説明

追尾方法及びその装置

【課題】 加速度運動を行う目標を精度よく追尾する追尾方法を得る。
【解決手段】 第1の時間の平滑誤差共分散行列から第2の時間の予測誤差共分散行列を算出し、第2の時間の予測誤差共分散行列と第2の時間のゲイン行列と所定の観測雑音共分散行列とに基づいて第2の時間の平滑誤差共分散行列を算出し、第2の時間の予測誤差共分散行列と観測雑音共分散行列から、第2の時間の予測値ベクトルに含まれる目標の位置についてのゲインである位置ゲインと第2の時間の予測値ベクトルに含まれる目標の速度についてのゲインである速度ゲインとを含む第2の時間のゲイン行列を算出し、第2の時間の観測値を取得し、取得した観測値と第2の時間の予測値ベクトルと第2の時間のゲイン行列とに基づいて第2の時間の平滑値ベクトルを算出する追尾方法において、速度ゲインとして固定値のゲインを含む第2の時間のゲイン行列を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、観測値に基づいて移動体の運動諸元を推定する追尾方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
観測装置による目標観測結果を用いて目標を追尾する手段として、従来はカルマンフィルタを使用したものが一般的である。このような一般的な追尾装置では、目標の基本的な運動を等速直線運動と仮定して運動モデルを記述しておき、目標の等速直線運動からのずれを表現するための加速度項を白色雑音と仮定して追尾処理を行う(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−331248号「目標追尾装置及び目標追尾方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航空機、船舶、車両などの現実の目標は、直進しながら加速または減速したり、半径がほぼ一定の円弧を描きながら旋回する、といった加速度運動を行うことが普通である。このような場合、目標の加速度ベクトルは一定値あるいは緩やかに時間変化する値であり、白色雑音としてモデル化することは難しい。このために、従来の追尾装置では、結果的に最適性能を実現できないという問題があった。
【0005】
この発明は、このような課題を解決することを目的としてなされたものであり、目標運動における加速度項を白色雑音と仮定せずに、良好な推定性能を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の追尾装置では、目標が所与の一定の加速度(想定される目標の最大運動能力より決定する)で継続的に運動した場合の追従遅れの最大値を所定範囲内に収めるとともに、その一方で加速度が零の場合、すなわち目標が等速直線運動を行っている場合の、観測雑音に起因する追尾誤差を最小化する新たなフィルタを使用するものである。
【発明の効果】
【0007】
この結果、目標の最大の加速度運動に対する追尾誤差を許容範囲内に収めつつ、等速直線運動時の追尾結果の安定化を図ることができ、結果的に容易に最適な追尾性能を実現することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態について図を用いて説明する。
実施の形態.
まず初めに、カルマンフィルタを用いた一般的な追尾処理について説明する。カルマンフィルタを使用した追尾処理では、目標の運動モデルを式(1)のように仮定する。ただし、サンプリング時刻(以下、単に時刻)をt(k)で表す。
【数1】

【0009】
カルマンフィルタを用いた一般的な追尾処理では、目標の基本的な運動を等速直線運動と仮定して式(1)の運動モデルを記述している。例えば、x−y−zの3次元直交座標系における目標の位置と速度を推定する場合、状態ベクトルx(k)、状態推移行列Φを式(2)、(3)、(4)のように定義している。
【数2】

【0010】
ただし、Tはベクトル、行列の転置、ドットは時間微分を表す。また、In×n,On×nはそれぞれn行n列の単位行列及び零行列であり、τは一定のサンプリング周期を表す。
【0011】
さらに、カルマンフィルタを用いた追尾処理において、式(1)のw(k)は現実の目標運動を等速直線で近似したことで生じるx(k)の誤差を表現するために設けられたx、y、zの各方向の加速度項の雑音成分で構成され、より詳細には平均零ベクトル、共分散行列Q(k)の3変量正規分布に従う白色雑音であると仮定されている。
【0012】
また追尾処理に供給される観測値の観測モデルは式(5)に従うものと仮定する。
【数3】

