説明

軸受の溝測定方法及びその測定装置

【課題】軸受の溝寸法の測定精度を向上することができる軸受の溝測定方法を提供する。
【解決手段】軸受の外方部材1の内周面に形成した案内溝1cと、測定軸7の外周面に形成した傾斜面7aとの間に、複数の球体9bを配置する工程と、測定軸7を外方部材1に対し挿入する方向に所定の荷重を付与すると共に、外方部材1を測定軸7に対しに回転させて、外方部材1と測定軸7の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する工程と、軸線方向位置からその平均値を演算し、その平均値に基づいて案内溝1cの径寸法を算出する工程を有する軸受の溝測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に用いられる軸受の外方部材及び内方部材に形成した溝を測定する方法、及びその測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪用軸受装置には、例えば図4に示すように、外方部材1、ハブ輪2及び内輪3とを嵌合してなる内方部材6、複列のボール4,5を主要な構成要素としたものがある。
【0003】
外方部材1は、車体の懸架装置(図示せず)から延びるナックルにボルトで固定するための車体取付フランジ1aを備え、外方部材1の内周面には、複列の案内溝1b,1cが形成されている。
【0004】
ハブ輪2は、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ2aを備えている。車輪取付フランジ2aと反対側の小径部2bには、内輪3が嵌合してあり、ハブ輪2の外周面に形成した案内溝2cと、内輪3の外周面に形成した案内溝3aは、それぞれ外方部材1の案内溝1b,1cと対向する。
【0005】
このハブ輪2と内輪3の各案内溝2c,3a、及び外方部材1の案内溝1b,1cとで形成された複列のボールトラックには、それぞれボール4,5が介装され、複列のアンギュラ玉軸受部を構成している。
【0006】
ところで、車輪軸受装置においては、軸受の転動寿命、剛性、並びにフレッティング等の面から、軸受装置に予圧を付与して使用するのが有利である。そこで、内輪3をハブ輪2に対し押し込むことで、上記軸受部のアキシャル隙間を負の状態にして、予圧を付与する。
【0007】
この予圧量(隙間量)は、外方部材、ハブ輪、内輪の各案内溝の寸法や、ボールサイズによって変動する。所定の予圧量を付与するには、外方部材等の各部材を組付ける前に各案内溝の寸法を測定し、それぞれの測定結果に基づいて適切なボールサイズを選定することが必要となる。
【0008】
従来の軸受の溝を測定する方法として、下記の特許文献1の第1図や第2図に示した方法がある。その測定方法では、例えば、測定対象が外方部材の内溝である場合、内溝の上方と下方にそれぞれ測定子を押し当て、その測定子の間隔から内溝径を算出する。また、測定対象が内輪の外溝である場合は、外溝の上下にそれぞれ測定子を押し当て、測定子の間隔から外溝径を算出する。測定子としては、1個又は2個の球を有するものや、棒状のものを使用している。
【特許文献1】特開昭59−92308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
仮に、外方部材等の各部材の溝が多少楕円形状であった場合でも、ボールを組み込んで予圧を付与すれば、溝の楕円形状はある程度矯正され、真円に近づく。このように楕円形状がある程度矯正された状態で溝を測定すると、平均的な溝寸法の測定値を得ることができ、予圧量を管理する上で望ましい。
【0010】
しかし、上記特許文献1に示した従来の溝測定方法では、測定子を溝に対し2点ないし3点で接触させ溝径を測定するため、測定値が溝の真円度の影響を受け易いといった欠点がある。つまり、溝軌道上の測定子の接触位置によっては、楕円形状の溝の長径あるいは短径を測定し、平均的な溝寸法から大きく外れた測定値が得られる場合がある。この平均的な溝寸法から大きく外れた測定値を基にボールサイズを選定すると、適切なボールサイズとは大きく異なったものが選定される。そして、このボールを溝に組み込むと、アキシャル隙間に影響を与え、所定の予圧が付与されない虞がある。また、アキシャル隙間は軸線方向で管理されるが、従来の方法では、測定寸法を径方向で管理しているため、その管理する方向性の違いにより誤差が発生しやすい虞がある。
