説明

軸受の放熱構造

【課題】 フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受において、400℃程度の超高温下でも、軸受内部の温度上昇を抑制してグリース潤滑が可能な軸受の放熱構造を提供する。
【解決手段】 フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受の放熱構造である。軸受1の軌道輪2の幅面に放熱材10を取付ける。軸受1は転がり軸受である。放熱材10として形状記憶合金を用いる。この形状記憶合金の放熱材10は、テンタクリップが炉内となる高温領域では固定軸20に接触し、炉外となる低温領域では固定軸20が離れるように変形して放熱面積を増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受の放熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム延伸機は、ビニールなどの被延伸材を加熱して薄く引き延ばす機械であり、その被延伸材を掴むクリップがテンタクリップである。ところで、フィルムとして現在需要が高まっているPEEKやPIなどの素材は、フィルム延伸機を用いて延伸する場合、超高温雰囲気(400℃)で延伸する必要がある。現行のフィルム延伸機では、250℃雰囲気以上で使用する場合、そのテンタクリップの構成部材である軸受として滑り軸受が用いられている。
【0003】
しかし、フィルム延伸機の低トルク化を考慮した場合、テンタクリップに用いる軸受として、超高温下でも使用可能な転がり軸受の開発が必要である。そこで、高温環境下で使用されるフィルム延伸機のテンタクリップ用軸受として、転がり軸受を使用したものも種々提案されている。フィルム延伸機では、溶融押出し機により押し出された樹脂などの被延伸材を複数のテンタクリップで連続的に挟んだ状態で延伸するが、提案例では転がり軸受の外輪がテンタクリップのガイドローラとして用いられ、そのガイドローラがガイドレール上を周回する。テンタクリップは、一般的に150〜250℃の高温雰囲気にさらされるため、この場合に使用される転がり軸受には耐熱性が考慮されている。また、転がり軸受のシールとして、鉄板製のシールド板やフッ素ゴムが採用され、封入グリースにも耐熱性のあるフッ素グリースが採用されている。
【0004】
提案例の一つとして、テンタクリップ用の転がり軸受において、グリース洩れ防止の観点から、図12に示すようにシール部材46のシールリップ部46aと内輪42の外径面のシール溝48との間にラビリンス49を構成したものも知られている(例えば特許文献1)。また、提案例の他の一つとして、テンタクリップ用の転がり軸受において、封入されるグリースの初期封入位置を、ピッチ円直径PCDよりも外径側の範囲内とすることによりグリースを保持して、長寿命化を図ったものも知られている(例えば特許文献2)。また、転がり軸受において、潤滑性能を長期に渡り向上させる目的で、シールド板内部に形状記憶合金を取付けたものも知られている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−232089号公報
【特許文献2】特開2007−321782号公報
【特許文献3】特開2006−17238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した提案例のように、テンタクリップ用の転がり軸受において、封入グリースとして耐熱性のあるフッ素グリースを採用した場合でも、軸受使用温度が約300℃を超えると、フッ素グリース中の増調剤が溶解してしまい、基油分の保持力を失い潤滑不良となる。また、基油が蒸発し、グリース劣化に繋がる。最高使用温度350℃のフッ素グリースを使用しても、上記理由からグリース劣化速度が速く、短寿命となる。現在、高温用グリースは多々存在するが、最高使用温度400℃で使用できるものはない。
【0007】
この発明の目的は、フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受において、400℃程度の超高温下でも、軸受内部の温度上昇を抑制してグリース潤滑が可能な軸受の放熱構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の軸受の放熱構造は、フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受の放熱構造であって、前記軸受の軌道輪幅面に放熱材を取付けたことを特徴とする。
この構成によると、軌道輪幅面に取付けた放熱材の放熱作用により、軸受の内部温度の上昇を抑制して、軸受内に封入されたグリースが高温により劣化するのを防止でき、400℃程度の超高温下でもグリース潤滑を可能とすることができる。
【0009】
この発明において、前記軸受が転がり軸受であっても良く、例えば深溝玉軸受であっても良い。フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受が転がり軸受であると、滑り軸受を用いる場合に比べて低トルク化が可能となる。
