説明

軸肥大加工装置及びその方法

【課題】ワークに種々の形状の肥大部を成形することができる軸肥大加工装置及びその方法を提供する。
【解決手段】本発明の軸肥大加工方法を実施する装置は、ワークWが配置されるべき基準線Aに沿って離間し、ワークWの両端部をそれぞれ保持する一対のホルダユニット6a,6bと、ホルダユニット6に設けられた外形拘束部材72とを備え、ホルダユニット6a,6b間にてワークWを基準線Aに沿い加圧圧縮しながら基準線Aの回りに回転させる一方、ホルダユニット6の傾動を介してワークWの曲げと曲げ戻しをなすことで、外形拘束部材72内にてワークWの一部を塑性変形により拡径させた肥大部Cを成形し、この肥大部Cは外形拘束部材72の内周形状に一致した外周形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属棒材からなるワークの一部に拡径した肥大部を成形する軸肥大加工装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の軸肥大加工装置は一対のホルダユニット(回転保持体)を備え、これらホルダユニットはワークがセットされる基準線に沿って互いに離間している。そして、各ホルダユニットは、基準線上に規定された保持位置にてワークをそれぞれ保持する保持部(チャック)を有する一方、基準線に沿って互いに接離可能となっている(特許文献1)。
特許文献1の軸肥大加工装置の場合、一対のホルダユニットのうち、その一方は駆動側のホルダユニットであって、この駆動側のホルダユニットはその保持部を回転させ、一対のホルダユニットの保持部間に保持されたワークを基準線の回りに回転させる。これに対し、他方のホルダユニットは従動側のホルダユニットであって、この従動側のホルダユニットは基準線に沿い、駆動側のホルダユニットに向けて押し込み可能であり、また、その保持部を基準線に対して傾斜させるべく傾動可能となっている。
【0003】
駆動側及び従動側のホルダユニットの保持部間にワークが保持された状態で、従動側のホルダユニットが駆動側のホルダユニットに向けてワークを押し込みながら、基準線に対して所定の角度に傾動されれば、ワークは基準線に沿う加圧力(圧縮力)と基準線と直交する方向への曲げ力とを同時に受ける。それ故、ワークに塑性変形が生じ、ここでの塑性変形は曲げ方向でみてワークの内側に膨らみが発生させ、その分、ワーク長さは収縮する。
【0004】
この際、ワークが基準線の回りに回転されていれば、上述した膨らみはワークの全周に亘って成長し、この後、ワークへの加圧を維持しながら従動側ホルダユニットの傾動が元に戻されれば、ワークの一部に拡径した肥大部が成形される。
【特許文献1】特許第3418698号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1の軸肥大加工装置の場合、ワークの肥大部は駆動側及び従動側のホルダユニット間、即ち、これらホルダユニットの保持部間に成形されることから、肥大部はその外径が基準線に沿ってほぼ一定のフランジ形状にならざるを得ない。しかしながら、軸肥大加工装置の汎用性を高めるためには、フランジ以外の異形の肥大部をも成形可能であるのが望ましい。
【0006】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところはフランジ以外の異形の肥大部をワークに成形することができる軸肥大加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、金属棒材のワークが配置されるべき基準線と、この基準線に沿って離間して配置され、基準線上のワークを保持する保持部をそれぞれ有し、且つ、基準線に沿って互いに接離可能な一対のホルダユニットと、一対のホルダユニット間に保持部を介して保持されたワークを保持部とともに基準線回りに回転させる駆動手段と、一対のホルダユニットを基準線に沿い互いに近接する方向に相対的に押し込み、一対