【0011】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、軸受の溝寸法の測定精度を向上することができる軸受の溝測定方法及びその測定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、軸受の外方部材の内周面に形成した案内溝と、測定軸の外周面に形成した傾斜面との間に、複数の球体を配置する工程と、前記測定軸を前記外方部材に対し挿入する方向に所定の荷重を付与すると共に、前記外方部材を前記測定軸に対しに回転させて、前記外方部材と前記測定軸の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する工程と、前記軸線方向位置からその平均値を演算し、その平均値に基づいて前記案内溝の径寸法を算出する工程を有する軸受の溝測定方法である。
【0013】
測定軸を外方部材に対し挿入する方向へ所定の荷重を付与することによって、案内溝が複数の球体に押圧され、案内溝の径方向や軸線方向の歪がある程度矯正される。案内溝の歪をある程度矯正した状態で、測定軸又は外方部材の軸線方向位置を測定する。このとき、案内溝に矯正されない歪があれば、その歪が原因で、測定した軸線方向位置にばらつきが生じる。そこで、このばらつきを平均化し、その平均化した値(平均値)に基づいて案内溝の径寸法を算出するので、平均的な案内溝の径寸法を算出することができる。
【0014】
請求項2の発明は、軸受の内方部材の外周面に形成した案内溝と、測定筒の内周面に形成した傾斜面との間に、複数の球体を配置する工程と、前記内方部材を前記測定筒に対し挿入する方向に所定の荷重を付与すると共に、前記内方部材を前記測定筒に対し回転させて、前記内方部材と前記測定筒の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する工程と、前記軸線方向位置からその平均値を演算し、その平均値に基づいて前記案内溝の径寸法を算出する工程を有する方法である。
【0015】
内方部材を測定筒に対し挿入する方向に所定の荷重を付与することによって、案内溝が複数の球体に押圧され、案内溝の径方向や軸線方向の歪がある程度矯正される。案内溝の歪をある程度矯正した状態で、内方部材又は測定筒の軸線方向位置を測定する。このとき、案内溝に矯正されない歪があれば、その歪が原因で、測定した軸線方向位置にばらつきが生じる。そこで、このばらつきを平均化し、その平均化した値(平均値)に基づいて案内溝の径寸法を算出するので、平均的な案内溝の径寸法を算出することができる。
【0016】
請求項3の発明は、外周面に傾斜面を形成すると共に軸受の外方部材内へ挿入可能な測定軸と、当該測定軸の前記傾斜面と、前記外方部材の内周面に形成した案内溝との間に、転動自在に配置する複数の球体と、前記測定軸を前記外方部材に対し挿入する方向に所定の荷重を付与する荷重付与手段と、前記外方部材と前記測定軸の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する測定手段とを備えた軸受の溝測定装置である。
【0017】
請求項3の装置を使用すれば、上記請求項1と同様に、平均的な案内溝の径寸法を算出することができる。
【0018】
請求項4の発明は、内周面に傾斜面を形成すると共に内部に軸受の内方部材を挿入可能な測定筒と、当該測定筒の前記傾斜面と、前記内方部材の外周面に形成した案内溝との間に、転動自在に配置する複数の球体と、前記内方部材を前記測定筒に対し挿入する方向に所定の荷重を付与する荷重付与手段と、前記内方部材と前記測定筒の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する測定手段とを備えた軸受の溝測定装置である。
【0019】
