説明

転写印刷方法、転写印刷装置およびそれを用いて製造した転写印刷製品

【課題】転写印刷において、版の表面を常に清浄な状態に保持し、版の再生作業頻度を少なくし、被印刷部材の急速昇温冷却が可能で表面温度を精密制御できる安価なインプリント装置を提供する。
【解決手段】
転写印刷版2の表面に凹凸のパターンを形成し、被印刷部材上に直接に、または被印刷部材上に形成された樹脂膜上に、転写印刷版の凹凸のパターンを形成する転写印刷において、転写印刷版1に赤外線ランプ16を用いて赤外線15を照射し、転写印刷版上に付着した樹脂付着物質を分解洗浄するとともに、被印刷部材を赤外線で加熱する方式の転写印刷装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ、マイクロインプリントに用いる転写印刷に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、ナノ、マイクロレベルの材料成形加工には、凹凸のパターン加工を施した石英、サファイア、シリコン基板などの転写印刷版による転写印刷装置(別名インプリント装置、以降転写印刷装置またはインプリント装置と記述する)が用いられている。この転写印刷版による転写印刷(別名インプリント、以降転写印刷またはインプリントと記述する)は、被印刷部材上に転写印刷版を配置して、加熱または光照射しながら加圧することにより行なわれる。また被印刷部材には、熱可塑性樹脂、感光性樹脂などの高分子材料が用いられる。熱可塑性樹脂を用いる場合は、その材料のガラス転移点(Tg)付近の温度に材料の温度を上げて加圧印刷する方式であり、熱転写方式(または熱インプリント方式)と呼ばれている。熱転写方式は熱可塑性の樹脂であれば汎用の樹脂を広く用いることのできる特徴がある。
【0003】
また感光性樹脂の場合には、紫外線などの光照射により硬化する光硬化型の樹脂が用いられ、これは光転写方式(以降、光転写、光転写方式または、光インプリント方式と記述する。)と呼ばれている。この光転写方式では、特殊な光硬化型の樹脂を用いる必要があるが、熱転写方式と比較して、転写印刷版や被印刷部材の熱膨張による完成品の寸法誤差を小さくできる特徴がある。また装置上では、複雑な加熱機構や温度制御が不要であること、さらにインプリント装置全体としても、断熱などの熱歪み対策が不要であるなどの特徴がある。
熱転写方式に関する文献には非特許文献1が、また光転写方式に関する文献としては非特許文献2、非特許文献3がある。
【0004】
【非特許文献1】平井義彦;ナノインプリント法によるナノ構造体、精密工学会誌、70(10)(2004)pp.1223−2861227
【非特許文献2】谷口他;ナノインプリント技術の現状、砥粒学会誌、46(6)(2002)pp.282−286
【非特許文献3】荻野他;光硬化型ナノ金型に関する研究開発、型技術、19(12)(2004)pp.63−65
【0005】
現在、転写印刷に用いられる転写印刷版および装置の詳細に関する発表は少ないが、紫外線を透過できるサファイア製のモールドと称する転写印刷版を、基板と称する被印刷部材に当て、上部から紫外線を照射する方式の装置構造図が非特許文献2に示されている。この構造図を図1に示す。この図では、転写印刷版1と被印刷部材2は共に平坦であって、それぞれが水平に対向している。この転写印刷版と被印刷部材は、ボールネジ11のステッピングモーター7の駆動により上昇接近でき、次に圧着させてから、照射レンズ4により紫外線照射が行なわれ、転写印刷版と被印刷部材の間の光硬化型樹脂が光硬化するメカニズムが説明されている。この時の転写圧力はロードセル10によって測定される。またベローズ6やロータリーポンプ接続口8の配置によって、転写時の転写印刷版と被印刷部材の間の雰囲気調整や減圧も可能な装置構成となっている。なおこの文献では、紫外線を用いない場合は、熱転写方式にも用いることができるとの説明がなされている。
【0006】
感光性樹脂や熱硬化性樹脂を用いる転写印刷においては、繰り返し印刷におけるこれら樹脂の転写印刷版への付着が大きな問題になっている。このため、現在この樹脂付着防止策として、離型性を有する高分子薄膜(以下離型材剥膜または単に離型材と記述する)を転写印刷版の表面に付着形成させ、転写印刷版の被印刷部材からの離型を容易にするとともに、転写印刷版への樹脂付着を防止する手法が用いられている。
