説明

転写定着装置及び画像形成装置

【課題】消費エネルギが低く、加熱手段の熱利用が有効におこなわれるとともに、低コスト化と省スペース化とが達成され、定着性が良好で高画質な画像を形成することができる、転写定着装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】トナー像を担持する転写定着部材27と加圧部材68とによって形成されるニップ部に向けて搬送される記録媒体Pの転写定着面を加熱するとともに、転写定着部材27に担持されたトナー像Tを加熱する加熱手段70、71を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、記録媒体上にトナー像を転写するとともに定着する転写定着装置と、それを備えた複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の電子写真方式を用いた画像形成装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置では、転写工程と定着工程とを同時におこなう転写定着装置を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1〜特許文献3等参照。)。
このような転写定着装置を備えた画像形成装置は、転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置に比べて、表面性の粗い記録媒体を使用しても画像品質の低下が起こり難いという利点がある。
【0003】
詳しくは、転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置では、表面性の粗い記録媒体を使用すると、中間転写ベルト等の中間転写体が記録媒体の表面性に追従できずに中間転写体と記録媒体との間に微小ギャップが形成されてしまう。そのため、その微小ギャップが形成された部分で異常放電が発生して、中間転写体上に担持された画像が記録媒体上に正常に転写されずに、画像が全体としてボソボソになってしまう。
これに対して、転写定着装置を備えた画像形成装置では、トナー像に対して転写と同時に熱を加えるため、トナーが軟化・溶融して粘弾性を帯びたブロック状の塊になる。そのため、表面性の粗い記録媒体を使用して定着部材と記録媒体との間に微小ギャップが形成されても、その部分に画像が塊として転写されてしまう。したがって、画像は、ボソボソにならずに、良好で高画質なものになる。
【0004】
さらに、転写定着装置を備えた画像形成装置は、転写定着工程がおこなわれるニップ部(転写定着部材と加圧部材との当接位置である。)に搬送される記録媒体上に未定着のトナー像が担持されないために、転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置に比べて、記録媒体の搬送経路に対する制約が少なくなる。すなわち、転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置は、定着工程がおこなわれるニップ部(定着部材と加圧部材との当接位置である。)に搬送される記録媒体上に未定着のトナー像が担持されるために、転写部から定着部に至る搬送経路には未定着トナー像に接触しないための制約が課せられる。したがって、転写定着装置を備えた画像形成装置は、記録媒体の搬送経路に対する設計上の自由度が高く、記録媒体の搬送性を高めることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の転写定着装置は、トナー像を担持する転写定着部材を加熱してトナー像を加熱・溶融しているために、長寿命化のために転写定着ベルト(転写定着部材)が厚くなったり、大型のタンデム型の画像形成装置に設置するために転写定着ベルトの周長が長くなったりした場合に、転写定着ベルトの熱効率が低下してしまっていた。そのため、転写定着装置における消費エネルギが大きくなっていた。
さらに、従来の転写定着装置は、上述した転写定着ベルトの加熱工程に加えて、作像部の熱的損傷を低減するために転写定着工程後の転写定着ベルトを冷却する冷却工程がおこなわれている場合が多かった。このような加熱・冷却のサイクルが繰り返されるために、転写定着装置における消費エネルギが大きくなっていた。
【0006】
本願発明者は、このような問題を解決するために研究を重ねた結果、転写定着ベルト(転写定着部材)の加熱を最小限に抑えて、トナーの加熱・溶融に必要な熱量を、ニップ部に搬送される直前に記録媒体を効率的に加熱することで補足する方策を知得した。このような方策を具現化するためには、ニップ部に対して記録媒体の搬送方向上流側であってニップ部の近傍に、記録媒体の転写定着面を加熱する加熱手段を設けることが考えられる。
しかし、その場合であっても、加熱手段の熱利用が有効におこなわれるとともに、装置の低コスト化と省スペース化とを充分に満足することが重要になる。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、消費エネルギが低く、加熱手段の熱利用が有効におこなわれるとともに、低コスト化と省スペース化とが達成され、定着性が良好で高画質な画像を形成することができる、転写定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の請求項1記載の発明にかかる転写定着装置は、記録媒体の転写定着面にトナー像を転写するとともに定着する転写定着装置であって、トナー像を担持するとともに、所定方向に走行する転写定着部材と、前記転写定着部材に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する加圧部材と、前記ニップ部に向けて搬送される記録媒体の前記転写定着面を加熱するとともに、前記転写定着部材に担持されたトナー像を加熱する加熱手段と、を備えたものである。
【0009】
また、請求項2記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1に記載の発明において、前記加熱手段は、前記転写定着部材に対向して当該転写定着部材に担持されたトナー像を輻射加熱する熱源と、前記熱源から放射された光を前記転写定着部材に向けて反射する反射部材と、を具備し、前記反射部材は、前記熱源によって加熱されるとともに、前記ニップ部に向けて搬送される記録媒体を案内しながら当該記録媒体の前記転写定着面に熱を伝えるように構成され、前記反射部材に案内される記録媒体を当該反射部材に向けて付勢する付勢部材をさらに備えたものである。
【0010】
また、請求項3記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項2に記載の発明において、前記熱源を、カーボンヒータとしたものである。
【0011】
また、請求項4記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項2又は請求項3に記載の発明において、前記反射部材は、前記熱源に対向する対向面の一部又は全部に赤外線の吸収を高める加工が施されたものである。
【0012】
また、請求項5記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項2〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記反射部材を加熱する第2の熱源を前記熱源とは別に設けたものである。
【0013】
また、この発明の請求項6記載の発明にかかる画像形成装置は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の転写定着装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、転写定着部材と加圧部材とのニップ部に搬送される記録媒体の転写定着面を加熱するとともに転写定着部材に担持されたトナー像を加熱する加熱手段を設けているために、消費エネルギが低く、加熱手段の熱利用が有効におこなわれるとともに、低コスト化と省スペース化とが達成され、定着性が良好で高画質な画像が形成される、転写定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1における画像形成装置を示す全体構成図である。
【図2】転写定着装置の一部を示す拡大図である。
【図3】別の形態の転写定着装置の一部を示す拡大図である。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【図5】この発明の実施の形態2における転写定着装置の近傍を示す拡大図である。
【図6】この発明の実施の形態3における画像形成装置の一部を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0017】
実施の形態1.
