追尾アンテナ
【課題】3つの高トルクのモータを使用することなく、ジンバルロックを回避できる追尾アンテナを提供する。
【解決手段】方位角軸、仰角軸、直交仰角軸において、直交仰角軸周りの指向方向は、給電部の物理的位置を移動させる物理的手法、もしくは、給電部を構成する素子アンテナを複数設け、適切な振幅および位相分布で励振する電気的方法で、比較的限定された範囲で制御する。
【解決手段】方位角軸、仰角軸、直交仰角軸において、直交仰角軸周りの指向方向は、給電部の物理的位置を移動させる物理的手法、もしくは、給電部を構成する素子アンテナを複数設け、適切な振幅および位相分布で励振する電気的方法で、比較的限定された範囲で制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体衛星通信用地球局装置における指向方向追尾アンテナ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
指向方向追尾アンテナは、仰角・方位角方向に指向方向を調整するため、仰角および方位角軸のそれぞれの軸周りに回転する機構が必要となる。図1は、この機構に基づく従来の追尾アンテナにおいて追尾範囲を低仰角に限定した追尾アンテナ(以下、従来型2軸制御アンテナ)の構成である。図1に示すように低仰角を指向する場合は、仰角軸および方位角軸周りに回転させることで、二次元的に指向方向を制御することができる。しかしながら、天頂(仰角90度)を指向する場合、仰角軸と直交する方向には駆動できない。この状態で仰角軸と直交する指向方向を制御するためには、方位角軸を瞬時に90度回転させなければならないが、現実には不可能である。この状態は一般的にジンバルロックと呼ばれる。ジンバルロックを回避するためには、非特許文献1に記載の通り、図2に示すように仰角軸に直交する軸(直交仰角軸)を追加した3軸の回転機構を取っている。本構成を従来型3軸制御アンテナと呼ぶ。
【0003】
なお、通信用のアンテナの場合、偏波軸を合わせる必要があり、図3に示すように指向方向に対して給電部を軸周りに回転させることで偏波軸を合わせることを実現する。一般的にはアンテナの給電部を物理的に回転させることでこれを行っている。
【0004】
【非特許文献1】「追跡用3軸旋回装置」、鳴海他、東芝レビューVol.59、No.10、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来型3軸制御アンテナでは、方位角軸および直交する2つの仰角軸は、アンテナ全体を回転させる必要がある。移動体衛星地球局に用いられるアンテナは、開口径がφ1mを超えるような大型構造体であり、追尾アンテナを実現するためには3つの高トルクのモータが必要となる。
【0006】
このとき高トルクモータは重量も小さくないため、高トルクのモータを複数備えなければならないことは、アンテナ全体の重量のさらなる増大を招くとともに、モータの重量を考慮したトルク要求が必要となる。さらに、追尾速度・追尾精度を高める場合、より高トルクの性能が要求されるため、さらなるアンテナ重量の増大につながる。
【0007】
したがって、本発明は3つの高トルクのモータを使用することなく、ジンバルロックを回避できる追尾アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するため本発明による追尾アンテナは、仰角軸および方位角軸の2軸に対して、指向方向を制御する手段と、前記仰角軸と直交する直交仰角軸に対して、前記2軸より狭い範囲で指向方向を制御する副調整手段とを備えている。
【0009】
また、前記追尾アンテナは複数の素子アンテナで構成され、前記副調整手段は,前記各素子アンテナの励振分布を変化させる手段であることも好ましい。
【0010】
上記目的を実現するため本発明による追尾アンテナは、反射鏡と該反射鏡を給電するための給電部とから構成される追尾アンテナにおいて、仰角軸および方位角軸の2軸に対して、前記反射鏡の指向方向を制御する手段と、前記仰角軸と直交する直交仰角軸に対して、前記2軸より狭い範囲で前記反射鏡の指向方向を制御する副調整手段とを備えている。
