説明

軸流流体機械、及びその可変静翼駆動装置

【課題】運転状態に関わらず常に複数の可変静翼の翼角度を均一にする。
【解決手段】可変静翼駆動装置30は、軸流圧縮機のケーシング20の外周側に配置された環状の可動環31と、可動環の周方向に間隔をあけて4個配置され、可動環をロータ回りに回転可能に支持する環支持機構40と、可動環の回転で可変静翼の向きが変わるよう、可動環と可変静翼とを連結するリンク機構70と、を備えている。環支持機構40は、可動環の内周側に配置されている内側ローラ41iと、可動環の外周側に配置されて内側ローラとの間で可動環を挟み込む外側ローラ41oと、内側ローラと外側ローラとが可動環を挟み込んでいる状態で、内側ローラ及び外側ローラをロータ軸線Arと平行な軸線回りに回転可能に支持するローラ支持台43と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の動翼が設けられているロータ及び可変静翼を備えている軸流流体機械、及びその可変静翼駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやターボ冷凍機では、気体を圧縮するために軸流流体機械の一種である軸流圧縮機が用いられている。この種の軸流流体機械では、ロータの周りに環状に複数配置された可変静翼と、この可変静翼の向きを変える可変静翼駆動装置と、を備えているものがある。
【0003】
可変静翼駆動装置は、例えば、以下の特許文献1に記載されているように、ケーシングの外周側に配置された環状の可動環と、可動環を回転可能に支持する環支持機構と、可動環を回転させるアクチュエータと、を備えている。環支持機構は、可動環の外周側であってケーシングの下側に、可動環の周方向に間隔をあけて配置されている2個の第一ローラと、可動環の内周側であってケーシングの下側に、2個の第一ロータに対して可動環の周方向に間隔をあけて配置されている1個の第二ローラとを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−1821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸流圧縮機では、下流側に向うに連れて次第に気体の圧力が増し、この気体の温度が高くなる。このため、軸流圧縮機の起動過程や停止過程で、気体に直接接触するケーシングと可動環との間の温度差により、ケーシングと可動環との間に熱伸び差が生じる。具体的には、軸流圧縮機の起動過程では、可動環に対してケーシングの温度上昇が早いため、可動環に対してケーシングの径が相対的に大きくなる。
【0006】
仮に、特許文献1に記載の技術において、起動前の時点で、可動環の軸線とケーシングの軸線とが一致していたとしても、軸流圧縮機の起動過程で、可動環に対してケーシングの径が相対的に大きくなるため、可動環の下側の部分とケーシングの下側の部分との相対位置が変化しなくても、可動環の上側の部分とケーシングの上側の部分との相対位置が変化してしまう。つまり、ケーシングの軸線に対して可動環の軸線の位置がズレてしまう。ケーシングの軸線に対して可動環の軸線の位置がズレてしまうと、このズレ量に応じて、複数の可変静翼の翼角度が不均一になる。
【0007】
すなわち、特許文献1に記載の技術では、軸流流体機械の運転状態が変化する過程において、複数の可変静翼の翼角度が不均一になることがあるという、問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は、このような従来技術の問題点に着目し、運転状態に関わらず常に複数の可変静翼の翼角度を均一にすることができる軸流流体機械、及びその可変静翼駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための発明に係る軸流流体機械の可変静翼駆動装置は、
複数の動翼を有するロータと、該ロータを回転可能に覆うケーシングと、該ケーシング内に該ロータを中心として環状に複数配置された可変静翼と、を備えている軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、前記ケーシングの外周側に配置された環状の可動環と、前記可動環の周方向に間隔をあけて複数配置され、該可動環を前記ロータ回りに回転可能に支持する環支持機構と、前記可動環を前記ロータ回りに回転させる回転駆動機構と、前記可動環の回転で前記可変静翼の向きが変わるよう、該可動環と該可変静翼とを連結するリンク機構と、を備え、