図1〜図4にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1において、1は画像形成装置としてのカラー複写機の装置本体、2は入力画像情報に基づいたレーザ光を発する書込み部(露光部)、20Y、20M、20C、20BKは各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応したプロセスカートリッジ、21は各プロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20BKにそれぞれ収容された感光体ドラム(像担持体)、22は感光体ドラム21上を帯電する帯電部、23Y、23M、23C、23BKは感光体ドラム21上に形成される静電潜像を現像する現像装置、24は感光体ドラム21上に形成されたトナー像を転写定着ベルト27に転写する転写バイアスローラ、25は感光体ドラム21上の未転写トナーを回収するクリーニング装置、を示す。
【0018】
また、27は複数色のトナー像が重ねて転写される転写定着部材としての転写定着ベルト、29は転写定着工程後の転写定着ベルト27を清掃するクリーニング装置(ベルトクリーニング装置)、32Y、32M、32C、32BKは各現像装置23Y、23M、23C、23BKに各色のトナーを補給するトナー補給部、51は原稿Dを原稿読込部55に搬送する原稿搬送部、55は原稿Dの画像情報を読み込む原稿読込部、61は転写紙等の記録媒体Pが収納される給紙部、66は記録媒体P上にトナー像を転写・定着する転写定着装置、68は転写定着ベルト27に圧接してニップ部を形成する加圧部材としての加圧ローラ、70は熱源としてのカーボンヒータ、85は転写定着ベルト27の幅方向温度分布を均一化するとともに転写定着ベルト27を冷却する冷却手段としての均しローラ、91は記録媒体Pを反射板に向けて付勢する付勢部材としてのブラシ状ローラ、を示す。
【0019】
ここで、転写定着装置66は、転写定着部材としての転写定着ベルト27、加熱手段としてのカーボンヒータ70及び反射板71(加熱装置)、加圧部材としての加圧ローラ68、付勢部材としてのブラシ状ローラ91、均しローラ85、等で構成される。
また、各プロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20BKは、それぞれ、感光体ドラム21、帯電部22、クリーニング装置25が、一体化されたものである。そして、各プロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20BKにおける感光体ドラム21上では、それぞれ、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)の画像形成がおこなわれる。
【0020】
以下、画像形成装置における、通常のカラー画像形成時の動作について説明する。
まず、原稿Dは、原稿搬送部51の搬送ローラによって、原稿台から図中の矢印方向に搬送されて、原稿読込部55のコンタクトガラス53上に載置される。そして、原稿読込部55で、コンタクトガラス53上に載置された原稿Dの画像情報が光学的に読み取られる。
【0021】
詳しくは、原稿読込部55は、コンタクトガラス53上の原稿Dの画像に対して、照明ランプから発した光を照射しながら走査させる。そして、原稿Dにて反射した光を、ミラー群及びレンズを介して、カラーセンサに結像する。原稿Dのカラー画像情報は、カラーセンサにてRGB(レッド、グリーン、ブルー)の色分解光ごとに読み取られた後に、電気的な画像信号に変換される。さらに、RGBの色分解画像信号をもとにして画像処理部(不図示である。)で色変換処理、色補正処理、空間周波数補正処理等の処理をおこない、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのカラー画像情報を得る。
【0022】
そして、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像情報は、書込み部2に送信される。そして、書込み部2からは、各色の画像情報に基づいたレーザ光(露光光)が、それぞれ、対応するプロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20BKの感光体ドラム21上に向けて発せられる。
【0023】
一方、4つの感光体ドラム21は、それぞれ、図1の時計方向に回転している。そして、まず、感光体ドラム21の表面は、帯電部22との対向位置で、一様に帯電される(帯電工程である。)。こうして、感光体ドラム21上には、帯電電位が形成される。その後、帯電された感光体ドラム21表面は、それぞれのレーザ光の照射位置に達する。
書込み部2において、光源から画像信号に対応したレーザ光が各色に対応して射出される。レーザ光は、ポリゴンミラー3に入射して反射した後に、レンズ4、5を透過する。レンズ4、5を透過した後のレーザ光は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの色成分ごとに別の光路を通過することになる(露光工程である。)。
【0024】
イエロー成分に対応したレーザ光は、ミラー6〜8で反射された後に、紙面左側から1番目のプロセスカートリッジ20Yの感光体ドラム21表面に照射される。このとき、イエロー成分のレーザ光は、高速回転するポリゴンミラー3により、感光体ドラム21の回転軸方向(主走査方向)に走査される。こうして、帯電部22にて帯電された後の感光体ドラム21上には、イエロー成分に対応した静電潜像が形成される。
【0025】