のホルダユニット間に保持されたワークを基準線の方向に加圧する加圧手段と、基準線上に曲げ中心を有し、一方の保持部をワークとともに曲げ中心から傾斜させるべく対応する側のホルダユニットを傾動させる傾動手段とを具備し、一対のホルダユニットの保持部間におけるワークの部位に拡径させた肥大部を成形する軸肥大加工装置において、肥大部の成形時、肥大部の外周の輪郭を決定すべく肥大部の拡径を拘束する外形拘束部材を更に備えており、この外形拘束部材は、肥大部の成形完了時に一対のホルダユニットの保持部間にて規定される肥大幅の中心からずらしてワークの肥大加工を行うべく配置されている(請求項1)。
【0008】
上述の軸肥大加工装置によれば、ワークの一部に肥大部が成形されるとき、外形拘束部材はその内面にて肥大部の塑性変形の成長を拘束し、肥大部に外形拘束部材の内周形状に従う外周形状を与える。そして、外形拘束部材は、前記肥大幅の中心からずらしてワークの肥大加工を行うべく配置されているので、肥大部の成形時、ワークの塑性変形に起因するワーク材料の流動を外形拘束部材内にて一様にでき、肥大部の外周形状は外形拘束部材の内周形状に正確に一致する。
【0009】
具体的には、外形拘束部材は、ホルダユニットの保持部に嵌合して取り付けられており(請求項2)、この場合、保持部が外形拘束部材の支持部材を兼用する。それ故、保持部に嵌合される外形拘束部材の部位は段付きの外面形状を有しているのが好ましく(請求項3)、この場合、保持部は外形拘束部材に対する嵌合支持面を基準線に沿って長く確保する。
【0010】
更に、前記一方のホルダユニットの保持部は外形拘束部材の位置決めをなす位置決め部材を含むことができ(請求項4)、この場合、傾動手段の曲げ中心を固定した状態で、外形拘束部材の位置決めが可能となる。
更に、本発明は軸肥大加工方法をも提供し、この軸肥大加工方法は、基準線上に配置された金属棒材のワークの両端部を一対の保持スリーブにてそれぞれ保持し、前記ワークに対して前記基準線回りの回転、前記基準線に沿う方向からの加圧及び前記基準線上に規定された曲げ中心からの曲げ及び曲げ戻しをそれぞれ付与し、前記保持スリーブ間にて前記ワークの一部を部分的に拡径した肥大部を成形する方法であって、前記肥大部の成形完了時に前記保持スリーブ間にて規定される間隔を肥大幅としたとき、この肥大幅の中心からずらして前記ワークの肥大加工を開始させるとともに、肥大部の拡径を外形拘束部材により拘束して肥大加工を行うことに特徴付けられる(請求項5)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜4の軸肥大加工装置は、ワークの一部に肥大部を成形する際、肥大部の拡径を外形拘束部材により拘束するようにしたから、肥大部に外形拘束部材の内周形状に従う外周形状を付与することができ、ワークの一部にフランジ以外の異形の肥大部を容易に成形することができる。また、外形拘束部材は前述した肥大幅の中心からずらしてワークの肥大加工を行うべく配置されるから、肥大部の外周形状を外形拘束部材の内周形状に正確に一致させることができ、所望の形状の肥大部を高精度に成形可能となる。
【0012】
また、請求項5の軸肥大加工方法は、請求項1の軸肥大加工装置と同様な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1及び図2を参照すると、本発明の軸肥大加工方法を実施する一実施例の軸肥大加工装置が示されており、この軸肥大加工装置は、金属の棒材からなるワークが配置されるべき水平な基準線Aを有する。ここで、ワークは中実及び中空の何れであっても良い。
基準線Aの下方には装置フレーム2が配置され、この装置フレーム2は基準線Aに沿って延びている。図1及び図2でみて、装置フレーム2の左端部には一対の支持壁4が設けられており、これら支持壁4は基準線Aを挟んで配置され、装置フレーム2の底から立設されている。
【0014】
