説明

軸加工機構、この機構を採用した加工装置および砥石車

【課題】軸径の細い軸状部材を砥石によって加工しても砥石との干渉によるワークの変形を防ぐことができる軸加工機構、該軸加工機構によって加工されたパンチを使用した加工装置、該加工装置によって加工された多孔プレート、および前記軸加工に使用する砥石車提供する。
【解決手段】軸保持手段に保持された軸状部材の側面を研磨する一対の砥石車12,12を有する研磨手段11とを備えており、研磨手段11は、一対の砥石車12,12を、その回転軸が、軸保持手段に保持された状態における軸状部材の中心軸と直交する平面IP上において互いに平行となるように保持する砥石車回転部13と、一対の砥石車12,12を、軸状部材の中心軸と直交する方向に沿って接近離間させる砥石車移動部14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸加工機構、この機構を採用した加工装置、多孔プレートおよび砥石車に関する。さらに詳しくは、半導体製造装置(流量コントローラー)、メンブレンリアクター(膜利用反応プロセス)、精密濾過膜、電気分解(電解反応電極)、バイオ(細胞分離)、食品(酵母濾過)、医療(除菌濾過)等において流体を通過させる部材として使用される多孔プレート、かかる多孔プレートを加工する加工装置、この加工装置に使用される軸加工機構、および、この軸加工機構に使用する砥石車に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、水素分離等を行うメンブレンリアクター等において、流体を通過させる部材には粉末焼結多孔質体が使用されている。かかる粉末焼結多孔質体は内部に微細な径を有する空孔や流体通路を多数有しているので各種流体を通過させるという点で好ましいが、空孔等を流体が通過するときに発生する圧力損失が大きくなる等の問題があり利用し難い場合がある。かかる問題を解決するために、空孔サイズを順次大から小に変化させた傾斜材料も開発されてはいるのであるが、製法が複雑になることから材料自体が高価になってしまうという別の問題が生じている。
【0003】
現在、粉末焼結多孔質体に代えて、多数の小孔が形成されたプレート(以下、多孔プレート)を使用することが検討されている。かかる多孔プレートは、薄いプレートを貫通するように真っ直ぐな小孔が形成されているだけであるので、粉末焼結多孔質体に比べて、流体が通過するときの圧力損失を低減できる等の利点がある。
【0004】
上記のごとき多孔プレートは、例えば、薄いプレートに対してパンチによる孔加工を行って製造することができるのであるが、粉末多孔質体中の空孔等と同程度の微細な孔をパンチによって形成するには、軸径の非常に細いパンチが必要となる。軸径の細いパンチは、通常、軸径の太い軸状部材の側面を砥石等によって削り所望の軸径まで加工されるのであるが、軸径が細くなると、軸径に対する軸長が長い(アスペクト比が大きい)ものとなり、パンチ自体の強度が弱くなる。すると、砥石等から加わる加工抵抗がそれほど強くなくても、加工抵抗によって加工中にパンチが折れたり変形したりする場合があり、その加工が難しい。
【0005】
アスペクト比の大きい軸径の細いピンを加工する技術として、以下の技術が開発されている(特許文献1,2)。
特許文献1には、鉛直なZ軸を中心に回転駆動される導電性砥石と、ワークを水平なX−Y面内で移動させるX−Yテーブルと、砥石の外周面に近接して設けられかつZ軸を中心に自由回転可能な電解用電極と、電極をワークから離れた位置に案内する電極案内装置とを備えた研削装置が開示されている。
この研削装置は、電極と砥石との間に導電性研削液を流し、砥石を電解ドレッシングで目立てしながら、ワークを砥石に接触させて加工するものである。
そして、特許文献1には、微細な砥粒を含む導電性砥石の目詰まりを防止することができるので、加工抵抗を大幅に低減することができ、軸径の細い微細ピンであっても加工できる旨の記載がある。
【0006】
また、特許文献2には、細長い棒状のワークを所定の位置に保持するワーク保持装置と、ワークの軸心Zを中心に軸対称又は等間隔に配置されワークの外周面を加工する同一形状の砥石を有する複数の砥石装置と、複数の砥石装置の砥石をワークに向けて移動する砥石移動装置とを備えた研削装置が開示されている。
そして、特許文献2には、この研削装置では、砥石移動装置により、各砥石を、ワークに向けて軸対称又は等間隔に同期して移動させ、ワークをその軸の両側から挟んで加工するので、研削時におけるワークの変形を砥石自体により抑制することができる旨の記載がある。
【0007】
しかるに、特許文献1の技術では、加工中に加工抵抗が大きくなることは防ぐことできるものの、砥石は、ワークに対しワークの片側からのみ接触するので、ワークの半径方向への撓みや歪みが発生した場合、その撓みや歪みをおさえることはできない。
一方、特許文献2の技術では、ワークをその軸の両側から挟んで加工するので、ワークの半径方向において、砥石がワークに接近していく方向に沿った撓み等はある程度は防ぐことはできる。しかし、ワークの回転軸と砥石の回転軸とが平行であるから、砥石の回転力に起因してワークの半径方向に沿った力がワークに加わる。すると、この力に起因して発生するワーク半径方向の撓みや歪みは防ぐことができない。しかも、砥石の回転力に起因してワーク周方向の力も加わるので、ワークがねじられたりひねられたりして変形する可能性がある。
【0008】
【特許文献1】特開2002−1657号
【特許文献2】特開2006−175528号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、軸径の細い軸状部材を砥石によって加工しても砥石との干渉によるワークの変形を防ぐことができる軸加工機構、該軸加工機構によって加工されたパンチを使用した加工装置、該加工装置によって加工された多孔プレート、および前記軸加工に使用する砥石車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(軸加工機構)
