説明

転がり摺動部材及び転がり軸受並びに転がり摺動部材の製造方法

【課題】転がり接触又はすべり接触が生じる接触面に供給される潤滑油が少量であっても、均一な油膜が形成され、摩擦係数小さくかつ均一である接触面を有する転がり摺動部材を提供する。
【解決手段】転がり摺動部材としての外輪1、内輪2及び転動体3を備える転がり軸受において、それぞれの転がり接触面である、外側軌道面11、内側軌道面21及び転走面31のうちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部5を形成し、前記凹部5の内面に撥油剤6を付着させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり摺動部材及び転がり軸受並びに転がり摺動部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
相手部材との間で相対的な転がり接触又はすべり接触が生じる接触面を有する転がり摺動部材のうち、回転する軸に加わる荷重を支える軸受摺動部材として、比較的油膜厚さが薄い状況下においても摺動抵抗及び摺動損失を低減させることができる軸受摺動部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この軸受摺動部材は、図10に示されるように、前記接触面としての摺動面に微細なディンプル状の凹部22が設けられ、この摺動面における前記凹部22の面積率が5〜60%であり、前記凹部22の周辺に形成されている盛り上がり23の盛り上がり量が摺動部位の油膜厚さと比べて小さいことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−184883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記軸受摺動部材は、使用条件等によって、供給される潤滑油の量が少なくなると、摺動面の平坦部24に形成される油膜の分布が不均一となって当該摺動面に油膜が形成されている部分と油膜が形成されていない部分が生じ、この油膜が形成されていない部分では、摩擦係数が大きくなって摩擦損失が増加するという欠点がある。
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、接触面に供給される潤滑油が少量であっても、当該接触面で均一な油膜を形成し、摩擦係数の値及びその変動を小さくできる転がり摺動部材及び転がり軸受並びに転がり摺動部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の転がり摺動部材は、相手部材との間で相対的な転がり接触又はすべり接触が生じる接触面を有する金属製の転がり摺動部材であって、前記接触面に多数の微細な凹部が形成され、前記凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とする。
【0007】
本発明の転がり摺動部材は、接触面に形成された多数の微細な凹部の内面に撥油剤が付着しているので、当該凹部内に侵入した潤滑油が、撥油剤によって当該凹部から外部に容易に排出され、接触面に供給される。このため、前記接触面に供給される潤滑油が少量であっても、当該接触面で均一な油膜が形成される。よって、当該接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【0008】
本発明の転がり摺動部材において、前記凹部がショットピーニングによって形成され、前記撥油剤がショットピーニング用の投射粒子とともに投射されて前記凹部に付着されていることが好ましい。
【0009】
この場合、前記凹部の内部に撥油剤を確実に付着させることができるので、当該凹部に侵入した潤滑油を当該凹部から外部に確実に排出させて接触面に供給することができる。
【0010】
本発明の転がり摺動部材において、前記撥油剤がフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂は、接触面に形成されている凹部の内面に付着しやすく、しかも優れた撥油性を有するので、当該凹部に侵入した潤滑油を効率よく当該凹部から外部に排出させて接触面に供給することができる。
【0011】
本発明の転がり摺動部材の製造方法は、所定形状に形成された金属製の中間素材を研磨して、相手部材との間で相対的な転がり接触又はすべり接触が生じる接触面を形成する工程と、前記接触面にショットピーニングによって投射粒子とともに撥油剤を投射して、前記接触面に多数の微細な凹部を形成すると同時に、凹部の内面に前記撥油剤を付着させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の転がり摺動部材の製造方法によれば、接触面に多数の微細な凹部を形成すると同時に、当該凹部の内面に撥油剤を付着させることができるので、効率よく、内面に撥油剤が付着した凹部を形成することができる。
【0013】
本発明の転がり摺動部材の製造方法においては、撥油剤を付着させた投射粒子を接触面に投射することが好ましい。この場合、ショットピーニングによって形成された凹部の内面のみに撥油剤を付着させることができ、投射粒子が投射されていない接触面に撥油剤が付着することを回避することができる。
【0014】
本発明の転がり摺動部材の製造方法において、撥油剤としてフッ素樹脂を用いることが好ましい。フッ素樹脂は、接触面に形成されている凹部の内面に付着しやすく、しかも優れた撥油性を有するので、当該凹部に侵入した潤滑油を効率よく当該凹部から外部に排出させて接触面に供給することができる。
【0015】
本発明の転がり軸受は、内周に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、前記外輪と同軸に配置され、外周に転がり接触面としての内側軌道面を有する内輪と、前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周に前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を有する複数の転動体とを備え、前記外側軌道面、内側軌道面及び転走面のうちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部が形成され、前記凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とする。
