説明

転がり軸受の測定装置

【課題】 転動体あるいは回転体における損傷状態を正確に把握するとともに、実動時において軸受に掛かる負荷の状態を、平面的に精度よく測定することができる転がり軸受の測定装置を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも2つの回転体3a、3bの間に配置された複数の転動体2からなる転がり軸受1の測定装置であって、転動体2の表面への油膜形成手段と、転動体2あるいは回転体3aの表面に対向するように設けられ、かつ転動体2に対して二次元的に駆動可能な少なくとも1つの超音波センサ9と、当該超音波センサ9の出力を入力し演算する手段10とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の測定装置に関し、詳しくは、回転体の間に配置された複数の転動体からなる転がり軸受の転動体の表面の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械には多くの転がり軸受が使用されており、回転機械の保守・点検においては、軸受のフレーキングなどの転がり疲労を管理することの重要性が高い。また、軸受単体の機能の確認においては、回転体と転動体との接触状態やその間に存在するグリスや潤滑油の油膜の状態が重要な点検対象となるが、測定の困難性から点検時に実施することは事実上できなかった。特に、実動条件での測定は、困難性が高いものであった。
【0003】
従来、油膜の測定方法としては、光干渉法などが一般的であるが、転がり軸受においては、基本的に対象となる部位が必ず不透明な回転体と接触することから、油膜を直接測定することができなかった。
【0004】
これに代わる方法として、最近油膜の絶縁性を利用して転動体と回転体を電極とする電気容量の変化を測定する試みが提案されている。具体的には、図12に例示するような構成の油膜測定装置310において、円筒ころ軸受320の外輪321におけるころ322との対向面に露出するとともに外輪321と絶縁されて設けられた電極部311と、外輪21に接続されるとともに外輪321に電圧を印加する電源入力部312と、電極部11に接続されるとともに電極部311近傍における外輪321ところ322との対向面及び対向面間の油膜によって構成されるコンデンサの電気容量の変化を測定する電気容量測定回路とを備えることを特徴とする(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、軸受の損傷を直接監視する方法としては、取扱いが簡便であり診断に用いる解析技術が進んでいることから振動法が最も広く用いられている。具体的には、図13に例示するような構成によって、内輪111または外輪110を回転させている軸受1で生じる振動をセンサ103で測定して得た振動波形を包絡線処理の後に周波数分析する。回転する内輪111または外輪110の1点が転動体112を通過する周波数f1と、固定した外輪または内輪の1点が転動体を通過する周波数f2と、転動体の1点が内輪及び外輪に接触する周波数fbと、回転する内輪または外輪の回転周波数frと、リテーナの回転周波数fcとに対応する周波数での振幅値を基準値と比較する。周波数f1と周波数frとの比の値にかかわらず、傷のある部材の特定を行うことができる(例えば特許文献2参照)。
【0006】
さらに、S/N比が高く非破壊検査の手法として発展してきた超音波探傷検査方法を挙げることができる。材料内部の亀裂による超音波の反射を利用して転動体の欠陥を検出することができる。具体的には、図14に示すように、転がり軸受の転動体202及び超音波探傷用探触子203を超音波伝達媒体201中に配置し、超音波探傷用探触子203から前記転動体202に向けて超音波を発信して該転動体202から反射してくる超音波エコーにより前記転動体202の欠陥を検出することができる(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−214810号公報
【特許文献2】特開平09−257651号公報
【特許文献3】特開2004−77206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術においては、軸受の部分的な損傷の測定はできても、実動時の軸受の転動体と回転部との間における潤滑状態を正確に捉えることは困難であった。
【0008】
例えば、軸受の転動体と回転部との間の電気容量を測定する方法においては、1つの転動体が回転体と対向する状態での局所的ではあるが、平均的な容量を検出することになることから、油膜についても、平均的な測定値にならざるをえない。従って、転動体と回転部とが均一に接触する場合には比較的精度よく測定できるものの、実際の潤滑状態さらには損傷や歪のある状態を測定することはできない。
【0009】
また、振動法を用いた装置においては、損傷部位の特定はできても、軸受の転動体と回転部との間における潤滑状態を正確に捉えることはできず、実際の使用時においてその損傷箇所がどのように挙動し、特に、負荷が掛かったときの損傷箇所が転動体と回転部との接触状態にどのような影響を及ぼすかを推察することはできなかった。
【0010】
また、従来の超音波探傷検査方法においては、材料内部の亀裂を確認することは可能であるが、内部の亀裂による音波の反射条件と表面での損傷による音波の反射条件が全く異なることから、内部の亀裂による音波の検出条件で、表面の損傷状態と両方を同時に検出すること事実上できなかった。併せて、上記同様、実際に転動体と回転部との接触面における潤滑状態さらには損傷箇所の影響を正確に捉えることは困難であった。
