説明

軸受パッキン

【課題】グリースの漏れを確実に防止でき、且つゴム製のパッキン本体の変形によりグリース基油の流動を支障しないようにした。
【解決手段】軸受パッキン20は、軸受の外輪と内輪との間の間隙部に沿って環状に形成され軸受側端面に開口部を有する環状充填室14bと、この環状充填室14bの外側に部分的に拡大して形成され軸受側端面に開口部を有する外側充填室14cとを備えた軸受蓋14の軸受側端面に設け、軸受側端面の周方向に沿って配置される変形性を有するゴム製のゴム板21と、このゴム板21の一方の面に配置される平板状補強部材22とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース(半固体状潤滑剤)によって軸受を潤滑するためのグリース溜りを備えた軸受蓋に取り付ける軸受パッキンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受の潤滑のために軸受の内部にグリースを封入するのに加えて、軸受の近傍にグリース溜り(以下、充填室という)を設け、この充填室にグリースを充填している。このような潤滑構造として、車両用モーターでは軸方向の寸法に制限があるため、機外側に配置される軸受蓋に環状充填室と、外側充填室とを設ける構造が知られている。この場合、外側充填室が軸受外輪よりも外径が大きくなり、この場合軸受蓋で軸受外輪を押えるためには機内側の軸受蓋との間に隙間を設ける必要があるため、生じる隙間にパッキンが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
ところで、このようなパッキンとして、液状パッキンが採用される場合もあるが、この場合、メンテナンスがし難く、塗布する手間も大きいという欠点があるうえ、作業者の塗り方によってグリース漏れの防止性能に差が出ることから、一般的にはニトリルゴム製の板状パッキンが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−71544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の軸受に設けられているグリースの潤滑構造では、以下のような問題があった。
すなわち、従来のゴム製のパッキンは、外側充填室の開口部上に重なるようにして形成されており、軸受使用による熱やグリースによる膨潤により変形したり、パッキンが厚さ方向に圧縮されて空間部、つまり外側充填室内へ膨張してはみ出しが起こる。これにより、パッキンが充填室中のグリースを押し、環状充填室と外側充填室との通路を支障し、グリース基油の流動を阻害するという不具合があった。また、外側充填室の開口部上に重なる領域をくり抜くことが考えられるが、パッキン本体に狭小部が生じ、パッキン本体がずれて外側充填室内に落ち込んだり、折れ曲がった状態で取り付けられるという不具合があった。
その結果、本来、軸受の潤滑に寄与すべき外側充填室のグリースの基油の軸受への移動が妨げられ、潤滑状態が悪くなって効果的な潤滑ができないという問題があり、その点で改良の余地があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、グリースの漏れを確実に防止でき、且つゴム製のパッキン本体の変形によりグリース基油の流動を支障しない軸受パッキンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る軸受パッキンでは、軸受の外輪と内輪との間の間隙部に沿って環状に形成され軸受側端面に開口部を有する環状充填室と、環状充填室の外側に部分的に拡大して形成され軸受側端面に開口部を有する外側充填室とを備えた軸受蓋の軸受側端面に設けられる軸受パッキンであって、軸受側端面に配置される変形性を有するパッキン本体と、パッキン本体に接した状態で設けられる剛性を有する補強部材と、を備え、補強部材は、パッキン本体の外周または内周の少なくとも一部を含む円弧状に埋設されていることを特徴としている。
【0007】
本発明では、補強部材の剛性によって変形性を有するパッキン本体が補強または安定保持されるので、軸受蓋の軸受側端面に対する取り付け状態が良好となり、環状充填室及び外側充填室からのグリースの漏れを防止することができる。