請求項4の装置を使用すれば、上記請求項2と同様に、平均的な案内溝の径寸法を算出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の軸受の溝測定方法及びその測定装置によれば、案内溝の径方向や軸線方向の歪をある程度矯正した状態において、平均的な案内溝の径寸法を得ることができる。これにより、外方部材及び内方部材等の案内溝の平均的な径寸法に基づいて、所定の予圧を付与するのに適切なボールサイズを選定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る軸受の溝測定装置を、自動車の車輪用軸受装置に形成した案内溝の測定に使用する場合について説明する。測定対象物である車輪用軸受装置は、例えば、図4に示すように、外方部材1、ハブ輪2と内輪3とを嵌合してなる内方部材6等を組み付けて構成される。図1は、その車輪用軸受装置の構成部材のうち、外方部材1の内周面に形成した複列の案内溝1b,1cを測定する溝測定装置を示す。また、図2に示すのは、ハブ輪2の外周面に形成した案内溝2cを測定する装置であり、図3に示すのは、内輪3の外周面に形成した案内溝3aを測定する装置である。
【0022】
図1に示す溝測定装置は、測定軸7と、測定軸7の下方に同一軸線上に配置したベース軸8と、多数(あるいは複数)の球体9とを備える。測定軸7とベース軸8の各先端には、先端へテーパ状に縮径した傾斜面7a,8aが形成され、図1では、測定軸7の下端に傾斜面7aを有し、ベース軸8の上端に傾斜面8aを有する。
【0023】
測定軸7は、ガイド部材10によって軸線方向(上下方向)に移動可能に保持され、ベース軸8に対し接近・離間することができる。詳しくは、測定軸7の上端が、ガイド部材10に形成した貫通孔10a内に挿入され、測定軸7の上端周縁部7bが貫通孔10aの内周面に摺接することによって、測定軸7は軸線方向(上下方向)に案内される。貫通孔10aの下端には内径側に突出した段差部10bが形成してあり、この段差部10bと測定軸7の上端に設けた外鍔部7cとが干渉することで、測定軸7がガイド部材10から落下するのを防止している。なお、ベース軸8は、(図示しない)装置本体部に固定されている。
【0024】
多数の球体9には、外方部材1の一方の案内溝1bと、ベース軸8の傾斜面8aとの間に介装される球体9aと、外方部材1の他方の案内溝1cと、測定軸7の傾斜面7aとの間に介装される球体9bとがある。各球体9a,9bは、案内溝1b,1cと傾斜面8a,7aとの間に、それぞれ周方向に3個以上配置することが好ましい。球体9a,9cを少なくとも3個配置することで、外方部材1、測定軸7及びベース軸8の各軸線を傾きにくく安定して配置することができるからである。
【0025】
各球体9a,9bは、2個の保持器11a,11bにて周方向に所定間隔に回転自在に保持されている。各保持器11a,11bには、球体9a,9bを収容するためのポケットが貫設され、ポケット内に収容された球体9a,9bは互いに周方向の接近・離間するのは規制されるが、径方向の移動は多少許容されている。
【0026】
測定軸7の上方に、測定器12(測定手段)を配置している。この測定器12は、外方部材1と測定軸7の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定するものである。図1の実施形態では、外方部材1に対する測定軸7の相対的な軸線方向位置(高さ)を測定する。具体的には、測定器12は、所定位置に固定された本体部12aと、本体部12aから下方に延伸した測定子12bとを有し、測定子12bは本体部12aに伸縮自在に付設されている。測定子12bの先端は測定軸7の上端に配され、測定軸7の軸線方向移動(上下移動)に追随することができる。本体部12aは、測定軸7の測定した軸線方向位置(高さ)を表示する表示部を有する。また、測定軸7の上方には、測定軸7をベース軸8側へ押圧する荷重付与手段(図示せず)が配設されている。
【0027】
図2に示す溝測定装置は、測定筒13と、上治具14及び下治具15と、多数の球体16とを備える。測定筒13の内周面の下端には、下方へ臨んでテーパ状に拡径した傾斜面13aが形成されている。上治具14は、測定筒13内に挿入してあり、上治具14の上端に設けた外鍔部14aの外周縁が、測定筒13の内周面と摺接することによって、上治具14は軸線方向に案内される。測定筒13の内周面には、内径側に突出した段差部13bがあり、上治具14の外鍔部14aが段差部13bと干渉することで、上治具14が測定筒13から落下するのを防止している。また、上治具14の下端面には、ハブ輪2の小径部2bに外嵌する嵌合凹部14bが形成されている。