【0011】
また、前記副調整手段は、前記給電部の位置を可動させる手段であることも好ましい。
【0012】
また、前記反射鏡は回転対称な反射鏡であり、前記給電部は前記反射鏡の焦点位置からずらした位置に配置され、前記副調整手段は、前記給電部を前記焦点周りに回転させる手段であることも好ましい。
【0013】
また、前記給電部の電磁界分布を制御する手段をさらに含むことも好ましい。
【0014】
また、前記給電部は複数の素子アンテナで構成され、前記副調整手段は、前記各素子アンテナの励振分布を変化させる手段であることも好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の追尾アンテナは、ジンバルロックを回避する従来型3軸制御アンテナにおいて、アンテナ全体を回転させるための3つの高トルクモータ(方位角軸、仰角軸、直交仰角軸)で構成していた追尾アンテナに対し、2つの高トルクモータ(方位角軸、仰角軸)と副調整手段で追尾アンテナを構成することが可能であり、アンテナ重量の削減および低コスト化に寄与することができる。
【0016】
さらに、副調整手段で二次元的な指向方向制御を行うことで、より高速かつ高精度な追尾の実現にも寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
従来3つの高トルクモータ(方位角軸、仰角軸、直交仰角軸)で構成していた従来型3軸制御アンテナにおいて、高トルクモータの必要数を2(方位角軸、仰角軸)とし、ジンバルロックを回避することが可能な追尾アンテナのアンテナ構成例を以下に示す。
【0018】
本発明の技術的ポイントは、直交仰角軸周りの指向方向制御を担っていた部分を、従来技術のように高トルクモータによるアンテナ全体の姿勢変動を行うことなく、指向方向を制御する点にある。具体的には、給電部の物理的位置を移動させる物理的手法、もしくは、給電部を構成する素子アンテナを複数設け、適切な振幅および位相分布で励振する電気的方法で、直交仰角軸周りの比較的限定された範囲で指向方向を制御する点にある。これらの手法により直交仰角軸周りの指向方向制御手段を副調整手段と呼ぶ。
【0019】
従来型2軸制御アンテナで、天頂(仰角90度)を指向する場合において、直交仰角軸方向に駆動する場合、方位角軸を瞬時に90度回転させる必要があったが、本発明のように、副調整手段を用いる場合は、副調整手段が直交仰角軸周りの追尾を行っている間に、方位角軸を90度回転させればよい。その後、仰角方向の制御量を、仰角軸による追尾に受け渡すことにより、ジンバルロックの回避が実現できる。非特許文献1の図5(c)に示すように、直交仰角軸周りの可変範囲は高々数度でジンバルロックが回避できることが確認できるため、副調整手段の制御範囲も同程度に狭くて構わない。
【0020】
また、アンテナ全体の軸回転において粗調整を行い、可変範囲は限定的であるが高速・高精度制御が期待できる副調整手段において、二次元的な指向制御を適用することで、アンテナ全体として高速・高精度追尾が実現できる。物理的手法で副調整手段を実現する場合は、移動部分がアンテナ全体を回転させる場合に対して軽くなるため、高速な追尾を実現するためのモータへのトルク要求も小さくなる。また、電気的手法で副調整手段を実現するばあいは、そもそも設定の切り替えのみで対応が可能である。
【0021】
図4は、本発明の第1の実施形態における指向方向追尾アンテナの構成例を示す。本構成例は、反射鏡および反射鏡を給電するための給電部(素子アンテナ)と、方位角軸、仰角軸および給電部位置を可動させる機構で構成される。反射鏡アンテナにおいては、素子アンテナの物理的位置に応じて、指向方向が変わるため、給電部を直交仰角軸周りに指向方向が変わるよう移動させることで、指向方向を制御できる。このとき、給電部の位置のみを微小な範囲で移動させればよいため、低トルクの小型のモータで実現できる。図5は、天頂方向を指向している場合の概念図であり、給電部の位置を制御することで直交仰角軸周りに指向方向を制御することができ、ジンバルロックの回避が確認できる。
【0022】
