説明

転がり軸受用部材および転がり軸受

【課題】転がり軸受を廃棄した際に高分子部材から発生する炭酸ガス量を低減し、大気中の炭酸ガス濃度の増加抑制・防止もしくは低減に貢献できる転がり軸受用部材およびこの部材を用いた転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪2と、外輪3と、複数の転動体4と、保持器5とを備えた転がり軸受に用いられる合成樹脂組成物の成形体からなる転がり軸受用部材であり、該部材は、内輪2、外輪3、転動体4、および保持器5から選ばれた少なくとも一つの部材であり、上記合成樹脂組成物は、製造原料の少なくとも一部にバイオマス由来の原料を用いた高分子母材に、少なくとも繊維状充填材が配合されている。また、シール部材6を構成する高分子弾性体または樹脂組成物も、製造原料の少なくとも一部にバイオマス由来の原料を用いた高分子母材に、少なくとも繊維状充填材が配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受用部材および転がり軸受に関し、特にバイオマス由来の原料を用いて合成された高分子を母材とする合成樹脂組成物の成形体からなる転がり軸受用部材およびこの部材を用いた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受を構成する部材の中でも、特に保持器やシール部材は、合成樹脂組成物や高分子弾性体の成形体として構成される場合が多い。ここで合成樹脂組成物や高分子弾性体は化石資源由来のエンジニアリングプラスチックや合成ゴムが採用されてきた。
【0003】
使用済み転がり軸受を産業廃棄物として処分するときの生物環境を害するおそれに対して、従来、生分解性を有する合成樹脂製保持器や樹脂性シールまたはグリースを適用した軸受が提案されている(特許文献1および特許文献2)。
しかし、生分解性を有する合成樹脂組成物を用いた場合であっても、該合成樹脂組成物を構成する高分子母材が化石資源由来のプラスチック等であると、燃焼等により最終的に炭酸ガス排出源となり、地球温暖化に悪影響を及ぼすという問題がある。
【特許文献1】特許第3993377号
【特許文献2】特開2004−68913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、転がり軸受を廃棄した際に高分子部材から発生する炭酸ガス量を低減し、大気中の炭酸ガス濃度の増加抑制・防止もしくは低減に貢献できる転がり軸受用部材およびこの部材を用いた転がり軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の転がり軸受用部材は、外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、上記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受に用いられる合成樹脂組成物の成形体からなり、該転がり軸受用部材は、上記内輪、外輪、転動体、および保持器から選ばれた少なくとも一つの部材であり、上記合成樹脂組成物は、製造原料の少なくとも一部にバイオマス由来の原料を用いた高分子(以後、バイオプラスチックともいう)母材に、少なくとも繊維状充填材が配合されていることを特徴とする。
特に、転がり軸受用部材が保持器であることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の転がり軸受用部材は、外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器と、シール部材とを備えた転がり軸受に用いられる高分子弾性体または合成樹脂組成物からなる転がり軸受用部材であって、該転がり軸受用部材は、上記シール部材であり、上記高分子弾性体または合成樹脂組成物は、製造原料の少なくとも一部にバイオマス由来の原料を用いた高分子母材に、少なくとも繊維状充填材が配合されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の転がり軸受用部材に用いられる合成樹脂組成物の成形体または高分子弾性体を構成する高分子母材は、少なくとも放射性炭素14(14C)が含まれることを特徴とする。
また、上記高分子母材は、ポリアミド類、ポリエステル類から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。特に、上記高分子母材は、ポリアミド11、ポリアミド66、ポリアミド6−10、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。
【0008】
上記高分子母材に配合される繊維状充填材は、アスペクト比5以上の繊維であることを特徴とする。
また、上記アスペクト比5以上の繊維は、ガラス繊維または炭素繊維の少なくとも一つの繊維であることを特徴とする。
【0009】
