説明

軸受構造

【課題】オイルシールの寿命を従来よりも向上し得るようにした軸受構造を提供する。
【解決手段】車軸の端部に突設された軸部4に対しユニットベアリング3を介して回転自在にハブ2を外嵌装着し、車軸の内部に軸部4側からドライブシャフト13を挿し込み且つその反挿し込み側のフランジ部分13aをハブ2に締結して該ハブ2をドライブシャフト13を介し回転駆動し得るようにした軸受構造に関し、ハブ2内におけるユニットベアリング3とフランジ部分13aに挟まれた空間に、ハブ2の内周面に全周に亘り嵌合し且つその半径方向内側に向け壁面を成して前記ドライブシャフト13側に対し液密に圧接するシールリング16を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸の端部に車輪を回転自在に支持させるための軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5はトラックの車軸に用いられている従来の軸受構造の一例を示すもので、車軸1(アクスル)の端部に図示しない車輪を取り付けるためのハブ2がユニットベアリング3を介し回転自在に支持されており、このユニットベアリング3は、車軸1の端部に車幅方向外側(図5中の右側)に向けて突設された軸部4の周囲に嵌挿されるインナーレース5と、該インナーレース5の外周に転動自在に設置される転動体(コロ)6と、前記インナーレース5の外周に配設されて前記転動体6を転動自在に抱持するアウターレース7と、該アウターレース7及び前記インナーレース5の相互間の隙間を車幅方向両側で塞いでグリス(特に図示せず)を封じ込めるオイルシール8及びダストシール9とを予めユニット化したアッセンブリとなっている。
【0003】
また、前記ユニットベアリング3は、ハブ2の内周部に対し圧入されてアウターレース7が前記ハブ2の内周面とタイトな嵌め合い状態を成すようになっており、該ハブ2における車幅方向内側(図5中の左側)には、ユニットベアリング3のアウターレース7を突き当てて位置決めするための突き当て部10が形成されている。
【0004】
一方、前記インナーレース5は、前記車軸1の軸部4に対し作業性を考慮した隙間嵌め(ルーズフィット)となっており、前記インナーレース5を前記軸部4の段差11に突き当てて反対側からスピンドルナット12で締め付けることにより固定されるようになっている。
【0005】
更に、車軸1の内部には、図示しない車輪をハブ2と共に回転駆動するためのドライブシャフト13が軸部4側から挿し込まれており、該ドライブシャフト13の反挿し込み側の端部に備えられたフランジ部分13aが図示しないネジにより前記ハブ2の外側面に締結されるようにしてある。
【0006】
ここで、前記ユニットベアリング3における車幅方向内側のダストシール9は、内部のグリスを封じ込める役割だけでなく、外部からの水や異物の侵入を防ぐ役割も果たすようになっており、また、車幅方向外側のオイルシール8は、車軸1の軸部4とドライブシャフト13の軸部分13bとの間の隙間から漏れ出るデフオイル14がユニットベアリング3内に侵入しないように防ぐ役割も果たすようになっている。
【0007】
尚、図5中における符号の15はハブ2に取り付けられているタイヤホイールを示し、ここに図示している例では、片輪に2本のタイヤを取り付けるWタイヤ形式の場合で例示している。
【0008】
また、この種の軸受構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−232234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
斯かる従来構造において、ユニットベアリング3の車幅方向外側に配置されるオイルシール8は、車軸1の軸部4とドライブシャフト13の軸部分13bとの間の隙間から漏れ出るデフオイル14のユニットベアリング3内への侵入を防ぐようにしたものであり、このデフオイル14が摺動面に供給されていないと、摩耗が促進されて寿命が短くなってしまうため、ハブ2内におけるユニットベアリング3とドライブシャフト13のフランジ部分13aとに挟まれた空間に前記デフオイル14をオイルシール8の下端部を浸し得るレベルで貯留させておく必要がある。
【0011】
しかしながら、このようにハブ2内にデフオイル14が溜まっている状態で保守点検時にドライブシャフト13のフランジ部分13aをハブ2の外側面から取り外すと、図6に示す如く、前記ハブ2内に溜まっていたデフオイル14が流れ出てタイヤホイール15や作業現場を汚してしまうという問題があった。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、保守点検時にドライブシャフトのフランジ部分をハブの外側面から取り外してもデフオイルが流れ出ないようにした軸受構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、車軸の端部に突設された軸部に対しユニットベアリングを介してハブを回転自在に外嵌装着し、前記車軸の内部に軸部側からドライブシャフトを挿し込み且つその反挿し込み側の端部に備えられたフランジ部分を前記ハブの車幅方向外側に締結して該ハブを前記ドライブシャフトを介し回転駆動し得るようにした軸受構造において、前記ハブ内における前記ユニットベアリングと前記ドライブシャフトのフランジ部分とに挟まれた空間に、前記ハブの内周面に全周に亘り嵌合し且つその半径方向内側に向け壁面を成して前記ドライブシャフト側に対し液密に圧接するシールリングを設けたことを特徴とするものである。