反射鏡を開口径φ1mのパラボラとし、給電部を焦点位置に対して±5cmずらした場合の特性について解析例を示す。周波数は14GHz帯で行った。図6および図7は給電部位置を焦点位置に対して、それぞれ+5cmおよび−5cmのときの特性を、図8に給電部位置を焦点に設置したときの特性を示す。また、図9にカットパタンを示す。本例の場合、直交仰角軸に5度の連続的な指向方向制御が実現できていることが確認できる。
【0023】
図10は、本発明の第2の実施形態におけるアンテナ構成を示す。本構成例は、回転対称の反射鏡および反射鏡を給電するための給電部と、方位角軸、仰角軸および給電部を回転させる機構(以下、給電部回転軸)で構成される。本アンテナは反射鏡の焦点位置からずれた場所に給電部を配置し、給電部回転軸により、給電部位置を焦点周りに回転させることを特徴とする。給電部位置を焦点位置からずらすことで、アンテナの指向方向はアンテナ正面からずれることになり、給電部を回転させることにより、アンテナの指向方向はアンテナ正面を中心として、一定の離角を有して回転する。このとき、給電部回転軸に使用するモータは、給電部のみを回転させればよいため、低トルクの小型のモータで実現できる。図11は天頂方向を指向している場合の概念図であり、給電部の位置を制御することで、直交仰角軸に指向方向を制御することができ、ジンバルロックの回避が確認できる。
【0024】
解析例に関しては、給電部位置の回転角度を0および180度にしたときの特性が、図6および図7に一致する。本例の場合、原点を中心から5度の離角を保ちながら指向方法が回転していることが確認できる。
【0025】
しかしながら、本発明のアンテナにおける給電部回転軸は、従来型2軸および3軸制御アンテナにおいて、偏波調整に使用しているため、偏波追尾機能は損なわれることになる。そのため、本発明のアンテナは円偏波等の偏波追尾の不要なシステムに限定される。
【0026】
本例の場合、中心から離角が大きいほど、直交仰角軸周りの可変範囲が大きくなり、焦点からのずれ量を大きくすることが望ましい。しかしながら、単純に給電部位置のずれ量を大きくすると、図12に示すように利得が低下し、サイドロープレベルが上昇し、アンテナ特性が劣化する。これを回避するためには、給電部位置に特化した反射鏡面修正や給電部の電磁界分布を制御すればよい。電磁界分布の制御には開口面形状の修正や給電部のアレー化などで対応が可能である。
【0027】
図13は、給電部を2素子で構成して、給電部の電磁界分布を制御した場合の解析例であり、これにより利得およびサイドロープ特性が改善していることが確認できる。この例では、給電部回転軸に対して可動する素子を基準として、給電部の回転軸上にもう一つの素子を配置し、10dB利得を下げて励振している。
【0028】
電磁界分布の制御の指針としては、低サイドロープ化と利得向上の実現が上げられる。すなわち、複数の素子アンテナで構成されるアンテナにおいて、各素子アンテナの励振振幅・位相分布をアンテナパタンが所望の特性(例えば、送信アンテナとしてサイドロープが規定を満足するような特性)となるように最適化、または、アンテナパタンが所望の特性となり、かつ、アンテナの利得が最大となるように最適化する。
【0029】
図14は、本発明の第3の実施形態におけるアンテナ構成を示す。本構成例は、反射鏡アンテナを2つ以上の素子アンテナにて給電し、各素子アンテナを指向方向に応じ所定の振幅および励振することにより指向方向を制御する。各素子アンテナは90度ハイブリッド、位相制御手段、送信および受信用の増幅手段からなる。このとき、送信および受信系の増幅手段の位置が異なっているが、動作上はどちらでも問題ない。ただし、受信系においては、雑音の影響から素子アンテナの直後に接続することが求められ、送信系では動作レベルを均一化させる目的で、2つの90度ハイブリッドの間に接続している。
【0030】
2つの素子アンテナは、±θからの指向方向の到来波に対して、最も受信レベルが高くなる位置に配置する。このとき一方の素子アンテナから給電した場合のビームの半値角が2θより小さく設定する必要がある。このとき各素子アンテナの励振振幅を調整することにより、直交仰角軸の周りの指向方向を−θ〜+θと制御することができる。なお、本例において位相制御手段を変化させることにより、2つのアンテナ素子への励振電力を連続的に制御することができ、直交仰角軸の周りの指向方向を−θ〜+θと制御することができる。
