説明

軸シール装置およびターボ機械

【課題】起動時などの非定常状態から定常運転状態に亘って回転部と静止部のあいだでの作動流体の漏れを極めて少量に抑えることのできる軸シール装置およびターボ機械を提供する。
【解決手段】同軸に配置された静止部および回転部のいずれか一方の表面に設けられたアブレイダブル層3と、前記静止部および回転部の他方に設けられ前記アブレイダブル層3の表面に2種類以上のシール間隙ga,gb,gcを介して相対する複数のシールフィン1a,1b,1cとを備えている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部と静止部の間での作動流体の漏れを防ぐ軸シール装置および前記軸シール装置を備えたターボ機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械は蒸気等の作動流体を翼列に作用させて出力を得る回転機械である。回転部と静止部との間をシールして翼列に効率良く作動流体を作用させることにより、その効率を向上させることが可能である。
【0003】
図14はターボ機械の一例として蒸気タービンの構造を示す断面図である。一般にターボ機械はロータ16に複数の動翼17が取り付けられており、ケーシング18には複数の静翼19が取り付けられている。作動流体20は動翼17と静翼19で形成されるタービン段落に作用し、出力をロータ16に伝達している。作動流体20は高温・高圧の流体であることが多く、ロータ16および動翼17とケーシング18および静翼19の間には翼列に作用しない作動流体が漏れて流れる。この漏れ流体は、動力としてロータ16に作用することなく、この漏れ流体が多くなるとターボ機械の効率低下の原因となる。この漏れ流体を極力減らすために、ロータ16および動翼17とケーシング18および静翼19との間には多数の非接触型のラビリンスシール21が設けられている。図14に示したラビリンスシール21はケーシング18と静翼19に取り付けられているが、ロータ16と動翼17側にラビリンスシール21が取り付けられている場合もある。このシール間隙gを減ずることで漏れ流体を減らすことができターボ機械の効率を向上することができる。
【0004】
しかし、シール間隙gを狭めると、起動時などの非定常状態時にケーシング18とロータ16の熱伸び差でシールフィンがロータ16やケーシング18に接触し、振動問題やシールフィンの損傷を発生させる場合がある。この熱伸び差は、ケーシングに比較して一般的にロータの体積が小さく熱容量が小さいため、起動時などの温度上昇時はロータ16がケーシング18より先に軸方向(スラスト軸受23を起点にして軸方向に伸びる。)および半径方向に伸びる性質を有するとともに、半径方向には遠心力による伸びが加わるために発生するものである。接触時に発生する振動問題は、シールフィンとロータ16表面とが接触して発熱し、その熱によりロータ16が局所的に過熱されるためロータ曲がりが発生することによるものである。また、シールフィンは一般的にその先端が鋭角に加工されており、接触によりその部分が摩耗し、組立時の間隙が確保できず効率が低下する。
【0005】
そこで、接触しても発熱やシールフィンの損傷を発生させないアブレイダブル層をシールフィンと対向する箇所に設けるアブレイダブルシールが種々のターボ機械で採用されており、アブレイダブルシールを用いた場合は通常のラビリンスシールに比べてシール間隙gを小さくすることが可能で、高効率なターボ機械が提供されている(特許文献1,2,3)。
【特許文献1】特公昭63−23428号公報
【特許文献2】特開平2−298604号公報
【特許文献3】特開2005−155620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高圧・高温の作動流体が流れるターボ機械では、シール性を向上させるため図15に示すように段付きシール24が使用されているが、このシールに対してもシール間隙gを減ずることで更なる効率向上ができ、アブレイダブルシールの適用が望まれる。
【0007】
図16は段付きシールにアブレイダブル層を適用したときの構成を示したものである。長歯のシールフィン1aおよび短歯のシールフィン1bと相対する位置にアブレイダブル層3a,3bが設けられている。ターボ機械の効率向上を目的にシールフィンとアブレイダブル層との間隙を極力小さくしているため、図16に示すように、遠心力による膨張分と半径方向の熱伸び差によりシールフィン1a,1bがアブレイダブル層3a,3bに侵入する。しかし、発熱やシールフィン1a,1bの摩耗を生じさせずにアブレイダブル層3a,3bが削られるため、敢えてこの状態を許容できることがアブレイダブルシールの特徴である。