【0013】
たとえば、観測装置によりx−y−zの3次元直交座標系における目標位置の観測結果が得られるとする。このとき、観測値ベクトルz(k)を式(6)、観測行列Hを式(7)のように定義する。
【数4】

【0014】
また式(5)において、v(k)は観測装置の観測誤差を表すための雑音成分であって、平均零ベクトル、共分散行列R(k)の3変量正規分布に従う白色雑音であると仮定する。
【0015】
式(1)、式(5)のような運動モデル、観測モデルの仮定に基づいたカルマンフィルタのアルゴリズムによる状態ベクトルの推定処理について、以下に説明する。
【0016】
なお、以降の説明では、時刻t(k−1)までの観測結果に基づいて時刻t(k)の状態ベクトルを推定した予測値ベクトルをx^(k|k−1)と表し、時刻t(k)までの観測結果に基づいて時刻t(k)の状態ベクトルを推定した平滑値ベクトルをx^(k|k)と表す。なお、(変数)^は(変数)の上に^を付記したベクトルを表している。すなわち、式(8)のような関係が成立する。
【0017】
さらに、x^(k|k−1)の誤差共分散行列を表す予測誤差共分散行列をP(k|k−1)、x^(k|k)の誤差共分散行列を表す平滑誤差共分散行列をP(k|k)と表す。すなわち、式(9)から式(12)までの関係が成立する。さらに、K(k)はフィルタのゲイン行列であり、式(2)〜(4),式(6)、(7)の設定を行った場合、6行3列の行列である。さらに、Iは6行6列の単位行列である。
【数5】

【0018】
なお、x^(k|k)の初期値x^(0|0)と、P(k|k)の初期値P(0|0)が別途算出され、与えられるものとする。また、システム雑音共分散行列Q(k)、観測雑音共分散行列R(k)はパラメータとして与える。
【0019】
カルマンフィルタは、式(8)、式(11)により、平均的な偏りのない不偏推定値を算出するとともに、式の(10)でゲイン行列K(k)を算出することにより、平均2乗誤差を最小化する最適なフィルタとして知られている。
【0020】
ここまで説明してきたカルマンフィルタは、目標の運動モデルと観測装置の観測モデルとが正しく表現されていれば、最適な推定性能を与えることができる。しかし、カルマンフィルタでは、式(1)が示すように、目標の等速直線運動からのずれを表現するための加速度項w(k)を白色雑音と仮定する必要がある。
【0021】
しかしながら、航空機、船舶、車両などの現実の目標が加速度運動を行う場合、図3に示すように、直進しながら加速または減速したり、半径がほぼ一定の円弧を描きながら旋回することが多い。
【0022】
これらの場合、目標の加速度ベクトルは一定値あるいは緩やかに時間変化する値であり、白色雑音としてモデル化することには無理である。この結果、従来の追尾装置では、所望の追尾精度を得るために必要なシステム雑音共分散行列Q(k)の値をパラメータとして設定することが困難であった。換言すれば、従来の追尾装置では、追尾すべき目標の運動特性に関する知識を基に、パラメータQ(k)の値を的確に設定することができないため、結果的に最適性能を実現できないという問題があった。
【0023】
この発明の実施の形態による追尾装置では、上記のような問題を解決するために、目標の加速度項を白色雑音であると仮定することをやめる。以下に、その詳細な方法について説明する。
【0024】
追尾フィルタの計算式における状態ベクトルの予測式と更新式として、従来のカルマンフィルタと同じように式(8)と式(11)を使用する。式(8)と式(11)を用いることにより、等速直線運動時の追尾誤差に平均的な偏りが生じないことがよく知られている。
【0025】
つぎに、式(10)におけるゲイン行列K(k)を以下のように表すとする。
【数6】

【0026】
ここで、K1(k)は目標の位置推定値に対するゲイン(位置ゲイン)であり、K2(k)は速度推定値に対するゲイン(速度ゲイン)である。式(2)、式(3)、式(6)、式(7)の設定を行った場合、位置ゲインK1(k)、速度ゲインK2(k)はともに3行3列の行列である。
【0027】
この発明の実施の形態による追尾装置では、速度ゲインK2(k)を時間変化しない固定値に設定する。これを式(14)のように表す。
【数7】

