説明

転がり軸受

【課題】シールの位置決めが安定するとともに、シール固定時の作業性の良い転がり軸受を提供する。
【解決手段】静止した内輪14と回転する外輪16と転動体18と、軸受内部を密封する密封機構とを備え、密封機構は内輪に固定して備えられる第1のシール部材22と、外輪16に固定して備えられる第2のシール部材24とで構成されており、第2のシール部材は第1のシール部材に摺接して接触のシール領域を形成する環状のシールリップLpを備え、第2のシール部材は、外輪に形成された止め輪溝16bに嵌め合わされる円環状の止め輪26によって固定される構成を備えた転がり軸受であって、シール部材と止め輪とは、軸方向にすきま16eを有して配され、シール部材には、すきまの軸方向の寸法よりも大きな寸法で、軸方向に突出した凸形状の突出部24gが円環状に断続して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪とを備えた転がり軸受において、特に軸受外部から軸受内部への異物の侵入を防止するために備えられる密封機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼材を製作するための圧延設備として、種々の多段式圧延機が知られている。その一例として図7(a),(b)に示された多段式圧延機は、ハウジング2内に複数種の圧延ロール群が設けられており、挿入口2aから挿入された鉄鋼材(図示しない)は、パスライン2Pに沿って搬送される間に、圧延ロール群によって均一な厚みに圧延された後、排出口2bから排出される。
ここで、圧延ロール群は、鉄鋼材を圧延する一対のワークロール4と、一対のワークロール4を回転自在に支持する複数の第1中間ロール6と、これら第1中間ロール6を回転自在に支持する複数の第2中間ロール8とを備えており、各第2中間ロール8は、複数のバッキングロール軸10に組み付けられた各転がり軸受12によって回転自在に支持されている。なお、各バッキングロール軸10は、常時静止した状態(非回転状態)に維持されている。
【0003】
転がり軸受12は、図8に示すように、バッキングロール軸10に嵌合(固定)された内輪(静止輪)14と、内輪(静止輪)14に対向して回転可能に配置された外輪(回転輪)16と、内外輪14,16間に複列で組み込まれた複数の転動体(円筒ころ)18と、各転動体18を1つずつ等間隔に保持する保持器20とを備えている。これにより、転がり軸受12は、外輪回転の軸受構造を成している。なお、図示例の外輪16は中つばを有する形態が採用され、内輪14に設けられている潤滑油供給孔54から、軸受内部に潤滑油または潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われる軸受形式である。
【0004】
このような多段式圧延機において、図7及び図8に示すように、転がり軸受12の外輪(回転輪)16は、複数の第2中間ロール8に圧接しており、当該第2中間ロール8と共に回転可能に位置決めされている。この場合、各外輪16からの圧力が第2中間ロール8から第1中間ロール6を介して一対のワークロール4に作用することで、当該ワークロール4の撓みが防止されている。これにより、パスライン2Pに沿って搬送される鉄鋼材は、一対のワークロール4によって均一な厚みに圧延される。
なお、内外輪14,16及び転動体18の材質としては、例えば合金鋼などの鋼材で形成することができる。
【0005】
転がり軸受12には、軸受外部から軸受内部への異物(例えば、塵埃、圧延油)の侵入防止を図るために、軸受内部を軸受外部から密封する密封機構が設けられている。
また、この場合、軸受内部に供給する潤滑油の流れをサポートするために、図示しない潤滑油供給源から潤滑油供給孔54に圧縮エアが送られており、当該圧縮エアは、潤滑油と共に、潤滑油経路及び潤滑油供給孔54を通って軸受内部に供給された後、複列の転動体18相互間を通って密封機構に達する。
【0006】
「先行技術1」
図8には、密封機構の一例が示されており、当該密封機構は、複列の転動体18の両側の内外輪14,16間にそれぞれ設けられている(非特許文献1)。
【0007】
図8に示された密封機構は、内径22eが内輪(静止輪)14に固定(圧入)され且つ外径22tが外輪(回転輪)16に対して非接触状態に位置決めされた環状のシールド22と、当該シールド22よりも軸受内部側に配置された環状のシール24とを備えている。
ここで、シール24は、外径24eが外輪(回転輪)16に固定され且つ内径24tが内輪(静止輪)14に向けて延出し、その内径24tから延出端(シールリップ)がシールド22方向に向けて傾斜するとともに、該シールド22に対して摺接した状態に位置決めされている。
【0008】
この場合、シール24は、芯金24aにゴム材24bを被覆して形成されており、その内径24tには、シールド22に向けて略V字状に突出したゴム製のリップLpが一体成形されており、当該リップLpがシールド22に常時摺接している。なお、シール24の外径24eは、環状の止め輪26によって外輪(回転輪)16に嵌め合わせて固定されている。