【0011】
さらに、従来の監視装置にあっては、実際に使用する条件を反映することが非常に難しかった。つまり、転動体と回転部との接触部分は軸受に掛かる負荷によって変化することから、実動時と同等の負荷を制御しながら与え監視することが困難であった。また、軸受の実動時においては、軸受全体に負荷が掛かるよりも局部的に負荷が掛かることが多く、負荷によって潤滑状態がどのように変化するか、さらには損傷箇所がどのように分布するか、あるいはその周辺部位へどのような影響を及ぼすかを把握することが難しかった。
【0012】
そこで、この発明の目的は、こうした要請に対応し、転動体と回転体との接触部およびその近傍における油膜の二次元あるいは三次元的な膜厚分布を測定し、転動体あるいは回転体における潤滑状態さらには損傷状態を正確に把握するとともに、実動時において軸受に掛かる負荷の状態を、平面的に精度よく測定することができる転がり軸受の測定装置を提供することにある。特に、種々の要求に対応できる汎用性の高い装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す転がり軸受の測定装置によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
本発明は、少なくとも2つの回転体の間に配置された複数の転動体からなる転がり軸受の測定装置であって、転動体の表面への油膜形成手段と、転動体あるいは回転体の表面に対向するように設けられ、かつ転動体に対して二次元的あるいは三次元的に駆動可能な少なくとも1つの超音波センサと、当該超音波センサの出力を入力し演算する手段とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明者の研究において、超音波を用いて超音波センサと対向する回転体の転動体との接触面において反射するエコーを測定した結果、およびそのときの転がり軸受における転動部と回転体との接触状態を精緻に検討した結果、転動部と回転体によって形成される油膜の状態を二次元あるいは三次元的に把握することが可能であり、実動状態であっても転動体表面の油膜の膜厚分布を精度よく測定することができることを見出した。また、膜厚分布を検討すると、新品状態での転動部と回転体の接触が、弾性流体潤滑(以下「EHL」という。)接触領域を形成し、使用によって損傷が発生した軸受ではそのEHL領域内の膜厚分布に変化が生じ、損傷の進み具合によってその変形の度合いが変化することを見出した。
【0016】
本発明はこうした知見を基に、転動体の表面に油膜を形成し転動部と回転体を特定の条件で実動させるとともに、膜厚分布における加圧時の潤滑油の粘度などの影響を補正することによって、精度よく膜厚分布を測定することが可能となった。また、上記EHL領域を二次元的あるいは三次元的に把握することによって、実動時の転がり軸受の油膜の状態(潤滑状態)さらには損傷状態の測定を実現した。従って、転動体と回転体との接触部およびその近傍における油膜の二次元あるいは三次元的な膜厚分布の測定が可能になるとともに、転動体あるいは回転体における潤滑状態さらには損傷状態を正確に把握することを可能とし、特に、実動状態であっても膜厚分布および潤滑状態さらには損傷状態を精度よく測定することができる転がり軸受の測定装置を提供することが可能となった。
【0017】
さらに、こうした情報から、曲率を持つレース面の状態、表面粗さの影響、高面圧下での測定が可能となり、混合潤滑領域での固体接触部荷重支持割合の推定など、軸受の実動状態を種々の角度から、精度よく測定することができる転がり軸受の測定装置を提供することが可能となった。
【0018】
本発明は、上記転がり軸受の測定装置であって、前記2以上の回転体について、回転方向および回転速度を個々独立に変更可能な手段を有することを特徴とする。
【0019】
転がり軸受における転動部と回転体との接触状態は、回転状態によって変化する。従って、回転状態が刻々変化する場合には、この接触状態によって形成される油膜の膜厚や上記の監視対象たるEHL領域が変化することから、監視することが困難となる。特に損傷が生じた場合には、観測可能な安定したEHL領域を得ることが難しく、損傷の評価が困難となる。本発明者は、回転体の回転方向および回転速度を調整することによって、膜厚測定における回転速度の影響を補正し、再現性のある安定したEHL領域を得ることができることを見出したもので、実動時での転がり軸受の膜厚分布の測定や潤滑状態さらには損傷状態の検査を実現可能とした。
【0020】
本発明は、上記転がり軸受の測定装置であって、前記回転体の1つが、対となる他の回転体と反対方向、かつ同一回転速度の回転運動を行い、転動体の公転を停止する機能を有することを特徴とする。
【0021】
転がり軸受における転動部と回転体との接触状態の検出は、被検体である接触部が一定位置にあることが好ましい。一般に、同軸を中心とする2つの回転体に挟まれた球体は、両回転板(スラスト軸受では上下回転板、ラジアル軸受では内・外輪)の各接触面速度が同じで、回転方向が正反対の場合、自転はするが、球体の公転はしないことが知られている。本発明はこうした事実を転動部と回転体との接触状態の検出に利用するもので、転動体の公転停止状態を維持することによって、安定な油膜を形成し正確な膜厚測定を可能とし安定なEHL領域あるいは観測可能な接触状態の平均的軌跡を検出することが可能となる。従って、転がり軸受の膜厚分布の測定や損傷状態の把握を実現可能とした。
【0022】
本発明は、上記転がり軸受の測定装置であって、前記超音波センサ出力を演算し、前記転動体の表面の油膜の膜厚を測定することを特徴とする。