支持壁4間には駆動側のホルダユニット6aが配置され、このホルダユニット6aはユニットフレーム8を備えている。このユニットフレーム8は両支持壁4に沿って配置された一対の側板10と、これら側板10の上部を互いに連結するブロック形状の支持外筒12と、側板10の下端を相互に連結する底板14とを有する。図1でみて、各側板10の右縁はその上部が支持外筒12から突出し、これら突出部10aは水平な枢支軸16を介して対応する側の支持壁4に回転自在に支持されている。ここで、枢支軸16の軸線は前述した基準線Aと交差する。
【0015】
一方、底板14の下面にはブラケット18を介して傾動シリンダ20のピストンロッドが連結され、この傾動シリンダ20の基部は装置フレーム2の底に取り付けられている。図1に示す状態から、傾動シリンダ20が伸長されると、上述したユニットフレーム8は一対の枢支軸16を中心として上方、即ち、図1中の矢印Cで示す時計方向に傾動することができる。即ち、枢支軸16及び傾動シリンダ20はホルダユニット6aのための傾動手段を構成し、この傾動手段の傾動中心は枢支軸16の軸線上にある。
【0016】
前述した支持外筒12は基準線Aと同心のシリンダボアを有し、このシリンダボアは支持外筒12を貫通して延びている。シリンダボアには段付きの支持内筒22が配置され、この支持内筒22は基準軸Aと同軸上に位置付けられた状態で、シリンダボアを貫通している。支持内筒22の両端部は、軸受24,26を介して支持外筒12に回転自在に支持されている。
【0017】
図1でみて、支持内筒22の左端は支持外筒12から突出しており、この突出端にギヤプーリ28が取り付けられている。このギヤプーリ28は支持内筒22と一体的に回転可能である。一方、ユニットフレーム8の底板14には取付台30を介して電動モータ32が配置されており、この電動モータ32の出力軸にはギヤプーリ34が取り付けられている。このギヤプーリ34と支持内筒22のギヤプーリ28とはギヤベルト36を介して接続されており、電動モータ32が駆動されたとき、支持内筒22は一方向に回転される。即ち、電動モータ32及びこの電動モータ32から支持内筒22のギヤプーリ34に至る動力伝達経路は、支持内筒22のための駆動手段を構成する。
【0018】
更に、支持内筒22内にはホルダカートリッジ38が脱着可能に収容されている。このホルダカートリッジ38は支持内筒22と一体的に回転可能であって、図1でみて支持内筒22から僅かに突出した右端と、支持内筒22内に位置した左端を有する。
そして、支持外筒12の外側には排出シリンダ40が支持内筒22と同軸に配置されており、排出シリンダ40は支持ブラケット42を介してユニットフレーム8に取り付けられている。それ故、排出シリンダ40はユニットフレーム8と一体的に傾動可能である。排出シリンダ40のピストンロッド44は支持外筒12内に延び、そして、図示の状態では前述したホルダカートリッジ38の左端、即ち、その内端に当接している。
【0019】
図3は、前述したホルダカートリッジ38の詳細を示す。
ホルダカートリッジ38はスリーブホルダ46を備え、このスリーブホルダ46は支持内筒22内に嵌合されている。ここで、支持外筒12に対して支持内筒22を回転自在に支持する図1の軸受24,26はそれぞれ、スラストころ軸受及びラジアル軸受の組合せからなり、図3中、これらスラストころ軸受及びラジアル軸受はその対応する参照符号24,26に添え字a,bをそれぞれ付加して示されている。なお、図3中、支持内筒22のギヤプーリ28は省略されている。
【0020】
図3から明らかなように、スリーブホルダ46は段付きの中空円筒形状をなし、図3でみて、その右端部に大径端部46aを有する。この大径端部46aはスリーブホルダ46の外周面に肩部48を形成し、この肩部48を介して支持内筒22に支持されている。即ち、前述した基準線Aの方向に関してスリーブホルダ46は肩部48にて位置決めされている。
【0021】