【0028】
下治具15は、軸線方向に移動して測定筒13に対し接近・離間すると共に、測定筒13に対し軸線を中心に回転可能に装置本体(図示せず)に付設されている。また、下治具15の上端には、ハブ輪2の車輪取付フランジ2aに連設した円筒部2dに外嵌する嵌合凹部15aが形成されている。
【0029】
多数の球体16は、ハブ輪2の案内溝2cと、測定筒13の傾斜面13aとの間に介装するものであり、図1の場合と同様の理由で、周方向に少なくとも3個配置することが望ましい。各球体16は、保持器17にて、周方向に所定間隔に回転自在に保持されている。保持器17には、球体16を収容するためのポケットが貫設してあり、ポケット内に収容された球体16は互いに周方向に接近・離間するのは規制されるが、径方向の移動は多少許容されている。
【0030】
上治具14の上方には、ハブ輪2と測定筒13の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する測定器18(測定手段)が配置してある。図2の実施形態では、測定筒13に対するハブ輪2の相対的な軸線方向位置(高さ)を測定する。この測定器18は、図1で説明した測定器12と同様のものであり、本体部18aから下方に延伸した測定子18bの先端は、ハブ輪2に取り付けた上治具の上端に接触して配され、ハブ輪2の軸線方向移動に追随することができる。また、下治具15の下方には、下治具15を測定筒13側へ押し上げる荷重付与手段(図示せず)を備えている。
【0031】
図3の溝測定装置は、下端の内周面に傾斜面19aを有する測定筒19と、上治具20及び下治具21と、多数の球体22と、保持器23と、測定器24とを備えている。この中で、上治具20と下治具21以外は、図2で示したのと同様の構造であるので説明を省略する。上治具20は、軸状の部材であり、その上端には、測定筒19の段差部19bと干渉する外鍔部20aを有する。この上治具20の下端面には、図2のような嵌合凹部14bは形成されていない。また、下治具21は、内輪3の内周面に嵌合する嵌合軸部21aを有する。なお、下治具21は軸線を中心に回転可能に構成され、下治具21の下方には、下治具21を測定筒19側へ押し上げる荷重付与手段(図示せず)を設けている。
【0032】
以下、図1〜図3に示す軸受の溝測定装置を用いて、外方部材、ハブ輪、内輪の各案内溝を測定する方法について説明する。
【0033】
まず、図1を参照して外方部材の案内溝を測定(算出)する方法を説明する。ベース軸8の傾斜面8a上に多数の球体9aを配置し、その球体9aを保持器11aにて保持する。ベース軸8の上部に外方部材1を同一軸線上に被せて、多数の球体9aを、外方部材1の一方の案内溝1bとベース軸8の傾斜面8aとの間に介装する。
【0034】
外方部材1の他方の案内溝1c上に別の球体9bを多数配置し、その球体9bを保持器11bで保持する。測定軸7の先端の傾斜面7aを、外方部材1内に挿入し、測定軸7の傾斜面7aを、球体9bの内径側に接触させる。この状態で、上方の球体9bは、外方部材1の他方の案内溝1cと測定軸7の傾斜面7aとの間に介装されている。また、測定軸7の上端に測定器12の測定子12bを接触させる。
【0035】
(図示しない)荷重付与手段により、測定軸7に対して下方に所定の荷重を付与する。これにより、案内溝1cは多数の球体9bに押圧され、案内溝1cに径方向や軸線方向の歪がある場合は、その歪がある程度矯正される。そして、所定の荷重を付与しながら、外方部材1を測定軸7及びベース軸8に対し回転させる。このとき、球体9a,9bを案内溝1b,1cに沿って一周させることが望ましい。球体9a,9bが案内溝1b,1cを一周する間に、測定器12によって、外方部材1に対する測定軸7の軸線方向位置を、断続的に多数回あるいは連続的に測定し、軸線方向位置の案内溝一周分のデータを取得する。
【0036】
上述のように所定の荷重を付与しても、案内溝1cの歪を完全に矯正することができず、未だ歪を有する場合がある。例えば、案内溝1cの軌道上で径寸法が大きい箇所と小さい箇所がある場合は、案内溝1cに沿って転動する球体9bは、溝軌道上の位置によって軸線に対し接近又は離間する。図1の二点差線に示すように、球体9bが軸線に接近して、球体9bと測定軸7との接触軌道輪が小さくなった場合は、測定軸7は上方に押し上げられる。逆に、球体9bが軸線から離間して、球体9bと測定軸7との接触軌道輪が大きくなった場合は、測定軸7は下方へ移動する。また、案内溝1cの軸方向の寸法が全周において同一でない場合も、溝軌道上の球体9bの位置によって、測定軸7が上下動する。