【0016】
この場合、転がり接触面である外側軌道面、内側軌道面及び転走面のうちの少なくとも1つに形成された多数の微細な凹部の内面に、撥油剤が付着しているので、当該凹部内に侵入した潤滑油が、撥油剤によって当該凹部から外部に容易に排出され、転がり接触面に供給される。これにより、前記転がり接触面に供給される潤滑油が少量であっても、当該転がり接触面で均一な油膜が形成されるため、当該転がり接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【0017】
本発明の他の転がり軸受としてのラジアル玉軸受は、内周に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、前記外輪と同軸に配置され、外周に転がり接触面としての内側軌道面を有する内輪と、前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周が前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を構成している複数の玉からなる転動体と、前記転動体をポケット部に収容し、周面に内輪の外周面又は外輪の内周面に対するすべり接触面であるガイド面を有する保持器とを備えるラジアル玉軸受であって、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、保持器のポケット部及び保持器のガイド面のうちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部が形成され、前記凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とする。
【0018】
このラジアル玉軸受においては、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、保持器のポケット部及び保持器のガイド面のうちの少なくとも1つに形成された多数の微細な凹部の内面に、撥油剤が付着しているので、前記凹部内に侵入した潤滑油が、撥油剤によって当該凹部から外部に容易に排出され、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、保持器のポケット部及び保持器のガイド面のうちの少なくとも1つの接触面に供給される。これにより、当該接触面に供給される潤滑油が少量であっても、接触面で均一な油膜が形成されるため、接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【0019】
本発明の他の転がり軸受としてのころ軸受は、内周に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、前記外輪と同軸に配置され、外周に転がり接触面としての内側軌道面を有する内輪と、前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周に前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を有する複数のころからなる転動体と、前記転動体をポケット部に収納する保持器とを備え、前記内輪又は外輪の少なくとも一方に、前記転動体の端面に対するすべり接触面である鍔面を形成しているころ軸受であって、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、転動体の端面、鍔面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部が形成され、前記凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とする。
【0020】
このころ軸受においては、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、転動体の端面、鍔面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに形成された多数の微細な凹部の内面に、撥油剤が付着しているので、前記凹部内に侵入した潤滑油が、撥油剤によって当該凹部から外部に容易に排出され、少なくとも1つの前記接触面に供給される。これにより、前記接触面に供給される潤滑油が少量であっても、接触面で均一な油膜が形成されるため、接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【0021】
本発明のさらに他の転がり軸受としてのスラストころ軸受は、一側面に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、一側面に転がり接触面としての内側軌道面を有し、この内側軌道面を前記外輪の外側軌道面に対して軸方向に隙間を設けた状態で対向配置させた内輪と、前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周に前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を有する複数のころからなる転動体と、前記転動体をポケット部に収容する保持器とを備えるスラストころ軸受であって、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、転動体の端面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部が形成され、前記凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とする。
【0022】