しかしながら、転写印刷版の表面にはナノ、マイクロサイズの凹凸パターンが形成されているために、離型材の処理における処理膜厚さのばらつきや、離型材薄膜が十分な厚さに形成されない欠陥部の発生などが起こりしばしば問題になる。そしてこれが原因となっての転写印刷不良が多発し、転写印刷作業の継続が不可能になる。また離型材の処理が正常になされた場合でも、インプリント作業によって、離型材薄膜が被印刷部材に微量持ち去られて離型材の効力が次第に失われる。このため転写印刷版はインプリント回数を重ねるにしたがって離型作用が徐々に低下する。離型材薄膜の効力がなくなると、被印刷部材からの転写印刷版への樹脂付着が多くなる。従って、インプリント作業では、定期的な転写印刷版の洗浄が必要になる。現在この転写印刷版の洗浄には、酸素プラズマアッシング法が主に用いられている。しかしこの酸素プラズマアッシング法では、付着樹脂のほか離型材薄膜も除去されるので、離型材を再処理して転写印刷版の再生が行われる。これを通常転写印刷版の再生作業と呼んでいる。また、この酸素プラズマアッシング法は装置が非常に高価であるばかりでなく、インプリントマシンとの一体化が難しい欠点がある。即ち酸素プラズマアッシング法においては、一定のインプリント作業を継続した後で、転写印刷版をインプリントマシンから取り出して別工程で洗浄しなければならない。このため、常に清浄な転写印刷版の表面状態でのインプリント作業が不可能となっている。ナノインプリントと称されるナノメートルサイズの転写印刷では、転写印刷版の凹凸のパターンサイズは、数10〜数100ナノメートルの値である。このために転写印刷版への微小な樹脂付着が、印刷欠陥部となって現れるので、転写印刷版は、常に樹脂付着の無い清浄な表面状態でインプリントが行われなければならない。しかしながら未だこれを可能とする洗浄方法は提案されていない。
【0007】
また熱インプリントの場合、基板上に熱可塑性樹脂を塗布した被印刷部材または熱可塑性樹脂からなる被印刷部材の昇温および冷却の問題がある。現在この昇温および冷却の方法としては、被印刷部材直下にヒーター9を設ける方法が一般的である。しかしながらこのヒーター加熱方法では、1.ヒーターからの伝熱によるので被印刷部材の昇温に時間がかかる、2.被印刷部材の正確な温度制御が難しい、3.被印刷部材の冷却に時間がかかる、4.インプリントマシンの熱歪対策が必要、5.熱歪を考慮した設計になるので装置が非常に高価、などの欠点がある。現在この問題を解決するために、ヒーターと水冷または空冷を用いた加熱冷却方式が取られている。しかしこの従来方式では、温度制御がヒーターのオンオフと強制冷却によっているために、要求する温度制御範囲(通常温度制御範囲は±5℃が必要)に保持することは非常に難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明が解決しようとする課題は下記のとおりである。
1)転写印刷版の表面を常に清浄な状態に保持すること。
2)転写印刷版の再生作業の頻度を少なくすること。
3)被印刷部材温度の急速昇温冷却が可能でかつ被印刷部材の表面温度を精密に制御すること。
4)安価なインプリントマシンを提供すること。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、前記の発明が解決しようとする課題を解決することができ、その効果は下記のとおりである。
1)転写印刷版の表面を常に清浄な状態に維持できるので、インプリントにおける被印刷部材への欠陥部発生を防止でき、インプリント製品の品質向上を図ることができる。
2)転写印刷版の表面を常に正常に維持できるので、離型材薄膜の再処理による転写印刷版の再生作業の頻度を少なくできる。
インプリントにおける欠陥は、主に転写印刷版への樹脂付着によっておこる。この樹脂付着は、初めは離型材薄膜の欠陥部を核とした極微小な領域であるが、転写印刷を重ねることによって、欠陥部をブリッジして樹脂付着部が次第に面方向に広がる。樹脂付着が面方向に広がると、最終的には転写印刷版のパターン内部に樹脂が残ったままで離型(転写印刷版を被印刷部材から剥がす動作、以下これを離型と記述する)されると、インプリント欠陥として現れる。これに対して、転写印刷版が常に正常に維持される状態では、極微小領域に付着した樹脂がその都度排除されるので、樹脂付着が面方向に広がることがなく、インプリント欠陥も発生しない。このことによって、離型材薄膜の再処理による転写印刷版の再生作業の頻度を少なくできる(再生寿命が長くなる)。
