説明

軸受用空気抜き栓およびその製造方法

【課題】撥水性および撥油性に優れた軸受用空気抜き栓を提供する。
【解決手段】この空気抜き栓1を構成する通気部材14は、ステンレス製金網、グラスウール、ガラスフィルター、合成繊維製の布などからなる。通気部材14を、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下である酸性溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13であるアルカリ性溶液に接触させることで、通気部材14に撥水撥油層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用空気抜き栓(転がり軸受の内輪、外輪、転動体で囲まれた軸受空間と外部とを通じさせる貫通穴に取り付けて使用される空気抜き栓)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や産業機械などに使用される密封型転がり軸受は、長期間使用していると、軸受内圧が上昇して、軸受空間の温度が上昇し、シールが熱を持つ恐れがある。これを防止するために、軸受空間と外部とを通じさせる貫通穴を外輪等に設け、この貫通穴に空気抜き栓を取り付けることが行われている(例えば、特許文献1を参照)。
下記の特許文献2には、圧延機のロールネック軸受(ロール支持用の転がり軸受)の密封装置(シール)として、軸方向に並んで存在する第1シールリップと第2シールリップの間に貫通穴を設け、この貫通穴の開口を、空気が通過自在で水および油が通過できない性質の多孔質部材で塞ぐことが記載されている。
【0003】
この多孔質部材として、(a) ゴアテックス(商品名、ポリテトラフルオロエチレンを延伸加工したフィルムとポリウレタンポリマーを複合化して得られた防水透湿性素材)と、(b) ポリテトラフルオロエチレンを延伸加工したフィルム(ポリテトラフルオロエチレンシート)に、毛および繊維を圧縮して形成した不織布を貼り合わせた材料が例示されている。
【特許文献1】特開2006―226503号公報
【特許文献2】特開2008―106825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、撥水性および撥油性に優れた軸受用空気抜き栓に関する記載がなく、特許文献2には、前述の特殊な防水透湿性素材についての記載しかない。
本発明の課題は、様々な素材からなる通気部材(通気孔を形成する部材)を備えた軸受用空気抜き栓として、撥水性および撥油性に優れたものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、転がり軸受の内輪、外輪、転動体で囲まれた軸受空間と外部とを通じさせる貫通穴に取り付けて使用される空気抜き栓であって、通気孔を形成する通気部材と、通気部材の表面に形成された撥水撥油層と、を有することを特徴とする軸受用空気抜き栓を提供する。
前記撥水撥油層は、金属酸化物層からなる中間層を介して前記通気部材の表面に形成されていることが好ましい。
【0006】
通気部材の材質としては、表面に水酸基(−OH)が形成できるものであればよく、金属、合成樹脂、合成繊維、セラミックス、ガラスなどが挙げられる。特に、表面が酸化物系の物質で覆われている、金属、ガラス、セラミックスが好ましい。金属の中では、鉄系の金属が好ましい。中でも、軸受鋼、ステンレス鋼等の鉄鋼であることが好ましい。特に、不動態化処理を施されたステンレス鋼であることが好ましい。通気部材が合成樹脂製や合成繊維製である場合は、プラズマ処理、グロー放電、コロナ放電、紫外線照射等の親水化処理を施すことで表面に水酸基を形成できる。
【0007】
本発明は、また、本発明の軸受用空気抜き栓の製造方法であって、前記撥水撥油層は、前記通気部材を、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下(好ましくはpH1〜6、より好ましくはpH1〜5、さらに好ましくはpH2〜4)である酸性溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13であるアルカリ性溶液に接触させることで形成することを特徴とする軸受用空気抜き栓の製造方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、使用する酸性溶液のpHを6以下とすることで、前記フッ素系カップリング剤の加水分解反応が促進される。また、使用するアルカリ性溶液のpHを11以上とすることにより、前記加水分解反応生成物の水酸基(−OH)と前記通気部材の表面の水酸基(−OH)との脱水縮合反応が促進される。その結果、前記通気部材の表面に撥水撥油層が強固に化学結合された状態で形成される。
【0009】
本発明は、また、本発明の好ましい軸受用空気抜き栓の製造方法であって、前記金属酸化物層および撥水撥油層は、前記通気部材を、水と、金属種がシリコン、チタン、もしくはアルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるアルキルアルコキシ金属塩、またはハロゲンアルコキシ金属塩と、炭素数1〜6の低級アルコールを必須成分とし、pHが6以下(好ましくはpH1〜6、より好ましくはpH1〜5、さらに好ましくはpH2〜4)である第一の酸性溶液に接触させた後、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第一のアルカリ性溶液に接触させることにより、前記通気部材の表面に金属酸化物層を形成する第1の工程と、第1の工程の後に、前記通気部材を、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下(好ましくはpH1〜6、より好ましくはpH1〜5、さらに好ましくはpH2〜4)である第二の酸性溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第二のアルカリ性溶液に接触させる第2の工程と、を含む方法で形成することを特徴とする軸受用空気抜き栓の製造方法を提供する。
【0010】
この方法によれば、第1の工程で使用する第一の酸性溶液のpHを6以下とすることで、前記アルキルアルコキシ金属塩またはハロゲンアルコキシ金属塩の加水分解反応が促進される。また、第1の工程で使用する第一のアルカリ性溶液のpHを11以上とすることにより、前記加水分解反応生成物の水酸基(−OH)と前記通気部材の表面の水酸基(−OH)との脱水縮合反応が促進される。その結果、前記通気部材の表面に金属酸化物層が強固に化学結合された状態で形成される。
【0011】
また、第2の工程で使用する第二の酸性溶液のpHを6以下とすることで、前記フッ素系カップリング剤の加水分解反応が促進される。また、第2の工程で使用する第二のアルカリ性溶液のpHを11以上13以下とすることにより、前記加水分解反応生成物の水酸基(−OH)と前記金属酸化層表面の水酸基(−OH)との脱水縮合反応が促進される。その結果、前記金属酸化物層の表面に撥水撥油層が強固に化学結合された状態で形成される。
【0012】