複数の前記環支持機構は、いずれも、前記可動環の内周側に配置されている内側ローラと、該可動環の外周側に配置されて該内側ローラとの間で該可動環を挟み込む外側ローラと、該内側ローラと該外側ローラとが該可動環を挟み込んでいる状態で、該内側ローラ及び該外側ローラを前記ロータと平行な軸線回りに回転可能に支持するローラ支持台と、を有することを特徴とする。
【0010】
軸流流体機械の起動過程や停止過程では、気体に直接接触するケーシングと可動環との間の温度差により、ケーシングと可動環との間に熱伸び差が生じる。当該可変静翼駆動装置では、可動環が複数の環支持機構毎の内側ローラと外側ローラとに挟持されているため、軸流流体機械の運転状態に関わらず、可動環とこの可動環に対する全内側ローラ及び全外側ローラとの接触状態が維持される。したがって、当該可変静翼駆動装置によれば、ケーシングの軸線に対して可動環の軸線の位置ズレを防ぐことができ、軸流流体機械の運転状態に関わらず常に複数の可変静翼の翼角度を均一にすることができる。
【0011】
ここで、前記軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、複数の前記環支持機構は、いずれも、前記内側ローラの前記軸線と前記外側ローラの前記軸線との間の距離を調節する軸間距離調節機構を有することが好ましい。
【0012】
この場合、前記軸間距離調節機構は、前記内側ローラの前記軸線と前記外側ローラの前記軸線とのうち、少なくとも一方のローラの軸線の位置を変える機構であり、該一方のローラを回転可能に支持する回転軸を有し、前記回転軸は、前記一方のローラの軸線を中心として該一方のローラが回転可能に取り付けられているローラ取付部と、該軸線からズレた偏芯軸線を中心として円柱状を成し、該偏芯軸線を中心として回転可能に前記ローラ支持台に支持されている被支持部と、を有してもよい。
【0013】
このように、軸間距離調節機構を有することにより、内側ローラと外側ローラとの間で可動環をしっかりと確実に挟持することができる。よって、当該可変静翼駆動装置によれば、ケーシングの軸線に対して可動環の軸線の位置ズレをより確実に防ぐことができる。
【0014】
また、前記軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、前記回転駆動機構は、駆動端が直線的に往復移動するアクチュエータと、該駆動端と前記可動環とを連結するリンク機構と、を有してもよい。
【0015】
当該可変静翼駆動装置では、前述したように、ケーシングと可動環との間に熱伸び差が生じても、ケーシングの軸線に対して可動環の軸線の位置ズレを防ぐために、複数の環支持機構毎の内側ローラと外側ローラとで可動環を挟持している。このため、ケーシングと可動環との間に熱伸び差が生じている際、可動環中で、内側ローラと外側ローラとで挟まれていない部分は、軸流流体機械の運転状態に応じて撓む。仮に、アクチュエータの駆動端をこの部分に直接連結した場合には、この撓みに駆動端が追従しようとして、アクチュエータに不要な負荷がかかってしまう。これに対して、当該可変静翼駆動装置では、リンク機構を介して、アクチュエータの駆動端と可動環とを連結し、この駆動環の撓みをリンク機構で吸収できるようにしている。よって、当該可変静翼駆動装置によれば、アクチュエータに不要な負荷がかかることを回避することができる。
【0016】
また、前記軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、前記環支持機構を4個又は5個備えてもよい。
【0017】
可動環に対する環支持機構の数量が非常に多くなると、可動環の撓みにより、各ローラの反力が増大する。具体的に、梁の剛性はこの梁を支持する二点間の距離の3乗に反比例するため、環支持機構の数量が増加して、環支持機構相互間の距離が小さくなると、この距離の3乗に比例して各ローラの反力が増加する。したがって、環支持機構の数量が増加すると、各ローラの反力が飛躍的に増加し、各ローラの回転軸やローラ支持台等の剛性及び強度も飛躍的に高めなければならない。このため、可動環に対する環支持機構は、4又は5個が望ましい。
【0018】
また、前記問題点を解決するための発明に係る軸流流体機械は、