同様に、マゼンタ成分に対応したレーザ光は、ミラー9〜11で反射された後に、紙面左から2番目のプロセスカートリッジ20Mの感光体ドラム21表面に照射されて、マゼンタ成分に対応した静電潜像が形成される。シアン成分のレーザ光は、ミラー12〜14で反射された後に、紙面左から3番目のプロセスカートリッジ20Cの感光体ドラム212表面に照射されて、シアン成分の静電潜像が形成される。ブラック成分のレーザ光は、ミラー15で反射された後に、紙面左から4番目のプロセスカートリッジ20BKの感光体ドラム21表面に照射されて、ブラック成分の静電潜像が形成される。
【0026】
その後、各色の静電潜像が形成された感光体ドラム21表面は、それぞれ、現像装置23Y、23M、23C、23BKとの対向位置に達する。そして、各現像装置23Y、23M、23C、23BKから感光体ドラム21上に各色のトナーが供給されて、感光体ドラム21上の潜像が現像される(現像工程である。)。
その後、現像工程後の感光体ドラム21表面は、それぞれ、複数のローラ部材28A〜28C、85に張架・支持された転写定着ベルト27との対向位置に達する。ここで、それぞれの対向位置には、転写定着ベルト27の内周面に当接するように転写バイアスローラ24が設置されている。そして、転写バイアスローラ24の位置で、転写定着ベルト27上に、感光体ドラム21上に形成された各色の画像(トナー像)が、順次重ねて転写される(第1転写工程である。)。
【0027】
そして、第1転写工程後の感光体ドラム21表面は、それぞれ、クリーニング装置25との対向位置に達する。そして、クリーニング装置25で、感光体ドラム21上に残存する未転写トナーが回収される(クリーニング工程である。)。
その後、感光体ドラム21表面は、不図示の除電部を通過して、感光体ドラム21における一連の作像プロセスが終了する。
【0028】
他方、感光体ドラム21上の各色のトナー像が重ねて転写・担持された転写定着ベルト27の表面は、図中の矢印方向に走行して、加圧ローラ68(加圧部材)との当接位置(ニップ部である。)に達する。ここで、本実施の形態1における転写定着装置66には、転写定着ベルト27上に担持されたトナー像を加熱するとともに転写定着工程直前の記録媒体Pを加熱する加熱手段としてのカーボンヒータ70及び反射板71(加熱装置)が設置されている。
転写定着ベルト27に担持されたトナー像は、カーボンヒータ70(熱源)によって輻射加熱された後に、転写定着ベルト27と加圧ローラ68とのニップ部にて、記録媒体Pの転写定着面(おもて面)に転写されるとともに定着される(転写定着工程である。)。詳しくは、記録媒体Pの転写定着面は、ニップ部の直前で、カーボンヒータ70によって加熱された反射板71(反射部材)から熱が伝えられて加熱される。そして、ニップ部にて、転写定着面の熱と、カーボンヒータ70によって予備的に加熱された転写定着ベルト27(トナー像)の熱と、によってトナー像が加熱・溶融されるとともに、ニップ部の圧力によってトナー像が転写定着面に定着される。なお、転写定着装置66の構成・動作については、後で図2を用いてさらに詳しく説明する。
その後、転写定着ベルト27表面は、ベルトクリーニング部29の位置に達する。そして、転写定着ベルト27上の残トナー等の付着物がベルトクリーニング装置29に回収されて、転写定着ベルト27上の一連の転写定着プロセスが完了する。
【0029】
なお、転写定着ベルト27に対向する位置であって、最下流にあるイエロー用の感光体ドラム21の下流側の位置であってニップ部の上流側の位置に、トナー検知センサや、転写定着ベルト27に対して接離自在に構成されたクリーニング機構を設置することもできる。そして、上述した作像プロセスを経て転写定着ベルト27上に形成した画像調整用のパターン画像をトナー検知センサで検知して、その検知結果に基いて各色の濃度補正や色ずれ補正等をおこなうことができる。その場合、転写定着ベルト27上に形成した画像調整用のパターン画像は、加圧ローラ68とのニップ部に達する前に、クリーニング機構によって除去されることになる。
【0030】
ここで、転写定着装置66のニップ部に搬送される記録媒体Pは、給紙部61から搬送ガイド63、レジストローラ64、加熱装置70、71(加熱手段)、等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、記録媒体Pを収納する給紙部61から、給紙ローラ62により給送された転写紙Pが、搬送ガイド63を通過した後に、レジストローラ64に導かれる。レジストローラ64に達した記録媒体Pは、転写定着ベルト27上のトナー像とタイミングを合わせて、転写定着ベルト27と加圧ローラ68とのニップ部に向けて搬送される。このとき、ニップ部に向けて搬送される記録媒体Pは反射部材としての反射板71(図2を参照できる。)に案内されるとともに、ブラシ状ローラ91によって反射板71に向けて付勢されながら、記録媒体Pの転写定着面のみが反射板71によって加熱される。
その後、フルカラー画像が転写・定着された記録媒体Pは、排紙搬送経路を通過して、排紙ローラ80によって装置本体1外に出力画像として排出されて、一連の画像形成プロセスが完了する。なお、本実施の形態1における画像形成装置は、記録媒体Pの搬送速度(又は、プロセス線速)が、300mm/秒程度に設定されている。
【0031】
なお、本実施の形態1において用いられるトナーは、低温定着に適したものであることが好ましい。具体的に、トナーの軟化点(1/2流出温度)は100℃程度であることが好ましい。
トナー結着樹脂としては、以下の組成のものを使用することができる。
例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリp−クロロスチレン、ポリビニルトルエン等のスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン−p−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、 スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレンーイソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体等のスチレン系共重合体が挙げられる。