【0028】
いま、目標が一定の加速度ベクトルac(想定される目標の最大の運動性能から決定する)で運動した場合を考える。このとき、電子情報通信学会論文誌B, Vol.J86-B, No.11, pp.2397-2406, 2003年11月、「線形フィルタによる3次元空間の追尾における定常追従誤差」に示されたように、観測装置の観測誤差が全く存在しない理想条件下を仮定すれば、追尾開始より十分に時間が経過したのちの定常状態における予測位置の誤差ベクトル(定常追従誤差ベクトル)は、次式に示される有限値となる。
【数8】

【0029】
したがって、想定される目標の最大加速度ベクトルacに対し、許容する予測位置誤差ベクトルe~を決定すれば、式(15)の関係より、時間変化しない固定値のゲイン(固定ゲイン)K-2の値を決定することができる。なお、(変数)~は(変数)の上に~を付記したものと同じものを指す。また(変数)-は(変数)の上に−を付記したものと同じものを指す。
【0030】
つぎに、式(14)で定義した固定値の速度ゲインK-2を式(13)に使用し、式(8)、式(11)を用いてフィルタ処理を行った場合の等速直線運動に対する追尾誤差を考える。等速直線運動時は、式(15)においてac=0とおいた場合に相当することから、予測位置に対する定常追従誤差はe~=0である。しかし、観測装置の観測誤差に起因した雑音成分の追尾誤差が生じる。
【0031】
この追尾誤差は、予測値ベクトルx^(k|k−1)、平滑値ベクトルx^(k|k)の双方に発生する。そこで、この発明の実施の形態では、この場合の予測値ベクトルの平均2乗誤差と平滑値ベクトルの平均2乗誤差を重み付けした評価値、すなわち式(16)を最小化するように位置ゲインK1(k)を決定する。
【数9】

【0032】
ここで、c=1とすれば平滑値ベクトルの平均2乗誤差を最小化するようにK1(k)を決定することができ、c=0とすれば予測値ベクトルの平均2乗誤差を最小化するようにK1(k)を決定することができる。
【0033】
式(16)を最小化するK1(k)の計算式は式(17)で与えられる。
【数10】

【0034】
ここで、P11(k|k−1),P12(k|k−1)は、予測誤差共分散行列を式(18)に示す2行2列のブロック行列で表した場合の各ブロックに相当し、P11(k|k−1)は予測位置誤差の共分散行列、P12(k|k−1)は予測位置誤差と予測速度誤差の相関行列に相当する。
【数11】

また、式(8)、式(11)のフィルタ処理式において、式(13)、式(14)、式(17)のゲイン行列K(k)を使用した場合、予測誤差共分散行列P(k|k−1)、平滑誤差共分散行列P(k|k)の逐次計算式は式(19)、式(20)で与えられる。
【数12】