本発明の転がり軸受は、外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備え、上記内輪、外輪、転動体、および保持器から選ばれた少なくとも一つの部材は、製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子母材に、少なくとも繊維状充填材が配合されている合成樹脂組成物の成形体であることを特徴とする。
また、転がり軸受を構成するシール部材は、製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子を主母材とし、これに少なくとも繊維状充填材が配合された高分子弾性体もしくは樹脂組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転がり軸受用部材は、製造原料の少なくとも一部にバイオマス由来の原料を用いているので、化石資源由来の高分子を用いた場合と比べて、転がり軸受の廃棄・リサイクルの過程で、これら部材から実質的に炭酸ガスを排出しない、または炭酸ガスの排出量を抑制できる、環境負荷の低い保持器および/またはシールを用いた転がり軸受の提供ができる。
また、アスペクト比5以上の繊維からなる繊維状充填材が配合されているので、保持器またはシールに要求される強度、弾性率、寸法精度や寸法安定性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、バイオマスとは、平成18年3月31日に農林水産省で策定されたバイオマス・ニッポン総合戦略に定義されているように、再生可能な生物もしくは植物由来の有機性資源であり、化石資源を除いたものである。このようなバイオマスとしては、廃棄される紙、家畜排泄物、食品廃棄物、建設発生木材、製剤工場残材、黒液(パルプ工場廃液)、下水汚泥、し尿汚泥、稲わら、麦わら、もみ殻、林地残材(間伐材、被害木材等)、飼料作物、でん粉系作物や、蟹や海老等の甲殻類の殻等がある。
【0012】
本発明の転がり軸受用部材は、製造原料の少なくとも一部がバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子母材から得られる合成樹脂組成物の成形体、または高分子弾性体から製造される。
上記高分子母材は、バイオマス由来の原料を少なくともその一部に用いて合成した高分子である。大気中の炭酸ガスを吸収して成長した植物それらを摂取した生物等から原料を抽出・変性し、重合過程を経て高分子材料としたものである。このため廃棄時に燃焼処分しても特に大気中の炭酸ガス濃度の増加に寄与しない、または従来の化石系原料から合成される高分子と比べて炭酸ガス排出量を抑制できる、カーボンニュートラル(炭素循環に対して中立)と呼ばれる特徴を持つ。
【0013】
転がり軸受の多くは、内外輪および転動体が金属である軸受鋼であるため、その廃棄の場合には、通常、鉄としてリサイクルされる。このリサイクル過程で軸受に含まれる高分子部材は燃焼され、炭酸ガスとして大気に放出される場合が多い。すなわち、原料として使用した化石資源分の炭酸ガスが増加する。
転がり軸受用部材として用いられている高分子母材の炭素元素に着目した場合、その炭素元素は化石資源由来のものとバイオマス由来のものに区分することができる。高分子母材を構成する全炭素元素に占めるバイオマス由来の炭素元素の比率をバイオマス炭素含有率(以後、バイオカーボン度ともいう)として、式(1)により算出することができる。

バイオカーボン度(%)=(バイオマス由来の炭素元素数/高分子母材の全炭素元素数)×100・・・・・・(1)

本発明で用いる高分子母材としては、バイオカーボン度が0%をこえていれば特に問題はないが、燃焼時の炭酸ガス排出量削減の効果を上げるためには、15%以上のバイオカーボン度が好ましく、この値は高ければ高いほどよい。
【0014】
高分子母材がバイオマス由来の原料から構成されているかどうかは、母材中に含まれる放射性炭素14(以後、14Cともいう)の有無を調べることで判定できる。14Cの半減期は5730年であることから、1千万年以上の歳月を経て生成されるとされる化石資源由来の炭素には14Cが全く含まれない。このことから高分子部材中に14Cが含まれていれば、少なくともバイオマス由来の原料を用いていると判断できる。
【0015】
高分子母材のバイオカーボン度は、加速器質量分析(AMS)法やβ線測定法などによる14Cの濃度測定結果から求めることもできる(例えばASTM D6866)。しかしながら、大気中の14C濃度は変動するため、バイオプラスチックス中に含まれる14C濃度も例えば収穫年毎に変動することから、正確なバイオカーボン度を求めるにはそれらの補正を行なう必要がある。
【0016】
化石資源由来の高分子と比べてバイオプラスチックスは、原料の種類が限られ、また醗酵による変換や化学変換における自由度も小さい場合が多いことから、その多くはエステル系またアミド系高分子である。またこのことから得られたバイオプラスチックスは加水分解性や生分解性を有している場合が多く、加えて一般的に強度、靭性、耐熱性や耐劣化性が化石資源由来樹脂と比べて劣る場合が多いため、信頼性が要求される機械部品用途には適用しにくいという問題がある。
【0017】