また、以下の樹脂を混合して使用することもできる。ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、塩素化パラフィン、パラフィンワックス等が挙げられる。この中で特に、ポリエステル樹脂を含有しているものは充分な定着性を得るために、好ましい。特に結晶性ポリエステル樹脂は、紙接触時に充分に軟化溶融し、定着強度とともに色再現性の高い画像形成が可能となる。ポリエステル樹脂は、アルコールとカルボン酸との縮重合によって得られるが、用いられるアルコールとはポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール等のジオール類、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリエキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールA等のエーテル化ビスフェノル類、これらを炭素数3〜22の飽和もしくは不飽和の炭化水素基で置換した2価のアルコール単体、その他の2価のアルコール単体を挙げることができる。
また、ポリエステル樹脂を得るために用いられるカルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマール酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、マロン酸、これらを炭素数3〜22の飽和もしくは不飽和の炭化水素基で置換した2価の有機酸単量体、これらの酸無水物、低級アルキルエステルとリノレイン酸の2量体、その他の2価の有機酸単量体を挙げることができる。
バインダー樹脂として用いるポリエステル樹脂を得るためには、以上の2官能性単量体のみによる重合体のみでなく、3官能以上の多官能性単量体による成分を含有する重合体を用いることも好適である。かかる多官能性単量体である3価以上の多価アルコール単量体としては、例えばソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−サルビタン、ペンタエスリトール、ジペンタエスリトール、トリペンタエスリトール、蔗糖、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1.3.5−トリヒドロキシメチルベンゼン、その他を挙げることができる。
また3価以上の多価カルボン酸単量体としては、例えば1,2,4−ペンゼントリカルボン酸、1,2,5−ペンゼントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、エンボール3量体酸、これらの酸無水物、その他を挙げることができる。
【0032】
また、本実施の形態1に用いるトナーには、転写定着工程時の転写定着ベルト27表面でのトナーの離型性を向上する目的で、離型剤を含有させることができる。離型剤として、公知のものをすべて使用できるが、特に脱遊離脂肪酸型カルナウバワックス、モンタンワックス及び酸化ライスワックス、エステルワックスを単独又は組み合わせて使用することができる。カルナウバワックスとしては、微結晶のものが良く、酸価が5以下であり、トナーバインダー中に分散したときの粒子径が1μm以下の粒径であるものが好ましい。モンタンワックスについては、一般に鉱物より精製されたモンタン系ワックスを指し、カルナウバワックス同様、微結晶であり、酸価が5〜14であることが好ましい。酸化ライスワックスは、米ぬかワックスを空気酸化したものであり、その酸価は10〜30が好ましい。各ワックスの酸価が各々の範囲未満であった場合、低温定着温度が上昇し低温定着化が不充分となる。逆に酸価が各々の範囲を超えた場合、コールドオフセット温度が上昇し低温定着化が不充分となる。ワックスの添加量としてはバインダー樹脂100重量部に対して1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部の範囲で用いられる。1重量部未満では、その離型効果が薄く所望の効果が得られにくい。また、15重量部を超えた場合はキャリアへのスペントが顕著になる等の問題が生じる。
また、外添加剤として、トナーの流動性を向上させる目的で、シリカ、酸化チタン、アルミナ等、さらに必要に応じて脂肪酸金属塩類やポリフッ化ビニリデン等を添加しても良い。
特に、転写定着装置66は、トナーを充分に加熱することが可能であるため、サブミクロンの大粒径シリカ等の添加剤を比較的多量に用いても定着性や定着温度に影響を与えないため、流動性・転写性を考慮した外添処方が可能である。
【0033】
次に、図2を参照しながら、本実施の形態1において特徴的な転写定着装置66について詳述する。
図2に示すように、転写定着装置66は、転写定着部材としての転写定着ベルト27、加熱手段としての加熱装置70、71、加圧部材としての加圧ローラ68、付勢部材としてのブラシ状ローラ91、均しローラ85、等で構成される。
【0034】
ここで、転写定着部材としての転写定着ベルト27は、内周面側に形成された基材層上に、弾性層、表面層(離型層)が順次形成された多層構造のエンドレスベルトである。本実施の形態1では、基材層として層厚が80μm程度のポリイミド樹脂が用いられ、弾性層として層厚が200μm程度のシリコーンゴムが用いられ、表面層として層厚が10μm程度のフッ素樹脂(又はフッ素ゴム)が用いられている。弾性層は記録媒体Pの表面の凹凸に追従するために必要であり、表面層はトナーに対する離型性を担保するために必要である。また、本実施の形態1における転写定着ベルト27は、幅方向(図2の紙面垂直方向である。)の長さが300mm程度に、周長(走行方向の長さである。)が1150mm程度に設定されている。
