説明

転炉耐火物補修材および転炉耐火物補修方法

【課題】 転炉耐火物に対する付着性に優れ、補修性能を向上することができる転炉耐火物補修材を用いる転炉耐火物補修方法を提供する。
【解決手段】 吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉1内にスラグを残留させ、残留させたスラグ4にMgOを含むスラグ調整剤5を添加し、スラグ4にスラグ調整剤5を添加して得られる転炉耐火物補修材6が、重量%で、MgO:10〜30%、CaO:10〜30%、Cr:5〜60%を含有する組成になるように調整し、この転炉耐火物補修材6を転炉耐火物3の損傷部位7で静置し固化させることによって、転炉耐火物3を補修する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉耐火物補修材および転炉耐火物補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程のうちの一工程である精錬において転炉が汎用されている。転炉は、鋼などから成る殻体の内壁にレンガなどの耐火物を内張りして構成される。転炉は、その内部に高温の溶鋼を収容し、さらに酸素ガスなどが溶鋼中へ吹き込まれて吹錬されるので、厳しい熱負荷を繰返し受けることになる。したがって、転炉で溶鋼が精錬される回数(いわゆるチャージ数)が増すのに伴って耐火物が損耗し、耐火物の厚みが薄くなるという現象がある。
【0003】
耐火物の厚みが薄くなると、殻体に対して伝導する熱量が大きくなり、殻体が熱損傷を受けるおそれがあるので、通常内張り耐火物の損傷を受けて薄くなった部位の補修が行われる。耐火物の補修方法としては、従来、不定形耐火物を吹付ガンによって吹付ける熱間吹付補修法、またはピッチ含有不定形耐火物を損傷部位に投入し、転炉の保有熱等で焼付ける焼付補修法などが行われているけれども、これらは接着強度が低く残存寿命が短い、気孔率が高くて耐用性が低いなどの問題があり、また不定形耐火物が比較的高いのでコスト増になるという問題がある。
【0004】
このような問題に対して、溶鋼を出鋼した後、転炉内にスラグを残留し、残留させたスラグを転炉内壁の補修部分にコーティングして補修する方法が提案されている。しかしながら、この方法においても、転炉内の所望の位置に、所望の厚さでスラグを付着させることが難しいという問題がある。この問題に対して、転炉内の所望の位置にスラグを付着させる方法として、転炉内に残留された溶融スラグに対して、転炉上方からランスを介して高圧ガスを噴射する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に開示される方法では、出鋼後の転炉内に残留させた溶融スラグに、乾燥ドロマイト、軽焼ドロマイトまたは生石灰などのMgOまたはCaOを含有する調整剤を投入後、ランスから噴射する高圧ガスの圧力/流量を調整することによって、前記溶融スラグに与える吹付け/吹上げのエネルギを制御し、転炉内の所望の位置に前記溶融スラグをコーティングするというものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるCaOを主成分とし、MgOで調整したスラグは、空気中の水分と反応して消化現象が発生し、その結果安定した耐用性のある補修ができないという問題がある。すなわち、転炉耐火物の補修に際して用いられる補修材の組成が、その耐用性向上に極めて重要であるにも関らず、従来技術では明確にされていない。
【0007】
【特許文献1】特開平5−331518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、転炉耐火物に対する付着性に優れ、補修性能を向上することができる転炉耐火物補修材および該補修材を用いる転炉耐火物補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉内に残留するスラグにMgOを含むスラグ調整剤を添加することによって得られる転炉耐火物補修材であって、
重量%で、
MgO:10〜30%
CaO:10〜30%
Cr:5〜60%
を含有することを特徴とする転炉耐火物補修材である。
【0010】
また本発明は、吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉の内張り耐火物を補修する転炉耐火物補修方法において、
吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉内にスラグを残留させるステップと、
残留されるスラグにMgOを含むスラグ調整剤を添加し、スラグにスラグ調整剤を添加することによって得られる転炉耐火物補修材が、重量%で、MgO:10〜30%、CaO:10〜30%、Cr:5〜60%を含有する組成になるように調整するステップと、
組成調整された転炉耐火物補修材を転炉耐火物の損傷部位で静置し固化させるステップとを含むことを特徴とする転炉耐火物補修方法である。
【0011】
また本発明は、吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉内に残留されるスラグであって、MgOを含むスラグ調整剤が添加される前のスラグの塩基度(CaO/SiO)が、1〜2であることを特徴とする。
また本発明は、転炉で吹錬される溶鋼が、ステンレス鋼であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶鋼出鋼後のスラグに、MgOを含有するスラグ調整剤、たとえばMgOを含むれんが屑などを添加して所望の組成を有する補修材とすることによって、転炉内壁の耐火物に対する付着性に優れ、かつ耐用に優れる転炉耐火物補修材を得ることができ、この補修材を用いて補修することによって転炉炉体寿命を延長し、耐火物コストを削減することができる。
【0013】
また本発明によれば、吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉内に残留されるスラグの塩基度を好適な範囲とすることによって、転炉耐火物補修後の転炉炉体の耐用を向上することができる。
【0014】
また本発明によれば、転炉で吹錬される溶鋼をステンレス鋼とすることによって、転炉耐火物補修材の必須成分であるCrを、特別材料を添加することなく含有させることができるので、補修コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の転炉耐火物補修方法の概要を説明する図である。本発明の転炉耐火物補修方法は、吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉1の殻体2の内壁に内張りされた耐火物3の損傷部位7を補修するものである。
【0016】
転炉耐火物補修方法では、まず転炉1中で吹錬された溶鋼を出鋼した後、転炉内にスラグ4を残留させる。本実施の態様では、溶鋼はステンレス鋼であることが好ましい。ステンレス鋼を吹錬対象材とすることによって、後述する転炉耐火物補修材6の必須成分であるCrを、吹錬を通じてスラグ中へ供給することができるからである。
【0017】
また、転炉1内に残留されるスラグ4は、吹錬を通じてその塩基度(CaO/SiO)が、1.0〜2.0の範囲内に調整される。塩基度の高いスラグ4が転炉1内に残留すると、そのスラグ4が耐火物3の表面に付着し、耐火物3を保護するため、転炉炉体の耐用寿命が長くなる。しかしながら、スラグ4の塩基度が2.0を超えるような転炉の操業では、吹錬中に飛散する溶鋼のスプラッシュが、転炉1の開口部およびフードまわりに付着しやすくなる。そのため飛散する溶鋼のスプラッシュが転炉1の開口部を閉塞する場合があり、転炉の操業が阻害される。
【0018】
また、耐火物3の表面に付着したスラグ4は、CaOが添加されて、塩基度が2.0を超えると、体積膨張が大きくなって耐火物3から剥離する。このような場合、スラグ4が耐火物3から完全に剥離するまで待機したあと、耐火物3を補修することになり、そのため補修時間が少なくなる。また塩基度が1.0未満となり、含有されるCaO量が低いスラグ4から作成される補修材6は、転炉の操業における熱負荷に対して損耗が大きく、補修材6の残存寿命が短くなる。以上のことから、スラグ4の塩基度は、溶鋼を吹錬する作業性およびスラグ4の含有成分を考慮して設定する必要があり、塩基度を1.0〜2.0の範囲で設定する。
【0019】
次に、転炉1内に残留されるスラグ4にMgOを含むスラグ調整剤5を添加して得られる転炉耐火物補修材6(以後、単に補修材6と略称する)が、重量%で、MgO:10〜30%、CaO:10〜30%、Cr:5〜60%を含有する組成になるように調整する。この組成を有する補修材6は、本発明の一実施形態である。
【0020】
