説明

近接検出装置及びその方法

【課題】 物体の接近を電極の静電容量により検出近接センサーにおいて、比較的簡単な構成で、ノイズの影響を除去し、正確な位置検出を行うことの出来る近接検出装置を提供する。
【解決手段】 差動電極に内部コンデンサを加えて、3つの帰還を合成した比較発振手段の周波数から静電容量を求めることにより、同相充放電による差動電極の静電容量差と逆相充放電による静電容量和を同様の動作で検出し、差動電極の個々の素電極の静電容量を正確に検出できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量により人の指などの物体の接近や位置を検出する近接検出装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人など静電容量を持つ物体が電極に接近すると、電極の見かけの静電容量が増加することが知られている。この原理を応用して、静電タッチセンサなどの近接検出装置が実用化されている。
【0003】
このような近接検出装置では、電極の静電容量を検出するために、電極への充電時あるいは放電時の電圧と電荷との関係から電極の見かけの静電容量を求めている。しかし、人などの接近による電極の静電容量の増加は1pF程度の微小な値のために、電極の静電容量への1回の充電あるいは放電の特性からノイズを除去した正確な静電容量を求めることは困難である。このため、交流を印加したりスイッチを切換えたりすることにより電極への充放電を繰り返して、充放電特性を累積することにより静電容量の検出精度を向上させるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、従来の近接検出装置では、電極へのノイズの影響を除去するために、差動検出によるリファレンス電極との容量差を基に物体の接近を検出する方法も広く用いられている。
【0005】
しかし、ディスプレイ装置と透明な近接検出装置を重ねて使用する場合などには、ディスプレイ領域と近接検出装置の検出領域がほぼ同一で、リファレンス電極をディスプレイ領域と異なる位置に配置すると、ディスプレイ装置からのノイズを効率的に除去することができないと言う課題があった。また、リファレンス電極を検出領域内に配置すると、リファレンス電極も物体の接近で容量が変化してしまい、正確な除去が出来ないと言う課題があった。
【0006】
この課題を解決するために、同相充放電差動による差動電極の容量差と逆相充放電差動による容量和から差動電極の各々のノイズを除去した静電容量を検出する方法がある。
【特許文献1】特開平8−194025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の同相充放電差動と逆相充放電差動を併用する方法は、図2に示すように、差動電極に繰り返し充電した電荷を、大きな静電容量のコンデンサに蓄積して、蓄積コンデンサの電圧により静電容量を検出していたために、大容量のコンデンサを必要としていて、集積回路等を用いて省スペースとすることで安価に構成しようとした場合に、課題となっていた。
【0008】
また、交流波形を差動電極に印加して、差動電極の静電容量を用いたフィルタによる電圧降下から静電容量を求める方法もあったが、この方法では正弦波の発振回路やフィルタ回路や検波回路やA/D変換回路などのアナログ回路が必要で、回路規模が大きくなると言う課題があった。
【0009】
このように、従来の近接検出装置やその方法には、回路規模が大きくなると言う課題があった。そこで本発明は、この課題を解決して、比較的簡単な構成で、リファレンス電極を必要とせずにノイズを除去することのできる近接検出装置あるいはその方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による近接検出装置は、物体の接近を静電容量の変化として検出する差動電極と、前記差動電極の静電容量を求める静電容量検出手段と、前記静電容量から想定する物体の接近を検出する近接演算手段とにより構成した。また、前記静電容量検出手段は、差動電極の端子波形の差を求める減算手段と前記減算手段で求めた差の波形を比較して前記差動電極の両端子に抵抗により帰還をかけることにより発振させる比較発振手段と前記比較発振手段からの発振波形の周期に対応した値を求める計測手段とにより構成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的簡単な構成で、リファレンス電極を必要とせずにノイズを除去する近接検出装置あるいはその方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による近接検出装置は、物体の接近を静電容量の変化として検出する差動電極と、前記差動電極の静電容量を求める静電容量検出手段と、前記静電容量から想定する物体の接近を検出する近接演算手段とにより構成する。