【0035】
なお、式(20)は従来のカルマンフィルタの式(12)と同一である。一方、式(19)と従来のカルマンフィルタの場合の式(9)とを比較すると、式(19)にはシステム雑音の共分散行列Q(k)の項がないことが分かる。これは、この発明の実施の形態によるフィルタ法が目標の加速度項を白色雑音と仮定することをやめたことによってもたらされる効果である。
【0036】
続いて、この発明の実施の形態による追尾装置の構成と動作について説明する。図1は、この発明の追尾装置の構成を表す図である。なお、図では観測値を取得する観測装置1についても図示している。図の追尾装置2において、平滑値ベクトル記憶手段11は平滑値ベクトルを記憶する部位であって、平滑値ベクトル初期値設定手段12は平滑値ベクトル記憶手段11に平滑値ベクトルの初期値を設定する部位である。
【0037】
予測手段13は、前時刻の平滑値ベクトルより現時刻の予測値ベクトルを算出する部位である。また、ゲイン行列設定手段14は位置ゲインK1(k)と速度ゲインK2(k)を用いてゲイン行列K(k)を設定する部位である。
【0038】
平滑手段15は、予測手段13によって算出された予測値ベクトルと観測装置1からの観測値ベクトルを入力し、またゲイン行列設定手段14よりゲイン行列K(k)を入力して、平滑値ベクトルを算出する部位である。
【0039】
また、平滑誤差共分散行列初期値記憶手段16は、平滑誤差共分散行列P(k|k)の値を記憶する平滑値ベクトルを記憶する部位であって、平滑誤差共分散行列初期値設定手段17は平滑誤差共分散行列初期値記憶手段16に平滑誤差共分散行列P(k|k)の初期値を設定する部位である。
【0040】
予測誤差共分散行列算出手段18は、平滑誤差共分散行列初期値記憶手段16によって記憶された前時刻の平滑誤差共分散行列P(k|k)より現時刻の予測誤差共分散行列P(k|k−1)を算出する部位である。
【0041】
平滑誤差共分散行列算出手段19は、現時刻の予測誤差共分散行列P(k|k−1)とゲイン行列設定手段よりのゲイン行列K(k)を入力し、また観測装置より観測雑音共分散行列R(k)を入力して、平滑誤差共分散行列P(k|k)を算出する部位である。
【0042】
また、速度ゲイン記憶手段20は、速度ゲインK2(k)を記憶する部位であって、速度ゲイン設定手段21は、速度ゲイン記憶手段に速度ゲインK2(k)を設定する部位である。
【0043】
位置ゲイン算出手段22は、予測誤差共分散行列P(k|k−1)の値と観測装置からの観測雑音共分散行列R(k)を入力し、位置ゲインK1(k)を算出する部位である。
【0044】
なお、ゲイン行列設定手段14、速度ゲイン記憶手段20、速度ゲイン設定手段21、位置ゲイン算出手段22をまとめてゲイン行列算出手段23と呼ぶ。
【0045】
上述の各構成部位にあっては、ベクトル値や数値の記憶に供される部位は磁気ディスク装置やランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリなどの記憶装置若しくは記憶素子を用いて構成される。またその他の部位は上述のような作用を行う専用の回路若しくはDSP(Digital Signal Processor)として構成してもよいし、一つ若しくは複数のCPU(Central Processing Unit)で処理されるソフトウエアプログラムの機能として実装してもよい。
【0046】
図2は、この発明の追尾方法のフローチャートである。まずステップS101において
平滑値ベクトル初期値設定手段12は平滑値ベクトル記憶手段11に平滑値ベクトルの初期値x^(0|0)を設定し、また、平滑誤差共分散行列初期値設定手段17は平滑誤差共分散行列記憶手段16に平滑誤差共分散行列の初期値P(0|0)を設定する。
【0047】
ステップS102において、速度ゲイン設定手段21は、固定値の速度ゲインK-2を速度ゲイン記憶手段に設定する。
【0048】
ステップS103において、予測手段13は、平滑値ベクトル記憶手段11から入力した前時刻の平滑値ベクトルx^(k−1|k−1)を使用し、式(8)に従って、現時刻の予測値ベクトルx^(k|k−1)を算出する。
それとともに、予測誤差共分散行列算出手段19は、平滑誤差共分散行列記憶手段から入力した前時刻の平滑誤差共分散行列P(k−1|k−1)を使用し、式(19)に従って、現時刻の予測誤差共分散行列P(k|k−1)を算出する。
【0049】
予測手段13、平滑手段15、位置ゲイン算出手段22、行列ゲイン設定手段14、
平滑誤差共分散行列算出手段19のいずれかの部位によって追尾終了する。
【0050】
以降、各サンプリング時刻がkであるとして説明する。位置ゲイン算出手段22は、観測装置より観測値ベクトルz(k)と観測雑音共分散行列R(k)を入力すると(ステップS104)、位置ゲイン算出手段22が、式(17)に従い、位置ゲインK1(k)を算出する(ステップS105)。
【0051】
ステップS106において、行列ゲイン設定手段14は、位置ゲインK1(k)と速度ゲインK-2を用いて、式(21)に従って、ゲイン行列K(k)を設定する。
【数13】

