説明

追記型光記録媒体の記録方法

【課題】高速記録が可能な追記型の高密度光記録媒体を得ると共に、特に記録マーク間のスペースを良好に形成する。
【解決手段】追記型光記録媒体の記録層に対して200〜450mmの範囲の波長のレーザ光を照射することにより、不可逆的な記録マークを形成可能とすると共に、前記記録マークを形成するために所定のライトパワーPwのレーザ光を照射した後に、該記録マークを読みとるために設定されるリードパワーPrよりも低いトラックトレース限界値〜0.4mWの範囲のパワーレベルP1のレーザ光を所定時間照射し、前記記録マークのうち少なくとも最短の記録マーク長が、レーザのスポット径の0.35倍未満であって、最短の記録マークの幅が最短マーク長の0.7倍以上である記録マークを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追記型光記録媒体の記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光記録媒体の市場には、書き換えが可能な光記録媒体と、書き換えが不能ないわゆる追記型の光記録媒体とが流通している。書き換え可能型の光記録媒体は、文字通り何回も書き換えができることから、同一の光記録媒体を必要な情報のみの状態で繰り返し使用することができる。一方、追記型の光記録媒体は、書き換えができないことが、逆に「データが改ざんされない」という特徴となることから、配布用、保存用、或いはバックアップ用としてその有用性が認められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年のマルチメディア対応の光記録媒体の分野においては、更なる高密度、高速での記録が要求され、追記型の光記録媒体に対しても同様の要求がなされている。
【0004】
書き換え可能型の光記録媒体では、冷却速度など、時間との関わりを持つ諸元を厳密に制御する必要があり、高速、高記録密度化にともなって、記録ストラテジは更に複雑となる一方で、追記型の光記録媒体は従来、記録ストラテジはそれほど複雑とはならなかった。しかし今後の更なる高密度化、高速化を考慮すると、従来追記型の光記録媒体で用いられる記録ストラテジでは十分な特性が得られないことが明らかとなった。ここで記録ストラテジとは、記録用のレーザ光のパワー制御パターンを意味している。一般に、(特に相変化材料を利用した光記録媒体に記録を行なう場合には)記録用のレーザ光を記録マークの長さに対応して連続的に照射するのではなく、例えば、特開平9−7176号公報に記載されているように、記録マーク形状を制御するために、複数のパルスからなるパルス列としてレーザ光を照射し、且つ、パルス列中の各パルスの幅を厳密に制御することが多い。この場合の、パルス分割の具体的構成を一般に記録ストラテジと称する。
【0005】
本発明はこのような従来の問題を解消するためになされたものであって、特に記録マークと記録マークの間のスペースをきれいな未記録部分に維持することができる追記型の光記録媒体の記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記(1)〜(3)に示す本発明により達成される。
【0007】
(1)追記型光記録媒体の記録層に対して200〜450mmの範囲の波長のレーザ光を照射することにより、記録マークを形成可能とすると共に、前記記録マークを形成するために所定のライトパワーPwのレーザ光を照射した後に、該記録マークを読みとるために設定されるリードパワーPrよりも低いトラックトレース限界値〜0.4mWの範囲のパワーレベルP1のレーザ光を所定時間照射し、前記記録マークのうち少なくとも最短の記録マーク長が、レーザのスポット径の0.35倍未満であって、最短の記録マークの幅が最短マーク長の0.7倍以上である記録マークを形成することを特徴とする追記型光記録媒体の記録方法。
【0008】
(2)(1)において、前記記録マークを形成するために前記所定のライトパワーPwを照射する前に、前記リードパワーPrよりも高く、且つ該ライトパワーPwよりも低い1.1Pr〜0.4Pwの範囲のパワーレベルP2のレーザ光を照射することを特徴とする追記型光記録媒体の記録方法。
【0009】
(3)(1)において、前記リードパワーPrよりも低いパワーレベルP1のレーザ光の照射を所定時間行った後、更に、該リードパワーPrよりも高く、且つ前記ライトパワーPwよりも低い1.1Pr〜0.4Pwの範囲のパワーレベルP2のレーザ光を照射することを特徴とする追記型光記録媒体の記録方法。
