg〜約300pgの間で、及び最も好ましくは約20pg〜約100pgの間で変化し得る。総タンパク質を約1mg含む抽出物中のFGF−2の量(タンパク質1mg当たりの増殖因子含量)は、約1pg〜約1200pgの間で、好ましくは約1pg〜約600pgの間で、より好ましくは約70pg〜約500pgの間で、及びなおもより好ましくは約110pg〜約450pgの間で、及び最も好ましくは約250pg〜約350pgの間で変化し得る。IGF−1の量(タンパク質1mg当たりの増殖因子含量)は、約50pg〜約700pgの間で、及び好ましくは約100pg〜約500pgの間で、及びなおもより好ましくは約100pg〜約300pgの間で、及び最も好ましくは約110pg〜約230pgの間で変化し得る。
【0026】
ATEは、数種類のその他の脂肪形成因子及び血管形成因子(表Iに示す)、例えば増殖因子、インターロイキン、補体系生成物、グルココルチコイド、プロスタグランジン、リポタンパク質、及び遊離脂肪酸、並びに細胞外マトリクス成分、例えばコラーゲンI、コラーゲンIV、及びコラーゲンVI、プロテオグリカン、エラスチン、及びヒアルロナンを、天然由来で、又はATEを更に特別調製するためにこれに添加されたものとして更に含むことができる。更に、ATEは使用する前に、例えば任意の望ましい薬物又は薬剤の補給を受けることができる。
【0027】
一方、ATEは、使用する前に単一の増殖因子又はサイトカイン等の物質を除去することにより、更に特別調製可能である。ATEが、例えば虚血状態の治療において、主として血管形成性を誘発するために用いられる場合には、例えば、TIMP−1及びTIMP−2等の血管形成阻害剤、並びにIGF−1、アディポネクチン、及び/又はレプチン等の主として脂肪形成因子を除去することができる。望ましい物質を除去又は単離する方法は、当技術分野では容易に利用可能であり、この方法には免疫吸着法による増殖因子の単離が含まれる。
【0028】
ATEの特別調製として、特定の用途のために適したATEとするための濃縮(例えば、遠心分離による)、又は希釈(例えば、培地、滅菌生理的食塩水、又は任意のその他の緩衝化された等張溶液による)を更に挙げることができる。
【0029】
脂肪組織抽出物の脂肪形成能力を、ヒト脂肪由来幹細胞(hASC)が、本実施形態による抽出物の存在下、非存在下で培養された細胞培養試験でテストした。図2に示し、例2で更に詳記するように、抽出物は、オイルレッドOの色素蓄積(トリグリセリド形成)の増加により判断されるように、大半の幹細胞について脂肪細胞への分化を誘発したのは明らかである。
【0030】
更に、本実施形態による抽出物の血管形成能力を、細管形成アッセイ法によりin vitroで評価した。ヒト内皮細胞は、脂肪組織抽出物、又はVEGF及びFGF−2の存在下、非存在下で、線維芽細胞培養の最上部で培養された。すべてのケースにおいて、図3に示し、例3で更に詳記するように、血管形成、すなわち管形成が明確に認められた。しかし、ATEの血管形成能力は、明らかに用量依存性であった。
【0031】
いくつかの実施形態では、本発明によるATEは、in vitroで脂肪形成性又は血管形成性を試験するための細胞培養培地、又は細胞培養培地補助剤として利用可能である。ATEは、細胞培養中に分化した脂肪細胞の分布さえも引き起こし、従ってヒトでのin vivo条件を反映する優れた脂肪形成細胞モデルを提供する。今日まで、脂肪細胞分化に関する適当な細胞モデルは存在しない。
【0032】
細胞培養において、特に臨床用途において、異種血清に置き換えたいという一般的な目標がある。ヒト血清は極めて高価であり、従って最適な解決策とはならない。本発明のいくつかの実施形態では、ATEは、細胞培養培地における細胞培養成分として、又は血清代替物として利用可能である。ATEはコスト効率が高いだけでなく、組織工学によるヒト構築物を生み出すのに、特に動物由来成分が適切でない場合に有用である。
【0033】
本発明は、自己又は同族異種の細胞不含脂肪組織抽出物、及び生体適合性マトリクスを含むインプラントに更に関する。脂肪組織抽出物単独で、大型の、又は深部の軟組織の欠損を修復するのは困難であるが、提供される当該インプラントは、軟組織の欠損を充填するのに適し、機械的負荷に耐え、また新規組織の再生を可能にする。更に、当該インプラントは安定した長期結果、すなわち自然組織に似た感触や外観をもたらし、使用が容易で、無毒、不活性であるが、一方、栄養分及び代謝物が適切に拡散できるようにする。生体適合性マトリクスはヒトに対して無毒であり、組織内でほぼ不活性であり、小分子(例えば、増殖因子)に結合しまたこれを放出し、及び組織内で分解可能でなければならない。
【0034】
本発明によるインプラントで用いられる生体適合性マトリクスは、好ましくはヒドロゲルである。本明細書で用いる場合、用語「ヒドロゲル」とは、親水性ポリマー鎖からなる高度に水和した物質で、その構造内に水を吸収することができ、その当初の容積の何百パーセント、何千パーセントにも膨張し、なおかつその構造を保つ物質を意味する。天然ポリマーのヒドロゲルはいくつかの有望な特性を有する。かかるヒドロゲルは分解可能で、温和な条件で処理可能であり、細胞外マトリクス(ECM)の成分であるか、又はそのようなマトリクスと構造的類似性を有する。天然ポリマーは、in vivoで多くの場合無毒であり、周囲の組織とよく相互作用する。ヒドロゲルの硬度又は剛性、分解速度、及び生物活性物質との結合速度又は同物質の放出速度は、具体的なインプラントの要望に応じて改変可能である。かかる改変方法は、当技術分野ですぐに利用可能である。
【0035】