【0009】
しかし、図8に示す非特許文献1に開示の密封機構(先行技術1)の場合、次のような課題を抱えていた。
すなわち、非特許文献1では、外輪16にシール24を備え、そのシール24の外径24eは、該外径24eに環状の止め輪26がスラスト方向から環状の止め輪26が押し当られることによって固定されている。この場合、外輪(回転輪16)の内周面には、周方向に連続した環状の止め輪溝16bが形成されており、該止め輪溝16bに止め輪26が嵌め合わされて固定される。
【0010】
また、止め輪溝16bとシール24とが配置された位置関係によっては、止め輪26を止め輪溝16bに嵌め合わせた場合に、止め輪26とシール24とが密着してすきまが生じないこともある。その場合には、止め輪26はシール24との対向面が広い面積で接触(面接触)するので、止め輪26を止め溝16bに嵌め合わせる際や取り外す際に、スラスト方向に大きな力を加える必要があり、作業性を損なう虞がある。
【0011】
【非特許文献1】製品カタログ(株式会社ジェイテクト 製品カタログ 多段圧延機 バックアップロール用円筒ころ軸受 CAT.NO.246 P5 図例4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、シールの位置決めが安定するとともに、シール固定時の作業性の良い転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、第1の発明は、非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪と、静止輪と回転輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを備え、密封機構は、回転輪と静止輪の一方に固定して備えられる第1のシール部材と、回転輪と静止輪の他方に固定して備えられる第2のシール部材とで構成されており、第1のシール部材と第2のシール部材の一方には、その第1のシール部材と第2のシール部材の他方に摺接して接触のシール領域を形成する環状のシールリップを備え、該第1のシール部材及び第2のシール部材のうち、いずれかのシール部材は、該シール部材が備えられる回転輪又は静止輪に形成された周溝に嵌め合わされる円環状の止め輪によって固定される構成を備えた転がり軸受であって、該シール部材と止め輪とは、軸方向にすきまを有して配され、該シール部材と止め輪のいずれか一方には、該すきまの軸方向寸法よりも大きな寸法で軸方向に突出した、断面凸形状の突出部が円環状に断続して形成されたことを特徴とする転がり軸受としたことである。
第1の発明によれば、すきまを有して配されたシール部材と止め輪とのいずれか一方には、該すきまの寸法よりも大きな寸法で、軸方向に円環状に突出した凸形状の突出部が形成されたため、止め輪とシールの外径との間にすきまが生じることにより、シールの位置決めが不安定となってシールリップの緊迫力にばらつきが生じることという不都合が解消される。また、止め輪とシールは突出部で接触しているため、止め輪を止め溝に嵌め合わせる際や取り外す際に、スラスト方向に大きな力を加える必要がなくなり、作業性が向上する。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、静止輪は、回転輪の内側に対向配置された内輪として構成されており、回転輪は、内輪の外側に対向配置された外輪として構成されていることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第2の発明によれば、内輪が回転を行わず、外輪が回転する外輪回転転がり軸受を構成することができる。
【0015】
第3の発明は、第1の発明において、軸受内部に、潤滑油または潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第3の発明によれば、軸受内部が潤滑油供給状態となるが、特に内輪や密封機構に回収孔や排気孔を備えていないため、耐荷重性を低下することもなく、またシールリップの制約もない。
【0016】
第4の発明は、第1の発明において、鉄鋼材を圧延する多段式圧延機に用いられた転がり軸受であって、多段式圧延機は、鉄鋼材を圧延するための圧延ローラ群を備えており、転がり軸受は、圧延ローラ群のバッキングロール軸に組み付けられていることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第4の発明によれば、バッキングロール軸の軸受構造に適した密封機構を提供することが簡易かつ安価にできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シールの位置決めが安定するとともに、シール固定時の作業性の良い転がり軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態に係る転がり軸受について添付図面を参照して説明する。