前記可変静翼駆動装置と、複数の前記動翼が設けられている前記ロータと、前記ロータを回転可能に覆うケーシングと、前記ケーシング内に前記ロータを中心として環状に複数配置された可変静翼と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
当該軸流流体機械では、前記可変静翼駆動装置を備えているので、ケーシングの軸線に対して可動環の軸線の位置ズレを防ぐことができ、軸流流体機械の運転状態に関わらず常に複数の可変静翼の翼角度を均一にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ケーシングと可動環との間に熱伸び差が生じても、可動環が複数の環支持機構毎の内側ローラと外側ローラとに挟持されているため、ケーシングの軸線に対して可動環の軸線の位置ズレを防ぐことができる。
【0021】
よって、本発明によれば、軸流流体機械の運転状態に関わらず常に複数の可変静翼の翼角度を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る一実施形態における軸流圧縮機の要部切欠側面図である。
【図2】図1におけるII−II断面における模式図である。
【図3】本発明に係る一実施形態における可動環及び環支持機構の断面図である。
【図4】図3におけるIV矢視図である。
【図5】本発明に係る一実施形態における環支持機構の要部断面図である。
【図6】本発明に係る一実施形態の変形例における環支持機構を示す説明図で、同図(A)は第一変形例の環支持機構を示し、同図(B)は第二変形例の環支持機構を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る軸流流体機械の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
本実施形態の軸流流体機械は、図1に示すように、軸流圧縮機Cであり、複数の動翼12を有しているロータ10と、このロータ10を回転可能に覆うケーシング20と、ロータ10の周りに環状に複数配置されている静翼16,18と、を備えている。
【0025】
ロータ10は、複数のロータディスクが積層されて構成されているロータ本体11と、複数のロータディスク毎にそのロータディスクから放射方向に延びる複数の動翼12と、を有している。すなわち、このロータ10は、多数段動翼構成である。このロータ10は、ロータ本体11の軸線(以下、ロータ軸線Arとする)を中心としてケーシング20により回転可能に支持されている。
【0026】
ケーシング20のロータ軸線方向の一方の側には、外気を吸い込む吸込口21が形成され、他方の側には圧縮気体を吐き出す吐出口(図示されていない)が形成されている。
【0027】
複数の動翼12のうち、最も吸込口21側のロータディスクに固定されている複数の動翼12が第一動翼段12aを成し、このロータディスクの吐出口側に隣接しているロータディスクに固定されている複数の動翼12が第二動翼段12bを成し、以下、吐出口側に設けられている各ロータディスクに固定されている複数の動翼12が第三動翼段12c、第四動翼段12d、…を成している。
【0028】
各動翼段12a,12b,…の吸込口21側には、それぞれ、ロータ10の周りに環状に複数の静翼16,18が配置されている。ここで、第一動翼段12aの吸込口21側に配置されている複数の静翼16が第一静翼段16aを成し、第二動翼段12aの吸込口21側に配置されている複数の静翼16が第二段静翼16bを成し、以下、吐出口22側に設けられている各動翼段16c,16d,…の吸込口21側に配置されている複数の静翼16が第三段静翼16c、第四段静翼16d、…を成している。
【0029】
本実施形態では、各静翼段のうち、第1段静翼16aから第4段静翼16dを構成する各静翼16が可変静翼を成し、第五段目以降を構成する各静翼18が固定静翼を成している。
【0030】
各可変静翼16は、ケーシング20を内周側から外周側に貫通している静翼回転軸17に固定されており、この静翼回転軸17と共に可変静翼16が回転することで、可変静翼16の向き(角度)が変わる。
【0031】
本実施形態の軸流圧縮機Cは、図1〜図3に示すように、可変静翼段16a〜16d毎の可変静翼16の向きを変えるために、さらに、可変静翼段16a〜16d毎の可変静翼駆動装置30を備えている。各可変静翼駆動装置30は、ケーシング20の外周側に配置された環状の可動環31と、可動環31の周方向に間隔をあけて複数配置され、可動環31をロータ軸線Arを中心として回転可能に支持する環支持機構40と、可動環31をロータ軸線Ar回りに回転させる回転駆動機構60と、可動環31の回転で可変静翼16の向きが変わるよう、可動環31と可変静翼16とを連結する環−翼リンク機構70と、を備えている。