1つの適するヒドロゲル物質として、ヒアルロン酸又はヒアルロナンが挙げられ、これは結合組織の細胞外マトリクスを形成し、幅広く分布する天然の多糖類である。これはN−アセチルグルコサミン鎖に結合したD−グルクロン酸の基からなる。ヒアルロン酸は一般的に用いられる天然の生体物質であるが、それは免疫原性が全くなく、当技術分野で数十年にわたり安全に用いられてきたためである。架橋されたヒアルロン酸は、例えば商品名Restylane(登録商標)(Q−Med、スウェーデン)、Elevess(登録商標)(Anika Therapeutics、米国)、Juvederm(登録商標)(L.E.A.Derm、フランス)、Reyoungel(登録商標)(Bioha laboratories、中国)、Puragen(登録商標)(Genzyme、米国)、Prevelle Silk(登録商標)(Genzyme、米国)、Teosyal(登録商標)(Teoxane laboratories、スイス)、Bolotero(登録商標)(Merz Aesthetik、ドイツ)、Revanesse(登録商標)(Auragenix Biopharma、オランダ)、及びRofilan Hylan Gel(登録商標)(Cairo Tech、エジプト)として市販されている。かかる架橋されたヒアルロン酸のうちのいくつか(例えば、Restylane)は、臨床用途で軟組織充填物質としてFDAより承認を受けている。
【0036】
本発明で用いるのに適する別のヒドロゲルとしてキトサンが挙げられ、これは、グルコサミン及びN−アセチルグルコサミンからなるポリマーを含む天然の多糖類である。徐々に分解可能な生体物質であり、ヒトに対して無毒であることから、キトサンは医薬品として工業界や研究室で幅広く利用されてきた。これまで、改変されたキトサンが、ホルモン、薬物、又はタンパク質用の制御放出式送達システムとして用いられてきたが、同システムでは、拡散及び生体物質の分解の両方により放出が生ずる。
【0037】
本発明で用いられるその他の好適な天然ヒドロゲル構成材料は、当業者には容易に入手可能であり、それらには例えば、コラーゲン、アルギネート、ゼラチン、フィブリン、及びアガロースが含まれる。
【0038】
ポリ乳酸(PLA)ベースのポリエステル、ポリ乳酸グリコール酸PLGA、ポリカプロラクトン(PCL)等の合成ヒドロゲルも、本発明の実施形態によるインプラントで、ヒドロゲルとして利用可能である。
【0039】
材料に応じて、より高い脂肪形成性又は血管形成性を実現させることが可能である。異なる足場材料を選択することにより、又は材料を改変すること(例えば、ヒアルロナンの架橋)により、インプラントの脂肪形成効果又は血管形成効果を改善し、より高い血管形成能力又はより高い脂肪形成能力を有するように、当該効果を重点強化することが可能である。
【0040】
本実施形態によるインプラントは、キトサンとヒアルロン酸との混合物等のヒドロゲルの混合物も含み得る。ヒドロゲルは、混合、共重合、又は官能基の付加により組合せ可能である。
【0041】
いくつかの実施形態では、生体適合性マトリクスはナノ粒子又は微粒子を含み得る。例えば、微粒子は、例えばイオンゲル化法によりキトサンから作製可能であり、又は合成PLA、PLGA、若しくはPCL微粒子は、水中油中水(water−oil−water)法により生成可能であり、及び当該微粒子は、第2のヒドロゲル物質、例えばヒアルロン酸内に混合可能である。従って、脂肪組織抽出物は、インプラント内にあるナノ粒子又は微粒子内、及び前記粒子を取り巻くヒドロゲル内の両方に含めることができる。一般的に、ATEは、任意の分解可能な薬物放出デバイスと組み合わせることができる。
【0042】
インプラント中の脂肪組織抽出物の量に対する生体適合性マトリクスの量は、一般的には生体適合性マトリクスが約37%〜約50%であり、抽出物は約50%〜約63%である。生体適合性マトリクスがヒアルロン酸等のヒドロゲルの場合、インプラント中のヒドロゲル含量が低下すると、ゲル構造の弱体化を引き起こし、その結果体内分解速度は速まる。1つの特定の実施形態では、インプラントはヒアルロン酸を約45.5%、及び脂肪組織抽出物を約54.5%含む。かかるインプラントは、受容者組織内への直接注入を可能にするのに十分軟弱なゲル強度を有する。
【0043】
ヒドロゲル又はそれらを組み合わせたものも、架橋、凍結乾燥、混合、及び/又は共重合により改変可能であり、異なる濃度のヒドロゲルを組み合わせて使用することが可能である。インプラントのサイズも、非常に小さいもの(数マイクロリットル)から数十ミリリットルまで変化し得る。一般的には、例えば顔面再構築の目的で、1〜5ミリリットルのインプラントが用いられる。
【0044】
インプラント中の脂肪組織抽出物含量は変化し得る。一般的に、インプラントは約300μg/ml〜約1.2mg/mlのタンパク質を含み、好ましくは約600μg/ml〜約1mg/ml、及びなおもより好ましくは800〜900μg/mlに近い。
【0045】
本発明によるインプラントは、任意の適する手段により移植可能である。注射は移植にとって実現可能な方法である。移植の別の形態は当技術分野で周知であり、例えば足場、フィルム、又は膜等が挙げられる。
【0046】
本発明によるインプラントの脂肪形成能力及び血管形成能力は、動物実験により確認された。当該インプラントをラット皮下にin vivoで移植し、そして脂肪組織及び血管の形成を移植部位において監視した(例4、図4及び図5)。2週間後すでに、脂肪組織の蓄積の他、血管形成が認められた。4〜6週目では、広範な血管形成及び動脈様構造の他、若干の脂肪組織形成が、インプラントと緊密に接触した状態で認められた。12〜20週目では、高度に血管形成した、成熟脂肪組織の肥厚緻密層が、インプラントと緊密に接触した状態で検出された。40週目では、インプラントは分解していたが、但し、成長した成熟脂肪組織はなおも存在し、本実施形態のインプラントを用いて得ることができる長期結果を実証した。従って、かかる結果は、本実施形態によるインプラントは軟組織工学、及びin vivoでの修復で真に用いられ得ることを実証している。