【0014】
而して、このようにすれば、車軸の軸部とドライブシャフトの軸部分との間の隙間から漏れ出るデフオイルがシールリングにより堰き止められ、該シールリングよりも車幅方向外側には流出しなくなるので、保守点検時にドライブシャフトのフランジ部分をハブの外側面から取り外してもデフオイルが流れ出ることがなくなる。
【0015】
尚、シールリングはドライブシャフト側と一体的に回転するようになっており、ドライブシャフト側に対し摩擦を生じることがないため、シールリングのシール性能は長期間に亘り高く保持されることになる。
【0016】
また、本発明においては、ハブの内周面における車幅方向外側端にシールリングの外周部を嵌合させるための段差部を形成すると共に、該段差部に嵌合させたシールリングの外周部をドライブシャフトのフランジ部分により挾圧保持し得るように構成することが好ましい。
【0017】
このようにすれば、シールリングの外周部が段差部に嵌合した状態でドライブシャフトのフランジ部分により挾圧保持されるようになっているので、ハブの内周面に対するシールリングの嵌合状態を安定して保持することが可能となり、しかも、ハブの内周面とシールリングの外周部との間からのデフオイルの漏出が防止され、ドライブシャフトのフランジ部分とハブとの締結部からデフオイルが滲み出る虞れがなくなる。尚、このようにハブの内部から外部へのデフオイルの漏出が防止されるだけでなく、外部からの水やダストの混入が防止される効果も得られることは勿論である。
【発明の効果】
【0018】
上記した本発明の軸受構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0019】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、車軸の軸部とドライブシャフトの軸部分との間の隙間から漏れ出るデフオイルをシールリングで堰き止めることができ、該シールリングよりも車幅方向外側にデフオイルを流出させないようにすることができるので、保守点検時にドライブシャフトのフランジ部分をハブの外側面から取り外してもデフオイルが流れ出ないようにすることができ、これによりタイヤホイールや作業現場を汚してしまう虞れを未然に回避することができる。
【0020】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、ハブの内周面に対するシールリングの嵌合状態を安定して保持することができると共に、ハブの内周面とシールリングの外周部との間からのデフオイルの漏出を防止することができてドライブシャフトのフランジ部分とハブとの締結部からデフオイルが滲み出る虞れを未然に回避することができ、しかも、外部からの水やダストの混入を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1のシールリングの詳細を示す断面図である。
【図3】本発明の別の形態例を示す断面図である。
【図4】本発明の更に別の形態例を示す断面図である。
【図5】従来例を示す断面図である。
【図6】図5のドライブシャフトのフランジ部分を取り外した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0024】
図1に示す如く、本形態例の軸受構造においては、先に図5で説明した従来の車軸構造と基本的な構成は同様であり、車軸1の端部に突設された軸部4に対しユニットベアリング3を介して回転自在にハブ2を外嵌装着し、前記車軸1の内部に軸部4側からドライブシャフト13を挿し込み且つその反挿し込み側の端部に備えられたフランジ部分13aを前記ハブ2の車幅方向外側に締結して該ハブ2を前記ドライブシャフト13を介し回転駆動し得るようにした軸受構造となっているが、前記ハブ2内における前記ユニットベアリング3と前記ドライブシャフト13のフランジ部分13aとに挟まれた空間に、前記ハブ2の内周面に全周に亘り嵌合し且つその半径方向内側に向け壁面を成して前記ドライブシャフト13側に対し液密に圧接するシールリング16が設けられている点で異なっている。
【0025】
ここで、前記シールリング16は、その内周部に半径方向外側に折り返す折り返し部分16aを有しており、該折り返し部分16aの内周側がドライブシャフト13の軸部分13bに対し液密に圧接するリップ部を成し、前記折り返し部分16aの外周側には、コイルスプリングをリング状に繋げたリングばね17が装着されていて、該リングばね17の復元力により前記リップ部がドライブシャフト13の軸部分13bに圧接されるようになっている。
【0026】
しかも、ここに図示している例の場合、ハブ2の内周面における車幅方向外側端に、シールリング16の外周部を嵌合させるための段差部18が形成されており、該段差部18に嵌合させたシールリング16の外周部がドライブシャフト13のフランジ部分13aにより挾圧保持されるようにしてある。
【0027】
また、図2に拡大して示す如く、前記シールリング16は、強度部材として機能する金属盤16xにゴム16yを加硫接着して製作されており、特にシールリング16の外周部分は周囲がゴム16yで被包された状態となっていて、このゴム16yを段差部18内でドライブシャフト13のフランジ部分13aにより挾圧保持されることで高いシール性が発揮されるようになっている。尚、特に図示していないが、ドライブシャフト13の軸部分13bに圧接されるリップ部もゴム16yで形成されるようになっていることは勿論である。