【0008】
ところが、起動時などの非定常状態では、ケーシングとロータとの熱伸び差により、図17に示すようにシールフィン1a,1bがアブレイダブル層3a,3bに侵入しアブレイダブル層3a,3bを削りながら軸方向に移動する場合がある。この現象はターボ機械の組み立て後の初起動時や負荷上昇時の非定常状態で発生しやすい。アブレイダブル層は基材上にボンド層を介して合金を疎に溶射して設けるため空間を多く有する部材であり、快削性を有する反面、脆い性質を有する。シールフィンが侵入した状態で軸方向に移動すると、段付きシールの凸部端部近傍にシールフィンが達した時、アブレイダブル層の端部9が図17のように脱落することがある。端部が大きく脱落すると、脱落したアブレイダブル層が他の部分のアブレイダブル層に当り健全なアブレイダブル層に損傷を与えたり、翼に当り翼を損傷させたりして、ターボ機械の信頼性を低下させることになる。
【0009】
図18、図19に軸方向、半径方向の熱伸び差が大きい場合の定常運転状態をそれぞれ示す。図18のように軸方向のみに伸縮した場合、シール間隙は生じず効率は格段に向上するが、実際には図19に示すように半径方向にも伸縮してシール間隙gが生じる。アブレイダブルシールを採用していない場合、定常運転時のシール間隙はタービン組立て直後のシール間隙をプラスした大きさとなる。
【0010】
本発明は、起動時などの非定常状態から定常運転状態に亘って回転部と静止部のあいだでの作動流体の漏れを極めて少ない量に抑えることのできる軸シール装置およびターボ機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明の軸シール装置は、同軸に配置された静止部および回転部のいずれか一方の表面に設けられたアブレイダブル層と、前記静止部および回転部の他方に設けられ前記アブレイダブル層の表面に2種類以上のシール間隙を介して相対する複数のシールフィンとを備えている構成とする。
本発明のターボ機械は、上記軸シール装置を備え、前記静止部としてケーシングまたは静翼を備え、前記回転部としてロータまたは動翼を備えている構成とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、起動時などの非定常状態から定常運転状態に亘って回転部と静止部のあいだでの作動流体の漏れを極めて少ない量に抑えることのできる軸シール装置およびターボ機械を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の軸シール装置およびターボ機械の4つの実施の形態を図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図である。この図はターボ機械組立て直後の状態を示している。すなわち、ターボ機械のケーシング内面、ロータ表面、あるいは静翼の内輪または動翼の先端外周部に、円板または扇状に設けられた長さの異なるシールフィン1a,1b,1cに相対する位置のロータ表面、ケーシング内面、あるいは動翼または静翼の先端に円環状に設けられた基材2上にそれぞれシール間隙ga,gb,gcを介してアブレイダブル層3を設ける。アブレイダブル層3は、1例としてコバルト、ニッケル、クロム、アルミニウム、イットリウム、窒化ホウ素および高分子材料からなる組成物を溶射することによって形成する。
【0014】
上記のようにシール間隙ga,gb,gcを設定することで、アブレイダブルシールの性能をより効果的に発揮できることを以下に説明する。図2は、ターボ機械の起動時などの非定常時にシールフィン1bと相対するアブレイダブル層3との間のシール間隙gbが丁度ゼロになった状態を示している。非定常時には半径方向だけでなく、軸方向へも伸縮するので、最も長いシールフィン1aはアブレイダブル層3を削りながら軸方向へ移動する。この状態から定常状態へ移行した(縮んだ)場合、図3に示すようにシールフィン1aと相対するアブレイダブル層3との間のシール間隙gaよりもシールフィン1bと相対するアブレイダブル層3との間のシール間隙gbが小さくなる場合がある。この場合、シール性能を最も発揮できる場所はこのシール間隙が最小の部分である。このようにシールフィンとシール間隙に設定することで従来のアブレイダブルシールよりもさらにシール性能を向上した軸シール装置が得られる。
【0015】
図4は2種類の長さのシールフィン1a,1bとこれらに相対するアブレイダブル層3との間にシール間隙ga,gbを形成した変形例を示している。この構成でターボ機械を起動した場合、非定常時にはたとえば図5に示すようにアブレイダブル層3が削られ、定常状態へ移行する(縮む)。この場合、図6に示すようにシールフィン1a,1bと相対するアブレイダブル層3の表面との位置関係から、結果的に段付きシールが構成される。段付きシールは段の無いシールよりもシール性能が高い。また本変形例ではシール間隙を最小化することができるので、従来の軸シール装置よりもシール性能を格段に向上した軸シール装置が得られる。