【0037】
このように案内溝1cに矯正されない歪がある場合は、取得した測定軸7の軸線方向位置の案内溝一周分のデータに、ばらつきが生じる。そこで、測定軸7の軸線方向位置の各データを平均化した値(平均値)を演算して求める。そして、測定軸7の軸線方向位置の平均値を、予め用意した演算式に入力して、案内溝1cの径寸法を算出する。なお、この演算式は、球体のサイズや測定軸の傾斜面のテーパ角度等に基づいて作製されたものである。
【0038】
上述のように、測定軸7を外方部材1内に押し込んで球体9bに所定の荷重を付与することによって、案内溝1cの径方向や軸線方向の歪がある程度矯正された状態の溝径寸法を測定することができる。さらに、所定の荷重を付与した案内溝1cに矯正されない歪があり、その歪が原因で測定軸7の案内溝一周分の軸線方向位置にばらつきが生じる場合であっても、そのばらつきを平均化した値を基に案内溝1cの径寸法を算出するので、平均的な溝寸法を算出することができる。また、球体は案内溝になるべく多く配置する方が、案内溝の歪を矯正するために好ましい。
【0039】
次に、図2を参照してハブ輪の案内溝を測定(算出)する方法を説明する。下治具15にハブ輪2の円筒部2dを取り付け、ハブ輪2の案内溝2cに多数の球体16を配置して保持器17で保持する。そして、ハブ輪2を下方から測定筒13内に挿入し、案内溝2cと測定筒13の傾斜面13aとの間に、多数の球体16を介装する。また、測定筒13の上方から上治具14を挿入し、上治具14をハブ輪2の小径部2bに取り付ける。上治具14の上端に測定器18の測定子18bの先端を接触させておく。
【0040】
(図示しない)荷重付与手段により、下治具15に対して上方に所定の荷重を付与する。図1の場合と同様に、案内溝2cは多数の球体16により押圧され、案内溝2cの歪はある程度矯正される。そして、所定の荷重を付与しながら、下治具15と共にハブ輪2を測定筒13に対し回転させて、測定筒13に対するハブ輪2の軸線方向位置を、測定器18で断続的に多数回あるいは連続的に測定し、軸線方向位置の案内溝一周分のデータを取得する。なお、上記所定の荷重を付与したときの、案内溝2cの歪を矯正する作用については、図1の場合と同様であるので説明を省略する。
【0041】
取得したハブ輪2の軸線方向位置の案内溝一周分のデータから、軸線方向位置の平均値を演算する。その平均値を予め用意した演算式に入力して、案内溝2cの平均的な径寸法を算出する。なお、上記演算式は図1の場合と同様に作製したものである。
【0042】
図3に示す内輪の案内溝を測定(算出)する場合は、まず、下治具21の嵌合軸部21aに、内輪3を案内溝3aが上方を臨む向きに外嵌する。そして、内輪3の案内溝3aに球体22を多数配置し、保持器23にて保持する。内輪3を下方から測定筒19内に挿入し、内輪3の案内溝3aと測定筒19の傾斜面19aとの間に、多数の球体22を介装する。また、測定筒19の上方から上治具20を挿入し、上治具20の下端を内輪3の上端に当接させる。上治具20の上端には測定器24の本体部24aから延伸した測定子24bの先端を接触させておく。
【0043】
(図示しない)荷重付与手段により、下治具21に対して上方に所定の荷重を付与しつつ、下治具21と共に内輪3を測定筒19に対し回転させる。そして、回転中に測定器24にて、測定筒19に対する内輪3の軸線方向位置を、断続的に多数回あるいは連続的に測定し、軸線方向位置の案内溝一周分のデータを取得する。なお、上記所定の荷重を付与したときの、案内溝3aの歪を矯正する作用については、図1の場合と同様であるので説明を省略する。
【0044】
取得した内輪3の軸線方向位置の案内溝一周分のデータから、軸線方向位置の平均値を演算する。その平均値を予め用意した演算式に入力して、案内溝3aの平均的な径寸法を算出する。なお、この演算式は図1の場合と同様に作製したものである。
【0045】