【0031】
なお、本願発明の追尾アンテナは、反射鏡アンテナに限定されない。例えば、平面アンテナの組み合わせで構成される追尾アンテナにも適用可能である。複数素子で構成されるアンテナにおいて、素子アンテナを適切な位相で励振することにより、指向方向を調整することが可能である。素子アンテナの間隔をdとすると、直交仰角軸周りの指向方向は、
【数1】
のように表せる。なお、ここでλは自由空間波長である。
図15は、2つの平面アンテナの組み合わせで構成される追尾アンテナの構成例を示す。このとき、衛星で一般的に使用される12/14GHz帯での自由空間波長は20mm〜25mm、アンテナ開口を1mとした場合、素子数を2とする場合、d=0.5mとなるため、±1.2度程度指向方向を可変させることが可能である。さらなる指向方向を得る場合は、素子アンテナ数を増加させ、素子間隔が小さくさせればよい。
【0032】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来型2軸制御アンテナにおける指向方法の概念図
【図2】従来型3軸制御アンテナにおけるジンバルロック回避方法
【図3】通信用のアンテナにおける偏波追尾の概念
【図4】本発明の第1の実施形態における指向方向追尾アンテナの構成例
【図5】本発明の第1の実施形態における天頂付近の可動範囲
【図6】本発明の第1の実施形態におけるアンテナパタンの計算例(給電部位置:−5cm)
【図7】本発明の第1の実施形態におけるアンテナパタンの計算例(給電部位置:+5cm)
【図8】本発明の第1の実施形態におけるアンテナパタンの計算例(給電部位置:焦点位置)
【図9】本発明の第1の実施形態におけるカットパタンによるアンテナパタンの比較
【図10】本発明の第2の実施形態におけるアンテナ構成
【図11】本発明の第2の実施形態における天頂付近の可動範囲
【図12】本発明の第2の実施形態における焦点からのずれ量に対するカットパタンによるアンテナパタンの比較
【図13】本発明の第2の実施形態におけるカットパタンによるアンテナパタンの比較
【図14】本発明の第3の実施形態における指向方向追尾アンテナの構成例
【図15】2つの平面アンテナの組み合わせで構成される追尾アンテナの構成例
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体衛星通信用地球局装置における指向方向追尾アンテナ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
指向方向追尾アンテナは、仰角・方位角方向に指向方向を調整するため、仰角および方位角軸のそれぞれの軸周りに回転する機構が必要となる。図1は、この機構に基づく従来の追尾アンテナにおいて追尾範囲を低仰角に限定した追尾アンテナ(以下、従来型2軸制御アンテナ)の構成である。図1に示すように低仰角を指向する場合は、仰角軸および方位角軸周りに回転させることで、二次元的に指向方向を制御することができる。しかしながら、天頂(仰角90度)を指向する場合、仰角軸と直交する方向には駆動できない。この状態で仰角軸と直交する指向方向を制御するためには、方位角軸を瞬時に90度回転させなければならないが、現実には不可能である。この状態は一般的にジンバルロックと呼ばれる。ジンバルロックを回避するためには、非特許文献1に記載の通り、図2に示すように仰角軸に直交する軸(直交仰角軸)を追加した3軸の回転機構を取っている。本構成を従来型3軸制御アンテナと呼ぶ。
【0003】
なお、通信用のアンテナの場合、偏波軸を合わせる必要があり、図3に示すように指向方向に対して給電部を軸周りに回転させることで偏波軸を合わせることを実現する。一般的にはアンテナの給電部を物理的に回転させることでこれを行っている。
【0004】