MgOを含むスラグ調整剤5としては、MgOのみが用いられてもよいけれども、たとえばマグネシアれんがの廃材であるれんが屑などが好適に用いられる。マグネシアれんがは、製鋼工程において使用される耐火材料であり、製鋼の操業に伴う使用劣化によって、その廃材は必然的に発生するものである。したがって、マグネシアれんがの廃材をスラグ調整剤5として用いることによって、廃材の有効利用が可能になり、かつスラグ調整剤のコストを安価にすることができる。
【0021】
以下に補修材6の組成範囲限定理由について説明する。
MgO:10〜30%
MgOは、補修材6の流動性を高め、転炉耐火物の補修を必要とする所望の部位に対する付着性を向上し、転炉炉体の耐用寿命を長くすることができる。図2は、MgO含有量が異なる補修材を用いて補修した転炉耐火物の損耗速度とMgO含有量との関係を示す図である。ここで、損耗速度とは、転炉で溶鋼の吹錬を繰返し行った後、転炉内壁の耐火物厚さの減少量を測定し、1チャージ(ch)当たりの厚さ減少量[mm/ch]で表すものである。転炉耐火物の厚さ減少は、たとえば転炉を構築したときの転炉内壁を構成する耐火物のプロフィールをレーザ測定装置などで測定して、パーソナルコンピュータなどの記憶部にストアしておき、吹錬終了後に測定した転炉耐火物のプロフィールとを比較し、その変化量から求めることができる。図2に示すように、MgO含有量が10%未満では、損耗速度の抑制効果が充分に発現されない。また、MgO含有量が10%未満では、補修材6の耐火物3に対する付着性が充分ではない。MgO含有量が30%を超えると、損耗速度の抑制効果が充分に発現されない。
【0022】
CaO:10〜30%
CaOは、MgOと同様に、補修材6の流動性を高め、転炉耐火物の補修を必要とする所望の部位に対する付着性を向上し、転炉炉体の耐用寿命を長くすることができる。図3は、CaO含有量が異なる補修材を用いて補修した転炉耐火物の損耗速度とCaO含有量との関係を示す図である。図3に示すように、CaO含有量が10%未満では、損耗速度の抑制効果が充分に発現されない。また、CaO含有量が10%未満では、補修材6の塩基度が低くなるため、補修材6の残存寿命が短くなる。CaO含有量が30%を超えると、損耗速度の抑制効果が充分に発現されない。
【0023】
Cr:5〜60%
Crは、補修材6の融点を高くして流動性と付着性とを向上するとともに、補修材6の耐熱性を向上することを目的として含有させる。なお、Crは、より好ましくは20〜40%の範囲で含有される。図4は、Cr含有量が異なる補修材を用いて補修した転炉耐火物の損耗速度とCr含有量との関係を示す図である。図4に示すように、5%未満では、損耗速度の抑制効果が充分に発現されない。60%を超えても、特に弊害等は生じないけれども、高価なCrを多量に含有させるにも関らず、より一層の損耗速度の抑制効果が発現される訳でもないので、補修材コストの観点から一応の上限を60%とした。
【0024】
次に、転炉1を所定の状態に傾動させることによって、組成調整された補修材6を転炉耐火物の損傷部位7へ流動させ、該位置で静置し固化させる。このようにして、補修材6を転炉1の損傷部位に強固に付着させ、耐用性に優れた補修を実現することができる。
【実施例】
【0025】
以下本発明の実施例について説明する。本実施例では、日本工業規格(JIS)G4304、G4305などに規定されるステンレス鋼(SUS304)を製鋼するべく、電気炉で約80トンの溶鋼を粗溶製し、転炉での精錬を繰返し実行し、精錬操業の所定のインターバルにおいて補修を行い、転炉炉体寿命を求める試験を行った。
【0026】
(転炉耐火物補修のタイミング)
転炉耐火物補修は、100チャージ(ch)、700ch、1200ch、1600chを終了した各時点において行った。
【0027】
(転炉残留スラグ)
転炉耐火物補修時において、補修材の生成に用いた転炉内の残留スラグの組成を表1に示す。補修材としては、実施例1、実施例2および比較例の3種類を使用した。したがって、残留スラグの組成も、3種類の補修材それぞれに対応して示す。
【0028】
【表1】

【0029】
(補修材の組成)
表1に示す組成の残留スラグ1に、スラグ調整剤としてMgO(純分で746kg)を添加して成分調整し、実施例1の補修材とした。表1に示す組成の残留スラグ2に、スラグ調整剤としてマグネシアれんが屑(MgO純分で984kg)を添加して成分調整し、実施例2の補修材とした。表1に示す組成の残留スラグ3に、スラグ調整剤としてマグネシアれんが屑(MgO純分で806kg)を添加して成分調整し、比較例の補修材とした。実施例1,2および比較例の各補修材の組成を表2に合わせて示す。なお、比較例では、コークス投入または転炉終点温度を高めとして、Crの含有量を本発明範囲外の組成とした。