3)被印刷部材の急速な昇温冷却が可能で、かつ被印刷部材の表面温度を精密に制御することができる。被印刷部材の下部にヒーターを取り付ける方式ではないので、急速加熱冷却が可能であり、また被印刷部材表面の温度を精密に制御することができる。
4)安価なインプリントマシンを提供することができる。
ヒーターを用いず、被印刷部材の樹脂のみを加熱することができるので、インプリントマシン本体への熱伝導がなく、マシンの熱歪対策のための構造部材が不要となるため、装置コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
最良の実施形態を図2により説明する。図2は熱可塑性樹脂を用いる熱インプリントの例を示している。図2では例えば、厚さ0.5mmの4インチφの円形の石英基板からなる転写印刷版1を、円形の転写印刷版保持枠14に収納した断面を示している。転写印刷版の下部には、被印刷部材2として、例えば厚さ1.0mm、外径3インチφの円形のナノガラス基板が、転写ステージ17の上に設置されている。図2には示していないが、ナノガラスは転写ステージ上に減圧ポンプの吸引により保持されている。即ち、転写ステージにはナノガラスを吸引できる複数の微細な穴が開口されており、この穴を通して、ナノガラスが吸引されて転写ステージ上に保持される構造となっている。またナノガラスの上には、熱可塑性樹脂膜19が塗布されている。図2に示すように転写印刷版の上部には赤外線ランプ16が配置されており、転写印刷版1および被印刷部材であるナノガラス上の熱可塑性樹脂膜上に赤外線15を照射する。石英からなる転写印刷版は赤外線を90%以上透過するので、赤外線ランプは転写印刷版の下面に付着した熱可塑性樹脂も同時に照射することができる。
【0011】
赤外線ランプには例えば中心波長1.2μmの近赤外線ハロゲンランプを用いる。熱可塑性樹脂などの高分子材料のこの波長帯域における近赤外線の吸収率は、20〜30%である。また一方、透明石英基板のこの波長帯域での吸収率は2%程度である。したがって、近赤外線の照射によって石英基板からなる転写印刷版は加熱されず、転写印刷版に付着した熱可塑性樹脂膜が選択的に加熱される。近赤外線照射によって加熱された熱可塑性樹脂膜は、熱可塑性樹脂の分解温度に達すると分解し消失するので、転写印刷作業中において転写印刷版を繰り返し洗浄することができる。実験では、転写印刷版上50mmの高さに、定格1KW、中心波長1.2μmの近赤外線ランプを配置して転写印刷版を照射した場合、転写印刷版に付着した透明なアクリル系の熱可塑性樹脂膜は2分以内で500℃に達し、この温度に到達後は、1分以内で付着樹脂を分解できることが確認された。
【0012】
また被印刷部材上の熱可塑性樹脂膜も同時に加熱することができる。被印刷部材の直下の転写ステージには放射温度計18が挿入されている。この放射温度計は、熱可塑性樹脂をインプリントに最適な温度に制御するためのものである。被印刷部材には通常ガラス基板、石英基板などが用いられる。転写ステージは通常剛性の高いステンレスや超硬材料で作られる。従来法では、転写ステージにはヒーターと同時にサーモカップルを挿入して温度制御を行っている。この従来方法では、熱可塑性樹脂の温度を直接測定するのではなく、転写ステージの温度を測定し、熱可塑性樹脂の温度を制御する方法となっている。本発明の放射温度計では、石英基板からなる被印刷部材の直下から、放射温度計によって直接に熱可塑性樹脂の温度を測定する。被印刷部材がソーダガラスなどの汎用ガラス基板の場合でも、赤外線波長帯域における吸収率は5%程度である。したがって本発明法では、熱可塑性樹脂から放射された熱線のほとんどが放射温度計に到達するので、熱可塑性樹脂の温度を精度良く測定することができる。このため、被印刷部材上の熱可塑性樹脂を赤外線により加熱し、次に赤外線照射を瞬間的に停止させて、その温度を放射温度計で測定すると熱可塑性樹脂のリアルタイムな温度測定ができる。熱可塑性樹脂の温度が要求する温度に到達していない場合は、再度赤外線を照射し測定を繰り返す。一度赤外線の出力を一定とし、照射時間と昇温の関係を求め、タイマーの設定によって近似温度まで昇温させてから、放射温度計の温度データ出力から赤外線ランプの点灯を行うと、温度測定と点灯の繰り返しにより正確な温度制御が可能になる。要求する温度に到達後、ボールネジ11をステッピングモーターで回転させて、転写ステージを上昇させると、熱インプリントが行われる。