このスラストころ軸受においては、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、転動体の端面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに形成された多数の微細な凹部の内面に、撥油剤が付着しているので、前記凹部内に侵入した潤滑油が、撥油剤によって当該凹部から外部に容易に排出され、少なくとも1つの前記接触面に供給される。これにより、前記接触面に供給される潤滑油が少量であっても、接触面で均一な油膜が形成されるため、接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【0023】
本発明のさらに他の転がり軸受としてのスラスト玉軸受は、一側面に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、一側面に転がり接触面としての内側軌道面を有し、この内側軌道面を前記外輪の外側軌道面に対して軸方向に隙間を設けた状態で対向配置させた内輪と、前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周が前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を構成する複数の玉からなる転動体と、前記転動体をポケット部に収容する保持器とを備えるスラスト玉軸受であって、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部が形成され、前記凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とする。
【0024】
このスラスト玉軸受においては、前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに形成された多数の微細な凹部の内面に、撥油剤が付着しているので、前記凹部内に侵入した潤滑油が、撥油剤によって当該凹部から外部に容易に排出され、少なくとも1つの前記接触面に供給される。これにより、前記接触面に供給される潤滑油が少量であっても、接触面で均一な油膜が形成されるため、接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の転がり摺動部材によれば、接触面に供給される潤滑油が少量であっても、当該接触面で均一な油膜が形成されるため、当該接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【0026】
本発明の転がり摺動部材の製造方法によれば、接触面に多数の微細な凹部を形成すると同時に、当該凹部の内面に撥油剤を付着させることができるので、効率よく、内面に撥油剤が付着した凹部を形成することができる。
【0027】
本発明の転がり軸受によれば、接触面に供給される潤滑油が少量であっても、当該接触面で均一な油膜が形成されるため、当該接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の転がり軸受としてのラジアル玉軸受の一実施形態を示す断面図である。
【図2】接触面にショットピーニングが施された状態を示す断面模式図である。
【図3】ラジアル玉軸受の内輪の製造方法を示す工程図である。
【図4】ころ軸受の一実施形態を示す断面図である。
【図5】ころ軸受の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】スラストころ軸受の一実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例1で得られた試験片の原子間力顕微鏡写真である。
【図8】実験例2において、本発明の実施例1の試験片、比較例1の試験片及び比較例2の試験片の摩擦速度/荷重と摩擦係数抗との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例2の試験片、比較例3の試験片及び比較例4の試験片の摩擦距離と摩擦係数との関係を示す図である。
【図10】従来の軸受摺動部材の表面にショットピーニングが施された状態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の転がり軸受の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の転がり摺動部材を用いた転がり軸受の一実施形態を示す断面図である。この転がり軸受は、ラジアル玉軸受であり、内周に外側軌道面11を有する外輪1と、この外輪1と同軸に配置され、外周に前記外側軌道面11に対向する内側軌道面21を有する内輪2と、前記外側軌道面11と内側軌道面21との間に介在した鋼球からなる複数の転動体3と、各転動体3を周方向に沿って所定間隔毎に保持する保持器4とを備えている。前記転動体3の外周面は、前記外側軌道面11及び内側軌道面21を転走する転走面31として構成されている。
【0031】
この実施の形態においては、前記外輪1、内輪2、転動体3及び保持器4が、それぞれ転がり摺動部材であり、外側軌道面11、内側軌道面21及び転動体3の転走面31が、転がり接触面である。また、前記外輪1、内輪2及び転動体3は、軸受鋼や浸炭鋼等の軸受用鋼からなるものであり、熱処理によって所定の硬さに硬化されている。
【0032】
前記保持器4は、金属製の筒体に、転動体3を収容するポケット部41を周方向に沿って所定間隔毎に複数個形成したものである。この保持器4の外周面は、ガイド面42として構成されており、このガイド面42を外輪1の内周面に摺接させることにより、保持器4の回転が案内される。前記保持器4のガイド面42が外輪1の内周面に対するすべり接触面であり、ポケット部41が転動体3の転走面31に対するすべり接触面である。
【0033】
前記転がり軸受においては、転がり接触面である前記外側軌道面11、内側軌道面21及び転動体3の転走面31うちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部が形成され、この凹部の内面に撥油剤が付着している。例えば、内輪2の内側軌道面21を例に挙げると、図2に示すように、内輪2の内側軌道面21に多数の微細な凹部5が形成され、この凹部5の内面に撥油剤6が付着している。なお、図2は、内輪2の転がり接触面にショットピーニングが施された状態を示す断面模式図である。
【0034】
図3は、転がり軸受の内輪2の製造方法を示す工程図であり、図2に示される内輪2の内側軌道面21に前記凹部5を形成し、この凹部5の内面に撥油剤6を付着させる場合を示している。