そして、補強部材が外周に埋設されている場合には、外側充填室の開口部が大きな場合であっても、パッキン本体の外側充填室の開口部上に重なる領域の変形を抑えることができ、パッキン本体が外側充填室内に落ち込むのを防止することができる。また、補強部材が内周に埋設されている場合には、外側充填室の開口部上に重なる領域に補強部材を通過させることができるので、パッキン本体の前記領域の変形を防ぐことができ、外側充填室内に落ち込むのを防止することができる。
【0008】
また、本発明に係る軸受パッキンでは、補強部材は、パッキン本体における外側充填室の外周縁端から半径方向の内方へ張り出した位置に埋設されていてもよい。
この場合、パッキン本体の外側充填室の開口部上に重なる領域の変形を補強部材により押さえることが可能となり、これによりパッキン本体が外側充填室内に落ち込むことを防ぐことができ、外側充填室内のグリース基油の流動を支障するといった不具合をなくすことができる。
【0009】
また、本発明に係る軸受パッキンでは、補強部材は、パッキン本体における外側充填室の開口部上に重なる領域の外郭部を囲む位置に埋設されていてもよい。
本発明では、外側充填室の開口部が大きな場合であっても、パッキン本体の外側充填室の開口部上に重なる領域の変形を抑えることができ、パッキン本体が外側充填室内に落ち込むのを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の軸受パッキンによれば、パッキン本体が剛性を有する補強部材によって補強されるので、軸受蓋の軸受側端面に対する取付け性が向上し、グリースの漏れを確実に防止することができる。また、パッキン本体の適宜な位置に補強部材を配置することで、パッキン本体の変形を抑えることができ、これによりグリース溜り内にパッキン本体が落ち込み、グリース溜り内のグリース基油の流動が支障されるといった不具合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施の形態による軸受パッキンを備える電動機枠体及びシャフトの断面図である。
【図2】軸受の第1軸受蓋の平面図であって、図1に示すA方向から見た図である。
【図3】図2に示すB−B線断面図である。
【図4】(a)は図2に示す第1軸受蓋の内側端面に軸受パッキンを配置させた状態の平面図、(b)は(a)に示すC−C線断面図である。
【図5】第2の実施の形態による軸受パッキンの平面図であって、図4(a)に対応する図である。
【図6】図5に示す軸受パッキンの平面図である。
【図7】第3の実施の形態による軸受パッキンの平面図であって、図4(a)に対応する図である。
【図8】第4の実施の形態による軸受パッキンの平面図であって、図4(a)に対応する図である。
【図9】第5の実施の形態による軸受パッキンの平面図であって、図4(a)に対応する図である。
【図10】第6の実施の形態による軸受パッキンの平面図であって、図4(a)に対応する図である。
【図11】第7の実施の形態による軸受パッキンの断面図であって、図4(b)に対応する図である。
【図12】第8の実施の形態による軸受パッキンの図であって、(a)は部分平面図、(b)は(a)に示すD−D線断面図である。
【図13】(a)は変形例による軸受パッキンの平面図、(b)は(a)に示すE−E線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による軸受パッキンの第1の実施の形態について、図1乃至図4に基づいて説明する。
図1は、本第1の実施の形態による軸受パッキンを備える電動機枠体2およびシャフト1を示している。シャフト1は、図示しないギア、車軸を介して主電動機の動力を車輪に伝えるものである。電動機枠体2は、電動機を収容する部材であり、鉄道車両の駆動用電動機(主電動機)を収容する外枠などである。すなわち、電動機枠体2は、フレーム3と、ブラケット4、5と、給脂栓6、7と、カラー8〜11と、軸受12、13と、軸受蓋14〜17などから構成されている。
【0013】
フレーム3は、図示しない電動機の固定子を固定し支持する部材であり、両端部にフランジ部3a、3bが形成されている。一方の第1ブラケット4は、フレーム3と第3軸受蓋16とを連結する部材であり、フレーム3のフランジ部3aと接合するフランジ部4aと、グリースGを充填するときにこのグリースGが流入する流路4bとが形成されている。
他方の第2ブラケット5は、フレーム3と第4軸受蓋17とを連結する部材であり、フレーム3のフランジ部3bと接合するフランジ部5aとが形成されている。
【0014】