【0013】
熱インプリントによって転写印刷版に付着した熱可塑性樹脂を、例えば10回の熱インプリントに対して1回の赤外線照射で洗浄を行う。洗浄時間は赤外線の出力と時間が関係するが、例えば転写印刷版上50mmの高さに、定格1KW、中心波長1.2μmの近赤外線ランプを配置して転写印刷版を照射した場合、転写印刷版に付着した透明なアクリル系の熱可塑性樹脂は2分以内で約500℃に到達し、その後1分以内で転写印刷版に付着した熱可塑性樹脂を完全に分解することができる。転写印刷版の赤外線による加熱分解終了後は、熱インプリントを再開することができる。被印刷部材上に塗布された、例えばガラス転移点120℃の透明なアクリル系の熱可塑性樹脂では、被印刷部材上50mmの高さに定格1KW、中心波長1.2μmの近赤外線ランプを配置し、近赤外線照射すると、塗布された熱可塑性樹脂の温度は5秒以内で120℃に到達する。このため、5秒以内で熱インプリントを開始することができる。
【0014】
熱インプリントにおいては、タクトタイムの短縮のために冷却時間も非常に重要である。ヒーターによる加熱方式では、加熱昇温に数分を用し、また冷却にも数分を要している。これは転写ステージに内蔵されたヒーターの熱源によって熱伝導を利用して加熱しているためである。熱インプリント方式では、熱インプリントを行いその後離型段階に移るが、離型時にはステージの温度をガラス転移点以下に下げる必要がある。このため、ステージには通常、強制冷却装置が取り付けられている。この強制冷却方式には水冷、空冷などが用いられる。通常80℃程度までの冷却が必要なので、冷却には数分を要している。また再度熱インプリントを行うために昇温に入るが、この昇温にも数分を要している。またヒーター加熱方式の次の欠点は、温度制御が難しい点にある。これはステージ温度と被印刷部材の温度差に基づいている。したがってヒーター加熱方式では、ヒーターのオンオフによる温度制御を行っても、被印刷部材上の熱可塑性樹脂の実態温度の制御は不可能である。これに対して赤外線照射方式では、被印刷部材上の熱可塑性樹脂は、熱インプリント時の転写印刷版との接触によって急速に冷却される。また熱インプリントを再開する時には、赤外線の照射によって、熱可塑性樹脂の温度を熱インプリントに必要な温度まで5秒以内で上昇させることができる。
【0015】
図3には光インプリント場合の最良の形態を示す。光インプリントの場合には、紫外線ランプ21を併用する。図3は、紫外線ランプを用いて被印刷部材上の光硬化型樹脂膜20を照射し、光インプリントを行っている状態の断面図を示している。光インプリントでは、光硬化型樹脂の加熱は不要である。したがって、赤外線ランプは転写印刷版の照射洗浄のみに用いる。熱インプリント同様、光インプリントを例えば10回行った後で、転写印刷版の洗浄のために、転写印刷版を赤外線ランプにより照射する。赤外線ランプには、熱インプリントと同様のランプを用いることができる。紫外線ランプ21、赤外線ランプ16は、ランプ可動レール22に取り付けられている。紫外線ランプと赤外線ランプはこの可動レール上を左右に自由にスライドしながら移動できるようにする。紫外線照射による光インプリントを例えば10回繰り返した後で、図3の左方向に紫外線ランプを後退させて、次に赤外線ランプを被印刷部材上に移動させ、赤外線を照射して転写印刷版に付着した光硬化型樹脂の分解洗浄を行う。赤外線照射による転写印刷版の洗浄時には、転写ステージを下方に移動させて、転写ステージの加熱を防止する。
光インプリントの場合も洗浄時間は赤外線の出力と時間が関係するが、例えば転写印刷版上50mmの高さに、定格1KW、中心波長1.2μmの近赤外線ランプを配置して転写印刷版を照射した場合、転写印刷版に付着した透明なアクリル樹脂系の光硬化型樹脂は、熱可塑性樹脂同様2分以内で約500℃に到達し、その後1分以内で転写印刷版に付着した光硬化型樹脂を完全に分解することができる。
