説明

軸受試験装置

【課題】差動反転軸受の特性を正確に評価することのできる軸受試験装置を提供する。
【解決手段】軸受試験装置30は、差動反転軸受20の内輪を回転させるための回転軸1と、差動反転軸受20の外輪を回転させるための回転軸2と、内輪の温度を測定するための熱電対3aおよびテレメータ3bと、外輪の温度を測定するための熱電対4aおよびテレメータ4bと、差動反転軸受30の保持器の回転状態を測定するためのセンサ6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受試験装置に関し、より特定的には、差動反転軸受試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転時における軸受の挙動や、長期間運転したときに軸受に生じる問題(損傷)など、軸受の諸特性を調べるために、従来、様々な軸受試験装置が提案されてきた。
【0003】
たとえば特開2003−254866号公報(特許文献1)には、軸受における保持器の破断試験方法および装置が開示されている。特許文献1の保持器の破断試験装置は、ハウジングと、ハウジング内に水平方向に挿通された回転軸と、回転軸を回転させるためのモータとを備えている。試験対象である複列円筒ころ軸受は、内輪が上記回転軸の前端部に外嵌され、外輪がハウジングの前端部に嵌め込まれた外筒に内嵌される。これにより、回転軸と外筒との間に複列円筒ころ軸受が配設される。そして、回転軸とともに内輪のみを回転させた状態で、軸受内にベンジンを注入して軸受内の油分を取り除き、保持器に生じる摩擦力により保持器を破断させている。
【0004】
このように従来の軸受試験装置においては、外輪をハウジングに固定し、内輪を回転軸とともに回転させていた。そしてこれにより、軸受の運転時に近い状態を再現し、軸受の諸特性の評価が行なわれていた。
【0005】
なお、上記のように外輪をハウジングに固定し、内輪を回転軸とともに回転させる軸受試験装置は、たとえば特開平7−333200号公報(特許文献2)にも開示されている。
【特許文献1】特開2003−254866号公報
【特許文献2】特開平7−333200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
軸受の中には、内輪と外輪とが互いに異なる方向に回転する条件で用いられる軸受(以下、差動反転軸受)もある。近年、たとえばジェットエンジンの主軸用の軸受として差動反転軸受を用いることも検討されている。しかしながら、従来の軸受試験装置においては、外輪を回転させずに内輪のみを回転させて軸受の試験を行なっており、差動反転軸受の運転状態とは異なる状態で試験を行なっていた。このため、差動反転軸受の特性を正確に評価することができなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、差動反転軸受の特性を正確に評価することのできる軸受試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の局面に従う軸受試験装置は、軸受の内輪を回転させるための内輪駆動部と、軸受の外輪を回転させるための外輪駆動部と、内輪の温度、外輪の温度、または軸受の保持器の回転状態のうち少なくともいずれかを測定するための測定部とを備えている。
【0009】
本発明の一の局面に従う軸受試験装置によれば、内輪および外輪の両方を回転させた状態において、内輪の温度、外輪の温度、または軸受の保持器の回転状態のうち少なくともいずれかを測定することができる。このため、軸受を実際の差動反転軸受の運転状態に近い状態で試験することができ、差動反転軸受の特性を正確に評価することができる。
【0010】
本発明の他の局面に従う軸受試験装置は、軸受の内輪を回転させるための内輪駆動部と、軸受の外輪を回転させるための外輪駆動部と、内輪の温度を測定するための第1測定部と、外輪の温度を測定するための第2測定部と、軸受の保持器の回転状態を測定するための第3測定部とを備えている。
【0011】
本発明の他の局面に従う軸受試験装置によれば、内輪および外輪の両方を回転させた状態において、内輪の温度、外輪の温度、および軸受の保持器の回転状態の全てを測定することができる。このため、軸受を実際の差動反転軸受の運転状態に近い状態で試験することができ、差動反転軸受の特性を正確に評価することができる。
【0012】
本発明の軸受試験装置において好ましくは、中空部分を有する1つの支持部がさらに備えられている。内輪駆動部および外輪駆動部は支持部の中空部分において回転可能に支持されている。