アルコキシ金属塩(前記アルキルアルコキシ金属塩およびハロゲンアルコキシ金属塩)の具体例としては、金属種がシリコンである、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラクロロシラン、金属種がチタンである、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、テトラブトキシチタネート、金属種がアルミナである、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネートが挙げられる。
【0013】
使用する酸性溶液が炭素数1〜6の低級アルコールを含むことにより、前記アルコキシ金属塩およびフッ素系カップリング剤の溶解度を高め、安定した溶液となる。炭素数1〜6の低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等が好適に使用できる。より好ましくは、エタノールを用いる。
【0014】
使用するアルカリ性溶液は、特に、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等も使用できる。
前記第1の工程と第2の工程を含む方法では、第2の工程で使用するシリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤として、第1の工程で使用するアルコキシ金属塩の金属種と同じ金属種を有するものを使用することが好ましい。
【0015】
使用するフッ素系カップリング剤としては、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリクロロシラン−3−ヘプタフルオロイソプロポキシプロピルトリクロロシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロドデシルトリエトキシシラン、3−トリフルオロアセトキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0016】
なお、撥油性を必要としない場合には、撥水撥油層に変えて撥水層を形成することでコストを低く抑えることができる。その場合に使用するカップリング剤としては、n−オクチルトリクロロシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−ノニルトリクロロシラン、n−ノニルトリメトキシシラン、n−ノニルトリエトキシシラン、n−デシルトリクロロシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−ウンデシルトリクロロシラン、n−ウンデシルトリメトキシシラン、n−ウンデシルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリクロロシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、様々な素材からなる通気部材(通気孔を形成する部材)を備えた軸受用空気抜き栓として、撥水性および撥油性に優れたものが提供される。
本発明の空気抜き栓を軸受の貫通穴に取り付けることにより、空気抜き栓から軸受内部へ水が浸入することが抑制されるとともに、軸受内部の潤滑剤が空気抜き栓から外部に漏洩することが抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の軸受用空気抜き栓の第1実施形態を示す断面図である。
この空気抜き栓1は、転がり軸受の外輪2に形成された貫通穴21に内嵌される弾性素材からなる環状体11と、その内周面11aに取り付けられた芯金12、ワッシャー部材13、通気部材14とからなる。外輪2に形成された貫通穴21は、軸受空間3と外部を通じさせている。図1において、軸受空間3内に見える転動体などは省略している。
【0019】
通気部材14は、ステンレス製金網、グラスウール、ガラスフィルター、合成繊維製の布などからなる。ステンレス製金網としては、50メッシュ(目開き0.328mm)、200メッシュ(目開き0.077mm)、350メッシュ(目開き0.042mm)、500メッシュ(目開き0.026mm)の4種類を用意した。ステンレス製金網からなる通気部材の通気孔は金網の目であり、目開き寸法が通気孔の寸法に相当する。
【0020】
グラスウール(ガラスを綿状に繊維化したもの)としては、密度が10kg/m3 であり、厚さ0.3mmの板状のものを用意した。グラスウールからなる通気部材の通気孔は繊維の隙間である。ガラスフィルターとしては、No. 1(孔径100〜160μm)、No. 3(孔径16〜40μm)、No. 5(孔径4〜5.5μm)の3種類を用意した。ガラスフィルターからなる通気部材の通気孔はフィルターの孔であり、孔径が通気孔の寸法に相当する。合成繊維製の布としてはポリエステル製とナイロン製の2種類を用意した。合成繊維製の布からなる通気部材の通気孔は繊維の隙間である。
【0021】
通気部材14はワッシャー部材13に固定されている。芯金12はドーナツ状であり、中心の穴12aの直径は200μmであり、環状体11の内周面11aをなす円の直径より小さい。ワッシャー部材13の内径は、芯金12の穴12aの径より大きく、環状体11の内周面11aの径より小さい。
通気部材14には、下記の各方法により、撥水撥油層が形成されるか、金属酸化物層と撥水撥油層が形成されている。
【0022】
[サンプルNo. 1−1〜1−4]
1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%の割合で含有し、pHが3になるように塩酸を加えた水溶液(酸性溶液)を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、ステンレス製金網からなる通気部材14を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0023】
30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、通気部材14をなす金網を構成する針金に撥水撥油層が形成された。
【0024】
[サンプルNo. 2−1〜2−4]
テトラエトキシシランを6.1質量%、水6.1質量%、エタノールを87.8質量%の割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液(第一の酸性溶液)を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、ステンレス製金網からなる通気部材14を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0025】
30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(第一のアルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。ここまでの第1の工程により、通気部材14をなす金網を構成する針金にシリカ被膜(金属酸化物層)が形成された。
【0026】
次に、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%の割合で含有し、pHが3になるように塩酸を加えた水溶液(第二の酸性溶液)を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、第1の工程後のステンレス製金網からなる通気部材14を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0027】
