説明

追尾アンテナ

【課題】従来の高精度なセンサによる誤差検出、分解能の高い機械的制御、電気的指向方向追尾に必要な多数の位相制御を不要とし、簡易、且つ、低コストで追尾アンテナを提供する。
【解決手段】1以上の反射鏡、2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段で構成され、給電手段は、送受周波数分離手段と、送信用および受信用の増幅手段と、送信用および受信用の可変電力分配手段と、レベル検出手段とから構成され、送信用および受信用の可変電力分配手段は、入力90度ハイブリッドと、出力90度ハイブリッドと、位相制御手段とから構成され、2つの素子アンテナはそれぞれ、通信の相手方となるアンテナからの到来方向に対して、仰角または方位角に所定の正負の角度(±θ)ずれた方向からの焦点位置に配置され、いずれか一方の素子アンテナのみを励振したときの半値角が前記所定の正の角度の2倍(2θ)より小さくなるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体衛星通信用地球局装置における指向方向追尾アンテナ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
指向方向追尾アンテナは、各種センサや通信の相手方からの信号の受信レベルから指向方向誤差を検出し、これを打ち消すように、アンテナの仰角・方位角方向を電気的または機械的制御を行う。
【0003】
従来の指向方向追尾アンテナの一例としては、非特許文献1に記載されるように、仰角方向は、モノパルス方式により指向方向誤差を検出し、フェーズドアレーアンテナによる電子走査を行い、方位角方向については、機械駆動によりアンテナを回転させ、受信レベルをモニタしながら指向方向誤差を補償している。また、図1に示すようにモノパルス方式や各種センサを用いて指向方向誤差を検出し、仰角および方位角方向を機械的に制御している。
【0004】
【非特許文献1】「超薄型衛星追尾アンテナシステムの開発と評価」、吉田他、2006年電子情報通信学会ソサイエティ大会、B-3-7、2006、金沢
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術で、フェーズドアレーアンテナの場合は、各素子の励振分布を調整して指向方向を制御しているため、一次元のみの走査であっても、少なくとも数十の移相器を備える必要があり、非常に高価なものになるという課題がある。一方、機械的に指向方向を制御する場合は、非常に高精度のセンサを必要とするとともに、非常に細かな制御を要するため、これもまたコスト高の要因になるという課題がある。また、安価な指向方向誤差検出であるモノパルス方式を適用した場合でも、給電用の素子アンテナの他に、モノパルス用の素子アンテナを必要とするという課題がある。
【0006】
従って、本発明は、従来の高精度なセンサによる誤差検出、分解能の高い機械的制御、電気的指向方向追尾に必要な多数の位相制御を不要とし、簡易、且つ、低コストで追尾アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するため本発明による追尾アンテナは、1以上の反射鏡、2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段で構成される追尾アンテナにおいて、前記給電手段は、送受周波数分離手段と、送信用および受信用の増幅手段と、送信用および受信用の可変電力分配手段と、レベル検出手段とから構成され、前記送信用および受信用の可変電力分配手段は、入力90度ハイブリッドと、出力90度ハイブリッドと、位相制御手段とから構成され、前記2つの素子アンテナはそれぞれ、通信の相手方となるアンテナからの到来方向に対して、仰角または方位角に所定の正負の角度(±θ)ずれた方向からの焦点位置に配置され、いずれか一方の素子アンテナのみを励振したときの半値角が前記所定の正の角度の2倍(2θ)より小さくなるように設定され、前記送信用および受信用の可変電力分配手段は、前記入力90度ハイブリッドの出力の一方を、前記位相制御手段を介して、前記出力90度ハイブリッドの一方の入力に接続し、前記入力90度ハイブリッドの出力の他方を、前記出力90度ハイブリッドの他方の入力に接続し、前記受信用の可変電力分配手段の逆相合成出力に前記レベル検出手段を接続し、前記受信用の可変電力分配手段は、前記受信用の位相制御手段の移相量を変化させたときに前記レベル検出手段における検出レベルが最小になる移相量を、前記送信用および受信用の位相制御手段の移相量として設定する。
【0008】
また、2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段をさらに含み、2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段が、仰角の指向方向誤差検出および追尾のためのアンテナおよび給電手段であり、残り2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段が、方位角の指向方向誤差検出および追尾のためのアンテナおよび給電手段であることも好ましい。
【0009】
また、機械的な仰角または方位角駆動により指向方向を合わせる指向方向追尾手段を更に備えることも好ましい。