図1は実施例1、図2は実施例2、図3は実施例3、図4は実施例4、図5は実施例5、図6は実施例6をそれぞれ示す。
なお、それぞれの各実施例は、図7で示す多段式圧延機に用いた転がり軸受12(図8)の密封機構の改良であるため、以下では、改良部分の説明にとどめる。この場合、上述した図7に開示の転がり軸受12と同一の構成については、その構成に付された参照符号と同一の符号を本実施の形態に用いた図面上に付すことで、その説明を省略する。すなわち、例えば本実施例の場合、軸受内部に供給する潤滑油の流れをサポートするために、図示しない潤滑油供給源から潤滑油供給孔54に潤滑油とともに圧縮エアが送られており、当該圧縮エアは、潤滑油と共に、潤滑油経路及び潤滑油供給孔54を通って軸受内部に供給された後、複列の転動体18相互間を通って密封機構に達する潤滑構成を採用している。
なお、圧縮エアなしで潤滑油のみ供給する場合も勿論本発明の範囲内である。
また、本実施例の転がり軸受では、潤滑油の回収孔は内輪14に設けられておらず、また圧縮エアの排出孔も密封機構に設けていない形態としている。
さらに、本実施例では、本発明の転がり軸受の一適用例として上述の通り図6に示した多段式圧延機を用いて説明するが、本発明の転がり軸受は、この多段式圧延機に限定して適用されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。また、本実施例では、内輪14を静止輪、外輪16を回転輪とし説明するが、内輪14を回転輪、外輪16を静止輪として適用する形態であっても本発明の範囲内である。
【実施例1】
【0019】
図1に示された密封機構は、静止輪としての内輪14に固定して備えられる第1のシール部材22と、回転輪としての外輪16に固定して備えられる第2のシール部材24とで構成されている。なお、図1(b)では、図1(a)中の向かって右側に配された密封機構を拡大して示すが、図1(a)中の向かって左側に配された密封機構も左右対称に構成される以外には同一の構成である。
【0020】
第1のシール部材22は、外輪(回転輪)16に対して非接触状態に位置決めされた環状の芯金23によるシールド22で構成され、該シールド22は、内径22eが内輪(静止輪)14に嵌め合わされている。具体的には、該シールド22は、固定(圧入)されている第一円筒部23aと、該第一円筒部23aから外輪16方向へと径方向に延設された円環部(円板部)23bと、該円板部23bの外輪16側から、該外輪16と非接触に延設された第二円筒部23cとで構成され、図1(b)中で略逆S字型を形成している。
【0021】
第2のシール部材24は、前記シールド22よりも軸受内部側に位置決めされた円環状の芯金24aに弾性部材(たとえばゴム材)24bを被覆して構成されており、外輪(回転輪)16に固定されている外径24eと、該外径24eから内輪(静止輪)14方向へと内径方向に延設された円環部24cと、該円環部24cの内径24tとで構成されている。なお、芯金24aの軸受外方側の面部24dを除いて、弾性部材24bで被覆されている。
【0022】
弾性部材(たとえばゴム材)24bの内径24t側は、芯金24aの内径よりも僅かに内輪14方向に突出して内輪14と非接触に備えられ、該内径24tからは、シールド22と摺接する延出端(リップ)Lpが延出している。
リップLpは、第1のシール部材(シールド)22における円環部23bの軸受内方側の面部23dに向けて外向きに傾斜した略V字状に突出するとともに、シール24の内径24tと一体成形されており、シールド22に常時摺接している摺接シールを構成している(シールの形状からV型シールやY型シールとも言う。)。これにより、リップLpが、内輪14に固定された第1のシール部材22に摺接して接触のシール領域を形成する。
リップLpの大きさ、配設位置、あるいは接触領域の大小は特に限定解釈されるものではなく、仕様に応じて本発明の範囲内で設計変更可能である。例えば、リップLpを大きく構成して剛性が弱くて長い構造とすることも可能である。
【0023】
外径24eは、外輪(回転輪16)の内周面に形成された段部16cに当て付けられて、軸受内部方向の位置決めがされるとともに、外輪(回転輪16)の内周面のシール24よりも軸受外部側に嵌め合わされる、断面矩形状で且つ、円環状の止め輪26によって、軸受外部方向の位置決めがされることにより固定されている。
軸受外部側24fには、弾性部材24bから、軸方向に一体に延出されるとともに、周方向に連続した、断面凸形状の突出部24gが円環状に1円周に形成されている。
【0024】