給脂栓6、7は、流路4b、17cの流入口にねじ込まれてこれらの流入口を開閉自在に塞ぐ部材であり、給脂栓6、7にはこれらの流入口の内側に形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部が形成されている。カラー8〜11はシャフト1の両端部に嵌め込まれた円環状の部材である。
軸受12、13は、シャフト1を回転自在に支持する転がり軸受であり、第1軸受12は玉軸受であり、第2軸受13はころ軸受である。軸受12、13は、転動体12a、13aと、この転動体12a、13aを等間隔に保持する保持器12b、13bと、この保持器12b、13bの外側で回転する外輪12c、13cと、この保持器12b、13bの内側で回転する内輪12d、13dとから構成されている。ここで、軸受12、13は、内部にグリースGが過剰に詰め込まれるとこのグリースGの撹拌熱によって発熱するため、初期状態時には一般に空間容積の1/3程度のグリースGが詰め込まれている。
【0015】
第1軸受蓋14及び第3軸受蓋16は、第1軸受12を固定する部材であり、第2軸受蓋15及び第4軸受蓋17は第2軸受13を固定する部材である。これら軸受蓋14〜17は、アルミニウム又は鉄などからなる鋳造品や機械加工部品であり、第1軸受蓋14及び第2軸受蓋15は電動機枠体2の外側に、第3軸受蓋16及び第4軸受蓋17は電動機枠体2の内側に装着されている。第1軸受蓋14は、第3軸受蓋16との間で第1軸受12を挟み込むようにボルトによって第3軸受蓋16に固定されており、第2軸受蓋15は第2軸受13を挟み込むようにボルトによって第4軸受蓋17に固定されている。
第1軸受蓋14及び第2軸受蓋15は、いずれもほぼ同一の構造であり、図2及び図3に代表の第一軸受蓋の正面図と断面図を示す。また、第3軸受蓋16及び第4軸受蓋17についても、いずれもほぼ同一の構造となっている。
なお、以下では、第1軸受蓋14、第3軸受蓋16側について説明し、第2軸受蓋15、第4軸受蓋17側の部分については第1軸受蓋14、第3軸受蓋16側の部分と対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0016】
図2および図3に示すように、第1軸受蓋14は、充填室14aと貫通孔14e、14fとを備えている。充填室14aは、第1軸受12を潤滑するためのグリースGを充填する部分であり、環状充填室14bと、外側充填室14cとを有する。環状充填室14bと外側充填室14cは、図3に示すように、断面形状がそれぞれ略四角形に形成されており、互いに電動機枠体2の内側端面14g(本発明の軸受側端面に相当)側で結合して連通している。
【0017】
環状充填室14bは、第1軸受12を潤滑するためのグリースGを充填する部分である。環状充填室14bは、外輪12cと内輪12dとの間の間隙部(軸受開口部)に沿って形成されており、貫通孔14eを囲むように円環状に形成された凹状の溝である。
【0018】
外側充填室14cは、環状充填室14bに沿って外側に拡大して形成されており、この環状充填室14bの一部と結合する凹状の空胴である。環状充填室14b及び外側充填室14cは、内側端面14gに開口部を有する。外側充填室14cの外径は、外輪12cの外径寸法よりも大きく形成されている。外側充填室14cは、平面視(図2で紙面に向かう方向)左右方向で中心を挟んで対称位置に各2つずつで計4つが設けられている。
【0019】
貫通孔14eの内周側には、図1に示すカラー8が配置されている。貫通孔14fは、第1軸受蓋14を第3軸受蓋16に固定するためのボルトを挿入する挿入孔である。
【0020】
図1に示すように、第3軸受蓋16は、環状充填室16aと、貫通孔16bと、流路16cと、供給口16dなどを備えている。環状充填室16aは、第1軸受12を潤滑するためのグリースGを充填する部分である。環状充填室16aは、外輪12cと内輪12dとの間の間隙部に沿って形成されており、貫通孔16bを囲むように円環状に形成された凹部である。貫通孔16bの内周側にはカラー9が配置されている。流路16cは、グリースGを充填するときにこのグリースGが流入する部分であり、一方の端部(上流側)がブラケット4の流路4bと接続し、他方の端部(下流側)が第1軸受12に向かって開口している。供給口16dは、第1軸受12を通過して環状充填室14bにグリースGを供給するための開口部である。
【0021】
このような構成により、グリースGによって第1軸受12及び第2軸受13を潤滑する構造であって、環状充填室14b、15b内に封入されたグリースGを第1軸受12、第2軸受13に供給してこの軸受12、13を潤滑する。