【実施例1】
【0016】
熱インプリントの実施例を図2を用いて説明する。まず厚さ1、0mm、4インチφの石英基板からなる転写印刷版1を円形の支持枠14に収納し、転写印刷版の下部には、熱可塑性樹脂膜19を形成した被印刷部材2(例えば厚さ1.0mm、外径3インチφのナノガラス基板)を転写ステージ17の上に設置する。熱インプリント用熱可塑性樹脂にはPMMA(ポリメチルメタクリル酸メチル)やポリスチロール系、ポリアセテート系などを用いることができる。これらの樹脂を溶剤の希釈溶液とし、ナノガラス上にスピンコーターを用いて塗布する。塗布厚さはスピンコーターの回転速度、溶液粘度、スピンコートの時間などにより調整することができるが、熱インプリントに最適な厚さとして、例えば転写印刷版の溝の深さに応じて、溶剤乾燥後の厚さ1〜5μmの範囲に塗布する。塗布厚さの基板内のばらつきは、例えば設定した厚さに対して±10%の範囲に調整する。4インチφの石英基板からなる転写印刷版の表面には、深さおよび幅寸法がナノまたはマイクロレベルの溝を、例えばEB描画によるエッチングレジストパターン描画後のドライケミカルエッチングなどによって形成する。
【0017】
転写印刷版と被印刷部材を配置した後、被印刷部材表面の熱可塑性樹脂膜を、発明を実施するための最良の形態で記述したように、ハロゲンランプを用いた近赤外線照射装置によって加熱する。加熱温度の設定は、熱可塑性樹脂のガラス転移点付近になるように、放射温度計18からの測定温度データの近赤外線照射装置へのフィードバックと近赤外線照射のオンオフ制御により行うことができる。通常の熱可塑性樹脂では、定格1KW、中心波長1.2μmの近赤外線ランプを用いた赤外線照射により、120℃付近の温度に5秒以内で熱可塑性樹脂を昇温させることができる。昇温を行い温度設定の完了後は、転写ステージ17をステッピングモーター駆動によって上方に押し上げて熱インプリントを行う。熱インプリントは転写印刷版のナノガラスへの加圧により行われる。転写印刷版は加熱されていないが、熱可塑性樹脂膜は加熱されているため、転写印刷版の溝パターンがナノガラス上の熱可塑性樹脂膜に形成される。同時にナノガラス上の熱可塑性樹脂膜は、転写印刷版の接触および加圧によって急速に冷却される。冷却によって熱可塑性樹脂膜は収縮し、転写印刷版の溝パターンから剥離し離型する。転写ステージをステッピングモーター駆動により下方に移動させると、熱インプリントのワンサイクルが終了する。本発明では、熱インプリントと冷却がほぼ同時に進行する。従って、熱インプリント後の冷却動作が不要である。しかし冷却があまりに速いために、インプリントが正常に行われない場合には、転写印刷版を被印刷部材に、または被印刷部材上の熱可塑性樹脂に加圧したままで近赤外線を照射して、被印刷部材または被印刷部材上の熱可塑性樹脂の温度を上げることも可能である。
【0018】
ワンサイクルの熱インプリント終了後は、再び熱可塑性樹脂膜を塗布した被印刷部材(ナノガラス)を転写ステージにセットし、近赤外線照射によってナノガラス上の熱可塑性樹脂を加熱して、設定した温度まで熱可塑性樹脂の温度を上げる。そして熱インプリントの一連の動作を再度行う。この熱インプリントの動作の繰り返しによって、転写印刷版の溝にはナノガラス上の熱可塑性樹脂膜が次第に付着する。その付着量は微量ではあっても、回数を重ねると次第に厚く成長し、最後には溝を完全に熱可塑性樹脂が塞ぐようになる。溝が塞がった状態になると、熱インプリント欠陥となって現れて、製品不良が発生する。この欠陥部は非常に微細であり、製品の目視検査での確認は不可能であり、また光学顕微鏡や電子顕微鏡でもその場所を特定するのには、全面検査となるために非常に難しい。従って、転写印刷版の熱可塑性樹脂の付着防止が非常に重要となる。しかしながら、作業中における転写印刷版の熱可塑性樹脂の付着観察は、インプリント装置に転写印刷版が実装されているために、作業中に取り出すことができず不可能である。
【0019】