第1発明の軸加工機構は、軸状部材の基端を保持する軸保持手段と、該軸保持手段に保持された前記軸状部材の側面を研磨する一対の砥石車を有する研磨手段とを備えており、該研磨手段は、前記一対の砥石車を、その回転軸が前記軸保持手段に保持された状態における前記軸状部材の中心軸と直交する面上において互いに平行となるように保持する砥石車回転部と、前記一対の砥石車を、前記軸状部材の中心軸と直交する方向に沿って互いに接近離間させる砥石車移動部とを備えていることを特徴とする。
第2発明の軸加工機構は、第1発明において、前記砥石車回転部は、前記軸状部材を前記一対の砥石車間に配設した状態において、該一対の砥石車における前記軸状部材側に位置する外周面が該軸状部材の基端から先端に向かって移動するように該一対の砥石車を回転させるものであることを特徴とする。
第3発明の軸加工機構は、第1または第2発明において、前記軸保持手段は、前記軸状部材をその中心軸周りに回転させる軸状部材回転機構を備えていることを特徴とする。
(加工装置)
第4発明の加工装置は、被加工部材に対して貫通孔を形成する加工装置であって、前記被加工部材を保持するテーブルと、該テーブル上に配置された前記被加工部材を挟むように配設されたパンチおよびダイスと、前記パンチを保持し該パンチを前記ダイスに向けて移動させるパンチ移動機構とを備えた貫通孔形成手段と、前記パンチを加工する軸加工機構と、該軸加工機構を、前記貫通孔形成手段のパンチ移動機構によって前記パンチが移動される経路と該経路から離間した位置との間で移動させる軸加工機構移動手段とからなり、前記軸加工機構は、前記パンチ移動機構に保持された状態における前記パンチの側面を研磨する一対の砥石車を有する研磨手段を備えており、該研磨手段は、前記一対の砥石車を、その回転軸が前記パンチ移動機構に保持された状態における前記パンチの中心軸と直交する面上において互いに平行となるように保持する砥石車回転部と、前記一対の砥石車を、前記パンチの中心軸と直交する方向に沿って互いに接近離間させる砥石車移動部とを備えていることを特徴とする。
第5発明の加工装置は、第4発明において、前記砥石車回転部は、前記パンチを前記一対の砥石車間に配設した状態において、該一対の砥石車における前記パンチ側に位置する外周面が該パンチの基端から先端に向かって移動するように該一対の砥石車を回転させるものであることを特徴とする。
第6発明の加工装置は、第4または第5発明において、前記ダイスは、前記被加工部材を加工する前に、前記貫通孔形成手段のパンチ移動機構によって前記パンチを前記ダイスに向けて移動させることによって前記パンチが挿通される孔が形成されたものであることを特徴とする。
第7発明の加工装置は、第4、第5または第6発明において、前記パンチの寸法を測定する機上測定器を備えており、該機上測定器は、前記貫通孔形成手段のパンチ移動機構によって前記パンチが移動する経路と該経路から離間した位置との間で移動可能に設けられていることを特徴とする。
第8発明の加工装置は、第4、第5、第6または第7発明において、前記パンチ移動機構は、前記パンチをその中心軸周りに回転させる軸状部材回転機構を備えていることを特徴とする。
第9発明の加工装置は、第4、第5、第6、第7または第8発明において、前記被加工部材の上面が同一平面上を移動するように前記テーブルを移動させるテーブル移動手段を備えていることを特徴とする。
(多孔プレート)
第10発明の多孔プレートは、板状のプレートに複数の貫通孔が形成されたプレートであって、前記複数の貫通孔の孔径が、φ1〜φ30μmであり、隣接する前記貫通孔の中心軸間距離が、3〜300μmであることを特徴とする。
第11発明の多孔プレートは、第10発明において、前記プレートの板厚が、2〜100μmであることを特徴とする。
第12発明の多孔プレートは、第10または第11発明において、前記貫通孔の一端部には、テーパ面が形成されていることを特徴とする。
(砥石車)
第13発明の砥石車は、軸と、中心に貫通孔を有する略円筒状の複数の砥石とからなり、該複数の砥石の貫通孔に、前記軸を挿通させたものであることを特徴とする。
第14発明の砥石車は、第13発明において、前記複数の砥石は、その目の粗さが異なるものであることを特徴とする。
第15発明の軸付き砥石は、略円筒状の砥石部と、該砥石部と一体に形成された、該砥石部の中心軸と同軸な軸状部とからなり、該砥石部は、その軸方向に沿って、目の粗さが異なる領域が並列に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(軸加工機構)
第1発明によれば、一対の砥石車によって軸状部材をその側方から挟んで加工するので、軸状部材の半径方向への撓みを一対の砥石車によって抑えることができる。しかも、一対の砥石車の回転軸が軸状部材の中心軸と直交する面に配置されているので、一対の砥石車の回転力に起因する力は、軸状部材の軸方向に沿ってのみ発生し、軸状部材の半径方向や周方向には発生しない。すると、一対の砥石車の回転に起因する軸状部材の半径方向への撓みや歪み、ねじりやひねりの発生を防ぐことができるので、軸径が細い軸状部材であっても損傷することなく精度よく製造することができる。
第2発明によれば、一対の砥石車はその軸状部材側に位置する外周面が軸状部材の基端から先端に向かって移動するように回転するので、一対の砥石車の回転に起因する軸状部材の半径方向への撓みや歪み、ねじりやひねりの発生を防ぐことができる。
第3発明によれば、軸状部材をその中心軸周りに回転させながら軸状部材の側面を加工することができるので、円形断面を有する軸であっても加工することができる。
(加工装置)