【0023】
本発明に係る装置においては、超音波センサと対向する回転体の転動体との接触面において反射するエコーが、該接触面での転動体との接触状態によってエコー高さが変化することを利用して、転動部と回転体によって形成される油膜の状態を二次元あるいは三次元的に把握することを可能としたものであり、実動状態であっても転動体表面の油膜の膜厚分布を精度よく測定することができる。特に、後述する焦点式のセンサを用い、転動体の公転を停止した状態で油膜に超音波の照射をフォーカスし、二次元的にセンサをスキャンすることによって精微な油膜の膜厚分布図を得ることができる。また、こうしたエコー高さは、加圧時の潤滑油の粘度などの影響を受けることの知見を得た。従って、例えば、事前に既知の膜厚条件を有する校正部材を測定した情報を基に、こうした影響を補正することによって、転動体と回転体との接触部およびその近傍における油膜の二次元あるいは三次元的な膜厚分布を精度よく測定することが可能となった。
【0024】
本発明は、上記転がり軸受の測定装置であって、前記超音波センサ出力から転動体の表面の二次元あるいは三次元画像を作成し、軸受の潤滑状態を測定することを特徴とする。
【0025】
上記のように、使用によって損傷が発生した軸受ではそのEHL領域に変形が生じ、損傷の進み具合によってその変形の度合いが変化することを見出した。本発明はこうした知見を基に、転動体の表面に油膜を形成し、超音波を用いて転動体あるいは回転体における上記EHL領域を二次元的に把握することによって、従来法では実質的に不可能に近い状態であった実動時での転がり軸受の潤滑状態さらには損傷状態の検査を実現したものである。これによって、転動体あるいは回転体における損傷状態を正確に把握するとともに、実動時において軸受に掛かる負荷の状態を、平面的に精度よく測定することが可能となった。また、焦点式の超音波センサの超音波をEHL領域全体に照射した状態で、EHL領域の膜厚分布の状態を測定することによって、転動体あるいは回転体における潤滑状態さらには損傷状態を、転動体の公転の有無に関わらず、正確に把握することができる。
【0026】
スラスト型の転がり軸受の測定装置であって、前記回転体のいずれかに対し、回転軸方向に荷重を加え、転動体への負荷を増大する機能を有することを特徴とする。
【0027】
一般に、旋盤などの加工機関係にはスラスト軸受が多用されている。こうした転がり軸受の測定においては、回転体の回転軸と転動体の転がり軸とが垂直方向となることから、転動体に対する負荷は回転軸方向に掛けることが必要となる。このように、実動状態における転がり軸受の実際に掛かる負荷条件を再現して測定することによって、一層転がり軸受の損傷状態およびそのデータを用いた寿命判断あるいは正確な転がり軸受の特性を把握することが可能となる。
【0028】
ラジアル型の転がり軸受け測定装置であって、前記回転体のいずれかに対し、回転軸と垂直方向に荷重を加え、転動体への負荷を増大する機能を有することを特徴とする。
【0029】
ラジアル型軸受は、一般に車輌など広い用途に最も多く利用され、回転体の回転軸と転動体の転がり軸を同一方向として回転している。従って、ラジアル型の転がり軸受の測定においては、転動体に対する負荷は回転軸と垂直方向に掛けることが必要となる。このように、上記同様、実動状態における転がり軸受の実際に掛かる負荷条件を再現して測定することによって、一層転がり軸受の損傷状態およびそのデータを用いた寿命判断あるいは正確な転がり軸受の特性を把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、転動体と回転体との接触部およびその近傍における油膜の二次元あるいは三次元的な膜厚分布を測定し、転動体あるいは回転体における潤滑状態さらに損傷状態を正確に把握するとともに、従来困難であった、実動時において軸受に掛かる負荷の状態を、平面的に精度よく測定することができる転がり軸受の測定装置を提供することが可能となった。
【0031】
また、汎用性が高く、実動状態での監視が可能な測定装置を有することによって、従来にない有用性が高い転がり軸受の検査装置を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
<転がり軸受の測定装置>
図1は、この発明に係る転がり軸受の測定装置の1つの構成を例示している。ここでは、測定対象の転がり軸受(以下「軸受」という。)1としてスラスト型を測定する場合を示している。つまり、転動体2を2つの回転体3aおよび3bの間に設け、図の上部の回転体3aを駆動する内回転プーリ4aと、図の下部の回転体3bを駆動する外回転プーリ4bを取り付けた状態で、両方の回転プーリ4aおよび4bに回転を与えることによって、軸受1が回転運動を行うことができる。各回転プーリ4aおよび4bは、支持軸受5を介して支持され、回転体3aおよび3bに動力を伝達する。駆動状態の詳細は後述する。
【0034】
軸受1は、測定装置に設けられた試験槽6の支持部7に配設されるとともに、該軸受1の上部回転体3aには液槽8が配設され、さらに液槽8には軸受1の回転体3aとの接触面と対抗するように超音波センサ9が浸漬配置されている。超音波センサ9は、回転体3aとの接触面に平行する平面上をx、y方向あるいはz方向に移動可能なように、移動機構(図示せず)に固定されている。試験槽6には転動体2と回転体3aの表面に油膜が形成できるように潤滑油などの油を所定量導入することができる手段が設けられている(図示せず)。あるいは、回転体3aのレースまたは転動体2に、ミスト状にした油を噴霧する方法などによっても油膜を形成することができる。また、超音波センサ9の出力を入力し演算する手段として演算部10が設けられ、転がり軸受の測定装置を形成している。液槽8には、シール材11によって回転プーリ4aおよび4bなどとのシールを維持した状態で水またはグリセリンが溜められ、回転体3aを経由して転動体2に超音波を円滑に照射する補助的な役割を果たしている。