【非特許文献1】「追跡用3軸旋回装置」、鳴海他、東芝レビューVol.59、No.10、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来型3軸制御アンテナでは、方位角軸および直交する2つの仰角軸は、アンテナ全体を回転させる必要がある。移動体衛星地球局に用いられるアンテナは、開口径がφ1mを超えるような大型構造体であり、追尾アンテナを実現するためには3つの高トルクのモータが必要となる。
【0006】
このとき高トルクモータは重量も小さくないため、高トルクのモータを複数備えなければならないことは、アンテナ全体の重量のさらなる増大を招くとともに、モータの重量を考慮したトルク要求が必要となる。さらに、追尾速度・追尾精度を高める場合、より高トルクの性能が要求されるため、さらなるアンテナ重量の増大につながる。
【0007】
したがって、本発明は3つの高トルクのモータを使用することなく、ジンバルロックを回避できる追尾アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するため本発明による追尾アンテナは、仰角軸および方位角軸の2軸に対して、指向方向を制御する手段と、前記仰角軸と直交する直交仰角軸に対して、前記2軸より狭い範囲で指向方向を制御する副調整手段とを備えている。
【0009】
また、前記追尾アンテナは複数の素子アンテナで構成され、前記副調整手段は,前記各素子アンテナの励振分布を変化させる手段であることも好ましい。
【0010】
上記目的を実現するため本発明による追尾アンテナは、反射鏡と該反射鏡を給電するための給電部とから構成される追尾アンテナにおいて、仰角軸および方位角軸の2軸に対して、前記反射鏡の指向方向を制御する手段と、前記仰角軸と直交する直交仰角軸に対して、前記2軸より狭い範囲で前記反射鏡の指向方向を制御する副調整手段とを備えている。
【0011】
また、前記副調整手段は、前記給電部の位置を可動させる手段であることも好ましい。
【0012】
また、前記反射鏡は回転対称な反射鏡であり、前記給電部は前記反射鏡の焦点位置からずらした位置に配置され、前記副調整手段は、前記給電部を前記焦点周りに回転させる手段であることも好ましい。
【0013】
また、前記給電部の電磁界分布を制御する手段をさらに含むことも好ましい。
【0014】
また、前記給電部は複数の素子アンテナで構成され、前記副調整手段は、前記各素子アンテナの励振分布を変化させる手段であることも好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の追尾アンテナは、ジンバルロックを回避する従来型3軸制御アンテナにおいて、アンテナ全体を回転させるための3つの高トルクモータ(方位角軸、仰角軸、直交仰角軸)で構成していた追尾アンテナに対し、2つの高トルクモータ(方位角軸、仰角軸)と副調整手段で追尾アンテナを構成することが可能であり、アンテナ重量の削減および低コスト化に寄与することができる。
【0016】
さらに、副調整手段で二次元的な指向方向制御を行うことで、より高速かつ高精度な追尾の実現にも寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
従来3つの高トルクモータ(方位角軸、仰角軸、直交仰角軸)で構成していた従来型3軸制御アンテナにおいて、高トルクモータの必要数を2(方位角軸、仰角軸)とし、ジンバルロックを回避することが可能な追尾アンテナのアンテナ構成例を以下に示す。
【0018】
本発明の技術的ポイントは、直交仰角軸周りの指向方向制御を担っていた部分を、従来技術のように高トルクモータによるアンテナ全体の姿勢変動を行うことなく、指向方向を制御する点にある。具体的には、給電部の物理的位置を移動させる物理的手法、もしくは、給電部を構成する素子アンテナを複数設け、適切な振幅および位相分布で励振する電気的方法で、直交仰角軸周りの比較的限定された範囲で指向方向を制御する点にある。これらの手法により直交仰角軸周りの指向方向制御手段を副調整手段と呼ぶ。
【0019】