本発明に使用可能なバイオプラスチックスとしての高分子母材は、その原料の一部または全部がバイオマス由来の原料から構成された、ポリ乳酸(PLA)、ポリ3−ヒドロキシブタン酸[P(3HB)]、ポリアミド11(以下、PA11という)、ポリアミド6−10(以下、PA6−10という)、ポリアミド66(以下、PA66という)などの一部のポリアミド類、ポリブチレンサクシネート(以下、PBSという)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTという)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという)などのポリエステル類、酢酸セルロース(CA)、酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、酢酸酪酸セルロース(CAB)などのセルロース誘導体類などが挙げられ、使用するモノマー成分の一部または全部にバイオマス原料を利用したものであればどのようなものでも使用できる。
例えば、上記に挙げたもの以外にも、3−ヒドロキシブタン酸と3−ヒドロキシ吉草酸の共重合体P[(3HB)−co−(3HV)]や、PBSに共重合成分としてアジピン酸のモノマーを加えた共重合体(PBSA)、PBSに乳酸モノマーを加えた共重合体(PBSL)、ε−カプロラクトンを加えた共重合体(PBSCL)、カーボネートを加えた共重合体(PBSC)、バイオマスであるポリフェノールやリグニン等から得られるフェノール類を用いたフェノール樹脂や、バイオマス由来のポリオールや有機酸を用いたエポキシ樹脂なども利用できる。さらには靭性向上などの目的で複数のバイオプラスチックス同士や、化石資源由来の高分子とのアロイ化技術も利用できる。
上記のうち、バイオマス由来原料から比較的経済的に合成・重合し易くて、バイオカーボン度も高く、かつ耐生分解性もしくは耐加水分解性に優れ信頼性を確保しやすいことから、PA11、PA66、PA6−10、PTT、またはPBTが好ましい。
【0018】
本発明に使用可能な高分子弾性体としての高分子母材は、天然ゴム、ヒマシ油由来の11−アミノウンデカン酸などから合成されるアミド系熱可塑性エラストマーなどがあり、またはこれらと、化石資源由来の合成ゴムや例えばポリ塩化ビニルなどの合成樹脂とのブレンド品が挙げられる。天然ゴムは、通常耐油性や耐候性に劣るため必要に応じて、15%以上のバイオカーボン度が得られるように化石資源由来の合成ゴムや合成樹脂とブレンドされる。
【0019】
これら上述のバイオマス由来原料を用いた14Cを含む高分子母材に、少なくとも繊維状充填材が配合される。
本発明に利用できる繊維状充填材には有機繊維として竹繊維、バナナ繊維、ケナフ繊維、麻繊維、ココヤシ繊維、キチン繊維、キトサン繊維、セルロース繊維、リグニン繊維、アラミド繊維、ポリベンズアミド(PBA)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、パラフェニレンベンズビスオキシゾール(PBZ)繊維などが挙げられる。無機繊維としてガラス繊維、バサルト繊維、ウォラストナイト繊維、炭素繊維などが挙げられる。また、炭素繊維としては化石資源由来の炭素繊維でも、バイオマスである例えばリグニン由来の紡糸繊維を窒素中などの不活性雰囲気にて1000℃程度で炭化処理して製造したようなバイオマス由来の炭素繊維でも用いることができる。
これらの中では、特に環境負荷の観点からガラス繊維、またカーボンニュートラルの観点からバイオマス由来の竹繊維や炭素繊維等のバイオマス由来の繊維が好ましい。
【0020】
上記繊維のアスペクト比(繊維長さ/繊維径)は5以上であることが好ましい。アスペクト比が5未満であると、保持器またはシールに成形したときに、強度、弾性率、寸法精度や寸法安定性が劣ることになる。
【0021】
これら上述のバイオマス由来原料を用いた14Cを含む高分子母材および繊維状充填剤に加えて、転がり軸受の用途に応じて、粒状物、板状物等の補強材、熱、紫外線、酸化や加水分解等による劣化を抑制する劣化抑制剤や劣化防止剤、成形性や成形体の柔軟性を向上する為の可塑剤、柔軟剤、帯電防止剤や導電材等の添加剤、分散剤や顔料等を添加することもできる。
また、成形体の耐衝撃を向上するための、例えばゴム変性等の耐衝撃向上手法や、ラジカル発生剤、架橋剤、放射線や電子線等による架橋構造の導入による耐熱性向上手法を用いることもできる。
その他、ガスバリア性や防水性、撥水性、耐熱性、潤滑性、耐油性の向上等を目的にダイヤモンドライクカーボン(DLC)やシリカなどの無機物系表面処理や樹脂コーティングなどの有機物系表面処理を施してもよい。
【0022】
本発明の転がり軸受の一例を図1により説明する。図1はグリース封入深溝玉軸受の断面図である。深溝玉軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4を保持する保持器5が設けられている。また、外輪3等に固定されるシール部材6が内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲にグリース7が封入される。