【0032】
回転駆動機構60は、図2に示すように、駆動端62が直線的に往復移動するアクチュエータ61と、この駆動端62と可動環31とを連結する駆動−環リンク機構63と、を有している。駆動−環リンク機構63は、ロータ軸線Arと平行なリンク回転軸64と、アクチュエータ61の駆動端62に一方の端部がピンで結合され他方の端部がリンク回転軸64回りに回転可能に設けられている第一リンク片65と、一方の端部がリンク回転軸64回りに回転可能に設けられている第二リンク片66と、一方の端部が第二リンク片66の他方の端部にピンで結合され、他方の端部が可動環31の一部とピンで結合されている第三リンク片67とを有している。第二リンク片66は、アクチュエータ61の駆動端62の移動による第一リンク片65のリンク回転軸64回りの回転に伴って、一体的に回転するよう、第一リンク片65と連結されている。
【0033】
なお、可変静翼段16a〜16d毎の回転駆動機構60は、可変静翼段16a〜16d毎のアクチュエータ61を備えてもよいが、複数の可変静翼段16a〜16dのうち、2以上の可変静翼段を一組として、この一組に対して1台のアクチュエータ61を備えているようにしてもよい。この場合、1組の可変静翼段に対する各回転駆動機構60は、1台のアクチュエータ61、一個の第一リンク片65及び一個のリンク回転軸64を共有し、組を構成する複数の可変静翼段毎の第二リンク片66及び第三リンク片67を備えることになる。
【0034】
可変静翼段16a〜16d毎の環−翼リンク機構70は、図3及び図4に示すように、各可変静翼16の静翼回転軸17に相対回転不能に設けられている第一リンク片71と、一方の端部がピンで第一リンク片71に連結され、他方の端部がピンで可動環31に連結されている第二リンク片72と、を有している。
【0035】
可変静翼駆動機構30は、図2に示すように、可動環31の周方向に等間隔に配置されている4個の環支持機構40を有している。各環支持機構40は、いずれも、可動環31の内周側に配置されている内側ローラ41iと、可動環31の外周側に配置されて内側ローラ41iとの間で可動環31を挟み込む外側ローラ41oと、内側ローラ41iと外側ローラ41oとが可動環31を挟み込んでいる状態で、内側ローラ41i及び外側ローラ41oをロータ軸線Arと平行な軸線Ai,Ao回りに回転可能に支持するローラ支持台43と、を有する。
【0036】
さらに、各環支持機構40は、図3に示すように、ロータ軸線Arを中心にして放射方向における内側ローラ41iの軸線Aiの位置を変える内側ローラ位置調節機構44iと、同じくロータ軸線Arを基準にして放射方向における外側ローラ41oの軸線Aoの位置を変える外側ローラ位置調節機構44oと、有している。なお、可動環31は、同図に示すように、環状の可動環本体32と、この可動環本体32の内周に固定され、内側ローラ41iが接する内側ライナー32iと、この可動環本体32の外周に固定され、外側ローラ41oが接する外側ライナー32oとを有している。
【0037】
内側ローラ位置調節機構44i及び外側ローラ位置調節機構44oは、図5に示すように、いずれも、ローラ41o(41i)を軸受42を介して回転可能に支持する回転軸45と、この回転軸45をローラ支持台43に対して回転不能に拘束する固定手段としての固定ナット47と、を有している。回転軸45は、ローラ41o(41i)の軸線Ao(Ai)を中心として、このローラ41o(41i)が軸受42を介して回転可能に取り付けられているローラ取付部45aと、この軸線Ao(Ai)からズレた偏芯軸線Aeを中心として円柱状を成し、偏芯軸線Aeを中心として回転可能にローラ支持台43に支持されている被支持部45bと、この被支持部45bに対してローラ取付部45bと反対側に設けられ、前述の固定ナット47が捩じ込まれるネジ部45cと、を有している。なお、ロータ支持台43は、軸受42及び回転軸45を介して、前述したように、内側ローラ41i及び外側ローラ41oをロータ軸線Ar回りに回転可能に支持している。
【0038】