そして、第1軸受12の径方向外側の位置で、第1軸受蓋14の内側端面14gと第3軸受蓋16の第1軸受蓋14側の端面(外側端面16e)との間には、軸受パッキン20(20A)が介挿されており、充填室14a内を循環するグリースGの漏れが防止される構成となっている。
【0022】
次に、軸受パッキン20について図4等に基づいて詳細に説明する。
ここで、軸受パッキン20についても、第1軸受12側と第2軸受13側でほぼ同一形状であるので、第1軸受12側の軸受パッキン20についてのみ説明し、第2軸受13側の軸受パッキン20については詳細な説明を省略する。
【0023】
図4(a)および(b)に示す軸受パッキン20(20A)は、図1に示すように、第1軸受蓋14の内側端面14gに沿って配置される平板状のゴム板21(パッキン本体)と、このゴム板21の一方の面(ここでは内側端面14g側の面、図4(a)ではゴム板21の裏面側)に配置される平板状補強部材22との複合パッキンである。すなわち、平板状補強部材22は、第1軸受蓋14とゴム板21とによって挟持された状態となっている。
【0024】
ゴム板21は、外径寸法が第1軸受蓋14とほぼ同径で、且つ内周部21aの内径寸法が第1軸受12の外径寸法にほぼ一致する略環状をなし、さらにボルト挿通用の貫通孔14f(図2参照)に対応する開口穴21bを開けた形状となっている。ゴム板21の材質としては、例えばニトリルゴム等を採用することができる。
平板状補強部材22は、ゴム板21と平面視同形状で、体積変形が少ない例えば金属板から形成されている。
【0025】
ゴム板21と平板状補強部材22は、適宜な接着剤により接着してもよいし、非接着状態であってもかまわない。平板状補強部材22の材質としては、必要な剛性をもつ材料として例えばアルミニウム、鉄などの金属製の部材を採用することができるが、金属製でなくてもよい。なお、アルミニウムの場合は、軟性を有することから、軸受パッキン20が押圧されたときにゴム板21とともに圧縮作用を期待できる。ただし、イオン化の傾向が異なるので電触防止の観点からアルマイト処理を行うようにする。
【0026】
また、ゴム板21と平板状補強部材22との接着には、耐油性の高いニトリルゴム系の接着剤、シリコン系接着剤等が使用される。なお、ゴム板21に押付け力が作用して平板状補強部材22と第1軸受蓋14との間が液密に接触するので、双方の間に液状パッキンは不要である。
【0027】
具体的なゴム板21の厚さ寸法としては、例えば、軸受パッキン20が介挿される隙間(すなわち、第1軸受蓋14の内側端面14gと第3軸受蓋16の外側端面16eとの間の隙間)のうち、ゴム板21が密封すべき隙間が2.5mmであるとき、ゴム弾性力に基づいて3mmに設定することができる。
【0028】
上述した本実施の形態による軸受パッキン20では、ゴム板21が剛性を有する平板状補強部材22によって補強されるので、第1軸受蓋14の内側端面14gに対する取付け性が向上し、環状充填室14b及び外側充填室14cからのグリースGの漏れを確実に防止することができる。
そして、本軸受パッキン20では、ゴム板21と同形状の平板状補強部材22を配置させるだけの簡単な構造であるので、加工が容易となる効果を奏する。
【0029】
また、ゴム板21の一方の面に平板状補強部材22を配置することで、ゴム板21の形状を保持した状態のまま第1軸受蓋14の内側端面14gに取り付けることができ、ゴム板21の変形を抑えることができる。そのため、ゴム板21がずれて外側充填室14c内に落ち込んだり、折れ曲がった状態で取り付けられるといった不具合をなくすことが可能となり、取付け性が向上し、これによりグリース漏れを防止することができる。
また、平板状補強部材22は、外側充填室14cの外周縁端から第1軸受蓋14の径方向の内側に向けて張り出した状態となっている。そのため、ゴム板21が外側充填室14c内に落ち込むことを防ぐことができ、外側充填室内のグリース基油の流動を支障するといった不具合をなくすことができる。
【0030】
次に、本発明の軸受パッキンによる他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。なお、必要に応じて、図1〜3の符号、部材を用いて説明する。
【0031】