【0010】
この発明において、前記軸受の軌道輪として、焼戻し温度400℃以上のものを用いても良い。例えば、軸受の軌道輪として、マルテンサイトステンレス鋼製のものを用いても良い。このように、軸受の軌道輪として、焼戻し温度400℃以上のものを用いることにより、フィルム延伸機のテンタクリップに用いたとき、テンタクリップが400℃以上の高温領域(換言すれば、高温雰囲気)である炉内にあってもその高温に耐えることができる。
【0011】
この発明において、前記放熱材として形状記憶合金を用いても良い。例えば、前記形状記憶合金としてNi−Ti合金を用いても良い。このように、前記放熱材として形状記憶合金を用いることにより、高温領域(炉内)では表面積が小さく、低温領域(炉外)では表面積が大きくなるように放熱材を変形させることができ、テンタクリップが炉外へ出たときの放熱を促進させることができる。
【0012】
この発明において、前記軸受が設置される軸に接触するように、軸受の軌道輪のうちの内輪の幅面に前記放熱材を取付けても良い。放熱材が形状記憶合金からなる場合、高温領域(炉内)では軸に接触させ、低温領域(炉外)では軸と非接触となるように変形させることで放熱材の表面積を増大させて、放熱材の放熱効果を高めることができる。
【0013】
この発明において、前記放熱材の前記軸と対向する面に凹凸を設けても良い。この構成の場合、低温領域(炉外)での放熱材の表面積をさらに増大させることができ、放熱材の放熱効果を高めることができる。
【0014】
この発明において、前記放熱材の前記軸と対向する面に軸方向に延びる溝を設けても良い。
【0015】
この発明において、前記軸受が設置される軸に対して径方向に重なる渦巻き状となるように前記放熱材を取付けても良い。放熱材が形状記憶合金からなる場合、高温領域(炉内)から低温領域(炉外)に移行したとき、渦巻き状の放熱材が外径側に広がるように変形させることで、低温領域での放熱材の表面積を広げることができ、放熱材の放熱効果を高めることができる。
【0016】
この発明において、前記軸受が設置される軸に対して軸方向にずれる螺旋状となるように前記放熱材を取付けても良い。放熱材が形状記憶合金からなる場合、高温領域(炉内)から低温領域(炉外)に移行したとき、螺旋状の放熱材が軸方向に広がるように変形させることで、低温領域での放熱材の表面積を広げることができ、放熱材の放熱効果を高めることができる。
【0017】
この発明において、前記放熱材の一端を前記軸受の軌道輪幅面に溶接することで、放熱材を軌道輪幅面に取付けても良い。
【0018】
この発明において、前記軸受が設置される軸として中空軸を用い、この中空軸の端部に、テンタクリップが炉内に位置する高温領域では中空軸内を密封し、炉外に位置する低温領域では中空軸内を開放する形状に変形する形状記憶合金を設けても良い。
このように、前記軸受が設置される軸を中空軸とし、その端部に形状記憶合金を設けて高温領域(炉内)で軸内を密封し、低温領域(炉外)で軸内を開放すると、高温領域では軸内へ外部熱が侵入するのを防止し、低温領域では軸内の熱を開放することができるので、放熱材による放熱効果と相まって、軸受の内部温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0019】
この発明において、前記中空軸の内周面に、軸方向もしくは周方向に延びる溝、または軸方向および周方向の両方向に延びる溝を設けても良い。この構成の場合、低温領域で軸内が開放されるとき、中空軸の内周面積が大きく放熱効果が高いので、それだけ軸内の熱をより効果的に開放することができる。
【0020】
この発明において、前記中空軸を内周筒部とその外周に重なる外周筒部とでなる二重構造とし、前記内周筒部の材料として前記外周筒部の材料よりも熱伝導度の高い金属を用いても良い。
このように、中空軸を二重構造とし、内周筒部の材料として、外周筒部の材料よりも熱伝導率の高い金属を用いることにより、低温領域で軸内が開放されるとき、軸内の熱をより効果的に開放することができる。
【0021】
この発明において、前記内周筒部の肉厚を、前記中空軸の端部に向かって厚くしても良い。
このように、二重構造とした中空軸の内周筒部の肉厚を軸端部に向かって厚くすることにより、軸の端部側での熱吸収がより大きくなり、低温領域で軸内が開放されるときの放熱効果をより促進することができる。
【0022】
この発明において、1つの軸に前記軸受が2つ設置されており、その軸の各軸受の設置部を含まない反軸端側の軸部がその中間位置に配置されたセラミックを介して連結されていても良い。