【0035】
超音波センサ9について、センサを構成する素子としては、ローレンツ力を用いた電磁式の振動子と圧電セラミックのピエゾ効果を用いた振動子を用いることができる。具体的には、直径数mm〜10数mm程度の振動子を用い、数MHz〜数十MHzの縦波を1秒間に数千〜数万回のパルスとして入射する。図1では、センサの取り付けの便利などの観点から発信部と受信部を一体化した部材として例示しているが、これに限定されるものではなく、別体を組み合わせて用いることも可能である。また、発信部からの超音波を転動体2と回転体3aの接触部近傍に照射しエコーを受信する方法(反射式)を用いることが好ましい。さらに、転動体とレース面との接触(EHL)部の大きさが、普通、0.1〜0.5mm程度と小さいために、そこでの油膜厚さ分布を測定するためには、高周波の探触子を用い、超音波の照射領域を絞る焦点式の超音波センサ9を採ることが望ましい。なお、2面の接触領域での固体接触部荷重支持割合の推定の場合つまり潤滑状態さらには損傷状態の測定においては、超音波の焦点を接触部程度か、それより少し広くとることが望ましい。
【0036】
また、超音波センサ9の取り付け位置は、転動体2に対向することが好ましく、垂直型の超音波センサ9や斜角を設けて配設した場合には、転動体2と回転体3aとの接触部から、いわゆる近距音場限界距離D以上とすることが好ましい。超音波の照射領域内での複雑な音圧分布が反射特性に及ぼす影響を避けるためである。近距音場限界距離Dは、
D=d/4λ ・・(式1)
として表される。ここで、dは振動子の直径、λは超音波の波長を表す。
【0037】
超音波センサ9の走査は、通常転動体2に対向した平面を移動して情報を得ることが多いが、種々の軸受を対象とする場合には、転動体2とを結ぶ線上を移動することも好適である。三次元移動を可能とすることで、汎用性の高い測定装置が可能となる。また、軸受の曲面を測定する必要が多く、こうした観点からも三次元測定ができることが好ましい。ここで、走査は、例えば、数mm〜数十mmの範囲を、走査速度数十μm〜数百mm/sec、走査ピッチ0.005〜10mm/secで行うことで、精度の高い測定が可能である。
【0038】
なお、超音波センサ9を複数用い、複数の転動部2と回転体3aとの接触状態を監視することによって、単数の監視ではできない観点での測定が可能となる。例えば、複数の超音波センサ9からの出力の分布状態から、軸心に均等に荷重が掛かっているか否か、あるいは瞬間的に荷重が掛かったときに軸受1全体としてどのような挙動(例えば膜厚の変化あるいは回転位置のズレなど)をするか、など非定常状態での測定が可能となる点においても優位性が高い。特に、軸受1の回転を行いながら転動体2の公転停止状態を形成することによって、こうした現象をより正確に把握することが可能となる。
【0039】
演算部10には、超音波センサ9の出力および超音波センサ9移動機構からの位置情報を連続的に受けて順次書き込む機能(書き込みデータ)、転がり軸受の測定装置の操作部(図示せず)からの入力あるいは温度データなど伝送手段からの入力を受けるデータ入力機能、超音波センサ9の出力データなどを記憶する機能(記憶データ)、および、書き込みデータや記憶データを用いた油膜の厚みへの換算、等々油膜の分布状態つまり軸受1の潤滑状態を算出するに必要な種々の機能が内蔵されている。また、油膜の分布状態の算出における環境温度の補正機能や、複数の超音波センサを用いた場合にはそのセンサ間の出力特性のバラツキの補正機能なども内蔵することが好ましい。
【0040】
ここで、軸受1に対する負荷は、回転体3aおよび3bの回転軸、つまり回転プーリ4aおよび4bの中心軸pと転動体2の転がり軸qとが垂直方向となることから、回転プーリ4aを図1の矢印方向に掛ける力Fを制御することによって調整することができる。つまり、Fを増加させると回転プーリ4aを介して回転体3aを矢印方向に移動される力が働くことになり、転動体2に掛かる力が増加する。その結果、軸受1に対する負荷を増加することができ、逆にすることで負荷を軽減することができる。このように軸受1に対する負荷を調整することが可能となる。
【0041】
また、回転体3aおよび3bについて、回転方向および回転速度を個々独立に変更可能であることが好ましい。回転体3aおよび3bの回転方向および回転速度を独立して制御することによって、軸受1における転動部2と回転体3aおよび3bとの接触状態を再現性のある安定した条件で測定できるように調整することが可能となり、また転動体2の公転位置の変更などの制御が可能となる。安定した接触状態の実現によって、EHL領域を得ることができ、実動時での転がり軸受の潤滑状態さらには損傷状態の検査を実現可能とした。具体的には、駆動手段としてモータを用いモータの回転方向および回転速度を変更する方法や、クラッチ機構と回転プーリにおけるギア比の変更などによって行うことが可能である。
【0042】
つまり、回転体3aおよび3bのうちの1方が、対となる他の回転体3aあるいは3bと反対方向、かつ同一回転速度の回転運動を行うことによって、転動体2の公転を停止することができる。このように転動体2の公転停止状態を維持することによって、安定なEHL領域を検出することが可能となる。
【0043】