図5に示すように、第2の実施の形態による軸受パッキン20Bは、切抜部23aを形成させたゴム板23(パッキン本体)と、このゴム板23の一方の面(図1に示す内側端面14g側の面、図5ではゴム板23の裏面側)に配置される外側リング補強部材24(補強部材、図5に示す点線)との複合パッキンである。すなわち、外側リング補強部材24は、図1に示す第1軸受蓋14とゴム板23とによって挟持された状態となっている。
【0032】
図5および図6に示すように、ゴム板23は、外径寸法が第1軸受蓋14とほぼ同径で、且つ内径寸法が第1軸受12の外径寸法に一致する略環状をなし、内周部23dは各外側充填室14cに重なる領域を切り抜いた形状の切抜部23aを有し、且つボルト挿通用の貫通孔14f(図2参照)に対応する開口穴23bを開けた形状となっている。
【0033】
外側リング補強部材24は、ゴム板23の外周部に沿って配置される円環状で、体積変形が少ない例えば金属板あるいは針金材であり、切抜部23aより外周側に位置する狭小部23cを通過するように配置され、その外周側狭小部23cを補強している。
なお、ゴム板23および外側リング補強部材24の材質は、上述した第1の実施の形態による図4に示すゴム板21、平板状補強部材22と同じであり、接着方法についても第1の実施の形態と同様であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0034】
ゴム板23の切抜部23aは、外側充填室14cの形状よりも僅かに大きめに成型することが好ましい。この場合、ゴム板23が押圧により面方向に拡大することにより外側充填室14c内にはみ出したり、ボルト挿通用の第1軸受蓋14の貫通孔14fを塞ぐといった不具合を防止することができる。
なお、ゴム板23の切抜部23aを外側充填室14cの形状よりも大きく切り抜き過ぎると、外側充填室14cの外周部と切抜部23aの内周部との間にできる隙間にグリースGあるいはグリースから浸み出た基油が溜まるので、このような隙間ができないように留意して切抜部23aの大きさを設定することが好ましい。
【0035】
また、本実施の形態では、軸受パッキン20Bの厚み分の空間ができるが、その部分にはグリースGを封入すればよい。
【0036】
このように構成される第2の実施の形態による軸受パッキン20Bでは、上述した第1の実施の形態と同様に、外側リング補強部材24の剛性によって変形性を有するゴム板23が補強されるので、第1軸受蓋14の内側端面14gに対する取り付け状態が良好となり、環状充填室14b及び外側充填室14cからのグリースGの漏れを防止することができる。
そして、ゴム板23の内周側に切抜部23aが形成されているので、その切抜部23aの外周側の狭小部23cに円環状の外側リング補強部材24を通過させて配置することが可能となり、その狭小部23cを補強することができる。
【0037】
また、外側充填室14cの開口部上に重なる領域のゴム板23を切り抜いて取り除かれた状態となるので、ゴム板23が外側充填室14c内に落ち込むことを防ぐことができ、外側充填室14c内のグリース基油の流動を支障するといった不具合をなくすことができる。
【0038】
そして、本軸受パッキン20Bでは、ゴム板23の面に沿って外側リング補強部材24を配置させるだけの簡単な構造であるので、加工が容易となる効果を奏する。
さらに、外側リング補強部材24によって補強された軸受パッキン20Bは、ゴム板23の形状を保持した状態のまま第1軸受蓋14の内側端面14gに取り付けることができ、ゴム板23がずれて外側充填室14c内に落ち込んだり、折れ曲がった状態で取り付けられるといった不具合をなくすことが可能となり、取付け性が向上し、これによりグリース漏れを防止することができる。
【0039】
図7に示すように、第3の実施の形態による軸受パッキン20Cは、平面視でリング状のゴム板21(パッキン本体)と、このゴム板21の一方の面(ここでは内側端面14g側の面、図6でゴム板23の裏面側))に沿って配置される内側リング補強部材28(補強部材、図7に示す点線)とからなる。すなわち、内側リング補強部材28は、図1に示す第1軸受蓋14とゴム板21とによって挟持されている。
【0040】
内側リング補強部材28は、ゴム板21の内周部21aに沿って配置される円環状の例えば金属板あるいは針金材であり、ゴム板21の外側充填室14cの開口部上に重なる領域が外側充填室14c側に落ち込まないように支持し、補強する機能を有している。
【0041】