突出部24gは、シール24と止め輪26との間のすきま16eよりも大きな寸法で軸方向に延出して、突出端24hに向けた先細り形状に形成されるとともに、図1(c)に示すように、周方向に断続した、断面凸形状の突出部24gが円環状に形成されている。なお、その断続した突出部24gの配列状態は、本実施例では、突出部24gは、円周を周方向に分割した断片として形成され、その各突出部24gは、同一の中心を有する複数の円弧形状に形成されるとともに、1円周上に配列されている。
【0025】
本実施例のように構成されていることにより、密封機構は、特にシール24を安定して設置し得る。具体的には、止め輪26が、突出部24gの突出端24hに対して、軸受外部側からシール24の外径24eにスラスト方向から押し当られているので、シール24ががたつくことがなく、安定して位置決め固定される。これにより、シール24とシールド22との距離が変化することがないので、シールリップLpの緊迫力にばらつきが生じることもない。
【0026】
さらに、突出部24gは、シール24の弾性部材24bの外径24e側の軸受外部側24fに配され、その配置状態は、周方向に円周を等間隔に分割した断片として、同一の中心を有する複数の円弧形状を形成しているので、止め輪26はシール24に対して、周方向に均等な力で押し当てることができ、シール24が安定して位置決め固定される。
なお、本実施例では、一例として、突出部24gを周方向に円周を等間隔に14分割した断片として形成したが、これに限定されず、突出部24gの数や配置間隔は、転がり軸受の使用環境等の需要に応じて自由に設定すればよい。例えば、周方向に円周を等間隔に3分割した断片としても良いし、前記14分割した断片が等間隔に配置されていななくても良い。この場合には、止め輪26がシール24に対して、周方向に均等な力で押し当てられ、シール24が安定して位置決め固定されることを考慮されることが好ましい。
【0027】
さらに、止め輪26とシール24は突出部24gの突出端24hのみで接触しているため、止め輪26を止め溝16bに嵌め合わせる際や取り外す際に、突出部24gが撓みやすいので、スラスト方向に大きな力を加える必要がなくなり、作業性が向上する。
【0028】
また、このような密封機構とすることにより、本実施例のように、潤滑油又は潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われる形式において、軸受内圧がシールリップLpの剛性と軸受外圧の和よりも高くなれば、軸受内圧によりシールリップLpが開かれて潤滑油及びエアが排出される。従って、内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を設けなくとも、軸受内に供給される潤滑油の流れを作ることが出来るため、軸受内部及びシールリップLp領域での潤滑不良が防止され、安定して潤滑システムが形成される。また、排気孔を設けないため、排気孔を介しての異物や圧延油などの侵入を防止し得ることができ、軸受の早期焼付きや早期損傷の防止に寄与し得る。
本実施例によれば、第2のシール部材24を一体に構成している弾性部材24bの所定領域にシールリップLpを一体に備えているため、密封機構の組み込み工程も簡易であるとともに、軸受内部における密封機構の配設領域の省スペース化が可能となる。
【0029】
また、本実施例によれば、軸受内部が潤滑油供給状態となるが、特に内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を備えていないため、耐荷重性を低下することもなく、またシールリップLpの制約もない。すなわち、シールリップLpは、第1のシール部材22の芯金の円環部23bの軸受内方側の面部23dであればどこに接触(摺接)してもよく、シールのリップ開き圧力の調整が容易である。
【0030】
さらに、本実施例では、前記シール24の円環状の突出部24gが、シール24の外径24eの軸受外方側24fに形成された場合を説明したが、これに限定されず、突出部24gは、軸受外方側24fに形成された突出部24gに代えて、シール24の外径24であって、外輪(回転輪16)の内周面に形成された段部16cに当て付けられる面に形成されていても良い。或いは、突出部24gは、軸受外方側24fと、段部16cに当て付けられる面の両方に形成されていても良い。これら場合であっても、突出部24gが軸受外方側24fに形成された場合と同様の効果を得ることができる。
また、突出部24gは、前記シール24に形成された突出部24gに代えて、止め輪26に形成されていても良い。この場合には、突出部24gは、少なくとも止め輪26のシール24をスラスト方向から押し当てる部分に形成されていれば良い。
またさらに、本実施例では、止め輪26が円環状に形成されている場合を説明したが、これに限定されず、止め輪26は、止め輪溝16bに嵌め合わされて取り付け及び取り外しが可能であれば、必ずしも円環状でなくてもよい。
【実施例2】
【0031】