【0013】
内輪駆動部および外輪駆動部が別々の支持部によって支持される場合には、軸受を軸受試験機に取り付ける際に支持部同士の位置が変化し、それにより内輪および外輪の位置関係が変化することも考えられる。そこで、内輪駆動部および外輪駆動部が1つの支持部によって支持されるようにすることで、軸受試験装置に軸受を取り付ける際に生じる取付け誤差を小さくすることができる。
【0014】
本発明の軸受試験装置において好ましくは、支持部は外部から中空部分を目視可能な窓をさらに有している。これにより、中空部分の状態を観察することができる。また、軸受の取付けの際に生じる取付け誤差を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の軸受試験装置によれば、差動反転軸受の特性を正確に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態における軸受試験装置の構成を示す断面図である。図2は、図1の軸受試験装置の要部拡大図である。図1および図2を参照して、本実施の形態の軸受試験装置30は、差動反転軸受20を試験するための装置であって、内輪駆動部としての回転軸1と、外輪駆動部としての回転軸2と、第1測定部としての熱電対3aおよびテレメータ3bと、第2測定部としての熱電対4aおよびテレメータ4bと、第3測定部としてのセンサ6と、支持部としてのハウジング10とを主に備えている。ハウジング10は中空部分11を有しており、中空部分11において回転軸1および2が回転可能に支持されている。回転軸1および2のそれぞれの端面が互いに突き合わされるように回転軸1および2は配置されている。回転軸1には差動反転軸受20の内輪21が固定されており、内輪21は回転軸1の回転とともに回転可能とされている。回転軸2には差動反転軸受20の外輪22が固定されており、外輪22は回転軸2の回転とともに回転可能とされている。熱電対3aおよびテレメータ3bは内輪21の温度を測定するためのものであり、熱電対4aおよびテレメータ4bは外輪22の温度を測定するためのものである。センサ6は保持器の回転状態を測定するためのものである。
【0017】
差動反転軸受20は、内輪21と、外輪22と、転動体23と、保持器24とを備えている。転動体23は内輪21と外輪22との間に配置されており、保持器24によって転動自在に保持されている。なお、差動反転軸受20としては任意の軸受を使用することができ、たとえば円筒ころ軸受、円すいころ軸受、玉軸受、または滑り軸受などを使用することができる。差動反転軸受20の外径(外輪22の外径)は190mm以下であることが好ましい。
【0018】
回転軸1は2つの軸受37によって円筒状のハウジング14内の図1中左側に回転可能に保持されている。ハウジング14はハウジング10の内部に嵌め込まれている。これにより、回転軸1はハウジング10の中空部分11において回転可能に支持されている。また、回転軸1はその一端(図1中右端)が他の部分よりも大径になっており、この大径部分1aの外周面に溝31が設けられている。内輪21は溝31に嵌め込まれて固定されている。回転軸1の他端(図1中左端)の接続部33には回転軸1を回転するためのモータ(図示なし)が接続されている。
【0019】
回転軸2は2つの軸受38によって円筒状のハウジング15内の図1中右側に回転可能に保持されている。ハウジング15はハウジング10の内部に嵌め込まれている。これにより、回転軸2はハウジング10の中空部分11において回転可能に支持されている。また、回転軸2はその一端(図1中左端)が他の部分よりも大径になっており、この大径部分は回転軸1方向(図1中左方向)に突出した突出部2aを有している。そして、突出部2aの内周面(大径部分1aの外周面と対向する面)に溝32が設けられており、外輪22は溝32に嵌め込まれて固定されている。回転軸2の中央部右端寄りには回転軸2を回転させるためのプーリ34が設けられている。
【0020】
回転軸1の内部には通路42が形成されている。熱電対3aおよびテレメータ3bは通路42内を通る導線(図示なし)によって互いに電気的に接続されている。また、回転軸2の内部には通路43が形成されている。熱電対3aおよびテレメータ3bは通路43内を通る導線(図示なし)によって互いに電気的に接続されている。
【0021】