【0010】
本発明においては、記録マークを形成するために所定のライトパワーPwのレーザ光を照射した後に、リードパワーPrよりも低いトラックトレース限界値〜0.4mWの範囲のパワーレベルP1のレーザ光を照射する構成としている。この結果、高密度記録を高速に行う場合に発生する可能性が高い問題、特に長い記録マークの終端付近にレーザ光の熱が過度に残留し、この残留熱のために次の記録マークまでのスペース(記録マークが形成されていない部分)がきれいに形成できなくなるという問題を効果的に防止できるようになる。
【0011】
なお、記録マークを形成するためのライトパワーPwを照射する前に、リードパワーPrより高く、ライトパワーPwより低い1.1Pr〜0.4Pwの範囲のパワーレベルP2のレーザ光を照射する構成とすることで高速記録時に生じる記録感度の低下を補うことができる。これにより、特に高密度記録を達成するために、最短記録マーク長がレーザのスポット径の0.35倍未満であって最短記録マークの幅が最短マーク長の0.7倍以上の記録マークを形成することがより確実に可能となり、且つ形成時のパルス長を短くしたときに生じる記録感度低下を解決することができる。なお、このパワーレベルP2の照射は、パワーレベルP1の照射の後であっても良い。
【0012】
本発明によれば、低コストでありながら、高速での高密度記録が可能となりマルチメディア対応の記録媒体として好適な光記録媒体を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高速での記録が可能になる。また、高速記録時の高密度化において問題となる、マーク/スペースのエッジ部分を明瞭に保つことができるため、高速記録で生じる記録感度の低下を補うことができる。更に、この低いパワーレベルの維持時間を調整することにより、低速での記録を含め、高速での記録に対して一層良好に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態の例を図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1に示されるように、本発明に係る記録方法が適用される高速高密度追記型光記録媒体(以下光記録媒体)10は、支持基体12上に、反射層14、第2誘電体層16、記録層(積層記録層)18、第1誘電体層20、及び、光透過性カバー層22をこの順で設けたものであり、記録用のレーザ光源24から例えば波長405nmの青色のレーザ光を、光透過性カバー層22を通して前記記録層18に照射することによって、照射領域の反射率を変化させ、これを記録マークとするようにしたものである。
【0016】
前記記録層18の少なくとも1層は、Al、Ag、Au、Cu等の高反射金属の中からいずれか1種を主成分金属として採用することが好ましい。具体的な組み合わせとしては、Al−Sb、Al−Ca、Al−Ce、Al−La、Al−Se、Au−Ce、Au−La、Au−Si、Au−Ge、Si−Cu、Ge−Cuなどがあげられる。
【0017】
この中で、特にAl及びAgは、青色以下のレーザに対しても高反射の特性を有するため、副記録層の膜厚変更による反射率の調整が容易となり、且つ、未記録部分の反射率を記録マーク形成後の反射率よりも高く設定でき、一層好ましい。
【0018】
更には、副記録層のいずれか、或いはいずれの主成分金属よりも高い融点を持つ金属間化合物を形成する組み合わせがより好ましい。
【0019】
この記録層18に記録光としての青色レーザ光を照射すると、照射領域において、第1及び第2副記録層18A、18Bに含有される前記主成分金属が拡散して混合し、この混合により単一層化して生じる反応生成物が照射領域の反射率を変化させるため、これを記録マークとして認識できるようになる。このような2つの主成分金属が拡散して混合する反応は不可逆的であるため、この記録層18は追記型の光記録が可能となる。
【0020】
記録層18の厚さ、即ち第1及び第2副記録層18A、18Bの合計厚さは、3〜50nm、好ましくは5〜20nmとする。定性的には、記録層18(副記録層18A、18B)が薄すぎると、記録前後において、記録マークにおける十分な反射率差を確保することが困難であり、一方、記録層18が厚すぎると、その熱容量が大きくなるために記録感度が低下してしまう。
【0021】