また、このとき、対となる回転体3aあるいは3bの少なくとも一方の回転速度を変えて、超音波センサ9が対向する転動体2(具体的には、2a、2b・・とする)を代えることが可能である。つまり、上記のように回転体3aと3bが反回転方向に等回転速度の場合には公転を停止することができる一方、回転速度を少しずらせると公転し始め、丁度先に監視していた転動体2aに隣接する転動体2bが超音波センサ9と対向する位置にきたときに回転速度を元に戻すと、その位置で転動体2bの公転は停止し監視を行うことが可能となる。このように、順次監視対象の転動体2a、2b・・を変えていくことで、軸受1の潤滑状態さらには損傷の均一性を確認することができるとともに、超音波センサ9の平面上の移動量を特定の転動体の周辺に限定することが可能となり、移動機構の簡素化および移動位置の高精度化を図ることができる。
【0044】
測定に際しては、以下に例示するように操作し、処理される。
(1)被検体である軸受1を試験槽6にセットし、上部回転体3aに液槽8を配設して水またはグリセリンが溜めた後、試験槽6に油を注入する。同時に超音波センサ9を設置して測定準備を完了する。
(2)回転プーリ4aおよび4bに回転を与え、回転体3aと3bの回転を起動させとともに、移動機構を駆動させ、超音波センサ9を転動体2が公転する軌道(公転軌道)上に移動し固定する。公転軌道の位置は、転動体2と回転体3aとの接触部からのエコーが最小となる超音波センサ9の出力から検出することができる。
(3)回転が安定した後、特定の転動体2aが超音波センサ9と対向する位置にきたときに、回転体3aと3bが反回転方向に等回転速度となるように制御することによって、特定の転動体2aを超音波センサ9と対向する位置に固定化(公転しない状態に)することができる。固定化する位置は、回転体3aと3bの一方の回転速度を増減することによって調整することができる。
(4)固定化された状態で、移動機構を駆動し、超音波センサ9を転動体2aの回転体3aとの接触面に平行な平面上をx方向およびy方向、さらにはz方向に移動させて(走査)、上記の油膜の膜厚あるいはEHL領域の二次元あるいは三次元測定を行う。走査は、上記のように等間隔(数μm〜数100μm)で最低2回以上行うことが好ましい。
(5)演算部10において最低2回の走査データ比較した結果、油膜の膜厚あるいはEHL領域が安定しない場合には、さらに走査を数回繰り返し行い、その平均値から平均的油膜の膜厚あるいはEHL領域を算出し、転動体2aの油膜の膜厚あるいはEHL領域を確定する。
(6)次に、回転体3aあるいは3bのいずれか一方の回転速度を増減し、超音波センサ9と対向する転動体を2aから2bに変更する。
(7)上記(3)〜(6)の繰り返し、転動体2a、2b・・について順次油膜の膜厚あるいはEHL領域を確定する。これによって、軸受1の実動状態を把握することができる。
【0045】
<油膜の膜厚の測定>
ここで、転動部と回転体との接触部において、油膜が形成される場合について、超音波センサの出力と油膜の膜厚との関係について考察する。
【0046】
(1)図2(A)に示すように、転動部2と回転体3aとの接触部における油膜12に対しパルス状に入射された超音波は、図2(B)のように、回転体3aと油膜12との境界において反射し(エコー高さh)を生じるとともに、油膜12と転動体2との境界においても反射し(エコー高さh)、および転動体2の回転体3b側の油膜との境界での反射(エコー高さh)を生じる。軸受のEHL領域における油膜の膜厚の測定においては、油膜が非常に薄いことからエコー高さhおよびエコー高さhを用い、エコー高さhは使用しない。
【0047】
(2)このとき、一般に、反射する超音波の強度は、ある媒体に入射された超音波が透過したときの、密度ρ、音速v、膜厚Lによって決定される。つまり、エコーの高さhは、透過する媒体の密度ρ×音速vの影響成分と膜厚Lの影響成分との混合したものとして、次式2のように表される
[式2]

【0048】
ここで、Zは音響インピーダンスを表し、Z=ρ×vで算出される。係数kは、油膜12を通過する超音波の波長λから、k=2π/λで算出される。Z12は回転体3aの音響インピーダンスZと油膜12の音響インピーダンスZとの比、Z21はその逆数を表す。ただし、ここでのρとvはEHL領域の油膜圧力(高圧)での値であり、別途、実験により求めた圧力とρ、vの関係から定める。
【0049】
従って、超音波センサ9の出力(エコー高さh)から膜厚Lを算出することによって、転動部2と回転体3aとの間にある油膜12の膜厚Lを測定することができる。
【0050】
(3)さらに、超音波エコーの測定においては、転動体2あるいは回転体3aの回転速度や加圧時の潤滑油の粘度などの影響を受けることから、校正装置を準備し、予め既知の空隙を設けて、圧力を変化させながら、同一媒体によるエコー高さhと膜厚Lとの関係を求めておけば、実測の膜厚Lを算出することができる。具体的には、図2(C)のように、パルス状に入射した超音波によるエコー高さhの測定を行った実験結果と理論的に算出した膜厚条件でのエコー高さhとは非常によい一致をみた。
【0051】
(4)ここで、エコー高さhを基に超音波センサ9をz方向(EHL領域に垂直な方向)に移動させて、回転体3aの下面への超音波のフォーカシングを行うとともに、超音波センサ9をEHL領域を含む領域に対しx−y方向に走査することによって、詳細な二次元画像を得ることができる。
【0052】
理想的には、図3(A)および(B)に例示するように、転動体2と回転体3aとの接触面での両者の変形によって、略均等な厚みの油膜12となるEHL領域Eを形成する。つまり、転動体2と回転体3aとの接触部については、油膜12の膜厚ゼロに近い状態(通常、10〜1000nm程度となる)であるから、走査された測定範囲の膜厚分布は、円形あるいは楕円形に近いEHL領域Eを形成する。