以上、本発明の実施の一形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を加え得ることは勿論である。図1の測定軸7の傾斜面7a、図2及び図3の測定筒13,19の各傾斜面13a,19aは、曲面状や、案内溝のようなR面状に形成してもよい。図1〜図3に示した実施形態では、外方部材等の測定対象物の軸線方向、及び測定軸等の測定装置の軸線方向を、上下方向に配置しているが、左右方向又はそれ以外の方向に配置してもよい。また、車輪用軸受装置も上述の実施形態に限らない。例えば、外方部材に内装される内方部材が、ハブ輪と、等速ジョイントの外輪が一体に成形されてハブ輪の内径に一部が嵌合した内輪構成部材とでなり、ハブ輪及び内輪構成部材にそれぞれ案内溝を有するものであってもよい。また、本発明の溝測定装置又は測定方法をもって、車輪用軸受装置以外の軸受に形成された溝(案内溝)の寸法も測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る軸受の溝測定装置の一実施形態を示し、詳しくは、測定対象が外方部材の案内溝である場合を示す断面図である。
【図2】本発明に係る軸受の溝測定装置の他の実施形態を示し、詳しくは、測定対象がハブ輪の案内溝である場合を示す断面図である。
【図3】本発明に係る軸受の溝測定装置のさらに別の実施形態を示し、詳しくは、測定対象が内輪の案内溝である場合を示す断面図である。
【図4】一般的な車輪用軸受装置の断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 外方部材
1b 案内溝
1c 案内溝
2 ハブ輪
2c 案内溝
3 内輪
3a 案内溝
4 転動体
5 転動体
6 内方部材
7 測定軸
7a 傾斜面
9 球体
12 測定器
13 測定筒
13a 傾斜面
16 球体
18 測定器
19 測定筒
19a 傾斜面
22 球体
24 測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受の外方部材の内周面に形成した案内溝と、測定軸の外周面に形成した傾斜面との間に、複数の球体を配置する工程と、
前記測定軸を前記外方部材に対し挿入する方向に所定の荷重を付与すると共に、前記外方部材を前記測定軸に対しに回転させて、前記外方部材と前記測定軸の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する工程と、
前記軸線方向位置からその平均値を演算し、その平均値に基づいて前記案内溝の径寸法を算出する工程を有することを特徴とする軸受の溝測定方法。
【請求項2】
軸受の内方部材の外周面に形成した案内溝と、測定筒の内周面に形成した傾斜面との間に、複数の球体を配置する工程と、
前記内方部材を前記測定筒に対し挿入する方向に所定の荷重を付与すると共に、前記内方部材を前記測定筒に対し回転させて、前記内方部材と前記測定筒の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する工程と、
前記軸線方向位置からその平均値を演算し、その平均値に基づいて前記案内溝の径寸法を算出する工程を有することを特徴とする軸受の溝測定方法。
【請求項3】
外周面に傾斜面を形成すると共に軸受の外方部材内へ挿入可能な測定軸と、当該測定軸の前記傾斜面と、前記外方部材の内周面に形成した案内溝との間に、転動自在に配置する複数の球体と、前記測定軸を前記外方部材に対し挿入する方向に所定の荷重を付与する荷重付与手段と、前記外方部材と前記測定軸の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する測定手段とを備えたことを特徴とする軸受の溝測定装置。
【請求項4】
内周面に傾斜面を形成すると共に内部に軸受の内方部材を挿入可能な測定筒と、当該測定筒の前記傾斜面と、前記内方部材の外周面に形成した案内溝との間に、転動自在に配置する複数の球体と、前記内方部材を前記測定筒に対し挿入する方向に所定の荷重を付与する荷重付与手段と、前記内方部材と前記測定筒の一方に対する他方の相対的な軸線方向位置を測定する測定手段とを備えたことを特徴とする軸受の溝測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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