【0035】
この製造方法を示す工程図においては、まず、軸受鋼や浸炭鋼等の軸受用鋼を鍛造して得られた環状素材A〔図3(a)参照〕に切削加工を施すことにより、軌道部分、端面、内周面及び外周面をそれぞれ所定形状に形成した中間素材Bを得る〔図3(b)参照〕。
次に、前記中間素材Bに熱処理を施して、当該中間素材Bの表面の硬さが、例えばHRC60から64の範囲になるように硬化させる〔図3(c)参照〕。
さらに、前記熱処理にて硬化された中間素材Bの軌道部分、端面及び内周面に研磨加工を施して、所定寸法に形成するとともに、前記軌道部分に超仕上げ加工を施し、内側軌道面21を所定の表面粗さに仕上げる〔図3(d)参照〕。
【0036】
その後、前記内側軌道面21に対してショットピーニングを施し、当該内側軌道面21の表面に凹部5を形成する。この際、ショット用の圧縮空気が供給される圧力容器71の内部に、投射粒子7と前記撥油剤6とを混在させておくことにより、当該投射粒子7に前記撥油剤6を付着させて、当該投射粒子7を内側軌道面21に吹付ける。これにより、前記内側軌道面21に凹部5を形成すると同時に、当該凹部5の内面に撥油剤6を付着させることができる〔図3(e)参照〕。
【0037】
このように、前記転がり軸受の製造方法によれば、転がり接触面に多数の微細な凹部5を形成すると同時に、当該凹部5の内面に撥油剤6を付着させることができるので、効率よく、内面に撥油剤6が付着した凹部5を形成することができる。
【0038】
前記ショットピーニングの際に使用される投射粒子7としては、例えば、鉄、ステンレス鋼などの金属製の球、セラミックス製の球、ガラス製の球が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。投射粒子7の粒子径は、特に限定されないが、転がり接触面(内側軌道面21)に撥油剤6を十分に付着させることができる凹部5を形成する観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、前記凹部5に侵入した潤滑油を前記凹部5から容易に排出させることができるようにする観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下である。
【0039】
ショットピーニングによって投射粒子7とともに投射される撥油剤6は、潤滑油に対して撥油性を有するものであればよい。撥油剤6としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は併用することができ。撥油剤6の中では、前記凹部5の内面に撥油剤6を確実に付着させ、前記凹部5に侵入した潤滑油を効率よく前記凹部5から転がり接触面に供給する観点及び優れた固体潤滑性を有する観点から、フッ素樹脂であることが好ましい。また、フッ素樹脂は、投射粒子7の表面に容易に付着するので、投射粒子7によって転がり接触に凹部5を形成すると同時に、形成された凹部5にフッ素樹脂を確実に付着させることができる。フッ素樹脂の代表例としては、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0040】
前記撥油剤6は、粉体及び液体のいずれであってもよいが、潤滑油との混在を防止する観点から、粉体であることが好ましい。粉体の撥油剤6を用いる場合、その粒子径は、前記凹部5の内面への撥油剤6の付着性を向上させる観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
【0041】
投射粒子7及び撥油剤6をショットピーニングによって転がり接触面に投射する際、投射粒子7と撥油剤6との比〔投射粒子/撥油剤(質量比)〕は、前記凹部5の形成効率を高める観点から、好ましくは1/1以上、より好ましくは3/1以上であり、前記凹部5の内面への撥油剤6の付着効率を高める観点から、好ましくは20/1以下、より好ましくは10/1以下である。
【0042】
なお、投射粒子7及び撥油剤6をショットピーニングによって転がり接触面に投射する際には、投射粒子7と撥油剤6の粉体とを混合したものを転がり接触面に投射してもよく、あるいは投射粒子7の表面にあらかじめ撥油剤6を付着させておいたものを転がり接触面に投射してもよい。投射粒子7の表面にあらかじめ撥油剤6を付着させておいたものを用いた場合、投射粒子7を転がり接触面に投射したときに、投射粒子7が転がり接触面と接触した部位以外の箇所に撥油剤6が付着することを防止することができるという利点がある。
【0043】
前記転がり接触面における凹部5の面積の総和(転がり接触面の単位面積あたりの凹部5の面積の総和)は、前記凹部5に侵入した潤滑油を効率よく転がり接触面に供給することにより、転がり接触面に均一な油膜を形成させる観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり、転がり接触面で潤滑油が存在する面積を相対的に大きくすることによって潤滑性を高める観点から、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下である。前記転がり接触面における凹部5の面積の総和は、例えば、前記転がり接触面の単位面積あたりのショットピーニングによって投射される投射粒子7の数を調整することによって容易に調節することができる。
【0044】
前記転がり接触面に形成されている凹部5の開口部における直径は、等価円直径に換算して、撥油剤6を強固に前記凹部5に付着させる観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、前記凹部5からその外部に潤滑油を効率よく排出させて転がり接触面に供給することにより、転がり接触面に均一な油膜を形成させる観点から、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下である。前記凹部5の開口部における直径は、例えば、ショットピーニングによって投射される投射粒子7の直径、投射粒子7が転がり接触面に投射されるときの圧力などを調整することによって容易に調節することができる。
【0045】