【0053】
例えば、図3(C)および(D)に例示するように、転動体2と回転体3aとの接触面での両者の不均等な変形によって、EHL領域E内部に例えば馬蹄形の薄膜層あるいは厚膜層E’を形成することが判った。つまり、走査によってこうした転動体2と回転体3aとの接触面での膜厚分布を詳細に知ることができこととなった。
【0054】
(5)以上のように、転動体2と回転体3aとの接触部の近傍に入射された超音波によって生じるエコーの高さhから、転動体2と回転体3aとの間に生じた油膜12の膜厚Lを算出することができ、さらにEHL領域Eを含む二次元領域を走査することによって、転動体2と回転体3aとの接触状態を油膜の膜厚分布として測定することができる。また、校正装置を準備し、予めエコー高さhと膜厚Lとの関係を求めて加圧時の潤滑油の粘度などの影響を補正すれば、精度の高い膜厚を算出することができる。
【0055】
<軸受の潤滑状態の測定>
次に、転動部と回転体との接触部において、油膜が形成される場合について、超音波センサの出力とEHL領域および潤滑状態さらには損傷状態の関係について考察する。
【0056】
(1)本装置では、図4(A)に例示するように、50MHz程度の高周波縦波探触子を有する超音波センサ9を使用して、転動体2との接触部に形成されるEHL領域Eの膜厚を測定する。この領域の膜厚は、上記のように数十nm〜数百nmと極めて薄いことから、この薄膜の厚さを測定しているときに傷や摩耗粉が混入すると、そこからの反射波の波高値が大きく変化し、潤滑異常を検出できる。これは、摩耗粉の厚さが数百nmから数μm、数十〜数百μmの長さの傷損の深さが数十nm〜数百nmであり、形成されるEHL領域での膜厚と同等かそれ以上であるためである。
【0057】
(2)この場合、焦点式超音波センサ9を用い、エコー高さhを基に上記z方向に移動調整して、EHL領域E(直径0.1〜0.5mm程度)に超音波を絞って照射し、転動体2の公転を停止するか、僅かに公転させて測定を行うことが好ましい。膜厚分布の測定においては、EHL部よりさらに狭い範囲にフォーカシングすることによって、精度の高い測定が可能であったが、潤滑状態さらには損傷状態の測定においては、EHL部全体かそれより広い範囲に焦点をずらし広い領域における瞬時の膜厚変動を捉えることによって、領域の損傷のない部位との比較をすることが可能となり、潤滑状態の変形領域の位置と大きさ、さらには損傷位置と大きさおよび深さあるいは突起の高さなどを正確に測定することが可能となる。
【0058】
(3)具体的には、本装置によって、図4(B)および(C)に例示するように、EHL領域内に生じた損傷部を的確に測定できることが判った。ここで、転動体2の自転や回転体の回転があるので、EHL領域に損傷が入り込むのは、一瞬となる。超音波センサ9の走査速度が遅く、転動体の自転速度が速い場合には、一走査ラインに複数の損傷部が検知されることになる。固体接触部での荷重支持割合や損傷の大まかな把握を行う場合には、超音波センサ9の走査を行わずに、照射領域をEHL部全体かそれより少し広くして測定を行うことが望ましい。
【0059】
(4)さらに、スラスト軸受の場合には、公転を停止させ、上下のワッシャの数回転分の計測を行うことが望ましい。転動体2の下側に、摩耗粉の噛み込みや損傷がある場合にも、転動体2がその場所で押し上げられたり、落ち込んだりするため、異常を検出できる可能性がある。
【0060】
(5)また、摩耗粉のかみこみは、油膜厚さを減少させたり、2面に金属接触を生じさせたりするので、EHL部からの反射波の波高値は急に低下する。一方、損傷部との遭遇では、油膜が急に厚くなるため、普通、反射波の波高値は急増することになる(EHL領域Eの膜程度の膜範囲では膜厚の増加に伴い順次波高値が高くなる)。
【0061】
(6)以上のように、EHL領域Eに入射された超音波によって生じるエコーの高さhから、転動体2と回転体3aとの間に生じた油膜12の膜厚Lを算出することができ、さらにEHL領域Eを含む広い領域を測定することによって、転動体2と回転体3aとの接触部における潤滑状態を測定することができる。
【0062】
<転がり軸受の測定装置の他の構成例>
次に、本発明に係る軸受の測定装置の他の構成として、ラジアル型の軸受を測定対象とする場合を図5(A)および(B)に例示する。
【0063】
具体的には、図5(A)および(B)に示すように、外輪を形成する回転体3cと内輪を形成する回転体3dの間に転動体2を設け、回転体3cを駆動する外回転プーリ4cと、部材13を介して回転体3dを駆動する内回転プーリ4dを取り付けた状態で、両方の回転プーリ4cおよび4dに回転を与えることによって、軸受1が回転運動を行うことができる。
【0064】
軸受1は、外回転プーリ4cの支持部7に配設され、シール材11によって試験槽6を形成する。また、転動体2と回転体3cとの接触面と対抗するように超音波センサ9が配置されている。超音波センサ9は、回転体3cとの接触面に平行する平面上をXY方向あるいはz方向に移動可能なように、移動機構(図示せず)に固定されている。試験槽6には転動体2と回転体3aの表面に油膜が形成できるように潤滑油などの油を所定量導入することができる手段が設けられている(図示せず)。また、超音波センサ9の出力を入力し演算する手段として演算部10が設けられ、転がり軸受の測定装置を形成している。
【0065】
超音波センサ9については、上記図1の構成と同様、反射式を用い、焦点式を採ることが好ましい。演算部10の機能も同様である。