【0035】
また、加圧部材としての加圧ローラ68は、アルミニウム等からなる円筒状の芯金上に表面層(離型層)が形成されたものであって、図2の時計方向に回転する。加圧ローラ68は、不図示の加圧機構によって、転写定着ベルト27を介してローラ部材28Aに圧接する。こうして、加圧ローラ68と転写定着ベルト27との間に、所望のニップ部が形成される。
【0036】
加熱手段としての加熱装置70、71は、転写定着装置66におけるニップ部の入口側の近傍に配設されている。そして、加熱装置70、71によって、ニップ部に向けて搬送される記録媒体Pの転写定着面が加熱されるとともに、転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tが加熱されることになる。
詳しくは、加熱装置(加熱手段)は、熱源としてのカーボンヒータ70、反射部材としての反射板71、等で構成される。
【0037】
熱源としてのカーボンヒータ70は、ニップ部の上流側の位置で転写定着ベルト27に対向していて、転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tを輻射加熱する。
本実施の形態1では、熱源として輻射加熱効率が高いカーボンヒータ70を用いたが、熱源としてハロゲンヒータ(タングステン線ヒータ)を用いることもできる。ハロゲンヒータとカーボンヒータとの分光放射強度について、ハロゲンヒータの最大放射強度の波長が1〜2μmの範囲であるのに対して、カーボンヒータの最大放射強度は2〜4μmの範囲である。本実施の形態1で用いられている転写定着ベルト27の表面層の赤外線吸収スペクトルは約2800〜3100(cm-1)、つまり波長では約3.2〜3.6(μm)の範囲で赤外線の吸収効率が良い。他にも転写定着ベルトの表面層等で使用される可能性の高い樹脂系材料は、赤外線吸収効率の良い波長範囲が2〜4(μm)の範囲のものが多く、カーボンヒータはハロゲンヒータに比べて樹脂系材料の加熱に適している。また、カーボンヒータは突入電流に対する耐性や速熱性を有することでも優れている。
【0038】
反射部材としての反射板71は、カーボンヒータ70から放射された光(熱)を転写定着ベルト27に向けて反射する。これにより、転写定着ベルト27(トナー像T)に対する昇温効率が高められる。
反射板71は、その内周面(カーボンヒータ70に対向する面である。)が赤外線光に対して反射率が高い鏡面状材料で形成されていることが好ましく、例えば、ステンレス鋼、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム(高輝アルミニウム)等の金属材料や耐熱性樹脂をベース材として、その表面に研磨やコーティングを施して鏡面状に仕上げたものを用いることができる。また、反射板71は、その内周面の形状が放射湾曲状、楕円体状、球体状等に形成されていて、その焦点の位置にカーボンヒータ70を設置することで反射板71の反射効率が高められている。
【0039】
さらに、反射板71(反射部材)は、カーボンヒータ70(熱源)によって加熱されて、ニップ部に向けて搬送される転写定着工程直前の記録媒体Pを案内しながら記録媒体Pの転写定着面に熱を伝える。これにより、記録媒体Pの転写定着面は、ニップ部の直前で140〜200℃程度に加熱されることになる。
詳しくは、反射板71は、その下面がレジストローラ64の近傍からニップ部の近傍にかけて延設されていて、ニップ部に向けて搬送される記録媒体Pを案内する案内板(ガイド板)として機能する。また、反射板71は、ニップ部に向けて搬送される記録媒体Pの転写定着面(おもて面)に接触して、カーボンヒータ70で発生した熱を記録媒体P(転写定着面)に伝熱する伝熱板としても機能する。したがって、反射板71の材料としては、熱伝導率が高く、同体積における熱容量が低い材料が好適である。
【0040】
このように、本実施の形態1では、転写定着ベルト27上に担持されたトナー像Tを加熱する加熱手段と、転写定着工程直前の記録媒体Pの転写定着面を加熱する加熱手段と、を別々に設けるのではなく、それらを共用して1つの加熱手段70、71で2つの機能を持たせているために、転写定着装置66の低コスト化と省スペース化とが達成されることになる。また、カーボンヒータ70によって加熱された反射板71の熱が記録媒体Pの加熱に用いられるために、加熱手段の熱利用が有効におこなわれるとともに、反射板71が過昇温する不具合も防止されることになる。
【0041】
また、図2を参照して、本実施の形態1における転写定着装置66には、反射板71に案内される記録媒体Pを反射板71に向けて付勢する付勢部材としてのブラシ状ローラ91が設置されている。
ブラシ状ローラ91(付勢部材)は、芯金上に、ポリイミド繊維が植毛されたブラシ布が螺旋状に巻回されたローラ部材であって、図2の時計方向に回転する。そして、レジストローラ64の位置を通過した記録媒体Pは、ニップ部の直前で、ブラシ状ローラ91に付勢されて反射板71に押し当てられながら、反射板71によって加熱された後に、ニップ部に送入されることになる。
ここで、付勢部材としてブラシ状ローラ91は、反射板71に案内される記録媒体Pに複数個所で点接触又は線接触することになる。記録媒体Pとの接触面積を極力小さくして記録媒体Pを反射板71に押圧することで、ブラシ状ローラ91の側に熱が移動して記録媒体Pの加熱効率が低下する不具合を抑止することができるとともに、記録媒体Pの搬送性が低下する不具合を抑止することができる。
【0042】