また、前記静電容量検出手段は、差動電極の端子波形の差を求める減算手段と前記減算手段で求めた差の波形を比較して前記差動電極の両端子に抵抗により帰還をかけることにより発振させる比較発振手段と前記比較発振手段からの発振波形の周期に対応した値を求める計測手段とにより構成する。
【実施例】
【0013】
本発明の好適な実施例を、図1を基に説明する。
【0014】
図1において、差動電極1は、従来の近接検出装置と同様に正の素電極と負の素電極とにより構成され、検出対象の物体が接近すると見かけの静電容量を増加させる。
【0015】
静電容量検出手段2は、差動電極を構成する正の素電極と負の素電極の静電容量の和や差あるいはその両方を検出する。但し、ここでの静電容量とは、必ずしも静電容量の絶対値である必要はない。近接検出のためには、例えば発振波形の周期など静電容量の変化に対応して変化する値が得られれば良いからである。
【0016】
近接演算手段3では、静電容量検出手段で求めたノイズを除去した静電容量の値が予め設定した値より大きくなった場合には、予め想定した物体の接近として検出するようにする。
【0017】
さらに静電容量検出手段2は、両素電極に共通のノイズを除去するための減算手段と、ヒステリシス特性を持つ比較器と帰還抵抗により発振させる比較発振手段と、前記比較発振手段からの発振波形の周期など静電容量に対応する値を求める計測手段とにより構成する。ここで、正の素電極と負の素電極は近傍に配置されているため、外来ノイズの影響も似たものになっているため、減算手段によりノイズが大幅に除去されるのである。
【0018】
この静電容量検出手段の内部構成の一例を、図4に示す。図4の例では、正の素電極4と負の素電極5には抵抗を介して逆相の発振波形が印加されているため、減算手段6で減算することにより、ノイズを除去しつつ凡そ両素電極の静電容量あるいはその変化の和に応じた充放電波形を得ることが出来る。
【0019】
ここで、比較発振手段15は、例えば、図5に示すようなヒステリシス特性を持つ比較器7と正の素電極への帰還抵抗Rp(8)と負の素電極への帰還抵抗Rm(9)とにより構成した。ここでの帰還は、安定して発振するために、正の素電極側も負の素電極側も負の帰還である。また、正の素電極と帰還抵抗Rpによる時定数と、負の素電極と帰還抵抗Rmによる時定数がほぼ同じになるように帰還抵抗Rp,Rmの値を設定する。
【0020】
計測手段10は、発振信号の周期をクロックのカウントにより求めるようにしたが、一定期間の発振信号をカウントして周波数を求めるようにしても良いことは言うまでもない。
【0021】
静電容量検出手段の他の例を、図6に示す。図6の例では、正の素電極4と負の素電極5に同相の充放電を行い、減算することにより、ノイズを除去した両素電極の静電容量の差を検出するようにしたものである。但し、この場合には、両素電極への充放電が同相のため、減算によりノイズの除去と同時に基本的な発振波形自体も除去されてしまう。従って、減算手段6からの波形は、両素電極の静電容量の差に応じた成分のみである。このため、比較発振手段15は、図7に示すように、それ自体に帰還抵抗Ri(12)とコンデンサCi(13)を設けて、加算器16を介して比較器7にフィードバックすることで、両素電極の静電容量が全く同じで減算手段6の出力が常に0の場合でも、発振するようにしたものである。つまり、帰還抵抗Riによる帰還は負の帰還であり常に安定した発振をするようにしたものである。
【0022】
ここで、例えばコンデンサCiと両素電極の充放電が同相で、かつ減算手段で正の素電極の充放電波形から負の素電極の充放電波形を差し引く場合には、正の素電極への帰還抵抗Rp(8)はコンデンサCi(13)への帰還抵抗Ri(12)による帰還と同様に負の帰還であり、負の素電極への帰還抵抗Rm(9)による帰還は減算しているため逆に正の帰還である。同様の3つの帰還のうちの2つが負の帰還で1つが正の帰還で、負の帰還が強いために安定して発振するようにしたものである。
【0023】