このように軸の中間位置にセラミックを配置して、各軸受が設置される軸部をセラミックを介して連結することにより、各軸受が設置される軸部での熱の流れをセラミックで分断でき、放熱効果をより高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明の軸受の放熱構造は、フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受の放熱構造であって、前記軸受の軌道輪幅面に放熱材を取付けたため、400℃程度の超高温下でも、軸受内部の温度上昇を抑制してグリース潤滑が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる軸受の放熱構造の高温領域における状態を示す断面図である。
【図2】同放熱構造における低温領域における状態を示す断面図である。
【図3】同軸受の放熱構造が適用されるフィルム延伸機の概略構成図である。
【図4】同フィルム延伸機の横延伸装置におけるテンタクリップ周辺部を示す断面図である。
【図5】この発明の他の実施形態にかかる軸受の放熱構造の高温領域における状態を示す断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受の放熱構造の高温領域における状態を示す断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受の放熱構造の高温領域における状態を示す断面図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受の放熱構造の低温領域における状態を示す断面図である。
【図9】(A)はこの発明のさらに他の実施形態にかかる軸受の放熱構造の高温領域における状態を示す断面図、(B)はその形状記憶合金の正面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受の放熱構造の高温領域における状態を示す断面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかる軸受の放熱構造の高温領域における状態を示す断面図である。
【図12】提案例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の第1の実施形態を図1および図2と共に説明する。ここで、図1は、この実施形態の軸受の放熱構造の断面図であるが、高温領域にあるときの状態を示している。ここでいう高温領域とは、後述するフィルム延伸機における炉内の温度領域のことである。軸受1は転がり軸受であって、固定側の軌道輪である内輪2と回転側の軌道輪である外輪3の転走面2a,3aの間に、複数の転動体4を介在させ、これら転動体4を保持する保持器5を設け、両側に軸受空間を密封する非接触型のシール6を設けたものである。転動体4は例えばボールからなり、この場合、軸受1はシール付きの深溝玉軸受とされている。シール6は環状の鋼板からなり、外輪3の内径面3bに形成されたシール取付溝7に外周部が嵌合状態に固定される。内輪2は各シール6の内径部に対応する位置の外径面2bに、円周溝からなるシール溝8が形成され、シール6の内径側端と内輪2のシール溝8との間に非接触シール隙間9が形成される。軌道輪である内輪2および外輪3として、ここでは焼き戻温度400℃以上のものが用いられる。具体的には、内輪2および外輪3として、マンテルサイトステンレス鋼製(例えばSUS440C)のものが用いられる。このように、軸受の軌道輪として、焼戻し温度400℃以上のものを用いることにより、フィルム延伸機のテンタクリップに用いたとき、テンタクリップが400℃以上の高温領域である炉内にあってもその高温に耐えることができる。軸受空間にはグリース(図示せず)が封入される。固定側の軌道輪である内輪2は、固定軸20に設置される。
【0026】
内輪2の両幅面には、それぞれ放熱材10が取付けられる。ここでは、放熱材10として形状記憶合金が用いられる。具体的には、形状記憶合金として、形状記憶特性が良好で、耐食性に優れるNi−Ti合金が用いられる。放熱材10は、高温領域の状態で図1に示すように円筒状とされて、前記固定軸20に接触するように、その一端が内輪2の両幅面に溶接により一体に取付けられる。図2は、形状記憶合金からなる放熱材10が低温領域にある状態を示す断面図である。すなわち、放熱材10は、低温領域において、図1に矢印で示す外径側に広がり、図2の形状になるように形状記憶される。ここでいう低温領域とは、後述するフィルム延伸機における炉外の温度領域のことである。
【0027】
この軸受の放熱構造によると、高温領域において図1のように固定軸20に接触する形状となって表面積を小さくしていた放熱材10が、低温領域では図2のように外径側に広がって表面積が大きくなるので、放熱材10の放熱効果が増し、高温領域において軸受1に溜まった熱を放熱材10から効果的に放出することができる。その結果、軸受1の内部温度の上昇を効果的に抑制することができる。
【0028】