以上説明したように、反射板71(加熱装置)は、転写定着工程直前の記録媒体Pの転写定着面(おもて面)のみを加熱することになる。換言すると、反射板71(加熱装置)は、記録媒体Pの裏面(転写定着面に対する裏面である。)が昇温する前に(おもて面から裏面に熱が伝達される前に)記録媒体Pがニップ部に搬送されるように転写定着面を加熱する。
本実施の形態1では、反射板71の下面(記録媒体Pに対向する面である。)の先端をできる限りニップ部に近づけるとともに、その搬送方向の長さをできる限り長く設定しているために、転写定着工程前の記録媒体Pの加熱効率を向上させることができる。
すなわち、本実施の形態1における構成によれば、低温定着が可能であって、装置のウォームアップ時間を短縮できて、省エネルギ化を向上させることができる。また、転写定着ベルト27への熱移動を抑制できるので、転写定着ベルト27の耐久性を向上させることができる。さらに、転写定着ベルト27の加熱温度が低減されるために、転写定着ベルト27の熱劣化を抑制できる。
【0043】
また、本実施の形態1における転写定着装置66は、反射板71によってニップ部に案内される記録媒体Pを、ブラシ状ローラ91(付勢部材)によって反射板71に押し付ける(付勢する)ように構成されている。このように構成することにより、反射板71に対する記録媒体Pの密着力と密着時間が向上するために、反射板71によって記録媒体Pの表面を確実に目標温度まで温度上昇させて、定着不良を抑制することが可能となる。
なお、本実施の形態1における反射板71は、記録媒体Pを案内する案内面(記録媒体Pに接触する面である。)に、フッ素樹脂粒子を含有するニッケルメッキ等のコーティングを施すことができる。これにより、案内板として機能する反射板71の、すべり性、耐摩耗性、離型性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施の形態1において、反射板71は、カーボンヒータ70に対向する対向面の一部又は全部に赤外線の吸収を高める加工が施されている。具体的に、反射板71の内周面に、SK2等の赤外線吸収塗料が塗布されている。これにより、カーボンヒータ70によって加熱される反射板71の加熱効率が高まり、反射板71から記録媒体Pの転写定着面に与える熱量を大きくすることができる。
【0045】
このように、本実施の形態1における転写定着装置66は、転写定着ベルト27の加熱を最小限に抑えて、トナーの加熱・溶融に必要な熱量を、ニップ部に搬送される直前に記録媒体Pを効率的に加熱することで補足するものである。しかし、その場合に、加熱された記録媒体Pから転写定着ベルト27が多量かつ不均一な分布の熱を受けて、転写定着ベルト27の幅方向(記録媒体の搬送方向に直交する方向である。)に温度ムラが生じて、定着ムラやオフセット等の定着不良画像が発生しやすくなってしまう。
これに対して、本実施の形態1では、図2に示すように、ニップ部を通過した後の転写定着ベルト27の表面の幅方向の温度分布を均一化するとともに、転写定着工程後の転写定着ベルト27を冷却する冷却手段としての均しローラ85を設置している。
均しローラ85は、ニップ部に対して転写定着ベルト27の走行方向下流側に配設されたローラ部材であって、3つのローラ部材28A〜28Cとともに転写定着ベルト27を張架・支持する。冷却手段としての均しローラ85は、ヒートパイプであって、その内部で熱を効率的に対流させることで、転写定着ベルト27を冷却するとともに転写定着ベルト27表面の幅方向の温度分布を均一化する。これにより、転写定着ベルト27の加熱を最小限に抑えてニップ部に搬送される直前の記録媒体Pを加熱装置67によって加熱する場合であっても、定着ムラやオフセット等の定着不良が発生するのを抑止することができる。
【0046】
ここで、本実施の形態1における加熱装置70、71は、記録媒体Pの転写定着面の温度が転写定着ベルト27(又は、転写定着ベルト27に担持されたトナー像T)の表面温度よりも高くなるように、記録媒体P及び転写定着ベルト27を加熱することが好ましい。このような場合、転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tは、ニップ部にて、主として記録媒体Pから受ける熱により加熱・溶融されることになる。
このような加熱状態のバランスを容易に達成するためには、図3に示すように、反射板71を加熱する第2の熱源をカーボンヒータ70(熱源)とは別に設けることが好ましい。具体的に、図3(A)では、反射板71の内部に第2の電源としてのハロゲンヒータ72を設置して、反射板71の加熱効率をさらに高めるとともに反射板71の温度制御を容易化している。また、図3(B)では、反射板71に第2の電源としてのセラミックヒータ73(面状発熱体)を設置して、反射板71の加熱効率をさらに高めるとともに反射板71の温度制御を容易化している。なお、第2の電源としては、上述したものの他に、PTC特性を有する発熱体を用いることもできる。PTC特性を有する発熱体は、所定のキューリー点となると抵抗が急激に上昇しる抵抗発熱体であるため、その自己温度制御機能によって反射板71が異常昇温してしまう不具合を抑止することができる。
このように第2の電源を設ける場合には、記録媒体Pの転写定着面を加熱していて、出力画像上にて充分な光沢を得るための温度を独立して設定できるので、カーボンヒータ70によって加熱される転写定着ベルト27の温度(定着設定温度)を低くできるとともに、反射板71の温度制御をおこないやすい。また、記録媒体Pは転写定着工程の直前に加熱されるので、過剰に加熱されずに、トナーTと記録媒体Pとの密着性も必要以上に高められることはない。
【0047】