この場合に、例えば、正の素電極に検出対象の物体が接近して負の素電極より静電容量が大きくなると、正の素電極とコンデンサCiへの帰還の極性が同じためコンデンサCiの容量が大きくなったかのごとく発振周期が長くなる。逆に負の素電極の方が大きくなった場合には、減算手段で−1倍されていると考えることが出来るために、負の素電極とコンデンサCiへの帰還の極性が逆のため、発振周期が短くなるように作用する。
【0024】
但し、この関係は、帰還抵抗RiとコンデンサCiによる時定数と両素電極の静電容量と帰還抵抗Rp,Rmとによる時定数はほぼ同じであることが前提である。具体的には、これら3つの値の比が0.5倍より大きく2.0倍より小さい値であれば効果的に機能する。
【0025】
なお、図6での乗算手段14は、減算した波形にさらに係数を掛けることにより、両素電極の静電容量の差を検出する感度を変えることが出来る。但し、この乗算手段は、必ずしも必要ではなく、感度を変えたい場合にのみ設ければ良い。また、この乗算手段は、必ずしも減算した後に設ける必要はなく、減算手段で減算する前に設けても同様である。
【0026】
また、図6における計測手段は、図4における計測手段と同様である。
【0027】
静電容量検出手段のさらに他の例を、図8に示す。図8の例では、正の素電極と負の素電極に同相の充放電と逆相の充放電を時分割して行い、減算することにより、ノイズを除去した両素電極の静電容量の和と差を検出するようにしたものである。和と差の両方が分かると、正の素電極と負の素電極の各々の静電容量を加減算により容易に求めることが出来るためである。
【0028】
ここで、同相充放電により両素電極の静電容量の差を求める場合の構成及び動作は、図6の例の場合と同様である。
【0029】
但し、逆相充放電の場合は、図4に示す例の場合と以下の点が異なる。図4に示す例の場合には、比較発振手段15内部の帰還抵抗とコンデンサがなく、両素電極への帰還は、両方とも負の帰還である。これに対し、図8の例では、逆相充放電の場合でも、図6の例の場合と同様に帰還抵抗RiとコンデンサCiを用いる。但し、両素電極への帰還抵抗Rp(8),Rm(9)による帰還は負の帰還であり、コンデンサCiへの帰還抵抗Riによる帰還は正の帰還とした。こうすることにより、2つの負の帰還と1つの正の帰還による発振となり、同相充放電による静電容量差と逆相充放電による静電容量差の動作がほぼ同様になる。このため、同相充放電と逆相充放電の周波数もほぼ等しくなり、同じ容量変化に対する周波数の変化もほぼ同様となるために、同相充放電による静電容量差と逆相充放電による静電容量和とから加減算により両素電極個別の静電容量をより正確に計算できるようになる。
【0030】
このように、同相充放電の場合には両素電極への帰還抵抗Rp,Rmによる帰還が負の帰還で比較発振手段内部の帰還が正の帰還とし、逆相充放電の場合には両素電極への帰還抵抗Rp,Rmによる帰還の一方が正の帰還でもう一方が負の帰還で比較発振手段内部の帰還が負の帰還とすれば良い。正の帰還をかけるか負の帰還をかけるかは、3つの帰還抵抗Rp,Rm,Riの各々に比較発振手段の比較器の正論理出力を接続するか負論理出力を接続するかで容易に制御することが出来る。あるいは、排他的論理和により論理を反転させても良いことは言うまでもない。
【0031】
なお、図8における計測手段10も、図4における計測手段と同様である。
【0032】
以上では、説明の便宜上、減算手段と加算手段と乗算手段を分けた場合の例を示したが、これらは順番を入換えたり、一つの演算手段でまとめて実現するなど、同様の機能を実現できるような手段や方法であればどのようなものを用いても良いことは言うまでもない。
【0033】
以上に、図1に示す一対の差動電極により物体の接近を検出する近接検出装置の場合について説明したが、同様に図3に示すように、複数の差動電極を用いることにより、物体の接近ばかりでなくその位置まで検出することの出来る近接検出装置に本発明を用いることが出来ることは言うまでもない。
【0034】
以上に説明したように、本発明による近接検出装置では、内部に安定した発振手段を設けて3つの帰還を合成するとこにより、大容量の累積コンデンサや複雑なアナログ回路を用いることなく比較的簡単な構成で、リファレンス電極を必要とせずにノイズを除去して正確な物体の接近や位置を検出することのできる近接検出装置あるいはその方法を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る近接検出装置の第1の実施例を示すブロック図
【図2】従来の近接検出装置の静電容量検出手段の接続図
【図3】本発明に係る近接検出装置の他の実施例を示すブロック図