図3,図4は、この発明の放熱構造を備えた軸受を適用するフィルム延伸機の一例を示す。図3に概略図で示すように、このフィルム延伸機21は、熱可塑性高分子化合物22を溶融して未延伸状態のフィルム23として押し出す押出し機24と、押し出されたフィルム23を受ける冷却ドラム25と、次の工程を行なう手段を備える。すなわち、冷却ドラム25で冷却されたフィルム23を送る送りローラ26と、この送りローラ26で送られるフィルム23に調湿処理を施す水槽27と、この水槽27で調湿処理されたフィルム23を挟み込んで表面の水滴を除去する水切り装置28とを備える。また、水切り処理後のフィルム23を縦および横方向に2軸延伸する2軸延伸機29と、この2軸延伸機29で形成されたフィルム23を巻き取る回収ローラ30とを備える。
【0029】
2軸延伸機29の構成要素として、図4に示す横延伸装置40が設けられる。この横延伸装置40にテンタクリップ31が備えられる。横延伸装置40は、送られてくるシート23の左右両側に配置され、両ガイド間の間隔がラインの進行方向に向かって徐々に広くなっているガイドレール33,34と、それぞれローラ鎖状に連結され、ガイドレール33,34上をラインの進行方向に循環する複数個のテンタクリップ31とを備える。
【0030】
テンタクリップ31は、フィルム23の端部を掴むクリップ部32と、閉ループで構成されたガイドレール33,34上を転動するガイド軸受(ガイドローラ)35,36とを有する。このテンタクリップ31は、グリップ部32でフィルム23の両端を掴んだ状態で、図示しない炉内をガイドレール33,34に沿って進行方向に進み、炉内を出るまでの間にフィルム23を横方向に延伸させる役割を担う。ガイドレール33,34には、そのガイド面を水平方向に向けたレール33と、垂直方向に向けたレール34の2種類がある。テンタクリップ31のガイド軸受35,36は、テンタクリップ31を各ガイドレール33,34に沿って転がり案内する役割を担う。このガイド軸受35,36のうち、水平方向のガイド面を転動するガイド軸受35は水平方向(横姿勢)の固定軸37に設置される。垂直方向のガイド面を転動するガイド軸受36は、垂直方向(縦姿勢)の固定軸38に設置される。したがって、これら各ガイド軸受35,36は、いずれも外輪が回転側とされる。また、この横姿勢および縦姿勢の固定軸37,38に取付けられたガイド軸受35,36の両方またはいずれか一方として、図1,図2に示した上記実施形態の放熱構造の軸受1が用いられる。
【0031】
この場合に、テンタクリップ31が高温領域である炉内にあるときには、上記ガイド軸受35,36となる軸受1の放熱材10は図1のように固定軸20(図4における固定軸37,38に相当)に接触する表面積の小さい形状であるが、テンタクリップ31が低温度領域である炉外に出ると、図2のように表面積を大きくした形状に広がるので、放熱材10による放熱効果が高まる。これにより、軸受1の内部温度の上昇を抑制して、軸受1内に封入されたグリースが高温により劣化するのを防止でき、400℃程度の超高温下でもグリース潤滑を可能とすることができる。また、この場合の軸受1は転がり軸受であるため、フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受が滑り軸受である場合に比べて低トルク化が可能となる。
【0032】
図5は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、図1および図2に示す実施形態において、前記放熱材10の前記固定軸20と対向する面に凹凸11を設けている。その他の構成は図1および図2に示した実施形態の場合と同様である。
【0033】
このように、放熱材10の固定軸20と対向する面に凹凸11を設けた場合、テンタクリップが高温領域(炉内)から低温領域(炉外)に出たとき、図2のように放熱材10が外径側に広がった状態で表面積がさらに増大するので、放熱材10の放熱効果をさらに高めることができる。
なお、前記凹凸11を設ける代わりに、放熱材10の固定軸20と対向する面に軸方向に延びる溝を設けても、同様の効果を得ることができる。
【0034】
図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1および図2に示す実施形態において、前記放熱材10を、前記固定軸20に対して径方向に重なる渦巻き状としている。放熱材10は、高温領域では径方向に重なった状態とされ、低温領域では径方向に広がる形状とされる。その他の構成は図1および図2に示した実施形態の場合と同様である。
【0035】
このように、放熱材10を、前記固定軸20に対して径方向に重なる渦巻き状とし、低温領域で径方向に広がる形状とした場合、テンタクリップが高温領域(炉内)から低温領域(炉外)に出たとき、渦巻き状の放熱材10が外径側に広がって表面積が増大するので、放熱材10の放熱効果を高めることができる。
【0036】
図7は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1および図2に示す実施形態において、前記放熱材10を、前記固定軸20に対して軸方向にずれる螺旋状としている。放熱材10は、低温領域では軸方向のずれが拡大する形状とされる。その他の構成は図1および図2に示した実施形態の場合と同様である。