ハウジング10の図1中中央部には中空部分11に通じる孔が開口されており、孔にはL字型の管39が嵌め込まれている。管39の内部には通路41aが形成されており、この通路41aと、回転軸1に設けられた通路41bとを通じて、差動反転軸受20に潤滑油が供給される。また、管39にはセンサ6が取り付けられている。センサ6は保持器24側面に向かって水平方向に延びている。センサ6は、たとえば側面に凹凸や曲面をつけた保持器24に対してレーザ光を照射し、その反射光を受光することによって保持器24の回転数を測定するものである。
【0022】
ハウジング10の中央部には外部から中空部分11を目視可能な窓13が設けられている。窓13は透明部材よりなっており、たとえばプラスチックやガラスなどよりなっている。窓13からは差動反転軸受20およびセンサ6を目視可能であることが好ましい。
【0023】
次に、本実施の形態の軸受試験装置を用いた差動反転軸受の試験方法について説明する。
【0024】
図3は、差動反転軸受を軸受試験装置に取り付ける様子を示す断面図である。図1〜図3を参照して、始めに、差動反転軸受20を軸受試験装置30に取り付ける。すなわち、一体化した回転軸1、ハウジング14、および軸受37を図1中左方向に移動させ、ハウジング10から取り出す。そして、内輪21を回転軸1の溝31に嵌め込み、転動体23および保持器24を内輪21とともに回転軸1に取り付ける。同様に、一体化した回転軸2、ハウジング15、および軸受38を図1中右方向に移動させ、ハウジング10から取り出す。そして、外輪22を回転軸2の溝32に嵌め込む。次に、内輪21などを取り付けた回転軸1、ハウジング14、および軸受37を図1中左側からハウジング10の中空部分11に挿入し、ハウジング14を固定する。同様に、外輪22などを取り付けた回転軸2、ハウジング15、および軸受38を図1中右側からハウジング10の中空部分11に挿入し、ハウジング15を固定する。その結果、中空部分11において内輪21、転動体23、および保持器24が外輪22と合体し、差動反転軸受20が取り付けられる。差動反転軸受20の取付けは、窓13から中空部分11を観察しながら行なうことが好ましい。
【0025】
続いて、回転軸1にモータが接続され、回転軸2が支持部38によって支持され、プーリ34にベルト(図示なし)が取り付けられる。次に、センサ6を取り付けた管39が中空部分11に挿入される。そして、通路41aおよび41bが連通するように、かつセンサ6の光放出面が保持器24側面に対向するように、管39の位置が調節される。この調節は窓13から観察しながら行なわれる。
【0026】
続いて、回転軸1および2を互いに異なる方向に回転させることによって内輪21および外輪22を互いに異なる方向に回転させる(差動反転させる)。これにより、差動反転軸受20の運転時に近い状態が再現される。そして、差動反転軸受20を差動反転させた状態で、内輪21の温度、外輪22の温度、および保持器24の回転状態の各々が測定される。
【0027】
内輪21の温度は熱電対3aで測定され、テレメータ3bから発せられる電波によって受信装置5aへ送られる。また、外輪22の温度は熱電対4aで測定され、テレメータ4bから発せられる電波によって受信装置5bへ送られる。これにより、内輪21の温度と外輪22の温度とが受信装置5a、5bから得られる。
【0028】
センサ6で測定された距離は図示しない表示装置において表示される。保持器24の側面の一ヶ所に予め切欠き部を形成しておくことによって、センサ6で測定される距離に基づいて保持器24の回転状態を測定することができる。すなわち、内輪21と外輪22との差動によって保持器24が回転すると、保持器24の切欠き部を検出した瞬間にセンサ6で測定される保持器24の距離が変化する。この距離の変化は保持器24が1回転する度に起こるので、センサ6で測定される距離に基づいて保持器24の回転状態(回転速度)が測定される。
【0029】
本実施の形態における軸受試験装置30によれば、内輪21および外輪22の両方を回転させた状態において、内輪21の温度、外輪22の温度、および保持器24の回転状態を測定することができる。このため、差動反転軸受20を実際の運転状態に近い状態で試験することができ、差動反転軸受20の特性を正確に評価することができる。
【0030】