ロータ軸線Arを基準にして放射方向におけるローラ41o(41i)の軸線Ao(Ai)の位置を変える際には、ローラ位置調節機構44o(44i)の固定ナット47が緩んでいる状態で、偏芯軸線Aeを中心として回転軸45をローラ支持台43に対して回転させる。ローラ41o(41i)の軸線Ao(Ai)は、偏芯軸線Aeからズレているため、この回転により、ロータ軸線Arを中心にして放射方向における位置が変化する。そして、ローラ41o(41i)の軸線Ao(Ai)が目的の位置になった時点で、固定ナット47を回転軸45のネジ部45cに捩じ込み、この回転軸45をローラ支持台43に対して回転不能に拘束する。すなわち、ローラ41o(41i)の軸線Ao(Ai)の位置を固定する。
【0039】
可変静翼駆動機構30の設置の最終段階では、4個の環支持機構40毎の内側ローラ位置調節機構44i及び外側ローラ位置調節機構44oを用いて、内側ローラ41i及び外側ローラ41oの位置を調節する。
【0040】
具体的には、4個の環支持機構40毎の内側ローラ位置調節機構44iを用いて、4個全ての内側ローラ41iが可動環31に内接するように、各内側ローラ41iの位置を調節する。さらに、4個の環支持機構40毎の外側ローラ位置調節機構44oを用いて、4個全ての外側ローラ41oが可動環31に外接するように、各外側ローラ41oの位置を調節する。なお、これら内側ローラ41i及び外側ローラ41oの位置調節は、可変静翼駆動機構30の設置の最終段階のみならず、軸流圧縮機Cの設置完了後、この軸流圧縮機Cの点検等の際にも行うことが好ましい。
【0041】
この軸流圧縮機Cでは、その起動開始時から停止時までの間で、その時々での吸込流量等を調節するために、第一可変静翼段16aから第四可変静翼段16bの翼角度が適宜変更される。
【0042】
軸流圧縮機Cでは、下流側に向うに連れて次第に気体の圧力が増し、この気体の温度が高くなる。このため、軸流圧縮機Cの起動過程や停止過程で、気体に直接接触するケーシング20と可動環31との間の温度差により、ケーシング20と可動環31との間に熱伸び差が生じる。具体的に、軸流圧縮機Cの起動過程では、可動環31に対して、ケーシング20中でこの可動環31を支持している部分の温度上昇が早いため、可動環31に対してこの部分のケーシング径が相対的に大きくなる。また、軸流圧縮機Cの停止過程では、可動環31に対してケーシング20中でこの可動環31を支持している部分の温度下降が早いため、可動環31に対してこの部分のケーシング径が相対的に小さくなる。
【0043】
可動環31の径に対してケーシング径の大きさが相対的に変化すると、ケーシング20の軸線に対して可動環31の軸線の位置がズレてしまい、複数の可変静翼16の翼角度が不均一になる。なお、ケーシング20の軸線は、基本的にロータ軸線Arに重なっている。
【0044】
しかしながら、本実施形態では、可動環31が、4個の環支持機構40毎の内側ローラ41iと外側ローラ41oとに挟持されているため、軸流圧縮機Cの運転状態に関わらず、この可動環31とこの可動環31に対する全内側ローラ41i及び全外側ローラ41oとの接触状態が維持される。したがって、ケーシング20の軸線に対して可動環31の軸線の位置がズレることはない。
【0045】
以上のように、本実施形態では、可動環31に対して、ケーシング20中で可動環31を支持している部分の熱伸び差が生じるものの、ケーシング20の軸線に対して可動環31の軸線の位置がズレることはない。但し、この熱伸び差があるため、本実施形態では、可動環31中で内側ローラ41iと外側ローラ41oとで挟まれていない部分は、図2に示すように撓むことになる。
【0046】
具体的に、軸流圧縮機Cの起動過程では、可動環31に対して、ケーシング20中でこの可動環31を支持している部分の温度上昇が早いため、可動環31に対してこの部分のケーシング20の伸び量が大きくなる。言い換えると、軸流圧縮機Cの起動過程では、ケーシング20に対して、可動環31の伸び量が相対的に小さくなる。このため、軸流圧縮機Cの起動過程では、可動環31中で内側ローラ41iと外側ローラ41oとで挟まれていない部分は、図2に示すように、ケーシング20に近づく向きに撓むことになる。
【0047】
また、軸流圧縮機Cの停止過程では、可動環31に対して、ケーシング20中でこの可動環31を支持している部分の温度下降が早いため、可動環31に対してこの部分のケーシング20の縮み量が大きくなる。このため、軸流圧縮機Cの停止過程では、可動環31中で内側ローラ41iと外側ローラ41oとで挟まれていない部分は、ケーシング20から遠ざかる向きに撓むことになる。