従来型2軸制御アンテナで、天頂(仰角90度)を指向する場合において、直交仰角軸方向に駆動する場合、方位角軸を瞬時に90度回転させる必要があったが、本発明のように、副調整手段を用いる場合は、副調整手段が直交仰角軸周りの追尾を行っている間に、方位角軸を90度回転させればよい。その後、仰角方向の制御量を、仰角軸による追尾に受け渡すことにより、ジンバルロックの回避が実現できる。非特許文献1の図5(c)に示すように、直交仰角軸周りの可変範囲は高々数度でジンバルロックが回避できることが確認できるため、副調整手段の制御範囲も同程度に狭くて構わない。
【0020】
また、アンテナ全体の軸回転において粗調整を行い、可変範囲は限定的であるが高速・高精度制御が期待できる副調整手段において、二次元的な指向制御を適用することで、アンテナ全体として高速・高精度追尾が実現できる。物理的手法で副調整手段を実現する場合は、移動部分がアンテナ全体を回転させる場合に対して軽くなるため、高速な追尾を実現するためのモータへのトルク要求も小さくなる。また、電気的手法で副調整手段を実現するばあいは、そもそも設定の切り替えのみで対応が可能である。
【0021】
図4は、本発明の第1の実施形態における指向方向追尾アンテナの構成例を示す。本構成例は、反射鏡および反射鏡を給電するための給電部(素子アンテナ)と、方位角軸、仰角軸および給電部位置を可動させる機構で構成される。反射鏡アンテナにおいては、素子アンテナの物理的位置に応じて、指向方向が変わるため、給電部を直交仰角軸周りに指向方向が変わるよう移動させることで、指向方向を制御できる。このとき、給電部の位置のみを微小な範囲で移動させればよいため、低トルクの小型のモータで実現できる。図5は、天頂方向を指向している場合の概念図であり、給電部の位置を制御することで直交仰角軸周りに指向方向を制御することができ、ジンバルロックの回避が確認できる。
【0022】
反射鏡を開口径φ1mのパラボラとし、給電部を焦点位置に対して±5cmずらした場合の特性について解析例を示す。周波数は14GHz帯で行った。図6および図7は給電部位置を焦点位置に対して、それぞれ+5cmおよび−5cmのときの特性を、図8に給電部位置を焦点に設置したときの特性を示す。また、図9にカットパタンを示す。本例の場合、直交仰角軸に5度の連続的な指向方向制御が実現できていることが確認できる。
【0023】
図10は、本発明の第2の実施形態におけるアンテナ構成を示す。本構成例は、回転対称の反射鏡および反射鏡を給電するための給電部と、方位角軸、仰角軸および給電部を回転させる機構(以下、給電部回転軸)で構成される。本アンテナは反射鏡の焦点位置からずれた場所に給電部を配置し、給電部回転軸により、給電部位置を焦点周りに回転させることを特徴とする。給電部位置を焦点位置からずらすことで、アンテナの指向方向はアンテナ正面からずれることになり、給電部を回転させることにより、アンテナの指向方向はアンテナ正面を中心として、一定の離角を有して回転する。このとき、給電部回転軸に使用するモータは、給電部のみを回転させればよいため、低トルクの小型のモータで実現できる。図11は天頂方向を指向している場合の概念図であり、給電部の位置を制御することで、直交仰角軸に指向方向を制御することができ、ジンバルロックの回避が確認できる。
【0024】
解析例に関しては、給電部位置の回転角度を0および180度にしたときの特性が、図6および図7に一致する。本例の場合、原点を中心から5度の離角を保ちながら指向方法が回転していることが確認できる。
【0025】
しかしながら、本発明のアンテナにおける給電部回転軸は、従来型2軸および3軸制御アンテナにおいて、偏波調整に使用しているため、偏波追尾機能は損なわれることになる。そのため、本発明のアンテナは円偏波等の偏波追尾の不要なシステムに限定される。
【0026】
本例の場合、中心から離角が大きいほど、直交仰角軸周りの可変範囲が大きくなり、焦点からのずれ量を大きくすることが望ましい。しかしながら、単純に給電部位置のずれ量を大きくすると、図12に示すように利得が低下し、サイドロープレベルが上昇し、アンテナ特性が劣化する。これを回避するためには、給電部位置に特化した反射鏡面修正や給電部の電磁界分布を制御すればよい。電磁界分布の制御には開口面形状の修正や給電部のアレー化などで対応が可能である。