そして、大径端部46aには肩部48とは反対側の端にスリーブ押さえ50が外側から螺合されており、このスリーブ押さえ50は大径端部46aの延長端を形成し、支持内筒22から突出している。支持内筒22から突出したスリーブ押さえ50の外周面は複数段の段付き形状をなし、その1つの段にてリング形状のカートリッジ押さえ52が噛み合い、このカートリッジ押さえ52は複数の連結ボルト54を介して支持内筒22に固定されている。それ故、スリーブホルダ46の大径端部46aは支持内筒22とスリーブ押さえ50との間にて挟持された状態にあるが、支持内筒22からスリーブ押さえ50を取り外せば、スリーブホルダ46、即ち、ホルダカートリッジ38はその全体が支持内筒22から引き抜き可能となる。
【0022】
更に、スリーブホルダ46内には前部スリーブ56及び後部スリーブ58がそれぞれ嵌合されており、前部スリーブ56は大径端部46a内に位置付けられ、スリーブ押さえ50から僅かに外側に突出されている。一方、後部スリーブ58は前部スリーブ56の後側にて大径端部46a内に位置付けられ、大径端部46a内の内端面46bに当接する大径端58aと、この大径端58aから延びる小径部58bを有する。それ故、基準線Aの方向に関して、前部スリーブ56は後部スリーブ58の大径端58aを介してスリーブホルダ46に支持された状態にある。また、前部スリーブ56及び後部スリーブ58はその内部が基準線Aと同軸のワーク保持孔60として形成され、このワーク保持孔60はワークの挿通を許容する内径を有する。具体的には、図3に示す実施例の場合、ワーク保持孔60の内径は31mmである。
【0023】
一方、スリーブホルダ46には大径端部46aとは反対側の端部に円筒状のプラグ62が螺合され、このプラグ62は回り止めナット64を介してスリーブホルダ46に固定されている。
更に、スリーブホルダ46には分割型のスライドプッシャ66が備えられ、このスライドプッシャ66は基準線Aと同軸的に配置されている。より詳しくは、スライドプッシャ66は前部ピン66aと、後部スライドピン66bとから構成され、前部ピン66aはスリーブホルダ46内に位置付けられ、図示の状態にあるとき、その前端は前述した後部スリーブ58の小径部58b内、即ち、ワーク保持孔60内に摺動自在に嵌合されている。
【0024】
一方、後部スライドピン66bの前端はスリーブホルダ46内に位置したフランジ状のスライド端66cとして形成され、このスライド端66cは前部ピン66aの後端に結合され、且つ、スリーブホルダ46内を摺動自在である。図3から明らかなように、後部スライドピン66bは前述したプラグ62を貫通してスリーブホルダ46の外側、つまり、支持内筒22内に突出し、前述した排出シリンダ40におけるピストンロッド44の先端に当接されている。
【0025】
図3に示す状態にあるとき、スライド端66cは調整カラー68を介してプラグ62に当接しており、この場合、前部ピン66aの前端にてワーク保持孔60の底が形成される。即ち、スライドプッシャ66の前部ピン66aはワーク保持孔60内へのワークの挿入長さを決定し、そして、前部及び後部のスリーブ56,58、そして、スライドプッシャ66はワークのための保持部を構成する。
【0026】
なお、図3中、参照符号70はガイド筒を示し、このガイド筒70は後部スライドピン66b及びピストンロッド44の案内をなすべく、支持内筒22に螺合されている。
更に、前部スリーブ56の前端には中空円筒状の外形拘束部材72が部分的に嵌合されており、この外形拘束部材72の内部はこの実施例の場合、ワーク保持孔60に連なるテーパ孔74として形成されている。このテーパ孔74はワーク保持孔60と同軸で、且つ、ワーク保持孔60よりも大径であり、後部スリーブ58に向けて先細となっている。
【0027】
更にまた、図3中、外形拘束部材72内に示した点Bは前述したユニットフレーム8における枢支軸16(図1参照)の軸線、即ち、傾動中心を示す。そして、この傾動中心Bに対して外形拘束部材72の位置決めが可能となっており、ここでの位置決めは前部スリーブ56を基準線Aに沿って変位させることでなされる。具体的には、前部スリーブ56の変位は、基準線Aに沿う後部スリーブ58の大径端58aの長さを調整することで可能である。