前述した実施例1では、前記シール24の円環状の突出部24gが、周方向に断続した、断面凸形状の突出部24gが円環状に同一の1円周上に配列されている場合を説明したが、本実施例では、突出部24gが配列された円周を複数備えた点が相違する。従って、ここでは、本実施例の特徴部分である突出部24gの配列について説明し、その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
本実施例の突出部24gは、図2(a)に示すように、シール24の外径24eを被覆する弾性部材(たとえばゴム材)24bの軸受外部側24fは、弾性部材24bから、軸方向に所定の寸法で一体に延出されるとともに、周方向に断続した断面凸形状の突出部24gが、円環状かつ、複数の円周上に形成されている。
【0032】
具体的には、その断続した突出部24gの配列状態は、本実施例では、突出部24gは、円周を周方向に円周を等間隔に分割した断片として形成され、その各突出部24gは、同一の中心を有する複数の円弧形状に形成されるとともに、1円周上に配列されている。
さらにその1円周の内周側には、前記1円周と同一の中心を有する、前記1円周よりも小径の第2の円周を円周を周方向に円周を等間隔に分割した断片として、複数の円弧形状を形成した突出部24gが形成され配列されている。なお、第2の円周上に配列された各突出部24gは、前記1円周上に配列された各突出部24gと周方向に所定の角度でずれを有して配されている。
【0033】
この場合には、前記止め輪溝16bに嵌め合わされた止め輪26が、突出部24g及び追加形成された突出部24gの各突出端24hに対して、軸受外部側からシール24にスラスト方向から押し当られる。これにより、止め輪26がシール24を押し当てる力は、シール24の弾性部材24bの軸受外部側24fの広い面積に対して作用するので、シール24の位置決め固定がより確実になる。また、この場合であっても、止め輪26は、突出部24g追加形成された突出部の各突出端24hに当接しているので、各突出端24hが撓むことにより、スラスト方向に大きな力を加える必要がなく、作業性を損なうことがない。
【0034】
なお、本実施例では、突出部24gが複数の円弧形状を形成した場合を説明したが、突出部24gの形状はこれに限定されず、他の形状であっても良く、例えば、円錐状や三角錐状であってもよい。以下に突出部24gを円錐状に形成した一例を説明する。
突出部24gを弾性部材24bから略円錐状に一体に延出した場合には、図2(b)に示すように、シール24の弾性部材24bの軸受外部側24fに、円錐状の突出部24gが1円周上に配列されるとともに、さらに、該1円周よりも小径の第2の円周上に配されていても良い。
この場合であっても、円錐状の各突出部24gの各突出端24hが、軸受外部側の止め輪26によって、スラスト方向から押し当られるので、上述と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施例では、突出部24gを複数の円周上に配列したが、これに限定されず、突出部24gは、シール24の弾性部材24bの軸受外部側24fにランダムに配置されていても良い。この場合には、各突出部24gの各突出端24hが、軸受外部側の止め輪26によって、スラスト方向から均等に押し当られるように、配置位置が設定されることが好ましい。
【実施例3】
【0035】
図3に示す本実施例の密封機構は、回転輪としての外輪16に固定して備えられる第1のシール部材80と、静止輪としての内輪14に固定して備えられる第2のシール部材90とで構成されている。なお、図3では、図1(a)中の向かって右側に配された密封機構の他の例を拡大して示すが、図1(a)中の向かって左側に配された密封機構も左右対称に構成される以外には同一の構成である。
【0036】
第1のシール部材80は、内輪14と非接触に設けられている円環状の芯金82と、該芯金82の軸受内方側の面部82aの全領域とともに、連続して外径82bを被覆する弾性部材84とで構成された円環部87を含むシールドで、外輪16の内径面に外径82b側を嵌め合わせて圧入し、軸受の軸方向で内方に配設されている。
【0037】
該シールド(第1のシール部材)80の外径82bには、弾性部材(たとえばゴム材)84が、芯金82の内径よりも僅かに内輪14方向に突出して内輪14と非接触に備えられている。従って、芯金82の軸受外方側の面部82cは弾性部材84で被覆されておらず芯金82が露呈されている。さらに、弾性部材84の外径82b側の軸受外方側には、弾性部材84から、軸方向に所定の寸法で一体に延出された、断面凸形状の突出部84gを有している。
また、シールド80の外径82bは、本実施例では、外輪(回転輪16)の内周面に形成された段部16cに当て付けられて、軸受内部方向の位置決めがされるとともに、外輪(回転輪16)の内周面のシールド80よりも軸受外部側に嵌め合わされる、断面矩形状且つ、円環状の止め輪26により固定されている。
【0038】