また、本実施の形態1において、加熱装置70、71によって、記録媒体P(転写定着面)の温度が転写定着ベルト27の表面温度よりも高くなるように加熱することで、それぞれのトナーとの界面の粘弾性の違いでホットオフセットを防止することができる。すなわち、トナー層において、記録媒体P側の温度を高く、転写定着ベルト27側の温度を低くすることで、転写定着ベルト27とトナーとの付着力よりも、記録媒体Pとトナーとの付着力を高くして、転写定着ベルト27に対するトナーの離型性を上げることで、転写定着ベルト27へのオフセットが生じない良好な画像が得られる。さらに、耐ホットオフセット性が向上することによって、離型性をあげるためにトナー中に添加するワックスの量を減量することができる(又は、なくすことができる)ため、色再現性、現像性、帯電性の向上が見込まれる。また、転写定着ベルト27の温度を低く設定することで、転写定着ベルト27の冷却が容易になるとともに、転写定着ベルト27に接触している感光体ドラム21等の熱的劣化等の不具合を低減することができる。
【0048】
具体的に、オフセットを生じさせないためには、加熱装置70、71によって加熱されるニップ部直前のトナー像(転写定着ベルト27に担持されたトナー像である。)の表面温度をTtとして、加熱装置70、71によって加熱されるニップ部直前の記録媒体P(転写定着面)の表面温度をTpとして、加圧ローラ68の温度をTbとして、トナーの流出開始温度をTfbとして、トナーの軟化点温度をTsとしたときに、
(Tt+Tp)/2>Tfb …(1)
Tt<Tfb …(2)
(好ましくはTt<Tfb−20℃、さらに好ましくはTt<Tfb−30℃)
Tb<Ts …(3)
なる3つの条件式を成立させることが好ましい。
ここで、トナーの軟化温度、流出開始温度は、「高化式フローテスターCFT500D型」(島津製作所社製)を用いて測定することができる。フローテスターとは溶融物(トナー)が細管を通過するときの粘性抵抗を測定する細管式レオメーターである。測定方法は、まず、シリンダーに充填された試料(トナー)を、周囲から熱して溶融させ、上部からピストンによって一定の圧力を加える。その後、溶融したトナーは細い穴を持ったダイを通して押し出され、フローレートから試料の流動性(溶融粘度)が求められる。なお、測定条件は、荷重:5kgf/cm2、昇温速度:3.0℃/min、ダイ口径:1.00mm、ダイ長さ:10.0mmである。
【0049】
図4は、上記の3つの条件式の根拠となる実験結果を示すグラフである。
実験は、加熱装置によって加熱されるニップ部直前のトナー像(転写定着ベルト27)の表面温度をTt(図4の横軸に対応する。)と、加熱装置によって加熱されるニップ部直前の記録媒体Pの表面温度をTp(図4の縦軸に対応する。)と、を可変して、出力された定着画像の定着性(オフセットの有無)を観察したものである。また、図4(A)は流出開始温度Tfbが90℃のトナーを用いたときの実験結果であって、図4(B)は流出開始温度Tfbが110℃のトナーを用いたときの実験結果である。また、実験では、通紙する記録媒体Pとしてコート紙「カサブランカX」(王子製紙社製、坪量100g/m2)を用い、ニップ部におけるニップ時間を50msに、ニップ部における面圧を2kgf/cm2に設定した。また、図4において、「○」は定着性が良好な状態であって、「◇」は極微小なホットオフセットが発生した状態であって、「△」は微小なホットオフセットが発生した状態であって、「×」は許容できないレベルのホットオフセットが発生した状態であって、「□」はコールドオフセットが発生した状態である。なお、図4中の、破線で示す傾斜線は良好な定着性を確保することができる定着下限温度を示し、この破線より上方の範囲が良好な定着性を確保できる範囲である。
図4(A)及び図4(B)から、定着下限温度以上で、トナーの流出開始温度Tfbよりもニップ部直前のトナー像の温度Ttが高い場合(Tfb<Tt)には、ホットオフセットが発生して良好な画像が得られないことがわかる。そこで、上記の条件式(1)、(2)を満足するように、加熱装置を構成して適正な温度制御をおこなうことにより、オフセットのほとんどない良好な画像を得ることができる。なお、図4(A)及び図4(B)から、(Tfb−Tt≧20℃)なる条件が成立したときにはホットオフセットの量がさらに減り、(Tfb−Tt≧30℃)なる条件が成立したときにはホットオフセットがほぼ完全になくなることがわかる。
また、上記の条件式(3)は、転写定着ベルト27とのニップ部を形成している加圧ローラ68の温度をトナー軟化点温度以下に規定するものであって、これにより両面プリント時の表裏面(第1面と第2面とである。)の画像光沢差を軽減することができる。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態1によれば、転写定着ベルト27(転写定着部材)と加圧ローラ68(加圧部材)とのニップ部に搬送される記録媒体Pの転写定着面を加熱するとともに転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tを加熱する加熱装置70、71(加熱手段)を設けているために、消費エネルギが低く、加熱装置70、71の熱利用が有効におこなわれるとともに、転写定着装置66(画像形成装置1)の低コスト化と省スペース化とが達成され、定着性が良好で高画質な画像を形成することができる。
【0051】
なお、本実施の形態1では、記録媒体Pを反射板71の側に付勢する付勢部材としてブラシ状ローラ91を用いたが、付勢部材としてバネ材を用いることもできるし、付勢部材としてブラシ部材を備えた板状部材を用いることもできる。
また、本実施の形態1では、転写定着工程後の転写定着ベルト27を冷却する冷却手段として均しローラ85を用いたが、冷却手段として転写定着ベルトの表面に対向する冷却ファンを用いることもできる。
また、本実施の形態1では、転写定着部材として転写定着ベルト27を用いたが、転写定着部材として転写定着ローラ(例えば、特許文献3等を参照できる。)を用いることもできる。
【0052】
実施の形態2.