【0028】
一方、図1及び図2でみて、ホルダユニット6aの右方にはこのユニット6aと対をなす従動側のホルダユニット6bが互いに対向した状態にて配置されている。このホルダユニット6bは駆動側のホルダユニット6aの主要要素と同様な主要要素を備えていることから、説明の重複を避けるために、ホルダユニット6aの主要構成要素と同様な主要要素については同一の参照符号を付し、駆動側のホルダユニット6aと相違する点のみを以下に説明する。
【0029】
従動側のホルダユニット6bはスライド台76上に取り付けられており、このスライド台76は一対の案内ベッド78に摺動自在に支持されている。これら案内ベッド78は基準線Aを挟んで配置され、基準線Aに沿って水平面内を互いに平行に延びている。従って、ホルダユニット6bはホルダユニット6aに対し、基準線Aに沿って接離自在である。なお、案内ベッド78は前述した装置フレーム2に取り付けられている。
【0030】
なお、この実施例の場合、スライド台76はホルダユニット6a側の端部に旋回ベース80を備え、この旋回ベース80に旋回ピン82を介してホルダユニット6bを水平面内にて旋回可能に支持している。
また、図1及び図2から明らかなように、従動側のホルダユニット6bの場合、その排出シリンダ40のための支持ブラケット42は支持外筒12から延びている。
【0031】
そして、スライド台76の直下には加圧シリンダ84が配置されており、この加圧シリンダ84は装置フレーム2に取り付けられている。加圧シリンダ84は基準線Aに沿って水平に延び、そのピストンロッド86が前述したスライド台76の旋回ベース80に連結具88を介して連結されている。それ故、図1に示す状態から加圧シリンダ84が伸縮されると、スライド台76は一対の案内ベッド78上を往復移動し、この結果、ホルダユニット6bはホルダユニット6aに対し、基準線Aに沿って接離することができる。
【0032】
最後に、従動側のホルダユニット6bの場合、そのホルダカートリッジ38は外形拘束部材72を備えておらず、前部スリーブ56が駆動側のホルダユニット6aの外形拘束部材72に直接的に対向した状態にある。
次に、図4を参照しながら、上述した軸肥大加工装置によるワークの肥大加工について説明する。なお、図4中、駆動側及び従動側のホルダユニット6a,6bは簡略化して示されている。具体的には、ホルダユニット6a,6bは、前部及び後部スリーブ56,58を1つに纏めた保持部、即ち、保持スリーブ90a,90bとして示すとともに、これら保持スリーブ90a,90bに前述したワーク保持孔60の可動底(スライドプッシャ66の前端)を参照符号92で示してある。
【0033】
図4(a)は、ホルダユニット6a,6bが基準線Aに沿って所定の距離だけ離間した状態を示し、この際、これらホルダユニット6a,6bの保持スリーブ90a,90bは基準線A上にあって互いに対向している。
この状態にて、ホルダユニット6a,6b間に加工すべきワーク(金属棒材)Wが供給され、このワークWはその一端部が先ず、ホルダユニット6a側の保持スリーブ90aのワーク保持孔60内に外形拘束部材72を通じて挿入され、ワークWの一端はワーク保持孔60の可動底92に当接する。
【0034】
この後、加圧シリンダ84を伸長させることで、ホルダユニット6aに向けてホルダユニット6bを移動させ、このホルダユニット6b側の保持スリーブ90bのワーク保持孔60内にワークWの他端部をその可動底92に当接するまで挿入させる。この状態は、図4(b)に示されて、ここでは、ワークWは保持スリーブ90a,90bの可動底92間に挟持され、そして、保持スリーブ90aの外形拘束部材72と保持スリーブ90bとの間には所定の間隔が確保され、ここでの間隔は、外形拘束部材72のテーパ孔74の容積によって決定される。
【0035】