本第3の実施の形態による軸受パッキン20Cでは、外側充填室14cの開口部上に重なる領域に内側リング補強部材24を通過させることができるので、ゴム板21の前記領域の変形を抑えることが可能となり、これによりゴム板21が外側充填室14c内に落ち込むことを防ぐことができ、外側充填室14c内のグリース基油の流動を支障するといった不具合をなくすことができる。
【0042】
次に、図8〜図10に示す第4〜6の実施の形態による軸受パッキン20D、20E、20Fはいずれも、上述した第1の実施の形態のゴム板21を用いるとともに、平面視で外側充填室14cに重なる領域の外郭部を囲むように配された枠状補強部材25、26、27(補強部材)を設けた構造である。枠状補強部材25、26、27は、上述した外側リング補強部材24(図4)や内側リング補強部材28(図7)と同様の体積変形の少ない例えば金属板あるいは針金材などの金属製の部材が採用される。
【0043】
図8に示す第4の実施の形態の軸受パッキン20Dは、4箇所の外側充填室14c、14c、…のそれぞれの開口部上に重なる領域の外郭部に枠状補強部材25が配置された構成となっている。
【0044】
図9に示す第5の実施の形態の軸受パッキン20Eは、4箇所の外側充填室14c、14c、…のうち対になる2箇所の外側充填室14c、14cの開口部上に重なる領域を囲う外郭部に枠状補強部材26が配置された構成となっている。
【0045】
図10に示す第6の実施の形態の軸受パッキン20Fは、4箇所の外側充填室14c、14c、…のうち対になる2箇所の外側充填室14c、14cの開口部上に重なる領域を囲う外郭部に設けられた枠部27aと、この枠部27aの内側に縦横に配置され枠部27aに接続した支持部27b、27cとを有する枠状補強部材27が配置された構成となっている。
【0046】
上記第4〜第6の実施の形態による軸受パッキン20D、20E、20Fでは、外側充填室14cの開口部が大きな場合であっても、ゴム板21の外側充填室14cの開口部上に重なる領域の変形を抑えることができ、ゴム板21が外側充填室14c内に落ち込むのを防止することができる。
【0047】
次に、図11に示すように、第7の実施の形態の軸受パッキン20Gは、上述した第1の実施の形態による軸受パッキン20Aにおける補強板22(図4(b)参照)が第1軸受蓋14に一体的に設けられた構成となっている。なお、第2軸受蓋15(図1)も第1軸受蓋14と同様の構成であるので、第1軸受蓋14について以下説明する。
第7の実施の形態の第1軸受蓋14は、端面14gに所定厚さをなすとともに、ゴム板21と同形状で一定の幅寸法を有する補強部14h(補強部材)が設けられている。なお、この補強部14hは、第1軸受部14と別で製作してから接着等により第1軸受部14に一体とする製造方法によるものでもよいし、第1軸受部14の製造時に予め一体で形成する製造方法によるものであってもかまわない。
本第7の実施の形態では、第1軸受部14に対する加工がゴム板21のみとなるので、部品点数が減り、製造工程の手間と時間の低減を図ることができる。
【0048】
また、図12(a)、(b)に示すように、第8の実施の形態による軸受パッキン20Hは、上述した第7の実施の形態による補強部14h(図11)に代えて、外側充填室14cにおける張り出し長さを変更したものである。すなわち、第7の実施の形態の補強部14hでは外側充填室14cの開口をほぼ覆うように設けられているが、本第8の実施の形態では外側充填室14cにおいて、補強部14jの幅寸法を小さくし、外周縁端14iからの張り出し長さを短くしたものであり、その張り出し端部の位置が外側充填室14cの開口の径方向で略半分の位置となっている。そして、この補強部14j上に重なってゴム板21が配置されている。
この場合、補強部14hで外側充填室14cの開口全体を塞ぐことがなくなるので、グリースの充填や清掃の作業性が向上される利点がある。
【0049】
以上、本発明による軸受パッキンの第1〜第8の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では平板状補強部材22、外側リング補強部材24、内側リング補強部材28、枠状補強部材25〜27をゴム板21、23の第1軸受蓋14側に設けているが、これに限定されることはなく、ゴム板21、23のどちらの面に補強部材を配置してもよく、ゴム板21、23の第3軸受蓋16側に設けてもよい。そして、例えば2枚のパッキン本体同士によって補強部材を挟持させる構成とすることも可能である。
さらに、パッキン本体の面側に補強部材が接した状態とする構成であることに制限されることはなく、パッキン本体内に補強部材が埋設された構成であってもよい。