各副記録層18A、18Bの厚さは、熱安定性が高く、且つ反射率差の大きい記録マークが形成されるように適宜決定する。例えば、Al主成分の副記録層とSb主成分の副記録層とを組み合わせる場合、AlとSbとが1:1で結合した金属間化合物が生成すると考えられるので、記録層18中におけるAlとSbとの比率(原子比)が1:1から大きく外れないように、各記録層の厚さを設定することが好ましい。
【0022】
前記第1及び第2誘電体層20、16は、酸化物、硫化物、窒化物、フッ化物、炭化物、或いはこれらの混合物等の各種誘電体材料からなる。具体的には、このサンプルでは、該第1及び第2誘電体層20,16を、共にZnS−SiO2ターゲット(ZnS:80モル%、SiO2:20モル%)を用いてスパッタリング法により形成している。
【0023】
第1誘電体層20は厚さ5〜200nmで、第2誘電体層16と共に前記記録層18を挟み込むようにして設けられている。第2誘電体層16は厚さ5〜200nmで前記反射層14上に設けられている。
【0024】
第1、第2誘電体層20、16は、水蒸気やそのほかのガスから記録層18を保護する役目も担うほか、その厚さを調整することにより、この部分でレーザ光を干渉させ、記録層18における未記録部分での反射率を調整したり、光記録前後での反射率差をより大きくしたりすることを可能としている。
【0025】
前記支持基体12は、例えば1.1mmの厚さのポリカーボネートからなる。
【0026】
又、前記反射層14は、スパッタリング等により前記支持基体上に、例えば銀合金の層を形成したものであり、その厚さは10〜200nm程度である。この反射層14は、レーザ光の入射側から見て、記録層18より奥に位置し、記録層18に対して戻り光を与えることで、記録前後での反射率差を大きくし、又、記録感度を高くすることに寄与している。反射層14は金属(半金属を含む)膜や誘電体多層膜などから構成する。このサンプルでは、100nmの厚さの銀を主成分とする合金AgPdCuで当該反射層14を形成している。但し、この反射層14は、必ずしも必須ではない。
【0027】
前記光透過性カバー層22は、第1誘電体層20上にスピンコート法により形成したり、予め形成されたシート状部材を接着して形成したりするものであり、例えば紫外線硬化樹脂層やポリカーボネートシートからなる。光透過性カバー層22の厚さは、前記第1誘電体層20との合計厚さが、例えば波長405nmの青色レーザ光を記録層18に照射させる際の対物レンズ26の開口数(NA)を0.85としたとき、該青色レーザ光が記録層18に集光され得るように選択される。本サンプルでは100μm程度とした。
【0028】
この実施形態が適用される光記録媒体10のうち、Alを主成分とする第1副記録層18AとSbを主成分とする第2副記録層18Bとからなる記録層18の場合、上記記録層18に形成された記録マーク中の反応生成物の熱安定性(即ち記録後の熱安定性)が、第1及び第2副記録層18A、18Bが未記録部分で単に積層されているときの熱安定性(即ち記録前の熱安定性)より高くなることがその大きな特徴となっている。
【0029】
より具体的に説明すると、レーザ光が照射されたときの前記第1及び第2副記録層18A、18Bの主成分金属は、それぞれが拡散・混合された状態となり、金属間化合物として存在するか、金属間化合物を生成しなくても、少なくとも主成分金属同士が結合した状態の混合物として存在すると考えられる。この混合により生じる反応生成物が、照射領域の反射率を不可逆的に変化させるため、この反射率の変化を記録マークとして利用することができる。
【0030】
Alの融点は660℃、Sbの融点は631℃である。両者共に500℃を優に超えており、単体で熱的に十分に安定であり、しかもレーザ光照射による溶融が可能である。又、SbとAlとの反応により、それぞれの単体よりも更に融点が十分に高く、低温と高温とで結晶構造が変化しない安定な金属間化合物AlSb(融点:1060℃)が生成し得る。なお、このAlSbのような金属間化合物は、結晶成長している必要はなく、電子線回折によって検出できない程度の微結晶状態であっても、記録ができる。
【0031】
このことを現象的に捉えると、記録層18に対して記録マークの形成が可能なライトパワーPwのレーザ光を照射したとき、A)記録層18において混合が生じていない領域では、前記混合が生じて反射率が変化し(記録が可能となり)、一方、B)既に記録マークが形成されている領域では、当該記録光の照射によって反射率が変化することがない、ということである。追記型として理想的な特性と言える。