この後、加圧シリンダ84はホルダユニット6aに向けてホルダユニット6bを所定の加圧力Fで押圧し、ワークWに圧縮力を付与する一方、前述した電動モータ32を駆動し、ホルダユニット6a側の保持スリーブ90aをその支持内筒22(図1参照)を介して回転させる。このような保持スリーブ90aの回転に伴い、保持スリーブ90a,90bの可動底92間にて挟持状態にあるワークWはホルダユニット6b側の保持スリーブ90bとともに回転する。
【0036】
この後、前述した傾動シリンダ20(図1参照)が伸長されると、図4(c)に示されるようにホルダユニット6aは前述した傾動中心B(図4(a))の回りに上方に向けて徐々に傾動され、この傾動に伴い、ホルダユニット6aの保持スリーブ90aは基準線Aに対して所定の角度、具体的には4〜8°の角度に傾斜される。それ故、ワークWは傾動中心Bをその曲げ中心として曲げられる。
【0037】
この際にも、ワークWには加圧力Fが継続して付与されていることから、ワークWはその長手方向の圧縮を伴いながら、曲げ方向でみて、その内側が膨らむような塑性変形を受け、このような膨らみはワークWの回転に伴い、ワークWの全周に亘って成長し、外形拘束部材72のテーパ孔74内をほぼ満たすようになる(図4(d))。
この後、加圧力Fの付与を維持した状態で、ホルダユニット6aの傾動、即ち、ワークWの曲げが徐々に元に戻され、そして、図4(e)に示されるようにホルダユニット6a,6bの保持スリーブ90a,90bはともに基準線A上に位置付けられ、再び対向する。
【0038】
この際、保持スリーブ90bは保持スリーブ90aの外形拘束部材72に密着し、これにより、外形拘束部材72のテーパ孔74内はワークWの材料により完全に満たされ、ワークWにテーパ孔74に対応した円錐台形状の肥大部Cが成形される。
この時点で、ワークWに対する肥大加工が完了し、ホルダユニット6a側での保持スリーブ90aの回転及び加圧シリンダ84によるワークWの加圧はともに停止される。
【0039】
この後、ホルダユニット6a側の排出シリンダ40が伸長されることで、ワークWの一端はスライドプッシャ66、即ち、その前部ピン60aの前端にてホルダユニット6b側に向けて押圧され、一方、加圧シリンダ84の収縮を受けてホルダユニット6bはスライド台76とともにホルダユニット6aから離間する方向に移動される。
それ故、ホルダユニット6a側の外形拘束部材72内に上述の肥大部Cに成形されても、ワークWは従動側のホルダユニット6bに保持された状態で、ホルダユニット6aの保持スリーブ90aから押し出される(図4(f))。この後、従動側のホルダユニット6bにおいても、その排出シリンダ40が伸長されることで、ワークWはその保持スリーブ90bからも押し出し可能となる。
【0040】
なお、ホルダユニット6bは前述した旋回ピン82(図1参照)の回りに水平面内にて旋回可能であるから、ホルダユニット6bを旋回させた後に、ワークWの押し出しを実施すれば、例えワークWが長くても、ホルダユニット6aが邪魔になることなくホルダユニット6bからワークWを押し出すことができる。
ワークWに上述した肥大加工を実施するにあたり、ワークWの曲げ中心(傾動中心B)は肥大加工の完了時における保持スリーブ90a,90b間にて規定される肥大幅H(図4(e)参照)の中心ではなく、この中心からずれた状態にある。即ち、これを換言すれば、外形拘束部材72は前述した前部スリーブ56の変位を介してなされる位置決めにより、前記肥大幅Hの中心からずらしてワークの肥大加工を行うべく配置されている。
【0041】
このような構成によれば、外形拘束部材72が如何なる内周形状を有していても、その内部の適切な位置、本実施例の場合にはテーパ孔74内の適切な位置からワークWの肥大加工を開始させることができ、ワークWの塑性変形に起因したワーク材料の流動を外形拘束部材72のテーパ孔74内にて一様にでき、この結果、肥大部Cの高精度な成形、即ち、その外周面をテーパ孔74の内周面に正確に一致させた肥大部Cの成形が可能となる。