【0052】
ステップS107において、平滑手段15は、式(11)に従って、前記予測値ベクトルx^(k|k−1)、観測値ベクトルz(k)、ゲイン行列K(k)を使用して、現時刻の平滑値ベクトルx^(k|k)を算出する。この平滑値ベクトルは平滑値ベクトル記憶手段11に格納する。
【0053】
一方、平滑誤差共分散行列算出手段19は、式(20)に従って、前記予測誤差共分散行列P(k|k−1)、観測雑音共分散行列R(k)、ゲイン行列K(k)を使用して、現時刻の平滑誤差共分散行列P(k|k)を算出する。この平滑誤差共分散行列P(k|k)は平滑誤差共分散行列記憶手段に格納する。
【0054】
以上が時刻t(k)における一連の処理である。続いて、追尾終了かどうかが判定され、追尾終了でない場合(S108:No)はkの値がインクリメントされた後、ステップS104から再実行される。また追尾終了の場合(S108:Yes)の場合は終了する。
がなされるまで、これら一連の処理を繰り返して実行する。
【0055】
なお、式(17)において、重み係数のパラメータをc=1に設定すると、現時刻の目標の運動を監視するために平滑値ベクトルの追尾精度を重視するような捜索型観測装置(捜索レーダ等)への適用に適したものとなる。一方、c=0に設定した場合、次時刻の観測領域を決定するために予測値ベクトルの追尾精度を重視する追尾型観測装置(追尾レーダ等)への適用に適したものとなる。
【0056】
また、これまでの説明では、x−y−zの3次元空間における目標の位置と速度を推定する場合を例とした。しかしこの他の場合にも、この発明を適用する方法は容易に類推できよう。例えばx−yの2次元空間における目標の位置と速度を推定することには、状態ベクトルを式(22)、状態推移行列を式(23)、観測値ベクトルを式(24)、観測行列を式(25)のように置けば、同様の追尾装置、追尾方法を得ることができる。
【数14】

【0057】
このとき、位置ゲインK1(k)、速度ゲインK-2はともに2行2列の行列である。
さらに、2次元空間における追尾または3次元空間における追尾を、座標軸ごとに独立に実行するため、1次元空間のフィルタを構成することもできる。この場合は、状態ベクトルを式(26)、状態推移行列を式(27)、観測値ベクトルを式(28)、観測行列を式(29)のように設定することにより、3次元や2次元の追尾装置、追尾方法と同様の装置、方法を得ることができる。
【数15】