【0032】
従って、この光記録媒体10は、記録後に高温環境下で保存しても、前記反応生成物からなる記録マークが変化し難く安定である。又、連続再生によっても記録マークは変化し難く、再生耐久性に優れる。更に、記録マーク形成後の反射率を低くなるように設定し、記録マーク形成後における光の吸収率を大きくしても、該記録マークの熱安定性が高いため、再生用レーザ光の照射などで劣化することもない。
【0033】
又、記録マークの熱安定性が高いため、記録時に隣接トラックの記録マークを消してしまう現象(クロスイレーズ)が実質的に生じない。そのため、記録トラックピッチを狭くすることができるので高密度記録にも有効である(後述)。
【0034】
図2に記録マークを形成するための記録ストラテジの例を示す。図2には、比較的長めの記録マークRを形成する例が示されている。ただし、図2の例は、定性的な概念を誇張して示しており、各パルスの大きさや数、維持時間等は、現実のそれとは必ずしも一致していない。
【0035】
図2の(A)は、本実施形態の最も基本的な例を示している。この例では、記録時のストラテジとして、ライトパワーPw及びバイアスパワーPbのスイッチング構成を基本的に採用し、その上で記録マークRを形成するために所定のライトパワーPwのレーザ光(図の例ではFPと3つのMP)を照射した後に、リードパワー(該記録マークRを読み取るために設定されるレーザパワー)Prよりも低いパワーレベルP1のレーザ光を所定時間T1だけ照射する構成を付加している。
【0036】
高密度記録を行う場合であって、且つ記録転送速度が速い場合には、特に長い記録マークRの終端付近にレーザ光の熱が過度に残留し、この残留熱のために記録マークの後方部分が尾を引く形状となり、マークの後方部分のエッジがだれた形状となりやすい。このとき次の記録マークまでのスペースにマーク部が入り込み、スペースがきれいに形成できなくなると言う問題が発生する。特にマークエッジ記録の場合、マーク/スペースの境が不明瞭となるため、信号のJitter値が悪化し、エラーが生じやすくなる。
【0037】
しかしながら、このように、記録マーク形成の最後の部分にリードパワーPrよりも低いパワーレベルP1を所定期間T1だけ維持することにより、このような不具合が発生するのを防止できる。
【0038】
このようなストラテジを用いることにより、スポット径(レーザ波長λ/レンズの開口数NAで規定される)に対し、最短マーク(スペース)長が0.35未満とする高密度記録を達成する追記型光記録媒体を得ることができる。具体的には、レーザ波長405nm、レンズの開口数0.85のとき、最短マーク長は167nm未満となる。
【0039】
パワーレベルP1の維持時間T1は、最短マーク(スペース)長の通過時間の0.2〜1.0倍の範囲が適当であり、より好ましくは0.3〜0.8倍の範囲である。ただし、バイアスパワーPbとパワーレベルP1を一致させ、維持時間T1を最長スペースの長さ以上としても構わない。
【0040】
パワーレベルP1は、具体的には、トラックトレースの限界値〜0.4mWの範囲が適当である。トラックトレースの限界値は、現状では0.08mW程度であるため、より好ましくは、現状では0.1mW〜0.3mWが最適な範囲となる。将来ハード系のトレース能力が向上した場合には、下限側は相応により低められて良い。
【0041】
図2の(B)は、図2の(A)の構成をベースとし、前記記録マークを形成するために、所定のライトパワーPwを照射する前に、該リードパワーPrよりも高く、且つ前記ライトパワーPwよりも低いパワーレベルP2のレーザ光を照射するようにしている。高速で記録を行う場合には、レーザ光の立上り時間、或いは記録感度の観点から、リードパワーPrよりも高いレーザパワーP2を設定し、予備加熱を行うようにすると有効である。特にこの実施形態のように記録マーク形成後にリードパワーPrよりも低いパワーレベルP1を維持している場合には、次の記録マークの立上り部分を良好に形成することができる。
【0042】
このパワーレベルP2は、リードパワーPrよりは高いが、ライトパワーPwよりは充分に低い値とされる。それは、このパワーレベルP2のレーザ光照射によって未記録部分に意図せぬ記録マークが形成されてしまうのを防止するためである。具体的には、1.1Pr〜0.4Pwの範囲が適当であり、より好ましくは、1.2Pr〜0.3Pwの範囲が最適である。
【0043】