【0037】
このように、放熱材10を、前記固定軸20に対して軸方向にずれる螺旋状とし、低温領域では軸方向のずれが拡大する形状とした場合、テンタクリップが高温領域(炉内)から低温領域(炉外)に出たとき、螺旋状の放熱材10の軸方向へのずれが拡大することで表面積が増大するので、放熱材10の放熱効果を高めることができる。
【0038】
図8は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図7の実施形態における螺旋状の放熱材10を、回転側の軌道輪である外輪3の両幅面に取付けたものである。同図では、低温領域での放熱材10の形状を示している。すなわち、高温領域では放熱材10は軸方向に寄り添った状態にあり、低温領域では軸方向にずれた形状とされる。その他の構成は図1および図2に示した実施形態の場合と同様である。
【0039】
このように、放熱材10を、前記固定軸20に対して軸方向にずれる螺旋状とし、低温領域では軸方向のずれが拡大する形状とし、この放熱材10を外輪3の両幅面に取付けた場合、螺旋状の放熱材10が低温領域に移行することで表面積が増大するだけでなく、外輪3と一体となって放熱材10が回転するので、放熱材10の放熱効果をさらに高めることができる。
【0040】
図9は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図1および図2に示す実施形態において、固定軸20を中空軸とし、その中空軸の端部に形状記憶合金12を設けて、固定軸20の内部を密封している。この形状記憶合金12は、テンタクリップが炉内に位置する高温領域では中空軸である固定軸20内を密封し、炉外に位置する低温領域では中空軸内を開放する形状に変形するものとする。例えば、形状記憶合金12は、その正面形状を図9(B)に示すように、外周部を残して、または全体が、切れ目12aで放射状に分割された円板状の形状とされ、低温領域では中央部が固定軸20の外側(同図(A)に矢印で示す方向)に変形して、前記切れ目12aが開き、中空軸である固定軸20の端面を開放する。なお、形状記憶合金12は、上記の切れ目12を有せず、円周方向の一部のみで固定軸20の端面で固定されて、低温領域では非固定部分が固定軸20の端面から離れるように変形して固定軸20の端面を開放するものとしても良い。その他の構成は図1および図2に示した実施形態の場合と同様である。
【0041】
このように、中空軸とした固定軸20の端部に形状記憶合金12を設けて高温領域で軸内を密封し、低温領域で軸内を開放することにより、高温領域では固定軸20内へ外部熱が侵入するのを防止し、低温領域では固定軸20の内部の熱を開放することができるので、放熱材10による放熱効果と相まって、軸受1の内部温度上昇をより効果的に抑制することができる。
なお、この実施形態において、中空軸とした固定軸20の内周面に、軸方向もしくは周方向に延びる溝、または軸方向および周方向の両方に延びる溝を設けても良い。この場合には、低温領域で軸内が開放されるとき、固定軸20の内周面積が大きく放熱効果が高いので、それだけ固定軸20の内部の熱をより効果的に開放することができる。
また、この実施形態において、放熱材10は図1および図2に示した実施形態のものに限らず、図5〜図8に示した実施形態のものに代えても良い。
【0042】
図10は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図9における中空軸とした固定軸20を、内周筒部20Aとその外周に重なる外周筒部20Bとでなる二重構造とし、内周筒部20Aの材料として、外周筒部20Bの材料よりも熱伝導率の高い金属を用いている。その他の構成は図1および図2に示した実施形態の場合と同様である。
【0043】
このように、中空軸とした固定軸20を二重構造とし、内周筒部20Aの材料として、外周筒部20Bの材料よりも熱伝導率の高い金属を用いることにより、低温領域で軸内が開放されるとき、固定軸20の内部熱をより効果的に開放することができる。
また、この実施形態においても、放熱材10は図1および図2に示した実施形態のものに限らず、図5〜図8に示した実施形態のものに代えても良い。
【0044】
図11は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図10における二重構造の固定軸20の内周筒部20Aの肉厚を、固定軸20の端部に向かって厚くしている。その他の構成は図1および図2に示した実施形態の場合と同様である。
【0045】
このように、二重構造とした固定軸20の内周筒部20Aの肉厚を固定軸20の端部に向かって厚くすることにより、固定軸20の端部側での熱吸収がより大きくなり、低温領域で軸内が開放されるときの放熱効果をより促進することができる。
また、この実施形態においても、放熱材10は図1および図2に示した実施形態のものに限らず、図5〜図8に示した実施形態のものに代えても良い。
【0046】