本発明においては、特に保持器5をバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子母材に繊維状充填材が配合された合成樹脂組成物の成形体として、シール部材6をバイオマス由来の原料を用いて得られる高分子母材に繊維状充填材が配合された高分子弾性体もしくは合成樹脂組成物の成形体とすることが好ましく、また、内輪、外輪、転動体は鋼またはセラミックから構成することが好ましい。
【0023】
また、図2に示すように、シール部材6は、上述の高分子弾性体もしくは合成樹脂組成物の成形体と、金属板、プラスチック板、セラミック板等との複合体としてもよい。
【0024】
また、本発明の転がり軸受の潤滑方式は、既知の、例えばグリース潤滑、油潤滑、エアオイル潤滑、固体潤滑等、どのような方法を採用してもよい。またグリース潤滑や油を使った潤滑の場合、それらには、従来から用いられている鉱油等の化石資源由来材だけでなく、生分解性を付与したものやバイオマス由来材を適用したものを用いることもできる。
【0025】
なお、転がり軸受として深溝玉軸受を例示して説明したが、本発明の転がり軸受は、他の種々の転がり軸受に対して適用できる。例えば、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受、自動調心玉軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受、スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受に適用できる。
【実施例】
【0026】
以下の各実施例に示す高分子部材を保持器およびシール部材に使用して、図1に示す構成の転がり軸受をそれぞれ製造できる。高分子部材を用いた保持器またはシール1000gを完全燃焼させたとして、そこに含まれる炭素量から排出される炭酸ガス量を算出した。
【0027】
実施例1
高分子母材の原料として化石資源由来の1,4−ブタンジオールとバイオマス由来のコハク酸を用い重合したPBSにガラス繊維25重量%配合したものを使用した。バイオマス由来の原料のコハク酸を用いているため本材には14Cが含まれる。
全ての原料を化石資源由来物から重合したPBSと比べると、本材料のバイオマス度が50%であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による実質的な炭酸ガス排出量を50%低減できる。
例えば従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較すると、実質的な炭酸ガス排出量を56%削減できる。
【0028】
実施例2
天然物由来の糖分を経由して合成されるL体やD体の乳酸から重合されるPLAやこれらを混合したPLAにガラス繊維20重量%配合したものを使用した。バイオマス由来の乳酸を用いて重合されたPLAには14Cが含まれる。
全ての原料を化石資源由来物から重合したPLAと比べると、本材料のバイオマス度が100%であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による実質的な炭酸ガス排出量を皆無にできる。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較すると、実質的な炭酸ガス排出量を100%削減できる。
【0029】
実施例3
天然物由来のヒマシ油を経由して合成されるウンデシレン酸等から製造されるPA11にガラス繊維30重量%配合したものを使用した。バイオマス由来のヒマシ油を出発原料としているため、本PA11には14Cが含まれる。
全ての原料を化石資源由来物から重合したPA11と比べると、本材料のバイオマス度が100%であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による実質的な炭酸ガス排出量を皆無にできる。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較すると、実質的な炭酸ガス排出量を100%削減できる。
【0030】
実施例4
天然物由来のバイオマスである澱粉から得られる1,3−プロパンジオールと化石資源由来のテレフタル酸(もしくはテレフタル酸ジメチル)から製造されるPTTにガラス繊維30重量%配合したものを使用した。バイオマス由来の澱粉を出発原料としているため、本PTTには14Cが含まれる。
全ての原料を化石資源由来物から重合したPTTと比べると、本材料のバイオマス度が約27%であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による実質的な炭酸ガス排出量を73%にまで低減できる。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較すると、実質的な炭酸ガス排出量を32%削減できる。
【0031】
実施例5