パワーレベルP2の維持時間T2は最短マーク長の通過時間の0.2〜1.0倍の範囲が好ましいが、P1の照射後直ちにP2のパワーレベルとしても構わない(図2(D))。
【0044】
図2の(C)に示すように、図2の(B)において、記録マーク形成の際のバイアスパワーPbをパワーレベルP1に一致させてもよい(Pb=P1)。
【0045】
図2の(D)は、図2の(C)において、記録マークを形成の際のバイアスパワーPbをパワーレベルP2よりも若干低い値としたものである(Pb≒P2)。このようにすることにより、記録マークの中間部分の形状をより直線に近い形状に整えることができる。特にPbのパワーレベルをP2と同じかそれより若干低い値とする事によって、ライトパワーを低く設定でき、高速記録時に不利となる記録感度の低下を補うことができる。
【0046】
(A)〜(D)のいずれの例の場合も、同一のパターンの記録ストラテジを用いたまま、可変速の記録に対しては、基本的に周波数及びライトパワーPwを変えるだけで対応することができる。この場合、特に、バイアスパワーPbやパワーレベルP1、P2の値を、記録転送速度に応じて変更・設定するようにすると、記録マークRを涙滴型、あるいは逆涙滴型とならないように更に精密に微調整することができる。
【0047】
特に、情報の記録に先立ち、光記録媒体10に対して試し書きを行うことのできるドライブ装置に、記録を行う場合には、該試し書きの際に、該バイアスパワーPbの値、記録マーク形成直後のパワーレベルP1の維持時間T1、及びパワーレベルP2の維持時間T2等を調整するようにすると、35Mbps〜100Mbpsの間の任意の記録転送速度で良好な記録特性を得ることができる。なお、時間T1、T2は独立して変更されて良い。
【0048】
ところで、この実施形態においては、図3に示されるように、最短の記録マークR1の形状を、従来の記録マークRoのように楕円形とするのではなく、真円に近い形状としている。なお、図3においてはDVD−Rの記録マークを形成する場合の寸法例が参考までに記載されている。
【0049】
この光記録媒体10は、前述したように、その基本的な記録方法の効果と相まって記録マークR1の形成に当たってグルーブ部を変形させなくて済むために、グループ部からはみ出して記録した場合でも、信号を大きくすることとなるため、はみ出して記録したとしても特に支障はない。
【0050】
このため、高密度記録とし、トラックピッチをつめグループ幅が細くなった場合でも、最短マークを真円に近い形状、従来だと最短マーク長に対し、0.5(倍)以下だった幅を0.7以上、より好ましくは0.8以上にできる。
【0051】
最短記録マークを真円に近づけるためには、ライトパワーを大きくし、パルス幅を短くする。具体的には、最短マーク長の通過時間の0.3〜0.7(倍)の範囲でライトパワーPwのレーザパルスを照射していたが、この実施形態では、最短マーク長の通過時間の0.05〜0.3の範囲でレーザ照射を行う。このようにすることにより、図3に示されるように、同じ周方向の長さを有する場合には、より大きな再生信号を得ることができ、CNR(carrier to noise ratio)を改善できる。また、従来と同程度の大きさの再生信号でよい場合には、その分より高密度の記録が可能となる。
【0052】
なお、このように最短記録マークを真円に近づけるためにライトパワーを大きくした場合には、前述した「記録マークを読みとる際に設定されるリードパワーPrよりも低い値に設定されたパワーレベルP1のレーザ光を照射する構成」がスペースをきれいに形成できるようになるという点で一層良好に寄与する。また、「記録マークを形成するために所定のライトパワーPwを照射する前に、前記リードパワーPrよりも高く、且つ前記ライトパワーPwよりも低いパワーレベルP2のレーザ光を照射する構成」が、パルス幅を短くしたことによるパワー不足を補うという点でも一層良好に寄与する。勿論これらの構成は同時に採用しても構わない。
【0053】
この実施形態に係る光記録媒体10の記録方法の作用について説明する。
【0054】
この実施形態が適用された光記録媒体10の記録層(積層記録層)18の記録マークの形成は、基本的にレーザ光の照射により副記録層において当該主成分金属同士の所定の拡散・混合を進行させるための熱量制御を行うだけで足りるために、熱量制御の調整により安易に高速記録が可能となる。又、積層記録層に熱伝導率が高い金属材料を用いるために、色素材料を用いた光記録媒体で生じる大きな熱干渉の影響を考慮する必要がない。そのため本発明に係る記録方法を実現するための追加型光記録媒体としてとして最適である。