【0050】
そして、本実施の形態では軸受パッキン20(20A〜20F)を介挿する部分の軸受蓋14、16のそれぞれ端面14g、16eは平坦面としているが、補強部材分だけ厚みが大きくなるので、その補強部材の厚み分に相当する溝を軸受蓋14、16の端面14g、16eやゴム板21、23に形成しておくことが好ましい。この場合、円環状をなす補強部材(上述した第2及び第3の実施の形態による外側リング補強部材24、内側リング補強部材24)の方が加工上有利である。
【0051】
補強部材としては、パッキン本体にリング状の溝を切ってリング状の補強部材を係合させる場合にはOリングや、溝に嵌合させてパッキン本体に張力を付与可能なスプリングのようなものでもよい。
さらに、補強部材22、24〜28の位置、形状、大きさ等は、本実施の形態に制限されることはない。
【0052】
さらにまた、本実施の形態では、鉄道車両の主電動機のシャフト1を支持する軸受12、13を例に挙げて説明したがこれに限定するものではなく、この発明は軸受一般に適用することができる。
【0053】
また、図13(a)、(b)に示す変形例のように、第1の実施の形態の軸受パッキン20Aに代えて、第1軸受蓋14の外側充填室14cの開口部上に重なる領域のゴム板21、及び平板状補強部材22を切り抜いて取り除かれた軸受パッキン20Iを採用しても良い。この場合は、外側充填室の縁となる狭小部において、パッキン本体が外側充填室内に落ち込むことを防ぐため、パッキン本体と補強部材とは接着している方が有利である。
この場合も、パッキン本体21が外側充填室14c内に落ち込むのを防ぐことができるうえ、平板状補強部材22の使用部材量が少なくなるので軽量化を図ることができる。
【0054】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した複数の実施の形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 シャフト
2 電動機枠体
12 第1軸受
13 第2軸受
14 第1軸受蓋
14a 充填室
14b 環状充填室
14c 外側充填室
14g 内側端面(軸受側端面)
14h、14j 補強部(補強部材)
15 第2軸受蓋
16 第3軸受蓋
16e 外側端面
17 第4軸受蓋
20(20A〜20I) 軸受パッキン
21、23 ゴム板(パッキン本体)
23a 切抜部
23b 開口穴
23c 狭小部
22 平板状補強部材(補強部材)
24 外側リング補強部材(補強部材)
25、26、27 枠状補強部材(補強部材)
28 内側リング補強部材(補強部材)
G グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受の外輪と内輪との間の間隙部に沿って環状に形成され軸受側端面に開口部を有する環状充填室と、該環状充填室の外側に部分的に拡大して形成され前記軸受側端面に開口部を有する外側充填室とを備えた軸受蓋の前記軸受側端面に設けられる軸受パッキンであって、
前記軸受側端面に配置される変形性を有するパッキン本体と、
該パッキン本体に接した状態で設けられる剛性を有する補強部材と、
を備え、
前記補強部材は、前記パッキン本体の外周または内周の少なくとも一部を含む円弧状に埋設されていることを特徴とする軸受パッキン。
【請求項2】
前記補強部材は、前記パッキン本体における前記外側充填室の外周縁端から半径方向の内方へ張り出した位置に埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受パッキン。
【請求項3】
前記補強部材は、前記パッキン本体における前記外側充填室の開口部上に重なる領域の外郭部を囲む位置に埋設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸受パッキン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−255561(P2012−255561A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−209863(P2012−209863)
【出願日】平成24年9月24日(2012.9.24)
【分割の表示】特願2010−272831(P2010−272831)の分割
【原出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】