突出部84gは、シールド80と止め輪26との間のすきま16eよりも大きな寸法で軸方向に延出して、突出端84hに向けて先細り形状に形成されるとともに、周方向に断続した円環状に形成されている。
これにより、シールド80が位置決め固定される場合には、前記止め輪溝16bに嵌め合わされた止め輪26が、突出部84gの突出端84hに対して、軸受外部側からシールド80にスラスト方向から押し当られる。
【0039】
第2のシール部材90は、内輪14の外径面に嵌め合わされている円筒部92aと、該円筒部92aから外輪16方向へと径方向に延設され、外輪16と非接触とした円板部92bとからなる断面視略L字形状の芯金92と、該芯金92の円筒部92aの外径面92cの全領域及び円板部92bの軸受内方側の面部92dの全領域とともに、連続して外径92eを被覆する弾性部材94とで構成された円環部96と、円板部92bの軸受内方側の面部92dを覆う弾性部材94の所定領域から一体に延設され、第1のシール部材80に摺接するシールリップ98で構成されている接触シールである(シールの形状からV型シールやY型シールとも言う。)。
そして、内輪14の外径面に円筒部92aの内径面を嵌め合わせて圧入し、第1のシール部材80の円環部87と対向させて軸受の軸方向で外方に配設されている。
【0040】
シールリップ98は、円環部96を構成する弾性部材94における円板部92bの軸受内方側の面部92dを覆う弾性部材94の所定領域から、第1のシール部材80における芯金82の軸受外方側の面部82cに向けて傾斜状(外向きに傾斜状)に一体に延設され、外輪16の回転に伴って回転する第1のシール部材80に摺接して接触のシール領域を形成する環状のシールリップである。
詳しくは、本実施例によれば、円板部92bの内径と外径の間の径方向略中央位置から、肉厚の円筒状の分岐部98aを介して、該分岐部98aよりも薄肉で、第1のシール部材80の固定側である外径82b方向に向けて傾斜している断面視略V字形状を有した全体円すい状(大径D1側を第1のシール部材80方向に対向させた形状)のシールリップとしている。
シールリップ98の大きさ、配設位置、あるいは接触領域の大小は特に限定解釈されるものではなく、仕様に応じて本発明の範囲内で設計変更可能である。例えば、シールリップ98を大きく構成して剛性が弱くて長い構造とすることも可能である。
【0041】
本実施例のように構成されていることにより、密封機構は、上述した実施例1と同様の効果を得ることができるとともに、軸受外部からの異物や圧延油などの侵入も防止し得る。
また、このような密封機構とすることにより、本実施例のように、潤滑油又は潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われる形式において、軸受内圧がシールリップ98の剛性と軸受外圧の和よりも高くなれば、軸受内圧によりシールリップ98が開かれて潤滑油及びエアが排出される。従って、内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を設けなくとも、軸受内に供給される潤滑油の流れを作ることが出来るため、軸受内部及びシールリップ98領域での潤滑不良が防止される。また、排気孔を設けないため、排気孔を介しての異物や圧延油などの侵入を防止し得ることができ、軸受の早期損傷の防止に寄与し得る。
本実施例によれば、外輪16とともに回転する第1のシール部材80に摺接して接触のシール領域を形成するシールリップ98が、内輪14に配設された第2のシール部材90に備えられているため、従来のように接触のシール領域を形成しているシールリップが遠心力により開いてシール性能を低下させてしまうという不具合も生じなくなる。
また、第2のシール部材90を一体に構成している弾性部材94の所定領域にシールリップ98を一体に備えているため、密封機構の組み込み工程も簡易であるとともに、軸受内部における密封機構の配設領域の省スペース化が可能となる。
また、本実施例によれば、軸受内部が潤滑油供給状態となるが、特に内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を備えていないため、耐荷重性を低下することもなく、またシールリップ98の制約もない。すなわち、シールリップ98は、第1のシール部材80の芯金82の軸受外方側の面部82cであればどこに接触(摺接)してもよく、シールのリップ開き圧力の調整が容易である。
【実施例4】
【0042】
図4は本発明の実施例4に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、複列の円筒ころ間に浮き輪100を備えた実施の一形態で、密封機構に本発明の密封機構を適用した形式である。
浮き輪100は、内輪つば14a,14aと外輪つば16aと連携してそれぞれの列の転動体(円筒ころ)18の軸方向の動きを制限するとともに、転動体(円筒ころ)18の斜行を防止する周知構成である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