【0042】
この点、ワークWの曲げ中心が図5中に示す肥大幅Hの中心に一致した状態で外形拘束部材72が配置されていれば、ワークの肥大加工が肥大幅Hの中心Eから開始されるので、肥大部Cの外周面は外形拘束部材72におけるテーパ孔74の内周面形状に正確に一致せず、図5中の1点鎖線Gで示すように肥大部Cはテーパ孔74よりも更に先細なものとなる。しかしながら、本実施例の場合、ワークWの曲げ中心Bは肥大幅Hの中心からずれた状態で、外形拘束部材72が配置されていので、上述の不具合を被ることはない。
【0043】
本発明は上述の一実施例に制約されるものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、図6に示されているように、外形拘束部材72は保持スリーブ90a内に嵌合される部位が段付き形状をなすものであってよく、この場合、保持スリーブ90aは外形拘束部材72をより安定して支持することができる。
ここで、ワークWの肥大加工の完了時を示す図5及び図6において、保持スリーブ90bは何れも外形拘束部材72から離れた状態で示されているが、これは作図上の都合による。
【0044】
また、外形拘束部材72はテーパ孔74を有するものに限らず、図7に示されるように正六角形の角孔94や、内歯状の孔(図示しない)等を有するものであってもよい。この場合、ワークWに成形される肥大部Cの外周面もまた角孔94の内周形状に一致した正六角形となる。即ち、外形拘束部材72における孔の内周形状は、成形した肥大部Cが外形拘束部材72から抜き出し可能であれば任意に設定することができる。
【0045】
更に、本発明の軸肥大加工装置は、駆動側のホルダユニット6aに代えて、従動側のホルダユニット6bを傾動させるようにしてもよいし、ホルダユニット6bを固定とし、傾動可能なホルダユニット6aをホルダユニット6bに移動させてワークWに加圧力を加えることも可能である。更に付け加えれば、ワークWの肥大加工を実施するあたり、ワークWに与える回転、曲げ及び加圧は任意の順序にて可能である。
【0046】
更にまた、図8(a)に示されるように、外形拘束部材72は従動側の保持スリーブ90bに取り付けられていてもよいし、図8(b)に示されるように保持スリーブ90a,90bの両方に取り付けられていてよい。図8(b)の場合、一対の外形拘束部材72は互いに協働して肥大部Cを成形する。
一方、本実施例の場合、ホルダカートリッジ38が支持内筒22に対して脱着可能であるから、ホルダカートリッジ38の交換により、種々のサイズのワークWに対して所望の形状を有する肥大部Cを簡単に肥大加工することができる。
【0047】
例えば、図9は図3のホルダカートリッジ38によりも小径(例えば13mm)のワークに対応したホルダユニット6a側のホルダカートリッジ38を示す。図9のホルダカートリッジ38の場合、そのスリーブホルダ46内には、ばね座96が摺動自在に配置され、このばね座96と後部スリーブ58との間にコイルばね98が架け渡されている。このコイルばね98は、排出シリンダ40の作動時、スライドプッシャ66のスライド端66cと後部スリーブ58との直接的な衝突を避け、衝突の際の騒音を低減する。
【0048】
そして、外形拘束部材72はホルダカートリッジ38、即ち、その前部スリーブ56と一体であってもよいが、実施例のように前部スリーブ56と外形拘束部材72が別部材であれば、外形拘束部材72の交換のみで、ワークWに種々の形状の肥大部を成形可能となる。
更に、上述の実施例では、前述した前部スリーブ56の変位を介して外形拘束部材72の位置決め、つまり、外形拘束部材72に肥大幅Hの中心からのずれをもたらすようにしたが、支持外筒12の全体又はその内部の支持内筒22やスリーブホルダ46等を変位させることでも、外形拘束部材72に前記ずれをもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】一実施例の軸肥大加工装置を示した概略断面図である。