【0047】
従って、本発明は、新規脂肪組織の形成及び血管形成を誘発するインプラントを提供し、並びにヒドロゲル構造内に捕捉、固定化された脂肪形成因子及び/又は血管形成因子を長期にわたり送達するシステムを提供する。本発明の生物活性インプラントは、宿主細胞の浸潤の誘発を支援し、より効率的な組織再生を可能にする。当該インプラントの効果は局所的、部位特異的であり、所定の効果を得るために必要とされる脂肪形成因子及び血管形成因子の全体用量を低減する。これはコスト効率が高いだけでなく、有害な全身効果を回避する方法でもある。
【0048】
本発明は、本発明によるインプラントを作製する方法を更に提供する。当該方法は、脂肪組織抽出物を生体適合性マトリクスと混合するステップ、又は同マトリクスに当該抽出物を吸収させるステップを含む。当該混合ステップは、一般的に、ATEとヒドロゲル物質とが完全に混合するまで、気泡形成を避けつつ、滅菌シリンジ内において室温で慎重に実施される。当該抽出物は速やかにヒドロゲル物質中に捕捉、吸収され、いつでも移植に用いられる。
【0049】
更に、本発明は、本発明による脂肪組織抽出物及びインプラントを軟組織の修復及び工学的操作で利用できるようにする。従って、当該抽出物及びインプラントは、成熟脂肪組織の発現及び適切な血管形成を実現するように、軟組織を修復する方法及び工学的に操作する方法で用いることができる。1つの特定の実施形態では、当該インプラントは注射により投与される。
【0050】
更に、本発明は、本発明による脂肪組織抽出物及びインプラントを、血管形成誘発及び/又は虚血組織の修復で利用できるようにする。従って、当該抽出物及びインプラントは、適切な血管形成の発現を実現するように、毛細血管を修復する方法及び工学的に操作する方法で用いることができる。1つの特定の実施形態では、当該インプラントは注射で投与される。本発明に関連して、脂肪形成の場合、通常、組織中に既存の脂肪細胞又は脂肪組織幹細胞が存在すると有利であることが明らかにされている。当該インプラントが、例えば、脂肪細胞が全く存在しない状態で組織に投与された場合、インプラントの効果は脂肪形成性であるよりもむしろ血管形成性であるか、ほとんど血管形成性であり得る。
【0051】
本発明の1つの利点として、インキュベーション時間が短く、混合も短時間で済むため、ATEの調製が容易で、その特別調製も迅速に行われることが挙げられる。従って、脂肪組織を誘導する、これをATEにし、更にインプラントに処理する全プロセス、並びに移植は1つの作業で完結し得る。
【0052】
技術が進歩しているので、本発明の概念が様々な方法で実施可能であることは当業者にとって明白であろう。本発明及びその実施形態は、下記実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲内で変化し得る。
【実施例】
【0053】
(例1)
細胞培養及び動物試験のための脂肪組織抽出物の調製
脂肪吸引術より得られた、及び外科手術から皮下組織として得られたヒト脂肪組織試料、並びに犠牲ラットから得られたラット脂肪組織試料を、必要に応じて小片に細分化した。組織片又は脂肪吸引術試料を50mlの試験管(Nunc)に移した。補給剤を一切含まない滅菌塩溶液(動物試験用)、又はDMEM/F12培地(細胞培養試験用)を試験管に添加し、少なくとも45分間インキュベーションした。インキュベーション中に、試験管を数回、穏やかに振とうした。脂肪組織抽出物(ATE)のサンプルを様々な時刻に収集し(各収集時には、培地又は塩溶液を完全に除去し、新鮮な液に交換した)、12000rpmで5分間遠心分離し、及び細胞培養又は動物実験で使用する前に滅菌ろ過した。ATEを作製してから24時間後に細胞を単離し、更に細胞を培養することにより、細胞の生存率を分析した。間質血管細胞群の細胞は形態学的に正常であり、生物学的活性を保持し、また正常に増殖した。
【0054】
異なる患者に由来する、及び/又は異なる時点(1時間、2時間、又は24時間)で収集されたヒトATEサンプル80検体を、総タンパク質濃度について、BCAタンパク質アッセイ法(Pierce Biotechnology、Rockford、イリノイ州、米国)により分析した。総タンパク質濃度は、常に1時間の時点(1.一定分量)、及び2時間の時点(2.一定分量)で最高値にあり、タンパク質濃度は時間と共に減少した(図1A)。一般的に、総タンパク質濃度は、第1の一定分量(1hr)では約1.8mg/ml〜約2.5mg/mlであり、第2の一定分量(2hr)では約1.5mg/mlであり、また第3の一定分量(24hr)では約1mg/mlであった。滅菌塩溶液中又は細胞培養培地中でインキュベーションした抽出物は、類似の総タンパク質濃度を有した。インキュベーション溶液(培地又は滅菌塩溶液)及び細分化した脂肪組織について等しい容積を抽出に用いると、最適なタンパク質生成が実現した。かかる条件では、タンパク質濃度はほぼ2mg/mlとなり、これは細胞培養試験用として適する範囲内にある。しかし、濃度が高まった場合には、適当な範囲まで希釈することができ、また多くの場合希釈しなければならない。過剰にインキュベーションした溶液では、いずれもタンパク質濃度が低くなりすぎて、スピンカラムでの濃縮による更なる改変が必要であった。
【0055】
更に、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)、又はインスリン様増殖因子(IGF−1)の濃度を、それぞれヒト脂肪組織抽出サンプル31〜40検体について、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA、それぞれ、Quantikine Human VEGF免疫測定法、Quantikine Human FGF塩基性免疫測定法、又はQuantikine Human IGF−1免疫測定法、R&D Systems、Abingdon、英国)により測定した。ELISAは、メーカーの説明書に基づき実施した。すべての標準品及びサンプルについて二重測定した。