なお、前記転がり接触面に投射粒子7をショットピーニングによって投射したとき、前記転がり接触面に形成される凹部5の周囲には、盛り上がり部(図示せず)が形成される。この盛り上がり部の高さは、前記凹部5からその外部に潤滑油を効率よく排出させて転がり接触面に供給することにより、転がり接触面に均一な油膜を形成させる観点から、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1mm以下、さらに好ましくは0.02mm以下である。なお、前記盛り上がり部の高さは、例えば、ショットピーニングによって投射粒子7が転がり接触面に投射されるときの圧力を調整したり、ショートピーニングによって投射粒子7を投射した後、バレル研磨を施したりすることによって容易に調節することができる。
【0046】
以上説明したように、前記転がり軸受は、転がり接触面に形成された多数の微細な凹部5の内面に撥油剤6が付着しているので、当該凹部5内に侵入した潤滑油が、撥油剤6によって当該凹部5から外部に容易に排出され、転がり接触面に供給される。これにより、転がり接触面に供給される撥油剤6が少量であっても転がり接触面に均一な油膜が形成されるため、当該転がり接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
【0047】
なお、前記転がり接触面に均一な油膜を形成し、当該転がり接触面の摩擦係数を小さくかつ均一にする観点から、少なくとも外側軌道面11及び内側軌道面21の双方に前記凹部5が形成され、前記凹部5の内面に撥油剤6が付着していることが好ましい。
【0048】
前記転がり軸受においては、前記外側軌道面11、内側軌道面21、転動体3の転走面31、保持器4のポケット部41及びガイド面42のうちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部5が形成され、この凹部5の内面に撥油剤が付着していてもよい。また、前記ガイド面42は、内輪2の外周面に対して摺接するものであってもよい。
【0049】
前記転がり軸受としては、円すいころ軸受、円筒ころ軸受などのころ軸受であってもよい。
図4は、ころ軸受の一実施形態を示す断面図である。このころ軸受は、円すいころ軸受であり、内周にテーパ状の外側軌道面11を有する外輪1と、この外輪1と同軸に配置され、前記外側軌道面11に対向する外周に、テーパ状の内側軌道面21を有する内輪2と、前記外側軌道面11と内側軌道面21との間に介在した円すいころからなる複数の転動体3と、各転動体3を周方向に沿って所定間隔毎に保持する保持器4とを備えている。前記転動体3の外周面は、前記外側軌道面11及び内側軌道面21を転走する転走面31として構成されている。
【0050】
前記円すいころ軸受においては、前記外輪1、内輪2、転動体3及び保持器4が、それぞれ転がり摺動部材であり、外側軌道面11、内側軌道面21及び転動体3の転走面31が、転がり接触面である。
【0051】
前記内輪2の大径側の端部には、前記転動体3の大径側の端面32と摺接して当該転動体3の転走を案内する鍔面25が形成されている。
また、前記保持器4は、金属製の筒体に、転動体3を収容するポケット部41を周方向に沿って所定間隔毎に複数個形成したものである。この保持器4のポケット部41は、転動体3に対するすべり接触面として構成されている。前記内輪2の鍔面25が転動体3の端面32に対するすべり接触面であり、前記保持器4のポケット部41が転動体3の転走面31に対するすべり接触面である。
【0052】
前記円すいころ軸受においては、前記外側軌道面11、内側軌道面21、転動体3の転走面31、ころ端面(転動体3の端面)32、鍔面25及び保持器4のポケット部41のうちの少なくとも1つに、図2に示す多数の微細な凹部5が形成され、この凹部5の内面に撥油剤6が付着している。
【0053】
図5は、ころ軸受のさらに他の実施形態を示す断面図である。このころ軸受は、円筒ころ軸受であり、内周に転がり接触面としての外側軌道面11を有する外輪1と、この外輪1と同軸に配置され、前記外側軌道面11に対向する外周に、転がり接触面としての内側軌道面21を有する内輪2と、前記外側軌道面11と内側軌道面21との間に介在した円筒ころからなる複数の転動体3と、この転動体3をポケット部41に収容する保持器4とを備えている。前記転動体3の外周面は、前記外側軌道面11及び内側軌道面21を転走する転走面31として構成されている。
【0054】
前記円筒ころ軸受においては、前記外輪1、内輪2、転動体3及び保持器4が、それぞれ転がり摺動部材であり、外側軌道面11、内側軌道面21及び転動体3の転走面31が、転がり接触面である。
前記内輪2及び外輪の少なくとも一方には、前記転動体3の端面32と摺接して当該転動体3の転走を案内する鍔面25が形成されている。図の場合、前記鍔面25は、前記内輪2の両端部及び外輪1の一方の端部に形成されている。前記各鍔面25が転動体3の端面32に対するすべり接触面である。また、前記保持器4のポケット部41は、転動体3に対するすべり接触面として構成されている。
【0055】
前記円筒ころ軸受においては、前記外側軌道面11、内側軌道面21、転動体3の転走面31、ころ端面(転動体3の端面)32、鍔面25及び保持器4のポケット部41のうちの少なくとも1つに、図2に示す多数の微細な凹部5が形成され、この凹部5の内面に撥油剤6が付着している。
【0056】
前記円すいころ軸受及び円筒ころ軸受では、接触面に供給される撥油剤6が少量であっても接触面に均一な油膜が形成されるため、当該接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
なお、前記ころ軸受において、保持器4が軌道輪、例えば内輪2の鍔面25の外周面に接触してその回転が案内される場合には、保持器4のガイド面又は前記鍔面25の外周面に、多数の微細な凹部5を形成して、この凹部5の内面に撥油剤6を付着させてもよい。
【0057】
図6は、本発明の転がり軸受のさらに他の実施形態を示す断面図である。この転がり軸受は、スラストころ軸受であり、一側面に転がり接触面としての外側軌道面11を有する外輪1に対して、一側面に接触面としての内側軌道面21を有する内輪2を、同心にて軸方向に所定隙間を設けて対向させてある。前記外側軌道面11と内側軌道面21とは、互いに正対させてある。
【0058】