【0010】
また、前記追尾アンテナは、1枚の反射鏡を有するパラボラアンテナであることも好ましい。
【0011】
また、前記追尾アンテナは、2枚の反射鏡を有するカセグレンまたはグレゴリアン形式のアンテナであり、1枚の反射鏡は、機械駆動により仰角または方位角の指向方向誤差検出および追尾を行うことも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の追尾アンテナは、2または4つの素子アンテナと可変電力分配手段で構成され、従来のフェーズドアレーによる構成に比較して、圧倒的に位相制御の数が少なくて済む。また、モノパルス方式のような指向方向誤差検出のみに使用する素子アンテナが不要となる。さらに、従来の機械的駆動の追尾アンテナと併用する場合、機械的駆動では粗調整のみを行えばよいため、アンテナ全体のコスト削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の実施形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
図2に指向方向追尾アンテナの構成例を示す。この例は仰角追尾アンテナの構成例である。1つの反射鏡1、2つの素子アンテナ2および該素子アンテナの給電手段3で構成されている。反射鏡アンテナ1を2つの素子アンテナ2にて給電し、給電手段3は、送受周波数分離手段31、送信用および受信用の増幅手段32、送信用および受信用の可変電力分配手段33、レベル検出手段34から構成される。また、可変電力分配手段33は位相制御手段35、入力90度ハイブリッド36、出力90度ハイブリッド37から構成されている。このとき、送信用および受信用の増幅手段32の位置が異なっているが、動作上はどちらでも問題はない。ただし、受信系においては、増幅手段32は雑音の影響から素子アンテナ2の直後に接続することが求められ、送信系では動作レベルを均一化させる目的で、増幅手段32は2つの90度ハイブリッド36、37の間に接続している。なお、図2では、送信用の可変電力分配手段33は明示されていないが、増幅手段32を中に有する形で存在している。
【0015】
可変電力分配手段33において、入力90度ハイブリッド36の出力の一方は、位相制御手段35を介して、出力90度ハイブリッド37の一方の入力に接続され、入力90度ハイブリッド35の出力の他方は、出力90度ハイブリッド37の他方の入力に接続されている。また、受信系の可変電力分配手段35の逆相合成出力にレベル検出手段34が接続されている。
【0016】
ここで、2つの素子アンテナ2は、±θからの指向方向の到来波に対して、最も受信レベルが高くなる位置に配置する。このとき一方の素子アンテナ2から給電した場合のビームの半値角が2θより小さくなるように設定する必要がある。このとき各素子アンテナ2の励振振幅を調整することにより、図3に示すように指向方向を−θ〜+θと制御することができる。
【0017】
指向方向制御には、適切に励振振幅を調整することが必要である。ここでは、受信信号に対して、受信系の位相制御手段35の位相を変化させ、レベル検出手段34の値が最小となる値を、送信系および受信系の位相制御手段35の設定値とする。このとき、一方からの信号を入力したとき、可変電力分配手段33として動作する入力90度ハイブリッド36−位相制御手段35−出力90度ハイブリッド37で構成される回路は、図4の特性を実現する。つまり、位相制御手段35により位相を変化させたとき、(可変電力分配手段33の2つの出力端子から出力される)2つの出力信号の位相はそれぞれ変化するものの、2つの出力信号間の相対的な位相関係は一定に保たれる。また、2つの端子から等位相の信号を入力した場合、一方の端子には同相合成され、他方の端子には逆相合成された信号がそれぞれ出力されるため、位相制御手段35の位相を変化させて、レベル検出手段34の値が最小となる値(等振幅逆相状態)を設定すると、他方の端子では最大の出力を得る。到来波に対して、レベル検出手段34において最小値を実現するように位相制御手段35を制御すると、到来波方向に指向性を向けることが可能であり、送信系についても位相制御手段35を連動させることで、指向方向制御が実現できる。
【0018】
図5に、位相制御手段35をある値に設定したときの、受信系における出力90度ハイブリッド37のそれぞれの出力を示す。レベル検出手段34が接続される逆相端子において利得が最小となる仰角と、受信アンテナの指向方向がほぼ一致していることが確認できる。また、図6は、受信系の逆相端子と送信アンテナの指向性であり、受信系と送信系の位相制御手段35を連動させることで、送信アンテナの指向方向が制御できていることが確認できる。また、図7は、本発明の手法における送信及び受信アンテナの指向方向誤差である。衛星追尾アンテナにおいては、誤差0.2度が要求されているため、送信アンテナで±0.82度、受信アンテナで±0.78度の範囲で、指向方向追尾を行えることが確認できる。
【0019】
上記は、仰角方向のみの追尾アンテナの構成を示したが、方位角の追尾アンテナに適用する場合は、同様の構成で素子アンテナ2の位置を変えればよい。また、仰角・方位角ともに適用する場合は、図8に示す構成をとり、仰角・方位角成分に分割して行えばよい。このとき、素子アンテナ2の配置する位置は、(+θ、+θ)、(−θ、+θ)、(−θ、−θ)、(+θ、−θ)の指向方向の到来波に対して、最も受信レベルが高くなる位置に配置する。