【0056】
結果によれば、IGF−1濃度は1時間インキュベーションした後で最高レベルに達し(図1B)、一方FGF−2濃度は、インキュベーションしている間、非常に高いレベルにあった(図1C)。VEGFは、24時間培養した後に、劇的に増加するようにみえた(図1D)。テスト結果に基づけば、脂肪形成誘発又は血管形成誘発に関して、1時間及び2時間のVEGF濃度が適当であるが、但し、VEGFは24時間インキュベーション後に限り非常に高いレベルに達した。
【0057】
更に、2つの異なる抽出サンプルから得られた全部で120種類の増殖因子とサイトカインを、2つの異なる時点(1時間及び24時間)で、RayBio(登録商標)ヒトサイトカイン抗体アレイCシリーズ1000(RayBioTech,Inc.、Norcross、ジョージア州、米国)を用いてテストした。当該アレイは、メーカーの説明書に基づき実施した。全サンプルについて二重測定を行い、得られた結果は半定量的であった。表1中の(−)として表された因子は無発現であった、又はその発現は低く、従って当該アレイでは検知不能であった。
【0058】
サイトカイン測定によれば、アレイの検出限界内にあるATEのサイトカインパターンは下記の通り:表1に示すように、1時間インキュベーションATEサンプルは、多量のアンジオジェニン、アディポネクチン、TIMP−1及びTIMP−2、MIF、IGFBP−6、NAP−2、レプチン、PDGF−BB、GRO、並びに少量の数種のその他の因子を発現した。表1に示すように、24時間インキュベーションATEサンプルは、多量のアンジオジェニン、IL−6、NAP−2、MCP−1、アディポネクチン、GRO、TIMP−1、TIMP−2、及び少量の数種のその他の因子を発現した。24時間では、全体的に1時間よりも多くの種類のサイトカインを発現した(表1を参照)。レプチン、PDGF−BB、MIF、及びIGFBP−6の発現は1時間で高く、24時間では低かった。24時間で、MCP−1、IL−6、CCL5、及びVEGFの発現は高かったが、1時間では少量しか検出されなかった。
【0059】
従って、インキュベーション時間を変え、及び成長因子濃度を調節することにより、異なる用途のためにATEを作製、及び特別調製することが可能である。
【表1】

【0060】
略号:AgRP、アグーチ関連タンパク質;Axl、AXL受容体チロシンキナーゼ;CCL5(RANTES)、ケモカイン(C−Cモチーフ)リガンド5;CTACK、皮膚T細胞誘引ケモカイン;Dtk、増殖因子受容体チロシンキナーゼ;EGF−R、上皮増殖因子受容体;ENA−78、上皮好中球活性化ペプチド−78;EGF−R、上皮増殖因子R;FGF−2、線維芽細胞増殖因子2;FGF−4、線維芽細胞増殖因子4;FGF−6、線維芽細胞増殖因子6;FGF−9、線維芽細胞増殖因子9;GCSF、顆粒球コロニー刺激因子;GITR、グルココルチコイド誘導腫瘍壊死因子受容体;GITR−リガンド、グルココルチコイド誘導腫瘍壊死因子受容体リガンド;GRO、サイトカイン誘導好中球化学遊走物質1増殖関連腫瘍遺伝子;ICAM−1、細胞接着分子1;ICAM−3、細胞接着分子3;IGF−1、インスリン様増殖因子1;IGF−1 SR、インスリン様増殖因子1可溶性受容体;IGFBP−3、インスリン様増殖因子結合タンパク質3;IGFBP−6、インスリン様増殖因子結合タンパク質6;IL−1 R4/ST2、インターロイキン1受容体4;IL−1 R1、インターロイキン1受容体1;IL−5、インターロイキン5;IL−6、インターロイキン6;IL−8、インターロイキン8;IL−11、インターロイキン11;IL−12 p70、インターロイキン12 p70;IL−12 p40、インターロイキン12 p40;IL−17、インターロイキン17;I−TAC、インターフェロン誘導性T細胞α化学遊走物質;LIGHT、リンホトキシンに類似し、誘導性発現を示し、及びヘルペスウイルス侵入メディエーターに関するHSV糖タンパク質Dと競合する、Tリンパ球が発現する受容体;MCP−1、単球化学遊走性タンパク質−1;MCP−2、単球化学遊走性タンパク質−2;MCP−3、単球化学遊走性タンパク質−3;MIF、マクロファージ移動阻害因子;MIP−1α、マクロファージ炎症タンパク質−1α;MIP−1β、マクロファージ炎症タンパク質−1β;MIP−3β、マクロファージ炎症タンパク質−3β;MSP−α、マクロファージ刺激タンパク質α;NAP−2、ヒト好中球活性化タンパク質−2;NT−4、ニューロトロフィン4;PIGF、胎盤増殖因子;TIMP−1、マトリックスメタロプロテイナーゼ1の組織阻害剤;TIMP−2、マトリックスメタロプロテイナーゼ2の組織阻害剤;TRAIL R3、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド受容体3;TRAIL R4、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド受容体4;uPAR、ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子;VEGF、血管内皮増殖因子;VEGF−D、血管内皮増殖因子D。
【0061】
(例2)
脂肪組織抽出物の脂肪形成能力