【0066】
ここで、軸受1に対する負荷は、回転体3cおよび3dの回転軸、つまり回転プーリ4cおよび4dの中心軸pと転動体2の転がり軸q’とが同一方向となることから、内回転プーリ4dを介して図5(A)および(B)の矢印方向に掛ける力F’を制御することによって調整することができる。
【0067】
つまり、図5(A)においては、例えば内回転プーリ4d内部から油圧式の加圧手段など(図示せず)によって送られた高圧油によって強弾性部材13aを押圧し回転体3dに掛かる力F’を増加させることにより、転動体2に掛かる力が増加する。その結果、軸受1に対する負荷を増加することができ、逆にすることで負荷を軽減することができる。このように軸受1に対する負荷を調整することが可能となる。
【0068】
また、図5(B)においては、負荷用楔13bを負荷用コマ13cに押し込むことによって、回転体3dに掛かる力F’を増加させることにより、転動体2に掛かる力が増加する。その結果、軸受1に対する負荷を増加することができ、逆にすることで負荷を軽減することができる。このように軸受1に対する負荷を調整することが可能となる。ここで、負荷用コマ13cにスリッド13dを入れることによって、負荷の均等化を図ることができることから好ましい。
【0069】
測定に際しては、以下に例示するように操作し、処理される。
(1)被検体である軸受1を支持部7にセットして試験槽6を形成した後、試験槽6に油を注入する。同時に超音波センサ9を設置して測定準備を完了する。
(2)回転プーリ4cおよび4dに回転を与え、回転体3cと3dの回転を起動させとともに、移動機構を駆動させ、超音波センサ9を転動体2が公転する軌道(公転軌道)上に移動し固定する。公転軌道の位置は、転動体2からのエコーが最大となる超音波センサ9の出力から検出することができる。
(3)回転が安定した後、特定の転動体2aが超音波センサ9と対向する位置にきたときに、回転体3cと3dが反回転方向に等回転速度となるように制御することによって、特定の転動体2aを超音波センサ9と対向する位置に固定化(公転しない状態に)することができる。固定化する位置は、回転体3cと3dの一方の回転速度を増減することによって調整することができる。
(4)固定化された状態で、移動機構を駆動し、超音波センサ9を転動体2aの回転体3cとの接触面に平行な平面上をx方向およびy方向あるいはz方向に移動させて(走査)、上記のEHL領域の二次元あるいは三次元測定を行う。走査は等間隔(数μm〜数100μm)で最低2回以上行うことが好ましい。
(5)演算部10において最低2回の走査データ比較した結果、EHL領域が安定しない場合には、さらに走査を数回繰り返し行い、その平均値から平均的EHL領域を算出し、転動体2aのEHL領域を確定する。
(6)次に、回転体3cあるいは3dのいずれか一方の回転速度を増減し、超音波センサ9と対向する転動体を2aから2bに変更する。
(7)上記(3)〜(6)の繰り返し、転動体2a、2b・・について順次EHL領域を確定する。これによって、軸受1の損傷状態を把握することができる。
【0070】
この場合における、転動部2と回転体3cとの接触部における油膜12の形成、超音波センサ3の出力とEHL領域および損傷状態の関係については、上記図1の構成と同様であると考察する。
【0071】
あるいは、軸受1に対して外輪側から負荷を掛ける方法としては、図6に例示するような構成が可能である。つまり、容器14によって軸受1の外輪を形成する回転体3dを包含し、その容器14に加圧手段15を用いて油圧を掛けることによって、軸受1に対して均一に外輪側から負荷を掛けることができる。このときの矢印方向に掛ける力F’を制御することによって、転動体2に掛かる力の増減を調整することができる。
【0072】
また、ラジアル軸受は、例えば車輌の車軸の回転を伝達する場合などでは、上記F’のような軸を中心として放射状に拡散する方向の力ではなく、図7の矢印F”のように重力方向に大きな重量が掛かり、軸受1に力F”が働くことになる。こうした状態を、転がり軸受の測定装置として再現する方法をいくつか提案する。
【0073】
1つには、図8に例示するように、軸受1の外周にローラ16aを有する構造体16をセットし、構造体16を矢印方向に掛ける力F”を制御することによって調整することが可能である。外輪を形成する回転体3aの外周全体に力F”を掛けると同時に、超音波センサ9によって回転体3aと転動体2との接触部を監視する方法を挙げることができる。
【0074】
2つには、図9に例示するように、軸受1の外周に複数の構造体17をセットし、構造体を軸受1の中心方向に力を掛けると、実質的に合成された力F”が外輪を形成する回転体3aの外周全体に掛かることになる。この力F”を制御することによって、軸受1に対する負荷を調整することが可能である。同時に、超音波センサ9によって回転体3aと転動体2との接触部を監視する方法を挙げることができる。
【0075】
図8および図9の構成例は、回転体3cおよび3dについて、回転方向および回転速度を個々独立に変更可能であること、転動体2の公転停止状態を維持すること、および対となる回転体3aあるいは3bの少なくとも一方の回転速度を変えて、超音波センサ9が対向する転動体2を代えることが好ましいことは上記と同様である。
【0076】