第4発明によれば、軸加工機構移動手段によって軸加工機構をパンチの移動経路に配置できるので、パンチをパンチ移動機構に取り付けた状態で加工することができる。すると、所望の軸径よりも太いパンチ(原パンチ)をパンチ移動機構に取り付けた後で、所定の寸法にパンチを仕上げることができる。原パンチは位置決めが容易であるから、所定の寸法に仕上げられた軸径が細いパンチをパンチ移動機構に位置決めして取り付ける場合に比べて、原パンチを加工したパンチは、その位置決めの精度が高い状態でパンチ移動機構に配設されることになる。よって、正確に位置決めされた軸径が非常に細いパンチによって被加工部材を加工することも可能となるので、孔径の小さい貫通孔であっても被加工部材に形成することができる。また、軸加工機構は、一対の砥石車によってパンチをその側方から挟んで加工するので、パンチの半径方向への撓みを一対の砥石車によって抑えることができる。しかも、一対の砥石車の回転軸がパンチの中心軸と直交する面に配置されているので、一対の砥石車の回転力に起因する力は、パンチの軸方向に沿ってのみ発生し、パンチの半径方向や周方向には発生しない。すると、一対の砥石車の回転に起因するパンチの半径方向への撓みや歪み、ねじりやひねりの発生を防ぐことができるので、軸径が細い軸状部材であっても損傷することなく精度よく製造することができる。
第5発明によれば、一対の砥石車はそのパンチ側に位置する外周面がパンチの基端から先端に向かって移動するように回転するので、一対の砥石車の回転に起因するパンチの半径方向への撓みや歪み、ねじりやひねりの発生を防ぐことができる。
第6発明によれば、ダイスにおけるパンチが挿通される孔(ダイス穴)をパンチによって形成するので、パンチの軸径が非常に細くても、パンチの軸とダイス穴の軸、およびパンチの移動経路を完全に一致させることができる。
第7発明によれば、機上測定器をパンチの移動経路に配置できるので、パンチをパンチ移動機構に取り付けたままでパンチの寸法を測定できる。すると、パンチの検査終了後に、パンチの位置決めをしなくてもよいので、パンチの検査後、加工作業に迅速に復帰させることができる。
第8発明によれば、パンチをその中心軸周りに回転させながらパンチの側面を加工することができるので、円形断面を有するパンチであっても加工することができる。
第9発明によれば、テーブル移動手段によってテーブルを移動させれば、パンチとダイスを移動させなくても被加工部材に貫通孔を連続して形成していくことができる。すると、加工開始前にパンチとダイスとを正確に位置決めしておけば、両者の位置を正確に一致させた状態で貫通孔を順次形成できる。よって、軸径が非常に細いパンチと、孔径が非常に小さいダイスを利用しても各貫通孔を正確に形成することができるから、孔径の小さい貫通孔を複数有するプレート等であっても製造することができる。
(多孔プレート)
第10発明によれば、粉末焼結多孔質体が有する空孔や流体通路と同等の径を有する貫通孔を有しており、しかも、貫通孔密度が粉末焼結多孔質体における空孔等と同程度の密度であるから、粉末焼結多孔質体と同等の機能を有しつつ、粉末焼結多孔質体に比べて流体が通過するときに発生する圧力損失を低減することができる。
第11発明によれば、プレートの強度を高くすることができる。
第12発明によれば、テーパが形成されているので、細孔表面にメッキ等でパラジュームを被覆すれば、水素の水蒸気改質に使用するリアクターとして使用した場合に、水素を高純度で分離精製することができる。
(砥石車)
第13発明によれば、砥石車と被加工物が接触する位置を、砥石車の軸方向に沿って変えれば、被加工物を加工する砥石を変えることができる。すると、砥石車を軸方向に移動させるだけで、新しい砥石によって被加工物の加工を継続することができる。
第14発明によれば、目の粗さの異なる砥石が設けられているから、一つの砥石車によって被加工物を異なる面粗さに仕上げることができる。
第15発明によれば、目の粗さの異なる領域が軸方向に沿って並んで設けられているから、砥石部と被加工物が接触する位置を、砥石車の軸方向に沿って変えれば、一つの砥石車によって被加工物を異なる面粗さに仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本実施形態の加工装置1の概略斜視図である。図2は被加工部材Wを加工する状況における本実施形態の加工装置1の概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は(A)のB−B線矢視図である。図1および図2に示すように、本実施形態の加工装置1は、鉛直方向に沿って昇降可能に設けられた主軸2と、この主軸2の昇降方向と直交する方向、つまり水平方向に移動可能に設けられたテーブル3とを備えたものである。かかる加工装置1には、例えば、公知のマシニングセンタやNCフライス盤等を使用することができるが、上述したように作動する主軸2とテーブル3とを備えている装置であれば、本実施形態の加工装置1に採用することは可能である。
【0013】
図1および図2に示すように、本実施形態の加工装置1における前記主軸2の下端には、軸保持部2aが設けられている。この軸保持部2aは、パンチPの一端をその軸方向が鉛直方向と平行となるように保持することができるものである。例えば、公知のチャックやコレットチャック等を挙げることができるが、とくに限定されない。
なお、主軸2は、軸保持部2aに保持された状態におけるパンチPを、その中心軸まわりに回転させる軸状部材回転機構を備えているが、その理由は後述する。
【0014】
一方、図2に示すように、前記テーブル3上には、ダイスDをテーブル3に固定するダイス保持部3aが設けられている。このダイス保持部3aは、テーブル3が基準位置(原点)に配置されたときに、前記軸保持部2aの鉛直下方に位置するように配置されている。つまり、ダイス保持部3aは、テーブル3を基準位置に戻すと(原点復帰)、必ず軸保持部2aの鉛直下方に配置されるようにテーブル3上に配設されているのである。
【0015】