ヒト脂肪由来幹細胞(hASC)は、Zuk PAら(Mol Biol Cell.2002年12月;第13巻(12):4279〜95頁)から修正したプロトコールに基づき単離した。簡潔には、外科手術又は脂肪吸引術から得られたヒト脂肪組織試料を、必要に応じて小断片に切断し、0.05%コラゲナーゼIを補充したDMEM/F12培地内で、37℃、60〜90分間、シェーカー内において酵素的に消化した。消化を容易にするために、インキュベーション中に組織を時々吸引した。間質血管細胞群及び幹細胞集団を分離するために、消化組織を600×gで、10分間、室温にて遠心分離した。消化済みの組織を、最初孔径100μmを有するフィルターでろ過し、次いで孔径40μmを有するフィルターでろ過した。得られたヒト幹細胞集団を、15%ヒト血清(HS、Cambrex)、1mM L−グルタミン、及び1%抗生物質−抗真菌薬混合物(Gibco)を補充したDMEM/F12内で培養した。一定湿度に保たれた5%COを含む空気雰囲気の下で、細胞を37℃に維持した。細胞を付着させたまま1晩放置した。翌日、細胞を数回洗浄し、培地を交換してデブリを除去した。
【0062】
hASCを上記のように培養し、また培地を2〜3日毎に交換した。2〜3名の異なる患者に由来する密集性の幹細胞培養物の初期通過物(p1〜p5)をトリプシン消化し、共にプールし、そして細胞10000個/cmの密度で培地内に播種した。翌日、6つの異なる培養条件を適用した。
【0063】
1)ヒト血清を補充した通常培地;DMEM/F12、15%ヒト血清、1%抗生物質−抗真菌薬混合物、1mM L−グルタミン;
【0064】
2)ATEを補充した培地;DMEM/F12、15%ヒト血清、1%抗生物質−抗真菌薬混合物、1mM L−グルタミン;及び300μg/ml(タンパク質濃度)のATE(培地容積の約25%)
【0065】
3)ATEを補充した培地;DMEM/F12、15%ヒト血清、1%抗生物質−抗真菌薬混合物、1mM L−グルタミン;及び600μg/ml(タンパク質濃度)のATE(培地容積の約50%)
【0066】
4)ATEを補充した培地;DMEM/F12、15%ヒト血清、1%抗生物質−抗真菌薬混合物、1mM L−グルタミン;及び950μg/ml(タンパク質濃度)のATE(培地容積の約75%)
【0067】
5)15%ヒト血清、1%抗生物質−抗真菌薬混合物、1mM L−グルタミンを補充したATE(1200μg/mlのタンパク質濃度;最終培地容積の83%);
【0068】
6)脂肪形成培地:DMEM/F12、10%ウシ胎仔血清(FBS)、1%抗生物質−抗真菌薬混合物、1% L−グルタミン、33Mビオチン、17Mパントテン酸塩、100nMインスリン、1Mデキサメタゾン(Sigma)、及び0.25mMイソブチルメチルキサンチン(IBMX、Sigma)。IBMXは、最初の24時間のみ脂肪形成培地内に留めた。
【0069】
2〜3日毎に培地を交換した。規定時刻において(2〜3週間、及び5週間)、オイルレッドO(Sigma)で細胞培養物を染色することにより脂肪細胞分化を評価した。細胞培養試薬は、別途記載しない限り、Gibcoより入手した。
【0070】
異なる培養条件における脂肪細胞分化を、オイルレッドO染色により検出される細胞内のトリグリセリドの蓄積に基づき評価した。簡潔には、オイルレッドOを100%イソプロパノールに溶解することにより、0.5%オイルレッドO溶液を作製した。当該溶液を蒸留水と2:3の比で混合し、10分間室温に放置した。得られた溶液を、標準的ろ紙を用いてろ過した。染色する前に、細胞培養培地をウェルから吸引し、当該ウェルをPBSで2〜3回穏やかにリンスした。4%パラホルムアルデヒド溶液を用いて、当該細胞を20分間固定した。次に、当該ウェルを蒸留水で洗浄した。60%イソプロパノール溶液中で、当該細胞を2〜5分間インキュベートし、その後、あらかじめ作製しておいたオイルレッドO溶液を添加し、5分間インキュベートした。水が透明になるまで、当該ウェルを蒸留水でリンスした。染色した細胞の位相差顕微鏡写真を、CCDカメラユニットに接続されたNikon TS−100(Nikon、東京、日本)を用いて撮影した。脂肪細胞に分化した量を、細胞中の赤色に染色された領域の範囲を評価することにより測定した。
【0071】
各幹細胞集団では、脂肪組織抽出物は、1〜3週間培養した後に、ほとんどの培地内細胞に対して用量依存性の同系遺伝子脂肪形成変換を誘導することが認められた(図2)。少なくとも200μg/mlのATEを用いた時に脂肪形成効果が認められ、また最高2mg/mlまでより高濃度のATEをテストした時には、脂肪形成効果はより広範に及んだ。本実験に用いられたATEは例1に記載するように調製され、タンパク質を1.8mg/ml、IGF−1を143pg/ml、FGF−2を123pg/ml、及びVEGFを3.6pg/ml含んだ。
【0072】
(例3)
脂肪組織抽出物の血管形成能力
BJ線維芽細胞(CRL−2522;American Type Culture Collection、Manassas、バージニア州、米国)を、10%ウシ胎仔血清、1%L−グルタミン、1%非必須アミノ酸(Gibco)、及び1%抗生物質−抗真菌薬混合物(Gibco)を補充したMEM(Gibco)中で培養した。一定湿度に保たれた5%COを含む空気雰囲気の下で、細胞を37℃に維持した。培地を2〜3日毎に交換し、密集状態の細胞を1:4に分割した。
【0073】
臍帯試料からヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を単離し、内皮細胞増殖培地(EGM−2、Lonza)内で、パッセージ7まで培養した。一定湿度に保たれた5%COを含む空気雰囲気の下で、細胞を37℃に維持した。培地を2〜3日毎に交換し、密集状態の細胞を1:4に分割した。
【0074】
本発明に基づく脂肪組織抽出物の血管形成能力を試験するために、BJ線維芽細胞を、細胞20000個/cmの密度で48−ウェルプレートに播種し、密集状態になるまで培養した(3〜4日)。次に、HUVECを密集した線維芽細胞培養物上に、細胞4000個/cmの密度で播種した。HUVECを播種する際には、培地をEGM−2培地(EGM−2ブレットキット、Lonzaより)に交換した。翌日、並行共培養物を異なる方法で処理した;