前記外側軌道面11と内側軌道面21との間には、複数の円筒ころ又は針状ころからなる転動体3を介在している。この転動体3の外周面は、前記外側軌道面11及び内側軌道面21を対する転がり接触面である転走面31として構成されている。また、前記外輪1と内輪2との間には、各転動体3をポケット部41に収容する保持器4を介在している。
【0059】
この実施の形態においては、前記外輪1、内輪2、転動体3及び保持器4が、それぞれ転がり摺動部材であり、外側軌道面11、内側軌道面21及び転動体3の転走面31が、転がり接触面である。
【0060】
このスラストころ軸受においては、前記外側軌道面11、内側軌道面21、転走面31、転動体3の端面32及び保持器のポケット部41のうちの少なくとも1つに、図2に示す多数の微細な凹部5が形成され、前記凹部5の内面に撥油剤が付着している。
【0061】
このスラストころ軸受についても、接触面に供給される撥油剤6が少量であっても接触面に均一な油膜が形成されるため、当該接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができる。
なお、前記スラストころ軸受としては、転動体3として玉を用い、外側軌道面11及び内側軌道面21を、前記玉が転走可能な断面円弧状としたスラスト玉軸受であってもよい。この場合、前記玉からなる転動体3の外周面が、転走面として構成され、その外側軌道面、内側軌道面、転走面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに、多数の微細な凹部5が形成され、前記凹部5の内面に撥油剤が付着される。
また、保持器4が軌道輪、外側軌道面11又は内側軌道面21に接触してその回転がガイドされる場合には、保持器4がガイド面、外側軌道面11及び内側軌道面21のうちの何れかに、多数の微細な凹部5を形成し、この凹部5の内面に撥油剤6を付着させてもよい。
【0062】
本発明の転がり摺動部材は、各種転がり軸受やすべり軸受等、相手部材との間で転がり接触及び/又はすべり接触が生じる接触面を有する各種部材について適用して実施することができる。また、前記何れの場合においても、転がり摺動部材は熱処理によって硬化されているものの他、熱処理が施されていないものであってもよい。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
実施例1
ショットピーニングに使用する投射粒子として、鉄系アトマイズ球状粒子(炭素、ケイ素及びマンガン含有炭素鋼、平均硬さ:860Hv、粒子径: 約40μm)を用いた。この投射粒子に粒径が約10μmのフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)粒子を、当該球状粒子と当該フッ素樹脂製粒子との質量比が7:1となるように混合した。得られた混合粒子を光学顕微鏡で観察したところ、粒子同士が凝集していたが、フッ素樹脂粒子は、投射粒子と混ざることにより、投射粒子を覆うように凝集していることが確認された。
【0065】
次に、試験片として、軸受鋼(SUJ2材)製の試験片(φ56mm×φ30mm×高さ9mm)に精密研磨を施し、Ra5nmの鏡面としたディスク試験片を用い、この試験片に、投射時のガス圧を0.5MPaに調整し、200mmの投射距離で直圧式のピーニング装置で前記混合粒子を投射し、投射時間を調整することにより、試験片における凹部の面積の総和(試験片の単位面積あたりの凹部の面積の総和)を20%程度とした。
【0066】
なお、ノズル形状を調整することにより、粒子の投射量を制御したところ、衝突痕の重畳が低減し、離散した状態で凹部の付与が可能となった。
【0067】
投射粒子によって試験片に形成された投射痕を原子間力顕微鏡により写真撮影した。その顕微鏡写真を図7に示す。図7は、試験片の原子間力顕微鏡写真である。図7に示された結果から、試験片に投射粒子が衝突することによって付与された凹部の平均直径は8μmであり、その深さは0.3μm程度であった。なお、凹部の周囲は、僅かに盛り上がっており、その内部には投射粒子の表面形状に対応した凹部が存在していることから、投射粒子の表面形状がその凹部の内面に反映されていることがわかる。
【0068】
比較例1
実施例1において、フッ素樹脂粒子を使用しなかったことを除き、実施例1と同様にして、投射粒子のみをピーニング装置で試験片に投射することにより、ショットピーニングを行なった。
【0069】
実施例1及び比較例1でショットピーニングを行なった各試験片にスピンドル油を滴下した。その結果、実施例1の試験片では、スピンドル油がディンプルを避けるように拡散したのに対し、比較例1の試験片では、スピンドル油が凹部に侵入したことが確認された。このことから、実施例1の試験片では、凹部に撥油性が付与されていると考えられる。
【0070】
比較例2
実施例1で用いたのと同じ種類の試験片を用い、その試験片にショットピーニングを行なわなかった試験片をそのまま用いた。
【0071】
実験例1
実施例1、比較例1及び比較例2の各試験片にスピンドル油を滴下し、なじみ試験(摩擦速度0.6m/s、荷重49N、600秒)を行なった後、スピンドル油を新たなものと交換した。
【0072】
次に、各試験片について、摩擦試験を行なった。摩擦試験には、星野靖、日本材料学会2008年第2回学術講演会講演論文集、No.201(2008)p35−36に掲載されているリングオンディスク型摩擦試験機を使用した。このリングオンディスク型摩擦試験機は、ディスク試験片をモータにより回転させ、錘により接触荷重を印加し、摩擦させる方式である。摩擦試験は、ディスク試験片の摩擦面に潤滑油としてスピンドル油を潤沢に供給した後、リング試験片を接触させて荷重を負荷し、室温大気中でディスク試験片を回転させることによって行なった。
【0073】
リング試験片には、鋳鉄(FC250)製の試験片(φ40mm×φ32mm×高さ14mm)に精密研磨を施し、Ra5nmの鏡面としたものを用いた。
【0074】
実験例2
実験例1において、一定荷重のもとで摩擦速度を段階的に変化させたこと以外は、実験例1と同様にして試験を行ない、摩擦速度/荷重の値(以下、V/P値という)と摩擦係数との関係を調べた。その結果を図8に示す。図8において、黒塗り矩形は実施例1の試験片を用いたときの結果、黒塗り四角形は比較例1の試験片を用いたときの結果、黒塗り円形は比較例2の試験片を用いたときの結果を示す。