30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(第二のアルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、通気部材14のシリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
このようにして、通気部材14をなす金網を構成する針金にシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層が形成された。
【0028】
[サンプルNo. 3]
1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%の割合で含有し、pHが3になるように塩酸を加えた水溶液(酸性溶液)を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、グラスウールからなる通気部材14を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0029】
30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、通気部材14をなすグラスウールを構成するガラス繊維に撥水撥油層が形成された。
[サンプルNo. 4−1〜4−3]
1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%の割合で含有し、pHが3になるように塩酸を加えた酸性溶液を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、ガラスフィルターからなる通気部材14を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0030】
30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、通気部材14をなすガラスフィルターを構成するガラス繊維に撥水撥油層が形成された。
【0031】
[サンプルNo. 5−1,5−2]
1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%の割合で含有し、pHが3になるように塩酸を加えた酸性溶液を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、合成繊維製の布に対してプラズマ処理を行って表面に水酸基を形成した通気部材14を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0032】
30分間の浸漬後、この通気部材14を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、通気部材14をなす布を構成する合成繊維に撥水撥油層が形成された。
【0033】
[サンプルNo. 6−1,6−2]
テトラエトキシシランを6.1質量%、水6.1質量%、エタノールを87.8質量%の割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液(第一の酸性溶液)を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、合成繊維製の布に対してプラズマ処理を行って表面に水酸基を形成した通気部材14を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0034】
30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(第一のアルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。ここまでの第1の工程により、通気部材14をなす布を構成する合成繊維にシリカ被膜(金属酸化物層)が形成された。
【0035】
次に、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%の割合で含有し、pHが3になるように塩酸を加えた水溶液(第二の酸性溶液)を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、第1の工程後の合成繊維製の布からなる通気部材14を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0036】
30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(第二のアルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材14を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、通気部材14のシリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
このようにして、通気部材14をなす布を構成する合成繊維にシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層が形成された。
【0037】
[第2実施形態]
図2は、本発明の軸受用空気抜き栓の第2実施形態を示す断面図である。
この空気抜き栓1Aは、転がり軸受の外輪2に形成された貫通穴21に内嵌される弾性素材からなる環状体11と、その内周面11aに取り付けられたドーナツ状の芯金15と、この芯金15の表面に形成された被膜16とからなる。この芯金15が通気部材であり、その中心の穴15aが通気孔である。穴15aの直径は200μmであり、これが通気部材(芯金)15の通気孔の直径に相当する。外輪2に形成された貫通穴21は、軸受空間3と外部を通じさせている。図2において、軸受空間3内に見える転動体等は省略している。
この芯金(通気部材)15はSPCC製であり、下記の各方法により、撥水撥油層からなる被膜16または金属酸化物層と撥水撥油層からなる被膜16が形成されている。
【0038】
[サンプルNo. 7]
1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%の割合で含有し、pHが3になるように塩酸を加えた酸性溶液を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、SPCC製の通気部材15を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0039】
30分間の浸漬後、この通気部材15を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材15を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、通気部材15の表面に撥水撥油層が形成された。
【0040】
[サンプルNo. 8]
テトラエトキシシランを6.1質量%、水6.1質量%、エタノールを87.8質量%の割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液(第一の酸性溶液)を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、合成繊維製の布に対してプラズマ処理を行って表面に水酸基を形成した通気部材15を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0041】