【0075】
1)陰性対照:内皮細胞基礎培地(EBM−2培地、EGM−2ブレットキットより);
【0076】
2)陽性対照A:10ng/mlのVEGF(R&D Systems)及び1ng/mlのFGF−2(Sigma)を補充したEBM−2;
【0077】
3)陽性対照B:50ng/mlのVEGF(R&D Systems)及び5ng/mlのFGF−2(Sigma)を補充したEBM−2;
【0078】
4)440μg/ml(タンパク質濃度;細胞培養培地の総容積の約25%)のATEを補充したEBM−2;
【0079】
5)880μg/ml(タンパク質濃度;細胞培養培地の総容積の約50%)のATEを補充したEBM−2;
【0080】
6)1320μg/ml(タンパク質濃度;細胞培養培地の総容積の約75%)のATEを補充したEBM−2。
【0081】
すべての培地には、2%FBS、1%L−グルタミン、0.1%GA−1000(硫酸ゲンタマイシン及びEGM−2ブレットキットからのアンフォテリシンBからなる溶液)を補充した。本実験で用いたATEは例1に記載したように調製し、これには1.76mg/mlのタンパク質、143.4pg/mlのIGF−1、123.1pg/mlのFGF−2、及び3.56pg/mlのVEGFが含まれた。
【0082】
内皮細胞特異抗体(抗フォンヴィレブランド因子)を用いた免疫細胞化学的染色を行う前に、細胞を7日間培養した。培養中、培地を1回交換した。
【0083】
下記のように免疫細胞化学的染色を実施した:PBSで細胞を3回洗浄し、氷冷した70%エタノールで20分間固定し、0.5%トリトンX−100(JT Baker、Phillipsburg、ニュージャージー州、米国)で15分間透過処理し、そして10%BSA(Gibco)を用いて、30分間非特異的染色をブロックした。ブロックした後、フォンヴィレブランド因子一次抗体(ウサギ内で生成した抗vWF、Sigma、1:500)を用いて、細胞を4℃で一晩インキュベーションした。翌日、PBSで細胞を3回洗浄し、二次抗体(ウサギIgG FITCに対するポリクロナール抗体,Acris Antibodies GmbH、Hiddenhausen、ドイツ、1:500)で30分間インキュベーションし、そしてPBSで3回洗浄した。染色後、500μlのPBSを細胞培養ウェルに残し、当該ウェルをパラフィルムで密閉した。Nikon DS カメラコントロールユニットDS L−1を装備したNikon Eclipse TS100顕微鏡(Nikon、東京、日本)で、蛍光を可視化し、そして画像をAdobe Photoshopソフトウェア(Adobe Systems、San Jose、カリフォルニア州、米国)で処理した。
【0084】
脂肪組織抽出物は、第4日又は第5日から共培養物中に管状構造形成を誘発した。7日後、明白な管形成が陽性対照A及びB(それぞれ、図3E及び図3F)、並びに880μg/mlのATE(図3C)又は1320μg/mlのATE(図3D)で処理された細胞で認められた。陽性対照Aで増殖因子処理を行うと、かかる処理は明らかに、長く、薄い、分岐した典型的な毛細血管様構造形成を刺激した。しかし、陽性対照Bでは、増殖因子が過剰になると、その結果若干無秩序な、又はクラスター状の管構造が生じた。陽性対照Aで増殖因子処理を行うと、組織内でin vivoの状況を示した。1320μg/mlのATEを用いて得られた結果、また880μg/mlのATEを用いて得られた結果でも、公知の血管新生増殖因子で得られた結果(陽性対照A)と非常に類似していた。脂肪組織抽出物は、HUVEC細胞に対して用量依存性の効果を生み出し、また毛細血管のネットワークを生成した。
【0085】
(例4)
注射可能なインプラントの作製
本発明に基づく、2つの異なる注射可能なインプラントを、動物試験用に処方した:1)ラットATEを54.5%(総タンパク質濃度が1.3mg/ml)、及びヒアルロン酸を45.5%含むインプラント;及び2)ヒトATEを54.5%(総タンパク質濃度が2.5mg/ml)、及びヒアルロン酸を45.5%含むインプラント。かかる処方では、使用したヒアルロン酸は、20mg/mlの非動物由来の安定化ヒアルロン酸(NASHA)、すなわちRestylane(Q−Med、Uppsala、スウェーデン)であった。欠損の種類に応じて異なる形態の架橋化ヒアルロン製品(例えば、Restylane Perlane、又はRestylane Touch、又はMacrolane)も利用可能である。
【0086】
1mlのRestylaneを1.2mlのATEと慎重に混合することにより、インプラントを作製した(例1に記載した通りに作製)。ラット皮下に配置した最終インプラント容積は、常に100μlであり、ヒアルロン酸45.5μlと、含有液54.5μlとから構成された。かかるインプラントは、組織への速やかな再吸収、又は注入部位からの漏出を防ぐのに十分粘稠であるが、多量の抽出物を含む。
【0087】
54.5%のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、及び45.5%のヒアルロン酸を含む対照インプラントを、上記の通り作製した。
【0088】
インプラントからのタンパク質の放出を調べるために、120μlの各インプラントを、0.2μmの孔径を有する96−ウェルプレート用ストリップインサート(Nunc)に注入した。当該インサートを96−ウェル細胞培養プレートに配置し、150μlのPBS中において37℃で数週間インキュベーションした。3日毎にPBSを交換した。総タンパク質分析及びELISA分析を行うために、一定量を収集し、−20℃で保管した。対照インプラントはタンパク質を全く放出しなかったが、一方ATE含有インプラントは、2週間の期間において3日間当たり最大350μg/mlのタンパク質、及び3日間当たり最低100μg/mlのタンパク質を放出した。この放出実験により、インプラントからタンパク質が放出され、従ってインプラントは有効であることが明らかにされた。