【0075】
図8は、V/P値が小さく、油膜が形成されがたく、2つの物体間で固体接触が生じやすい境界潤滑状態、境界潤滑と流体潤滑との混合潤滑状態、V/P値が大きく、油膜が形成されやすい流体潤滑状態への遷移状態を示している。
【0076】
図8に示された結果から、V/P値のいずれの領域においても、実施例1における摩擦係数は、比較例1及び2における摩擦係数と対比して、低くなる傾向があることがわかる。特に、V/P値が小さい領域(0.01近傍)では、実施例1における摩擦係数が顕著に小さくなることがわかる。
【0077】
また、V/P値が小さい領域では、2つの物体間の相対回転に伴う油膜が形成されがたく、比較例1及び2では、2つの物体間で油膜切れが生じやすくなるのに対し、実施例1では、凹部が貯蔵庫(リザーバ)としての潤滑油を溜めておくという機能を有するとともに、凹部内の撥油性により、潤滑油が凹部から接触面である平坦部に供給され、均一な油膜が形成されるので、摩擦係数が著しく小さくなったものと考えられる。
【0078】
実施例2
ショットピーニングに使用する投射粒子として、ガラスビーズ(粒子径:約55μm)を用いた。このガラスビーズと粒径が10μm以下のフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)粒子とを、当該ガラスビーズと当該フッ素樹脂粒子との質量比が7:1となるように混合した。得られた混合粒子を光学顕微鏡で観察したところ、フッ素樹脂粒子は、ガラスビーズと混ざることにより、ガラスビーズを覆うように付着していることが確認された。
【0079】
このフッ素樹脂が付着しているガラスビーズを用い、投射時のガス圧を0.5MPaに調整し、200mmの投射距離で直圧式のピーニング装置で、Ra5nmの鏡面を有するディスク試験片〔アルミニウム合金(A6063)製、φ56mm×φ30mm×高さ9mm〕に投射処理を施し、投射時間を調整することにより、試験片における凹部の面積の総和(接触面の単位面積あたりの凹部面積の総和)を17%程度とした。
【0080】
次に、ディスク試験片の摩擦面にスピンドル油を厚さが約20μmとなるように塗布した後、リング試験片〔鋳鉄(FC200)製、φ40mm×φ32mm×高さ14mm〕を接触させ、実験例1で用いたのと同じリングオンディスク型摩擦試験機を用いて荷重45Nを負荷し、室温大気中でディスク試験片を0.1m/sの速度で回転させることにより、摩擦試験を行ない、摩擦距離と摩擦係数との関係を調べた。その結果を図9のAに示す。
【0081】
比較例3
実施例2において、フッ素樹脂粒子を使用しなかったことを除き、実施例2と同様にしてショットピーニングを行なった後、ディスク試験片の摩擦試験を行ない、摩擦距離と摩擦係数との関係を調べた。その結果を図9のBに示す。
【0082】
比較例4
実施例2で用いたものと同じ種類のディスク試験片を用い、この試験片にショットピーニングを行なわなかったことを除き、実施例2と同様にしてディスク試験片の摩擦試験を行ない、摩擦距離と摩擦係数との関係を調べた。その結果を図9のCに示す。
【0083】
図9に示された結果から、比較例4のショットピーニングを行なわなかったディスク試験片では、図9のCに示されるように、摩擦係数が大きいとともに、摩擦距離が50〜350mの範囲における摩擦係数が約8×10-2〜19×10-2であり、摩擦係数のばらつきの幅が約4×10-1であることから、ディスク試験片の表面部位によって摩擦係数が大きく異なっていることがわかる。
【0084】
一方、比較例3のフッ素樹脂粒子を使用せずにショットピーニングが施されたディスク試験片では、図9のBに示されるように、摩擦係数が小さくなっているが、摩擦距離が50〜350mの範囲における摩擦係数が約1×10-2〜2×10-2であり、摩擦係数のばらつきの幅が約1×10-2であることから、ディスク試験片の表面での摩擦係数のばらつきは、比較例4のディスク試験片よりも小さいが、やや大きいことがわかる。
【0085】
これに対して、実施例2のフッ素樹脂粒子を使用してショットピーニングが施されたディスク試験片では、図9のAに示されるように、摩擦係数が小さいとともに、摩擦距離が50〜350mの範囲における摩擦係数が約1.2×10-2〜1.6×10-2であり、ばらつきの幅が約0.4×10-2であることから、ディスク試験片の表面での摩擦係数のばらつきは、比較例3及び比較例4のディスク試験片よりも格段に小さいことがわかる。
【0086】
以上のことから、本発明の転がり摺動部材は、接触面に形成された多数の微細な凹部の内面に撥油剤が付着しているので、前記接触面に供給される潤滑油が少量であっても、当該接触面で均一な油膜が形成されるため、当該接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができることがわかる。
【0087】
また、本発明の転がり軸受は、転がり接触面である外側軌道面、内側軌道面及び転走面のうちの少なくとも1つに形成された多数の微細な凹部の内面に、撥油剤が付着しているので、前記転がり接触面に供給される潤滑油が少量であっても、当該転がり接触面で均一な油膜が形成されるため、当該転がり接触面の摩擦係数の値及びその変動を小さくすることができることがわかる。
【符号の説明】
【0088】
1 外輪(転がり摺動部材)
11 外側軌道面(転がり接触面)
2 内輪(転がり摺動部材)
21 内側軌道面(転がり接触面)
25 鍔面
3 転動体(転がり接触面)
4 保持器
41 ポケット部
42 ガイド面
5 凹部
6 撥油剤
7 投射粒子
B 中間素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状に形成された金属製の中間素材を研磨して、相手部材との間で相対的な転がり接触又はすべり接触が生じる接触面を形成する工程と、
前記接触面にショットピーニングによって投射粒子とともに撥油剤を投射して、前記接触面に多数の微細な凹部を形成すると同時に、凹部の内面に前記撥油剤を付着させる工程と、