【実施例5】
【0043】
図5は本発明の実施例5に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、内輪14の外つば14aを別部品とした実施の一例に本発明の密封機構を適用した形式である。
図5(a)は潤滑油供給孔54を内輪に設けた形式、図5(b)は内輪14,14間に間座102を備えるとともに、転動体(円筒ころ)18,18間に浮き輪100を備えた実施の一形態である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
【実施例6】
【0044】
図6は本発明の実施例6に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、転動体18として複列の円すいころを組み込んだ複列の円錐ころ軸受に本発明の密封機構を適用した実施の一形態である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
「変形例1」
【0045】
上述した各実施例では、シールリップLp(98)を単一構成としているが、例えば第1のシール部材22の軸受内方側の面部23dに接触する複数のリップを備える形態であっても良く、或いは、例えば第1のシール部材80における芯金82の軸受外方側の面部82cに接触する複数のリップを備える形態であっても、上述した実施例1と同様の効果を得ることができ、本発明の範囲内である。また、その複数のリップは、本実施例のシールリップLp(98)から分岐されている形式であっても、本実施例のシールリップ98とは別に弾性部材94の所定領域から突出させる形式であってもよいが、トルクがあまりに高くならないように留意する必要がある。
「変形例2」
【0046】
上述した図1乃至図5に示す実施例1乃至4では、転動体18として、"円筒ころ"を例示し、図6に示す実施例6では、転動体18として、"円錐ころ"を示したが、"玉"などの他の転動体形態を適用しても同様の効果を得ることができる。更に、上述した各実施例では、転動体18を軸方向に2列に備えた軸受構造としたが、軸方向に1列、或いは、3列以上としても同様の効果を得ることができる。
「変形例3」
【0047】
軸受潤滑油中には金属の切粉や削り屑、バリ及び摩耗粉などの異物が混入されていることがあり、これら異物が軌道輪や転動体に損傷を与え、軸受寿命の大幅な低下を招くことがある。内外輪14,16及び転動体18の材質としては、例えば従来と同様に合金鋼などの鋼材で形成することができるが、内輪14は軸10とともに回転を伴わない形式であるため、外輪16に負荷するラジアル荷重に対して内輪14に負荷する荷重は常に同じ位相に負荷する。そのため、内輪14は外輪16や転動体18と比して早期に疲れ寿命となる。すなわち、異物による損傷を受けて寿命が低下し易いという問題もある。
従って、特に静止輪としての内輪は以下の構成とするのが好ましい。
すなわち、例えばその一例を説明すると、主として炭素(C);0.1〜1.2重量%、クロム(Cr);1〜3重量%を含有し、さらにモリブデン(Mo)を2.0重量%以下添加してなる合金鋼からなり、浸炭又は浸炭窒化処理して表面層(転がり表面層ともいう。)を形成し、その表面層の残留オーステナイト量(γR vol%)が20〜45vol%、微細炭化物又は炭窒化物の平均粒径が2.3μm以下とする。
また、微細炭化物又は炭窒化物の平均粒径は、例えば0.5〜1.5μmとするのが好ましい。
また、表面層の表面硬さ(Hv)は、前記残留オーステナイト量(γR vol%)に対し、−4.7×(γR vol%)+920≦Hv≦−4.7×(γR vol%)+1020の範囲にあるのが好ましい。
さらに、前記モリブデン(Mo)の含有量は、クロム(Cr)含有量の1/3以上とするのが好ましい。
このように内輪14を構成することにより、内輪14の寿命を長くし得るとの効果が得られる。
「変形例4」
【0048】
また、前記実施例1及び実施例2では、第1のシール部材22の円環部(円板部)23bをフラット形状とし、前記実施例3では、第2のシール部材90における芯金92の円板部92bをフラット形状としているが、円周方向に連続する凹部と凸部(図示省略)が、軸中心を同一とする同心円に配されることにより側面視波形状に構成することも可能で、本発明の範囲内である。このように構成することにより、芯金の強度が向上し、内輪14に圧入して嵌め込む際の変形を防止し得る。従って、芯金の変形によりシールリップLp(98)が円板部23b(92b)に強く当たりすぎたり、あるいはシールリップLp(98)が円板部23b(92b)に当たらず接触のシール領域が形成されないという不具合を防止することができる。これにより、潤滑不良や異物混入による軸受の早期焼付け防止が図れ、軸受の寿命を向上することが可能となる。