【0089】
(例5)
in vivoでのインプラントの脂肪形成活性及び血管形成活性(動物試験)
すべての動物実験はフィンランド動物保護法に基づき、また西部フィンランド、州地方事務所、社会福祉及び保健サービス部門から承認を得た。
【0090】
雄のSprague−Dawleyラット27匹(平均体重300g)を、ドミトール(Domitor)(1mg/ml;0.5mg/kg)及びKetalar(10mg/ml;75mg/kg)の混合物で麻酔した。例4に記載の通りに調製されたインプラント及び対照を、ラットの背部皮下に、1mlシリンジ及び27ゲージ針を用いて、最終容量100μlで注射した。インプラントを皮下に1、2、3、4、6、8、12、又は20週、及び9カ月間留置し、その後、当該動物を二酸化炭素で絶命させた。組織サンプルを移植部位から取り出し、組織学的分析を行うために処理した。本実験で用いたヒトATEは、例1に記載する通りに調製されたが、これには2.5mg/mlのタンパク質、200pg/mlのIGF−1、863pg/mlのFGF−2、及び61pg/mlのVEGFが含まれた。本実験に用いたラットATEは、例1に記載する通りに調製されたが、これには1.3mg/mlのタンパク質が含まれた。
【0091】
組織サンプルを4%パラホルムアルデヒド中で1晩固定し、段階的に調製されたエタノールシリーズを用いて脱水し、パラフィン内に包埋した。組織学的分析を行うために、試料をミクロトーム(Microm HM 430、Microm GmbH、Waldorf、ドイツ)を用いて5μMの厚さの薄片に切削し、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)で染色した。Nikon Microphot FXA顕微鏡(Nikon、東京、日本)を用いて画像を撮影し、Corel Draw 10、及びAdobe Photoshop 7.0を用いて処理した。
【0092】
組織学試料をヘマトキシリン−エオシン染色すると、移植領域において新規血管形成及び脂肪組織形成が明らかとなった(図4及び図5)。非常に多くの小血管、及び赤血球を伴ういくつかの成熟した大血管が存在することが、移植してから2週間後に採取されたサンプルで検出された。脂肪組織形成は、ごくわずかしか、又は全く検出されなかった。移植後4週目に採取されたサンプルでは、いくつかの白色円形状の脂肪組織蓄積物が、残りのインプラント及び形成された血管構造と緊密に接触した状態で検出された。小型の脂肪組織蓄積物が検出されたが、これは新規に形成されたことを示唆した。移植後4週目又は6週目に採取されたサンプルでは、血管形成が進行し、極めて多数の小血管及び細動脈及び細静脈に類似した構造の他、いくつかの脂肪組織形成が認められた。形成された血管は、対照と比較して数が多いばかりでなく直径も大きかった。12〜20週目では、成熟した脂肪組織の高度に血管が発達した肥厚緻密層が、インプラントと緊密に接触した状態で検出された。
【0093】
本実験では、炎症反応、インプラント分解速度、脂肪形成性及び血管形成性を、最長9カ月間追跡した。インプラント注入手順、又は麻酔からの術後回復に起因した合併症はなかった。炎症又は皮膜形成は検出されなかった。おそらくは、外来ヒアルロン酸物質により引き起こされた軽度の反応に起因して、インプラント及び対照のすべてが、いくつかの小血管形成を誘発した。しかし、ラットATE及びヒトATEを含むインプラントを注入したラットに限り、血管形成は広範囲であった。ラットでは、ヒトATEは、ラットATEよりも多くの血管形成を引き起こしたが、但し、両ATEは、十分に脂肪形成を誘発したようであった。
【0094】
(例6)
臨床前試験
滅菌シリンジ内への直接吸引による脂肪吸引サンプルから、ヒト脂肪組織抽出物を調製した。タンパク抽出を最大化するために、脂肪吸引により得られた脂肪2.5mlを滅菌等張塩溶液1.5mlと、滅菌シリンジ内で混合し、室温で45分間インキュベーションした。インキュベーション中、シリンジを数回振とうした。得られた抽出物の総タンパク質濃度は2.5mg/mlであり、また増殖因子濃度は、VEGFが17pg/ml、またFGF−2が177pg/mlであった。
【0095】
インキュベーション後、アダプターを介して第1のシリンジと連結している第2の滅菌シリンジ内に、0.2μmフィルター(Acrodisc syringe filter、Pall Gelman Laboratory、An Arbor、米国)を経由して、抽出物を滅菌ろ過した。現在抽出物を収納する第2のシリンジを、Restylaneを適当量含む第3の滅菌シリンジに、アダプターを介して連結した。Restylaneが0.9ml(45.5%)、及び脂肪組織抽出物が1.2ml(54.5%)の比率で、得られた滅菌脂肪組織抽出物をRestylaneと混合した。液相とゲル相とを、当該物質を第2と第3のシリンジ間で往復させながら注入することにより混合した。インプラント物質は十分均一と考えられ、その時淡いピンク色をした脂肪組織抽出物は当該物質内で均一に浮遊していた。最終的なインプラントは1.2mg/mlのタンパク質を含んだ。
【0096】
30G針を用いて健常志願者の脚部の異なる2つの部位に、得られたインプラントを速やかに皮下注射した。第1の部位は古い既存瘢痕組織を含み、インプラント450μlを当該部位に注入した。脚部の第2の部位では、組織内に形成される円形の欠損部位が直径約1cmとなるように、皮下脂肪組織を除去して2つの欠損を設けた。一方の欠損は対照としてそのままとし、他方には900μlのインプラントを注入した。
【0097】