を含み、前記撥油剤を付着させた投射粒子を接触面に投射することを特徴とする転がり摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記撥油剤としてフッ素樹脂を用いる請求項1に記載の転がり摺動部材の製造方法。
【請求項3】
内周に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、
前記外輪と同軸に配置され、外周に転がり接触面としての内側軌道面を有する内輪と、
前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周に前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を有する複数の転動体とを備え、
前記外側軌道面、内側軌道面及び転走面のうちの少なくとも1つに、撥油剤を付着させたショットピーニング用の投射粒子をショットピーニングによって投射させて多数の微細な凹部を形成させ、当該凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とする転がり軸受。
【請求項4】
内周に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、
前記外輪と同軸に配置され、外周に転がり接触面としての内側軌道面を有する内輪と、
前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周が前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を構成している複数の玉からなる転動体と、
前記転動体をポケット部に収容し、周面に内輪の外周面又は外輪の内周面に対するすべり接触面であるガイド面を有する保持器とを備えるラジアル玉軸受であって、
前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、保持器のポケット部及び保持器のガイド面のうちの少なくとも1つに、撥油剤を付着させたショットピーニング用の投射粒子をショットピーニングによって投射させて多数の微細な凹部を形成させ、当該凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とするラジアル玉軸受。
【請求項5】
内周に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、
前記外輪と同軸に配置され、外周に転がり接触面としての内側軌道面を有する内輪と、
前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周に前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を有する複数のころからなる転動体と、
前記転動体をポケット部に収納する保持器とを備え、
前記内輪又は外輪の少なくとも一方に、前記転動体の端面に対するすべり接触面である鍔面を形成しているころ軸受であって、
前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、転動体の端面、鍔面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに、撥油剤を付着させたショットピーニング用の投射粒子をショットピーニングによって投射させて多数の微細な凹部を形成させ、当該凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とするころ軸受。
【請求項6】
一側面に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、
一側面に転がり接触面としての内側軌道面を有し、この内側軌道面を前記外輪の外側軌道面に対して軸方向に隙間を設けた状態で対向配置させた内輪と、
前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周に前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を有する複数のころからなる転動体と、
前記転動体をポケット部に収容する保持器とを備えるスラストころ軸受であって、
前記外側軌道面、内側軌道面、転走面、転動体の端面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに、撥油剤を付着させたショットピーニング用の投射粒子をショットピーニングによって投射させて多数の微細な凹部を形成させ、当該凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項7】
一側面に転がり接触面としての外側軌道面を有する外輪と、
一側面に転がり接触面としての内側軌道面を有し、この内側軌道面を前記外輪の外側軌道面に対して軸方向に隙間を設けた状態で対向配置された内輪と、
前記外側軌道面と内側軌道面との間に介在し、外周が前記外側軌道面及び内側軌道面に対する転がり接触面である転走面を構成する複数の玉からなる転動体と、
前記転動体をポケット部に収容する保持器とを備えるスラスト玉軸受であって、
前記外側軌道面、内側軌道面、転走面及び保持器のポケット部のうちの少なくとも1つに、撥油剤を付着させたショットピーニング用の投射粒子をショットピーニングによって投射させて多数の微細な凹部を形成させ、当該凹部の内面に撥油剤が付着していることを特徴とするスラスト玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−76469(P2013−76469A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−8765(P2013−8765)
【出願日】平成25年1月21日(2013.1.21)
【分割の表示】特願2009−37983(P2009−37983)の分割
【原出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本トライボロジー学会、「トライボロジー会議予稿集 名古屋 2008−9」、2008年9月1日発行
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】