図5にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図5は、実施の形態2における転写定着装置の近傍を示す拡大図であって、前記実施の形態1における図2に相当する図である。本実施の形態2における転写定着装置は、各色の感光体ドラム21上に形成されたトナー像が中間転写ベルト95に1次転写された後に転写定着ベルト27に2次転写されて記録媒体Pに3次転写される点が、各色の感光体ドラム21上に形成されたトナー像が転写定着ベルト27に1次転写されて記録媒体Pに2次転写される前記実施の形態1のものと相違する。
【0053】
本実施の形態2における画像形成装置は、各色の感光体ドラム(図示は省略するが、中間転写ベルト95に対向するように並設されている。)に形成されたトナー像が中間転写ベルト95に重ねて1次転写された後に、中間転写ベルト95と転写定着ベルト27との間で、そのトナー像が転写定着ベルト27に2次転写される。さらに、転写定着ベルト27に転写されたトナー像Tが、加圧ローラ68とのニップ部の位置で、記録媒体Pに3次転写されるとともに定着される(転写定着される。)。
ここで、本実施の形態2においても、転写定着ベルト27と加圧ローラ68とのニップ部の近傍に、転写定着工程直前の記録媒体Pを加熱するとともに、転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tを加熱する加熱装置70、71(加熱手段)が設置されている。また、転写定着工程直前の記録媒体Pを反射板71(反射部材)に向けて付勢するブラシ状ローラ91(付勢部材)が設置されている。
【0054】
以上説明したように、本実施の形態2においても、前記実施の形態1と同様に、転写定着ベルト27(転写定着部材)と加圧ローラ68(加圧部材)とのニップ部に搬送される記録媒体Pの転写定着面を加熱するとともに転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tを加熱する加熱装置70、71(加熱手段)を設けているために、消費エネルギが低く、加熱装置70、71の熱利用が有効におこなわれるとともに、転写定着装置66(画像形成装置1)の低コスト化と省スペース化とが達成され、定着性が良好で高画質な画像を形成することができる。
【0055】
実施の形態3.
図6にて、この発明の実施の形態3について詳細に説明する。
図6は、実施の形態3における画像形成装置の一部を示す構成図である。本実施の形態3における画像形成装置は、1つの感光体ドラム21が設置されている点が、4つの感光体ドラム21が設置されている前記実施の形態1のものと相違する。
【0056】
図6に示すように、本実施の形態3における画像形成装置は、1つの感光体ドラム21の周囲に、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した書込み部(不図示である。)、帯電部(不図示である。)、現像装置23Y、23M、23C、23BKや、クリーニング装置25、等が配設されている。そして、感光体ドラム21上で各色の画像(トナー像)が重ねて形成されて、そのカラー画像が転写バイアスローラ24との対向位置で転写定着ベルト27上に転写される。
その後、転写定着ベルト27上に担持されたトナー像Tは、加圧ローラ68とのニップ部の位置で、前記各実施の形態と同様に、加熱装置67によって加熱された記録媒体P上に転写・定着される。
【0057】
そして、本実施の形態3における転写定着装置66も、前記各実施の形態のものと同様に、転写定着ベルト27と加圧ローラ68とのニップ部の近傍に、転写定着工程直前の記録媒体Pを加熱するとともに、転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tを加熱する加熱装置70、71(加熱手段)が設置されている。また、転写定着工程直前の記録媒体Pを反射板71(反射部材)に向けて付勢するブラシ状ローラ91(付勢部材)が設置されている。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態3においても、前記各実施の形態と同様に、転写定着ベルト27(転写定着部材)と加圧ローラ68(加圧部材)とのニップ部に搬送される記録媒体Pの転写定着面を加熱するとともに転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tを加熱する加熱装置70、71(加熱手段)を設けているために、消費エネルギが低く、加熱装置70、71の熱利用が有効におこなわれるとともに、転写定着装置66(画像形成装置1)の低コスト化と省スペース化とが達成され、定着性が良好で高画質な画像を形成することができる。
【0059】
なお、本発明が前記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、前記各実施の形態の中で示唆した以外にも、前記各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は前記各実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 画像形成装置本体(装置本体)、
27 転写定着ベルト(転写定着部材)、
66 転写定着装置、
68 加圧ローラ(加圧部材)、
70 カーボンヒータ(熱源)、
71 反射板(反射部材)、
72 ハロゲンヒータ(第2の熱源)、
73 セラミックヒータ(第2の熱源)、
91 ブラシ状ローラ(付勢部材)、
95 中間転写ベルト、 P 記録媒体。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0061】
【特許文献1】特開2005−37879号公報
【特許文献2】特開2002−99159号公報
【特許文献3】特開2004−145260号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の転写定着面にトナー像を転写するとともに定着する転写定着装置であって、
トナー像を担持するとともに、所定方向に走行する転写定着部材と、
前記転写定着部材に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する加圧部材と、
前記ニップ部に向けて搬送される記録媒体の前記転写定着面を加熱するとともに、前記転写定着部材に担持されたトナー像を加熱する加熱手段と、
を備えたことを特徴とする転写定着装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、
前記転写定着部材に対向して当該転写定着部材に担持されたトナー像を輻射加熱する熱源と、
前記熱源から放射された光を前記転写定着部材に向けて反射する反射部材と、
を具備し、
前記反射部材は、前記熱源によって加熱されるとともに、前記ニップ部に向けて搬送される記録媒体を案内しながら当該記録媒体の前記転写定着面に熱を伝えるように構成され、
前記反射部材に案内される記録媒体を当該反射部材に向けて付勢する付勢部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の転写定着装置。
【請求項3】
前記熱源は、カーボンヒータであることを特徴とする請求項2に記載の転写定着装置。
【請求項4】
前記反射部材は、前記熱源に対向する対向面の一部又は全部に赤外線の吸収を高める加工が施されたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の転写定着装置。
【請求項5】
前記反射部材を加熱する第2の熱源を前記熱源とは別に設けたことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の転写定着装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の転写定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−204503(P2010−204503A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51475(P2009−51475)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】