【0020】
以上、電気的な制御による指向方向追尾アンテナの構成について説明を行い、約±0.8度の範囲で、追尾できることを示した。これ以上の指向方向誤差の追尾に対応するためには、従来の技術のように、センサ等により指向方向誤差を検出して、機械的な仰角・方位角駆動により指向方向を合わせる必要がある。この場合に要求される機械的な追尾精度は約±0.8度でよく、センサの精度・機械駆動の分解能が要求されないため、アンテナ全体のコスト削減が可能となる。なお、アンテナ構成としては反射鏡が1枚のパラボラアンテナの例を挙げたが、反射鏡を2枚要するカセグレンやグレゴリアン形式のアンテナや、それ以上の反射鏡を有するアンテナでも適用可能である。さらに、カセグレンやグレゴリアン形式においては、副反射鏡を機械駆動して、仰角もしくは方位角を追尾し、本発明により他方を追尾することも可能である。
【0021】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来のモノパルス方式を備えた指向方向追尾アンテナを示す。
【図2】指向方向追尾アンテナの構成例を示す。
【図3】アンテナパタンの計算例を示す。
【図4】可変電力分配回路の動作を示す。
【図5】受信系における仰角に対する90度ハイブリッド出力を示す。
【図6】受信系における仰角に対する90度ハイブリッド出力と送信系指向性を示す。
【図7】仰角に対する角度誤差を示す。
【図8】仰角および方位角の指向方向追尾を行う構成例を示す。
【符号の説明】
【0023】
1 反射鏡
2 素子アンテナ
3 給電手段
31 送受周波数分離手段
32 増幅手段
33 可変電力分配手段
34 レベル検出手段
35 位相制御手段
36 入力90度ハイブリッド
37 出力90度ハイブリッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の反射鏡、2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段で構成される追尾アンテナにおいて、
前記給電手段は、送受周波数分離手段と、送信用および受信用の増幅手段と、送信用および受信用の可変電力分配手段と、レベル検出手段とから構成され、
前記送信用および受信用の可変電力分配手段は、入力90度ハイブリッドと、出力90度ハイブリッドと、位相制御手段とから構成され、
前記2つの素子アンテナはそれぞれ、通信の相手方となるアンテナからの到来方向に対して、仰角または方位角に所定の正負の角度(±θ)ずれた方向からの焦点位置に配置され、いずれか一方の素子アンテナのみを励振したときの半値角が前記所定の正の角度の2倍(2θ)より小さくなるように設定され、
前記送信用および受信用の可変電力分配手段は、前記入力90度ハイブリッドの出力の一方を、前記位相制御手段を介して、前記出力90度ハイブリッドの一方の入力に接続し、前記入力90度ハイブリッドの出力の他方を、前記出力90度ハイブリッドの他方の入力に接続し、前記受信用の可変電力分配手段の逆相合成出力に前記レベル検出手段を接続し、
前記受信用の可変電力分配手段は、前記受信用の位相制御手段の移相量を変化させたときに前記レベル検出手段における検出レベルが最小になる移相量を、前記送信用および受信用の位相制御手段の移相量として設定することを特徴とする追尾アンテナ。
【請求項2】
2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段をさらに含み、
2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段が、仰角の指向方向誤差検出および追尾のためのアンテナおよび給電手段であり、
残り2つの素子アンテナおよび該素子アンテナの給電手段が、方位角の指向方向誤差検出および追尾のためのアンテナおよび給電手段であることを特徴とする請求項1に記載の追尾アンテナ。
【請求項3】
機械的な仰角または方位角駆動により指向方向を合わせる指向方向追尾手段を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の追尾アンテナ。
【請求項4】
前記追尾アンテナは、1枚の反射鏡を有するパラボラアンテナであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の追尾アンテナ。
【請求項5】
前記追尾アンテナは、2枚の反射鏡を有するカセグレンまたはグレゴリアン形式のアンテナであり、
1枚の反射鏡は、機械駆動により仰角または方位角の指向方向誤差検出および追尾を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の追尾アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−200908(P2009−200908A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41364(P2008−41364)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】