【図2】図1の装置の概略平面図である。
【図3】図1及び図2のホルダカートリッジの詳細を示した断面図である。
【図4】図1及び図2の軸肥大加工装置を使用したワークの加工手順を(a)〜(f)の順序で示す図である。
【図5】図3の外形拘束部材の作用を説明するための図である。
【図6】変形例の外形拘束部材を示した図である。
【図7】テーパ孔とは異なる内孔を有した外形拘束部材を示す図である。
【図8】変形例の外形拘束部材の配置を示し、(a)は従動側の保持スリーブに外形拘束部材が取り付けられた例を示し、(b)は駆動側及び従動側の保持スリーブの双方に外形拘束部材が取り付けられ例を示す図である。
【図9】小径のワークに対応したホルダカーリッジを示した図である。
【符号の説明】
【0050】
6a 駆動側のホルダユニット
6b 従動側のホルダユニット
20 傾動シリンダ(傾動手段)
32 電動モータ(駆動手段)
56 前部スリーブ(保持部)
58 後部スリーブ(保持部:位置決め部材)
66 スライドプッシャ(保持部)
72 外形拘束部材
90a,90b 保持スリーブ(保持部)
A 基準線
B 傾動中心(曲げ中心)
C 肥大部
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属棒材のワークが配置されるべき基準線と、
前記基準線に沿って離間して配置され、前記基準線上の前記ワークを保持する保持部をそれぞれ有し、且つ、前記基準線に沿って互いに接離可能な一対のホルダユニットと、
前記一対のホルダユニット間に前記保持部を介して保持されたワークを前記保持部とともに前記基準線回りに回転させる駆動手段と、
前記一対のホルダユニットを前記基準線に沿い互いに近接する方向に相対的に押し込み、一対のホルダユニット間に保持されたワークを前記基準線の方向に加圧する加圧手段と、
前記基準線上に曲げ中心を有し、一方の前記保持部を前記ワークとともに前記曲げ中心から傾斜させるべく対応する側のホルダユニットを傾動させる傾動手段と
を具備し、前記一対のホルダユニットの前記保持部間におけるワークの部位に拡径させた肥大部を成形する軸肥大加工装置において、
前記肥大部の成形時、前記肥大部の外周の輪郭を決定すべく前記肥大部の拡径を拘束する外形拘束部材を更に備え、
前記外形拘束部材は、前記肥大部の成形完了時に前記一対のホルダユニットの保持部間にて規定される肥大幅の中心からずらしてワークの肥大加工を行うべく配置されていることを特徴とする軸肥大加工装置。
【請求項2】
前記外形拘束部材は、ホルダユニットの前記保持部に嵌合して取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の軸肥大加工装置。
【請求項3】
前記保持部に嵌合される前記外形拘束部材の部位は段付きの外形形状を有することを特徴とする請求項2に記載の軸肥大加工装置。
【請求項4】
前記ホルダユニットの保持部は前記外形拘束部材の位置決めをなす位置決め部材を含むことを特徴する請求項2又は3に記載の軸肥大加工装置。
【請求項5】
基準線上に配置された金属棒材のワークの両端部を一対の保持スリーブにてそれぞれ保持し、前記ワークに対して前記基準線回りの回転、前記基準線に沿う方向からの加圧及び前記基準線上に規定された曲げ中心からの曲げ及び曲げ戻しをそれぞれ付与し、前記保持スリーブ間にて前記ワークの一部を部分的に拡径した肥大部を成形する軸肥大加工方法において、
前記肥大部の成形完了時に前記保持スリーブ間にて規定される間隔を肥大幅としたとき、この肥大幅の中心からずらして前記ワークの肥大加工を開始させるとともに、肥大部の拡径を外形拘束部材により拘束して肥大加工を行うことを特徴とする軸肥大加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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