【0016】
(第2の実施の形態)
図7は本発明の第2の実施の形態の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図である。この図はターボ機械組立て直後の状態を示している。すなわち、ターボ機械のケーシング内面、ロータ表面、あるいは静翼または動翼の先端に設けられた長さの異なるシールフィン1a,1bに相対する位置のロータ表面、ケーシング内面、あるいは動翼または静翼の先端に設けられた基材2上にそれぞれシール間隙ga,gbを介してアブレイダブル層3を設ける。長さの長いシールフィン1aに相対する部分に形成するアブレイダブル層3は薄く施工し、長さの短いシールフィン1bに相対する部分に形成するアブレイダブル層3は厚く施工する。
【0017】
本実施の形態の軸シール装置は、図8に示すように定常状態へ移行(縮む)したときには、結果的にシールフィン1a,1bとアブレイダブル層3との相対的位置関係は第1の実施の形態と同様になって段付きシールフィンが構成される。段付きシールは段の無いシールよりもシール性能が高い。また本実施の形態によればシール間隙を最小化することができるので、従来の軸シール装置よりもシール性能を格段に向上した軸シール装置が得られる。
【0018】
(第3の実施の形態)
図9は本発明の第3の実施の形態の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図である。この図はターボ機械組立て直後の状態を示している。すなわち、ターボ機械のケーシング内面、ロータ表面、あるいは静翼または動翼の先端に設けられた長さの長いシールフィン1aと短いシールフィン1bに相対する位置のロータ表面、ケーシング内面、あるいは動翼または静翼の先端に設けられた基材2および基材凸部2a上にそれぞれシール間隙ga,gbを介してアブレイダブル層3a,3bを設ける。短歯のシールフィン1bに相対する位置の基材を凸部2aのように凸形状としているため、段付きシールが実現されている。アブレイダブル層3a,3bの表面4a,4bは、シールフィン1a,1bとの間隙を均一にするためにアブレイダブル層を溶射施工した後に切削や研磨によって仕上げる場合もある。
【0019】
本実施の形態の軸シール装置はこのようにシール間隙を設定することで、第1の実施の形態と同様にアブレイダブルシールの性能をより効果的に発揮できる。特に図10に示すように、長さの短いシールフィン1bと相対する凸部とのシール間隙gbが長さの長いシールフィン1aと相対する面とのシール間隙gaよりも大きくすることで、図17に示したような段付きシールの凸部で発生するアブレイダブル層端部9の脱落を防止することが可能となる。
【0020】
図11は、本実施の形態の軸シール装置における定常時での漏れ流体20aの流れを解析結果を元に模式的に描いた図である。解析結果からアブレイダブル層の微小な切削があった場合にも大局的な流れ場に変化は無く、シール性能の低下はごく僅かであることが確認されている。
【0021】
(第4の実施の形態)
図12は本発明の第4の実施の形態の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図である。この図はターボ機械組立て直後の状態を示している。アブレイダブル層3を形成したロータ16とケーシング18の表面に交互にシールフィン1a,1bを設けた構成である。
【0022】
ケーシング18側に取り付けてあるシールフィン1aとこのシールフィン1aに相対するロータ16側のアブレイダブル層3の表面との間に形成されるシール間隙gaが、ロータ16側に取り付けてあるシールフィン1bとこのシールフィン1bに相対するケーシング18側のアブレイダブル層3の表面との間に形成されるシール間隙gbよりも大きくすることが望ましい。このように設定することで、シールフィン1aがロータ16側のアブレイダブル層3を全て削り込みロータ16へ直接的なダメージを及ぼすことを回避できる。
【0023】
図13は、図12に示した軸シール装置の定常時での漏れ流体20aの流れを解析結果を元に模式的に描いた図である。解析結果からアブレイダブル層3の切削があった場合にも大局的な流れ場に変化は無く、シール性能の低下は極僅かであることが確認されている。このように、本実施の形態の軸シール装置は優れたシール性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の軸シール装置の作用を説明する図。