また、この凹凸構造は、それぞれの凹部と凸部が円状に構成されておらず、蛇行している形態であってもよい。また、凹部と凸部はそれぞれ大きさ(深さ・高さ及び幅など)を異にする形態であってもよい。さらに、凹部と凸部は断続的に設けられているものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明転がり軸受の一実施形態である実施例1を示し、(a)は、転がり軸受の一部を省略するとともに拡大して示す断面図であり、(b)は、(a)の密封機構の構成部分を拡大して示す断面図であり、(c)は、シールに形成される円環状の突出部を軸受外方側からみた説明図である。
【図2】実施例2を示し、シールに形成される円環状の突出部の他の例を拡大して示す断面図である。
【図3】実施例3を示し、密封機構の他の例の構成部分を拡大して示す断面図である。
【図4】実施例4の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、ころ間に浮き輪を設置した一形態である。
【図5】実施例5の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、(a)は、内輪の外つばを別体のつば輪とし、つば輪に本発明を構成する密封機構を組み込んだ一形態、(b)は、外輪の中つばを無くし、ころ間に浮き輪を設置するとともに、内輪の外つばを別体のつば輪とし、つば輪に本発明を構成する密封機構を組み込んだ一形態である。
【図6】実施例6の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、複列の円すいころ軸受に本発明を適用した実施の一形態である。
【図7】本発明の転がり軸受の一適用事例で、(a)は、多段式圧延機の圧延ロール群の構成例を示す概略側面図、(b)は、バッキングロール軸まわりの構成例を示す概略正面である。
【図8】先行技術1に係る転がり軸受の断面図で、(a)は、バッキングロール軸に組み込まれている従来の転がり軸受の構成を一部省略するとともに拡大して示す断面図、(b)は、(a)の密封機構の構成部分を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
14 内輪(静止輪)
16 外輪(回転輪)
16b 止め輪溝
18 転動体
22 第1のシール部材
23b 第1のシール部材の円環部
24 第2のシール部材
24a 第2のシール部材の芯金
24b 第2のシール部材の弾性部材
24c 第2のシール部材の円環部
24g 断続した突出部
26 止め輪
Lp 第2のシール部材のシールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪と、静止輪と回転輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを備え、
密封機構は、
回転輪と静止輪の一方に固定して備えられる第1のシール部材と、
回転輪と静止輪の他方に固定して備えられる第2のシール部材とで構成されており、
第1のシール部材と第2のシール部材の一方には、その第1のシール部材と第2のシール部材の他方に摺接して接触のシール領域を形成する環状のシールリップを備え、
該第1のシール部材及び第2のシール部材のうち、いずれかのシール部材は、該シール部材が備えられる回転輪又は静止輪に形成された周溝に嵌め合わされる円環状の止め輪によって固定される構成を備えた転がり軸受であって、
該シール部材と止め輪とは、軸方向にすきまを有して配され、該シール部材と止め輪のいずれか一方には、該すきまの軸方向寸法よりも大きな寸法で軸方向に突出した、断面凸形状の突出部が円環状に断続して形成されたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
静止輪は、回転輪の内側に対向配置された内輪として構成されており、回転輪は、内輪の外側に対向配置された外輪として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
軸受内部に、オイルまたはオイルと圧縮エアを用いて潤滑が行われることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
鉄鋼材を圧延する多段式圧延機に用いられた転がり軸受であって、
多段式圧延機は、鉄鋼材を圧延するための圧延ローラ群を備えており、転がり軸受は、圧延ローラ群のバッキングロール軸に組み付けられていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−63117(P2009−63117A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232742(P2007−232742)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】