したがって、転写印刷版のインプリント作業中の洗浄が非常に重要になる。本発明では、赤外線(近赤外線、中赤外線、遠赤外線)で熱可塑性樹脂膜を加熱するので、熱インプリント毎に転写印刷版は熱分解洗浄が行われる。すなわち熱可塑性樹脂の赤外線による加熱は、石英基板からなる転写印刷版の上部から行うので、転写印刷版は赤外線ランプに近く、転写ステージ上の熱可塑性樹脂膜より温度が高くなる。このために、転写印刷版は常に加熱洗浄を受けることになる。また熱インプリントでは、樹脂によって転写印刷版への樹脂付着の程度が異なるので、樹脂付着性の高い熱可塑性樹脂では、例えば10回の熱インプリントに対して1回の割合で赤外線による洗浄を行うと良い。この場合は、転写ステージを下部に降ろした状態で、転写印刷版の上部から赤外線照射する。洗浄においては赤外線の出力を、熱インプリントの場合より大きくすると良い。発明を実施するための最良の形態で述べたように、転写印刷版の温度を定格1KW、中心波長1.2μmの近赤外線ランプにより500℃程度に上げることによって、転写印刷版に付着した熱可塑性樹脂は1分以内で分解洗浄除去することができる。
【0020】
以上のように本発明では、転写印刷版のインプリント作業中の洗浄が可能で、インプリント作業効率を上げることができるばかりでなく、インプリント欠陥を未然に防ぐことができるので生産歩留まりが向上する。また従来技術では、熱可塑性樹脂の加熱と冷却にそれぞれ3〜5分程度を要しているが、本発明での加熱昇温時間は5秒以内であり、さらに冷却は不要である。このように、転写印刷版の加熱および冷却のトータルの時間が非常に短いので、1台のインプリントマシンによる生産効率を従来技術と比較して著しく高くすることができる。
【実施例2】
【0021】
光インプリントの実施例を図3により説明する。まず厚さ1.0mm、4インチφの石英基板からなる転写印刷版1を円形の支持枠14に収納し、転写印刷版の下部には、光硬化型樹脂膜20を形成した被印刷部材2(例えば厚さ1.0mm、外径3インチφのナノガラス基板)を転写ステージ17の上に設置する。光インプリント用光硬化型樹脂には感光性のPMMA(ポリメチルメタクリル酸メチル)やポリスチロール系、ポリアセテート系などを用いることができる。これらの樹脂組成物の無溶剤型の液状樹脂を、ナノガラス上にスピンコーターを用いて塗布する。塗布厚さはスピンコーターの回転速度、溶液粘度、スピンコート時間などにより調整することができるが、光インプリントに最適な厚さとして、例えば転写印刷版の溝の深さに応じて、1〜5μmの範囲に塗布する。塗布厚さの基板内のばらつきは、例えば設定した厚さに対して±10%の範囲に調整する。4インチφの石英基板からなる転写印刷版の表面には、深さおよび幅がナノまたはマイクロレベルの溝を、例えばEB描画によるエッチングレジストパターン描画後のドライケミカルエッチングなどによって形成する。
【0022】
転写印刷版と被印刷部材を配置した後、ステッピングモーターの駆動によって転写ステージを上昇させて、被印刷部材を転写印刷版に接触させる。光インプリントでは、光硬化型樹脂の加熱は不要である。また熱インプリントのように加圧方式ではないので、流動性の高い光硬化型樹脂の場合には、転写印刷版に被印刷部材を接触させるか、転写ステージをさらに上昇させて軽く加圧し圧着させるのみでも構わない。転写印刷版と被印刷部材間に挟まれた光硬化型樹脂に気泡が残る場合には、図1のベローズ6内を真空ポンプに連結して減圧する。転写印刷版の被印刷部材への適正な圧着を確認後、紫外線ランプ21を用いて紫外線を光硬化型樹脂膜に照射し、光硬化型樹脂膜を硬化させる。紫外線の照射時間および紫外線ランプの出力は、光インプリントに用いる光硬化型樹脂膜によって異なるので、光硬化型樹脂膜が完全に硬化するに十分な紫外線の照射量のデータを基にして決定する。光インプリントでは、紫外線の照射時間が生産性に大きく影響するので、10秒以内の照射時間に通常設定される。紫外線照射後、ステッピングモーターの駆動によって、転写ステージを降下させると光インプリントが終了する。
【0023】