【0027】
図13は、給電部を2素子で構成して、給電部の電磁界分布を制御した場合の解析例であり、これにより利得およびサイドロープ特性が改善していることが確認できる。この例では、給電部回転軸に対して可動する素子を基準として、給電部の回転軸上にもう一つの素子を配置し、10dB利得を下げて励振している。
【0028】
電磁界分布の制御の指針としては、低サイドロープ化と利得向上の実現が上げられる。すなわち、複数の素子アンテナで構成されるアンテナにおいて、各素子アンテナの励振振幅・位相分布をアンテナパタンが所望の特性(例えば、送信アンテナとしてサイドロープが規定を満足するような特性)となるように最適化、または、アンテナパタンが所望の特性となり、かつ、アンテナの利得が最大となるように最適化する。
【0029】
図14は、本発明の第3の実施形態におけるアンテナ構成を示す。本構成例は、反射鏡アンテナを2つ以上の素子アンテナにて給電し、各素子アンテナを指向方向に応じ所定の振幅および励振することにより指向方向を制御する。各素子アンテナは90度ハイブリッド、位相制御手段、送信および受信用の増幅手段からなる。このとき、送信および受信系の増幅手段の位置が異なっているが、動作上はどちらでも問題ない。ただし、受信系においては、雑音の影響から素子アンテナの直後に接続することが求められ、送信系では動作レベルを均一化させる目的で、2つの90度ハイブリッドの間に接続している。
【0030】
2つの素子アンテナは、±θからの指向方向の到来波に対して、最も受信レベルが高くなる位置に配置する。このとき一方の素子アンテナから給電した場合のビームの半値角が2θより小さく設定する必要がある。このとき各素子アンテナの励振振幅を調整することにより、直交仰角軸の周りの指向方向を−θ〜+θと制御することができる。なお、本例において位相制御手段を変化させることにより、2つのアンテナ素子への励振電力を連続的に制御することができ、直交仰角軸の周りの指向方向を−θ〜+θと制御することができる。
【0031】
なお、本願発明の追尾アンテナは、反射鏡アンテナに限定されない。例えば、平面アンテナの組み合わせで構成される追尾アンテナにも適用可能である。複数素子で構成されるアンテナにおいて、素子アンテナを適切な位相で励振することにより、指向方向を調整することが可能である。素子アンテナの間隔をdとすると、直交仰角軸周りの指向方向は、
【数1】
のように表せる。なお、ここでλは自由空間波長である。
図15は、2つの平面アンテナの組み合わせで構成される追尾アンテナの構成例を示す。このとき、衛星で一般的に使用される12/14GHz帯での自由空間波長は20mm〜25mm、アンテナ開口を1mとした場合、素子数を2とする場合、d=0.5mとなるため、±1.2度程度指向方向を可変させることが可能である。さらなる指向方向を得る場合は、素子アンテナ数を増加させ、素子間隔が小さくさせればよい。
【0032】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来型2軸制御アンテナにおける指向方法の概念図
【図2】従来型3軸制御アンテナにおけるジンバルロック回避方法
【図3】通信用のアンテナにおける偏波追尾の概念
【図4】本発明の第1の実施形態における指向方向追尾アンテナの構成例
【図5】本発明の第1の実施形態における天頂付近の可動範囲
【図6】本発明の第1の実施形態におけるアンテナパタンの計算例(給電部位置:−5cm)
【図7】本発明の第1の実施形態におけるアンテナパタンの計算例(給電部位置:+5cm)
【図8】本発明の第1の実施形態におけるアンテナパタンの計算例(給電部位置:焦点位置)
【図9】本発明の第1の実施形態におけるカットパタンによるアンテナパタンの比較
【図10】本発明の第2の実施形態におけるアンテナ構成
【図11】本発明の第2の実施形態における天頂付近の可動範囲
【図12】本発明の第2の実施形態における焦点からのずれ量に対するカットパタンによるアンテナパタンの比較
【図13】本発明の第2の実施形態におけるカットパタンによるアンテナパタンの比較
【図14】本発明の第3の実施形態における指向方向追尾アンテナの構成例