また、テーブル3上には、ダイス保持部3aの周囲に保持テーブル5が設けられている。この保持テーブル5は、パンチPとダイスDによって加工される被加工部材Wを加工中保持しておくものであり、主軸2によってパンチPが昇降される経路に被加工部材Wを配置できるように配設されている。そして、この保持テーブル5は、被加工部材Wをテーブル3の上面に沿って移動させることができる機能を有している。
【0016】
上述した本実施形態の加工装置1による被加工部材Wの加工は、以下のように行うことができる。
まず、テーブル3を原点復帰させた状態で、パンチPおよびダイスDを、主軸2およびダイス保持部3aに対してそれぞれ取り付ける。このとき、パンチPの中心軸とダイスDのダイス穴Dhの中心軸が同軸上に位置し、かつ、この軸が主軸2の中心軸CL(言い換えれば、主軸2の移動方向)と一致または平行となるように、両者を位置決めする(図2)。
ついで、本実施形態の加工装置1の保持テーブル5上に被加工部材Wを配置する(図2)。そして、保持テーブル5によって被加工部材Wを移動させて、被加工部材Wにおいて貫通孔hを形成する位置が中心軸CL上に配置する。
そして、被加工部材Wが所定の位置に配置されると、主軸2を昇降させる。すると、パンチPによって被加工部材Wに貫通孔hを形成することができるのである(図3(A)〜(C))。
【0017】
また、被加工部材Wは、保持テーブル5によってテーブル3の上面に沿って移動させることができるから、パンチPおよびダイスDはその位置を固定したまま被加工部材Wに貫通孔hを形成する位置を変えることができる。言い換えれば、被加工部材Wだけを移動させて、パンチPの中心軸(主軸2の中心軸CL)と被加工部材Wの位置を変えることができる。
このため、被加工部材Wにおいて貫通孔hを形成する位置を変えても、パンチPとダイスDの相対的な位置は加工開始前に位置決めした状態に保たれる。すると、パンチPとダイスDの相対的な位置を一旦正確に合わせてしまえば、軸径が非常に細いパンチPや孔径が非常に小さいダイス穴Dhを有するダイスDを使用した場合でも、被加工部材Wに複数の貫通孔hを形成したときに両者の相対的な位置にずれは生じない。
したがって、孔径の非常に小さい貫通孔h(例えば、直径1〜30μm程度)を形成する場合でも、パンチPを昇降させつつ被加工部材Wを移動させれば、被加工部材Wの異なる位置に貫通孔hを複数連続して形成することができるから、図7に示すような、複数の貫通孔hが整然と配列された金属性の多孔プレートPLを形成することができる。
【0018】
なお、上述した保持テーブル5は、被加工部材をテーブル3の上面と水平に移動させることができるものであればよく、特に限定されない。
しかし、上述したような孔径の非常に小さい貫通孔を正確な位置に複数形成する場合には、例えば、数値制御装置付XYテーブル等のように、0.1〜5μm程度の精度で被加工部材Wを水平に移動させることができるものを使用することが好ましい。そして、かかる保持テーブル5を使用すれば、本実施形態の加工装置1によって、半導体製造装置(流量コントローラー)、メンブレンリアクター(膜利用反応プロセス)、精密濾過膜、電気分解(電解反応電極)、バイオ(細胞分離)、食品(酵母濾過)医療(除菌濾過)等において流体を通過させる部材として使用される多孔プレートPLであっても製造することができる。
【0019】
具体的には、上述した本実施形態の加工装置1によって、図7に示すように、貫通孔hの孔径φaが約φ1〜φ30μm、隣接する貫通孔h間の距離D1,D2が約2〜300μm程度の多孔プレートPLを製造することができる。かかる多孔プレートPLは、貫通孔hの孔径が粉末焼結多孔質体が有する空孔や流体通路と同等の径となる上、貫通孔hの密度も粉末焼結多孔質体における空孔や流体通路の密度と同程度となるので、粉末焼結多孔質体と同等の機能を有しつつ、流体が通過するときに発生する圧力損失を低減することができる。
【0020】
なお、パンチPによって多孔プレートPLに貫通孔hを形成する場合、その貫通孔hの孔径φaは、その孔径φaと多孔プレートPLの厚さTとの比(T/φa、以下、単にアスペクト比という)が、1〜3程度が限界である。よって、アスペクト比が上記範囲以上となるような厚さのプレートに対して、パンチPによって複数の貫通孔hを形成し、多孔プレートPLを製造する場合には、以下のようにすればよい。
【0021】
図3(D)〜(E)に示すように、多孔プレートPLの材料となる板状の被加工部材Wにおいて、貫通孔h1を形成する部分に、予め、パンチ2の軸径φ2よりも上端開口の内径φ5が大きい凹みDTを形成しておく。すると、凹みDTの部分の厚さT1は、被加工部材Wの厚さTに比べて薄くなるので、パンチ2によって形成される貫通孔h1の実質的なアスペクト比(T1/φa)は1〜3程度とすることができる。
よって、多孔プレートPLの厚さTが約2〜100μm程度であっても、約1〜30μm程度の貫通孔h1を有する多孔プレートPLを形成することができる。
【0022】
また、上記方法で多孔プレートPLを形成すれば、貫通孔h1の一端部にはテーパ面が形成されることになる。つまり、テーパ面を有する複数の貫通孔h1が形成された多孔プレートPLを形成することができる。すると、かかる多孔プレートPLは、圧力損失が小さくなるから、貫通孔h1の表面にメッキ等でパラジュームを被覆すれば、水素の水蒸気改質に使用するリアクターとして使用した場合に、水素を高純度で分離精製することができる。
【0023】
なお、凹みDTをどのような方法を用いて形成してもよく、とくに限定されないが、例えば、切削(ドリル)加工、レーザー加工、エッチング加工、マイクロショットブラスト加工等を挙げることができる。
【0024】
上述したパンチP、ダイスD、主軸2、軸保持部2a、ダイス保持部3aが特許請求の範囲にいう貫通孔形成手段であり、主軸2が特許請求の範囲にいうパンチ移動機構である。
【0025】
(機上装置の説明)