移植後、又はフォローアップ期間中に、アレルギー反応又はその他の合併症は認められなかった。前試験開始後3カ月目(12週目)及び6カ月目(28週目)に、インプラント部位から、並びに対照組織から生検を採取した。炎症反応は認められず、3カ月後でも多量のインプラント物質がなおも存在していた。血管形成の増加が、移植後の瘢痕組織に認められた。しかし、過剰な脂肪組織形成は、なおも存在しなかった。6カ月目(図6C)では、真皮内の組織容積は、対照と比較してかなり拡大しており、また正常で、高度に血管が発達した疎性結合組織を認めることができた。対照(図6A)では、ごくわずかな血管しか認められない。6カ月目では、真皮下部において過剰の血管(細動脈様血管)形成が認められ(b=血管(blood vessels)、また新規に形成された脂肪組織(a=脂肪組織(adipose tissue)も存在した(図6C)。臨床パイロット試験によれば、当該物質は極めて良好な耐容性を有し、また脂肪組織形成及び血管形成を誘発し、そして新規に形成された組織も、インプラントそのものが分解した後でも存在する。
【0098】
このように、本発明は新規脂肪組織形成、及び血管形成を誘発するインプラントを提供し、またヒドロゲル構造中に捕捉、及び固定化された脂肪形成因子、及び血管形成因子を長期間送達するシステムを提供する。本発明の生物活性インプラントは、宿主細胞の浸潤を誘発するのに役立ち、またより効率的な組織再生を可能にする。当該インプラントの効果は局所的、部位特異的であり、所定の効果を得るために必要とされる脂肪形成因子及び血管形成因子の全体用量を低減する。これはコスト効率が高いだけでなく、有害な全身効果を回避する方法でもある。
【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
事前決定された量のVEGF、FGF−2、及びIGF−1を含む、細胞不含脂肪組織抽出物。
【請求項2】
総タンパク質1mg当たりの前記増殖因子含量が、少なくとも1pgのVEGF、少なくとも70pgのFGF−2、及び少なくとも50pgのIGF−1である、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
総タンパク質1mg当たりの前記VEGF含量が、少なくとも7pgである請求項2に記載の抽出物。
【請求項4】
アンジオジェニン、アディポネクチン、TIMP−1及びTIMP−2、MIF、IGFBP−6、NAP−2、レプチン、PDGF−BB、並びにGROを更に含む、請求項2に記載の抽出物。
【請求項5】
アンジオジェニン、IL−5、IL−6、IL−8、CCL5、NAP−2、MCP−1、アディポネクチン、GRO、TIMP−1、TIMP−2を更に含む、請求項2又は3に記載の抽出物。
【請求項6】
軟組織の修復又は工学的操作で、創傷治癒で、火傷治療で又は虚血状態の治療で用いられる、請求項1から5までのいずれか一項に記載の抽出物。
【請求項7】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の細胞不含脂肪組織抽出物、及び生体適合性マトリクスを含むインプラント。
【請求項8】
前記生体適合性マトリクスがヒドロゲルである、請求項7に記載のインプラント。
【請求項9】
前記ヒドロゲルがヒアルロン酸、キトサン、フィブリン、コラーゲン、アルギン酸塩、ポリ乳酸ベースのポリエステル、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載のインプラント。
【請求項10】
注射可能である、請求項7から9までのいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項11】
前記抽出物が同系異種である、請求項7から10までのいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項12】
軟組織の修復又は工学的操作で、創傷治癒で、火傷治療で又は虚血状態の治療で用いられる、請求項7から11までのいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項13】
事前に決定された量のVEGF、FGF−2、及びIGF−1を含む、細胞不含脂肪組織抽出物を調製する方法であって、
a)生存細胞を含むホモジナイズされていない脂肪組織サンプルを提供するステップ、
b)前記サンプルを事前に決定された時間インキュベートするステップ、及び
c)前記抽出物を収集するステップ
を含む前記方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法によって取得可能な細胞不脂肪組織抽出物。
【請求項15】
前記脂肪組織抽出物を前記生体適合材料と混合する、又は前記脂肪組織抽出物を前記生体適合材料に吸収させるステップを含む、請求項7から11までのいずれか一項に記載のインプラントを調製する方法。
【請求項16】
脂肪形成を誘発する方法であって、請求項7から11までのいずれか一項に記載のインプラントを、これを必要とする対象に移植するステップを含む、前記方法。
【請求項17】
血管形成を誘発する方法であって、請求項7から11までのいずれか一項に記載のインプラントを、これを必要とする対象に移植するステップを含む、前記方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−502012(P2012−502012A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525584(P2011−525584)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050715
【国際公開番号】WO2010/026299
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511059335)
【出願人】(511059346)
【Fターム(参考)】