【0028】
而して、このように軸受構造を構成すれば、図1に図示されている通り、車軸1の軸部4とドライブシャフト13の軸部分13bとの間の隙間から漏れ出るデフオイル14がシールリング16により堰き止められ、該シールリング16よりも車幅方向外側には流出しなくなるので、保守点検時にドライブシャフト13のフランジ部分13aをハブ2の外側面から取り外してもデフオイル14が流れ出ることがなくなる。
【0029】
尚、シールリング16はドライブシャフト13側と一体的に回転するようになっており、ドライブシャフト13側に対し摩擦を生じることがないため、シールリング16のシール性能は長期間に亘り高く保持されることになる。
【0030】
また、シールリング16の外周部が段差部18に嵌合した状態でドライブシャフト13のフランジ部分13aにより挾圧保持されるようになっているので、ハブ2の内周面に対するシールリング16の嵌合状態を安定して保持することが可能となり、しかも、ハブ2の内周面とシールリング16の外周部との間からのデフオイル14の漏出が防止され、ドライブシャフト13のフランジ部分13aとハブ2との締結部からデフオイル14が滲み出る虞れがなくなる。尚、このようにハブ2の内部から外部へのデフオイル14の漏出が防止されるだけでなく、外部からの水やダストの混入が防止される効果も得られることは勿論である。
【0031】
従って、上記形態例によれば、車軸1の軸部4とドライブシャフト13の軸部分13bとの間の隙間から漏れ出るデフオイル14をシールリング16で堰き止めることができ、該シールリング16よりも車幅方向外側にデフオイル14を流出させないようにすることができるので、保守点検時にドライブシャフト13のフランジ部分13aをハブ2の外側面から取り外してもデフオイル14が流れ出ないようにすることができ、これによりタイヤホイール15(図5及び図6参照)や作業現場を汚してしまう虞れを未然に回避することができる。
【0032】
また、ハブ2の内周面に対するシールリング16の嵌合状態を安定して保持することができると共に、ハブ2の内周面とシールリング16の外周部との間からのデフオイル14の漏出を防止することができてドライブシャフト13のフランジ部分13aとハブ2との締結部からデフオイル14が滲み出る虞れを未然に回避することができ、しかも、外部からの水やダストの混入を防止することもできる。
【0033】
図3は本発明の別の形態例を示すもので、ここに図示している例では、シールリング16の内周部がドライブシャフト13の軸部分13bに突き当たらない位置までに留められており、その内周部にドライブシャフト13のフランジ部分13aに向け張り出して該フランジ部分13aに対し変形反力で液密に圧接するようにした膨出部16bが形成されている。
【0034】
このようにした場合にも、車軸1の軸部4とドライブシャフト13の軸部分13bとの間の隙間から漏れ出るデフオイル14がシールリング16により堰き止められ、該シールリング16よりも車幅方向外側には流出しなくなるので、保守点検時にドライブシャフト13のフランジ部分13aをハブ2の外側面から取り外してもデフオイル14が流れ出ることがなくなる。
【0035】
また、図4は本発明の更に別の形態例を示すもので、ここに図示している例では、図1の形態例における折り返し部分16aを備えたシールリング16に図3の膨出部16bを追加した構造のシールリング16を採用したものである。
【0036】
このようなシールリング16によれば、ドライブシャフト13の軸部分13b及びフランジ部分13aとの間で二重にデフオイル14の流出をシールすることが可能となり、より確実に保守点検時におけるデフオイル14の流れ出しを防止することができる。
【0037】
尚、本発明の軸受構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
1 車軸
2 ハブ
3 ユニットベアリング
4 軸部
13 ドライブシャフト
13a フランジ部分
13b 軸部分
14 デフオイル
16 シールリング
18 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸の端部に突設された軸部に対しユニットベアリングを介してハブを回転自在に外嵌装着し、前記車軸の内部に軸部側からドライブシャフトを挿し込み且つその反挿し込み側の端部に備えられたフランジ部分を前記ハブの車幅方向外側に締結して該ハブを前記ドライブシャフトを介し回転駆動し得るようにした軸受構造において、前記ハブ内における前記ユニットベアリングと前記ドライブシャフトのフランジ部分とに挟まれた空間に、前記ハブの内周面に全周に亘り嵌合し且つその半径方向内側に向け壁面を成して前記ドライブシャフト側に対し液密に圧接するシールリングを設けたことを特徴とする軸受構造。
【請求項2】
ハブの内周面における車幅方向外側端にシールリングの外周部を嵌合させるための段差部を形成すると共に、該段差部に嵌合させたシールリングの外周部をドライブシャフトのフランジ部分により挾圧保持し得るように構成したことを特徴とする請求項1に記載の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−40972(P2012−40972A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184752(P2010−184752)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】