本実施形態の加工装置1は、上述したように、軸径の非常に細いパンチPによって被加工部材を加工することができるのであるが、軸径の非常に細いパンチPは、軸径の太いパンチPに比べて、その位置(中心軸)を上述した主軸2の中心軸CLに精度よく合わせることが非常に難しい。よって、比較的位置合わせの行い易い軸径の太いパンチ(原パンチ)をその中心軸が主軸2の中心軸CLと一致するように取り付けた上で、パンチPを所望の軸径に加工すれば、パンチPの配置を容易にしつつその位置精度も高くすることができる。
したがって、本実施形態の加工装置1によって上述したような多孔プレートPLを加工するのであれば、本実施形態の加工装置1に、装置1の主軸2に取り付けられた原パンチを主軸2に取り付けたまま所望の軸径となるように加工する軸加工機構を設けることが好ましい。
以下に、本実施形態の加工装置1に設ける軸加工機構を説明する。
【0026】
(軸加工機構10の説明)
図1において、符号10は本実施形態の加工装置1に設けた軸加工機構を示している。この軸加工機構10は、加工装置1のテーブル3上において、前記ダイス保持部3aおよび前記保持テーブル5から離間した位置、つまり、パンチPによる被加工部材Wの加工の障害とならない位置に設けられている。
このため、テーブル3を移動させれば、軸加工機構10を、パンチPが昇降する経路(つまり主軸2の中心軸CLの位置、図4参照)とこの経路から離間した位置(図1参照)との間で移動させることができるのである。
なお、本実施形態の加工装置1では、上記のテーブル3が、特許請求の範囲にいう軸加工機構移動手段に相当する。
【0027】
図4に示すように、軸加工機構10は、パンチPの側面を加工する研磨手段11を備えている。
【0028】
この研磨手段11は、略円筒状に形成された砥石12aと、この砥石12aが取り付けられた軸12bとからなる一対の砥石車12,12を有している。この一対の砥石車12,12は、その基端が一対の砥石車回転部13,13の主軸にそれぞれ取り付けられている。つまり、一対の砥石車回転部13,13が作動すると、一対の砥石車12,12はそれぞれその中心軸まわりに回転するようになっているのである。
【0029】
前記一対の砥石車回転部13,13は、例えば、スピンドルなどであり、それぞれ砥石車移動部14を介して、テーブル3に固定されたベース15に取り付けられている。この一対の砥石車回転部13,13は、その主軸がテーブル3の上面と平行な同一平面IP内に位置し、しかも、その主軸同士が互いに平行となるように配設されている。
【0030】
また、各砥石車移動部14は、一対の砥石車回転部13,13の主軸同士を互いに平行に保ったままテーブル3の上面と平行に移動させることができるように構成されている。この砥石車移動部14には、例えば、2軸平行配置のリニアサーボモータを備えた移動機構を採用することができ、この一対のリニアサーボモータをフィードバック制御することにより同期させて移動させれば、一対の砥石車回転部13,13の主軸同士を互いに平行に保ったままテーブル3の上面と平行に移動させることができる。
【0031】
そして、前記一対の砥石車回転部13,13および前記砥石車移動部14は、その作動を制御する制御部16に電気的に接続されている。
この制御部16は、一対の砥石車回転部13,13を制御して、一対の砥石車12,12の回転方向や回転速度を調整することができるものである。例えば、前記一対の砥石車12,12が、中心軸CLを含む面内で互いに逆方向であって、かつ、同じ回転速度で回転するように、一対の砥石車回転部13,13を制御することができる。つまり、両者の対向する外周面同士が互いに同じ方向に移動し、かつ、同じ周速度となるように一対の砥石車回転部13,13を制御することができる。
また、制御部16は、一対の砥石車移動部14,14を制御して、一対の砥石車12,12の移動方向や移動量等を調整することができるものである。例えば、一対の砥石車12,12の中間となる位置が常に一定の位置となるように、一対の砥石車移動部14,14の作動を制御することができる。例えば、図4の状況では、一対の砥石車12,12の中間となる位置が、主軸2の中心軸CLの位置となるように制御することができる。
【0032】
上記軸加工機構10は、以下のようにして主軸2に取り付けられているパンチPを加工する。
【0033】
まず、軸加工機構10を主軸2に加工すべきパンチP(原パンチ)を取り付ける。このとき、主軸2の中心軸CLが加工すべきパンチPの中心軸と同軸上または平行となるように配置する。
主軸2に加工すべきパンチPを取り付けると、テーブル3を移動させて、軸加工機構10を主軸2の下方に設置する。このとき、制御部16は、パンチPの中心軸と、一対の砥石車12,12の中間位置とが一致するように砥石車移動部14を作動させる(図4)。
なお、制御部16は、一対の砥石車12,12間の空間ARがパンチPを配置できる程度の距離だけ離れた状態となるように、砥石車移動部14によって一対の砥石車12,12を配置する(図5参照)。
【0034】
ついで、主軸2を下降させてパンチPを一対の砥石車12,12間に配置し、前述した軸状部材回転機構によってパンチPをその中心軸周りに回転させる。そして、一対の砥石車回転部13,13を作動させて一対の砥石車12,12を回転させながら、砥石車移動部14によって一対の砥石車12,12をパンチPに向かって(図5(A)の矢印a方向)移動させる(図5(A)、(B))。
このとき、制御部16は、一対の砥石車12,12におけるパンチP側に位置する外周面、つまり、一対の砥石車12,12における互いに向かい合っている周面が、パンチPの基端から先端に向かって(図5では上方から下方に向かって)移動するように一対の砥石車12,12を回転させる。
【0035】
やがて、一対の砥石車12,12の砥石12aがパンチPの側面に両側方から接触し、この砥石12aによってパンチPの側面が研磨される(図5(B))。このとき、主軸2を上下に昇降(図5(B)の矢印b方向)させながら加工すれば、パンチPをその軸方向に沿って同じ軸径となるように加工することができる。