なお、以上の各実施形態では、固定軸20に1つの軸受1が設置された例について説明したが、1つの固定軸20に2つの軸受1が設置される場合にも同様に適用でき、同様の効果を上げることができる。この場合には、その固定軸20の各軸受1の設置部を含まない反軸端側の軸部が、その中間位置に配置されたセラミックを介して連結された構造としても良い。
【0047】
このように固定軸20の中間位置にセラミックを配置して、各軸受1が設置される軸部をセラミックを介して連結することにより、固定軸20の各軸受1が設置される軸部での熱の流れをセラミックで分断でき、放熱効果をより高めることができる。
【0048】
また、以上の各実施形態では、放熱材10として形状記憶合金を用いた例について説明したが、放熱材10が形状記憶合金でない場合でも、放熱材10を有することにより、軸受1の内部温度上昇を抑制するうえで、十分な効果を上げることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…軸受
2…内輪
3…外輪
10…放熱材
11…凹凸
12…形状記憶合金
20…固定軸
20A…内周筒部
20B…外周筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム延伸機のテンタクリップに用いられる軸受の放熱構造であって、前記軸受の軌道輪幅面に放熱材を取付けたことを特徴とする軸受の放熱構造。
【請求項2】
請求項1において、前記軸受が転がり軸受である軸受の放熱構造。
【請求項3】
請求項2において、前記転がり軸受が深溝玉軸受である軸受の放熱構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記軸受の軌道輪として、焼戻し温度400℃以上のものを用いた軸受の放熱構造。
【請求項5】
請求項4において、前記軸受の軌道輪として、マルテンサイトステンレス鋼製のものを用いた軸受の放熱構造。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記放熱材として形状記憶合金を用いた軸受の放熱構造。
【請求項7】
請求項6において、前記形状記憶合金がNi−Ti合金である軸受の放熱構造。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記軸受が設置される軸に接触するように、軸受の軌道輪のうちの内輪の幅面に前記放熱材を取付けた軸受の放熱構造。
【請求項9】
請求項8において、前記放熱材の前記軸と対向する面に凹凸を設けた軸受の放熱構造。
【請求項10】
請求項8において、前記放熱材の前記軸と対向する面に軸方向に延びる溝を設けた軸受の放熱構造。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記軸受が設置される軸に対して径方向に重なる渦巻き状となるように前記放熱材を取付けた軸受の放熱構造。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記軸受が設置される軸に対して軸方向にずれる螺旋状となるように前記放熱材を取付けた軸受の放熱構造。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項において、前記放熱材の一端を前記軸受の軌道輪幅面に溶接することで、放熱材を軌道輪幅面に取付けた軸受の放熱構造。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記軸受が設置される軸として中空軸を用い、この中空軸の端部に、テンタクリップが炉内に位置する高温領域では中空軸内を密封し、炉外に位置する低温領域では中空軸内を開放する形状に変形する形状記憶合金を設けた軸受の放熱構造。
【請求項15】
請求項14において、前記中空軸の内周面に、軸方向もしくは周方向に延びる溝、または軸方向および周方向の両方向に延びる溝を設けた軸受の放熱構造。
【請求項16】
請求項14において、前記中空軸を内周筒部とその外周に重なる外周筒部とでなる二重構造とし、前記内周筒部の材料として前記外周筒部の材料よりも熱伝導度の高い金属を用いた軸受の放熱構造。
【請求項17】
請求項16において、前記内周筒部の肉厚を、前記中空軸の端部に向かって厚くした軸受の放熱構造。
【請求項18】
請求項1ないし請求項17のいずれか1項において、1つの軸に前記軸受が2つ設置されており、その軸の各軸受の設置部を含まない反軸端側の軸部がその中間位置に配置されたセラミックを介して連結されている軸受の放熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−149742(P2012−149742A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10409(P2011−10409)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】