【図4】本発明に係る静電容量検出手段の例を示すブロック図
【図5】本発明に係る比較器の例を示す接続図
【図6】本発明に係る静電容量検出手段の例を示すブロック図
【図7】本発明に係る比較発振手段例を示す内部接続図
【図8】本発明に係る静電容量検出手段の例を示すブロック図
【符号の説明】
【0036】
1 差動電極
2 静電容量検出手段
3 近接演算手段
4 正の素電極
5 負の素電極
6 減算手段
7 比較器
8、9、12 帰還抵抗
10 計測手段
13 コンデンサ
14 乗算手段
15 比較発振手段
16 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動電極の静電容量の変化により物体の接近あるいは位置を検出する近接検出装置であって、
前記物体の接近により見かけの静電容量を変化させる単数または複数の差動電極と、
前記差動電極の静電容量に応じた値を検出する静電容量検出手段と、
前記静電容量に応じた値から前記物体の接近あるいは位置を検出する近接演算手段とを有し、
前記静電容量検出手段は、前記差動電極の波形の差分を求める減算手段と、前記波形の差分を比較するヒステリシス特性を有する比較発振手段と、前記比較発振手段の出力により前記差動電極の各々に充放電を行う第1および第2の帰還抵抗と、を有することを特徴とする近接検出装置。
【請求項2】
前記静電容量検出手段は、前記差動電極とは異なる蓄電手段と、前記比較発振手段の出力により前記蓄電手段に充放電を行う第3の帰還抵抗と、を有することを特徴とする請求項1に記載の近接検出装置。
【請求項3】
前記差動電極への前記第1および第2帰還抵抗による2つの帰還と前記蓄電手段への前記第3の帰還抵抗による帰還のうちのいずれか1つが正の帰還で他の2つが負の帰還であることを特徴とする請求項2に記載の近接検出装置。
【請求項4】
前記差動電極を構成する正の素電極の静電容量と前記正の素電極への前記第1の帰還抵抗による時定数と、前記差動電極を構成する負の素電極の静電容量と前記負の素電極への前記第2の帰還抵抗による時定数と、前記蓄電手段の静電容量と前記蓄電手段への前記第3の帰還抵抗による時定数の中で、最も長い時定数と最も短い時定数との比が0.5倍より大きく2.0場合より小さいことを特徴とする請求項2に記載の近接検出装置。
【請求項5】
前記静電容量検出手段は、乗算手段を有することを特徴とする請求項1に記載の近接検出装置。
【請求項6】
差動電極の静電容量の変化により物体の接近あるいは位置を検出する近接検出方法であって、
前記物体の接近により見かけの静電容量を変化させる単数または複数の差動電極の静電容量に応じた値を検出する静電容量検出工程と、
前記静電容量に応じた値から前記物体の接近あるいは位置を検出する近接演算工程とを有し、
前記静電容量検出工程は前記差動電極の波形の差分を求める減算工程と、前記波形の差分を比較し発振を行う比較発振工程と、前記比較発振工程の出力により前記差動電極の各々に帰還抵抗を介して充放電を行う工程と、を有することを特徴とする近接検出方法。
【請求項7】
前記静電容量検出工程は、帰還抵抗を介して前記比較発振工程の出力を前記差動電極とは異なる蓄電手段に充放電を行うことを特徴とする請求項6に記載の近接検出方法。
【請求項8】
前記差動電極への帰還抵抗による2つの帰還と前記蓄電手段への帰還抵抗による帰還のうちのいずれか1つが正の帰還で他の2つが負の帰還であることを特徴とする請求項7に記載の近接検出装置。
【請求項9】
前記差動電極を構成する正の素電極の静電容量と前記正の素電極への前記第1の帰還抵抗による時定数と、前記差動電極を構成する負の素電極の静電容量と前記負の素電極への前記第2の帰還抵抗による時定数と、前記蓄電手段の静電容量と前記蓄電手段への前記第3の帰還抵抗による時定数の中で、最も長い時定数と最も短い時定数との比が0.5倍より大きく2.0場合より小さいことを特徴とする請求項7に記載の近接検出方法。
【請求項10】
前記静電容量検出方法は、乗算工程を有することを特徴とする請求項6に記載の近接検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−193139(P2009−193139A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30616(P2008−30616)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】