【0036】
そして、一対の砥石車12,12の外周面間の距離Lが所望の軸径と同じ距離になるまで、砥石車移動部14によって一対の砥石車12,12を移動させる。すると、軸状部材回転機構によってパンチPはその中心軸周りに回転されているから、パンチPは、円形断面かつ所望の軸径に加工されるのである。
【0037】
ここで、一対の砥石車12,12の砥石12aによってパンチPの側面を研磨する場合、砥石12aがパンチPに押し付けられるので、パンチPに対して、一対の砥石車12,12の砥石12aからパンチPの半径方向に沿っての力が加わる。しかし、一対の砥石車12,12は互いに平行かつパンチPの中心軸(主軸2の中心軸CL)と直交する同一平面IP上に位置しており、しかも、一対の砥石車回転部13,13が逆向きかつ同じ量だけ移動するように砥石車移動部14が制御されているから、一方の砥石12aからパンチPに対して加わる力と同じ大きさかつ逆向きの力が他方の砥石12aからパンチPに対して加わる。すると、一方の砥石12aからパンチPに対して加わる力を他方の砥石12aによって支持することができるから、一対の砥石車12,12の砥石12aをパンチPに押し付けて研磨しても、パンチPが半径方向に撓んだり曲がったりすることを防ぐことができる。
【0038】
しかも、一対の砥石車12,12はそのパンチP側に位置する外周面がパンチPの基端から先端に向かって移動するように回転するので、一対の砥石車12,12の回転力に起因する力は、パンチPの軸方向に沿ってのみ発生し、パンチPの半径方向や周方向には発生しない。すると、一対の砥石車12,12の回転に起因するパンチPの半径方向への撓みや歪み、ねじれやひねりの発生を防ぐことができるので、軸径が非常に細いパンチPを加工する場合でも、損傷することなく精度よくパンチPを加工することができる。
【0039】
また、制御部16によって、一対の砥石車回転部13,13が逆向きかつ同じ量だけ移動するように一対の砥石車移動部14,14の作動を制御している。すると、一対の砥石車12,12によってパンチPが挟まれた状態となっても、パンチPの中心軸と一対の砥石車12,12の中間位置とを常に一致させておくことができる。
すると、軸状部材回転手段によってパンチPを回転させてもパンチPの触れ回りが発生しないから、加工前のパンチPの中心軸と加工後のパンチPの中心軸とがズレることを防ぐことができる。
なお、形成するパンチPの断面は円形断面に限られず、軸状部材回転手段によってパンチPを所定の角度ごとに加工すれば、多角形断面のパンチであっても形成することができる。例えば、多角形断面のパンチを加工する場合であれば、パンチPがを回転させる軸状部材回転手段にインデックス機構を持たせれば、断面が四角形や五角形のパンチPでも加工することができる。
【0040】
(ダイス加工の説明)
また、上記のごとき軸加工機構10を備えている場合には、パンチPによってダイスDのダイス穴Dhを加工すれば、パンチPの中心軸とダイスDのダイス穴Dhの中心軸を簡単かつ確実に一致させることができるので、好ましい。
【0041】
具体的には、図6(B)に示すように、ダイスDに、ダイスDの下面から上面近傍まで形成されたパンチPの軸径φ2よりも内径φ1が大きい基礎孔部Aと、この基礎孔部AからダイスDの上面に向かって縮径した縮径部Bとを有するダイス穴Dhを形成しておく。この縮径部Bは、その上端開口部の直径φ3がパンチPの軸径φ2よりも小さくなるように形成しておく。
そして、このダイス穴Dhの基礎孔部Aの中心軸およびパンチPの中心軸を主軸2の中心軸CLと一致させた状態で、パンチPをダイスDに移動させる。すると、パンチPによって、縮径部Bの上端開口部の直径φ3がパンチPの軸径φ2と同じ大きさに加工される。つまり、ダイス穴Dhの上端開口部が、パンチPの軸径φ2と同じであって完全にパンチPの中心軸が一致した状態にすることができる。
【0042】
パンチPの軸径φ2が細い場合、ダイス穴Dhの開口径も小さくしなければならないため、ダイス穴Dhの中心軸と主軸2の中心軸CLとを合わせるのは非常に難しい。しかし、上記の方法の場合、パンチPの中心軸と主軸2の中心軸CLとを正確に位置決めしておけば、ダイス穴Dhの中心軸が主軸2の中心軸CLと若干ずれていても、パンチPの中心軸、ダイス穴Dhの上端開口部の中心軸および主軸2の中心軸CLを一致させることができる。
【0043】
とくに、パンチPを軸加工機構10によって所望の軸径まで加工する場合であれば、パンチPの位置決めはさらに容易になるので、熟練した作業者でなくても、正確かつ簡単にパンチPの中心軸とダイス穴Dhの中心軸(上端開口部の中心軸)、および主軸2の中心軸CLを一致させることができる。
そして、パンチPの軸径φ2を軸加工機構10によって加工する場合、ダイスDにダイス穴Dhを加工した後、さらに軸加工機構10によってパンチPを加工すれば、ダイスDの上端開口部とパンチPのクリアランスを調整できる。すると、パンチPによって被加工部材Wに貫通孔が形成されるときの状態を最適な状態に調整することができるので、被加工部材Wの貫通孔の加工精度を向上させることもでき、好適である。
【0044】
(機上測定器20の説明)
また、図1に示すように、本実施形態の加工装置1のテーブル3上において、前記ダイス保持部3aおよび前記保持テーブル5から離間した位置、つまり、パンチPによる加工の障害とならない位置には機上測定器20が設けられている。この機上測定器20は、主軸2に取り付けられているパンチPの寸法を測定する機器である。具体的には、パンチPの軸径φ2、側面の表面粗さ、先端部外径テーパ形状部等を測定することができる機器である。この機上測定器20には、例えば、ピクセル測定方式を使った超微細加工ツール測定装置等を採用することができるが、上記形状等をナノオーダの精度で測定できるものであれば、とくに限定されない。