【図15】2つの平面アンテナの組み合わせで構成される追尾アンテナの構成例
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仰角軸および方位角軸の2軸に対して、指向方向を制御する手段と、
前記仰角軸と直交する直交仰角軸に対して、前記2軸より狭い範囲で指向方向を制御する副調整手段と、
を備えていることを特徴とする追尾アンテナ。
【請求項2】
前記追尾アンテナは複数の素子アンテナで構成され、
前記副調整手段は、前記各素子アンテナの励振分布を変化させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の追尾アンテナ。
【請求項3】
反射鏡と該反射鏡を給電するための給電部とから構成される追尾アンテナにおいて、
仰角軸および方位角軸の2軸に対して、前記反射鏡の指向方向を制御する手段と、
前記仰角軸と直交する直交仰角軸に対して、前記2軸より狭い範囲で前記反射鏡の指向方向を制御する副調整手段と、
を備えていることを特徴とする追尾アンテナ。
【請求項4】
前記副調整手段は、前記給電部の位置を可動させる手段であることを特徴とする請求項3に記載の追尾アンテナ。
【請求項5】
前記反射鏡は回転対称な反射鏡であり、前記給電部は前記反射鏡の焦点位置からずらした位置に配置され、
前記副調整手段は、前記給電部を前記焦点周りに回転させる手段であることを特徴とする請求項3に記載の追尾アンテナ。
【請求項6】
前記給電部の電磁界分布を制御する手段をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の追尾アンテナ。
【請求項7】
前記給電部は複数の素子アンテナで構成され、
前記副調整手段は、前記各素子アンテナの励振分布を変化させる手段であることを特徴とする請求項3に記載の追尾アンテナ。
【請求項1】
仰角軸および方位角軸の2軸に対して、指向方向を制御する手段と、
前記仰角軸と直交する直交仰角軸に対して、前記2軸より狭い範囲で指向方向を制御する副調整手段と、
を備えていることを特徴とする追尾アンテナ。
【請求項2】
前記追尾アンテナは複数の素子アンテナで構成され、
前記副調整手段は、前記各素子アンテナの励振分布を変化させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の追尾アンテナ。
【請求項3】
反射鏡と該反射鏡を給電するための給電部とから構成される追尾アンテナにおいて、
仰角軸および方位角軸の2軸に対して、前記反射鏡の指向方向を制御する手段と、
前記仰角軸と直交する直交仰角軸に対して、前記2軸より狭い範囲で前記反射鏡の指向方向を制御する副調整手段と、
を備えていることを特徴とする追尾アンテナ。
【請求項4】
前記副調整手段は、前記給電部の位置を可動させる手段であることを特徴とする請求項3に記載の追尾アンテナ。
【請求項5】
前記反射鏡は回転対称な反射鏡であり、前記給電部は前記反射鏡の焦点位置からずらした位置に配置され、
前記副調整手段は、前記給電部を前記焦点周りに回転させる手段であることを特徴とする請求項3に記載の追尾アンテナ。
【請求項6】
前記給電部の電磁界分布を制御する手段をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の追尾アンテナ。
【請求項7】
前記給電部は複数の素子アンテナで構成され、
前記副調整手段は、前記各素子アンテナの励振分布を変化させる手段であることを特徴とする請求項3に記載の追尾アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−136258(P2010−136258A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312170(P2008−312170)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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