ワンサイクルの光インプリント終了後は、再び光硬化型樹脂膜を塗布した被印刷部材(例えばナノガラス)を転写ステージにセットして再び光インプリントを行う。この光インプリントの動作の繰り返しによって、転写印刷版の溝にはナノガラス上の光硬化型樹脂膜が次第に付着する。その付着量は微量ではあっても、熱インプリント同様回数を重ねると次第に厚く成長し、最後には溝を完全に光硬化型樹脂が塞ぐようになる。溝が塞がった状態になると、光インプリント欠陥となって現れて、製品不良が発生する。この欠陥部は非常に微細であり、製品の目視検査での確認は不可能であり、また光学顕微鏡や電子顕微鏡でもその場所を特定するのには、全面検査となるために非常に難しい。従って、転写印刷版への光硬化型樹脂の付着防止が非常に重要となる。しかしながら、作業中における転写印刷版の光硬化性樹脂の付着観察は、インプリント装置に転写印刷版が実装されているために、作業中に取り出すことができず不可能である。
【0024】
したがって、光インプリントの場合も、転写印刷版のインプリント作業中における洗浄が非常に重要になる。本発明では、光インプリントの途中で赤外線による転写印刷版の洗浄を行うことができる。すなわち、例えば10回の光インプリントに対して1回の割合で赤外線ランプ16による転写印刷版の洗浄を行う。この場合は、転写ステージを下部に降ろした状態で、転写印刷版の上部から赤外線照射する。発明を実施するための最良の形態で述べたように、転写印刷版の温度を定格1KW、中心波長1.2μmの近赤外線ランプにより500℃程度に上げることによって、転写印刷版に付着した光硬化性樹脂は1分以内で分解洗浄除去することができる。
以上のように本発明では、転写印刷版の光インプリント作業内での洗浄が可能で、光インプリント作業効率を上げることができるばかりでなく、インプリント欠陥を未然に防ぐことができるので生産歩留まりが向上する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の産業上の利用分野は、大容量メディアディスク、半導体デバイス、電子回路形成などであり、従来のフォトプロセスによるパターン形成に替わるナノ,マイクロサイズの加工技術として広く応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】インプリント装置の説明図
【図2】本発明の赤外線ランプを搭載した熱インプリントの説明図
【図3】本発明の紫外線ランプと赤外線ランプを搭載した光インプリントの説明図
【符号の説明】
【0027】
1 転写印刷版
2 被印刷部材
3 サファイア
4 照射レンズ
5 光ファイバー
6 ベローズ
7 ステッピングモーター
8 ロータリーポンプ接続口
9 ヒーター
10 ロードセル
11 ボールネジ
12 ステージ
13 ステージ上昇矢印
14 転写印刷版保持枠
15 赤外線
16 赤外線ランプ
17 転写ステージ
18 放射温度計
19 熱可塑性樹脂膜
20 光硬化性樹脂膜
21 紫外線ランプ
22 ランプ可動レール
23 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写印刷版の表面に凹凸のパターンを形成し、被印刷部材上に直接に、または被印刷部材上に形成された樹脂膜上に、転写印刷版の凹凸のパターンを形成する転写印刷において、転写印刷版に赤外線を照射し、転写印刷版上に付着した樹脂付着物質を分解洗浄する方式の転写印刷版の洗浄方法。
【請求項2】
転写印刷版の表面に凹凸のパターンを形成し、被印刷部材上に直接に、または被印刷部材上に形成された樹脂膜上に、転写印刷版の凹凸のパターンを形成する転写印刷において、被印刷部材または被印刷部材上の樹脂膜に赤外線を照射し、被印刷部材または被印刷部材上の樹脂膜を加熱昇温する方式の転写印刷方法。
【請求項3】
請求項1および2において、赤外線ランプは近赤外線ランプ、中赤外線ランプ、遠赤外線ランプである請求項1記載の洗浄方法
【請求項4】
請求項1および2を装備した転写印刷装置。
【請求項5】
請求項4の転写印刷装置を用いて製造した転写印刷製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−324504(P2007−324504A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155625(P2006−155625)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【出願人】(306020601)株式会社MEPJ (3)
【Fターム(参考)】