【図3】本発明の第1の実施の形態の軸シール装置の作用を説明する図。
【図4】本発明の第1の実施の形態の変形例の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図。
【図5】本発明の第1の実施の形態の変形例の軸シール装置の作用を説明する図。
【図6】本発明の第1の実施の形態の変形例の軸シール装置の作用を説明する図。
【図7】本発明の第2の実施の形態の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図。
【図8】本発明の第2の実施の形態の軸シール装置の作用を説明する図。
【図9】本発明の第3の実施の形態の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図。
【図10】本発明の第3の実施の形態の変形例の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図。
【図11】本発明の第3の実施の形態の軸シール装置の作用を説明する図。
【図12】本発明の第4の実施の形態の軸シール装置の構成を示す軸方向断面図。
【図13】本発明の第4の実施の形態の軸シール装置の作用を説明する図。
【図14】従来の蒸気タービンの構造を示す軸方向断面図。
【図15】従来の蒸気タービンにおける段付きシールを示す軸方向断面図。
【図16】従来の段付きアブレイダブルシールの構成を示す軸方向断面図。
【図17】従来の段付きアブレイダブルシールの作用を説明する図。
【図18】従来の段付きアブレイダブルシールの作用を説明する図。
【図19】従来の段付きアブレイダブルシールの作用を説明する図。
【符号の説明】
【0025】
1,1a,1b,1c…シールフィン、2…基材、2a…基材凸部、3,3a,3b…アブレイダブル層、4a,4b…アブレイダブル層表面、9…アブレイダブル層端部、16…ロータ、17…動翼、18…ケーシング又は静翼外輪、19…静翼、20…作動流体、20a…漏れ流体、21…ラビリンスシール、23…スラスト軸受、24…段付きシール、g,ga,gb,gc…シール間隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸に配置された静止部および回転部のいずれか一方の表面に設けられたアブレイダブル層と、前記静止部および回転部の他方に設けられ前記アブレイダブル層の表面に2種類以上のシール間隙を介して相対する複数のシールフィンとを備えていることを特徴とする軸シール装置。
【請求項2】
前記2種類以上のシール間隙は前記アブレイダブル層の厚さの違いによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項3】
前記複数のシールフィンの長さが2種類以上あり、長さの短いシールフィンに相対する前記アブレイダブル層が凸状になっていることを特徴とする請求項1または2に記載の軸シール装置。
【請求項4】
前記長さの短いシールフィンと前記アブレイダブル層凸部との間のシール間隙が、長さの長いシールフィンと相対する前記アブレイダブル層との間のシール間隙よりも大きい事を特徴とする請求項3に記載の軸シール装置。
【請求項5】
前記シールフィンは、前記静止部および前記回転部に交互に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項6】
前記静止部側に取り付けられたシールフィンとこのシールフィンに相対する回転部側のアブレイダブル層との間に形成されるシール間隙が、前記回転部側に取り付けられたシールフィンとこのシールフィンに相対する静止部側のアブレイダブル層との間に形成されるシール間隙よりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の軸シール装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の軸シール装置を備え、前記静止部としてケーシングまたは静翼を備え、前記回転部としてロータまたは動翼を備えていることを特徴とするターボ機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−223660(P2008−223660A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64692(P2007−64692)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】