ここで、特に検証する必要のある差動反転軸受の挙動として、転動体の自転速度の増加、保持器の回転速度の減少、および転動体の遠心力の減少などが考えられる。これらの挙動は通常の軸受の運転状態とは異なっている。差動反転軸受ではたとえば保持器が回転せずに同じ位置で止まることも考えられる。保持器が同じ位置で止まった場合、転動体は同じ位置で自転し続けることになり、軸受に加わるラジアル荷重を限られた転動体のみで受けることになる。差動反転軸受内部ではこのような現象が起こり得るため、差動反転軸受で発生する問題を検証する必要がある。本実施の形態の軸受試験装置30によれば、このような問題を検証することが可能である。
【0031】
また、中空部分11を有する1つのハウジング10がさらに備えられており、回転軸1および2はハウジング10の中空部分11において回転可能に支持されているので、軸受試験装置30に差動反転軸受20を取り付ける際に生じる取付け誤差を小さくすることができる。
【0032】
さらに、ハウジング10は外部から中空部分11を目視可能な窓13をさらに有しているので、中空部分11の状態を観察することができる。また、差動反転軸受20の取付けの際に生じる取付け誤差を小さくすることができる。
【0033】
なお、本実施の形態においては、熱電対で測定された温度をテレメータから発せられる電波によって受信装置へ送る場合について示したが、本発明の温度測定方法に特に制限はなく、たとえばスリップリングを用いた温度測定方法を採用することもできる。
【0034】
また、本実施の形態においては、保持器の側面の一ヶ所に形成された切欠き部を検出することにより保持器の回転状態を測定する場合について示したが、本発明の保持器の回転状態の測定方法に特に制限はなく、たとえば保持器に予め磁石を取り付けておき、磁界の変化をセンサで検出することにより保持器の回転状態を測定してもよい。
【0035】
さらに、本実施の形態においては、内輪の温度、外輪の温度、および保持器の回転状態の全てを測定する軸受試験装置について示したが、本発明はこのようなものに限定されるものではなく、内輪の温度、外輪の温度、および保持器の回転状態のうち少なくともいずれか一つが測定されればよい。
【0036】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明はジェットエンジン主軸に用いられる軸受のように約8000rpmの回転速度で用いられるような差動反転軸受の試験装置として特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態における軸受試験装置の構成を示す断面図である。
【図2】図1の軸受試験装置の要部拡大図である。
【図3】差動反転軸受を軸受試験装置に取り付ける様子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1,2 回転軸、1a 大径部分、2a 突出部、3a,4a 熱電対、3b,4b テレメータ、5a、5b 受信装置、6 センサ、10,14,15 ハウジング、11 中空部分、13 窓、20 差動反転軸受、21 内輪、22 外輪、23 転動体、24 保持器、30 軸受試験装置、31,32 溝、33 接続部、34 プーリ、37,38 軸受、39 管、41a,41b,42,43 通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受の内輪を回転させるための内輪駆動部と、
前記軸受の外輪を回転させるための外輪駆動部と、
前記内輪の温度、前記外輪の温度、または前記軸受の保持器の回転状態のうち少なくともいずれかを測定するための測定部とを備える、軸受試験装置。
【請求項2】
軸受の内輪を回転させるための内輪駆動部と、
前記軸受の外輪を回転させるための外輪駆動部と、
前記内輪の温度を測定するための第1測定部と、
前記外輪の温度を測定するための第2測定部と、
前記軸受の保持器の回転状態を測定するための第3測定部とを備える、軸受試験装置。
【請求項3】
中空部分を有する1つの支持部をさらに備え、
前記内輪駆動部および前記外輪駆動部は前記支持部の前記中空部分において回転可能に支持されることを特徴とする、請求項1または2に記載の軸受試験装置。
【請求項4】
前記支持部は外部から前記中空部分を目視可能な窓をさらに有することを特徴とする、請求項3に記載の軸受試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−187461(P2007−187461A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3601(P2006−3601)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】