【0055】
前述した図2(A)〜(D)のような記録ストラテジを用いることで、高速記録時の高密度化において問題となる、マーク/スペースのエッジ部分を明瞭に保つことができると共に、高速記録で生じる記録感度の低下を補うことができる。
【0056】
このようにして、追記型光記録媒体では困難であった、高速、高密度記録を可能としている。
【0057】
特に、ライトパワーPwのレーザ光を照射した後に、リードパワーPrよりも低いトラックトレース限界値〜0.4mWの範囲のパワーレベルP1のレーザ光を照射する構成としたため、(たとえ長い記録マークを形成した場合であっても)残留熱の影響を最小限に抑えることができ、次の記録マークまでのスペースをきれいな未記録部分で残すことができる。また、たとえ最短の記録マークを真円に近い形で形成するべく、ライトパワーPwを大きく設定したような場合であっても、その残留熱の影響を良好に解消することができ、やはり次の記録マークまでのスペースをきれいな未記録部分で残すことができる。
【0058】
なお、上記実施形態においては、光記録媒体10に情報を具体的に記録する場合に、レーザ光の波長を405nmの青色波長に設定していたが、それ以下とすることは可能である。むしろ、このような条件の下での高速の記録においてこそ、本発明の持つ利点を十分に活かすことができるとも言える。
【実施例1】
【0059】
Al/Sbの実施例
光記録媒体を図1の構成で作成し、高密度高速記録に関する評価を行った。
【0060】
支持基体12には、トラックピッチ0.32μm、グループ幅0.13μmのグループを形成した1.1mmのポリカーボネート基板を用い、光透過性カバー層22の厚さは100μmとした。
【0061】
その他の層はスパッタリングにより下記条件で作成した。
【0062】
静電体層:ZnS+SiO2(80:20mol%)
第1誘電体20:60nm
第2誘電体16:105nm
第1副記録層18A:AlCr(98:2at.%) 4nm
第2副記録層18B:Sb 6nm
反射層14:AgPdCu(98:1:1at.%) 100nm
【0063】
レーザ光の波長が405nm、対物レンズ群の開口数NAが0.85の評価装置により、70Mbps相当((1,7)RLL変調方式、チャンネルクロック132MHz固定 フォーマット効率80%)で記録線速を変化させることで、最短マーク(2T)長を変化させ、ランダム信号を記録し、再生Jitter値で評価した。
【0064】
記録に用いたマルチパルスストラテジは、(n−1)typeを用い、2TをFP(ファーストパルス)の1パルス、5TをFPとMP(マルチパルス)を3パルスの計4パルスで記録するストラテジを用いた。
【0065】
図2(A)で示す形状のストラテジを用い、Pr=Pb:0.5mW、Pw:6.0mWとし、パルスのそれぞれの長さは、TFP:0.3T(0.15)、TMP:0.25T、T1:1T(0.5)とした(最短マーク長に対する割合)。
【0066】
このとき、P1を0.1mWと0.5mW(P1=Pr比較例)とし、信号のclock Jitter値で評価した結果が表1である。
【0067】
【表1】

【0068】
リードパワーよりも低いパワーレベルP1を所定時間照射する記録ストラテジを用いることにより、Jitter値が低下し、信号特性が良化していることがわかる。特に最短マーク長を短くし、高記録密度としたときにその差が顕著となっていることもわかる。
【0069】
10.6m/sで2T(最短マーク)のマークとスペースの単一信号を記録したサンプルの記録層を基板とカバー層より剥離し、TEMにより記録マーク形状を観察した。記録マーク幅は150nmに達しており(記録マーク長に対し約0.9倍)、ほぼ真円に近いマークとなっていた。
【0070】
同じサンプルに対し、図2(D)の形状の記録ストラテジを用いて、記録信号の評価をした。
【0071】
P2=Pb:1mW、P1:0.1mW、パルスのそれぞれの長さやその他は上記条件と同じとし、10.6m/sの記録線速でランダム信号を記録し、評価した。
【0072】
最適ライトパワーは5.0mWまで低下し(Jitter7.6%)、記録感度が6.0mWから1.0mW良化することができた。
【実施例2】
【0073】
Si/Cuの実施例
光記録媒体を図1の構成で作成し、実施例1と同様に高速高密度記録に関する評価を行った。
【0074】