この機上測定器20も、テーブル3上に設けられているので、前記軸加工機構10と同様に、テーブル3を移動させれば、パンチPが昇降する経路(つまり中心軸CLの位置)とこの経路から離間した位置との間で移動させることができるのである。
【0045】
したがって、前記軸加工機構10によってパンチPを加工した場合、パンチPを主軸2に取り付けたままでパンチPの寸法を測定できるから、パンチPを取り外しての検査する場合に必要となる、検査終了後のパンチPの取り付け作業が不要になる。すると、検査終了後のパンチPの取り付けに伴う位置合わせが不要になるので、パンチPの検査後、加工作業に迅速に復帰させることができるし、パンチPの中心軸と、主軸2の中心軸CL等の位置がずれることも防ぐことができる。
【0046】
(砥石)
つぎに、軸加工機構10に使用する砥石車12を、図8に基づいて説明する。
図8に示すように、砥石車12は、略円筒状に形成された複数の砥石12aと、この複数の砥石12aが取り付けられた軸12bと、複数の砥石12aを軸12bに固定する固定部材であるナット12cとから構成されている。
【0047】
複数の砥石12aは、略円筒状に形成されその外周面によって被加工物(本実施形態の加工装置1であればパンチP)を研削するものである。各砥石12aは、その中心に中心軸と同軸な貫通孔12hが形成されている。
【0048】
前記軸12bは、先端部に設けられた前記複数の砥石12aが取り付けられる砥石固定部cと、基端部に設けられた連結部sとを備えている。
連結部sは、砥石車12を回転させる手段(本実施形態の加工装置1であれば砥石車回転部13)に連結するための部分であり、砥石12aの貫通孔12hよりも軸径が太くなっている。
砥石固定部cは、その軸径がほぼ砥石12aの貫通孔12hの内径と同じに形成されており、砥石12aの貫通孔12hに挿通できる程度の軸径に形成されている。
【0049】
また、軸12bの先端、つまり、砥石固定部cの先端部には、その側面にネジ部が形成されており、固定部材であるナット12cが螺合されている。このナット12cは、砥石12aを、軸12bの軸方向から連結部cとの間に挟むように配設されている。つまり、ナット12c、連結部cによって砥石12aが軸12bの砥石固定部sから抜け落ちないように固定されているのである。
【0050】
砥石車12を上述したような構造とすれば、砥石車12の軸方向において、被加工部材が砥石車12の砥石12aに接触する位置を変えれば、被加工部材が接触する砥石12aを変えることができる。すると、一の砥石12aが摩耗して損傷しても、接触する砥石12aを変えれば、砥石車12を継続して使用することができる。
本実施形態の加工装置1の場合、砥石車回転部13として主軸を軸方向に移動させる機構を有するものを採用すれば、砥石車12とパンチPとが接触位置を変えて加工することができる。しかも、一つの砥石12aが摩耗などによって損傷した場合でも、その砥石12aだけを交換すればよいので、効率的である。
【0051】
とくに、砥石車12に取り付ける複数の砥石12aとして、異なる目の粗さのものを取り付けておけば、被加工部材が砥石車12の砥石12aに接触する位置を変えれば、一つの砥石車12でも被加工物を異なる面粗さに仕上げることができる。
つまり、砥石車12を軸方向に移動させることによって、被加工物を加工する砥石12aを、目の粗い砥石12aから目の細かい砥石12aに順次切り換えれば、荒削りから仕上げまで砥石車12を変えることなく行うことができる。
本実施形態の加工装置1の場合であれば、砥石車12を軸方向に移動させるだけで被加工物の加工面の面粗さを順次向上させることができる。すると、砥石交換しなければならない場合に生じる、砥石とパンチPの相対的な位置のズレが発生することも防ぐことができるから、寸法精度および表面精度がいずれも高いパンチPを加工することができる。
【0052】
なお、固定部材は上記のごときナットに限られず、砥石12aが軸12bの軸方向へ移動することを防ぐことができるのであればとくに限定されない。
また、上記の例では、砥石車12が砥石12aと軸12bとを組み合わせて構成される場合を説明したが、砥石12aと軸12bとが一体となったものでもよい。かかる場合でも、砥石車12と被加工物が接触する位置を、砥石車12の軸方向に沿って変えれば、被加工物(パンチ)を加工する砥石12aを変えることができるから、一つの砥石車12によって被加工物を異なる面粗さに仕上げることができる。
【0053】
また、本実施形態の加工装置1は、上述したようなパンチPの加工に使用する場合に限られず、様々な軸状部材を加工する装置に採用することができる。とくに、軸状部材を所望の軸径に加工するだけの装置として使用する場合、つまり、請求項1の軸加工機構として使用する場合であれば、軸加工装置主軸2の下方に軸加工機構10を固定した状態で設置してもよい。この場合には、主軸2が、特許請求の範囲にいう軸保持手段に相当することになる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の加工装置は、半導体製造装置(流量コントローラー)、メンブレンリアクター(膜利用反応プロセス)、精密濾過膜、電気分解(電解反応電極)、バイオ(細胞分離)、食品(酵母濾過)医療(除菌濾過)等において流体を通過させる部材として使用される多孔プレートを加工する装置に適している。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態の加工装置1の概略斜視図である。
【図2】被加工部材Wを加工する状況における本実施形態の加工装置1の概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は(A)のB−B線矢視図である。
【図3】本実施形態の加工装置1によって被加工部材Wを加工する状況の概略説明図である。
【図4】パンチPを加工する状況における本実施形態の加工装置1の概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は(A)のB−B線矢視図である。