30分間の浸漬後、通気部材15を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(第一のアルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材15を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。ここまでの第1の工程により、通気部材15の表面にシリカ被膜(金属酸化物層)が形成された。
【0042】
次に、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン16.0質量%、水5.5質量%、エタノール78.5質量%の割合で含有し、pHが3になるように塩酸を加えた水溶液(第二の酸性溶液)を調製した。この酸性溶液(約25℃)に、第1の工程後の合成繊維製の布からなる通気部材15を浸漬し、大気圧下で30分放置した。浸漬中は緩やかに酸性溶液を攪拌した。
【0043】
30分間の浸漬後、通気部材15を引き上げて、速やかにpH12の水酸化ナトリウム水溶液(第二のアルカリ性溶液、約25℃)に、大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は、緩やかに溶液を攪拌した。30分間の浸漬後、通気部材15を引き上げてエタノールですすいだ後、200℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、通気部材15のシリカ被膜(金属酸化物層)の上に撥水撥油層が形成された。
このようにして、通気部材15の表面にシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層が形成された。
【0044】
[水浸入量を調べる試験]
サンプルNo. 1−1〜6−2の各通気部材14をワッシャー部材13に固定したものと、芯金12を、図1に示すように、弾性素材からなる環状体11の内周面11aに固定することでNo. 1−1〜6−2の各空気抜き栓1を得た。
【0045】
また、サンプルNo. 7と8の各通気部材15を、図2に示すように、弾性素材からなる環状体11の内周面11aに固定することでNo. 7、8の各空気抜き栓1Aを得た。
また、図3に示すように、第2実施形態の芯金15に被膜16を形成しないで、そのまま弾性素材からなる環状体11の内周面11aに固定することで、No. 9の空気抜き栓10を得た。
【0046】
このようにして得られたNo. 1−1〜9の各空気抜き栓を、車軸支持用の円錐ころ軸受の外輪2に形成された貫通穴21に取り付けて、3カ月運転した後に、軸受内部3の潤滑剤中に含まれる水分量を測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
この結果から分かるように、本発明の実施例に相当する、撥水撥油層が形成されたNo. 1−1〜8の通気部材を備えた空気抜き栓を用いることで、軸受内部への水の浸入を抑えることができる。また、金属酸化物層の形成の有無のみが異なる、No. 1−1〜1−4とNo. 2−1〜2−4との比較、No. 5−1と6−1との比較、No. 5−2と6−2との比較、No. 7と8との比較から、金属酸化物層の存在により水分浸入量がより少なくできることが分かる。
【0049】
特に、通気部材の形状および材質が同じNo. 7〜9の水分含有率を比較することで、撥水撥油層が形成され金属酸化物層が形成されていないNo. 7では、水浸入量を、撥水撥油層も金属酸化物層も形成されていないNo. 9の約1/6に、撥水撥油層と金属酸化物層が形成されているNo. 8では、水浸入量をNo. 9の約1/8にできることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に相当する軸受用空気抜き栓を示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に相当する軸受用空気抜き栓を示す断面図である。
【図3】本発明の比較例に相当する、撥水撥油層を形成しない芯金のみからなる軸受用空気抜き栓を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 通気部材
1A 通気部材
10 通気部材
11 弾性素材からなる環状体
11a 環状体の内周面
12 芯金
13 ワッシャー部材
14 通気部材
15 通気部材(芯金)
15a 通気孔
16 被膜
2 外輪
21 外輪の貫通穴
3 軸受内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の内輪、外輪、転動体で囲まれた軸受空間と外部とを通じさせる貫通穴に取り付けて使用される空気抜き栓であって、
通気孔を形成する通気部材と、通気部材の表面に形成された撥水撥油層と、を有することを特徴とする軸受用空気抜き栓。
【請求項2】
前記撥水撥油層は、金属酸化物層からなる中間層を介して前記通気部材の表面に形成されている請求項1記載の軸受用空気抜き栓。
【請求項3】
請求項1記載の軸受用空気抜き栓の製造方法であって、
前記撥水撥油層は、前記通気部材を、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下である酸性溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13であるアルカリ性溶液に接触させることで形成することを特徴とする軸受用空気抜き栓の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の軸受用空気抜き栓の製造方法であって、
前記金属酸化物層および撥水撥油層は、前記通気部材を、水と、金属種がシリコン、チタン、もしくはアルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるアルキルアルコキシ金属塩またはハロゲンアルコキシ金属塩と、炭素数1〜6の低級アルコールを必須成分とし、pHが6以下である第一の酸性溶液に接触させた後、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第一のアルカリ性溶液に接触させることにより、前記通気部材の表面に金属酸化物層を形成する第1の工程と、第1の工程の後に、前記通気部材を、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下である第二の酸性溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第二のアルカリ性溶液に接触させる第2の工程と、を含む方法で形成することを特徴とする軸受用空気抜き栓の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−139036(P2010−139036A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318198(P2008−318198)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】