用いる1,4−ブタンジオールの半分をバイオマスから合成される例えばコハク酸由来物(14Cを含む)、残りの半分を化石資源由来物とし、化石資源由来のテレフタル酸(もしくはテレフタル酸ジメチル)と重合することにより得られるバイオPBTにガラス繊維30重量%配合したものを使用した。バイオマス由来の1,4−ブタンジオールを原料の一部に用いているため、本バイオPBTには14Cが含まれる。
全ての原料を化石資源由来物から重合したPBTと比べると、本材料のバイオマス度が約17%であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による実質的な炭酸ガス排出量を83%にまで低減できる。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較すると、実質的な炭酸ガス排出量を21%削減できる。
【0032】
実施例6
バイオマスであるセルロース類の糖化過程で得られるフルフラールからアジポニトリル等を経由して得られるヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を重合して得られるバイオPA66にガラス繊維25重量%配合したものを使用した。バイオマス由来のセルロース類を出発原料としているため、本バイオPA66には14Cが含まれる。
全ての原料を化石資源由来物から重合したPA66と比べると、本材料のバイオマス度が100%であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による実質的な炭酸ガス排出量を皆無にできる。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較すると、実質的な炭酸ガス排出量を100%削減できる。
【0033】
実施例7
実施例6と同様のバイオPA66に化石資源由来の炭素繊維25重量%配合したものを使用した。バイオマス由来のセルロース類を出発原料としているため、本バイオPA66には14Cが含まれる。
全ての原料を化石資源由来物から重合したPA66と比べると、本バイオPA66のバイオマス度が100%であるため化石資源由来の炭素繊維を20重量%含んでいるにも関わらず、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による実質的な炭酸ガス排出量を28%まで削減できる。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較しても、実質的な炭酸ガス排出量を58%削減できる。
【0034】
実施例8
バイオマスであるセルロース類の糖化過程で得られるフルフラールからアジポニトリル等を経由して得られるヘキサメチレンジアミンと、ひまし油の熱分解・精製で得られるセバシン酸を重合して得られるバイオPA6−10にガラス繊維25重量%配合したものを使用した。バイオマス由来のセルロース類を出発原料としているため、本バイオPA6−10には14Cが含まれる。
全ての原料を化石資源由来物から重合したPA66と比べると、本材料のバイオマス度が100%であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による実質的な炭酸ガス排出量を皆無にできる。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較すると、実質的な炭酸ガス排出量を100%削減できる。
【0035】
比較例1
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラスビーズを配合したものを使用した。
全ての原料を化石資源由来物から重合しているPA66であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による炭酸ガス排出量を全く削減できない。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較しても、炭酸ガス排出量は全く同等である。
【0036】
比較例2
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)のみ用い、補強材を全く配合しないものを使用した。
全ての原料を化石資源由来物から重合しているPA66であるため、転がり軸受の廃棄・リサイクル過程での高分子部材の燃焼による炭酸ガス排出量を全く削減できない。
従来から転がり軸受用保持器材として用いられている化石資源由来のPA66(14Cを含まない)に25重量%ガラス繊維を配合した高分子部材を用いた場合と比較しても、炭酸ガスとなる高分子成分の量が増えることから、炭酸ガス排出量は逆に33%増加する。
【0037】
各実施例および比較例で製造された転がり軸受を廃棄する場合、用いた高分子製保持器および高分子製シールは燃焼分解し、炭酸ガスとして大気中に放出される。保持器またはシールに用いる高分子部材1000gが燃焼分解し、部材中に含まれる炭素元素は全て炭酸ガスとして大気中に放出されるとし、各実施例または各比較例に記載の炭酸ガス排出量の比較を行なった。結果を表1に示す。