【0048】
以上のように、可動環31中で内側ローラ41iと外側ローラ41oとで挟まれていない部分は、軸流圧縮機Cの運転状態に応じて撓むため、アクチュエータ61の駆動端62をこの部分に直接連結した場合には、この撓みに駆動端62が追従しようとして、アクチュエータ61に不要な負荷がかかってしまう。そこで、本実施形態では、駆動−環リンク機構63を介して、アクチュエータ61の駆動端62と第二段用の可動環31とを連結し、この駆動環31の撓みを駆動−環リンク機構63で吸収できるようにしている。
【0049】
ところで、可動環31に対する環支持機構40の数量が非常に多くなると、可動環31の撓みにより、各ローラ41i,41oの反力が増大する。具体的に、梁の剛性はこの梁を支持する二点間の距離の3乗に反比例するため、環支持機構40の数量が増加して、環支持機構40相互間の距離が小さくなると、この距離の3乗に比例して各ローラ41i,41oの反力が増加する。したがって、環支持機構40の数量が増加すると、各ローラ41i,41oの反力が飛躍的に増加し、各ローラ41i,41oの回転軸45及び軸受42、さらにローラ支持台43の剛性も飛躍的に高めなければならない。このため、可動環31に対する環支持機構40は、5個以下が望ましい。
【0050】
したがって、可動環31に対する環支持機構40は、本実施形態のように、4個であるか、5個であることが望ましい。
【0051】
以上のように、本実施形態では、可動環31が、複数個所で内側ローラ41iと外側ローラ41oとによって挟持されているため、軸流圧縮機Cの運転状態に関わらず、ケーシング20の軸線に対して可動環31の軸線の位置がズレることを防ぐことができ、常に複数の可変静翼16の翼角度を均一にすることができる。
【0052】
また、本実施形態では、内側ローラ41iと外側ローラ41oとを有する環支持機構40を4個設けているので、環支持機構40の回転軸45や軸受42、さらにローラ支持台43等の剛性及び強度を極端に高める必要性を回避することができる。
【0053】
なお、以上の実施形態において、可動環31に対する環支持機構40では、1個のローラ支持台43に対して、1個の内側ローラ41i及び1個の外側ローラ41oが設けられているが、図6に示すように、可動環31を挟持できる形態で内側ローラ41i及び外側ローラ41oが設けられていれば、1個のローラ支持台43に対して、2個以上の内側ローラ41iを設けても、さらに、2個以上の外側ローラ41oを設けてもよい。
【0054】
また、以上の実施形態では、内側ローラ位置調節機構44iと外側ローラ位置調節機構44oとで、内側ローラ41iの軸線と外側ローラ41oの軸線との間の距離を調節する軸間距離調節機構を構成しているが、この軸間距離調節機構は、内側ローラ位置調節機構44iと外側ローラ位置調節機構44oとのうち、一方の位置調節機構のみで構成してもよい。
【0055】
また、以上の実施形態では、可変静翼段16a〜16d毎の可変静翼駆動装置30の構成は、互いに同じであるが、第一可変静翼段16aの可変静翼駆動装置は、別構成にしてもよい。具体的に、第一可変静翼段16aの可動環31に対して、ケーシング20中でこの可動環31を支持している部分は、軸流圧縮機Cの運転状態に関わらず、未圧縮の外気が通過するため、ほぼ外気温と同じ温度である。すなわち、第一可変静翼段16aの可動環31とケーシング20中でこの可動環31を支持している部分との間には、軸流圧縮機Cの運転状態に関わらず、温度差がほとんどなく、両者間に熱伸び差が生じない。このため、第一可変静翼段16aの可動環31を複数の内側ローラ41i又は外側ローラ41oのみで支持しても、軸流圧縮機Cの起動前に、第一可変静翼段16aの可動環31がこれに対する全内側ローラ41i又は全外側ローラ41oに接していれば、軸流圧縮機Cの運転状態に関わらず、第一可変静翼段16aの可動環31と全内側ローラ41i又は全外側ローラ41oとの接触状態が維持され、ケーシング20の軸線に対して可動環31の軸線の位置がズレることはない。そこで、第一可変静翼段16aの可変静翼駆動装置に関しては、第一可変静翼段16aの可動環31を複数の内側ローラ41i又は外側ローラ41oのみで支持する構成を採用してもよい。
【0056】