【0030】
【表2】

【0031】
(転炉炉体寿命の試験結果)
実施例1,2および比較例の補修材を使用して、所定のチャージ終了後に補修を行い、100ch終了ごとに転炉内壁を構成する耐火物の厚さを測定した。転炉耐火物の厚さは、前述したように、転炉耐火物のプロフィールを測定し、初期プロフィールと比較することによって求めた。転炉耐火物は、転炉の操業を行うのに伴って損耗し、初期状態に比較して除除に薄くなるので、測定した転炉耐火物の厚さをれんが残寸と呼ぶことにする。転炉炉体寿命を定める方法は特に限定されるものではないけれども、本実施例では、れんが残寸が200mmになった時点を一応寿命とした。
【0032】
図5は、各補修材を用いた場合のれんが残寸を測定した結果を示す図である。本発明外の組成を有する比較例の補修材を用いた場合、補修をしても約1400chで、れんが残寸が200mmに達し、転炉炉体寿命となった。一方、本発明の組成を有する実施例1,2の補修材を用いた場合、ほぼ1900ch以上で漸くれんが残寸が200mmに達し、比較例に比べて500ch以上の転炉炉体寿命が延長された。なお、実施例2では、実施例1と比較して、残留スラグの塩基度が低いので、転炉炉体寿命の一層の延長が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の転炉耐火物補修方法の概要を説明する図である。
【図2】MgO含有量が異なる補修材を用いて補修した転炉耐火物の損耗速度とMgO含有量との関係を示す図である。
【図3】CaO含有量が異なる補修材を用いて補修した転炉耐火物の損耗速度とCaO含有量との関係を示す図である。
【図4】Cr含有量が異なる補修材を用いて補修した転炉耐火物の損耗速度とCr含有量との関係を示す図である。
【図5】各補修材を用いた場合のれんが残寸を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 転炉
2 殻体
3 耐火物
4 スラグ
5 スラグ調整剤
6 転炉耐火物補修材
7 損傷部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉内に残留するスラグにMgOを含むスラグ調整剤を添加することによって得られる転炉耐火物補修材であって、
重量%で、
MgO:10〜30%
CaO:10〜30%
Cr:5〜60%
を含有することを特徴とする転炉耐火物補修材。
【請求項2】
吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉の内張り耐火物を補修する転炉耐火物補修方法において、
吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉内にスラグを残留させるステップと、
残留されるスラグにMgOを含むスラグ調整剤を添加し、スラグにスラグ調整剤を添加することによって得られる転炉耐火物補修材が、重量%で、MgO:10〜30%、CaO:10〜30%、Cr:5〜60%を含有する組成になるように調整するステップと、
組成調整された転炉耐火物補修材を転炉耐火物の損傷部位で静置し固化させるステップとを含むことを特徴とする転炉耐火物補修方法。
【請求項3】
吹錬された溶鋼を出鋼した後の転炉内に残留されるスラグであって、MgOを含むスラグ調整剤が添加される前のスラグの塩基度(CaO/SiO)が、1.0〜2.0であることを特徴とする請求項2記載の転炉耐火物補修方法。
【請求項4】
転炉で吹錬される溶鋼が、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項2または3記載の転炉耐火物補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−1892(P2009−1892A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166975(P2007−166975)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】