【0058】
なお、式(26)〜式(29)はx軸方向の追尾処理を行う場合を例として表したものである。この場合、位置ゲインK1(k)、速度ゲインK-2はともにスカラとなる。
【0059】
以上、この発明の追尾装置及び追尾方法によれば、カルマンフィルタの場合のように目標の加速度を白色雑音のシステム雑音としてモデル化することがないため、その雑音共分散行列をパラメータとして設定する必要がない。その代わりに、想定される目標の最大加速度に対して許容される予測位置の定常追従誤差を指定することにより、固定の速度ゲインの値を決定する方法をとっている。さらにその決定された速度ゲインを用いた場合に、等速直線運動時の、観測雑音に起因する追尾誤差の雑音成分を最小化するように位置ゲインを自動的に算出する仕組みをとっている。
【0060】
この結果、目標の最大の加速度運動に対する追尾誤差を許容範囲内に収めつつ、等速直線運動時の追尾結果の安定化を図ることができ、結果的に容易に最適な追尾性能を実現することができるとの利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
この発明は、例えば観測値に基づいて移動体の運動諸元を推定する追尾方法及びその装置に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】この発明の実施の形態による追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態による追尾装置の処理のフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態による追尾装置の目標の運動例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
13 予測手段、
18 予測誤差共分散行列算出手段、
19 平滑誤差共分散行列算出手段、
23 ゲイン行列算出手段、
15 平滑手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標の位置と速度を推定する追尾方法であって、
第1の時間の平滑値ベクトルから第2の時間の予測値ベクトルを算出する予測ステップと、
第1の時間の平滑誤差共分散行列から第2の時間の予測誤差共分散行列を算出する予測誤差共分散行列算出ステップと、
第2の時間の予測誤差共分散行列と第2の時間のゲイン行列と所定の観測雑音共分散行列とに基づいて第2の時間の平滑誤差共分散行列を算出する平滑誤差共分散行列算出ステップと、
第2の時間の予測誤差共分散行列と前記所定の観測雑音共分散行列から、第2の時間の予測値ベクトルに含まれる目標の位置についてのゲインである位置ゲインと第2の時間の予測値ベクトルに含まれる目標の速度についてのゲインである速度ゲインとを含む第2の時間のゲイン行列を算出するゲイン行列算出ステップと、
第2の時間の観測値を取得し、取得した観測値と第2の時間の予測値ベクトルと第2の時間のゲイン行列とに基づいて第2の時間の平滑値ベクトルを算出する平滑ステップと、
を有する追尾方法において、
前記ゲイン行列算出ステップで、前記速度ゲインとして固定値のゲインを含む第2の時間のゲイン行列を算出することを特徴とする追尾方法。
【請求項2】
ゲイン行列算出ステップで、目標が等速直線運動する場合の第2の時間の平滑値ベクトルの平均2乗誤差を最小化するような位置ゲインを算出し、この位置ゲインを含む第2の時間のゲイン行列を算出することを特徴とした請求項1に記載の追尾方法。
【請求項3】
ゲイン行列算出ステップで、目標が等速直線運動する場合の第2の時間の予測値ベクトルの平均2乗誤差を最小化するような位置ゲインを算出し、この位置ゲインを含む第2の時間のゲイン行列を算出することを特徴とした請求項1に記載の追尾方法。
【請求項4】
ゲイン行列算出ステップで、目標が等速直線運動する場合の第2の時間の平滑値ベクトルの平均2乗誤差と前記目標が等速直線運動する場合の第2の時間の予測値ベクトルの平均2乗誤差との重み付け平均を最小化するような位置ゲインを算出することを特徴とした請求項1に記載の追尾方法。
【請求項5】
目標の位置と速度を推定する追尾装置であって、
第1の時間の平滑値ベクトルから第2の時間の予測値ベクトルを算出する予測手段と、
第1の時間の平滑誤差共分散行列から第2の時間の予測誤差共分散行列を算出する予測誤差共分散行列算出手段と、
第2の時間の予測誤差共分散行列と第2の時間のゲイン行列と所定の観測雑音共分散行列とに基づいて第2の時間の平滑誤差共分散行列を算出する平滑誤差共分散行列算出手段と、
第2の時間の予測誤差共分散行列と前記所定の観測雑音共分散行列から、第2の時間の予測値ベクトルに含まれる目標の位置についてのゲインである位置ゲインと第2の時間の予測値ベクトルに含まれる目標の速度についてのゲインである速度ゲインとを含む第2の時間のゲイン行列を算出するゲイン行列算出手段と、
第2の時間の観測値を取得し、取得した観測値と第2の時間の予測値ベクトルと第2の時間のゲイン行列とに基づいて第2の時間の平滑値ベクトルを算出する平滑手段と、
を備えた追尾装置において、
前記ゲイン行列算出手段は、前記速度ゲインとして固定値のゲインを含む第2の時間のゲイン行列を算出することを特徴とする追尾装置。
【請求項6】
ゲイン行列算出手段は、目標が等速直線運動する場合の第2の時間の平滑値ベクトルの平均2乗誤差を最小化するような位置ゲインを算出し、この位置ゲインを含む第2の時間のゲイン行列を算出することを特徴とした請求項5に記載の追尾装置。
【請求項7】
ゲイン行列算出手段は、目標が等速直線運動する場合の第2の時間の予測値ベクトルの平均2乗誤差を最小化するような位置ゲインを算出し、この位置ゲインを含む第2の時間のゲイン行列を算出することを特徴とした請求項5に記載の追尾装置。
【請求項8】
ゲイン行列算出手段は、目標が等速直線運動する場合の第2の時間の平滑値ベクトルの平均2乗誤差と前記目標が等速直線運動する場合の第2の時間の予測値ベクトルの平均2乗誤差との重み付け平均を最小化するような位置ゲインを算出することを特徴とした請求項5に記載の追尾装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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