全部もしくは一部をバイオマス由来の原料から作製したバイオプラを用いた場合(各実施例)および、高分子保持器およびシールが化石資源由来の原料から作製した場合を基準(各比較例)として、炭酸ガス排出量の比較を行なった。バイオマス由来の炭素からなる炭酸ガス分は、実質大気中の炭酸ガスを増加させないことから、排出炭酸ガス量には含まれない。
【0038】
【表1】

【0039】
軸受用保持器として通常用いられている化石資源由来のポリアミド66(PA66)にガラス繊維を25重量%配合したものに対し、各種バイオプラスチックスを使用した実施例1〜8は、各高分子材料やまたそれらの原料によって異なるが、化石資源由来の高分子のみを使用した場合に比べ、炭酸ガス排出量を約20〜100%削減することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のバイオマス由来の原料を用いた転がり軸受用部材およびこの部材を用いた転がり軸受は、転がり軸受の廃棄・リサイクルの過程で、これら部材から実質的に炭酸ガスを排出しない、または炭酸ガスの排出量を抑制でき、環境負荷の低い転がり軸受を提供できる。さらに、繊維状充填剤で補強されているので、一般的な機械、装置や自動車用途に広く応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】グリース封入深溝玉軸受(シール部材の芯金なし)の断面図である。
【図2】グリース封入深溝玉軸受(シール部材の芯金あり)の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 深溝玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース
8a、8b 軸方向開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受に用いられる合成樹脂組成物の成形体からなる転がり軸受用部材であって、
該転がり軸受用部材は、前記内輪、前記外輪、前記転動体、および前記保持器から選ばれた少なくとも一つの部材であり、
前記合成樹脂組成物は、製造原料の少なくとも一部にバイオマス由来の原料を用いた高分子母材に、少なくとも繊維状充填材が配合されていることを特徴とする転がり軸受用部材。
【請求項2】
前記転がり軸受用部材が保持器であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用部材。
【請求項3】
外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器と、シール部材とを備えた転がり軸受に用いられる高分子弾性体または合成樹脂組成物からなる転がり軸受用部材であって、
該転がり軸受用部材は、前記シール部材であり、前記高分子弾性体または合成樹脂組成物は、製造原料の少なくとも一部にバイオマス由来の原料を用いた高分子母材に、少なくとも繊維状充填材が配合されていることを特徴とする転がり軸受用部材。
【請求項4】
前記高分子母材は、少なくとも放射性炭素14(14C)が含まれることを特徴とする請求項1または請求項3記載の転がり軸受用部材。
【請求項5】
前記高分子母材は、ポリアミド類、ポリエステル類から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項4記載の転がり軸受用部材。
【請求項6】
前記高分子母材は、ポリアミド11、ポリアミド66、ポリアミド6−10、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項5記載の転がり軸受用部材。
【請求項7】
前記繊維状充填材は、アスペクト比5以上の繊維であることを特徴とする請求項1または請求項3記載の転がり軸受用部材。
【請求項8】
前記アスペクト比5以上の繊維は、ガラス繊維または炭素繊維の少なくとも一つの繊維であることを特徴とする請求項7記載の転がり軸受用部材。
【請求項9】
外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器とを備えた転がり軸受であって、
前記内輪、前記外輪、前記転動体、および前記保持器から選ばれた少なくとも一つの部材が請求項1記載の部材であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項10】
外周面に転走面を有する内輪と、内周面に転走面を有する外輪と、前記両転走面間に介在する複数の転動体と、該複数の転動体を保持する保持器と、シール部材とを備えた転がり軸受であって、
前記シール部材が請求項3記載の部材であることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−204121(P2009−204121A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48587(P2008−48587)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】