また、以上の実施形態では、軸流流体機械として軸流圧縮機Cを例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、タービン等、その他の軸流流体機械に適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
10:ロータ、11:ロータ本体、12:動翼、16:可変静翼、20:ケーシング、30:可変静翼駆動装置、31:可動環、40:環支持機構、41i:内側ローラ、41o:外側ローラ、43:ローラ支持台、44i:内側ローラ位置調節機構、44o:外側ローラ位置調節機構、44:回転軸、45a:ローラ取付部、45b:被支持部、45c:ネジ部、47:固定ナット、60:回転駆動機構、61:アクチュエータ、62:駆動端、63:駆動−環リンク機構、70:環−翼リンク機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の動翼を有するロータと、該ロータを回転可能に覆うケーシングと、該ケーシング内に該ロータを中心として環状に複数配置された可変静翼と、を備えている軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、
前記ケーシングの外周側に配置された環状の可動環と、
前記可動環の周方向に間隔をあけて複数配置され、該可動環を前記ロータ回りに回転可能に支持する環支持機構と、
前記可動環を前記ロータ回りに回転させる回転駆動機構と、
前記可動環の回転で前記可変静翼の向きが変わるよう、該可動環と該可変静翼とを連結するリンク機構と、
を備え、
複数の前記環支持機構は、いずれも、前記可動環の内周側に配置されている内側ローラと、該可動環の外周側に配置されて該内側ローラとの間で該可動環を挟み込む外側ローラと、該内側ローラと該外側ローラとが該可動環を挟み込んでいる状態で、該内側ローラ及び該外側ローラを前記ロータと平行な軸線回りに回転可能に支持するローラ支持台と、を有する、
ことを特徴とする軸流流体機械の可変静翼駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、
複数の前記環支持機構は、いずれも、前記内側ローラの前記軸線と前記外側ローラの前記軸線との間の距離を調節する軸間距離調節機構を有する、
ことを特徴とする軸流流体機械の可変静翼駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、
前記軸間距離調節機構は、前記内側ローラの前記軸線と前記外側ローラの前記軸線とのうち、少なくとも一方のローラの軸線の位置を変える機構であり、該一方のローラを回転可能に支持する回転軸を有し、
前記回転軸は、前記一方のローラの軸線を中心として該一方のローラが回転可能に取り付けられているローラ取付部と、該軸線からズレた偏芯軸線を中心として円柱状を成し、該偏芯軸線を中心として回転可能に前記ローラ支持台に支持されている被支持部と、を有する、
ことを特徴とする軸流流体機械の可変静翼駆動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、
前記回転駆動機構は、駆動端が直線的に往復移動するアクチュエータと、該駆動端と前記可動環とを連結するリンク機構と、を有する、
ことを特徴とする軸流流体機械の可変静翼駆動装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の軸流流体機械の可変静翼駆動装置において、
前記環支持機構を4個又は5個備えている、
ことを特徴とする軸流流体機械の可変静翼駆動装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の可変静翼駆動装置と、
複数の前記動翼が設けられている前記ロータと、
前記ロータを回転可能に覆うケーシングと、
前記ケーシング内に前記ロータを中心として環状に複数配置された可変静翼と、
を備えていることを特徴とする軸流流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96341(P2013−96341A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241390(P2011−241390)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】