また、内輪にラジアル荷重と同時にスラスト荷重もかけられる構造として、図10に例示する装置を挙げることができる。つまり、実際の使用においては、ラジアル荷重が作用する軸を両端の軸受で支える構造がとられる場合が多い。図10のラジアル軸受測定装置は、油槽6中にある試験軸受1と内輪回転軸4eを下側で支える自動調芯軸受4fとの2つの軸受で軸荷重を支える構造である。内輪回転軸4eに対し、両軸受の中間を軸鉛直方向に荷重F”を加えることによって、ラジアル荷重を掛けることができる。また、内輪回転軸4eに対し、軸下方向に荷重Fを加えることによって、スラスト荷重の負荷も同時に掛けることができる。
【0077】
この場合、試験軸受1の外輪3cは、外輪3cを回転させる回転プーリ4cに固定された支持部7で支えられているので、外輪3cの支持をサポートする高分子の支持円板18は必要なくてもよい。従って、通常の軸受の運転状態に最も近い状態での油膜の形成状態や、固体接触部での荷重の支持割合の測定が可能となる。
【0078】
<転がり軸受の検査装置>
一般に転がり軸受の試験においては、転動体および回転体の損傷状態の測定は非常に重要な項目の1つとなっている。従って、上記のいずれかに記載の損傷状態測定装置を用いることによって、従来にない、汎用性が高く、実動状態での監視が可能な検査装置を構成することが可能となる。具体的には、図11(A)および(B)に例示するようなスラスト型の軸受の検査装置を挙げることができる。基盤20上に、軸受1および超音波センサ9をセットする試験槽6、軸受1の回転体3aを駆動する内回転プーリ4aと、下側回転体3bを駆動する外回転プーリ4bと、内回転プーリ4aに回転を与えるモータ21および外回転プーリ4bに回転を与えるモータ22が配置され、軸受1の実動状態での検査を行うことができる。このとき、軸受1に与える負荷の増減は、エアシリンダ23によって内回転プーリ4aの押圧を制御することによって行われる。
【0079】
ラジアル型軸受に対しても、同様の構成要素を用いた検査装置を構成することができるが、詳細は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る転がり軸受の測定装置の1つの構成例を示す説明図。
【図2】超音波センサを概略的に例示する説明図。
【図3】転動部と回転体との接触部における油膜の状態を概略的に例示する説明図。
【図4】転動部と回転体との接触部における潤滑状態を概略的に例示する説明図。
【図5】ラジアル軸受を測定する場合の測定装置の構成例を示す説明図。
【図6】軸受に対して負荷を掛ける方法を例示する説明図。
【図7】軸受に対して負荷を掛ける他の方法を例示する説明図。
【図8】ラジアル軸受を測定する場合の測定装置の他の構成例を示す説明図。
【図9】ラジアル軸受を測定する場合の測定装置の他の構成例を示す説明図。
【図10】本発明に係る転がり軸受の測定装置の他の構成例を示す説明図。
【図11】本発明に係る転がり軸受の検査装置の構成例を示す説明図。
【図12】従来技術に係る転がり軸受の測定装置の構成を概略的に示す説明図。
【図13】従来技術に係る転がり軸受の測定装置の構成を概略的に示す説明図。
【図14】従来技術に係る転がり軸受の測定装置の構成を概略的に示す説明図。
【符号の説明】
【0081】
1 軸受
2 転動体
3、3a、3b、3c、3d 回転体
4a、4b、4c、4d 回転プーリ
6 試験槽
7 支持部
9 超音波センサ
10 演算手段(演算部)
F、F’、F” 力


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの回転体の間に配置された複数の転動体からなる転がり軸受の測定装置であって、転動体の表面への油膜形成手段と、転動体あるいは回転体の表面に対向するように設けられ、かつ転動体に対して二次元的あるいは三次元的に駆動可能な少なくとも1つの超音波センサと、当該超音波センサの出力を入力し演算する手段とを有することを特徴とする転がり軸受の測定装置。
【請求項2】
前記2以上の回転体について、回転方向および回転速度を個々独立に変更可能な手段を有することを特徴とする請求項1記載の転がり軸受の測定装置。
【請求項3】
前記回転体の1つが、対となる他の回転体と反対方向、かつ同一回転速度の回転運動を行い、転動体の公転を停止する機能を有することを特徴とする請求項1または2記載の転がり軸受の測定装置。
【請求項4】
前記超音波センサ出力を演算し、前記転動体の表面の油膜の膜厚を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受の測定装置。
【請求項5】
前記超音波センサ出力から転動体の表面の二次元あるいは三次元画像を作成し、軸受の潤滑状態を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転がり軸受の測定装置。
【請求項6】
スラスト型の転がり軸受の測定装置であって、前記回転体のいずれかに対し、回転軸方向に荷重を加え、転動体への負荷を増大する機能を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の転がり軸受の測定装置。
【請求項7】
ラジアル型の転がり軸受の測定装置であって、前記回転体のいずれかに対し、回転軸と垂直方向に荷重を加え、転動体への負荷を増大する機能を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の転がり軸受の測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−214931(P2006−214931A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29361(P2005−29361)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】