支持基体、光透過性カバー層は、実施例1と同じとした。
【0075】
その他の層はスパッタリングにより下記条件で作成した。
【0076】
静電体層:ZnS+SiO2(80:20mol%)
第1誘電体20:22nm
第2誘電体16:28nm
第1副記録層18A:Si 5nm
第2副記録層18B:Cu 6nm
反射層14:AgPdCu(98:1:1at.%) 100nm
【0077】
レーザ光波長が405nm、対物レンズ群の開口数NAが0.85の評価装置により、35Mbps相当((1,7)RLL変調方式、チャンネルクロック66MHz固定 フォーマット効率80%)で記録線速を変化させることで、最短マーク(2T)長を変化させ、ランダム信号を記録し、再生Jitter値で評価した。
【0078】
図2(A)で示す形状のストラテジを用い、Pr=Pb:0.5mW、Pw:5.0mWとし、パルスのそれぞれの長さは、TFP:0.3T(0.15)、TMP:0.25T、T1:1T(0.5)とした(最短マーク長に対する割合)。
【0079】
実施例1と同様にし、P1を0.1mWと0.5mW(P1=Pr比較例)とし、信号のclock Jitter値で評価した結果が表2である。
【0080】
【表2】

【0081】
実施例1と同様にリードパワーよりも低いパワーレベルP1を所定時間照射する記録ストラテジを用いることにより、Jitter値が低下し、信号特性が良化していることがわかる。特に最短マーク長を短くし、高記録密度としたときにその差が顕著となっていることもわかる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明が適用される高速追記型光記録媒体を模式的に拡大して示す断面図
【図2】上記高速追記型光記録媒体に記録マークを形成する際の記録ストラテジの例を示すパルス波形図
【図3】上記実施形態における、最短の記録マークの形成方法を従来と比較して示した説明図
【符号の説明】
【0083】
10…低速〜高速追記型光記録媒体
12…支持基体
14…反射層
16…第1誘電体層
18…記録層
18A…第1副記録層
18B…第2副記録層
20…第2誘電体層
22…光透過性カバー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
追記型光記録媒体の記録層に対して200〜450mmの範囲の波長のレーザ光を照射することにより、不可逆的な記録マークを形成可能とすると共に、
前記記録マークを形成するために所定のライトパワーPwのレーザ光を照射した後に、該記録マークを読みとるために設定されるリードパワーPrよりも低いトラックトレース限界値〜0.4mWの範囲のパワーレベルP1のレーザ光を所定時間照射し、
前記記録マークのうち少なくとも最短の記録マーク長が、レーザのスポット径の0.35倍未満であって、最短の記録マークの幅が最短マーク長の0.7倍以上である記録マークを形成する
ことを特徴とする追記型光記録媒体の記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記記録マークを形成するために前記所定のライトパワーPwを照射する前に、前記リードパワーPrよりも高く、且つ該ライトパワーPwよりも低い1.1Pr〜0.4Pwの範囲のパワーレベルP2のレーザ光を照射する
ことを特徴とする追記型光記録媒体の記録方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記リードパワーPrよりも低いパワーレベルP1のレーザ光の照射を所定時間行った後、更に、
該リードパワーPrよりも高く、且つ前記ライトパワーPwよりも低い1.1Pr〜0.4Pwの範囲のパワーレベルP2のレーザ光を照射する
ことを特徴とする追記型光記録媒体の記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−4983(P2007−4983A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276367(P2006−276367)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【分割の表示】特願2001−401109(P2001−401109)の分割
【原出願日】平成13年12月28日(2001.12.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】