【図5】本実施形態の加工装置1によってパンチPを加工する状況の概略説明図である。
【図6】ダイスDを加工する状況における本実施形態の加工装置1の概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は加工状況の概略説明図である。
【図7】本発明の多孔プレートPLの概略平面図である。
【図8】本発明の砥石車12の概略説明図であって、(A)は斜視図であり、(B)は部分断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 加工装置
10 軸加工機構
11 研磨手段
12 砥石車
12a 砥石
12b 軸
13 砥石車回転部
14 砥石車移動部
20 機上測定器
P パンチ
D ダイス
PL 多孔プレート
h 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状部材の基端を保持する軸保持手段と、
該軸保持手段に保持された前記軸状部材の側面を研磨する一対の砥石車を有する研磨手段とを備えており、
該研磨手段は、
前記一対の砥石車を、その回転軸が、前記軸保持手段に保持された状態における前記軸状部材の中心軸と直交する面上において互いに平行となるように保持する砥石車回転部と、
前記一対の砥石車を、前記軸状部材の中心軸と直交する方向に沿って互いに接近離間させる砥石車移動部とを備えている
ことを特徴とする軸加工機構。
【請求項2】
前記砥石車回転部は、
前記軸状部材を前記一対の砥石車間に配設した状態において、該一対の砥石車における前記軸状部材側に位置する外周面が該軸状部材の基端から先端に向かって移動するように該一対の砥石車を回転させるものである
ことを特徴とする請求項1記載の軸加工機構。
【請求項3】
前記軸保持手段は、
前記軸状部材をその中心軸周りに回転させる軸状部材回転機構を備えている
ことを特徴とする請求項1または2記載の軸加工機構。
【請求項4】
被加工部材に対して貫通孔を形成する加工装置であって、
前記被加工部材を保持する保持テーブルと、
該保持テーブル上に配置された前記被加工部材を挟むように配設されたパンチおよびダイスと、前記パンチを保持し該パンチを前記ダイスに向けて移動させるパンチ移動機構とを備えた貫通孔形成手段と、
前記パンチを加工する軸加工機構と、
該軸加工機構を、前記貫通孔形成手段のパンチ移動機構によって前記パンチが移動される経路と該経路から離間した位置との間で移動させる軸加工機構移動手段とからなり、
前記軸加工機構は、
前記パンチ移動機構に保持された状態における前記パンチの側面を研磨する一対の砥石車を有する研磨手段を備えており、
該研磨手段は、
前記一対の砥石車を、その回転軸が前記パンチ移動機構に保持された状態における前記パンチの中心軸と直交する面上において互いに平行となるように保持する砥石車回転部と、
前記一対の砥石車を、前記パンチの中心軸と直交する方向に沿って互いに接近離間させる砥石車移動部とを備えている
ことを特徴とする加工装置。
【請求項5】
前記砥石車回転部は、
前記パンチを前記一対の砥石車間に配設した状態において、該一対の砥石車における前記パンチ側に位置する外周面が該パンチの基端から先端に向かって移動するように該一対の砥石車を回転させるものである
ことを特徴とする請求項4記載の加工装置。
【請求項6】
前記ダイスは、
前記被加工部材を加工する前に、前記貫通孔形成手段のパンチ移動機構によって前記パンチを前記ダイスに向けて移動させることによって前記パンチが挿通される孔が形成されたものである
ことを特徴とする請求項4または5記載の加工装置。
【請求項7】
前記パンチの寸法を測定する機上測定器を備えており、
該機上測定器は、前記貫通孔形成手段のパンチ移動機構によって前記パンチが移動する経路と該経路から離間した位置との間で移動可能に設けられている
ことを特徴とする請求項4、5または6記載の加工装置。
【請求項8】
前記パンチ移動機構は、
前記パンチをその中心軸周りに回転させる軸状部材回転機構を備えている
ことを特徴とする請求項4、5、6または7記載の加工装置。
【請求項9】
前記保持テーブルは、
前記被加工部材をその上面が同一平面上を移動するように移動させるテーブル機構を備えている
ことを特徴とする請求項4、5、6、7または8記載の加工装置。
【請求項10】
板状のプレートに複数の貫通孔が形成されたプレートであって、
前記複数の貫通孔の孔径が、φ1〜φ30μmであり、
隣接する前記貫通孔の中心軸間距離が、3〜300μmである
ことを特徴とする多孔プレート。
【請求項11】
前記プレートの板厚が、2〜100μmである
ことを特徴とする請求項10記載の多孔プレート。
【請求項12】
前記貫通孔の一端部には、テーパ面が形成されている
ことを特徴とする請求項10または11記載の多孔プレート。
【請求項13】
軸と、
中心に貫通孔を有する略円筒状の複数の砥石とからなり、
該複数の砥石の貫通孔に、前記軸を挿通させたものである
ことを特徴とする砥石車。
【請求項14】
前記複数の砥石は、その目の粗さが異なるものである
ことを特徴とする請求項13記載の砥石車。
【請求項15】
略円筒状の砥石部と、
該砥石部と一体に形成された、該砥石部の中心軸と同軸な軸状部とからなり、
該砥石部は、
その軸方向に沿って、目の粗さが異なる領域が並列に設けられている
ことを特徴とする軸付き砥石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−12525(P2010−12525A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172059(P2008−172059)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(592129486)株式会社長峰製作所 (18)
【Fターム(参考)】